知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑦ 番外編 乳がんのサブタイプとは


乳がんと一言で言っても、様々な臨床経過をとるものがあることは皆さまご存知だと思います。例えば昨年亡くなった某元アナウンサーさんの乳がんのように、発見されてからあっという間に転移して患者さんの命を奪ってしまう乳がんもあります。その一方でしこりに気づいていながら何年も放っておいても転移を起こさず、皮膚潰瘍を作って初めて患者さんが受診するなんてことも時々起こります。その違いはなんでしょうか?
それは「サブタイプ」の違いなのです。最近の乳がんの治療においては、何をおいてもまず「サブタイプ」を知らなければ治療も始まらないくらい重要な概念です。患者さんもよく勉強していて、「サブタイプはなんですか?」と聞いてこられる患者さんも最近は少なくありません。しかしここ10年くらいで一般的になってきた概念なので、他科の先生方にとっては「何となく聞いたことあるけど。。」くらいかもしれませんね。今回はサブタイプのお話をしたいと思います 。

トリプルネガティブ乳がん?

乳がんの治療薬にタモキシフェン、アナストロゾールなどの「内分泌療法」、ハーセプチン®などの「抗HER2療法」があります。非常にざっくり言いますと現在臨床で使用しているサブタイプ分類は内分泌療法や抗HER2療法の効果がありそうか否かで4分割しています。
内分泌療法も抗HER2療法も効果が期待できない乳がんが「トリプルネガティブ乳がん」です。
エストロゲンと結合し乳がんの増殖を促す「エストロゲン受容体(ER)」の発現があれば、Luminalタイプとします。また細胞膜表面に存在するチロシンキナーゼで細胞の増殖、分化の調節に関与する「ヒト上皮増殖因子受容体ー2(HER2)」の過剰発現があるかどうかでHER2陽性、HER陰性に分類します。ER陽性の乳がんの増殖はERにエストロゲンが結合することによって惹起されます。よってER陽性の乳がんに対してはERを標的にした内分泌療法の効果が期待できます。HER2 が過剰発現しているがんにはHER2タンパクを標的とした抗HER2療法の効果が期待できます。乳がんだけではなく胃がんの一部でもHER2の過剰発現があり、最近は胃がんでも抗HER2療法が行われるようになっています。抗HER2療法は単剤よりもタキサンなどの抗がん剤と併用すると抗腫瘍効果が高まるので通常化学療法と併用療法します。トリプルネガティブ乳がんに対しては化学療法が薬物療法の決め手となります。

 

Luminal Aタイプ、Bタイプ

ER陽性乳がんならば必ず内分泌療法が効くのかと言われると、そう簡単ではありません。実際に治療してみると思ったほど効果がないこともあります。一方で非常によく治療が効いて遠隔転移のある状態ながら5年以上元気でいられるような乳がんも珍しくはありません。そのような乳がんの中にはLuminalタイプがよくみられます。

同じLuminalタイプの中でも様々な臨床経過を取るものがあります。内分泌療法がよく効いてゆっくり進行するLuminal Aと、そうではないLuminal Bタイプにさらに分けて考えます。臨床的にはER,PgRの両方が高発現していてかつHER2陰性、核異型が軽度(Grade1)、細胞増殖マーカーであるKi67の発現が軽度という条件の全てを満たす場合をLuminal Aタイプと定義しています。臨床的特徴として比較的増殖がゆっくりで予後が良いことが挙げられます。
また内分泌療法の感受性は高いが化学療法の感腫瘍細胞の核内には高くないく、比較的晩期再発が多く、再発してからの生存期間は長い傾向にあります。遠隔転移の治療をしながら5年以上元気でいられたり、術後20年以上経って再発するような患者さんを乳がんでは時々経験しますが、このような乳がんのほとんどLuminal Aタイプです。
しかしER陽性でも内分泌治療が奏功せずあっという間に進行してしまうことも度々あります。このような乳がんはLuminal Bタイプに含まれます。昨年亡くなられた某元アナウンサーさんの乳がんもおそらこのタイプのがんであったと推測します。
Luminal B は Luminal A以外というのが定義で、AとBの間にはっきり線を引けるわけではなく連続的なものです。現在使用されている定義も流動的です。

これぞ!高級マットレス!?


最近はご高齢の方が検査する機会が増え、円背の患者さんも1日に何人もMRI撮影にいらっしゃいます。
当然、円背しているとまっすぐ寝ることは出来ず、なおかつ頭部は顎が上がった状態になります。(このポジショニングだと頭部MRIや頭部血管の撮影に悪い影響を及ぼしてしまうことがあります。)

さらに、曲がった背中が常に寝台にあたるため検査中は痛みが続き、動いてしまうことで検査が上手くいかないこともあります。そこで、当院では 円背姿勢の患者さんに対してMRI用スパインマットレスというのを使用しておりますので、ご紹介したいと思います。

MRI用スパインマットレス
円背姿勢の方が平らな寝台に横たわる際には、頭頂が下がり顎が上がった状態になります。
そこでスパインマットレスを用いると、患者さんの足が自然に上がり、頭部位置が下がり顎を引いた状態に近づけることが出来ます。長時間の検査でも、円背患者さんにとって無理のない体勢を維持し、検査を円滑に進める事ができます。

さらに、臀部から脊柱部にかけて、左右からの傾斜を設け安定したホールド感をもたらす新タイプのスパインマットレスが追加されました。背骨があたる中心部はクッションを抜き圧力を分散することにより、背骨のマット底打ちによる痛みを大幅に軽減できる形状です。実際に患者さんには非常に好評を得ています。CT検査で使っている施設もあるようです。MRI検査は他の検査に比べて、検査にかかる時間が長いですのでこのような患者さんが少しでも楽になるような補助具は必要ですね。

甲状腺眼症


甲状腺眼症とは甲状腺機能亢進症に関連した眼窩内の炎症に伴う症状のことをいいます。
外眼筋の肥大と眼窩脂肪の増量をきたし、複視や眼球突出等が引き起こされます。その他の症状としては眼瞼の浮腫、流涙、眼痛等があります。炎症が高度な症例ではCTやMRI でも外眼筋の肥厚や脂肪組織の増加が容易に確認できます。

〇治療方法について

治療法は重症度に応じて選択されます。軽度の場合は甲状腺機能を正常に保ちつつ禁煙や点眼などによる保存的な治療を行う場合が一般的です。中等度から重症の症例に対しては放射線治療が選択されます。また、ステロイドも同様に有効とされ、ステロイドのみの治療での奏効率は50~70%、ステロイドパルス療法(静脈内投与)と放射線治療の同時併用では90%を超える奏効率が報告されています1,2。
甲状腺眼症は喫煙により治療効果が落ちるという報告もあるため、禁煙が望ましいとされています。
放射線治療の目的は急性期症状の改善と再燃の予防です。この疾患に関しては良性腫瘍であり、照射の目的は症状緩和になります。眼窩内に浸潤したリンパ球に対して直接作用し、そのリンパ球が誘因の症状を抑制します。
放射線治療とステロイドの同時併用は、急性期でかつ症状が顕著な場合に特に有効です。慢性期に入ると眼筋の線維化が著明となり、眼球運動制限をきたすことがありますので、このような場合には眼窩減圧術、外眼筋手術、眼瞼手術等の外科的治療が有効となります。

〇放射線治療について

放射線治療を始めるにあたり、シェルと呼ばれる固定具を患者さんに合わせて作成します(写真1)。
シェル作成後CTを撮影し、得られた画像から3次元的に治療計画を行います。治療計画の際は照射部位およびリスク臓器の位置関係を十分考慮し照射範囲を決定します。
照射方法は通常4~6MVのX線を用いて側方からの2門照射で行います。照射のビーム軸を傾けるなどして水晶体の防御に配慮します。線量は2.0Gy/day×10回(5回/週で行う)合計20Gyが標準的な線量となります(写真2:次ページ)。

放射線治療の合併症としては、照射線量が少ないため重篤な有害事象は少ないですが、晩期有害事象として白内障が起こる頻度が多くなります。治療計画の段階で十分考慮しますが、もし白内障を発症してしまった場合でも水晶体手術で治療が可能です。ただし放射線網膜症については注意が必要で、20Gyという線量での発症は稀ですが、高血圧や糖尿病を合併するリスクが高く、特に糖尿病については禁忌とする場合もあります。
放射線治療により、眼瞼の浮腫や眼球突出等の症状改善は照射中に認められてくる場合もありますが、多くの場合、照射終了後1〜2 カ月くらいで効果がみられ、安定するのに6カ月以上かかるとされています(写真3,4)。

参考文献
1)Tsujino K, Hirota S, Hagiwara M, et al . Clinical outcomes of orbital irradiation combined with or without systemic high-dose or pulsed corticosteroids for Graves’ ophthalmopathy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 48:857-864, 2000.
2)Marcocci C, Bartalena L, Tanda ML, et al. Comparison of the effectiveness and tolerability of intravenous or oral glucocorticoids associated with orbital radiotherapy in the management of severe Graves’ ophthalmopathy:results of a prospective, single-blind, randomized study. J Clin Endocrinol Metab 86:3562-3567, 2001.

核医学画像診断における 「サイン」 とは?


核医学診断は目的とする臓器や組織の何を知りたいかにより検査方法や投与される放射性医薬品が全て異なるという特徴についてこれまで何回か触れる機会がありました。
それぞれの医薬品が多く集まる、集まりが少ないなどで臨床情報を捉えていますが、集まり方が特徴的なものについては「○○サイン」として診断に有用な情報となります。今回は「サイン」の入門編という形で、骨シンチグラムやガリウムシンチグラムなどの画像診断における「サイン」をご紹介させていただきます。

核医学認定技師 荒田光俊

Dual Energy CT


今回は、近年注目されているDual Energy CT(以下DECT)についてお話させて頂きます。説明するにあたり、まず従来使用しているCTであるSingle Energy CTの課題について述べ、続いてDual Energy撮影法、そして臨床応用という流れでまとめてみました。

従来CT撮影の課題
ご存知の通り、CTは被写体を輪切りにして3次元で体内の情報を取得出来る有能な装置ですが、実は以下のような従来のCTでは克服できない課題があります。
① CT値の違いが画像の濃淡差として表現されますが、異なる物質であってもCT値が近い場合濃淡差が付かず判別がつかないことや、同一の物質でもその密度が異なるとCT値が変化してしまう:図1参照
② X線高吸収物質(骨や金属、造影剤)に起因するアーチファクト(ビームハードニングアーチファクト)が発生してしまう:図2参照

Dual Energy撮影法
Dual energy撮影は、前述した従来のSingle energy CTの課題を克服する方法として2つのエネルギーのX線(=Dual Energyを利用する撮影法です。

従来CTでは120kVという単一のエネルギーが使用されてきましたが、デュアルエナジー撮影では異なる2つのエネルギー(140kV等の高エネルギーと80kV等の低エネルギー)が使用されます。

ここで、2つのエネルギーを使用した例を図3に示します。横軸をエネルギー、縦軸をCT値とし、赤:物質a、緑:物質b、青:物質cとします。物質a、物質bに注目して頂くと、2つのエネルギーを使用することで一方のエネルギーでは同じCT値を示しても(電圧A)、もう一方のエネルギーでは異なるCT値を示します(電圧B)。

以上より、別々の物質だと同定できる=着目したい物質のみにフォーカスして表示できるという仕組みです。
さらに、このように異なったエネルギーで撮影する為、様々な種類の画像を得ることも可能になり、それがビームハードニングアーチファクトを抑えた画像の作成につながります。
この2つのエネルギーの取得方法はCTメーカー各社で異なり、以下の方法があります。
①X線管を2回転させて同じ部位を1回転ごとに異なるエネルギーで撮影する(2回転方式)
②CT装置に2つ管球を搭載し、異なるエネルギーで撮影する(2管球方式)
③1つの管球で高速で電圧を切替ながら撮影する(高速スイッチング方式)
④得られたエネルギーを、検出器側で低・高エネルギーに分ける(2層検出器方式)
各方式はそれぞれに特徴がありますが、今回は割愛させて頂きます。

臨床応用
では最後に、Dual Energy技術を利用して得られる画像をいくつか紹介したいと思います。

・腎結石の成分同定

尿管結石では、シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム結石か、それ以外なのかの鑑別が治療方針を決定する上で重要ですが、どちらの結石も通常のCTでは高いCT値を示し白く写る為その鑑別は困難です。しかし、DECTを用いれば図のようにカルシウム結石を青、それ以外を赤というように、成分の違いを可視化することができます。

・石灰化除去

 従来は困難であった石灰化を伴う血管の内腔評価が可能になります。

 

単色X線等価画像:ビームハードニングアーチファクトを抑えることができる

・金属からのアーチファクトを低減

上腕骨骨折術後など、プレートのアーチファクトにより評価困難な部分もX線のエネルギーを変えることにより、アーチファクトが低減され評価可能になります。

下の写真のように、50KeVから190KeVに変更していくと、金属プレートからのアーチファクト(ビームハードニングアーチファクト)が、高いエネルギーになるほど少なくなっていることがわかります。(赤丸)

X線CT認定技師 江上 桂

~胃X線検査「透視観察手順」の重要性~


●基準撮影法の普及
スクリーニング胃X線検査(以下、胃X線検査)については、2009年にNPO日本消化器がん検診精度管理評価機構より提案された基準撮影法が広く浸透し、早期胃がんの拾い上げに、ある一定の効果を得ています。日本消化器がん検診学会から毎年報告されている、消化器がん検診全国集計(平成26年度)によると、胃X線検診による胃癌発見率は0.120%で内視鏡検診の0.19%と、それぞれの受検対象年齢を加味すると、さほど遜色を感じることができません。また特筆すべきは早期がん率で、進達度M、SMにとどまる早期胃癌は全体の74.2%と一昔では考えられない高率で救命可能の胃癌を拾い上げることができております。その理由はDR,FPDといったデジタル画像の台頭や高濃度低粘性バリウムを使用した二重造影像主体の撮影法など、多岐にわたるのですが、やはり、撮影読影のシステムを一新し、構築浸透させたこのモダリティに携わる技師、医師たちの熱意であると個人的には思っております。

●とっても大事な検査時読影力
しかし当然のことながら、見まねで基準撮影法どおり撮影していれば、早期がんが拾い上げられるわけではなく、それには熟練した撮影技術(+話術)と、透視観察時に求められる高い読影力(検査時読影力と呼んでます)が求められます。 これらを欠かすと、基準撮影法といえども、進行がんですらも見逃す危険性もあることは、我々技師の間でも共通認識として知っておかなくてはならないと思っております。

 

●透視観察手順をマニュアル化
そこで、我々の施設では現在、胃X線検査において、全ての胃壁において病変の見逃しがないように「透視観察手順」を検討し、マニュアル化を進めております。当院の撮影ルーチンは、基準撮影法2+任意撮影の14体位にて構成されておりますが、このマニュアルには、撮影体位の基準のみならず、その体位変換の間のどこで透視をオンにして、どの壁在を流れるバリウムを観察するか、またどこで透視をオフにしてX線被ばくを低減させるかなどを、事細かく記載されております。透視の画質も、黒潰れや白とびの解消、空間分解能の向上など昔のアナログの時代とは比べ物にならなく改善されてよくなっております。あとは我々技師の観察能が検査の精度を左右するといっても過言ではありません。
透視観察が基準化されることにより、検査がさらに基準化され術者によって異なる検査精度やX線被ばくの格差が是正されることにより、被検者にとってよりよい検査をご提供できればと思っております。
今後も栄区そして近隣の皆様のがん検診の中核として、安全で精度の高い検査を行っていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたしします。

 


横山力也
日本消化器がん検診学会認定 胃がん検診専門技師、
NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構 胃がん検診読影部門 B資格
神奈川県消化器がん一次検診機関連絡協議会 技術部世話人

造影剤を使用しないで血管撮影!! 〜下肢動脈編〜


MRIで造影剤を使わずに頭部血管を描出できることは以前に他の技師から紹介させていただきました。実は他の部位の血管も造影剤を使わず描出可能です。今回はその一つである下肢動脈の検査についてご紹介させていただきます。

下肢動脈でも造影剤なし!

まずは撮影の手順を紹介します。
①検査着に着替えてもらい、MRI室に入ります。
②検査は仰向けで行います。足先まで覆うようにコイルを配置し、指にはセンサーを装着します。良い画像を得るために足は動かさないように患者さんにご協力いただきます。
③センサーにより心電同期させ拡張期と収縮期の画像を撮像します。
2つの画像から動脈がよく描出される画像が得られます。(下記で詳しく説明します。)
④下腿部・大腿部・骨盤部の3部位に分けて撮影し、最後に合成します。

動脈だけを画像にするには…

動脈は収縮期において血流が速いため信号が抜け描出されず、拡張期では血流速度が緩やかになるため高信号を示します。
静脈は心周期に依存することなく血流速度が遅いため、どのタイミングでも高信号に描出されます。
よって、拡張期から収縮期の画像を差分することで動脈画像となります。

CT  vs  MRI

造影剤を使用したCT画像と比較してみました。
例えば下肢痛でASOを疑った場合、エコー検査やABI測定などの生理検査で下肢血流低下を判定してから造影CTを撮影します。
CT画像の結果次第でEVT治療(カテーテル治療)の適応などを判断しますが、このCT画像(左)のように石灰化が多いと血管の狭窄部位の同定は困難です。
このような場合に、MRI撮影を行うと(右)石灰化部分の評価が可能となります。

今回紹介した撮影方法で造影剤を使用せずに石灰化の影響を受けず下肢動脈の評価が行えます。さらにMRIでの撮影なので被ばくがありません。たくさんのメリットがありますが、もちろんデメリットもあります。
まずは検査時間です。約30~40分と長時間の検査となります。その間は動かないでいただく必要がある為、患者さんの状態次第では検査不適応となってしまう場合もあります。さらに、不整脈がある場合には画像の収集がうまくできずきれいな動脈像が得られないこともあります。
メリット、デメリットが共にありますが、そんな中でもMRIによる検査が選択されているケースには腎機能不良や若年者、石灰化が多く評価困難な症例が挙げられます。
やはり造影剤を使うことなく行えることが最大のメリットなので、これからも様々なケースを経験し生かしていくことでこの検査に適応できる方を増やしていきたいと思います。

石井泰貴

ヘリカルスキャンは万能ではない!!:CT特集アーカイブ


ヘリカルスキャンは高速撮影が可能!

CT撮影には大きく分けて2つの方式があります。

頭部撮影の撮影モードはコンベンショナルスキャンとヘリカルスキャンの2通りあり、それぞれの特徴を模式図と共に下記に示します。

コンベンショナルスキャン(コンベンショナルとは「従来の」という意味)では、スキャンと寝台の移動が交互に行われます。一枚撮影したらベッドが移動し引き続き撮影という流れを繰り返す撮影で、CT撮影の基本撮影法です。一方、ヘリカルスキャンは寝台移動とスキャンが連続的に行われるもので、撮影しながらベッドが移動する撮影法です。スキャン軌道が螺旋を描くため、ヘリカルスキャンや螺旋スキャン、またスパイラルスキャンとも呼ばれます。原理的な詳細は割愛させて頂きますが、この二つの方式には次の表のような特徴があります。

ヘリカルスキャンは万能ではない!!

先述した撮影方式の違いにより、ヘリカルスキャンを用いるとCT撮影のスピードは圧倒的に速くなります。(頭部CTで3秒程度で撮影可)その為、救急時における頭部撮影では患者の体動を考慮し、ヘリカルスキャンを選択する場合が多いです。しかし、ヘリカルスキャンではチルト機能(装置を傾けて撮影する)が出来ない為、注意する点もあり今回はその事例をお示ししたいと思います。
図1-bは、頭部CTの画像です。CTでは同一スライス面上に金属などの高吸収体がある場合、図1-bのような放射状の偽陰影を生じてしまいます。図1-aは本スキャン前の位置決め画像で、この画像から撮影範囲の設定を行います。黄色線は、図1-bにおけるスライス面を示しています。図1-aと図1-bを見比べて頂くとわかるように、橋と義歯が同一スライスに存在してしまうためアーチファクトによって橋及び脳実質の描出がやや不良となっていることがわかります。

この影響を無くす方法は、患者の体位を変えるかスキャン方式を変えるかによって、観察したい部位が義歯と同じスライスとならないようにする必要があります。患者の体位を変えるとは、具体的には顎を引き頭を高くしスライス面内に義歯が入らないようにすることです。また、スキャン走査方向を変えるとはチルト機構を利用することです。チルトとは「傾ける」という意味で、図2のようにCT装置自体に傾斜をつけて走査を行うものです。こうすることで義歯の影響を避ける事が可能となり、図2-bに示すように、橋の横にある所見が明瞭に描出されるようになります。反面、この撮影方式ではヘリカルスキャンが行えず、冠状断や矢状断といった画像再構成ができません。

これらのことを考慮し適切な撮影体位にすること、適宜最適なスキャン方法を選択することを心掛けて撮影しています。

江上桂 X線CT認定技師

*この記事はR@H2014年9月号に掲載した内容を再編集したものになります。

 

マニアック?なレントゲン撮影用の小道具を御紹介します ー散乱線除去用グリッドー


私達、放射線技師は先生により良い画像を提供するため日々撮影に努力しております。今回は、良い画像を撮影するために撮影の際使用している道具を一つ紹介させて頂きます。画像の評価に一番影響を与えるのは二次的に発生する散乱線です。X線を体に照射すると体内で散乱線が発生します。この散乱線が画像のコントラストを低下させる原因になります (図1)。よって良い画像にするためには、この散乱線がフイルム(カッセテ)に到達する前に除去しなければなりません。そのために作られたフィルターがグリッドであります。

 構造は鉛とアルミを数ミリ間隔で配置してます。X線管から放射されたX線(一次X線と呼ぶ)は放射状の軌道で放出されますが、散乱線は体と一次X線との相互作用によりランダムな軌道を描きます。このランダムな軌道を取った散乱線をグリッドの間隙(鉛)が吸収することにより散乱線を除去します。(図2)

 形はカセッテと同じ四角形で大きさはさまざまですが50㎝×30㎝などで厚さは数ミリ程度です。フイルムと患者さんの間に配置します。(図3)

画像に影響を与える散乱線は体部の厚さが10~15㎝以上の時と言われていますのでグリッドを使用する撮影部位としては頭部・胸部・腹部・脊髄・肩・大腿骨などです。比較的、厚みが薄い手関節・指などには使用しません。ただし、グリッドは散乱線を除去してくれるのですが必要なX線も一部吸収してしまうため照射線量を増やさなければなりません。
今後も先生に良い画像を提供するため一生懸命努力していきたいと思います。

*この記事はR@H2014年に掲載した内容を再編集したものになります。

最先端! CT展示会にいってQ!!


毎年4月にパシフィコ横浜で医学放射線学会と放射線技術学会、そして医用画像総合展という画像診断関連機器の展示会が行われています。全国からたくさんの放射線科医師や技師、メーカー、物理学者などが参加する学会で私も毎年参加しています。この機器展示会ではメーカー各社が最新の装置を展示しており、大変にぎわいのある会となっています。今回私はCT装置メーカーを回ってお話を聞いてきました。最先端CT装置メーカーというと数社あり、CTマニアの間でも意見がありますが、私としては唯一2管球型という装置(従来のCT装置ですとエックス線を出力するエックス線管球という部品が1台に1つしかなかったところが2個ついているもの)を開発しているSIEMENSの装置が最も優れていると思いますので、その装置を例に最先端のCTでできることを簡単にご紹介したいと思います。

胸のCTが1秒以下で!?

2つのエックス線管球がついているので、撮影が倍速になります。最近の装置は高速化が進んでいるので1つの管球だけの装置でも十分といえるスピードを持ちますが、この方式ですとその高速CTのさらに倍なので圧倒的に速い撮影ができるというアドバンテージがあります。ここまで速いと冠動脈のCT撮影も失敗なくできるようですし、胸部の撮影でも息を止める必要もなく、心臓周囲の肺も通常ですとぶれてしまいますがここも静止した画像を得ることができるようです。

造影剤が半分以下でOK

2つの管球を持つことで、出力も倍にすることができます。CT装置の撮影ではエックス線のエネルギーを変更することができるのですが、いままで120kvという透過力が高いエネルギーのものを利用していたのですが、たくさんのエックス線を出せる為、この装置では透過力の弱い70kvが使えるようになりました。70kvでは造影剤を濃く映し出す効果があります。ですから、これを利用すると半分の造影剤でも撮影できるようになるのです。当院の装置でも同じようなことができるのですが、1管球なので、大量のエックス線を出すのに時間がかかり実用的ではありません。それでも当院の江上技師が色々と工夫して一部の検査で利用しています。

なんと!D撮影!!

撮影時間が短いことから、連続で同じ部位を撮影し続けることもできます。要は動画撮影になります。DSA検査のように造影剤が大動脈から頸動脈、脳動脈に入ってその後静脈を経て心臓にもどるまでを連続で撮影できる機能です。造影剤の動態や脳動脈瘤の脆弱な部分(ブレブ)を観察することも出来るそうです。

後から造影剤の濃度を変えられる!?

これは2つのエックス線管から2種類のエネルギーを出力させて撮影する方式でデュアルエナジー撮影と呼ばれる方式です。造影剤の見え方を撮影後に変えることができます。これを利用することで造影剤がない画像を作ることもできます。また骨のない画像や石灰化だけを除いた画像、結石の性状をみる画像、造影剤量の定量などができます。この機能で読影が楽しくなると実際に利用している放射線科医がおっしゃっていました。

最先端装置では以上のような高度な画像を撮影することができます。あらゆる応用がきくので使いこなせるのかという気もします。しかしこの装置の特徴はパワーがあって速いというところにあり、機能が沢山あるというわけではないため自然に使いこなすことが出来る良く考えられた装置だと感じています。iphoneのようにスペックが高いものほど主婦や女子高生が使いこなせてしまうのと同じです。職人のような放射線科医と技師が組んで使わないと活きて来ないようなタイプの装置もあり、それはそれでやってる方は面白いのですが、この装置のように高度な事が誰でもできるという方が時代に合っていると思っています。
X線CT認定技師 保田英志
写真引用 https://www.healthcare.siemens.co.jp/computed-tomography/imaging-contest/award2016