今月の症例(2022年12月号掲載)


問題:90代 女性   主訴:昼食後からの右下腹部痛 下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純・造影CT検査
a:単純CT検査 水平断像 胆嚢下部  b:造影CT検査 水平断像 胆嚢上部
c:造影CT検査 水平断像 胆嚢中部  d:造影CT検査 水平断像 胆嚢下部

図2:造影CT検査 胆嚢の冠状断像
a:冠状断像① b:冠状断像②(aよりも背側)

図3:Magnetic resonance cholangiopancreatography (MRCP) 検査
a:T2 Weighted Imaging (WI) 冠状断像 b:MRCP maximum intensity projection (MIP)
c:T2WI冠状断像(aより背側)    d:Fat Saturation(FS:脂肪抑制)T1WI

解答と解説

解答:胆嚢捻転

図4:単純・造影CT検査
a:造影CT検査 冠状断像
b:単純CT検査 水平断像 胆嚢下部
c:造影CT検査 水平断像 胆嚢下部

図5:MRCP検査
a:T2WI b:MRCP MIP  c:T2WI冠状断像(aより背側)  d:FST1WI

図6:遊離胆嚢のGross分類

図7:画像と対比した胆嚢捻転のシェーマ
a:T2WI冠状断像 b:胆嚢捻転のシェーマ像

90代女性で急性発症の腹痛の症例です。
CT検査画像では、図4aで腫大した胆嚢が認められます(緑矢印→)。胆嚢頚部は肥厚しています(橙矢印→)。図4bでは胆嚢壁の一部が高吸収となっており、壁内の微小出血などを反映した所見と考えられます(黄矢印→)。
図4c では同部位の壁構造や造影効果はやや不明瞭です(青矢印→)。
MRCP 検査では図5aで胆嚢内腔がくちばし状に変形しており、図5b で胆嚢管の構造ははっきりしません(共に青矢印→)。
図5cでは頚部は T2WI で低信号となり渦巻き状にも見えます(黄矢印→)。また、胆嚢は肝臓と離れて存在しています。
図5d では、単純 CT 検査で見られた高吸収域(図4b)に一致して高信号域(橙矢印→)が見られます。FS T1WI で高信号であり、CT検査所見と合わせて胆嚢壁内出血として矛盾しない像と考えます。
胆嚢腫大、壁内出血や頚部の肥厚と渦巻き状所見より、胆嚢捻転を疑いました。
その後、手術となりました。術中では肝床部から完全に遊離した胆嚢が360°捻転しており、胆嚢捻転と診断されています。

胆嚢捻転は先天的要因として遊離胆嚢と呼ばれる状態に亀背や側弯、るい痩、打撲など物理的要因が加わることで発症します。
高齢女性に多く、急性発症の右季肋部痛で腫瘤様構造を触知することも多いとされています1)。
遊離胆嚢とは胆嚢が肝床部に付着せず離れて存在する状態を指し、Grossの分類(図6)が知られています2)。Ⅰ型は胆嚢と胆嚢管が間膜で肝下面と連結しているものでⅡ型は胆嚢管のみが間膜で肝下面に連結しているものと分類されています。Ⅰ型は不完全な捻転が多く、Ⅱ型は本症例のように、180°以上捻転する完全型が多いとされます。ただし、間膜は画像上同定できず画像からGross分類を判別することは困難です。
胆嚢捻転の画像所見は 胆嚢壁肥厚や腫大、偏位がみられ、さらに胆嚢頚部の渦巻き像 (whirl sign) が見られれば診断の重要な所見となります(図7) 3)。その他、胆嚢管の途絶や胆嚢壁の虚血性変化も胆嚢捻転を示唆する所見となります。
捻転の程度により静脈のみが閉塞し、胆嚢のうっ血所見が中心となることもあるため、超音波検査などで動脈の血流が残存していても注意が必要です。
この症例のように特徴的な画像所見であれば診断が可能ですが、一般的には術前診断が可能な例は約10%とされ診断に苦慮する場合もあります4)。

症例のポイント
① 高齢女性の急性腹症
② 遊離胆嚢
③ 胆嚢頚部の渦巻き状所見 (whirl sign) 、胆嚢管の途絶、胆嚢腫大や偏位
④ 一般的な術前診断が可能な例は約10%

胆嚢捻転の症例でした。

【参考文献】
1)山下 康行ら: 肝胆膵の画像診断-CT・MRIを中心に- 改訂第2版. 秀潤社, p.516-517, 2022.
2)Gross RE. Archives of Surgery. 1936; 32:131-162
3)Tajima Y. The American Journal of Surgery. 2009; 197:9-10
4)Baig Z, Ljubojevic V, Christian F. Internal journal of Surgery Case Reports. 1936; 32:131-162

造影剤なしで冠動脈をみる フィエスタFIESTAとは?


造影剤なし!冠動脈MRA

当院では冠動脈疾患が疑われる患者さんにCTにて造影剤を用いた冠動脈撮影(冠動脈CTA)を実施しています。しかし、冠動脈CTAは造影剤を使う為、腎機能が悪い方や造影剤アレルギーをお持ちの方に検査することができません。そこで造影剤を用いずに冠動脈を描出する“冠動脈MRA”がMRIでは可能です。さらに冠動脈CTAで評価が難しいとされる石灰化部も、“冠動脈MRA”では石灰化を除いて血管の評価が可能なため有効とされております。

テクニックは3つ

MRIで冠動脈を撮影するために必要となるテクニックは大きく3つあります。
・心電図同期
・呼吸同期
・高速信号収集
今回は3つ目の「高速信号収集」についてご紹介させていただきます。

“フィエスタFIESTA”が血流を描出

冠動脈MRAは常に流れている血液(撮影対象が動いている状態)を高信号で描出する為に、データ収集時間を短くする必要があります。一般的なT1強調画像やT2強調画像の撮影方法では、信号収集にかかる時間が長いため、流れている血液から信号を得ることができません。そこで“FIESTA”という撮影方法を用います。“FIESTA”は信号収集時間が極端に短いため、血流を高信号で描出することができます。T1強調画像、T2強調画像とは異なるコントラスト画像となります。

MRIでは本来、データ収集時間を短くしようとすると収集できる信号が減るため、画像の劣化を招いてしまいます。しかし“FIESTA”では、画像コントラストに影響を及ぼす通常では用いられない信号も含めた多くの信号を収集するので、一般的なT1強調画像やT2強調画像のようなコントラストにならない代わりに、短時間にも関わらず広い範囲を高画質で撮影できます。この撮影方法により良好な冠動脈の撮影が可能となります。

Case Study

狭心症の除外目的で冠動脈CTAを撮影したところ、石灰化部の評価ができなかったため、冠動脈MRAを撮影することになった症例です。左冠動脈(LAD)の走行に沿って再構成した画像を以下に示します

緊急性が高くない冠動脈検査はほとんどCTで行われております。MRIの依頼があるのは腎機能等の理由で造影剤が使用できない患者さんの場合です。どの検査も一長一短なのでCTと比較して、
・解像度が劣る(分枝の評価は難しい)
・撮影時間が長い(45分ほど)
・心電図と呼吸両方の撮影タイミングが必要(同期が合わないと撮影不可の場合もあり)
以上のような短所もあります。しかし造影剤が使えない患者さんにとって唯一ともいえる冠動脈の描出法なので、依頼があった際はより一層の責任感を持って検査に望んでおります。患者さん、先生に貢献できるように今後とも研鑽を積み続け、より良い画像をお届けしていきたいと思います。

大腸CT検診スタートから4年で見えてきたもの


大腸CT検診について

大腸CT検査は適切な前処置を行った上で肛門部にカニューレを挿入、炭酸ガスを逆行的に大腸内に注入し続けた状態で腹臥位、背臥位の2体位(必要であれば側臥位も追加して)撮影を行います。さらに撮影データは画像ワークステーション(当院ではziosoft社のziostation2を使用)にて解析・観察します。
全大腸検査のGolden Standardといわれる大腸内視鏡検査と比べて、被検者の苦痛が少なく、多種に渡る画像解析(仮想大腸展開画像①や仮想内視鏡画像②、仮想注腸画像③など)を駆使して、多角的な読影が可能です。
大腸がんは我が国で増大傾向にあり、検診分野のさらなる普及が予想されます。当院では2018年11月より大腸CT検診を開始いたしました。院内掲示や当院ウェブサイト等で募集を行ってまいりましたところ、栄区や近隣の市区以外の地域からもお申し込みをいただいております。

大腸CT検診の前処置について

当院大腸CT検診の前処置法④は、検査前日の大腸CT検査食3食に加えて、毎食後、大腸CT用バリウム(商品名;コロンフォート)を服用し、検査前夜にマグコロール散50gを400mlの水にて溶かし服用するという方法をとっています。
全大腸内視鏡検査に行うゴライテリー法(検査当日にニフレックを約2,000ml服用)に比べて受容性が高く、自宅にて安全に行うことができる前処置法であります。食後に服用する大腸CT用バリウムは解析時に、病変と残渣を区別するために、残渣に標識する目的(fecal tagging)で服用しております。多少残液が残っていても、均一に標識されていれば病変との鑑別は容易になり、読影時間が短縮できるというメリットがあります。

検査精度について

検査精度についてお示しいたします⑤。大腸CT検診は4年間で75名(ボランティア含む)の方が受検されました。受検者の内訳は、男性46名、女性29名で年齢は29才~80才(中央値60才)でした。受検者75名中、異常なしは37名(49.3%)、経過観察(1年後に大腸CTもしくは大腸内視鏡を受検推奨)が、21名(28.0%)、要精密検査対象の方が11名(要精検率9.1%)いらっしゃいました。そのうち8名の方が精密検査(大腸内視鏡検査)を当院消化器内科で施行した結果、早期大腸がんの方が1名(1.3%)いらっしゃいました。また、大腸CT検査の所見と大腸内視鏡検査の所見が一致した方が8人中6人で陽性反応的中率は75.0%でした。その一方で腸管拡張不良や前処置不良等の理由により、大腸の一部が判定不能となってしまった方も6名(8.0%)いらっしゃいしました。

今後の課題

判定不能例をさらに少なくすることが望まれます。前処置の方法を今後改善していくことになると思うのですが、受検者によって状態もまちまちであることや、受容性と腸管洗浄効果はトレードオフの関係ですので、今後慎重に検討、対応することが必要と考えます。今後も地域の皆様に良質な検診をご提供できるように研鑽してまいります。

横山

今月の症例(2022年9月号掲載)


問題:70代 男性
主訴:3ヶ月前から腰痛
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:造影CT検査
a:L3椎体レベル, b:骨条件矢状断像, c:冠状断像, d:骨条件冠状断像

図2:腰椎 MRI検査
a:脂肪抑制T1強調像, b:造影後脂肪抑制T1強調像, c:拡散強調像, d: ADCmap

図3:腰椎 MRI検査
a:T2強調像冠状断像 b:造影後脂肪抑制 T1強調像冠状断像

 

解答と解説

解答:化膿性椎体炎、椎間板炎からの左腸腰筋膿瘍

図4:造影CT検査
a:L3椎体レベル, b:骨条件矢状断像, c:冠状断像, d:骨条件冠状断像

図5: MRI 検査
a:造影後脂肪抑制 T1強調像冠状断像,b:拡散強調像, c:ADC map

図6: 化膿性椎体炎 感染の広がり

3ヶ月ほど持続した腰痛の症例です。
造影CT検査では図4a、図4c黄色矢印←部分で腸腰筋内に嚢胞状構造が認められます。内部には一部石灰化もみられます。図4b 、図4d 橙矢印←では L2椎体に破壊性変化が認められます。
MRI 検査(図2)では、上記病変は脂肪抑制 T1強調像で背側が高信号、造影後脂肪抑制 T1強調像で辺縁部が造影され、拡散強調像では背側が高信号、 ADC map では背側が信号低下しています。冠状断像(図3)では T2強調像で内部は高信号、造影後 T1強調像冠状断像では、辺縁部が造影され内部には隔壁構造も見られます。また T2強調像冠状断像では L1/2椎間板に高信号域が認められます。
図5では分かりやすいようにMRI所見にアノテーションをつけています。図5aでL1、2椎体間より連続する(黄色矢印←)嚢胞構造が腸腰筋内に見られます。内部には隔壁を伴っています(緑矢印←)。図5b拡散強調像では背側主体に高信号域が認められ、図5cのADC map では同領域の信号が低下しており、粘稠度の高い成分が存在していると考えます(橙矢印←)。腸腰筋内の嚢胞状構造は画像所見から膿瘍と考えられました。
以上の所見より、L1、2椎体を主体とした化膿性椎体炎、椎間板炎からの左腸腰筋膿瘍形成と診断しました。
CT ガイド下でドレナージを施行し黄色ブドウ球菌による感染が確認されました。その後、膿瘍腔は縮小、改善が得られました。

化膿性椎体炎は脊椎椎体及び接する椎間板の炎症であり、起炎菌は黄色ブドウ球菌が最多です。小児と中年から高齢者(50~60代)に多くみられます。好発部位は、腰椎>胸椎>頚椎の順です。原因としては、脊椎外の感染巣から生じた敗血症によることが多いとされています1)。
血管が豊富で血流の終末部に当たる終板に接する①前軟骨下層に菌が付着し、その後に②椎間板、椎体や③前縦靭帯、傍椎体軟部組織に感染が広がります(図6) 1)。その過程で腸腰筋にも膿瘍を形成します。
画像所見ですが MRI 検査では椎間板は T2強調像で高信号となり、椎間板隙の狭小化、椎体の圧潰が認められます。傍椎体領域には75%で椎体周囲に液体貯留を呈するとされており、多くは膿瘍です1)。膿瘍の診断には拡散強調像、造影 MRI 検査が有用です。拡散強調像で高信号、 ADC map で信号が低下していた場合は粘稠度の高い液体貯留であると想定できます。造影後に内部に造影効果を伴わないことが確認できれば、腫瘤性病変ではなく膿瘍が疑われます。
また、CT検査では椎体の破壊性変化の評価や膿瘍の進展範囲の評価が可能です。

鑑別は結核性脊椎椎間板炎です。化膿性椎体炎では罹患椎体は2椎体までであり、3椎体以上の椎体への進展は稀とされています。一方で結核性椎体椎間板炎は3椎体以上の椎体への進展がみられ、胸腰椎移行部が好発部位です。
また結核性では腰筋の筋膜に沿って粗大な膿瘍を形成することがあり、慢性期では内部に石灰化が生じるとされています(冷膿瘍)2)。今回症例では膿瘍は比較的大きく、内部に石灰化があったものの培養結果からは結核菌は検出されませんでした。

症例の鑑別ポイント
① 2椎体までの罹患椎体、破壊性変化
② 化膿性椎体炎は腰椎>胸椎>頚椎
③ 椎体/椎間板のみならず筋肉内も含めた傍椎体領域も評価が必要
④ 結核性は3椎体以上、胸腰椎移行部に好発、内部石灰化

化膿性椎体炎、椎間板炎と腸腰筋膿瘍の1例でした。

参考文献】
1) 柳下 章: エキスパートのための脊椎脊髄疾患のMRI 第3版. 三輪書店, p.416-425, 2015.
2) 福田 国彦:ステップアップのための骨軟部画像診断-Q&Aアプローチ-. 秀潤社, p.142-145, 2015.

今月の症例(2022.6月号掲載)


問題:80代 男性
主訴:大動脈解離の経過観察中の偶発的所見
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純CT検査副腎レベル
a:今回CT検査 副腎レベル b:4ヶ月前CT検査 副腎レベル

図2:腹部 MRI検査
a:T1WI(weighted image)opposed phase b:T1WI in phase c:T2WI
d:拡散強調像 e:ADCmap f:opposed phase 冠状断

解答と解説

解答:右副腎原発リンパ腫 B-cell lymphoma

大動脈解離の経過観察中に出現した右副腎腫瘤の症例です。
4ヶ月前のCT検査では副腎には腫瘤は見られず、短期間で出現、増大する4cm大の腫瘤(図1)であり、内部は均一で境界明瞭です。
MRI検査所見ではT1WI opposed phase 、T1WI in phaseで脂肪含有を評価します。両者は chemical shift imaging と呼ばれ、in phase と比較して opposed phase で信号が低下していた場合、脂肪が含有しているものと考えられます。今回検査では、opposed phase で信号低下なく脂肪の含有は認められませんでした。 T2WI では腫瘍は筋肉よりも高信号であり、内部は比較的均一です(図2)。
拡散強調像は細胞密度が高い病変や浮腫などで高信号になり、 ADC map ではその程度を数値化して診断することができます。 この腫瘤では、拡散強調像は辺縁部を主体とし、まだらな高信号でADC 値は一般的な基準である1.0×10-3mm2/sよりも低下していました(図3)。
以上の所見より、短期間で出現する腫瘍として副腎腺腫、褐色細胞腫は考えにくく、リンパ腫を鑑別としました。その他、転移性腫瘍や副腎癌も短期間で増大する可能性はありますが、内部が比較的均一な点、転移としては片側である点がやや非典型的です。
手術の結果、リンパ腫と診断されました。

悪性リンパ腫の中で内分泌臓器に初発する頻度は3%とされており、中でも副腎原発例は稀とされています。高齢男性に多く背部痛や季肋部痛など自覚症状を伴い、病理組織学的にはB-cell typeが多いようです1)。

副腎原発リンパ腫は一般的には約半数が両側性とされています2)。周囲への浸潤所見を呈する場合もありますが、副腎内に限局、境界明瞭な病変の場合では画像所見は非特異的となります。両側性であれば転移が、6cmを越える大きな腫瘤の場合は副腎癌も鑑別となり得ます。
今回の重要な鑑別点は拡散強調像とADCmapです。拡散強調像は水分子の動きを画像化したもので、動きが制限された水が存在すると高信号となります。ADCmapは拡散強調像を元にして作成された画像で、水運動の程度を数値化して表示することができます。具体的には拡散強調像で高信号(白)、ADCmapで低信号(黒)として表される部分は動きが制限された水≒細胞密度が高い領域や粘稠性の高い成分と考えられます。
悪性リンパ腫は細胞密度の高い病変であるため一般的にADC値は低い(0.5~0.9×10-3mm2/s)腫瘤であり3)4)、今回症例では0.5×10-3mm2/sと強い低下が見られた(図3)ためリンパ腫に合致する所見でした。ただし、その他の悪性病変でも細胞密度が高い部分ではADC値が低値となる場合もあり診断には注意が必要です。

症例の鑑別ポイント
① 短期間で増大する副腎腫瘤=良性は考えにくい
② 大きさの割に境界明瞭で比較的内部が均一な腫瘤
③ 拡散強調像で高信号、ADC値の低値

右副腎原発リンパ腫という稀な1例でした。

【参考文献】
1) 松岡 隆久. 日本消化器外科学会誌 2005; 38:509-515
2)Khaled M, et al. Radiographics 2004; 24:73-85
3)S Colagrande, L Calistri, et al. Abdominal Radiology 2018; 43:2277-2287
4) 佐藤 修. 悪性リンパ腫, リンパ増殖性疾患-特徴的画像所見と注意点- 画像診断 2019;39:1015-1027

VMAT~part2~ 検証作業


以前VMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy:強度変調回転照射法)治療をご紹介しました。
VMAT治療は通常の放射線治療に比べ、とても複雑な治療となるため、患者さんごとに正しく照射が行われているか検証作業が必要になります。主な検証作業は、線量分布検証と評価点線量検証です。今回は当院で行っている線量分布検証をご紹介します。
線量分布検証とは、治療計画で得られた線量分布と実際に治療装置で照射をおこなった際の線量分布に相違はないか確認する作業になります。

VMATはオーダーメイド

実際の前立腺治療患者さんのVMAT治療計画です。線量ごとに色分けされた分布が表示され、赤い線は治療中にガントリーが回る軌道角度です。これだけを見ると複雑さは伝わりませんが、実際はすごく緻密に計算されており、治療目的(がん)に必要な線量があたり、リスク臓器(放射線感受性の高い正常組織)にはあまり線量が入らないような分布になっています。この治療計画をファントムに置き換えて線量分布を作成し、検証作業を行います。
VMAT治療ではマルチリーフも複雑に動くので、検証ではマルチリーフがスムーズに動いているかの動作確認も行います。

どこからでも!全方位検出!!

前述のファントムに置き換えた線量分布が正しく得られるかを測定する検出器です。1386個のSunPoint半導体検出器を円筒形ファントム内にらせん状に配列した多次元検出器で、360°どのガントリ角度からも常に一貫した等方位性が得られます。
この検出器で検出された線量分布を元に検証を行います。

誤差はどれくらい?

多次元検出器(1220型ArcCHECK)で測定した結果からガンマインデックスを求めます。ガンマインデックスとは位置誤差に対する評価値DTA(Distance to Agreement)、治療計画と測定値の相対的な差異を示すDD (Dose Difference)の両方を加味した評価指標。当院では、ガンマインデックス2mm(DTA:位置の相違),3%(DD:線量の相違)で95%以上を目標としています。
実際にArcCHECKで測定した分布とヒストグラムは以下のようになり、評価基準を満たさない点の中で、線量が基準より高く検出された点が赤く表示され、低く検出された点が青で表示されます。これによりどの部分で線量にズレが生じているか確認できます。
しかし、あくまでファントムでの評価なので実際の臓器でどのような線量分布を示すかは専用のアプリケーションを使用して検証しています。それについては、また別の機会に紹介したいと思います。

北畠(智)

骨密度装置をご紹介します


当院では長年HOLOGIC社製の骨密度装置を使用してきましたが、令和4年3月よりGE社製の骨密度装置 Prodigy を導入致しました。
製造業者が異なるので、装置の入れ替えに伴い測定データを引き継げるのか懸念していましたが、無事に引き継ぐことができ前装置との測定値の比較が可能となったので一安心しています。

いちおしポイント! Prodigy の特徴

One Scanによる快適な検査

原発性骨粗鬆症のガイドラインでは腰椎と大腿骨の検査が推奨されており、一般的な骨密度装置は、腰椎と大腿骨を別々に撮影する為、その都度ポジショニングが必要となります。
Prodigy のOne Scanは最初から脚を下げて腰椎を測定し、体位変更をせずに大腿骨を測定する技術です。腰椎および大腿骨のスキャンを1度のポジショニングで測定することによりスループットが向上し、患者さんの拘束時間や負担の軽減に繋がります。以前の装置で検査歴のある患者さんや仰向けで寝るのが辛い患者さんからは「もう終わったの?」と驚かれることもあります。

新!X線照射法 スマートファンビーム方式

従来のX線照射法(Wide Angle Fan Beam:放射状にX線が通過するファンビーム)ですと、測定画像は拡大による歪みが生じやすくなります。これにより骨の位置によっては骨密度と骨面積の値に誤差が生じやすくなります。Prodigy のスマートファンビームは拡大誤差の発生を抑えた鋭角なビームで、常時体に対して垂直にX線を当てることで誤差を最小限に抑えた測定が可能です。

自動解析で精度向上、さらに検査時間短縮

個人的に1番良くなったと感じる所は、自動解析の精度が格段に向上したところです。以前の装置の自動解析はあまり精度が高くなかった為、技師が手動で骨の位置をトレースし直す必要がありました。その為、技師間の解析誤差が多少生じていたのですが、Prodigy の自動解析は精度が高く部分的な手直しのみで済むようになりました。技師間での解析誤差は減少し、再現性が高まっています。検査時間も解析に時間を要していた為、撮影~解析まで平均20分程度掛かってたところが短縮して10~15分程度になり、患者さんの待ち時間も少なくなっています。

新たな評価指標 ! TBS(Trabecular Bone Score) 測定

この結果って正しいの??

骨密度測定結果を見て、どうしてこんなに数値が高いのだろうと感じたことはないでしょうか?
骨粗鬆症の主な症状(背中や腰が曲がる・痛む、身長が縮む、骨折しやすくなる、背中や腰が痛むなど)があり骨密度測定をしたところ、測定結果が正常範囲や20歳代と同等またはそれ以上に高くなる場合があります。当院でもこのようなケースがあり、撮影範囲・解析方法共に問題はなかったため為要因を調査しました。
骨密度を上昇させる因子として以下の要因があります。
・椎体変形(圧迫骨折、骨棘、骨硬化 等)
・大動脈石灰化
該当患者さんの直近CT検査を確認したところ、椎間板変性に伴う椎体辺縁骨硬化や骨棘形成を認め、大動脈の石灰化も認めました。このような場合ですと、どうしても骨密度の値が高くなってしまいます。

では、このような場合では骨密度測定を行っても意味がないのでしょうか?

強さの秘密は密度と質

当院では骨密度に加え、骨質(TBS:Trabecular Bone Score )を調べることができます。
『骨強度』は骨密度と骨質の2つの要因からなり、ほぼ70%を骨密度が説明し、残りの30%程度は骨質で説明できます(骨粗鬆症の予防とガイドラインより)。
今回の患者さんの場合、椎体変形のため見かけ上の骨密度は高い値を示していますが、骨質の指標は中程度の骨折リスクを示しました。

TBSの評価は、骨密度測定の腰椎画像を元に算出するので、追加で撮影する必要がなく余計な被ばくはありませんので、是非診断に役立てて頂ければと思います(※TBSの算出はBMI15~37の範囲の方が対象となります)。
既に骨密度測定をご紹介頂いている先生には結果と共にTBSの資料をお渡ししていますので、お時間のある時にご覧頂けたらと存じます。

無事に装置更新を終えて…

骨密度装置の導入に際し、技師長よりエヴァンジェリストという役割を拝命しました。
エヴァンジェリストとは、元々はキリスト教の“伝道者”を意味し、主にキリスト教の啓蒙活動をしている人などを指す言葉ですが、最近ではIT企業において、「自社の製品やサービスについて分かりやすく説明(伝道)する人」という意味でエヴァンジェリストという役割が生まれており、余談ですが新世紀エヴァンゲリオンの語源もエヴァンジェリスト(伝道師)からきているそうです。
エヴァンジェリストとして何ができるのか、何をすべきなのかを考え、科員全員が装置を使いこなせるように取扱説明書をしっかり読み、要点をまとめたマニュアルを自作することから始めました。自作マニュアルは随時更新しており、何かあればマニュアルを見て対応してくれている姿を見ると、とても嬉しくなります。
装置の立ち上げを経験したことによって、今まで当たり前のように使用してきた装置も先輩の尽力があってのことだと改めて感じ、僕以上の試行錯誤があったことは容易に想像できるので、感謝の気持ちと共に頼りになる先輩と一緒に働けていることを誇りに思います。
高橋(達)

腎機能が低下した患者さんの造影検査


“ぞうえいざい”ってすごいんです!

造影CTは非造影CTに比べて多くの情報が得られる有用な検査です。しかし、腎機能が低下した患者さんに対しては造影剤の使用を慎重に考える必要があります。当院では腎機能が低下した患者さんには使用する造影剤の量を減らして検査を行っていますが、その際、“dual energy CT”という特別な検査方法を行うことで造影効果を高めています。今回はそんな当院における造影剤減量の検査を紹介します。

そもそも、造影剤と腎機能って??

CTで用いる造影剤は体内に残ることなく、腎臓を通って体外へ尿として排泄されます。このとき腎臓に負担をかけるため、腎機能が低下した患者さんに造影剤を使用すると造影剤腎症になるリスクが高いことが知られています。造影剤腎症とは造影剤による腎障害のことで、造影投与と関連する腎機能低下です。一般的に腎機能は7~14日で元に戻りますが、場合によっては稀ではありますが腎機能低下が進行して人工透析が必要となる場合もあります。
腎機能はeGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推算糸球体濾過値)で判断します。
eGFRが低いほど腎機能が低下していることを示しており、当院ではeGFR 45以下の患者さんには使用する造影剤の量を減らして検査を行っています。また、eGFR 30以下の患者さんには原則として造影剤を使用しないことになっています。

造影剤を減らしたCT検査

基本的にCTは管電圧(X線のエネルギー)を下げるほど造影効果を高めることができます。一方で管電圧を下げるとX線の量が足りずに画質低下を引き起こします。
“dual energy CT”は2種類のエネルギーのX線(80kv,140kv)を利用して撮像することで通常のCTに加えいろいろな種類の画像を得ることができます。その1つに「仮想単色X線画像」というものがあります。これは2種類のエネルギーで得られた情報から計算を行い仮想的に低電圧で撮像したような画像のことです。

見劣りしない!低電圧のCT画像

通常の造影CT画像と造影剤を減量した仮想単色X線画像を比較すると全く同様の画質とはならないものの、通常の造影検査と遜色ない造影効果が得られています。“dual energy CT”はその機能が搭載されている装置でしか行うことができません。
当院では“dual energy CT”が使える装置を導入しており、腎機能が低下した患者さんに対しても造影剤減量による画像コントラストを低下させずに造影検査が可能となっています。

五十嵐

 

えっ! 放射能を体にいれるの!?


私事でございますが核医学検査も担当するようになり数年たちました。ひとつ印象的だった経験があります。それが「今日の検査って放射能を体に注射するのよね?なんだか怖いわ!」という患者さんのつぶやきでした。放射能という言葉を聞くと、すぐ原子爆弾をイメージしてしまい、とても怖いものに感じてしまいます。また、福島第一原子力発電所事故の影響もあって放射能 = 悪いもの!のイメージしかない方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。
今回はこの放射能という言葉と核医学検査で使われる放射性検査薬について簡単にご説明させて頂き、核医学検査の安全性についてお話させて頂きます。当院にご紹介頂く患者さんへの検査説明の一助となれば幸いです。

放射線=放射能?

放射能という言葉が一般的な使い方として放射線物質と同じ意味合いで使用されていることがありますが、放射能というのはその物質が放射線を出す能力の事を言います。ですから一般的に用いられるところのそれは放射性物質です。

放射性物質に寿命あり!

放射性物質は放射能を持つ物質の総称です。そしてこの放射性物質には寿命があります。
放射性物質は物理学的に不安定な状態であると表現されています。その不安定から安定に落ち着く過程で放射線を放出していきます。そして安定まで行けば放射能を失うことになります。若い頃はエネルギーをもてあまして極悪と呼ばれたような不良が、その有り余るエネルギーをラグビーに向け、花園を目指し、その後立派な社会人として安定自立する感じというとイメージしやすいでしょうか。。。

 

 

いつまで続くの?反抗期!?

その安定化するまでの時間を表すのが放射性物質の半減期と呼ばれるものです。これは放射能が半分になる時間を表しています。当然、この時間が短いほど放射線の影響を受ける時間が短くなります。

人生いろいろ?

放射性物質が安定化するまでの時間は放射性物質の種類によって違います。半減期が年単位のものや数秒まで様々です。かつての総理大臣の言葉を借りると、人生色々、会社も色々、放射性物質も色々となります。

核医学検査薬は短命!

半減期が短いほどその影響は短くなりますから、被ばくという観点からすると有効です。ちなみに原発で問題となる放射性物質としてよく挙げられるのがセシウムです。セシウムにも種類があるのですが、半減期が長いものだと約30年です。それに対し核医学検査でよく使われるのがテクネシウムというもので、半減期6時間となっています。ですので、セシウムと比べると比較にならないほど短いと言えます。

以上放射能から放射性物質そして半減期までご紹介させて頂きました。
半減期の短さからその安全性についてご説明させて頂きましたが、少ないとは言っても放射性物質です。無駄な被ばくや汚染などないように日々注意して検査を行うように努めています。最後に核医学検査の一般的な被ばく線量についての資料を添付します。
核医学担当 保田

外傷による肩関節の撮影で注意している点


今回は交通事故、その他の外傷による肩甲骨の撮影法と注意している点について書かせて頂きます。
私自身の学習を含めはじめに肩関節の構成から説明します。肩関節は肩甲骨・上腕骨・鎖骨からなり、肩甲骨関節窩に上腕骨頭が入り込み肩甲骨肩峰と鎖骨外側とで肩鎖関節を作っています。
外傷での正面撮影は範囲を広くして肩全体を撮影します。各部位に大きな骨折がないか、脱臼していないかをまず確認するためです。

外傷撮影こそ腕の見せどころ!

次に正面撮影で分かりにくい部位を斜位撮影にて観察します。斜位像では正面像より上腕骨の骨折線をはっきり描写できる事がよくあります。また、この時に上部肋骨の骨折が判明する場合もあるので斜位像は欠かせません。
患者さんはストレッチャーにて搬送されてくる場合が多いので立位で撮影が出来ません。その場合斜位撮影は臥位のまま患者さん自身に体を斜めにしてもらうので痛みで体動があると画像にブレが生じ、再撮を行うことがあります。

小さな骨折線も見逃しません!

肩関節の中でも肩甲骨の撮影は難しいと思ってます。肩甲骨は薄いため小さな骨折線は分かりづらく烏口突起の骨折線は上腕骨頭と重なり、また肩峰は鎖骨と肩鎖関節をなしているため一枚の画像に全ての骨折線を描写する事は出来ません。そのため、肩関節を撮影するには正面像・斜位像・軸位像(スカプラY像)の3方向がそれぞれ重要となります。右の画像は自転車で転倒された方の画像でスカプラY像で骨折線がはっきりと描写されてます。

今後も、先生の診断に役立つ画像を提供していきたいと思っております。
青木