今月の症例(R@H 2018年3月号掲載)


問題: 80歳、女性。トイレから戻り布団に入ろうとしたら、突然両肩に激痛が走った。左肩の痛みが継続するため救急要請。
下の画像から想定される疾患はなんでしょうか?



解答:脊椎硬膜外血腫

A,B 脊柱管内左背側に凸レンズ上の高濃度像が認められており、新鮮な硬膜外血腫と考えます。
脊椎硬膜外血腫は原因・誘因が明らかでない特発性のほか、背部外傷、凝固異常(抗血小板薬や抗凝固薬の使用など)、外科手術後、出血傾向のある患者に脊椎・硬膜外麻酔をした後、血管異常(動静脈奇形)などに関連して生じますが、約半数は原因不明です。本症例も特発性でした。特発性脊椎硬膜外血腫は、脊柱管占拠性病変の約1%を占める比較的稀な疾患です。年齢は15~20歳と60~70歳代の二峰性のピークがあり、男女比は1.4:1 でやや男性に多いとされています。
本症例のもっとも特徴ある症状は、血腫部位から後頚部~肩や肩甲骨~上腕に放散する突然の激痛であり、血腫の拡大、伸展とともに数時間以内に運動障害、感覚障害、膀胱直腸障害などが生じ、発症から平均3時間程度で症状が完成すると言われていますが、実際には疼痛や麻痺の程度や分布は様々です。
治療については、症状が軽微な例や改善傾向にある例は保存的治療、症状が重篤な例や悪化傾向にある例では外科的治療を行うといった報告のものが多いですが、具体的な神経症状の重症度や神経症状が改善するかどうかを見極めるために必要な経過観察の時間については未だコンセンサスが得られていないのが現状です。
CTでは、急性期の脊椎硬膜外血腫は髄液よりも高吸収を呈する紡錘状・三日月状の硬膜外占拠性病変として描出されますが、病変が小さいため、積極的に疑って脊柱管内をチェックしなければ、しばしば見逃される疾患です。脊椎MRがより有用とされていますが、血腫の信号は時期により異なるため、発症時期と併せた読影が必要とされます。(文:放射線科医師 大森)

【参考文献】
・わかる!役立つ!消化管の画像診断 秀潤社
・すぐ役立つ救急のCT・MRI など 秀潤社 など