今月の症例(2018年5月Rad@Home掲載分)


問題:68歳、女性。3週間ほど前から時々咳や痰がらみあった。既往歴に喘息あり。WBC9900/µL(Lympho15.6%,Mono4.3%,Eosino36.4%,Baso0.2%)

解答と解説

A単純写真:両上肺野に非区域性に広がるコンソリデーションを認めます。
B胸部CT:両肺上葉に非区域性にコンソリデーションとスリガラス影を認めます。

慢性好酸球性肺炎は、主に好酸球からなる炎症性浸潤により肺胞腔内が広範囲に充填されることを特徴とする病態です。好酸球性肺炎として最も多くみられる病型で、2週間以上の経過をとるものを言います。一般に中年の女性で、喘息などのアレルギー疾患がもともとあることが多く、本症例のようにほとんどの場合BAL液や末梢血で好酸球数が増加しています。しばしば、発熱や体重減少と倦怠感を伴うことがありますが、致命的な呼吸障害をきたすことは稀です。
画像的には単純X線写真では、末梢優位の非区域性に広がるコンソリデーションを特徴とします。この所見は、末梢側が比較的保たれる肺胞性肺水腫の単純X線写真との比較から“the photographic negative of pulmonary edema pattern’’と言われます。CTにおける典型的所見は、上中肺野の末梢優位に広がる両側性ないし片側性のコンソリデーションとすりガラス影で、無治療で遷延した症例や吸収過程においては、胸膜に平行な線状・板状影が見られます。特発性器質化肺炎と画像所見が類似しますが、小葉間隔壁の肥厚は慢性好酸球性肺炎の方が見られ、結節や病変の気道周囲分布は特発性器質化肺炎に見られます。
治療としては、ステロイドが非常に良く効きます。中等度のステロイドを数ヶ月使用しますが、中止すると、しばしば再燃します。
【参考文献】・肺HRCT  原書4版 丸善出版
・肺感染症のすべてー臨床、病理、画像を学ぶー  画像診断 Vol.36 No.3 2016
・画像からせまる呼吸器感染症          画像診断 Vol.33 No.12 2013

解答:慢性好酸球性肺炎

今月の症例(R@H 2018年3月号掲載)


問題: 80歳、女性。トイレから戻り布団に入ろうとしたら、突然両肩に激痛が走った。左肩の痛みが継続するため救急要請。
下の画像から想定される疾患はなんでしょうか?



解答:脊椎硬膜外血腫

A,B 脊柱管内左背側に凸レンズ上の高濃度像が認められており、新鮮な硬膜外血腫と考えます。
脊椎硬膜外血腫は原因・誘因が明らかでない特発性のほか、背部外傷、凝固異常(抗血小板薬や抗凝固薬の使用など)、外科手術後、出血傾向のある患者に脊椎・硬膜外麻酔をした後、血管異常(動静脈奇形)などに関連して生じますが、約半数は原因不明です。本症例も特発性でした。特発性脊椎硬膜外血腫は、脊柱管占拠性病変の約1%を占める比較的稀な疾患です。年齢は15~20歳と60~70歳代の二峰性のピークがあり、男女比は1.4:1 でやや男性に多いとされています。
本症例のもっとも特徴ある症状は、血腫部位から後頚部~肩や肩甲骨~上腕に放散する突然の激痛であり、血腫の拡大、伸展とともに数時間以内に運動障害、感覚障害、膀胱直腸障害などが生じ、発症から平均3時間程度で症状が完成すると言われていますが、実際には疼痛や麻痺の程度や分布は様々です。
治療については、症状が軽微な例や改善傾向にある例は保存的治療、症状が重篤な例や悪化傾向にある例では外科的治療を行うといった報告のものが多いですが、具体的な神経症状の重症度や神経症状が改善するかどうかを見極めるために必要な経過観察の時間については未だコンセンサスが得られていないのが現状です。
CTでは、急性期の脊椎硬膜外血腫は髄液よりも高吸収を呈する紡錘状・三日月状の硬膜外占拠性病変として描出されますが、病変が小さいため、積極的に疑って脊柱管内をチェックしなければ、しばしば見逃される疾患です。脊椎MRがより有用とされていますが、血腫の信号は時期により異なるため、発症時期と併せた読影が必要とされます。(文:放射線科医師 大森)

【参考文献】
・わかる!役立つ!消化管の画像診断 秀潤社
・すぐ役立つ救急のCT・MRI など 秀潤社 など

今月の症例 (「R@H」2018年1月号掲載)


問題:81歳、男性。腹痛、嘔吐、下痢あり 。

下の画像から想定される疾患はなんでしょうか?



解答:腸重積

A:横行結腸に拡張した腸管を認め、その内部には周囲に血管(→)と脂肪組織(→)を伴った上行結腸(→)が陥入しています。壁の造影効果は保たれており、明らかな虚血を疑う所見は指摘できません。
B,C:陥入した腸管の先進部には、不均一に造影効果を示す腫瘤が認められます(○)。

腸重積は腸管の肛門側に口側の腸管が入り込んで嵌頓した状態を言い、腸管および腸間膜が絞扼し血行障害が起こり、絞扼性腸閉塞から腸管壊死となるリスクがあるため、早期の診断、加療が重要となる疾患です。小児の発症が一般的で成人発症はまれな疾患です。小児では好発部位は回腸で、多くは原因不明ですが、少数例でMeckel憩室やポリープなどの器質的要因が認められることがあります。成人では消化管腫瘍(癌、粘膜下腫瘍、悪性腫瘍、ポリープなど)が腸管の蠕動運動によって肛門側へ引き込まれることが原因となっていることが多く、嵌入部位は様々です。小児の場合には症状と触診によって診断がついてしまうことが多いですが、成人の場合、症状は非特異的で、他の急性腹症との臨床的な鑑別は困難であることが多いです。画像診断に関しては超音波検査では重複した腸管が横断面で的のように見えるtarget sign、長軸方向で腎臓のように見えるpseudo-kidney signが知られています。CTでは超音波検査と同様に、重複した腸管が層状構造として描出され、嵌入部に腸間膜の血管や脂肪が認められます。小児では注腸造影や高圧浣腸による非観血的整復法で整復されることが多いですが、成人では腫瘍が原因となっていることが多く、開腹手術が原則であるため、重積先進部に注意する必要があります。本症例でも開腹手術が施行され、病理で横行結腸癌と診断されています。(文:放射線科医師 大森)

【参考文献】
・わかる!役立つ!消化管の画像診断 秀潤社
・すぐ役立つ救急のCT・MRI など 秀潤社 など