放射性ヨウ素(131I)内用療法について ~バセドウ病の治療~


甲状腺とヨードは仲良し

バセドウ病の131I内用療法は甲状腺のヨウ素取り込み能を利用して、131Iをカプセル(ヨウ化ナトリウムカプセル)として経口投与します。経口投与された131Iは特異的に甲状腺に集積し、甲状腺濾胞細胞を破壊します。その結果、甲状腺が縮小し甲状腺機能亢進症を改善させるという治療法です。
1998年から13.5mCi(500MBq)までであれば、外来での131I投与が可能になりました。当院でも外来にて行っています。
バセドウ病には薬物療法、手術療法と内用療法があります。患者さんが希望すればアイソトープ治療を受けられますが、適応と禁忌事項があります。

適応

・抗甲状腺薬治療や手術を望まないとき
・甲状腺腫を小さくしたいとき
・心臓病や肝臓病などの慢性疾患を持っているとき
・抗甲状腺薬で十分コントロールできないとき
・抗甲状腺薬で副作用が出現したとき
・抗甲状腺薬中止後に再発したとき
・手術後にバセドウ病が再発したとき

禁忌

・妊婦、妊娠している可能性のある女性
・近い将来(6ヶ月以内)妊娠する可能性がある女性
・授乳婦
・重症甲状腺眼症(相対的禁忌)

慎重投与

・18歳以下
※原則として19歳以上を適応対象とする

バセドウ病131I内用療法の実際

◎スケジュール

治療前の準備としてヨード制限、抗甲状腺薬の中止、甲状腺摂取率の測定、甲状腺眼症の評価等が必要になります。
当院では、治療日の5日前に摂取率測定を行います。摂取率測定は測定目的用の123Iカプセルを内服し、24時間後に測定します。(図1)

◎線量の決定方法

131Iの投与量は、放射線治療医が(1)甲状腺131I摂取率、(2)推定甲状腺重量、(3)有効半減期などをもとにして、適切な量(期待照射線量30~70Gy)を算定します。

◎ヨウ化ナトリウムカプセル

カプセルは表1に示すものを、患者さんの投与量に応じて組み合わせて使用します。
例)投与線量が336MBqの場合
ヨウ化ナトリウムカプセル3号を3カプセル(111MBq×3=333MBq)投与

◎治療日当日

核医学検査室(管理区域内)にて放射線治療医、看護師、診療放射線技師が立会いの下でヨウ化ナトリウムカプセルを内服します。

<内服の注意点>
内服の際は手指の被ばくを避けるために、カプセルは直接手で触れないようにします。当院ではカプセルを割り箸で掴み口に運んで内服して頂きます。

<お渡しするもの>
*エチケット袋
何らかの理由で嘔吐をした場合、吐瀉物からの汚染被害を避けるためにお渡しします。
*患者情報カード
緊急時に備えて131I内用療法を受けたことが明確になるように図3に示す患者情報カードをお渡しします。こちらは必携して頂くようにお伝えします。

内服した131Iのうち、甲状腺に取り込まれなかったものはほとんど尿中に排泄されます。また、極微量ですが汗や唾液にも含まれます。この131Iから放出される放射線は人体に悪影響を及ぼしませんが、微量の放射線が出ていることを患者さん自身に認識して頂く必要があります。ご本人に対して安全な治療法なので、他人に危険を及ぼすことはありませんが、内用療法を受けた方のエチケットとして上記の2点に加え、後述する生活制限においても守っていただきたい事柄です。

◎治療後

<経過>
治療後次第に甲状腺は縮小し甲状腺ホルモン値は減少しますが、治療後半年間は甲状腺機能が安定しないことがあるため定期的な診察が必要となります。甲状腺眼症が悪化する場合があるため、治療の前に甲状腺眼症の治療が必要となります。治療効果には個人差があり、甲状腺機能が正常となって内服治療が不要になる方もいれば、甲状腺機能低下症となり甲状腺ホルモン薬の内服を継続する必要がある方もいます。

<生活制限>
1.家庭での注意、2.乳児・幼児との接し方、3.学童・妊婦との接し方について各制限項目及び制限日数が設けられています。こちらの詳細については放射線治療医及び看護師からプリント及びパンフレットを配布し説明を行っています。

131I内用療法は70年以上の歴史がある安全な治療法です。その安全性に関しても報告されています。当院での治療成績に関しても機会がありましたらご報告させて頂きます。厳格な適応や禁忌の問題もありますので適応を考慮する症例が出た際は当院の専門医へご相談下さい。

 

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎 ⑧乳がんの自覚症状


乳腺外来ではどんな患者さんが来られる?

乳腺外来にはしこりなどの自覚症状を訴える方や、検診(自治体の検診、職域健診、人間ドック)等で要精密検査判定を受けた方が受診されます。
受診された患者さんは、問診、視触診、マンモグラフィー、超音波検査を受けていただきます。これらの基本検査で所見があった場合に、所見に応じてMRI検査、細胞診、生検等をご案内します。では乳がんの患者さんはどのような契機で乳腺外来を受診するのでしょうか。

乳がん患者さんの発見契機について

日本乳癌学会では2004年度から全国乳癌登録が行われています。全国の2016年度の年次集計によると、95,257名の乳がん患者さんのうち、自己発見が約半数、検診から発見されて来られるのは約3割と報告されています(図1)。
検診(検診、ドック等を含む)は本来自覚症状がない方を対象にしておりますが、検診を契機に発見される方の中で自覚症状を持ちながら検診を受ける方が少なからずいらっしゃいます。この統計では検診を契機に発見された乳がん全体(32,627名)のうち6,243名が症状がありながら検診を受けています。検診発見乳癌の約2割にのぼります。

乳癌患者さんの「自覚症状」

2006年〜2009年に当院で手術を行った乳癌患者さん235例の受診契機を調査をしました。自覚症状があったのは149例(63%)でした。
自覚症状の中では腫瘤触知が一番多く、
血性乳頭分泌 16例(10%)
乳頭陥凹 3例(2%)
乳頭びらん 1例(0.6%)と続きます。
乳房痛のみが唯一の症状である患者さんは6例(4%)でした。

乳がん検診受診者の「自覚症状」

今度は乳がん患者さんではなく、横浜市の乳がん検診受診者の問診票からみた自覚症状をみてみましょう。
平成23年度〜24年度の横浜市乳癌検診受検者は97,646名でした。検診の問診票では症状(痛み、しこり、乳頭変形、乳頭分泌、くぼみ)の有無を記載する欄があります。これらの症状のうち1つ以上を記載したのは受検者の17.1%にあたる20,092名でした。
この症状の内訳を見ますと、一番多いのが「痛み」39.3%、続いて「しこり」23.4%、「乳頭変形」20.3%、「乳頭分泌」12.7%、「くぼみ」3.5%と続きます。乳腺外来で実際にがんと診断された方と比べると、乳房の痛みを訴える患者さんが多いことがわかります。症状別に乳がんの比率を調べますと、
くぼみ 4.2%、しこり 2.8%、乳頭変形 1.0%、痛み 0.96%、乳頭分泌 0.48% でした。(平成27年日本乳癌検診学会で発表した内容からの引用)

皮膚のくぼみや、しこり(腫瘤触知)は乳がんの症状としては最も重要であることがわかります。乳頭変形や乳頭分泌の症状で乳がんの比率が意外と低いのは、おそらく陥没乳頭や乳汁分泌も統計上含まれてしまうことが一因と思われます。血性乳頭分泌や乳頭陥凹に限ると乳がんの頻度が高い症状です。これらの症状を訴える患者さんがいたら乳腺外来にご紹介いただけたらと思います。
乳房の痛みは乳癌を示唆する症状ではありません。しかし痛みを訴える受診者の乳がんの比率が意外に高いことは興味深いです。この期間の検診における無症状者も含めた乳がん発見率は0.38%ですから、それに比べると3倍近い比率になるのです。痛みは乳癌の存在とは直接関連がない症状ですが、ひょっとすると乳房痛が強いことは何らかの乳がんのリスク因子と関連があるのかもしれません。エビデンス(根拠)はないですが…..。乳房痛のみの症状でも、患者さんが気にしていらっしゃるならばご紹介いただければと思います。スクリーニングを行い、所見がなくてもその後の適切なマネジメントを患者さんにご案内いたします。

乳腺甲状腺外科担当部長 俵矢 香苗

放射線治療で使用する固定具、補助具について


現在、日本の死亡原因第1位はがんや悪性腫瘍で、死亡者数は年間30万人を超えています。これは3人に1人が、がんや悪性腫瘍で亡くなっていることを意味します。また、罹患率で見てみますと、年間70万人を超える人が、がんや悪性腫瘍に罹っていてこれは男女とも2人に1人が一生涯でがんや悪性腫瘍を経験する数値と言われています。
その様な状況の中、がんや悪性腫瘍の治療の一角を担う放射線治療は現在、以前に比べ照射技術(照射位置の正確性、線量の集中性)が格段の進化を遂げております。
がんや悪性腫瘍の位置や動きを事前に確認して照射を行う技術(IGRT)※1や放射線の強度を変化させながら照射を行う技術(IMRT)※2など、高精度で高技術な照射ができるようになり、放射線による副作用の少ない治療が行えるようになっています。これらの高技術な照射を行うには、治療時の照射精度の担保が必須となります。
今回は、照射精度を向上させるために使用する固定具や補助具について紹介させて頂きます。
放射線治療において、治療体位の再現性は非常に重要であるため、治療寝台上で患者さんを固定するさまざまな固定具や補助具が存在します。これらを有効に使用することで、精度の高い放射線治療が可能となります。

固定シェル

シェルは頭部、頭頸部、体幹部で使用されます。
60°〜70°で柔らかく進展し、常温で硬化する性質を持つため、専用の加温装置を使用し、柔らかい状態にて患者さんの型取りを行います。シェルを使用することにより、固定精度が向上し、照射位置精度の再現性が担保できます。治療中に照射部位に変化(浮腫や体重減少など)が現れた時は、固定精度が悪くなる場合があります。この様な場合は、合わなくなってきた場所を温め直して再形成したり、新たにシェルを作成して対応していきます。

頭頸部枕

頭頸部を安定させ、体位を維持するための補助具となります。シェルを作成する時に多く用いられます。様々な種類があるので後頭部や首のラインに形状が一致する枕を選択します。

吸引式固定具

バック内に発砲スチロールビーズが封入されており、バック内の空気を吸引すると硬化します。よって患者さんの身体にフィットした固定具が作成できます。主に体幹部の固定具として使用します。吸引式固定具は型崩れしにくく、エックス線低吸収で繰り返し使用が可能です。

上腕挙上固定台

乳房照射や肺などの照射時に使用します。両腕を挙げた状態で保持する固定具で、腕の挙げ方が毎回の照射時で同じになります。上腕位置を任意に調整し固定できるため、患者さんの腕挙げ体位の負担を軽減し安定させることができます。

下肢固定具

主に脊椎や前立腺、骨盤の照射時に使用します。下肢の固定具は患者さんの安定性や快適性を担保することができます。

以上、今回は一部の固定具について紹介をさせていただきましたが、その他、様々な固定具や補助具が存在します。いずれも患者ごとおよび照射部位ごとに適した固定具を使用する事で、照射精度が担保され高精度な治療が可能となります。当院においても患者さんの負担を可能な限り軽減させ、固定精度を担保し、精度の高い照射を行えるよう日々努力しております。

放射線治療認定技師 江川 俊幸

※1)IGRT:画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy)
X線画像や超音波画像等を利用して照射直前に照射位置の照合を行い、位置を修正しながら照射を行う技術 。

※2)IMRT:強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy)
専用のコンピュータを使用し、照射野形状を変化させたビームを複数用いて行う照射方法です。IMRTは腫瘍に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすことができるため、より強い放射線を腫瘍に照射することが可能になり、周囲臓器の副作用が軽減できます。

放射線治療室の朝


放射線治療室の1日の始まりはとても早く、朝から装置の精度管理が待っています。
昨今の放射線治療は以前に比べ、高精度な治療が可能になり、様々なシステムが備わっています。それらのシステムを正確に安全に使用するためには精度管理が重要で、必ず始業前に点検を行い、正常であるかを確認しています。
今回は当院の治療装置ならびに関連装置の始業前点検についてお話したいと思います。

1. 画像誘導放射線治療(以下IGRT)1)装置の正常動作チェック

画像照合が正しく行われているか、専用のファントムを使用し確認を行います。
治療寝台にファントムを置き、寝台を予め決められた量(左右方向:1.0cm、頭尾方向:1.4cm、高さ方向1.2cm)を移動させます。移動させた位置で治療装置付属のX線管球にてコーンビームCT2)撮影を行います。撮影した画像と中心位置の画像(予め装置に登録されている)を照合し、移動量と照合精度を確認します。

次に、IGRT装置の中心位置と実際の治療ビームの中心位置に相違がないか確認をします。先程の専用ファントムを使用し、IGRT装置側で求めた中心位置を治療ビームにて撮影を行い、ズレ量を求めます。(ここまでで、約30〜40分!)

★Check point

IGRT装置と治療装置の中心位置が仮にズレた場合にはIGRTの機能が信頼できなくなり、高精度な治療が行えなくなってしまいます。そのため治療前の確認は必須になります。

1)画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radiation Therapy)
IGRTとは2方向以上の二次元画像、三次元画像、または三次元患者体表面情報に基づいて治療時の患者位置変位量を三次元的に計測・修正し、治療計画で決定した照射位置を可能な限り再現する照合技術である。従来の放射線治療と比較し、標的に対して正確な照射が可能で正常組織への線量を低減することができる。

2)コーンビームCT(Cone beam computed tomography)
治療装置に付属の撮影装置(当院はXVI:X-ray Volume Imaging)を使用し、円錐状のビーム(コーンビーム)にて撮影するCTをCone Beam CT(CBCT)と言います。CTは通常、細いスリットビームで寝台を動かしながら撮影を行いますが、CBCTは円錐状に広がる放射線で撮影するため、寝台を動かさずに、一回で撮影することが可能です。

2. 照射に用いるX線や電子線の出力チェック

照射ビームのウォーミングアップ後、出力の確認を行います。
規定の線量(当院では100MU3))を照射し、専用の出力測定装置を用いて実測値(出力線量)を確認します。当院ではX線(4MV、6MV、10MV)、電子線(4MeV、6MeV、9MeV、12MeV、15MeV)の計8本に対し毎朝行っています。(この測定で、約30分!)

★Check point

出力のズレは規定値から±3%以内としています。それ以上のズレが生じた場合は、水ファントムを使用し本格的な出力の確認が必要になります。

3)MU:モニタユニット
照射線量の単位、通常1MU=1cGyになるように調整を行っている。つまり、100MUで1Gy照射される。

3. 治療寝台のチェック

当院では6軸補正が可能な治療寝台4)を導入しています。
専用のガイドを使用し、キャリブレーションならびに寝台面の水平確認を行っています。(約5~10分!)

4)6軸補正治療寝台
X、Y、Zの3軸以外に、回転方向のRoll、Pitch、Yawが補正可能。IGRTでの照射精度をより向上できる。

4. 治療計画CT装置のチェック

治療計画CT装置も始業前点検が必要になります。ウォーミングアップならびにキャリブレーションを行った後、専用QAファントムを使用し、中心位置とCT値に変動がないか確認をします。
治療計画CT装置は壁に取り付けられたレーザを基準として撮影を行うため、正確に装置中心へ移動しているかが重要です。
また、治療計画装置では体内の密度(CT値)を使用し線量計算をおこなうため、決められた密度(CT値)に相違があると正確な治療計画を行うことが出来ません。そのため、毎朝CT値の確認が必要となります。
当院で使用しているQAファントムには模擬組織が挿入されており、それぞれのCT値を確認することで日々の変動が確認できます。(約5~10分!)

この他、装置間の通信テストやその日の患者情報の確認等も始業前に行っています。
始業前点検には約1時間から1時間半ほどの時間を要しますが、重大な事故に繋がるエラーを未然に防ぐためには、必要不可欠であると思います。
安全で安心できる放射線治療を提供するために、私たち放射線治療に携わる診療放射線技師の大切な仕事のひとつと考え、装置管理に日々取り組んでいます。他にもまだまだ定期的に行わなければならない装置点検や精度管理等多々ありますが、その話はまた別の機会に紹介させて頂きます。

-頸動脈プラークイメージ-


MRIに携わっていると、めまいやしびれといった症状の患者さんを撮影した際に頸動脈狭窄を発見することがあります。頸動脈が狭窄するとTIA(一過性脳虚血発作)を引き起こすだけでなく、形成されたプラーク(変性、肥厚した血管の膜)が剥がれることで脳梗塞を発症すると知られています。
その為、プラークがどのような性状であるか評価することがその後の治療に重要となってきます。そこで今回は当院で行われているMRIの頸動脈プラークイメージについてご紹介します。

プラークの種類と見え方

頸動脈プラークには以下に示すように2つタイプがあります。
プラークイメージは保存的に狭窄部を観察する場合はもちろん、CEA(頸動脈内膜剥離術)やCAS(頸動脈ステント留置術)といった血行再建術による治療を考えた場合に必要となる狭窄の位置やプラークの性状を評価する際にも有効です。

プラークの種類による見え方の違い

当院のプラークイメージの特徴

当院で撮像しているプラークイメージは3つあります。

① 3D TOF MRA (3D TOF法による非造影血流画像)

血液を高信号で描出。狭窄部位を探すために用いられます。また、プラークの被膜の厚みも観察できます。画像処理でMIP画像も作成可能です。

② 3D Cube T1WI FS (3D CHESS法による脂肪抑制T1強調画像)

血管は黒、不安定なプラークは白で描出し、安定したプラークは灰~黒で描出します。
3Dで細かく撮影しているため画像処理によって様々な断面が作成可能です。

③ LAVA FLEX (3D Dixon法による脂肪抑制T1強調画像)

②とコントラストはほぼ同じですが、Dixon法と呼ばれる局所磁場不均一に強い方法を用いるため肺野が近接している腕頭動脈、鎖骨下動脈のプラークを評価するのに有効です。

以上のように、MRIでは病態に合わせて撮影方法を選択する事によって、よりわかりやすい画像を得る事ができます。その為、検査中は得られた画像を注意深く観察し、より良い画像が取得できるように努力しています。

CT画像処理の最前線


近年のCTやMRI等の検査における提供画像は、装置から得られる断層画像だけでなくその断層画像データを元に作成する3D画像の構築も一般的に行われています。(図1)
そこで今回は、従来行ってきた画像処理方法と近年の新技術について当院で実際に使用しているワークステーションの画像処理機能を例に挙げてご紹介したいと思います。

3Dってこんなに見える!

まず始めに、当院で行なっている3D処理画像の一例をお示しします。見て頂くとわかるように、空気(大腸)・血管(造影剤)・骨等あらゆる部位で3D画像が利用されています。(図2)これらの画像処理の共通点としては、各組織のCT値の違いを利用しているところにあります。(図3)

3D画像処理では、注目したいCT値以外を表示しない設定にして(=しきい値を設定して)目的の組織のみが描出されるようにします。例えば骨のみの3D表示であれば骨以外が表示されないCT値をしきい値として設定することで、そのCT値以外の物質は非表示となり骨のみが表示できます。(図4)

これぞ、3D画像作成の極意!
関節面を評価する画像処理

前述した骨と軟部組織のように、CT値の差が大きい組織同士を分離して表示するのは簡単な作業です。しかし、CT値が近い物質が隣接する場合、細かいしきい値設定を行いながら不要な組織を除去する作業が必要になり、画像作成に時間がかかることや、うまく分離できない場合もあります。(図5)

ついになくなる?職人技!?
自動分離機能の紹介

“CT値の近い物質を分離する”という難しい課題を近年新たに加わった「自動分離」機能は残したい部分をクリックするだけで解決します!(図7)
この機能を用いることにより、従来の作成方法と比べてより早く簡単に画像作成が可能になりました。

最後にこの機能が有用であった症例を一例紹介します。

新しい機能をより味方に!

自動分離機能によって、より有益な画像の提供を簡単かつ短時間に提供できるようになりました。しかしながら自動分離機能の精度は高いものの、中には上手く分離されない症例もあります。その場合はこれまでに培った画像処理技術を生かして3D画像を提供するため、やはり職人技術を磨くことも大切だと思います。
近年はCT装置だけでなく、画像処理装置等の進歩も早いと感じます。基礎的な技術と新しい技術をいち早く取り入れ、より良い画像提供が行えるように努めていきたいと思います。

X線CT認定技師 江上 桂

 

最新型のレントゲン撮影システムについて御紹介します


当院の一般撮影装置は2019年よりComputed Radiography (CR)からFlat Panel Detector (FPD)へと移行しました。
FPDと聞いても「よくわからないけど新しくなって良くなった」とか「撮ったらすぐ画像が見れる」くらいの印象しかない先生もいらっしゃるのではないかと思います。そこで今回、このFPDについて紹介したいと思います。

CRは照射されたX線の情報をImaging Plate (IP)に蓄積してそれを専用の大きな機械で読み取ることで画像化します。またIPを繰り返し使用するために蓄積した情報は一回毎に消去する必要があります。この読み取り・消去の過程で10~30秒程かかります(カセッテの大きさ、照射線量に依存)。

FPDは照射されたX線エネルギーを電気信号に変換して、その場で画像化することが可能です。
フィルムやCRと異なりFPDはそれ自体が電源を必要とする機械であり、読み取り装置を必要としない、画像をすぐに確認・転送できるという利点があります。一方で充電が必要、衝撃に弱いという特徴があります。

FPDの使用でより患者さんにやさしい検査を!

①検査時間の短縮

画像化までが短縮され、撮影毎にIPの入れ替えもないため検査時間を短縮できます。検査時間の短縮は患者さんの負担軽減、待ち時間の短縮につながり、ストレスの少ない検査を受けていただけます。

②被ばく低減

FPDはX線の感度が高く、低線量のX線で撮影することができます。

 

認知症検査入院と画像検査について


当院では認知症検査入院を今年から開設いたしました。認知症関連疾患においては、患者さんの不安は最もですが介護者の負担も大きいことは最近ではよく知られている事柄ではないでしょうか。介護生活そのものの負担も大きいですか、その診断に至る過程でも大きな負担がかかるかと思います。患者さん自身の不安に寄り添うことや、検査や診察の度に病院へ連れ添うのも大変であろうかと感じます。入院で一通りの検査や診察が受けられるのであれば、働く世代の負担も多少ではありますが軽減されるものと思われます。

認知症検査入院の検査内容といたしましては、脳血流-MIBGシンチ、認知機能検査-神経心理検査(臨床心理士)、 頭部MRI-VSRAD(ブイエスラド)、神経内科診察などが含まれております。
今回は認知症関連画像検査について、代表的な二つの検査(脳血流シンチ・頭部MRI)について簡単にご紹介します。

認知症を対象とした画像検査(脳血流シンチ・頭部MRI)について

認知症疾患を対象とした頭部MRIは、脳の形をみる検査となります。脳そのものの形や、脳以外のものが写っていないか、腫瘍がないか、脳室が大きくなっていないかなどの形を評価した所見をみることができます。
脳血流シンチは、放射性同位元素の動態を追いかけることにより、脳への血液の流れ具合を見ています。MRIが形を評価していますが、こちらは機能を評価しています。

画像所見を数値化してより分かりやすく

そして、このそれぞれの特徴を生かした画像解析手法を用いることで、画像だけでは認識しづらい軽微な所見も評価することができるようになってきています。VSRADやe-ZISといった解析ソフトウェアがそれにあたります。
頭部MRIでは形態的に画像を評価する特徴を生かし、正常患者さんの脳の形態と比較して評価するソフトウェアが用いられており、VSRADと呼ばれるソフトウェアになります。
脳血流シンチでは脳血流の分布について、正常患者さんの脳血流分布と比較して評価するe-ZISというソフトウェアが用いられています。あたかも脳の偏差値のようですね。

画像検査については放射線科紹介でも対応しています

入院できれば家族負担は減るものの、患者さん自身が入院という形に納得しないということもあるのではないでしょうか。認知症はとてもナイーブな疾患であるかと思いますので、「家族が一緒に来てくれるから検査を受ける」、「昔からお世話になっている先生に診察してもらいたい」というケースもあるかと思います。当放射線科ではそのような場合には外来で、脳血流シンチや頭部MRI-VSRAD(ブイエスラド)検査を行うことが可能です。現在、地域の先生からもこの様な依頼をうけて検査を行っております。画像検査のみが必要な場合にはご利用ください。
地域の皆様のためにも多様な検査ニーズに対応し、一億総活躍時代のシステム構築に貢献できればと考えております。

CT.MRI室主任 保田英志

放射線治療 喉頭がんについて


今回は喉頭がんについて紹介します。
放射線治療は、放射線を照射することによりがん細胞を破壊し、消滅させたり、小さくしたりすることが目的となります。
がん細胞に正確に放射線を照射するため、頭頸部領域ではシェルという固定具(写真.1)を使用するのが一般的です。シェルを使用することにより、毎回の照射精度を向上させることができます。
頭頸部領域においての放射線治療の大きなメリットは、機能温存になります。喉頭がんの場合、外科的手術にて喉頭を切除しないため、声を出す機能を失うことがありません。早期の喉頭がんの場合、治癒率についても非常に高く、最近では放射線治療が第一選択となる場合がほとんどです。
放射線は正常な細胞にもダメージを与えますが、その影響をなるべく少なくするために、分割にて放射線を照射します。通常、治療にかかる期間は6〜7週間ほどになります。
がんの進行度により、放射線治療を単独で行う場合と、放射線治療と薬物療法を併用する場合があります。早期症例(TNM分類のT1~2,N0)では放射線治療が選択されます。
声門上部がんT1~2症例や声帯運動障害があり浸潤傾向の強いT2症例に対しては化学放射線療法あるいは喉頭温存手術が推奨されています。
T3~4症例では、大半が喉頭全摘となりますが、近年では患者のQOLを考慮し、可能な限り喉頭温存を図るべきとする考えになりつつあります。

1)放射線治療(単独)

早期の場合は放射線治療単独で行います。週に5回で計30回程度(約6週)の分割照射が一般的です(図.1)。早期の場合は放射線を照射する範囲が狭いので、皮膚の発赤や嗄声(声がれ)などの比較的軽い副作用がみられます。

2)化学放射線療法

化学放射線療法は、進行した喉頭がんに対して、薬物療法と併用して放射線治療を行う方法です。薬物を併用することにより放射線治療の効果を高めることができます。最近のメタアナリシスの結果でも、同時併用化学療法が照射単独に比較して有意に予後が良好であることが示されています。同時併用薬剤としては、シスプラチン単剤がエビデンスのある薬剤になります。
一方で、副作用は化学療法と放射線の両方の副作用により嗄声や音声障害、粘膜炎による嚥下障害、皮膚炎、骨髄抑制など放射線単独時より反応が強くでます。

●副作用について

放射線治療中や治療直後の急性期の副作用としては、皮膚の炎症による痛み(図.2)、口腔・咽頭・喉頭の粘膜炎による痛みがしばし見られますが、これは時間とともに回復します。
治療後数か月経って現れる晩期の副作用としては、唾液の出る量の減少や口腔乾燥、味覚障害、摂食・嚥下機能の低下等が出る場合があります。これらについては定期的な診察にて適切に対応して行きます。

­= 参考文献 =
金原出版 放射線治療ガイドライン2016 P113~117
集潤社 がん・放射線療法2017 P709~715
金原出版 放射線治療Q&A 日本放射線腫瘍学会編 P71~77

症例


問題: 63歳、女性。2年前から左手掌部に腫瘤を認めていた。
最近になり腫れが大きくなったため、MRI精査。

a:T1強調像, b:T2強調像, c:T2*強調像, d:脂肪抑制T2強調像,
e:拡散強調像, f:ADC map

 

解答と解説

T2強調像(左図):中心部はやや低信号(腫瘍細胞や線維成分が多いAntoni A領域;黄矢印)、辺縁部は高信号(粘液状基質に富むAntoni B領域;赤矢印)を示しています。
T2*強調像(右図):中央部では出血後変化を反映して低信号を示しています(緑矢印)。
左手掌第2から第3指の浅指および深指屈筋腱の間に境界明瞭で辺縁平滑な腫瘍を認めます。T1強調像では全体が低信号、T2強調像では中心部がやや低信号で辺縁部が高信号を示し、辺縁は被膜と思われる低信号で囲まれています。T2*強調像では中央部の低信号が目立っており、出血後の変化が疑われます。拡散強調像で高信号ですが、ADC mapでは高信号と中等度の信号が混在した信号となっています。神経鞘腫が疑われ、手術を希望されたため、腫瘍摘出術を施行し、病理組織診断でも神経鞘腫の診断となりました。

神経鞘腫は、比較的大きな神経の神経鞘内に発生し、神経外膜からなる被膜を持ちます。20から50歳代に多いとされ、頭頚部、四肢屈側、後縦隔、後腹膜、下肢に好発します。組織学的には細胞成分の多いAntoni A領域と、粘液状基質に富むAntoni B領域が様々な割合で混在し、内部には出血や嚢胞変性を含むことが多いです。MRIでは、これらを反映した所見となります。つまり、腫瘍細胞あるいは線維組織が密に見られる部分がT2強調像で低信号となり、一方粘液変性が強く腫瘍細胞の乏しい部分はT2強調像で高信号となります。このT2強調像で辺縁が高信号で、中心が低信号を示す像はtarget appearanceと言われており、神経鞘腫でみられる所見ですが、神経線維腫でもみられるため、明確な区別は難しいとされています。鑑別方法として、神経が腫瘍の辺縁にあるか中心にあるかで鑑別できるとされており、前者であれば神経鞘腫、後者であれば神経線維腫という報告もありますが、神経の同定自体が困難なことも多く、明確な鑑別点とはならないようです。鑑別診断として、悪性末梢神経鞘腫瘍があげられますが、特異的な画像所見はないため、鑑別困難なことが多いです。経過中に急速な増大を認めた場合は、悪性末梢神経鞘腫瘍を疑う根拠となります。

参考文献)
・上谷雅孝:骨軟部疾患の画像診断第2版.秀潤社
・福田国彦:軟部腫瘤の画像診断.秀潤社

解答:神経鞘腫(Schwannoma)