医療法改正に伴う当院の取り組み


今年度より医療法が改正され、次年度から大きく放射線に関する扱いが変化します。病院にて、放射線安全管理責任者を立てなければなりません。基本医師ですが、放射線関連(事故や放射線障害が出たとき)に関して連絡体制などができていれば診療放射線技師が担うことができるとされています。多くの病院では放射線科医師が適任であると思いますが、大学病院でない場合マンパワーの問題などがあるので診療放射線技師が事実上担うことが予想されます。

放射線もしっかり証拠保全!?

具体的には2020年度より、使用した放射線量(線量)を表示できる装置を有する場合、照射録に記載する撮像条件とは別に個々の患者さんの情報・撮像部位を線量と共に記録する必要があります。CT・血管撮影装置(移動型含む)・核医学撮影装置などが対象です。CTの線量が問題となって、脱毛がおきた事例があります。また血管撮影や循環器領域では透視を使って治療をおこなうために透視時間が問題になります。最近では脳神経領域も治療で血管撮影装置を使うので透視時間が問題になります。一昔前までは透視は診断でしたが、現在では透視は治療と捉えて、適切な透視時間や透視線量を管理しないと放射線障害が起きる可能性があります。

当院ではまず従事者の被ばく管理を徹底的にチェックすることにしました。従事者は線量限度が適用されます。特に循環器系医師、脳神経外科医師、泌尿器科医師、消化器系医師がクローズアップされます。2021年度には水晶体の線量限度が年20mSvになると言われており(現在は150mSv)、大きく規制されます。放射線防護眼鏡が従事者には必須となります。
次に患者さんに放射線検査の正当性と、自院での放射線量、また自院での放射線量の適正化の取り組みを検査前にしなければなりません(ここは当院もこれから検討に入ります)。
このように昨今、放射線の取扱に関して大きく変化していますので十分留意ください。当院で依頼くださるCT検査、核医学検査においては2015年にJRIMEが提唱した線量指標を参考に適切に放射線量を調整していますのでご安心ください。放射線の取扱に関しては自院で指針を作成しなければならないため、当院も作成するための組織づくり・体制づくりを進めています。

放射線技術科 技師長  高橋 光幸

軟部腫瘍のMRI検査


軟部腫瘍の画像診断では、腫瘍の存在診断に始まり、良悪性の鑑別や組織の推定、腫瘍の進展範囲の把握などが行われています。
現在、多くの画像モダリティ(超音波、単純X線撮影、CT、MRIなど)がある中で、組織コントラストに優れ、任意の断面を撮像可能であり、軟部腫瘍に対しての質的診断、広がり診断に優れているMRI検査は極めて重要であり、当院でも月に数例は必ずオーダーされています。
病変部位や腫瘍形態が様々であるため、軟部腫瘍は撮像する技師の腕の見せ所でもあります。

勝負は検査の前から!!

検査前に病変部位を確認し撮像範囲を決めます。
MRI検査の撮像時間は他のモダリティと比べて長く、どの撮像部位でも20~30分はかかる検査であり、患者さんは撮影中、可能な限り動いてはいけません。なかなか大変な検査ですが、われわれ技師はなるべく早く検査を終えてあげたいと考えています。
そこで事前に依頼医からの情報やカルテを確認し、さらに検査前に患者さんと部位の確認をしています。より多くの情報を得ることで、患者さんの撮影体位、撮像コイルの選択がスムーズに決まり、円滑に検査を進めることができます。

病変部位にマーカーと言う、いわゆる目印となるものを貼り付けるのも必須です。これは、MRI画像で基本となる、T1強調画像とT2強調画像で共に高信号を示すもので、撮影時・読影時の目印になるものです。

手指、手関節、肘関節にある軟部腫瘍に対しては、基本的にうつぶせで寝てもらいます。病変部にマーカーを貼り付け、撮影したい範囲がしっかり入るようコイルを選択しています。
動かないように固定することが大事です。病変部を圧迫し過ぎないように注意します。

コントラストを制する!!撮像シーケンス

T1強調画像とT2強調画像、T2脂肪抑制画像を基本とし、より脂肪を疑う場合はT1脂肪抑制画像、出血病変やヘモジデリン沈着の検出にはT2スター強調画像、また腫瘍の良悪性の鑑別の助けとなる拡散強調画像も撮像しています。

脂肪腫疑いの1例
T1強調画像、T2強調画像ともに高信号で、境界明瞭、辺縁平滑な腫瘤を認めます。
T1脂肪抑制画像にて内部の信号低下あり、一部隔壁構造も伴っているのが分かります。
明らかな充実成分や、拡散強調画像で高信号となるような、拡散制限を伴う部位は無いということで、今回の検査では脂肪腫が疑われました。

 

ヘリコバクター・ピロリの感染診断の決め手は 「温かいバリウム?」~胃X線検査の見地より


胃がん検診は従来、その名の通り、胃がんの早期発見が目的とされていましたが、1990年代に胃がんの発生の主原因がヘリコバクター・ピロリの感染(以下、ピロリ菌感染)によるものであることがevidenceとともに確立しました。
さらにここ数年、ピロリ菌感染者に対しての除菌が我が国で保険適用になると、胃がんの拾い上げだけでなく、感染の有無を求められるような議論が日本消化器がん検診学会をはじめとした関係学会等で熱を帯びてくるようになってまいりました。消化器ご専門の先生にとりましては周知であると存じた上で述べさせていただきますが、ピロリ菌感染有無についての背景胃粘膜X線診断は、
①ひだ襞の分布・広がり、②ひだ襞の形状 ③胃粘膜表面像(胃小区像)の順番(図1)
にて判定いたしております。

①ひだ襞の分布・広がり

まず最初に、背臥位二重造影正面像での①襞の分布を観察いたします。
胃粘膜の萎縮が進行すればするほど肛門側から口側へ胃底腺領域が減少します。これにより襞分布が減少し、高度萎縮の場合は最終的には襞が消失してしまいます。

 

②ひだ襞の形状

次に着目するのは②襞の形状です。未感染胃の襞は細く比較的ストレートで表面も平滑で立ちあがりも緩やかなソフトな印象ですが、既感染胃の場合、太く蛇行して立ち上がり急峻で、印象としてハードなイメージです。

③粘膜表面像

最後に着目すべきは、③粘膜表面像です。未感染胃の粘膜模様は、平滑で滑らかな印象です。表現としては「ベルベット様」という表現です。また網目模様を呈することもあります。これに対して、既感染胃の場合は小顆粒像を呈し粗造な印象です。さらに萎縮が進行するとさらに粗い模様が目立ち「フリース様」と表現されます。

これらの所見を組み合わせて、胃X線検査ではピロリ菌感染の有無について診断いたします。除菌後状態の胃などは、所見が複雑に食い違って診断に難渋するケースもありますが、2013年より開催されている「ピロリ菌感染を考慮した胃がん検診研究会」によると、トレーニングをしっかりと積めば、医師、診療放射線技師ともに正診率は90%を超えるという報告もございます。

これらの所見をしっかりと診断できる画像を得るためには、「しっかりとバリウムが付着された像(背臥位二重造影像)」が必須であります。そのためには、撮影機器の精度管理と同時に、バリウムの品質管理を日常的に行うことが我々診療放射線技師の責務であると考えております。当院健康医学センター(健診センター)のX線TVシステムは、始業前に必ずJSGIファントムにて、画像の鮮鋭度やコントラストをチェックするだけでなく、使用するバリウムに関しても濃度のみならず、その粘度をあげないためにも液温管理を行っております。近年使用されている高濃度低粘性の硫酸バリウム懸濁液は、液温が低くなると粘性が上がり、胃の中で粘液と混ざって、ベタつきや凝集の原因となります。よって冷たい水でバリウムを懸濁することは、飲みやすくて被検者様の受容性が向上いたしますが、可能な限りお控えいただくことをお勧めいたします。(図2)
今後も栄区近隣地域の住民の皆様に貢献できるような、高品質な胃がん検診を提供していきたいと思っております。

横山力也
日本消化器がん検診学会胃がん検診専門技師
NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構胃がん検診読影部門B資格

 

放射性ヨウ素(131I)内用療法について ~バセドウ病の治療~


甲状腺とヨードは仲良し

バセドウ病の131I内用療法は甲状腺のヨウ素取り込み能を利用して、131Iをカプセル(ヨウ化ナトリウムカプセル)として経口投与します。経口投与された131Iは特異的に甲状腺に集積し、甲状腺濾胞細胞を破壊します。その結果、甲状腺が縮小し甲状腺機能亢進症を改善させるという治療法です。
1998年から13.5mCi(500MBq)までであれば、外来での131I投与が可能になりました。当院でも外来にて行っています。
バセドウ病には薬物療法、手術療法と内用療法があります。患者さんが希望すればアイソトープ治療を受けられますが、適応と禁忌事項があります。

適応

・抗甲状腺薬治療や手術を望まないとき
・甲状腺腫を小さくしたいとき
・心臓病や肝臓病などの慢性疾患を持っているとき
・抗甲状腺薬で十分コントロールできないとき
・抗甲状腺薬で副作用が出現したとき
・抗甲状腺薬中止後に再発したとき
・手術後にバセドウ病が再発したとき

禁忌

・妊婦、妊娠している可能性のある女性
・近い将来(6ヶ月以内)妊娠する可能性がある女性
・授乳婦
・重症甲状腺眼症(相対的禁忌)

慎重投与

・18歳以下
※原則として19歳以上を適応対象とする

バセドウ病131I内用療法の実際

◎スケジュール

治療前の準備としてヨード制限、抗甲状腺薬の中止、甲状腺摂取率の測定、甲状腺眼症の評価等が必要になります。
当院では、治療日の5日前に摂取率測定を行います。摂取率測定は測定目的用の123Iカプセルを内服し、24時間後に測定します。(図1)

◎線量の決定方法

131Iの投与量は、放射線治療医が(1)甲状腺131I摂取率、(2)推定甲状腺重量、(3)有効半減期などをもとにして、適切な量(期待照射線量30~70Gy)を算定します。

◎ヨウ化ナトリウムカプセル

カプセルは表1に示すものを、患者さんの投与量に応じて組み合わせて使用します。
例)投与線量が336MBqの場合
ヨウ化ナトリウムカプセル3号を3カプセル(111MBq×3=333MBq)投与

◎治療日当日

核医学検査室(管理区域内)にて放射線治療医、看護師、診療放射線技師が立会いの下でヨウ化ナトリウムカプセルを内服します。

<内服の注意点>
内服の際は手指の被ばくを避けるために、カプセルは直接手で触れないようにします。当院ではカプセルを割り箸で掴み口に運んで内服して頂きます。

<お渡しするもの>
*エチケット袋
何らかの理由で嘔吐をした場合、吐瀉物からの汚染被害を避けるためにお渡しします。
*患者情報カード
緊急時に備えて131I内用療法を受けたことが明確になるように図3に示す患者情報カードをお渡しします。こちらは必携して頂くようにお伝えします。

内服した131Iのうち、甲状腺に取り込まれなかったものはほとんど尿中に排泄されます。また、極微量ですが汗や唾液にも含まれます。この131Iから放出される放射線は人体に悪影響を及ぼしませんが、微量の放射線が出ていることを患者さん自身に認識して頂く必要があります。ご本人に対して安全な治療法なので、他人に危険を及ぼすことはありませんが、内用療法を受けた方のエチケットとして上記の2点に加え、後述する生活制限においても守っていただきたい事柄です。

◎治療後

<経過>
治療後次第に甲状腺は縮小し甲状腺ホルモン値は減少しますが、治療後半年間は甲状腺機能が安定しないことがあるため定期的な診察が必要となります。甲状腺眼症が悪化する場合があるため、治療の前に甲状腺眼症の治療が必要となります。治療効果には個人差があり、甲状腺機能が正常となって内服治療が不要になる方もいれば、甲状腺機能低下症となり甲状腺ホルモン薬の内服を継続する必要がある方もいます。

<生活制限>
1.家庭での注意、2.乳児・幼児との接し方、3.学童・妊婦との接し方について各制限項目及び制限日数が設けられています。こちらの詳細については放射線治療医及び看護師からプリント及びパンフレットを配布し説明を行っています。

131I内用療法は70年以上の歴史がある安全な治療法です。その安全性に関しても報告されています。当院での治療成績に関しても機会がありましたらご報告させて頂きます。厳格な適応や禁忌の問題もありますので適応を考慮する症例が出た際は当院の専門医へご相談下さい。

 

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎 ⑧乳がんの自覚症状


乳腺外来ではどんな患者さんが来られる?

乳腺外来にはしこりなどの自覚症状を訴える方や、検診(自治体の検診、職域健診、人間ドック)等で要精密検査判定を受けた方が受診されます。
受診された患者さんは、問診、視触診、マンモグラフィー、超音波検査を受けていただきます。これらの基本検査で所見があった場合に、所見に応じてMRI検査、細胞診、生検等をご案内します。では乳がんの患者さんはどのような契機で乳腺外来を受診するのでしょうか。

乳がん患者さんの発見契機について

日本乳癌学会では2004年度から全国乳癌登録が行われています。全国の2016年度の年次集計によると、95,257名の乳がん患者さんのうち、自己発見が約半数、検診から発見されて来られるのは約3割と報告されています(図1)。
検診(検診、ドック等を含む)は本来自覚症状がない方を対象にしておりますが、検診を契機に発見される方の中で自覚症状を持ちながら検診を受ける方が少なからずいらっしゃいます。この統計では検診を契機に発見された乳がん全体(32,627名)のうち6,243名が症状がありながら検診を受けています。検診発見乳癌の約2割にのぼります。

乳癌患者さんの「自覚症状」

2006年〜2009年に当院で手術を行った乳癌患者さん235例の受診契機を調査をしました。自覚症状があったのは149例(63%)でした。
自覚症状の中では腫瘤触知が一番多く、
血性乳頭分泌 16例(10%)
乳頭陥凹 3例(2%)
乳頭びらん 1例(0.6%)と続きます。
乳房痛のみが唯一の症状である患者さんは6例(4%)でした。

乳がん検診受診者の「自覚症状」

今度は乳がん患者さんではなく、横浜市の乳がん検診受診者の問診票からみた自覚症状をみてみましょう。
平成23年度〜24年度の横浜市乳癌検診受検者は97,646名でした。検診の問診票では症状(痛み、しこり、乳頭変形、乳頭分泌、くぼみ)の有無を記載する欄があります。これらの症状のうち1つ以上を記載したのは受検者の17.1%にあたる20,092名でした。
この症状の内訳を見ますと、一番多いのが「痛み」39.3%、続いて「しこり」23.4%、「乳頭変形」20.3%、「乳頭分泌」12.7%、「くぼみ」3.5%と続きます。乳腺外来で実際にがんと診断された方と比べると、乳房の痛みを訴える患者さんが多いことがわかります。症状別に乳がんの比率を調べますと、
くぼみ 4.2%、しこり 2.8%、乳頭変形 1.0%、痛み 0.96%、乳頭分泌 0.48% でした。(平成27年日本乳癌検診学会で発表した内容からの引用)

皮膚のくぼみや、しこり(腫瘤触知)は乳がんの症状としては最も重要であることがわかります。乳頭変形や乳頭分泌の症状で乳がんの比率が意外と低いのは、おそらく陥没乳頭や乳汁分泌も統計上含まれてしまうことが一因と思われます。血性乳頭分泌や乳頭陥凹に限ると乳がんの頻度が高い症状です。これらの症状を訴える患者さんがいたら乳腺外来にご紹介いただけたらと思います。
乳房の痛みは乳癌を示唆する症状ではありません。しかし痛みを訴える受診者の乳がんの比率が意外に高いことは興味深いです。この期間の検診における無症状者も含めた乳がん発見率は0.38%ですから、それに比べると3倍近い比率になるのです。痛みは乳癌の存在とは直接関連がない症状ですが、ひょっとすると乳房痛が強いことは何らかの乳がんのリスク因子と関連があるのかもしれません。エビデンス(根拠)はないですが…..。乳房痛のみの症状でも、患者さんが気にしていらっしゃるならばご紹介いただければと思います。スクリーニングを行い、所見がなくてもその後の適切なマネジメントを患者さんにご案内いたします。

乳腺甲状腺外科担当部長 俵矢 香苗

放射線治療で使用する固定具、補助具について


現在、日本の死亡原因第1位はがんや悪性腫瘍で、死亡者数は年間30万人を超えています。これは3人に1人が、がんや悪性腫瘍で亡くなっていることを意味します。また、罹患率で見てみますと、年間70万人を超える人が、がんや悪性腫瘍に罹っていてこれは男女とも2人に1人が一生涯でがんや悪性腫瘍を経験する数値と言われています。
その様な状況の中、がんや悪性腫瘍の治療の一角を担う放射線治療は現在、以前に比べ照射技術(照射位置の正確性、線量の集中性)が格段の進化を遂げております。
がんや悪性腫瘍の位置や動きを事前に確認して照射を行う技術(IGRT)※1や放射線の強度を変化させながら照射を行う技術(IMRT)※2など、高精度で高技術な照射ができるようになり、放射線による副作用の少ない治療が行えるようになっています。これらの高技術な照射を行うには、治療時の照射精度の担保が必須となります。
今回は、照射精度を向上させるために使用する固定具や補助具について紹介させて頂きます。
放射線治療において、治療体位の再現性は非常に重要であるため、治療寝台上で患者さんを固定するさまざまな固定具や補助具が存在します。これらを有効に使用することで、精度の高い放射線治療が可能となります。

固定シェル

シェルは頭部、頭頸部、体幹部で使用されます。
60°〜70°で柔らかく進展し、常温で硬化する性質を持つため、専用の加温装置を使用し、柔らかい状態にて患者さんの型取りを行います。シェルを使用することにより、固定精度が向上し、照射位置精度の再現性が担保できます。治療中に照射部位に変化(浮腫や体重減少など)が現れた時は、固定精度が悪くなる場合があります。この様な場合は、合わなくなってきた場所を温め直して再形成したり、新たにシェルを作成して対応していきます。

頭頸部枕

頭頸部を安定させ、体位を維持するための補助具となります。シェルを作成する時に多く用いられます。様々な種類があるので後頭部や首のラインに形状が一致する枕を選択します。

吸引式固定具

バック内に発砲スチロールビーズが封入されており、バック内の空気を吸引すると硬化します。よって患者さんの身体にフィットした固定具が作成できます。主に体幹部の固定具として使用します。吸引式固定具は型崩れしにくく、エックス線低吸収で繰り返し使用が可能です。

上腕挙上固定台

乳房照射や肺などの照射時に使用します。両腕を挙げた状態で保持する固定具で、腕の挙げ方が毎回の照射時で同じになります。上腕位置を任意に調整し固定できるため、患者さんの腕挙げ体位の負担を軽減し安定させることができます。

下肢固定具

主に脊椎や前立腺、骨盤の照射時に使用します。下肢の固定具は患者さんの安定性や快適性を担保することができます。

以上、今回は一部の固定具について紹介をさせていただきましたが、その他、様々な固定具や補助具が存在します。いずれも患者ごとおよび照射部位ごとに適した固定具を使用する事で、照射精度が担保され高精度な治療が可能となります。当院においても患者さんの負担を可能な限り軽減させ、固定精度を担保し、精度の高い照射を行えるよう日々努力しております。

放射線治療認定技師 江川 俊幸

※1)IGRT:画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy)
X線画像や超音波画像等を利用して照射直前に照射位置の照合を行い、位置を修正しながら照射を行う技術 。

※2)IMRT:強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy)
専用のコンピュータを使用し、照射野形状を変化させたビームを複数用いて行う照射方法です。IMRTは腫瘍に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすことができるため、より強い放射線を腫瘍に照射することが可能になり、周囲臓器の副作用が軽減できます。

放射線治療室の朝


放射線治療室の1日の始まりはとても早く、朝から装置の精度管理が待っています。
昨今の放射線治療は以前に比べ、高精度な治療が可能になり、様々なシステムが備わっています。それらのシステムを正確に安全に使用するためには精度管理が重要で、必ず始業前に点検を行い、正常であるかを確認しています。
今回は当院の治療装置ならびに関連装置の始業前点検についてお話したいと思います。

1. 画像誘導放射線治療(以下IGRT)1)装置の正常動作チェック

画像照合が正しく行われているか、専用のファントムを使用し確認を行います。
治療寝台にファントムを置き、寝台を予め決められた量(左右方向:1.0cm、頭尾方向:1.4cm、高さ方向1.2cm)を移動させます。移動させた位置で治療装置付属のX線管球にてコーンビームCT2)撮影を行います。撮影した画像と中心位置の画像(予め装置に登録されている)を照合し、移動量と照合精度を確認します。

次に、IGRT装置の中心位置と実際の治療ビームの中心位置に相違がないか確認をします。先程の専用ファントムを使用し、IGRT装置側で求めた中心位置を治療ビームにて撮影を行い、ズレ量を求めます。(ここまでで、約30〜40分!)

★Check point

IGRT装置と治療装置の中心位置が仮にズレた場合にはIGRTの機能が信頼できなくなり、高精度な治療が行えなくなってしまいます。そのため治療前の確認は必須になります。

1)画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radiation Therapy)
IGRTとは2方向以上の二次元画像、三次元画像、または三次元患者体表面情報に基づいて治療時の患者位置変位量を三次元的に計測・修正し、治療計画で決定した照射位置を可能な限り再現する照合技術である。従来の放射線治療と比較し、標的に対して正確な照射が可能で正常組織への線量を低減することができる。

2)コーンビームCT(Cone beam computed tomography)
治療装置に付属の撮影装置(当院はXVI:X-ray Volume Imaging)を使用し、円錐状のビーム(コーンビーム)にて撮影するCTをCone Beam CT(CBCT)と言います。CTは通常、細いスリットビームで寝台を動かしながら撮影を行いますが、CBCTは円錐状に広がる放射線で撮影するため、寝台を動かさずに、一回で撮影することが可能です。

2. 照射に用いるX線や電子線の出力チェック

照射ビームのウォーミングアップ後、出力の確認を行います。
規定の線量(当院では100MU3))を照射し、専用の出力測定装置を用いて実測値(出力線量)を確認します。当院ではX線(4MV、6MV、10MV)、電子線(4MeV、6MeV、9MeV、12MeV、15MeV)の計8本に対し毎朝行っています。(この測定で、約30分!)

★Check point

出力のズレは規定値から±3%以内としています。それ以上のズレが生じた場合は、水ファントムを使用し本格的な出力の確認が必要になります。

3)MU:モニタユニット
照射線量の単位、通常1MU=1cGyになるように調整を行っている。つまり、100MUで1Gy照射される。

3. 治療寝台のチェック

当院では6軸補正が可能な治療寝台4)を導入しています。
専用のガイドを使用し、キャリブレーションならびに寝台面の水平確認を行っています。(約5~10分!)

4)6軸補正治療寝台
X、Y、Zの3軸以外に、回転方向のRoll、Pitch、Yawが補正可能。IGRTでの照射精度をより向上できる。

4. 治療計画CT装置のチェック

治療計画CT装置も始業前点検が必要になります。ウォーミングアップならびにキャリブレーションを行った後、専用QAファントムを使用し、中心位置とCT値に変動がないか確認をします。
治療計画CT装置は壁に取り付けられたレーザを基準として撮影を行うため、正確に装置中心へ移動しているかが重要です。
また、治療計画装置では体内の密度(CT値)を使用し線量計算をおこなうため、決められた密度(CT値)に相違があると正確な治療計画を行うことが出来ません。そのため、毎朝CT値の確認が必要となります。
当院で使用しているQAファントムには模擬組織が挿入されており、それぞれのCT値を確認することで日々の変動が確認できます。(約5~10分!)

この他、装置間の通信テストやその日の患者情報の確認等も始業前に行っています。
始業前点検には約1時間から1時間半ほどの時間を要しますが、重大な事故に繋がるエラーを未然に防ぐためには、必要不可欠であると思います。
安全で安心できる放射線治療を提供するために、私たち放射線治療に携わる診療放射線技師の大切な仕事のひとつと考え、装置管理に日々取り組んでいます。他にもまだまだ定期的に行わなければならない装置点検や精度管理等多々ありますが、その話はまた別の機会に紹介させて頂きます。

-頸動脈プラークイメージ-


MRIに携わっていると、めまいやしびれといった症状の患者さんを撮影した際に頸動脈狭窄を発見することがあります。頸動脈が狭窄するとTIA(一過性脳虚血発作)を引き起こすだけでなく、形成されたプラーク(変性、肥厚した血管の膜)が剥がれることで脳梗塞を発症すると知られています。
その為、プラークがどのような性状であるか評価することがその後の治療に重要となってきます。そこで今回は当院で行われているMRIの頸動脈プラークイメージについてご紹介します。

プラークの種類と見え方

頸動脈プラークには以下に示すように2つタイプがあります。
プラークイメージは保存的に狭窄部を観察する場合はもちろん、CEA(頸動脈内膜剥離術)やCAS(頸動脈ステント留置術)といった血行再建術による治療を考えた場合に必要となる狭窄の位置やプラークの性状を評価する際にも有効です。

プラークの種類による見え方の違い

当院のプラークイメージの特徴

当院で撮像しているプラークイメージは3つあります。

① 3D TOF MRA (3D TOF法による非造影血流画像)

血液を高信号で描出。狭窄部位を探すために用いられます。また、プラークの被膜の厚みも観察できます。画像処理でMIP画像も作成可能です。

② 3D Cube T1WI FS (3D CHESS法による脂肪抑制T1強調画像)

血管は黒、不安定なプラークは白で描出し、安定したプラークは灰~黒で描出します。
3Dで細かく撮影しているため画像処理によって様々な断面が作成可能です。

③ LAVA FLEX (3D Dixon法による脂肪抑制T1強調画像)

②とコントラストはほぼ同じですが、Dixon法と呼ばれる局所磁場不均一に強い方法を用いるため肺野が近接している腕頭動脈、鎖骨下動脈のプラークを評価するのに有効です。

以上のように、MRIでは病態に合わせて撮影方法を選択する事によって、よりわかりやすい画像を得る事ができます。その為、検査中は得られた画像を注意深く観察し、より良い画像が取得できるように努力しています。

CT画像処理の最前線


近年のCTやMRI等の検査における提供画像は、装置から得られる断層画像だけでなくその断層画像データを元に作成する3D画像の構築も一般的に行われています。(図1)
そこで今回は、従来行ってきた画像処理方法と近年の新技術について当院で実際に使用しているワークステーションの画像処理機能を例に挙げてご紹介したいと思います。

3Dってこんなに見える!

まず始めに、当院で行なっている3D処理画像の一例をお示しします。見て頂くとわかるように、空気(大腸)・血管(造影剤)・骨等あらゆる部位で3D画像が利用されています。(図2)これらの画像処理の共通点としては、各組織のCT値の違いを利用しているところにあります。(図3)

3D画像処理では、注目したいCT値以外を表示しない設定にして(=しきい値を設定して)目的の組織のみが描出されるようにします。例えば骨のみの3D表示であれば骨以外が表示されないCT値をしきい値として設定することで、そのCT値以外の物質は非表示となり骨のみが表示できます。(図4)

これぞ、3D画像作成の極意!
関節面を評価する画像処理

前述した骨と軟部組織のように、CT値の差が大きい組織同士を分離して表示するのは簡単な作業です。しかし、CT値が近い物質が隣接する場合、細かいしきい値設定を行いながら不要な組織を除去する作業が必要になり、画像作成に時間がかかることや、うまく分離できない場合もあります。(図5)

ついになくなる?職人技!?
自動分離機能の紹介

“CT値の近い物質を分離する”という難しい課題を近年新たに加わった「自動分離」機能は残したい部分をクリックするだけで解決します!(図7)
この機能を用いることにより、従来の作成方法と比べてより早く簡単に画像作成が可能になりました。

最後にこの機能が有用であった症例を一例紹介します。

新しい機能をより味方に!

自動分離機能によって、より有益な画像の提供を簡単かつ短時間に提供できるようになりました。しかしながら自動分離機能の精度は高いものの、中には上手く分離されない症例もあります。その場合はこれまでに培った画像処理技術を生かして3D画像を提供するため、やはり職人技術を磨くことも大切だと思います。
近年はCT装置だけでなく、画像処理装置等の進歩も早いと感じます。基礎的な技術と新しい技術をいち早く取り入れ、より良い画像提供が行えるように努めていきたいと思います。

X線CT認定技師 江上 桂

 

最新型のレントゲン撮影システムについて御紹介します


当院の一般撮影装置は2019年よりComputed Radiography (CR)からFlat Panel Detector (FPD)へと移行しました。
FPDと聞いても「よくわからないけど新しくなって良くなった」とか「撮ったらすぐ画像が見れる」くらいの印象しかない先生もいらっしゃるのではないかと思います。そこで今回、このFPDについて紹介したいと思います。

CRは照射されたX線の情報をImaging Plate (IP)に蓄積してそれを専用の大きな機械で読み取ることで画像化します。またIPを繰り返し使用するために蓄積した情報は一回毎に消去する必要があります。この読み取り・消去の過程で10~30秒程かかります(カセッテの大きさ、照射線量に依存)。

FPDは照射されたX線エネルギーを電気信号に変換して、その場で画像化することが可能です。
フィルムやCRと異なりFPDはそれ自体が電源を必要とする機械であり、読み取り装置を必要としない、画像をすぐに確認・転送できるという利点があります。一方で充電が必要、衝撃に弱いという特徴があります。

FPDの使用でより患者さんにやさしい検査を!

①検査時間の短縮

画像化までが短縮され、撮影毎にIPの入れ替えもないため検査時間を短縮できます。検査時間の短縮は患者さんの負担軽減、待ち時間の短縮につながり、ストレスの少ない検査を受けていただけます。

②被ばく低減

FPDはX線の感度が高く、低線量のX線で撮影することができます。