症例:50代 女性
主訴: 心窩部痛、発疹、掻痒感
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?
解答と解説
中年女性の腹痛、発疹の症例です。
図1, 2では胃体部前壁の粘膜面から隆起する比較的低吸収な腫瘤病変が見られ、図3には同部を拡大したCT画像を供覧しています。図3a, b 黄色矢印では胃粘膜下に位置するようにして低吸収な腫瘤様構造が見られ、図3b橙矢印では対側の胃壁にもわずかに浮腫性変化が認められます。CT検査所見上で腫瘤様構造は胃の粘膜下に位置してみえ、gastrointestinal stromal tumor:GISTなど胃粘膜下腫瘍が疑わしい所見です。
診断目的に施行された内視鏡検査では白色の虫体(図4)が胃内に認められ、胃アニサキス症と診断されました。前日にしめ鯖を食べていたようです。
胃アニサキス症はアニサキス属の幼線虫が胃及び腸に寄生する幼虫移行症です。胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキス症に分かれます。アニサキスの成虫はクジラやイルカなど海洋哺乳類に寄生しており、幼虫はサバやサケ、タラ、イカなど魚介類に寄生し、生食で人の消化管壁に刺入して発症します。生食後24時間以内に発症することが多く、上腹部痛や嘔気、嘔吐や微熱が出現します。
胃アニサキス症は緩和型と劇症型に分かれ、緩和型は初感染に引き続いて起こる限局性アレルギー反応であり軽症例が多くみられます1)。一方で劇症型は再感染によるアレルギー反応で急性なアナフィラキシー様症状を呈します1)。また、今回症例のようにアレルギー反応で蕁麻疹などの掻痒感を伴う皮疹が生じる事もあります2)。治療はアニサキス虫体の内視鏡的除去です。
典型的なアニサキス症の画像は消化管壁の全周性の浮腫性変化と腹水貯留がポイントとなります。図5は典型例ですが、胃壁の全周性の強い浮腫(図5a-b)と腹水貯留が見られています(図5c)。特に腹水貯留が通常の胃炎との鑑別点となり得る所見です。鑑別は急性胃粘膜病変、好酸球性胃腸炎などが挙がります。
今回の症例ではこのような全周性の浮腫は示さず、あたかも粘膜下腫瘍の様な限局した腫瘤様の浮腫が見られました。腫瘤形態からアニサキス症を想定するのは困難となりますが、図3b橙色矢印の様に対側の胃壁にも浮腫が見られる点を考慮すると胃炎とともに鑑別には挙がるかもしれません。食事歴など生活歴も診断に重要な情報となります。
診断のポイント
① 食事歴、生活歴
② 症状(皮疹などアレルギー反応も含めて)
③ 消化管の強い全周性浮腫、腹水
診断に苦慮した胃アニサキス症の画像の非典型例を紹介いたしました。臨床情報と併せた診断の重要性を再認識した1例です。
【参考文献】
1)山下康行: わかる!役立つ!消化管の画像診断. 学研メディカル秀潤社, p.60-61, 2017.
2)亀山梨奈, 矢上晶子, 山北高志, 中川真実子, 長瀬啓三, 市川秀隆, 松永佳世子. サンマ摂取によりアニサキスに対する即時型アレルギーを呈した1例. 皮膚科の臨床2006;55:1429-1432