症例(歯科口腔外科より検査依頼) 2020.9月号掲載


症例 10代 男性

主訴: 左下顎の違和感、腫脹と疼痛

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:パノラマX線画像
図2:顎部CT検査 a:水平断像 軟部条件, b:水平断像 骨条件, c:矢状断像 骨条件, d:冠状断像 骨条件

解答と解説

若年男性の下顎部腫瘤の症例です。
図1では左側第二大臼歯歯根部周囲の下顎体部から下顎枝にかけて境界明瞭、辺縁平滑な多胞性透亮像が見られます(図3:黄矢印)。第二大臼歯歯根部は直線的な欠損像が見られ(図3:赤矢印)、この疾患での重要な所見となります。
図2a-2cのCT検査画像ではパノラマX線画像と同様に左下顎体部から下顎枝にかけて膨隆性骨腫瘤が見られ、骨皮質は菲薄化しています。境界明瞭で辺縁平滑な腫瘤であり図2d冠状断像で第二大臼歯歯根部に水平な骨吸収が認められます。この所見はナイフカット状の歯根部吸収と呼ばれ、エナメル上皮腫に特徴的な所見と言われています(図4)。
追加で施行されたMRI検査(図5)では上記所見と同様に左下顎体部から下顎枝を中心とした辺縁明瞭な嚢胞状構造が見られます。腫瘤内はT2強調像で高信号(図5a)、T1強調像で低信号(図5b)であり内部性状は均一です。

エナメル上皮腫は歯原性良性腫瘍の中で最も発生頻度が高く一般的な疾患です。エナメル器に類似した細胞からなり、大小の嚢胞を形成します。臨床症状は顔面腫脹が最も多く、疼痛がそれに続きます。発現年齢は20-30代の男性に多く、下顎が約80-90%で上顎に比して多く見られます。好発部位は上下顎とも臼歯から後方の顎骨内です。
画像所見は境界明瞭、辺縁平滑な単胞性、あるいは多胞性の透亮像を呈します。病変が歯槽部におよぶと歯の移動と歯根部の吸収が見られます。特に吸収面が直線的である「ナイフカット状歯根吸収」を示すことが本疾患の一番の特徴です。
病変内に埋伏した智歯を含むことが多く、含歯性嚢胞と鑑別を要する場合があります。
診断のポイントとしては
①年齢、部位(下顎後方)
②辺縁平滑、境界明瞭な透亮像
③ナイフカット状歯根部吸収
今回はエナメル上皮腫として典型例を提示致しました。

図3: パノラマX線画像 拡大
図4  a:CT画像冠状断像,    b:ナイフカット状の歯根部吸収 シェーマ
図5:MRI検査 a:T2強調像, b:T1強調像

【参考文献】豊田圭子: まるわかり頭頚部領域の画像診断. 学研メディカル秀潤社, p.734-737, 2015.