今月の症例(2022.6月号掲載)


問題:80代 男性
主訴:大動脈解離の経過観察中の偶発的所見
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純CT検査副腎レベル
a:今回CT検査 副腎レベル b:4ヶ月前CT検査 副腎レベル

図2:腹部 MRI検査
a:T1WI(weighted image)opposed phase b:T1WI in phase c:T2WI
d:拡散強調像 e:ADCmap f:opposed phase 冠状断

解答と解説

解答:右副腎原発リンパ腫 B-cell lymphoma

大動脈解離の経過観察中に出現した右副腎腫瘤の症例です。
4ヶ月前のCT検査では副腎には腫瘤は見られず、短期間で出現、増大する4cm大の腫瘤(図1)であり、内部は均一で境界明瞭です。
MRI検査所見ではT1WI opposed phase 、T1WI in phaseで脂肪含有を評価します。両者は chemical shift imaging と呼ばれ、in phase と比較して opposed phase で信号が低下していた場合、脂肪が含有しているものと考えられます。今回検査では、opposed phase で信号低下なく脂肪の含有は認められませんでした。 T2WI では腫瘍は筋肉よりも高信号であり、内部は比較的均一です(図2)。
拡散強調像は細胞密度が高い病変や浮腫などで高信号になり、 ADC map ではその程度を数値化して診断することができます。 この腫瘤では、拡散強調像は辺縁部を主体とし、まだらな高信号でADC 値は一般的な基準である1.0×10-3mm2/sよりも低下していました(図3)。
以上の所見より、短期間で出現する腫瘍として副腎腺腫、褐色細胞腫は考えにくく、リンパ腫を鑑別としました。その他、転移性腫瘍や副腎癌も短期間で増大する可能性はありますが、内部が比較的均一な点、転移としては片側である点がやや非典型的です。
手術の結果、リンパ腫と診断されました。

悪性リンパ腫の中で内分泌臓器に初発する頻度は3%とされており、中でも副腎原発例は稀とされています。高齢男性に多く背部痛や季肋部痛など自覚症状を伴い、病理組織学的にはB-cell typeが多いようです1)。

副腎原発リンパ腫は一般的には約半数が両側性とされています2)。周囲への浸潤所見を呈する場合もありますが、副腎内に限局、境界明瞭な病変の場合では画像所見は非特異的となります。両側性であれば転移が、6cmを越える大きな腫瘤の場合は副腎癌も鑑別となり得ます。
今回の重要な鑑別点は拡散強調像とADCmapです。拡散強調像は水分子の動きを画像化したもので、動きが制限された水が存在すると高信号となります。ADCmapは拡散強調像を元にして作成された画像で、水運動の程度を数値化して表示することができます。具体的には拡散強調像で高信号(白)、ADCmapで低信号(黒)として表される部分は動きが制限された水≒細胞密度が高い領域や粘稠性の高い成分と考えられます。
悪性リンパ腫は細胞密度の高い病変であるため一般的にADC値は低い(0.5~0.9×10-3mm2/s)腫瘤であり3)4)、今回症例では0.5×10-3mm2/sと強い低下が見られた(図3)ためリンパ腫に合致する所見でした。ただし、その他の悪性病変でも細胞密度が高い部分ではADC値が低値となる場合もあり診断には注意が必要です。

症例の鑑別ポイント
① 短期間で増大する副腎腫瘤=良性は考えにくい
② 大きさの割に境界明瞭で比較的内部が均一な腫瘤
③ 拡散強調像で高信号、ADC値の低値

右副腎原発リンパ腫という稀な1例でした。

【参考文献】
1) 松岡 隆久. 日本消化器外科学会誌 2005; 38:509-515
2)Khaled M, et al. Radiographics 2004; 24:73-85
3)S Colagrande, L Calistri, et al. Abdominal Radiology 2018; 43:2277-2287
4) 佐藤 修. 悪性リンパ腫, リンパ増殖性疾患-特徴的画像所見と注意点- 画像診断 2019;39:1015-1027

症例(救急CT) 2021.12月号掲載


次の3例に共通するキーワードはなんでしょうか?日本語2文字でご回答ください。

症例1. 70代 男性
腹部膨満が1週間程度持続後、朝食摂取後嘔吐にて近医受診。CT施行後、当院搬送。

症例2. 30代 男性
飲酒後深夜に自転車にて帰宅。
朝腹痛と血尿出現。

症例3. 80代 男性
一過性の左下肢脱力、鼠径部から左上腹部の痛みで来院。
入院2日後背部痛と血圧低下あり。CT撮影。

 


解答と解説

 

解答 “破裂”の2文字です。では症例ごとに解説いたします。

症例1. 70代 男性 腹部膨満 → 診断:胃破裂

A’, B’. 胃小彎側に胃壁の欠損が見られ(黄矢印)、壁外に空気が漏れ出ている(腹腔内遊離ガス)(赤矢印)。門脈ガス(黒矢印)は胃壁のガス(青矢印)が胃静脈を介して門脈へ運ばれたものと推察される。幽門前庭部に異常な胃壁の肥厚がみられ(緑矢印)、通過障害→胃拡張→胃破裂となったと考えられる。胃壁肥厚は胃癌によるものと判明。

 

症例2. 30代、男性 飲酒後深夜に自転車で帰宅 → 診断:膀胱破裂

C’, D’. 膀胱頂部に膀胱壁の不連続が認められる(限局性壁欠損)(黄矢印)。
E’.上記で疑われた壁欠損部(黄矢印)を介して、5時間前の造影CT時に投与され、膀胱へ排泄された造影剤が腹腔内に漏出している(赤矢印)。
F’. 単純写真においても膀胱外へ漏出した造影剤が明瞭(赤矢印)。

症例3. 80代 男性 入院後背部痛と血圧低下 → 診断:大動脈破裂

G’. 腹部大動脈の拡大とそれに連続して層状の低吸収域と高吸収域が認められる(赤矢印)。出血時期の異なる血腫と推察される。

H’. ダイナミック造影CT早期相では大動脈瘤から連続する造影剤の血管外漏出像(黄矢印)が認められ、大動脈破裂と考えられる。

解説

今回は以前と少し趣向を変えて共通のキーワードという形で問題を作成しました。1例目は胃幽門前庭部胃癌(2型)のために幽門狭窄を呈し、食物の通過障害と胃の拡張状態の持続から胃壁の脆弱化、胃内腔の圧の高まりのために胃破裂を呈した症例で、内腔の空気や残渣が腹腔へ漏れ出て腹膜炎を呈し、緊急手術(胃全摘出術施行)となったものです。 手術で胃体部小彎に約9cmの縦走破裂裂傷が認められました。一般的には食道胃接合部や小網に固定され膨張性に乏しい小彎や前壁が破裂しやすいと言われています。
症例2は、泥酔状態での自転車走行に伴う外傷(サドルを股間に強打?)のために膀胱が破裂し、尿が腹腔内に漏れ出たもので、やはり緊急手術となっています。飲酒により膀胱が尿で充満したときに、腹圧が上昇して発生する腹腔内破裂は有名で通常本症例のように膀胱頂部に生じると言われています。
3例目は、大動脈瘤にて他院で経過観察中だった患者さんが切迫破裂から緊急入院となり、一時的には止血していたものの、2日後に再度破裂を呈して、血液が後腹膜へ漏れ出て緊急手術となった症例です。残念ながら、救命はできませんでした。
以上3例は胃、膀胱、大動脈といった異なる臓器が破裂という同じ機転から空気、尿、血液といった異なる内容物が本来存在するべき場所から腹腔内、腹腔内、そして後腹膜など様々な場所に漏れ出たものです。このように1つのキーワードをテーマにした演題は教育的展示として北米放射線学会ではよく演題としてエントリーされ、教育的と思われた演題には星印が演題に貼られ、Radiographics という北米放射線学会が運営する教育目的の雑誌に投稿しても良いというお墨付きを頂けます。ただし、雑誌投稿時には査読が入るため、星印がついても必ず雑誌に掲載されるわけではなく、星印付きであっても厳しい審査で40%は落とされてしまうと言われています。

 

症例(MRI) 2021.6月号掲載


70代 男性
主訴:昼頃からの健忘、記銘力低下

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

 


解答と解説

解答:一過性全健忘

解説

突然発症の一時的な健忘を生じた高齢男性の症例です。
来院時のMRI検査では海馬領域を含め異常所見は指摘できなかったものの(図1)、来院24時間後のMRI検査では拡散強調像で左海馬に点状の高信号域が見られ、FLAIR像でも淡い信号上昇が見られます。ADCmapでは同領域に信号低下が見られます(図3黄矢印)。一過性全健忘として典型的な所見です。

一過性全健忘は突然発症する一時的な純正健忘に対して命名された臨床的概念です。急性発症の健忘が数時間継続し、数時間から1日かけて徐々に改善します。多くは50-70歳の男性に多く、近い過去に関する全健忘や逆行性健忘を伴います。
診断基準は以下のHodges1)のものが知られています
・発作が目撃され、情報が得られること ・明確な前行性健忘が発作中にあること
・意識混濁や事故の見当識障害がなく、認知障害は健忘に限られること
・発作中に神経症候なく発作後に有意な神経徴候を残さないこと
・てんかんの特徴がないこと      ・発作は24時間以内に消失すること。
・頭部外傷や活動性てんかんがある場合は除外

記憶障害は順行性健忘で発作中の記憶はほとんど残らないものの、それ以外の記憶は回復します2)。この症例でも発作時の記憶以外は回復していました。
一過性全健忘の病態はストレスや疼痛などによる海馬領域の緩徐な血流低下によって生じるものと推測されています3)。

画像所見は海馬CA1領域(図4:黄色矢印 白色部分)に拡散強調像で微少な高信号域が出現することが特徴です。
CA1領域は海馬内回路で記憶統合プロセスに関与する部分であり、同部位の障害が健忘の原因とされています。この領域は上海馬動脈と下海馬動脈の分水嶺領域に位置しており、血行力学的な脆弱性により低酸素や代謝異常を来しやすい部位と考えられています3)。
高信号域は発症当日の6時間以内は34%と検出率が低いものの、24-72時間では75%となり時間経過で検出率が高くなる傾向にあります4)。信号は10-14日後から消退傾向で、1年後には所見が消失することが知られています5)。
本症例でも発症直後のMRI検査では所見がみられないものの(図1)、24時間後のMRI検査では海馬領域に拡散強調像で高信号域が出現しています(図2)。1ヶ月後のMRI検査では同所見は消失(図5)しており一過性全健忘の経過として矛盾しませんでした。

症例のポイント

①意識清明な急性の健忘発作
②拡散強調像での海馬領域の微少高信号
③高信号域は症状から遅れて(24-72時間後)出現することが多い
④高信号域は経過で消退

典型的な画像所見と経過を呈した一過性全健忘の1例でした。

【参考文献】
1)Hodges JR,Warlow CP. Neurology Neurosurgery Psychiatry. 1990; 53:834-843
2) 吉田智子ら. 多根医学会雑誌. 2016; 5:61-65     3)水間啓太ら. 昭和学士会雑誌. 2015; 2:191-197
4)Ryoo I, et al. Neuroradiology 2012; 54:329-334    5)Bartsch T, et al. Brain 2006; 129:2874-2884

 

症例(CT:腹痛)2020.12月号掲載


症例:50代 女性

主訴: 心窩部痛、発疹、掻痒感

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純CT検査 水平断像
図2:単純CT検査 a:冠状断像, b:矢状断像

解答と解説

中年女性の腹痛、発疹の症例です。
図1, 2では胃体部前壁の粘膜面から隆起する比較的低吸収な腫瘤病変が見られ、図3には同部を拡大したCT画像を供覧しています。図3a, b 黄色矢印では胃粘膜下に位置するようにして低吸収な腫瘤様構造が見られ、図3b橙矢印では対側の胃壁にもわずかに浮腫性変化が認められます。CT検査所見上で腫瘤様構造は胃の粘膜下に位置してみえ、gastrointestinal stromal tumor:GISTなど胃粘膜下腫瘍が疑わしい所見です。
診断目的に施行された内視鏡検査では白色の虫体(図4)が胃内に認められ、胃アニサキス症と診断されました。前日にしめ鯖を食べていたようです。

胃アニサキス症はアニサキス属の幼線虫が胃及び腸に寄生する幼虫移行症です。胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキス症に分かれます。アニサキスの成虫はクジラやイルカなど海洋哺乳類に寄生しており、幼虫はサバやサケ、タラ、イカなど魚介類に寄生し、生食で人の消化管壁に刺入して発症します。生食後24時間以内に発症することが多く、上腹部痛や嘔気、嘔吐や微熱が出現します。
胃アニサキス症は緩和型と劇症型に分かれ、緩和型は初感染に引き続いて起こる限局性アレルギー反応であり軽症例が多くみられます1)。一方で劇症型は再感染によるアレルギー反応で急性なアナフィラキシー様症状を呈します1)。また、今回症例のようにアレルギー反応で蕁麻疹などの掻痒感を伴う皮疹が生じる事もあります2)。治療はアニサキス虫体の内視鏡的除去です。
典型的なアニサキス症の画像は消化管壁の全周性の浮腫性変化と腹水貯留がポイントとなります。図5は典型例ですが、胃壁の全周性の強い浮腫(図5a-b)と腹水貯留が見られています(図5c)。特に腹水貯留が通常の胃炎との鑑別点となり得る所見です。鑑別は急性胃粘膜病変、好酸球性胃腸炎などが挙がります。
今回の症例ではこのような全周性の浮腫は示さず、あたかも粘膜下腫瘍の様な限局した腫瘤様の浮腫が見られました。腫瘤形態からアニサキス症を想定するのは困難となりますが、図3b橙色矢印の様に対側の胃壁にも浮腫が見られる点を考慮すると胃炎とともに鑑別には挙がるかもしれません。食事歴など生活歴も診断に重要な情報となります。

診断のポイント
① 食事歴、生活歴
② 症状(皮疹などアレルギー反応も含めて)
③ 消化管の強い全周性浮腫、腹水

診断に苦慮した胃アニサキス症の画像の非典型例を紹介いたしました。臨床情報と併せた診断の重要性を再認識した1例です。

図3: 単純CT検査 a:水平断像, b:冠状断像
図4: 内視鏡画像
図5: 胃アニサキス症 典型例CT検査画像 
 a:水平断像, b:冠状断像, c:水平断像 骨盤内

【参考文献】
1)山下康行: わかる!役立つ!消化管の画像診断. 学研メディカル秀潤社, p.60-61, 2017.
2)亀山梨奈, 矢上晶子, 山北高志, 中川真実子, 長瀬啓三, 市川秀隆, 松永佳世子. サンマ摂取によりアニサキスに対する即時型アレルギーを呈した1例. 皮膚科の臨床2006;55:1429-1432

症例(呼吸器)2021.3月号掲載


症例 50代 男性

主訴:発熱 咳嗽 食欲低下

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真
図2:単純CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像

解答と解説

発熱咳嗽の中年男性の症例です。
胸部単純写真では右中肺野や左上下肺野に胸膜直下に淡い濃度上昇が認められます(図3黄矢印)。図2では単純写真と同様に胸膜直下を主体とした非区域性の複数のすりガラス状陰影が認められます。COVID-19肺炎で一般的に報告されている画像上の特徴が認められます。この症例は他院のPCR検査で陽性となり当院に搬送となりました。

COVID-19肺炎はSARS-CoV-2による感染症であり風邪のコロナウイルス(4種)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス、中東呼吸器症候群に続く7番目のコロナウイルスです。潜伏期は1-14日で発症前2日から感染力が強く、症状後発熱、咳嗽、嗅覚異常、呼吸困難が主な症状です。危険因子として高血圧や糖尿病、心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満が関与するとされています。残存期間はエアロゾルで3時間、プラスチックやステンレス上で72時間、段ボール上で24時間残存します1)。
COVID-19肺炎の典型的な画像所見は胸膜直下に両側性かつ多発性に見られる非区域性のすりガラス状陰影および浸潤影とされています2)。

CT検査所見の経過は①すりガラス状高吸収域→②浸潤影→③収縮性変化→④陰影消退の経過をたどります。今回症例を参照すると図4のように浸潤影が見られた後、図5の様に軽微な線状の収縮性変化(図5a, b黄矢印)を残しつつ消退しました。
ただし、発症7日程度でびまん性のすりガラス状陰影や浸潤影となり重症化する症例もあるため全身状態を含めた経過観察が必要となります(図6)。
鑑別はインフルエンザウイルス含めたウイルス性肺炎が挙がります。鑑別点は典型像と同じく胸膜下に多発するすりガラス状陰影ですが感度、特異度はそれぞれ80-90%、60-70%の範囲と報告されています3)。さらにPCR検査陽性でも無症状例の46%、有症状例の20%にCT所見陰性例が存在するため3)臨床症状を含めた多角的な診断が必要となります。

図3:胸部単純写真
図4:5日後CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部
c:水平断像 下葉, d:冠状断像
図5:1ヶ月後CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像
図6 重傷例 CT検査
a:水平断像 肺尖部, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像

症例のポイント

① 胸膜直下の多発する非区域性のすりガラス状陰影および浸潤影
② PCR検査陽性でも画像所見陰性例が存在する
③ 画像、臨床症状や経過、PCR検査結果など多角的な診断が必要

新型コロナウイルス肺炎の一般的な情報や画像所見、経過を提示しました。

【参考文献】
1)N.V.Doremalen,et.al. New England Journal of Medicine. 2020; 382:1564-1567
2) RSNA,ACR,STRによる提言およびCO-RAD Radiology 296:45-54, 2020
3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期における放射線診療について 公益社団法人日本医学放射線学会

症例(歯科口腔外科より検査依頼) 2020.9月号掲載


症例 10代 男性

主訴: 左下顎の違和感、腫脹と疼痛

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:パノラマX線画像
図2:顎部CT検査 a:水平断像 軟部条件, b:水平断像 骨条件, c:矢状断像 骨条件, d:冠状断像 骨条件

解答と解説

若年男性の下顎部腫瘤の症例です。
図1では左側第二大臼歯歯根部周囲の下顎体部から下顎枝にかけて境界明瞭、辺縁平滑な多胞性透亮像が見られます(図3:黄矢印)。第二大臼歯歯根部は直線的な欠損像が見られ(図3:赤矢印)、この疾患での重要な所見となります。
図2a-2cのCT検査画像ではパノラマX線画像と同様に左下顎体部から下顎枝にかけて膨隆性骨腫瘤が見られ、骨皮質は菲薄化しています。境界明瞭で辺縁平滑な腫瘤であり図2d冠状断像で第二大臼歯歯根部に水平な骨吸収が認められます。この所見はナイフカット状の歯根部吸収と呼ばれ、エナメル上皮腫に特徴的な所見と言われています(図4)。
追加で施行されたMRI検査(図5)では上記所見と同様に左下顎体部から下顎枝を中心とした辺縁明瞭な嚢胞状構造が見られます。腫瘤内はT2強調像で高信号(図5a)、T1強調像で低信号(図5b)であり内部性状は均一です。

エナメル上皮腫は歯原性良性腫瘍の中で最も発生頻度が高く一般的な疾患です。エナメル器に類似した細胞からなり、大小の嚢胞を形成します。臨床症状は顔面腫脹が最も多く、疼痛がそれに続きます。発現年齢は20-30代の男性に多く、下顎が約80-90%で上顎に比して多く見られます。好発部位は上下顎とも臼歯から後方の顎骨内です。
画像所見は境界明瞭、辺縁平滑な単胞性、あるいは多胞性の透亮像を呈します。病変が歯槽部におよぶと歯の移動と歯根部の吸収が見られます。特に吸収面が直線的である「ナイフカット状歯根吸収」を示すことが本疾患の一番の特徴です。
病変内に埋伏した智歯を含むことが多く、含歯性嚢胞と鑑別を要する場合があります。
診断のポイントとしては
①年齢、部位(下顎後方)
②辺縁平滑、境界明瞭な透亮像
③ナイフカット状歯根部吸収
今回はエナメル上皮腫として典型例を提示致しました。

図3: パノラマX線画像 拡大
図4  a:CT画像冠状断像,    b:ナイフカット状の歯根部吸収 シェーマ
図5:MRI検査 a:T2強調像, b:T1強調像

【参考文献】豊田圭子: まるわかり頭頚部領域の画像診断. 学研メディカル秀潤社, p.734-737, 2015.

症例(CT、SECT) 2020.6月号掲載


症例:70歳代 男性

主訴:夜間外出や歩行障害、自宅を間違える、失禁などの行動が目立つようになり当院に受診。
認知機能評価のため脳血流シンチグラフィと頭部CT検査が施行された。

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

図1:99mTc-ECD 脳血流シンチグラフィSPECT像 
a:水平断像, b:冠状断像,
c:矢状断像, d:正常参考例
図2:頭部CT検査 
a:水平断像,
b:冠状断像

 


解答・解説

本症例は正常圧水頭症に典型的な認知機能低下、歩行障害、失禁の症状を呈していました。

まずは図3、4でCT検査から正常圧水頭症の所見を説明します。
図3はCT検査水平断像ですが、図3aで側脳室がやや開いて見えます(矢印)。図3bでは側脳室前角と頭蓋内腔の測定部位を示しており、それぞれ4.58,12.81cmでした。側脳室前角幅/頭蓋内腔幅>0.3であれば正常圧水頭症の可能性があり、この値はEvans indexと定義されています。本症例のEvans index は0.356であり、0.3以上となっています。
図4の冠状断像では脳梁角も正常圧水頭症を評価しうる値です。具体的には90°以下であれば正常圧水頭症であり、本症例は81°で基準を満たしています。加えて、頭頂部の脳溝がやや狭小化しています。
最後に脳血流シンチグラフィですが、脳内集積の機序を簡単に説明致します。
脳血流シンチグラフィは脂溶性の放射性薬品が血液脳関門を通過して血中から脳組織内に取り込まれます。取り込まれた後は長時間組織に留まり、その分布は局所脳血流量と相関します。
今回検査では図1b冠状断像での頭頂部の扁平な集積が正常圧水頭症のポイントとなります。具体的には図5a矢印で示した部分であり、図5bでは頭頂部の脳溝の狭小化(矢印)が見られます。脳溝の狭小化を呈する理由としては水頭症によってシルビウス裂が開大し、頭頂葉や前頭葉が見かけ上頭側方向に圧排されることにより生じます。脳血流シンチグラフィでの集積があたかもカッパの皿の様に見えるため、CAPPAH(Convexity APPArent Hyperperfusion)サインとも呼ばれています。圧排された頭頂葉や前頭葉の血流が見かけ上で増加しているため、このような集積になるとされています。
本症例は髄液のタップテストにより症状が改善致しました。

図3: 頭部CT検査 水平断像 : Evans index測定
図4:頭部CT検査 冠状断像:脳梁角測定

診断のポイントとしては
症状:認知機能低下、歩行障害、失禁
Evans indexと脳梁角
脳血流シンチグラフィでのCAPPAHサイン
症状、画像所見でから診断に至った正常圧水頭症の1例を紹介いたしました。

図5:SPECT像とCT検査の対比とCAPPAHサインa:SPECT冠状断像, b:CT冠状断像, c:カッパ

【参考文献】徳田 隆彦. 髄液の産生・吸収障害と特発性正常圧水頭症の新しい画像診断臨床神経学 2014; 54:1193-1196

症例(腹部CT)


Case  80歳.女性.

上腹部痛、食欲不振

下記画像から考えられる疾患は?

 

 


解答と解説

下図A~D:口側小腸(赤矢印)が肛門側小腸(青矢印)に嵌入し、図Aでは標的様構造を示しており、内部に血管構造と脂肪組織が確認できます。嵌入した口側小腸の先端には脂肪腫と考えられる境界明瞭で辺縁平滑な脂肪濃度を示す腫瘤(緑矢印)を認めます。嵌入が始まる箇所より口側の小腸(黄矢印)は拡張しています。脂肪腫を先進部とする小腸重積が考えられます。図E~F:腹腔鏡下小腸切除術が施行され、小腸の中央部にみられた腫瘤は、病理組織で脂肪腫と診断されました。図Fは腫瘍の割面を示しています。
腸重積では、腸管が遠位もしくは近位の腸管内に折りたたむように嵌入します。最もよくみられる症状は、腹痛、嘔気・嘔吐です。腸重積をきたす原因としては腫瘍が最多であり、成人腸重積の約65%でみられます。蠕動に乗って先進部が遠位側に移動するために、近位側腸管が遠位側腸管の内側に引き込まれるようにして入り込むのが一般的です。CTでは、標的様構造の内部に脂肪組織と血管が巻き込まれる所見を確認することが重要です。小腸重積に限って言えば、原因として良性病変が最も多く、脂肪腫、GISTなどの腫瘍、非腫瘍性ポリープ、Meckel憩室、炎症性疾患、外傷などがあげられますが、悪性病変の場合は、腺癌、悪性GIST、転移、悪性黒色腫、リンパ腫などがあげられます。そのため、腸重積では重積先進部に特に注意する必要があります。治療としては、原則手術が必要です。

解答

脂肪腫を先進部とする小腸重積

参考文献)

・ 山下康行:わかる!役立つ!消化管の画像診断.秀潤社
・ Choi SH, Han JK, Kim SH, et al: Intussusception in adults: from stomach to rectum. AJR 2004;183:691-698
・ Warshauer DM, Lee JK. Adult intussusception detected at CT or MR imaging: clinical-imaging correlation. Radiology 1999;212:853-860

 

症例


問題: 63歳、女性。2年前から左手掌部に腫瘤を認めていた。
最近になり腫れが大きくなったため、MRI精査。

a:T1強調像, b:T2強調像, c:T2*強調像, d:脂肪抑制T2強調像,
e:拡散強調像, f:ADC map

 

解答と解説

T2強調像(左図):中心部はやや低信号(腫瘍細胞や線維成分が多いAntoni A領域;黄矢印)、辺縁部は高信号(粘液状基質に富むAntoni B領域;赤矢印)を示しています。
T2*強調像(右図):中央部では出血後変化を反映して低信号を示しています(緑矢印)。
左手掌第2から第3指の浅指および深指屈筋腱の間に境界明瞭で辺縁平滑な腫瘍を認めます。T1強調像では全体が低信号、T2強調像では中心部がやや低信号で辺縁部が高信号を示し、辺縁は被膜と思われる低信号で囲まれています。T2*強調像では中央部の低信号が目立っており、出血後の変化が疑われます。拡散強調像で高信号ですが、ADC mapでは高信号と中等度の信号が混在した信号となっています。神経鞘腫が疑われ、手術を希望されたため、腫瘍摘出術を施行し、病理組織診断でも神経鞘腫の診断となりました。

神経鞘腫は、比較的大きな神経の神経鞘内に発生し、神経外膜からなる被膜を持ちます。20から50歳代に多いとされ、頭頚部、四肢屈側、後縦隔、後腹膜、下肢に好発します。組織学的には細胞成分の多いAntoni A領域と、粘液状基質に富むAntoni B領域が様々な割合で混在し、内部には出血や嚢胞変性を含むことが多いです。MRIでは、これらを反映した所見となります。つまり、腫瘍細胞あるいは線維組織が密に見られる部分がT2強調像で低信号となり、一方粘液変性が強く腫瘍細胞の乏しい部分はT2強調像で高信号となります。このT2強調像で辺縁が高信号で、中心が低信号を示す像はtarget appearanceと言われており、神経鞘腫でみられる所見ですが、神経線維腫でもみられるため、明確な区別は難しいとされています。鑑別方法として、神経が腫瘍の辺縁にあるか中心にあるかで鑑別できるとされており、前者であれば神経鞘腫、後者であれば神経線維腫という報告もありますが、神経の同定自体が困難なことも多く、明確な鑑別点とはならないようです。鑑別診断として、悪性末梢神経鞘腫瘍があげられますが、特異的な画像所見はないため、鑑別困難なことが多いです。経過中に急速な増大を認めた場合は、悪性末梢神経鞘腫瘍を疑う根拠となります。

参考文献)
・上谷雅孝:骨軟部疾患の画像診断第2版.秀潤社
・福田国彦:軟部腫瘤の画像診断.秀潤社

解答:神経鞘腫(Schwannoma)

症例(Rad@Home2019年1月号掲載分)


問題: 50歳代、女性。心窩部痛で救急外来受診。



回答

胃アニサキス症(gastric anisakiasis)

 

 

 

 

 

 

胃体部で浮腫性壁肥厚を認めます(左上図、右上図:黄矢印)。周囲脂肪織濃度上昇を伴っています(左下図:赤矢印)。上部消化管内視鏡検査では、胃壁に付着したアニサキス虫体がみられ、鉗子を用いて除去しました(右下図)。

アニサキス症は、アニサキス亜科のAnisakis simplex、Pseudoterranova decipiensの幼虫が寄生したサンマ・サケ・スルメイカなどの生鮮魚介類を生食することによりおこる内臓幼虫移行症です1)2)。ほとんどは体外へ排出されますが、体外へ排出されず、胃・腸管壁などに穿入することで急性腹症を呈します3)

胃アニサキス症の症状としては、生鮮魚類を生食後、3~4時間後の夜中に心窩部痛が見られることが多いです。本症例では、前日にサバ、イカを摂取し、当日の朝心窩部痛で起床したというエピソードがありました。CT所見は、胃壁粘膜下浮腫(100%)、胃周囲の脂肪織濃度上昇(95%)、腹水(75%)、十二指腸拡張(70%)が特徴です4)。胃アニサキス症におけるCTの役割は類似した症状を呈する他疾患の除外が目的で、アニサキス症の臨床診断でもCTを行うと30%は膵炎や胆嚢炎などの他の疾患であったと言われています4)。鑑別としては、急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)があげられますが、画像診断で鑑別は困難です。治療は、内視鏡的に虫体を除去します。

参考文献)
1)北村彰英、後藤司、長田啓嗣ら.アニサキスと思われる腸管線虫症の2手術例について.南大阪医学.1997;45(1):14-27.
2)吉川正英、松村雅彦、山尾純一ら.回虫症・アニサキス症・旋尾線虫症.GI Res.2006;14(4):357-63.
3)下國達志、青木貴徳、大黒聖二ら.消化管外アニサキス症による絞扼性イレウスの1例.日本臨床外科学会雑誌.2008;69(6):1373-7.
4)Shibata E, et al. CT findings of gastric and intestinal anisakiasis. Abdominal Imaging, 39:257-261, 2014.