症例


問題: 63歳、女性。2年前から左手掌部に腫瘤を認めていた。
最近になり腫れが大きくなったため、MRI精査。

a:T1強調像, b:T2強調像, c:T2*強調像, d:脂肪抑制T2強調像,
e:拡散強調像, f:ADC map

 

解答と解説

T2強調像(左図):中心部はやや低信号(腫瘍細胞や線維成分が多いAntoni A領域;黄矢印)、辺縁部は高信号(粘液状基質に富むAntoni B領域;赤矢印)を示しています。
T2*強調像(右図):中央部では出血後変化を反映して低信号を示しています(緑矢印)。
左手掌第2から第3指の浅指および深指屈筋腱の間に境界明瞭で辺縁平滑な腫瘍を認めます。T1強調像では全体が低信号、T2強調像では中心部がやや低信号で辺縁部が高信号を示し、辺縁は被膜と思われる低信号で囲まれています。T2*強調像では中央部の低信号が目立っており、出血後の変化が疑われます。拡散強調像で高信号ですが、ADC mapでは高信号と中等度の信号が混在した信号となっています。神経鞘腫が疑われ、手術を希望されたため、腫瘍摘出術を施行し、病理組織診断でも神経鞘腫の診断となりました。

神経鞘腫は、比較的大きな神経の神経鞘内に発生し、神経外膜からなる被膜を持ちます。20から50歳代に多いとされ、頭頚部、四肢屈側、後縦隔、後腹膜、下肢に好発します。組織学的には細胞成分の多いAntoni A領域と、粘液状基質に富むAntoni B領域が様々な割合で混在し、内部には出血や嚢胞変性を含むことが多いです。MRIでは、これらを反映した所見となります。つまり、腫瘍細胞あるいは線維組織が密に見られる部分がT2強調像で低信号となり、一方粘液変性が強く腫瘍細胞の乏しい部分はT2強調像で高信号となります。このT2強調像で辺縁が高信号で、中心が低信号を示す像はtarget appearanceと言われており、神経鞘腫でみられる所見ですが、神経線維腫でもみられるため、明確な区別は難しいとされています。鑑別方法として、神経が腫瘍の辺縁にあるか中心にあるかで鑑別できるとされており、前者であれば神経鞘腫、後者であれば神経線維腫という報告もありますが、神経の同定自体が困難なことも多く、明確な鑑別点とはならないようです。鑑別診断として、悪性末梢神経鞘腫瘍があげられますが、特異的な画像所見はないため、鑑別困難なことが多いです。経過中に急速な増大を認めた場合は、悪性末梢神経鞘腫瘍を疑う根拠となります。

参考文献)
・上谷雅孝:骨軟部疾患の画像診断第2版.秀潤社
・福田国彦:軟部腫瘤の画像診断.秀潤社

解答:神経鞘腫(Schwannoma)