症例(Rad@Home2018年9月号掲載分)


問題:56歳、女性.健診の胸部単純写真で異常陰影指摘.
A:単純写真、B:単純CT(縦隔条件)、C, D:単純CT(肺野条件)
(BとCは同じスライス面で、DはBおよびCの25mm頭側)

下の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

解答:気管支閉鎖症

単純写真(図A)では、右上肺野に棍棒状の陰影(赤矢印)を認め、右肺尖部の透過性が亢進しています。単純CT(図B, 図C)では、右肺上葉に粘液栓と考えられる樹枝状の高吸収域を認め(赤矢印)、末梢の右肺尖部の透過性が亢進しています(図D)。仮想内視鏡で観察(図E→Hの順で右B1亜区域気管支を中枢側から末梢側へ追跡)すると、粘液栓で閉鎖している気管支の起始部が認められ(緑矢印)、これを末梢側へ追跡しても気管支が閉鎖しているために内腔の観察ができない(黄矢印)ことがわかります。

比較的稀な先天奇形で、通常は1つの区域~亜区域気管支の限局的な先天的閉塞・狭窄がみられます1)。左肺上葉の後区域枝(B1+2)が最多で、右上葉や中葉がこれに続きます2)。成因として、1)気管支に複数の気管支芽増殖細胞の島があり、それの一部が結合されないとする説、2)胎児期に気管支壁の動脈虚血により2次的に狭窄・閉塞が起こるとする説が考えられています3)。今回のケースのように無症状で発見されることが多いですが、咳、繰り返す肺炎、呼吸苦などを呈することがあります。
画像所見のポイントは、球状・樹枝状の粘液栓が気道内に認められ、閉塞部位を特定することです。また、末梢の肺胞ではKohn孔が開存しているため、粘液栓周囲の肺実質は過膨張をきたし、肺野の透過性が亢進します4)。本症例はこれらの所見が認められ、典型例と考えられます。Thin-slice CTで気管支閉塞が描出できれば、必ずしも病理学的診断は必要ありません4)。

放射線科医師 淺田

参考文献
1) Ward S, Morcos SK: Congenital bronchial atresia; presentation of three cases and a pictorial review. Clin Radiol 54: 144-148, 1999.
2) 村田喜代史,上田 剛,村山貞之:胸部のCT 第3版,p.715-716, 2011.
3) Fraser Rs, Muller NL, Colman N, et al: Fraser and Pare’s diagnosis of diseases of the chest. 4th ed, WB Saunders, Philadelphia, 1999.
4) 佐々木智章,高橋康二:気道と肺の正常変異および先天異常.画像診断 35: 315-327, 2015.