知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎 ⑧乳がんの自覚症状


乳腺外来ではどんな患者さんが来られる?

乳腺外来にはしこりなどの自覚症状を訴える方や、検診(自治体の検診、職域健診、人間ドック)等で要精密検査判定を受けた方が受診されます。
受診された患者さんは、問診、視触診、マンモグラフィー、超音波検査を受けていただきます。これらの基本検査で所見があった場合に、所見に応じてMRI検査、細胞診、生検等をご案内します。では乳がんの患者さんはどのような契機で乳腺外来を受診するのでしょうか。

乳がん患者さんの発見契機について

日本乳癌学会では2004年度から全国乳癌登録が行われています。全国の2016年度の年次集計によると、95,257名の乳がん患者さんのうち、自己発見が約半数、検診から発見されて来られるのは約3割と報告されています(図1)。
検診(検診、ドック等を含む)は本来自覚症状がない方を対象にしておりますが、検診を契機に発見される方の中で自覚症状を持ちながら検診を受ける方が少なからずいらっしゃいます。この統計では検診を契機に発見された乳がん全体(32,627名)のうち6,243名が症状がありながら検診を受けています。検診発見乳癌の約2割にのぼります。

乳癌患者さんの「自覚症状」

2006年〜2009年に当院で手術を行った乳癌患者さん235例の受診契機を調査をしました。自覚症状があったのは149例(63%)でした。
自覚症状の中では腫瘤触知が一番多く、
血性乳頭分泌 16例(10%)
乳頭陥凹 3例(2%)
乳頭びらん 1例(0.6%)と続きます。
乳房痛のみが唯一の症状である患者さんは6例(4%)でした。

乳がん検診受診者の「自覚症状」

今度は乳がん患者さんではなく、横浜市の乳がん検診受診者の問診票からみた自覚症状をみてみましょう。
平成23年度〜24年度の横浜市乳癌検診受検者は97,646名でした。検診の問診票では症状(痛み、しこり、乳頭変形、乳頭分泌、くぼみ)の有無を記載する欄があります。これらの症状のうち1つ以上を記載したのは受検者の17.1%にあたる20,092名でした。
この症状の内訳を見ますと、一番多いのが「痛み」39.3%、続いて「しこり」23.4%、「乳頭変形」20.3%、「乳頭分泌」12.7%、「くぼみ」3.5%と続きます。乳腺外来で実際にがんと診断された方と比べると、乳房の痛みを訴える患者さんが多いことがわかります。症状別に乳がんの比率を調べますと、
くぼみ 4.2%、しこり 2.8%、乳頭変形 1.0%、痛み 0.96%、乳頭分泌 0.48% でした。(平成27年日本乳癌検診学会で発表した内容からの引用)

皮膚のくぼみや、しこり(腫瘤触知)は乳がんの症状としては最も重要であることがわかります。乳頭変形や乳頭分泌の症状で乳がんの比率が意外と低いのは、おそらく陥没乳頭や乳汁分泌も統計上含まれてしまうことが一因と思われます。血性乳頭分泌や乳頭陥凹に限ると乳がんの頻度が高い症状です。これらの症状を訴える患者さんがいたら乳腺外来にご紹介いただけたらと思います。
乳房の痛みは乳癌を示唆する症状ではありません。しかし痛みを訴える受診者の乳がんの比率が意外に高いことは興味深いです。この期間の検診における無症状者も含めた乳がん発見率は0.38%ですから、それに比べると3倍近い比率になるのです。痛みは乳癌の存在とは直接関連がない症状ですが、ひょっとすると乳房痛が強いことは何らかの乳がんのリスク因子と関連があるのかもしれません。エビデンス(根拠)はないですが…..。乳房痛のみの症状でも、患者さんが気にしていらっしゃるならばご紹介いただければと思います。スクリーニングを行い、所見がなくてもその後の適切なマネジメントを患者さんにご案内いたします。

乳腺甲状腺外科担当部長 俵矢 香苗

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑦ 番外編 乳がんのサブタイプとは


乳がんと一言で言っても、様々な臨床経過をとるものがあることは皆さまご存知だと思います。例えば昨年亡くなった某元アナウンサーさんの乳がんのように、発見されてからあっという間に転移して患者さんの命を奪ってしまう乳がんもあります。その一方でしこりに気づいていながら何年も放っておいても転移を起こさず、皮膚潰瘍を作って初めて患者さんが受診するなんてことも時々起こります。その違いはなんでしょうか?
それは「サブタイプ」の違いなのです。最近の乳がんの治療においては、何をおいてもまず「サブタイプ」を知らなければ治療も始まらないくらい重要な概念です。患者さんもよく勉強していて、「サブタイプはなんですか?」と聞いてこられる患者さんも最近は少なくありません。しかしここ10年くらいで一般的になってきた概念なので、他科の先生方にとっては「何となく聞いたことあるけど。。」くらいかもしれませんね。今回はサブタイプのお話をしたいと思います 。

トリプルネガティブ乳がん?

乳がんの治療薬にタモキシフェン、アナストロゾールなどの「内分泌療法」、ハーセプチン®などの「抗HER2療法」があります。非常にざっくり言いますと現在臨床で使用しているサブタイプ分類は内分泌療法や抗HER2療法の効果がありそうか否かで4分割しています。
内分泌療法も抗HER2療法も効果が期待できない乳がんが「トリプルネガティブ乳がん」です。
エストロゲンと結合し乳がんの増殖を促す「エストロゲン受容体(ER)」の発現があれば、Luminalタイプとします。また細胞膜表面に存在するチロシンキナーゼで細胞の増殖、分化の調節に関与する「ヒト上皮増殖因子受容体ー2(HER2)」の過剰発現があるかどうかでHER2陽性、HER陰性に分類します。ER陽性の乳がんの増殖はERにエストロゲンが結合することによって惹起されます。よってER陽性の乳がんに対してはERを標的にした内分泌療法の効果が期待できます。HER2 が過剰発現しているがんにはHER2タンパクを標的とした抗HER2療法の効果が期待できます。乳がんだけではなく胃がんの一部でもHER2の過剰発現があり、最近は胃がんでも抗HER2療法が行われるようになっています。抗HER2療法は単剤よりもタキサンなどの抗がん剤と併用すると抗腫瘍効果が高まるので通常化学療法と併用療法します。トリプルネガティブ乳がんに対しては化学療法が薬物療法の決め手となります。

 

Luminal Aタイプ、Bタイプ

ER陽性乳がんならば必ず内分泌療法が効くのかと言われると、そう簡単ではありません。実際に治療してみると思ったほど効果がないこともあります。一方で非常によく治療が効いて遠隔転移のある状態ながら5年以上元気でいられるような乳がんも珍しくはありません。そのような乳がんの中にはLuminalタイプがよくみられます。

同じLuminalタイプの中でも様々な臨床経過を取るものがあります。内分泌療法がよく効いてゆっくり進行するLuminal Aと、そうではないLuminal Bタイプにさらに分けて考えます。臨床的にはER,PgRの両方が高発現していてかつHER2陰性、核異型が軽度(Grade1)、細胞増殖マーカーであるKi67の発現が軽度という条件の全てを満たす場合をLuminal Aタイプと定義しています。臨床的特徴として比較的増殖がゆっくりで予後が良いことが挙げられます。
また内分泌療法の感受性は高いが化学療法の感腫瘍細胞の核内には高くないく、比較的晩期再発が多く、再発してからの生存期間は長い傾向にあります。遠隔転移の治療をしながら5年以上元気でいられたり、術後20年以上経って再発するような患者さんを乳がんでは時々経験しますが、このような乳がんのほとんどLuminal Aタイプです。
しかしER陽性でも内分泌治療が奏功せずあっという間に進行してしまうことも度々あります。このような乳がんはLuminal Bタイプに含まれます。昨年亡くなられた某元アナウンサーさんの乳がんもおそらこのタイプのがんであったと推測します。
Luminal B は Luminal A以外というのが定義で、AとBの間にはっきり線を引けるわけではなく連続的なものです。現在使用されている定義も流動的です。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑥ マンモグラフィーの弱点を補うために


マンモグラフィーは「高濃度乳房に弱い」という話題を第2回、第5回で取り上げました。高濃度乳房では背景乳腺がマンモグラフィー上高濃度につまり白く描出されるため、やはり白く描出される乳がんが隠れてしまいやすいのです。アメリカのコネチカット州では健診マンモグラフィで高濃度の場合はそのことを受診者に知らせるべきあるとの法律が策定されました。日本でも患者団体からの同様の要望書が厚生労働省に提出されています。任意型の健診ではすでに乳腺濃度を結果説明の際に受診者に知らせる試みが広がっています。乳房構成が高濃度であると、マンモグラフィで乳がんが見つかりにくいことを知らせ、他のモダリティの検査の受診を勧めることが目的です。
昨年の春より当院の乳がんドックでもマンモグラフィの乳房の構成を受診者に知らせることにしています。

乳がんドック報告書(抜粋)

超音波検査について

マンモグラフィーのこの弱点を克服するための方法としては、前回取り上げたトモシンセシス撮影(断層撮影)が有用です。そのほかには超音波検査も有用です。
超音波検査で使用するプローブは生体内に「超音波」を発射します。発射された超音波は生体内の組織で一部反射し、一部透過します。反射波(エコー)はプローブに戻ってきます。エコーの強さの情報をグレースケールに振り分けて輝度変調し、エコーが戻ってくるまでの時間を距離に変換して画像表示したものが超音波検査です。超音波プローブの中には超音波を発射する圧電素子が横並びしており、横方向に順次超音波を発生させることで「Bモード画像」が出来上がります。

生体内の組織によって音響インピーダンスが異なっており、組織間の音響インピーダンスの差が大きいほど超音波の反射が大きく、差が小さければ音波はほとんど透過します。腸管内ガスや骨は超音波をほとんど反射してしまうので、検査では真っ白に見え、ガスや骨の後方は何も見えません。水は超音波をほとんど透過しますので、膀胱に溜まった尿や血管内の血液は超音波検査では真っ黒に均一に描出されるのです。

超音波の波長より十分に小さい境界の集合体(不均質な組織)では音波はあらゆる方向に散乱します。このうちプローブに帰る方向への散乱を「後方散乱」と呼びます。後方散乱は病変の「内部エコー」の違いに関与しています。病変の中に音響インピーダンスの異なる組織が混在する場合や、網目構造、乳頭状構造がある場合は、後方散乱が強く起こるため内部エコーは高く、つまり白っぽく描出されます。病変の内部に均一な腫瘍細胞がぎっしり詰まっているような場合は内部エコーは低く、つまり黒っぽくなります。

乳がんUS

乳房構成の違いと正常乳腺の超音波画像

乳がんの中でも、腫瘍細胞が均一に増殖する充実腺管がんや髄様がん、腫瘍内部に線維成分の増生が強い硬がんは超音波画像では内部エコーレベルが低エコーで黒っぽく見えます。内部に細かい隔壁構造があり粘液の中に腫瘍細胞がまばらに存在する粘液がんや、乳頭状の構造をとる乳頭腺管がんは、比較的エコーレベルが高くなります。これらのがんが、脂肪性の乳腺の中にできると、マンモグラフィでは見逃すことはまずないですが、超音波検査では腫瘍と正常乳腺のコントラストが小さいためうっかりすると見落としてしまいます。

一般に超音波は若年者に多い高濃度乳房が得意で、マンモグラフィーは高齢者になると多い脂肪性乳腺が得意と言えます。精密検査を行う乳腺外来では両方とも行います。検診はマンモグラフィーが基本です。しかし高濃度乳房が多く、乳がんの罹患率も高めの40代の健診に超音波検査をどのように取り入れることができるか、検討されつつあります。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑤ マンモグラフィーの弱点


マンモグラフィーの弱点

第2回で高濃度乳腺を、第4回ではFAD(局所性非対称陰影)についてとりあげました。マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手です。マンモグラフィでは乳腺実質は白く描出されますが、腫瘍も白く描出されるため高濃度、不均一高濃度乳腺では病変がはっきり認識できないことがあります。

マンモグラフィで「がん」がどの程度描出されるのでしょうか。宮城県は全国にさきがけてがん登録を行っている数少ない自治体のひとつです。その宮城県では検診発見乳がんと中間期乳がんを合わせた解析を行い、マンモグラフィの感度を算出しています。(グラフ)

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乳腺の構成別にみると、脂肪性乳腺では感度91%であるのに対し、高濃度乳腺で51%にとどまります。40歳代ではマンモグラフィの感度は59%でした。60歳代の81%と比較するとかなり低いことがわかります。若年であるほど高濃度、不均一高濃度乳腺の割合が多いためと推察されています。

マンモグラフィーの弱点はどう克服する?

トモシンセシス撮影

マンモグラフィーの断層撮影のような画像を得ることができ、乳腺の重なりの影響を排除できます。当院では2015年3月より乳腺外来診療に、2016年4月より人間ドック部門の健診にトモシンセシスを導入しています。

超音波検査

40歳代女性に対する乳がん検診においてマンモグラフィを行う群とマンモグラフィに超音波 を加えた群の検診成績を比較し乳房超音波検査の有効性を検証するランダム化比較試験(J−START)の結果が昨年発表されました。マンモグラフィ群0.33%の乳がん発見率に対し超音波を加えた群では0.50%で、乳がん発見率が改善したと報告されています。

従来法とトモシンセシス

トモシンセシスは紙芝居のように、コマ送りの動画で読影するため、紙面で再現するのは難しいのですが、マンモの「やぶにらみ」を減らすには有効な手段と考えております。

従来法とトモシンセシス
従来法とトモシンセシス
写真1 不均一高濃度の背景乳腺
写真1 不均一高濃度の背景乳腺 左MLO 黄色で囲った部分に病変があります
写真2 従来法とトモシンセシス
写真2 従来法とトモシンセシス 従来法のマンモでは石灰化しか描出されません。トモシンセシスでは石灰化の背景にある腫瘤まで明瞭に描出されています
写真3 乳腺散在の背景乳腺 写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です
写真3 乳腺散在の背景乳腺
写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です

マンモグラフィ専用ビューワー

マンモグラフィは乳腺を折りたたんで撮影するので、マンモグラフィに描出されている病変が乳房のどの辺りに位置するかを推定することは、意外に難しいものです。当院で採用しているマンモグラフィ専用ビューワーMammodite®(Netcamsystems)には、病変の位置推定機能があり、簡便に気になった病変の位置を推定することができます。(図1)

図1 Mammodite®(Netcamsystems)
図1 Mammodite®(Netcamsystems)

超音波検査を行う際、超音波検査技師がマンモグラフィ読影結果を参照して病変位置を推定しながら検査を行うとより正確な診断にたどり着くことができます。検査方法の特徴を知って、うまく組み合わせることが肝要です。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗

 

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎④


局所的非対称性陰影(Focal Asymmetric Density:FAD)って何?

さて、この連載もおかげさまで第4回となりました。前回は石灰化についてとりあげました。今回は「局所的非対称性陰影」についてとりあげます。FADと略語で呼ばれることもあります。マンモグラフィ独特の所見用語で、耳慣れない用語かもしれませんが、マンモ業界では「腫瘤」「石灰化」とともに非常によく出てくる用語です。
右は横浜市乳がん検診票です。ご覧になったことがありますか?
マンモ独特の用語ですがある意味マンモグラフィ読影の特徴を表している用語だと思います。

図2

高濃度乳腺にできた乳がんは雪のなかの白うさぎ。白うさぎいる??=FAD

連載第2回目に高濃度乳腺をとりあげました。乳房は脂肪、結合組織、乳腺組織から成ります。乳腺組織は乳汁を生産する組織で、加齢とともに萎縮します。乳腺組織は、マンモグラフィ上白く描出されます。若い方や授乳経験の少ない方は乳房全体が白っぽく描出され、ご高齢の方や授乳経験の多い方は乳房全体が黒っぽく描出されます。X線吸収係数が大きい組織ほど白く、小さい組織ほど黒く描出されます。乳がんの係数は0.85 に対し乳腺組織0.80,脂肪組織0.45です。若い方の高濃度乳腺はほとんど脂肪を含まないので、このような乳房に乳がんができると背景乳腺との色の差が少なく非常に見えづらくなります。

図3

図4

症例1

下の症例は比較的濃度の高い背景にできた乳がんがあります。赤点線ががんの範囲です。超音波検査でみると3.5cmの腫瘤でした。背景乳腺が高いがために「腫瘤が隠れていそうだけど本当に??そうなの??」 こんなとき局所的非対称性陰影という所見用語をつかいます。

図5

図6

症例2

この症例は背景乳腺はそれほど高濃度でないが、がんが小さいためにはっきりとした腫瘤に見えない。でもなにか隠れていそう=「局所的非対称性陰影」とされた症例です。
切除検体のMMGでは乳腺の重なりの影響が排除されがんの存在がはっきり見えます。

図7

症例3

白っぽく見えてなにか隠れていそう?精査すると何も病変はなく正常乳腺でした。
乳房を折りたたんで撮影するので、乳腺がたくさん重なって撮影された部分は正常でも白っぽく浮かび上がって見えます。病変が隠れていそうだけど実は正常乳腺の重なり=これも「局所的非対称性陰影 FAD」と表現します。

図8

乳腺と病変の違いは非常にわずか・・

乳腺と病変のX線吸収の違いは非常にわずかです。そこを目一杯強調して検出するのがマンモグラフィです。マンモグラフィの読影は雪の中で白うさぎを探す、ジャングルの中で迷彩の兵隊さんを探す、闇の中で黒子をさがすようなものです。よく見えなくて確信できないけどなんか怪しい=「局所的非対称性陰影=FAD」です。
高濃度の若い人の乳腺では悪性病変があっても腫瘤として認識できず局所的非対称性陰影としてしか認識できないことも多いです。
局所的非対称性陰影の多くは正常乳腺の重なりですが、病変が隠れていることもあるので精査の対象となります。他に悪性病変を疑う所見が一緒にあれば病変の存在する確率が高くなります。

図10

知っているようで知らない マンモグラフィの基礎③


石灰化=がん それは間違いです!!

マンモグラフィーでよくみかける石灰化。石灰化があると必ずがんが隠れているのでしょうか??今回は、知っているようで知らない「石灰化」を掘り下げてみようと思います。

「石灰化」とは文字通り組織にカルシウムが沈着してできた構造物です。マンモグラフィーにうつっている石灰化それ自体は結晶化したカルシウムです。がんに関連する石灰化であってもそれは同じです。どうも石灰化という用語が一人歩きしていて、一般の患者さんのなかには石灰化=がんだと思い込んでしまっているかたもよくいらっしゃいます。もちろん石灰化=がん細胞が描出されているのではありません。石灰化、つまりカルシウムの結晶がどのような機序で生成され、その周囲がどんな構造かが問題なのです。それは良性のこともあるし悪性のこともあるのです。

石灰化はみつけるのは簡単! みつけたあとの良悪性の鑑別診断が重要

マンモグラフィ上には、皮膚、乳腺、乳腺周囲の結合組織、脂肪組織等が描出されています。それぞれの組織ごとにX線吸収度が異なりその違いがマンモグラフィーでは白〜黒のグラデーションで表現されます。乳がんのX線吸収係数は0.85cm-1/20keVです。それに対し正常の乳腺組織は0.80、脂肪組織は0.45、微小石灰化は12.5です。背景乳腺が高濃度乳腺であっても脂肪性乳腺であっても石灰化をマンモグラフィー上で見つけることは比較的簡単なのです。前回背景乳腺濃度のお話しをしました。背景乳腺が高濃度だと、がんがあっても腫瘍そのものが視認しにくいことがあるのですが、そんな場合でも石灰化はよく見えます。高濃度乳腺や不均一高濃度の乳腺ではがんの本体は見えなくても石灰化のみが見えてがんが見つかることもしばしばあります。
しかし石灰化は数からいうと良性変化に伴うものが圧倒的多数で、がんに伴うものは一部です。ほとんどのマンモグラフィーでなんらかの石灰化がうつっています。全く石灰化のうつっていないマンモグラフィーを探す方が難しいくらいです。石灰化は見つけることよりも、鑑別診断がキモなのです!!

良悪性の鑑別のポイント1  大きい石灰化(短径5mm以上のもの)はまず良性

図2

良悪性の鑑別のポイント2  ミリ単位の微小石灰化は良悪性の鑑別が必要

乳がんに関連する石灰化のほとんどは、乳管内のがんに生じます。乳管内のがんに起こる石灰化の生成機序は大きく分けて2通りあります。一つは乳管内に生じたがん細胞が増殖した結果、乳管の中心部で腫瘍壊死が起こり、壊死組織に石灰が沈着する「壊死型石灰化」です。壊死型石灰化=がんの石灰化と考えてよいです。もう一つは、乳管の管腔や篩状構造をとったがんのなかの管腔構造の中に石灰分を含んだ分泌物が貯留し、その分泌物の中に石灰の結晶が析出する「分泌型石灰化」です。

壊死型石灰化=乳管内を埋め尽くしたがんの中心が壊死してその内部にできる。

図4

分泌型石灰化=乳管内の分泌物に石灰の結晶が析出

図6

良悪性の鑑別のポイント3  規則性をもった分布は乳がんの可能性が高い

図7

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎②


Are you DENSE? 〜マンモグラフィーが不得意な乳房とは〜

Dense Breast という言葉 ご存知ですか?日本語でいうと「高濃度乳腺」といいます。マンモグラフィーが真っ白にうつる乳腺をこう呼んでいます。高濃度乳腺の中では、腫瘍があっても判別しづらく、ときにマンモグラフィ検査での「見逃し」の原因となります。

米国では一般向けに自分の乳腺濃度を知って、適切な健診を受けることを啓発するサイトもあります。

http://www.areyoudense.org

図1

Dense Breast 高濃度乳腺とは?

乳房は乳腺実質と脂肪組織で構成されます。マンモグラフィの読影に際して乳房内の乳腺実質と脂肪組織の混在する程度(乳房の構成)を評価します。乳房の構成は脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度に分類されます。

乳腺実質内にほとんど脂肪の混在がない乳房を高濃度乳腺と呼びます(=Dense Breast)

高齢、授乳経験が多いほど乳腺の萎縮が進み脂肪組織が多くなり乳房全体が黒っぽくうつります。若年、授乳経験なし、エストロゲン補充療法をしている女性は乳腺の萎縮が軽度でマンモでは乳房全体が白っぽくうつります。

図2

乳がんは高濃度(白く)描出される。背景が高濃度乳腺だと認識しづらい

図3
乳腺散在の乳腺です。やはり左上に腫瘤があります。こちらは腫瘤の存在がよく見えます。不均一高濃度の乳腺です。左上に腫瘤の端が見えていますが、大部分は背景乳腺に隠れています。
乳腺散在の乳腺です。 やはり左上に腫瘤があります。 こちらは腫瘤の存在がよく見えます。
乳腺散在の乳腺です。
やはり左上に腫瘤があります。
こちらは腫瘤の存在がよく見えます。

マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手

高濃度乳腺では散在性や脂肪性乳腺に比べてマンモグラフィで病変が認識しづらいことがあります。乳腺外来では超音波検査や乳房MRI検査など他の検査方法を追加して、病変の見落としを防ぎます。横浜市乳がん検診のような「対策型検診」では50歳代以上の受検者に対してはMLO1方向撮影ですが、高濃度乳腺の多い40歳代の受検者に対してはMLO,CCの2方向撮影を行うことでカバーしています。

マンモグラフィの弱点を補完する トモシンセシス撮影

X線管球を回転させて多方向からマンモグラフィーを撮影。乳腺の断層像を再構成する技術。1乳房につき30-60スライスの断層像で表示します。高濃度乳腺の重なりを排除でき病変を認識しやすくなります。また高濃度乳腺に隠された病変の辺縁もより詳細に読影できます。

図5

当院では平成27年3月末よりトモシンセシス撮影のできるマンモグラフィ機器が稼働しています。

右図はノルウエーのオスロで行われた検診における臨床研究です。従来撮影法(2D)にトモシンセシス撮影(3D)を追加したところ(右図赤いバー)、乳腺濃度が高い群でも浸潤がんの発見率が向上するという結果でした。トモシンセシスの検診への応用も期待されます。
:Radiology267:47-56,2013より改変引用

マンモグラフィ検診で高濃度乳腺と評価されたら?

精密検査不要の判定でも人間ドックなどの機会に超音波検査も追加してみるとよいでしょう。ただし高濃度乳腺だから乳がんに罹りやすいわけではありませんから心配はいりませんし急ぐ必要はないです。あくまで何かの機会にというスタンスで。ですがしこりなどの症状の自覚がある場合は早めに乳腺外来に受診しましょう。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎①


マンモグラフィーをどのように撮影するかご存知ですか?

乳房を圧迫板で薄くぴんとのばして「耐えられる最大限の圧迫」を加えて撮影します。日本人女性の場合120ニュートン(kg.m/s2) 程度の圧で撮影されることが多いです。
できるだけ薄くのばすことで少ない被曝量で解像度、コントラストに優れたよい画像を撮影することができます。
「苦痛が少なく」かつ「画質のよい写真を撮影」することは撮影技師の腕の見せ所です。

標準的撮影方法
斜めに乳房を圧迫する内外斜方向(Mediolateral Oblique:MLO)撮影と、水平に圧迫する頭尾方向(Cranio-Caudal:CC)撮影があります。

MLO撮影は一方向で乳腺組織全体を最も広く描出できる撮影方法です。特に乳腺組織量が多い乳房の上外側の深部組織がよく描出されます。
横浜市も含め多くの自治体による対策型検診では50歳以上の女性にはMLO一方向撮影で検診が行われています。

図1

マンモグラフィーには何がうつっているのでしょう?

図2

すべての乳がんがマンモグラフィでみえる?!わけではない

図3

図5

マンモグラフィの撮影範囲に入らなければ、がんがあっても描出されません。
乳房の内側は乳房組織や脂肪組織が薄く、腫瘤ができると触知しやすい部位でもあるのです。乳房触診を行う際には、この部位に腫瘍がないかも意識してみていただけるとありがたいです。

撮影体位図は医学書院 マンモグラフィガイドライン第3版 p8-9図より引用

症例は当院手術症例より