核医学検査の現場にせまる! 放射性医薬品の取り扱いの実際


核医学検査では放射性同位元素(いわゆる放射能)を使って検査しているという話を以前しました。今回はその実際をご紹介させていただきます。

いつまでもあると思うな、親とカネと放射能!?

前回もお話させていただきましたが、放射能には寿命があります。特に病院で使われる放射線同位元素は寿命が短いです。「寿命」と表現していますが、実際にその指標となるのは“半減期”とよばれるモノで、半減期は放射線を出す能力が半分になる時間を表しています。よく核医学検査で使われるテクネチウムという放射性同位元素は半減期約6時間です。ですから、一日たつと半分の半分の・・・となりますので、放射能はかなり失われてしまって使い物にならなくなります。故に値段が高価なものとなり、骨シンチグラフィで使われるお薬で3万円弱の薬価がついています。
以上のことから、お薬については毎日注文となります。具体的には前日の夕方に薬屋さんへ電話して注文をかけ、翌朝に配達の方が持ってきてくれます。

お取り扱い注意!筋肉も必要!?

さてこのお薬。薬といっても放射性同位元素ですからお取り扱い注意品となります。では実際にどのように配送されると思われますか?ここからはお薬の到着から使用までを見ていきましょう。朝7時30分過ぎに配達業者さんが箱に入れて持ってきます。箱を開けると専用のボトルのようなものが入っています。実はこれ、ずっしりしています。と言うのもこのボトル、プラスチックに見えますが、放射性同位元素を入れるための鉛で作られたシリンジケースとなっています。

核医学検査で使われる放射性同位元素は、ガンマ(γ)線という種類の放射線を放出します。
このガンマ線が画像取得に利用されるのですが、これが外に漏れないように鉛のボトルで覆われています。さらにこの注射器も薄めではありますが鉛のシールドで包まれています。
ちなみに、鉛は元素記号“Pb”で原子番号が高い物質(X線、γ線の吸収効率が高い)としては安価に手に入ることから、放射線の遮蔽によく利用されています。ご存知かと思いますが、鉛は結構重たいので、片手で持つと軽い筋トレになります。(ぱわ~!)

お薬を使用した後も取り扱いには注意が必要で、お薬を通したチューブや入っていたシリンジなどはすべて放射線に汚染されたもの。世に言う放射性廃棄物となります。
核医学検査室には廃棄物保管庫と呼ばれる部屋があり、そこで放射能が低くなるまで保管を行い、その後専門機関に廃棄をお願いする様になっています。

以上核医学検査のお薬の取り扱いについてお話させていただきました。
このように検査薬が放射性同位元素であることから取り扱いが煩雑かつ高価なものとなっています。患者さんには、検査をキャンセルされる場合、なるべく早くにご連絡いただけるようにご協力をいただいています。

核医学プチ講座 ブルズアイ(最終章)  「SSS」「SRS」「SDS」って何ですか?


核医学プチ講座「ブルズアイ」のシリーズ最終章!
負荷心筋血流シンチにおける負荷誘発虚血の評価指標値「SSS」「SRS」「SDS」についてのお話です。

まずはおさらい(詳細は2021年9月号ご参照ください)

「ブルズアイ(Bull’s-Eye)」とは心筋SPECT画像の短軸像(Short Axis : SA)を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものです。(下図)ブルズアイの見方や評価により以下の観察が可能となります。
◎ 負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化を観察
◎ 時間毎の集積変化を観察
◎ 2つのRI薬品の心筋への集積を観察
◎ 心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察

ここから本題!

「SSS」「SRS」「SDS」とは

ブルズアイを17または20セグメントに分割し(当院では17セグメントを採用)、0(正常)~4(無集積)の5段階にスコア化、このスコアをもとに評価します。
SSSは負荷時の合計スコア、SRSは安静時の合計スコア、SDSはSSSからSRSを差し引いた虚血心筋スコアとなります。 SDSを%表示し虚血心筋量を半定量的に評価したものが%Ischemic(%SDS)と定義されます。

以下、自験例を2例紹介します

症例1 %Ischemic=13.2%

症例2 %Ischemic=7.4%

最新の動向は

今回の内容につきましては、日本メジフィジックス 医療関係者向けサイト「SPECTを用いた虚血心筋の評価による治療選択と予後 %Ischemicの概念と臨床応用」(日本大学医学部循環器内科教授 松本直也先生監修)を参考に掲載しました。その中から一部%Ischemicに関する動向を紹介します。
Hachamovitchらは2003年に、虚血心筋量(%Ischemic)が左室心筋全体の10%以上の場合、薬物治療よりも血行再建術が予後を改善すると報告しております1)。その後、同一著者らが追試を行い、心筋梗塞の既往のない患者において、やはり虚血心筋量10%が血行再建術による予後改善の閾値であること(全ページの症例1はこれに相当)、虚血心筋量が大きいほど血行再建による予後改善効果が大きいことが報告されています2)。
虚血心筋を有する症例に対し、冠血行再建術が予後の改善につながるか否かを評価する前向き無作為化国際研究が現在進行中です(ISCHEMIA study)3)。また、相対的な心筋血流評価を補う方法として半導体検出器カメラを用いた心筋血流定量(myocardial flow reserve算出)の臨床的有用性4)も示唆されています。今後はこのような多方面からのエビデンスの蓄積や定量法の普及が望まれることになります。

放射線技術科主任/核医学専門認定技師/放射線内用療法安全取扱担当者 荒田

えっ! 放射能を体にいれるの!?


私事でございますが核医学検査も担当するようになり数年たちました。ひとつ印象的だった経験があります。それが「今日の検査って放射能を体に注射するのよね?なんだか怖いわ!」という患者さんのつぶやきでした。放射能という言葉を聞くと、すぐ原子爆弾をイメージしてしまい、とても怖いものに感じてしまいます。また、福島第一原子力発電所事故の影響もあって放射能 = 悪いもの!のイメージしかない方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。
今回はこの放射能という言葉と核医学検査で使われる放射性検査薬について簡単にご説明させて頂き、核医学検査の安全性についてお話させて頂きます。当院にご紹介頂く患者さんへの検査説明の一助となれば幸いです。

放射線=放射能?

放射能という言葉が一般的な使い方として放射線物質と同じ意味合いで使用されていることがありますが、放射能というのはその物質が放射線を出す能力の事を言います。ですから一般的に用いられるところのそれは放射性物質です。

放射性物質に寿命あり!

放射性物質は放射能を持つ物質の総称です。そしてこの放射性物質には寿命があります。
放射性物質は物理学的に不安定な状態であると表現されています。その不安定から安定に落ち着く過程で放射線を放出していきます。そして安定まで行けば放射能を失うことになります。若い頃はエネルギーをもてあまして極悪と呼ばれたような不良が、その有り余るエネルギーをラグビーに向け、花園を目指し、その後立派な社会人として安定自立する感じというとイメージしやすいでしょうか。。。

 

 

いつまで続くの?反抗期!?

その安定化するまでの時間を表すのが放射性物質の半減期と呼ばれるものです。これは放射能が半分になる時間を表しています。当然、この時間が短いほど放射線の影響を受ける時間が短くなります。

人生いろいろ?

放射性物質が安定化するまでの時間は放射性物質の種類によって違います。半減期が年単位のものや数秒まで様々です。かつての総理大臣の言葉を借りると、人生色々、会社も色々、放射性物質も色々となります。

核医学検査薬は短命!

半減期が短いほどその影響は短くなりますから、被ばくという観点からすると有効です。ちなみに原発で問題となる放射性物質としてよく挙げられるのがセシウムです。セシウムにも種類があるのですが、半減期が長いものだと約30年です。それに対し核医学検査でよく使われるのがテクネシウムというもので、半減期6時間となっています。ですので、セシウムと比べると比較にならないほど短いと言えます。

以上放射能から放射性物質そして半減期までご紹介させて頂きました。
半減期の短さからその安全性についてご説明させて頂きましたが、少ないとは言っても放射性物質です。無駄な被ばくや汚染などないように日々注意して検査を行うように努めています。最後に核医学検査の一般的な被ばく線量についての資料を添付します。
核医学担当 保田

核医学プチ講座 ブルズアイ(その2) 「ブルズアイ」でわかること「いろいろ」


前回に引き続き「ブルズアイ (Bull’s-Eye)」特集です。今回は臨床でのブルズアイ画面の見方や評価方法についてお話させていただきます。

まずはおさらいになりますが、「ブルズアイ (Bull’s-Eye) 」とは心筋SPECT画像の短軸像 (Short Axis:SA) を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものです。
同心円状に展開していることから「極座標表示」「Polar-Map」とも呼ばれています。

ブルズアイの見方や評価方法は以下の4つです。
◎ 負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化の観察
◎ 時間毎の集積変化を観察
◎ 2つのRI薬品の心筋への集積を観察
◎ 心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察
それぞれ詳しく解説していきます。

負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化の観察

アデノシン薬剤負荷心筋血流SPECT短軸像を心尖部から心基部まで展開しています。上段は負荷血流、下段は安静血流です。中央部~心基部の中隔下壁~下壁にて負荷時集積低下が観察されます。

前頁の短軸像をブルズアイ展開します(上段:負荷血流 下段:安静血流)。Extentは集積低下が [2.5×標準偏差] 以下を一律で黒抜き表示します。[2.5×標準偏差] 以下で集積低下が統計的優位であるとされています。Severityは低下部位の深達度表示です。負荷時のExtent、Severityが安静時に比べて大きく抽出されていて、負荷時の血行障害を示しています。

さらにブルズアイを17の区域に分けてカウントの低下度合いを数値化し、負荷/安静相互の比較を行います。負荷時の低下度“SSS (Summed Stress Score) ”から安静時の低下度“SRS (Summed Rest Score)”を引いた“SDS (Summed Difference Score)”は実際の低下度として虚血性変化の指標値となり、血行再建術の適応評価に多く利用されています。

時間毎の集積変化を観察

心筋SPECTにおける早期像と遅延像をブルズアイ展開することにより、放射性薬剤が心筋内に“滞留”しているか、あるいは“流出(洗い出し)”しているかを判定します。

心筋血流製剤(201TlCl,99mTc-TF)や心筋脂肪酸製剤(123I-BMIPP)では心筋変性や心筋細胞の脱落がある場合に“流出”が観察されることがありますが、近年心筋脂肪酸製剤では“洗出”が停滞するケースで有意な疾患があるという報告も挙がってきています。

2つのRI薬品の心筋への集積を観察

201TlCl/123I-BMIPPをブルズアイ上で比較算出により集積の乖離度(ミスマッチ:Mismatch)の判定も可能になります。

心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察

当院では心筋血流SPECT収集においてほぼ全例に心電図同期収集を行い、血流の評価に加えて壁運動等の心機能解析を行っております。各部位における壁運動や壁厚変化を観察し、部位による容積曲線の変化や、位相解析を行っています。負荷誘発における壁運動の同調性の低下や、心ペーシング施行前の心機能解析としてPhase-Mapの算出等も求められます。

またまた誌面の都合で次回はブルズアイ展開とSegment解析に絞ってまたお話させていただければと願っています。

参考文献
1)日本メジフィジックス医療関係者向けサイト:シンポジウム/心不全における心臓核医学によるアプローチ:BMIPPイメージング(TGCV)

核医学プチ講座 ブルズアイ(その1) ブルズアイっていったいなんだ!?


心筋血流SPECT検査を中心に心臓核医学診断では画像表示に「ブルズアイ(Bull’s-Eye)」が用いられます。最近では心臓MRIや心臓CT(Perfusion CT)でも採用されていますので、今回は画像表示方法の基礎について述べさせていただきます。

3方向+α見える!

心筋SPECT等の検査では画像表示として3方向の断面表示に加え、ブルズアイ(Bull’s-Eye)が表示されます(Fig1)。

のっけから余談話を展開しますが、「ブルズアイ」を「ヤ○―」や「グーグ○」で検索しますとディズニーのトイストーリーに出てくる馬がHitします。次に出てくるのが「ダーツや射撃の中心円」です。またその「中心円」を射貫くという意味で航空軍事用語でも使われています。まずはダーツに使用される標的盤でイメージを膨らませてください。 さて、心筋SPECT画像の再構成では前述の3方向が表示されます。水平方向長軸(Horizonal Long Axis:HLA)、垂直方向長軸(Vertical Long Axis:VLA)、そして短軸(Short Axis:SA)があります。(Fig2)

短軸像を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものが「ブルズアイ(Bull’s-Eye)」となりますが、同心円状に展開していることから「極座標表示」「Polar-Map」とも呼ばれています。(Fig3)

ブルズアイで見てみると

ブルズアイ(極座標表示画像)では統計検定に基づいた異常領域の抽出が可能となります。またSPECT上での各区域に応じたカウントをScore表示することも出来ます。(Fig4,Fig5)

ちなみに冠動脈との標準的な位置関係も加えると以下のようになります。(Fig6)

誌面の関係で次回は「その2」として、ブルズアイ画面の見方や評価方法についてお話させていただきます。
放射線技術科主任・核医学専門認定技師 荒田

ガンマカメラって、シンチ検査と何が違うの??


通常画像診断関連の検査というと、胸部レントゲンやCTなどが代表的で、次にバリウム検査やMRIなどが思い浮かばれ、核医学検査を想像される方は少ないのではないでしょうか。
当院の核医学検査数は他の施設に比べ多いくらいなのですが、CT検査やMRI検査に比べると、1,2割くらいの件数しかない、あまり表にでる機会がない検査となっております。
今回はそのような珍しい検査部門で使われている核医学検査装置について、マニアックではありますが理解すると割と面白いかと思いますのでご紹介させていただきます。

レントゲンとは反対に…

核医学検査は、放射性同位元素を患者さんの体内に投与し、その動態を測定、画像化する検査です。通常レントゲンではエックス線を体に照射し、その吸収差を画像化していますが、核医学検査は反対で、体から出てくる放射線を検出して画像化していることになります。
核医学検査で画像化するのに用いられる放射線はガンマ線(γ線)と呼ばれる放射線になります。放射線にはいろいろと種類があり、エックス線、ガンマ線、アルファ線、ベータ線、重粒子線などがありますが、この中でこのガンマ線というものを検出して画像化しています。

ガンマ線は電磁波の一種で、性質的にはエックス線と同じといわれています。エックス線はレントゲン検査やCTなどで使われるもので、専用の装置に高い電圧をかけると発生するものです。しかし、ガンマ線は装置から出てくるわけではなく、放射性同位元素から出てくるものを指します。

ガンマカメラってどんなカメラ??

ガンマ線を検出するのに使われているのが、その名の通りこのガンマカメラと呼ばれる装置です。体が覆われるように横幅が大きい装置となっています。この装置の中に、ガンマ線を検出する装置が格納されています。

ガンマ線は通常物質を電離させることができるので、その電離した電子を数えることでそこにどれくらいのガンマ線が存在するかを測定することができますが、画像化するにはそれだと効率が悪く、たくさんの放射線同位元素が必要となってしまいます。ですので一度、ガンマ線を蛍光体(シンチレーター)と呼ばれる物質と接触させて光を発生させます。その光信号をさらに倍増させる装置(光電子増倍管という)を通すと高い信号値が得られるので、少ない放射線でも効率よくガンマ線を検出できます。
ちなみに蛍光体(シンチレータ)を利用して画像を得ることから、核医学検査はシンチグラフィとも呼ばれております。

このような放射線を光に変換して信号値を上げる技術は、レントゲンやバリウム検査、CTでも利用されており、被ばく線量の低減に利用されています。
以上、今回は簡単ではありますが核医学検査装置の基本原理についてご紹介させていただきました。

副技師長・核医学検査担当 保田

“なんとなく”が数値でわかる!骨シンチ画像解析プログラム BONENAVI


従来、骨シンチの評価は集積の程度を客観的に評価することが困難でした。「集積が淡い」「集まり方が不整」「加齢性変化?」など画像への視覚的印象が評価の項目であり、経時的観察においても同部位の集積について視覚的比較に留まる傾向がありました。近年ではSPECT撮影の追加や、MRI画像、CT画像や単純XP画像と対比させて評価を行っています。
一方で、骨シンチの読影支援に関する報告や米国における定蘊的評価法の報告を基にスウェーデンのEXINI Diagnostics社が骨シンチのCAD*システム“EXINI bone”を開発しました。この“EXINI bone”は、2012年には米国でFDAの承認を受け、現在では欧州、米国、アジア等で広く使用されています。
今回ご紹介する、“BONENAVI(ボーンナビ)”は、EXINI Diagnostics社からの技術協力を得て開発され、日本人データベースを用いた骨シンチ画像解析プログラムです。 2015年5月に医療機器としての製造販売認証を取得しています。
*CAD:Computer Assisted Diagnosis

1. ANN値<異常集積の可能性>

BONENAVI はデータベース*を用い、年齢、性別、癌種(乳癌/前立腺癌)を考慮したANN(Artifical Neural Network)解析アルゴリズムを構築しました。
データベースにおける癌腫の内訳は、乳癌が41%、前立腺癌が29%、その他の癌(肺癌、腎癌、膀脱癌等)が30%です。
ANN解析で求められたANN値は0~1の値により異常集積の可能性を表示します。1に近づくほど異常集積の可能性が高くなります。(図1)
なお、ANN値の解析は天気予報の降水確率と類似しており転移の確率をとらえるという意味で使用するのが望ましく明確なカットオフ値があるわけではありません。
*日本人データベース(9施設、n=1549)

2. BSI(Bone Scan Index)<異常集積の広がり>

BSIはMSKCC*が提唱した骨転移の広がりを評価する指標で、全身の骨量に占める高集積部位(赤色)の割合(%)を算出したもので、
0%   転移なし
0.5~5%  概ね転移あり
5%超え  ほとんど転移がある
と考えてよいです。(図2)
*MSKCC:New York Memorial Sloan-Kettering Can cer Center

3. HSn(Hotspot number)<異常集積の数>

高集積部位(赤色)の個数をHSn(Hotspot number)と定義します。
ただし、近接する2つの集積が合わさってしまうとHSnの数は減少してしまいます。

今回はBONENAVI解析の流れについて述べさせていただきました。続編では臨床例を交えて説明させていただく所存です。

放射線技術科主任
核医学専門認定技師/放射線内用療法安全取扱担当者
荒田光俊

参考文献(画像含む)
・富士フィルム富山化学「Bone Scan Index(BSI)による骨シンチの定量化」

放射性ヨウ素(131I)内用療法について ~バセドウ病の治療~


甲状腺とヨードは仲良し

バセドウ病の131I内用療法は甲状腺のヨウ素取り込み能を利用して、131Iをカプセル(ヨウ化ナトリウムカプセル)として経口投与します。経口投与された131Iは特異的に甲状腺に集積し、甲状腺濾胞細胞を破壊します。その結果、甲状腺が縮小し甲状腺機能亢進症を改善させるという治療法です。
1998年から13.5mCi(500MBq)までであれば、外来での131I投与が可能になりました。当院でも外来にて行っています。
バセドウ病には薬物療法、手術療法と内用療法があります。患者さんが希望すればアイソトープ治療を受けられますが、適応と禁忌事項があります。

適応

・抗甲状腺薬治療や手術を望まないとき
・甲状腺腫を小さくしたいとき
・心臓病や肝臓病などの慢性疾患を持っているとき
・抗甲状腺薬で十分コントロールできないとき
・抗甲状腺薬で副作用が出現したとき
・抗甲状腺薬中止後に再発したとき
・手術後にバセドウ病が再発したとき

禁忌

・妊婦、妊娠している可能性のある女性
・近い将来(6ヶ月以内)妊娠する可能性がある女性
・授乳婦
・重症甲状腺眼症(相対的禁忌)

慎重投与

・18歳以下
※原則として19歳以上を適応対象とする

バセドウ病131I内用療法の実際

◎スケジュール

治療前の準備としてヨード制限、抗甲状腺薬の中止、甲状腺摂取率の測定、甲状腺眼症の評価等が必要になります。
当院では、治療日の5日前に摂取率測定を行います。摂取率測定は測定目的用の123Iカプセルを内服し、24時間後に測定します。(図1)

◎線量の決定方法

131Iの投与量は、放射線治療医が(1)甲状腺131I摂取率、(2)推定甲状腺重量、(3)有効半減期などをもとにして、適切な量(期待照射線量30~70Gy)を算定します。

◎ヨウ化ナトリウムカプセル

カプセルは表1に示すものを、患者さんの投与量に応じて組み合わせて使用します。
例)投与線量が336MBqの場合
ヨウ化ナトリウムカプセル3号を3カプセル(111MBq×3=333MBq)投与

◎治療日当日

核医学検査室(管理区域内)にて放射線治療医、看護師、診療放射線技師が立会いの下でヨウ化ナトリウムカプセルを内服します。

<内服の注意点>
内服の際は手指の被ばくを避けるために、カプセルは直接手で触れないようにします。当院ではカプセルを割り箸で掴み口に運んで内服して頂きます。

<お渡しするもの>
*エチケット袋
何らかの理由で嘔吐をした場合、吐瀉物からの汚染被害を避けるためにお渡しします。
*患者情報カード
緊急時に備えて131I内用療法を受けたことが明確になるように図3に示す患者情報カードをお渡しします。こちらは必携して頂くようにお伝えします。

内服した131Iのうち、甲状腺に取り込まれなかったものはほとんど尿中に排泄されます。また、極微量ですが汗や唾液にも含まれます。この131Iから放出される放射線は人体に悪影響を及ぼしませんが、微量の放射線が出ていることを患者さん自身に認識して頂く必要があります。ご本人に対して安全な治療法なので、他人に危険を及ぼすことはありませんが、内用療法を受けた方のエチケットとして上記の2点に加え、後述する生活制限においても守っていただきたい事柄です。

◎治療後

<経過>
治療後次第に甲状腺は縮小し甲状腺ホルモン値は減少しますが、治療後半年間は甲状腺機能が安定しないことがあるため定期的な診察が必要となります。甲状腺眼症が悪化する場合があるため、治療の前に甲状腺眼症の治療が必要となります。治療効果には個人差があり、甲状腺機能が正常となって内服治療が不要になる方もいれば、甲状腺機能低下症となり甲状腺ホルモン薬の内服を継続する必要がある方もいます。

<生活制限>
1.家庭での注意、2.乳児・幼児との接し方、3.学童・妊婦との接し方について各制限項目及び制限日数が設けられています。こちらの詳細については放射線治療医及び看護師からプリント及びパンフレットを配布し説明を行っています。

131I内用療法は70年以上の歴史がある安全な治療法です。その安全性に関しても報告されています。当院での治療成績に関しても機会がありましたらご報告させて頂きます。厳格な適応や禁忌の問題もありますので適応を考慮する症例が出た際は当院の専門医へご相談下さい。

 

身体の中から狙い撃ち!? ― 内用療法(核医学治療)について ―


内用療法(核医学治療)とは?

体内に投与(静脈注射、経口)した放射性同位元素(アイソトープ:RI)やこれを組み込んだ薬剤を用いた放射線治療で、核医学治療・RI内用療法・RI治療とも言われています。
現在、日本で保険収載されている内用療法は4つほどあります。

1 骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん治療(塩化ラジウム注射液、ゾーフィゴ®静注)
2 骨転移疼痛緩和治療(塩化ストロンチウム注射液、メタストロン®注)
3 甲状腺癌に対する術後アブレーション
4 バセドウ病に対する内用療法

これらの4つに関して紹介させて頂きます。

1.去勢抵抗性前立腺がんの骨転移治療

ゾーフィゴ®静注という放射性医薬品を静脈注射して治療を行います。

ゾーフィゴ®静注とは?
ゾーフィゴ®静注には、α線を放出する223Ra(ラジウム)という放射性物質が含まれています。この223Raには骨成分であるカルシウムと同様に骨に集積しやすい性質があり、静脈注射で体内に送られると代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く運ばれます。そして、そこから放出されるα線が骨転移したがん細胞の増殖を抑えます。(下図)
こうした作用により、骨転移した去勢抵抗性前立腺がんに対して治療効果が期待できる放射性医薬品です。

2.骨転移疼痛緩和治療のメタストロン®治療

メタストロン®注という放射性医薬品を静脈注射して治療を行います。

メタストロン®注とは?

メタストロン®注は、がんの骨転移による疼痛緩和を目的とした治療用の放射性医薬品です。この薬はβ線を放出する89Sr(ストロンチウム)という放射性物質が含まれています。この89Srには骨成分であるカルシウムと同様に骨に集積しやすい性質があり、骨転移部では、正常の骨より長く留まり、その部位に放射線があたることにより疼痛緩和が期待できると考えられています。

3.甲状腺癌に対する術後アブレーション

放射線ヨウ素甲状腺乳頭癌および濾胞癌が治療の対象となります。

アブレーションとは?

放射性ヨウ素(131I)という放射性物質が含まれたカプセルを内服します。ヨウ素が甲状腺に集積する性質を利用して、甲状腺に取り込ませ、放射性ヨウ素から放出されるβ線により破壊することをアブレーションと言います。
甲状腺癌により甲状腺全摘術によって病巣をすべて取り除くことができたと判断された場合でも、わずかに残存していることがあります。これにより、甲状腺癌の再発や他部位への転移を予防する目的でアブレーションを行います。

4.バセドウ病に対する内用療法

バセドウ病には薬物療法、手術療法とアイソトープ治療(内用療法)があります。

アイソトープ治療とはどのようなことをするの?

放射線ヨウ素を含んだカプセルを内服します。ヨウ素が甲状腺に集積する性質を利用して、甲状腺に取り込ませ、放射性ヨウ素から放出されるβ線により組織を破壊し、甲状腺を小さくしてホルモンを産生する力を弱くする治療法です。

これらの4つの内用療法の内、代表的なゾーフィゴ®静注とメタストロン®注の開始に向けて放射線治療科の朝比奈先生を筆頭に核医学チームで準備を進めております。今後の進捗状況や、内用療法が実際に運用を開始した際にはまた改めてお知らせします。

参考文献)
・バイエル薬品株式会社「知っておきたい治療のお話と治療中の注意点」
・日本メジフィジックス株式会社「メタストロン注(ストロンチウム-89)の治療を受けられる患者さんとご家族の方へ」
・富士フィルムRIファーマ株式会社「外来アブレーションをお受けになる患者さんへ」、「バセドウ病アイソトープ治療Q&A」

ダットスキャン(DAT-Scan)がまた一歩前進します ~「DAT View」のバージョンアップ御報告~


ダットスキャンの解析アプリケーションソフトである「DAT View」がこのたびバージョンアップされました。今回はバージョンアップで新たな展開を迎えることができたので、その経緯と内容につきまして簡単に紹介させていただきます。

<DAT Viewとは?>

「DAT View」ではダットスキャンのSPECT画像の解剖学的標準化および正規化を行い、使用RI(123I-Iofulpan)の線条体への集積と線条体以外の脳実質への集積比を指標として算出します。SBR(Specific Binding ratio)と定義され、投与された放射性医薬品(DATスキャン:123I-イオフルパン)の線条体への集まり具合を数値化して評価する方法で線条体以外の部分、すなわちバックグラウンド(BG)を1とした場合の線条体の集積比を数値とします。線条体全体の集積が下がると疾患として有意であるとされています。また左右の尾状核や被殻への集積差について神経症状との関連も評価を行っています。

<正常データベースを利用した評価が可能に!>

「DAT View」のSBRについては基準値等につき広く検討されてきましたが、昨今特に高齢者について年齢の増加によるSBRの低下の報告が多数挙がり、各年齢群にて健常者のSBRを求める研究が課題とされてきました。今回そのような背景を踏まえ、「DAT View」のSBRについて年齢群に応じた基準値を正常データベースに照らして評価する方法が新たに加わりました。さらに年齢群のデータベースを活用するに至り、国立精神神経医療センターで有するデータに対して共通のファントムによる収集を行って相関を求める機器間補正を行い、国立精神神経医療センターのデータベース活用が可能となりました。
年齢群の平均値とZ-Scoreの上限下限をプロットすることで求められたSBRが年齢群に対して正常の範囲にあるか否かを判定することが可能となります。実例を紹介します。

今回「DAT View」のバージョンアップを経てダットスキャンによる診断は一歩進んだステージを迎えました。また新しい展開がありましたら、ニュースレターの場をお借りしまして紹介させていただきます。

核医学専門認定技師 荒田 光俊