シリーズ 放射線治療適応について ケロイド


放射線治療の適応疾患として、今回はケロイドについて紹介します。
ケロイドとは瘢痕組織が過剰に増殖した病変で、良性線維増殖性病変に分類されます。原因は明らかになっていませんが、体質的な要素が強いようです。手術後のケロイドや、ピアス後のケロイド、ニキビ跡のケロイドなど様々なケースがあります。しかし、いずれも誘因は傷です。
ケロイドの治療方法は、飲み薬、塗り薬、はり薬、注射、レーザーなど手術をしない方法が一般的ですが、ひきつれ(瘢痕拘縮)や痛み、かゆみ、目立つところで醜状が問題となれば、手術が選択されます。しかし、ケロイドは従来から安易に手術してはいけないとされてきました。なぜならケロイドを楕円形に切り取って縫い縮めると、少し長めの直線の傷となり、もしそこから新たなケロイドや肥厚性瘢痕が再発すると、以前より大きなものになってしまうからです(図1)。

そこで現在は、できる限り再発しないような縫い方の工夫をし、さらには放射線療法を併用することで、これらの問題を解決する事が出来るようになりました。傷跡を完全になくすことは難しいですが、極力目立たなくすることは可能になってきています(図2)。

http://www.nms-prs.com/original6.htmlより引用

〇ケロイドの放射線治療

悪性腫瘍などは体表から深いところにあるため、X線を用いますが、ケロイドは体表面に存在するため、表在X線または電子線を使用します(現在は電子線が主流)。
放射線治療の目的は、ケロイドの原因である線維芽細胞の異常な働きを抑えることです。
照射は術後早期に開始する方が良いとされているため、術後当日もしくは翌日には照射を開始します。創傷は被覆材で術創を被い、創傷部から5~10mmのマージンを加えて照射範囲とします。照射する形状が人それぞれ違うため、患者さんごとに鉛板で照射野形状を作成します。使用するエネルギーは2~6MeVの電子線で、15〜20Gy/3〜4回でおこなうのが一般的です(図2)。
放射線治療による合併症は、照射野内の色素沈着がありますが、時間が経過すると共に徐々に消失していきます。

当院でもケロイドの放射線治療が可能です。先生のご施設でケロイドに悩んでいる方がおられましたらご紹介頂ければと思います。少しでも患者様の精神的苦痛緩和のお手伝いができればと思います。

CT 装置 更新しました!


旧CTの解体・回収

写真1、2が今回新CT導入に伴い撤去となったCT装置で、13年という長期間稼働していたシーメンス社製16列CTです。当院では同じシーメンス社製の64列CTが現在も稼働していますが、64列CT導入以前はこの16列CTで心臓CT等の複雑な検査も行っていました。16列CTは長きにわたり活躍してくれた装置です。私は今年で働き始めて9年目になりますが、このCTから沢山学ばせてもらいました。
解体・回収作業(写真3)は約2日という短期間で終了し、その後、床・天井・壁の塗装や空調整備期間として約1週間程度かかり、新CT設置の準備が完了しました。

新CTの設置・稼働

写真5が新たに導入となったGE社製64列のDual-Energy CTです。設置期間はとても短く約2日程度で、その後メーカーによる装置の点検等の引き渡し試験が行われ、最後に横浜市からの使用許可を受け、旧CT解体期間を合わせて約3週間で新CT稼働となりました。
これで当院ではシーメンス社製64列CTとGE社製64列CTの2台体制となり、検査効率の向上やDual-Energy技術によって行える新たな撮影が可能となりました。

CT装置更新という機会に立ち会うのは初めての経験でしたが、その短さに驚かされました。しかしながら短期間とは言え装置更新に伴いCT装置が1台体制となってしまう中で、できる限り検査数を落とさずに運用する為の方法や事前準備を学べたことは、今後にも生かせる貴重な経験となりました。
新CTでは新たな技術を駆使した撮影方法が可能となり、造影剤の減量・被曝線量の低減・定量解析等が行えるようになりました。これらの技術を最大限に活用していけるよう撮影技術の習得に力を入れていきます。

X線CT専門技師 江上 桂

今月の症例 (「R@H」2018年1月号掲載)


問題:81歳、男性。腹痛、嘔吐、下痢あり 。

下の画像から想定される疾患はなんでしょうか?



解答:腸重積

A:横行結腸に拡張した腸管を認め、その内部には周囲に血管(→)と脂肪組織(→)を伴った上行結腸(→)が陥入しています。壁の造影効果は保たれており、明らかな虚血を疑う所見は指摘できません。
B,C:陥入した腸管の先進部には、不均一に造影効果を示す腫瘤が認められます(○)。

腸重積は腸管の肛門側に口側の腸管が入り込んで嵌頓した状態を言い、腸管および腸間膜が絞扼し血行障害が起こり、絞扼性腸閉塞から腸管壊死となるリスクがあるため、早期の診断、加療が重要となる疾患です。小児の発症が一般的で成人発症はまれな疾患です。小児では好発部位は回腸で、多くは原因不明ですが、少数例でMeckel憩室やポリープなどの器質的要因が認められることがあります。成人では消化管腫瘍(癌、粘膜下腫瘍、悪性腫瘍、ポリープなど)が腸管の蠕動運動によって肛門側へ引き込まれることが原因となっていることが多く、嵌入部位は様々です。小児の場合には症状と触診によって診断がついてしまうことが多いですが、成人の場合、症状は非特異的で、他の急性腹症との臨床的な鑑別は困難であることが多いです。画像診断に関しては超音波検査では重複した腸管が横断面で的のように見えるtarget sign、長軸方向で腎臓のように見えるpseudo-kidney signが知られています。CTでは超音波検査と同様に、重複した腸管が層状構造として描出され、嵌入部に腸間膜の血管や脂肪が認められます。小児では注腸造影や高圧浣腸による非観血的整復法で整復されることが多いですが、成人では腫瘍が原因となっていることが多く、開腹手術が原則であるため、重積先進部に注意する必要があります。本症例でも開腹手術が施行され、病理で横行結腸癌と診断されています。(文:放射線科医師 大森)

【参考文献】
・わかる!役立つ!消化管の画像診断 秀潤社
・すぐ役立つ救急のCT・MRI など 秀潤社 など

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑦ 番外編 乳がんのサブタイプとは


乳がんと一言で言っても、様々な臨床経過をとるものがあることは皆さまご存知だと思います。例えば昨年亡くなった某元アナウンサーさんの乳がんのように、発見されてからあっという間に転移して患者さんの命を奪ってしまう乳がんもあります。その一方でしこりに気づいていながら何年も放っておいても転移を起こさず、皮膚潰瘍を作って初めて患者さんが受診するなんてことも時々起こります。その違いはなんでしょうか?
それは「サブタイプ」の違いなのです。最近の乳がんの治療においては、何をおいてもまず「サブタイプ」を知らなければ治療も始まらないくらい重要な概念です。患者さんもよく勉強していて、「サブタイプはなんですか?」と聞いてこられる患者さんも最近は少なくありません。しかしここ10年くらいで一般的になってきた概念なので、他科の先生方にとっては「何となく聞いたことあるけど。。」くらいかもしれませんね。今回はサブタイプのお話をしたいと思います 。

トリプルネガティブ乳がん?

乳がんの治療薬にタモキシフェン、アナストロゾールなどの「内分泌療法」、ハーセプチン®などの「抗HER2療法」があります。非常にざっくり言いますと現在臨床で使用しているサブタイプ分類は内分泌療法や抗HER2療法の効果がありそうか否かで4分割しています。
内分泌療法も抗HER2療法も効果が期待できない乳がんが「トリプルネガティブ乳がん」です。
エストロゲンと結合し乳がんの増殖を促す「エストロゲン受容体(ER)」の発現があれば、Luminalタイプとします。また細胞膜表面に存在するチロシンキナーゼで細胞の増殖、分化の調節に関与する「ヒト上皮増殖因子受容体ー2(HER2)」の過剰発現があるかどうかでHER2陽性、HER陰性に分類します。ER陽性の乳がんの増殖はERにエストロゲンが結合することによって惹起されます。よってER陽性の乳がんに対してはERを標的にした内分泌療法の効果が期待できます。HER2 が過剰発現しているがんにはHER2タンパクを標的とした抗HER2療法の効果が期待できます。乳がんだけではなく胃がんの一部でもHER2の過剰発現があり、最近は胃がんでも抗HER2療法が行われるようになっています。抗HER2療法は単剤よりもタキサンなどの抗がん剤と併用すると抗腫瘍効果が高まるので通常化学療法と併用療法します。トリプルネガティブ乳がんに対しては化学療法が薬物療法の決め手となります。

 

Luminal Aタイプ、Bタイプ

ER陽性乳がんならば必ず内分泌療法が効くのかと言われると、そう簡単ではありません。実際に治療してみると思ったほど効果がないこともあります。一方で非常によく治療が効いて遠隔転移のある状態ながら5年以上元気でいられるような乳がんも珍しくはありません。そのような乳がんの中にはLuminalタイプがよくみられます。

同じLuminalタイプの中でも様々な臨床経過を取るものがあります。内分泌療法がよく効いてゆっくり進行するLuminal Aと、そうではないLuminal Bタイプにさらに分けて考えます。臨床的にはER,PgRの両方が高発現していてかつHER2陰性、核異型が軽度(Grade1)、細胞増殖マーカーであるKi67の発現が軽度という条件の全てを満たす場合をLuminal Aタイプと定義しています。臨床的特徴として比較的増殖がゆっくりで予後が良いことが挙げられます。
また内分泌療法の感受性は高いが化学療法の感腫瘍細胞の核内には高くないく、比較的晩期再発が多く、再発してからの生存期間は長い傾向にあります。遠隔転移の治療をしながら5年以上元気でいられたり、術後20年以上経って再発するような患者さんを乳がんでは時々経験しますが、このような乳がんのほとんどLuminal Aタイプです。
しかしER陽性でも内分泌治療が奏功せずあっという間に進行してしまうことも度々あります。このような乳がんはLuminal Bタイプに含まれます。昨年亡くなられた某元アナウンサーさんの乳がんもおそらこのタイプのがんであったと推測します。
Luminal B は Luminal A以外というのが定義で、AとBの間にはっきり線を引けるわけではなく連続的なものです。現在使用されている定義も流動的です。

これぞ!高級マットレス!?


最近はご高齢の方が検査する機会が増え、円背の患者さんも1日に何人もMRI撮影にいらっしゃいます。
当然、円背しているとまっすぐ寝ることは出来ず、なおかつ頭部は顎が上がった状態になります。(このポジショニングだと頭部MRIや頭部血管の撮影に悪い影響を及ぼしてしまうことがあります。)

さらに、曲がった背中が常に寝台にあたるため検査中は痛みが続き、動いてしまうことで検査が上手くいかないこともあります。そこで、当院では 円背姿勢の患者さんに対してMRI用スパインマットレスというのを使用しておりますので、ご紹介したいと思います。

MRI用スパインマットレス
円背姿勢の方が平らな寝台に横たわる際には、頭頂が下がり顎が上がった状態になります。
そこでスパインマットレスを用いると、患者さんの足が自然に上がり、頭部位置が下がり顎を引いた状態に近づけることが出来ます。長時間の検査でも、円背患者さんにとって無理のない体勢を維持し、検査を円滑に進める事ができます。

さらに、臀部から脊柱部にかけて、左右からの傾斜を設け安定したホールド感をもたらす新タイプのスパインマットレスが追加されました。背骨があたる中心部はクッションを抜き圧力を分散することにより、背骨のマット底打ちによる痛みを大幅に軽減できる形状です。実際に患者さんには非常に好評を得ています。CT検査で使っている施設もあるようです。MRI検査は他の検査に比べて、検査にかかる時間が長いですのでこのような患者さんが少しでも楽になるような補助具は必要ですね。

甲状腺眼症


甲状腺眼症とは甲状腺機能亢進症に関連した眼窩内の炎症に伴う症状のことをいいます。
外眼筋の肥大と眼窩脂肪の増量をきたし、複視や眼球突出等が引き起こされます。その他の症状としては眼瞼の浮腫、流涙、眼痛等があります。炎症が高度な症例ではCTやMRI でも外眼筋の肥厚や脂肪組織の増加が容易に確認できます。

〇治療方法について

治療法は重症度に応じて選択されます。軽度の場合は甲状腺機能を正常に保ちつつ禁煙や点眼などによる保存的な治療を行う場合が一般的です。中等度から重症の症例に対しては放射線治療が選択されます。また、ステロイドも同様に有効とされ、ステロイドのみの治療での奏効率は50~70%、ステロイドパルス療法(静脈内投与)と放射線治療の同時併用では90%を超える奏効率が報告されています1,2。
甲状腺眼症は喫煙により治療効果が落ちるという報告もあるため、禁煙が望ましいとされています。
放射線治療の目的は急性期症状の改善と再燃の予防です。この疾患に関しては良性腫瘍であり、照射の目的は症状緩和になります。眼窩内に浸潤したリンパ球に対して直接作用し、そのリンパ球が誘因の症状を抑制します。
放射線治療とステロイドの同時併用は、急性期でかつ症状が顕著な場合に特に有効です。慢性期に入ると眼筋の線維化が著明となり、眼球運動制限をきたすことがありますので、このような場合には眼窩減圧術、外眼筋手術、眼瞼手術等の外科的治療が有効となります。

〇放射線治療について

放射線治療を始めるにあたり、シェルと呼ばれる固定具を患者さんに合わせて作成します(写真1)。
シェル作成後CTを撮影し、得られた画像から3次元的に治療計画を行います。治療計画の際は照射部位およびリスク臓器の位置関係を十分考慮し照射範囲を決定します。
照射方法は通常4~6MVのX線を用いて側方からの2門照射で行います。照射のビーム軸を傾けるなどして水晶体の防御に配慮します。線量は2.0Gy/day×10回(5回/週で行う)合計20Gyが標準的な線量となります(写真2:次ページ)。

放射線治療の合併症としては、照射線量が少ないため重篤な有害事象は少ないですが、晩期有害事象として白内障が起こる頻度が多くなります。治療計画の段階で十分考慮しますが、もし白内障を発症してしまった場合でも水晶体手術で治療が可能です。ただし放射線網膜症については注意が必要で、20Gyという線量での発症は稀ですが、高血圧や糖尿病を合併するリスクが高く、特に糖尿病については禁忌とする場合もあります。
放射線治療により、眼瞼の浮腫や眼球突出等の症状改善は照射中に認められてくる場合もありますが、多くの場合、照射終了後1〜2 カ月くらいで効果がみられ、安定するのに6カ月以上かかるとされています(写真3,4)。

参考文献
1)Tsujino K, Hirota S, Hagiwara M, et al . Clinical outcomes of orbital irradiation combined with or without systemic high-dose or pulsed corticosteroids for Graves’ ophthalmopathy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 48:857-864, 2000.
2)Marcocci C, Bartalena L, Tanda ML, et al. Comparison of the effectiveness and tolerability of intravenous or oral glucocorticoids associated with orbital radiotherapy in the management of severe Graves’ ophthalmopathy:results of a prospective, single-blind, randomized study. J Clin Endocrinol Metab 86:3562-3567, 2001.

核医学画像診断における 「サイン」 とは?


核医学診断は目的とする臓器や組織の何を知りたいかにより検査方法や投与される放射性医薬品が全て異なるという特徴についてこれまで何回か触れる機会がありました。
それぞれの医薬品が多く集まる、集まりが少ないなどで臨床情報を捉えていますが、集まり方が特徴的なものについては「○○サイン」として診断に有用な情報となります。今回は「サイン」の入門編という形で、骨シンチグラムやガリウムシンチグラムなどの画像診断における「サイン」をご紹介させていただきます。

核医学認定技師 荒田光俊

Dual Energy CT


今回は、近年注目されているDual Energy CT(以下DECT)についてお話させて頂きます。説明するにあたり、まず従来使用しているCTであるSingle Energy CTの課題について述べ、続いてDual Energy撮影法、そして臨床応用という流れでまとめてみました。

従来CT撮影の課題
ご存知の通り、CTは被写体を輪切りにして3次元で体内の情報を取得出来る有能な装置ですが、実は以下のような従来のCTでは克服できない課題があります。
① CT値の違いが画像の濃淡差として表現されますが、異なる物質であってもCT値が近い場合濃淡差が付かず判別がつかないことや、同一の物質でもその密度が異なるとCT値が変化してしまう:図1参照
② X線高吸収物質(骨や金属、造影剤)に起因するアーチファクト(ビームハードニングアーチファクト)が発生してしまう:図2参照

Dual Energy撮影法
Dual energy撮影は、前述した従来のSingle energy CTの課題を克服する方法として2つのエネルギーのX線(=Dual Energyを利用する撮影法です。

従来CTでは120kVという単一のエネルギーが使用されてきましたが、デュアルエナジー撮影では異なる2つのエネルギー(140kV等の高エネルギーと80kV等の低エネルギー)が使用されます。

ここで、2つのエネルギーを使用した例を図3に示します。横軸をエネルギー、縦軸をCT値とし、赤:物質a、緑:物質b、青:物質cとします。物質a、物質bに注目して頂くと、2つのエネルギーを使用することで一方のエネルギーでは同じCT値を示しても(電圧A)、もう一方のエネルギーでは異なるCT値を示します(電圧B)。

以上より、別々の物質だと同定できる=着目したい物質のみにフォーカスして表示できるという仕組みです。
さらに、このように異なったエネルギーで撮影する為、様々な種類の画像を得ることも可能になり、それがビームハードニングアーチファクトを抑えた画像の作成につながります。
この2つのエネルギーの取得方法はCTメーカー各社で異なり、以下の方法があります。
①X線管を2回転させて同じ部位を1回転ごとに異なるエネルギーで撮影する(2回転方式)
②CT装置に2つ管球を搭載し、異なるエネルギーで撮影する(2管球方式)
③1つの管球で高速で電圧を切替ながら撮影する(高速スイッチング方式)
④得られたエネルギーを、検出器側で低・高エネルギーに分ける(2層検出器方式)
各方式はそれぞれに特徴がありますが、今回は割愛させて頂きます。

臨床応用
では最後に、Dual Energy技術を利用して得られる画像をいくつか紹介したいと思います。

・腎結石の成分同定

尿管結石では、シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム結石か、それ以外なのかの鑑別が治療方針を決定する上で重要ですが、どちらの結石も通常のCTでは高いCT値を示し白く写る為その鑑別は困難です。しかし、DECTを用いれば図のようにカルシウム結石を青、それ以外を赤というように、成分の違いを可視化することができます。

・石灰化除去

 従来は困難であった石灰化を伴う血管の内腔評価が可能になります。

 

単色X線等価画像:ビームハードニングアーチファクトを抑えることができる

・金属からのアーチファクトを低減

上腕骨骨折術後など、プレートのアーチファクトにより評価困難な部分もX線のエネルギーを変えることにより、アーチファクトが低減され評価可能になります。

下の写真のように、50KeVから190KeVに変更していくと、金属プレートからのアーチファクト(ビームハードニングアーチファクト)が、高いエネルギーになるほど少なくなっていることがわかります。(赤丸)

X線CT認定技師 江上 桂

~胃X線検査「透視観察手順」の重要性~


●基準撮影法の普及
スクリーニング胃X線検査(以下、胃X線検査)については、2009年にNPO日本消化器がん検診精度管理評価機構より提案された基準撮影法が広く浸透し、早期胃がんの拾い上げに、ある一定の効果を得ています。日本消化器がん検診学会から毎年報告されている、消化器がん検診全国集計(平成26年度)によると、胃X線検診による胃癌発見率は0.120%で内視鏡検診の0.19%と、それぞれの受検対象年齢を加味すると、さほど遜色を感じることができません。また特筆すべきは早期がん率で、進達度M、SMにとどまる早期胃癌は全体の74.2%と一昔では考えられない高率で救命可能の胃癌を拾い上げることができております。その理由はDR,FPDといったデジタル画像の台頭や高濃度低粘性バリウムを使用した二重造影像主体の撮影法など、多岐にわたるのですが、やはり、撮影読影のシステムを一新し、構築浸透させたこのモダリティに携わる技師、医師たちの熱意であると個人的には思っております。

●とっても大事な検査時読影力
しかし当然のことながら、見まねで基準撮影法どおり撮影していれば、早期がんが拾い上げられるわけではなく、それには熟練した撮影技術(+話術)と、透視観察時に求められる高い読影力(検査時読影力と呼んでます)が求められます。 これらを欠かすと、基準撮影法といえども、進行がんですらも見逃す危険性もあることは、我々技師の間でも共通認識として知っておかなくてはならないと思っております。

 

●透視観察手順をマニュアル化
そこで、我々の施設では現在、胃X線検査において、全ての胃壁において病変の見逃しがないように「透視観察手順」を検討し、マニュアル化を進めております。当院の撮影ルーチンは、基準撮影法2+任意撮影の14体位にて構成されておりますが、このマニュアルには、撮影体位の基準のみならず、その体位変換の間のどこで透視をオンにして、どの壁在を流れるバリウムを観察するか、またどこで透視をオフにしてX線被ばくを低減させるかなどを、事細かく記載されております。透視の画質も、黒潰れや白とびの解消、空間分解能の向上など昔のアナログの時代とは比べ物にならなく改善されてよくなっております。あとは我々技師の観察能が検査の精度を左右するといっても過言ではありません。
透視観察が基準化されることにより、検査がさらに基準化され術者によって異なる検査精度やX線被ばくの格差が是正されることにより、被検者にとってよりよい検査をご提供できればと思っております。
今後も栄区そして近隣の皆様のがん検診の中核として、安全で精度の高い検査を行っていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたしします。

 


横山力也
日本消化器がん検診学会認定 胃がん検診専門技師、
NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構 胃がん検診読影部門 B資格
神奈川県消化器がん一次検診機関連絡協議会 技術部世話人

造影剤を使用しないで血管撮影!! 〜下肢動脈編〜


MRIで造影剤を使わずに頭部血管を描出できることは以前に他の技師から紹介させていただきました。実は他の部位の血管も造影剤を使わず描出可能です。今回はその一つである下肢動脈の検査についてご紹介させていただきます。

下肢動脈でも造影剤なし!

まずは撮影の手順を紹介します。
①検査着に着替えてもらい、MRI室に入ります。
②検査は仰向けで行います。足先まで覆うようにコイルを配置し、指にはセンサーを装着します。良い画像を得るために足は動かさないように患者さんにご協力いただきます。
③センサーにより心電同期させ拡張期と収縮期の画像を撮像します。
2つの画像から動脈がよく描出される画像が得られます。(下記で詳しく説明します。)
④下腿部・大腿部・骨盤部の3部位に分けて撮影し、最後に合成します。

動脈だけを画像にするには…

動脈は収縮期において血流が速いため信号が抜け描出されず、拡張期では血流速度が緩やかになるため高信号を示します。
静脈は心周期に依存することなく血流速度が遅いため、どのタイミングでも高信号に描出されます。
よって、拡張期から収縮期の画像を差分することで動脈画像となります。

CT  vs  MRI

造影剤を使用したCT画像と比較してみました。
例えば下肢痛でASOを疑った場合、エコー検査やABI測定などの生理検査で下肢血流低下を判定してから造影CTを撮影します。
CT画像の結果次第でEVT治療(カテーテル治療)の適応などを判断しますが、このCT画像(左)のように石灰化が多いと血管の狭窄部位の同定は困難です。
このような場合に、MRI撮影を行うと(右)石灰化部分の評価が可能となります。

今回紹介した撮影方法で造影剤を使用せずに石灰化の影響を受けず下肢動脈の評価が行えます。さらにMRIでの撮影なので被ばくがありません。たくさんのメリットがありますが、もちろんデメリットもあります。
まずは検査時間です。約30~40分と長時間の検査となります。その間は動かないでいただく必要がある為、患者さんの状態次第では検査不適応となってしまう場合もあります。さらに、不整脈がある場合には画像の収集がうまくできずきれいな動脈像が得られないこともあります。
メリット、デメリットが共にありますが、そんな中でもMRIによる検査が選択されているケースには腎機能不良や若年者、石灰化が多く評価困難な症例が挙げられます。
やはり造影剤を使うことなく行えることが最大のメリットなので、これからも様々なケースを経験し生かしていくことでこの検査に適応できる方を増やしていきたいと思います。

石井泰貴