今月の症例 2023年6月号掲載


問題:90代 男性   主訴:意識障害
来歴:道で倒れているところを発見され救急搬送となった
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:頭部MRI検査
a:T2 Weighted Imaging (WI)
b:Fluid Attenuated Inversion Recovery (FLAIR)像
c:T2*像
d:拡散強調像(Diffusion Weighted Imaging: DWI)
e:Apparent Diffusion Coefficient map (ADC map)
f:Magnetic Resonance Angiography (MRA像)

図2:頭部MRI検査 DWIの連続画像
a:DWI 放線冠
b:DWI 基底核上部
c:DWI 基底核中部
d:DWI 基底核下部


解答・解説

解答:低血糖脳症

解説

90代男性の意識障害の症例です。来院時血糖は13 mg/dlであり、画像所見や臨床症状と合わせて低血糖脳症の診断となりました。
頭部MRI検査ではDWIで被殻や尾状核に左右対称性に高信号域が認められ、ADC mapでも明瞭な信号低下が見られます。T2WIやFLAIR像でも淡い高信号として描出されています(図3:黄矢印)。また、脳溝に沿った皮質にも拡散強調像で淡い高信号域が見られます(図3:橙矢印)。T2*像では出血所見は指摘できず、MRA検査でも動脈瘤や狭窄所見は指摘できませんでした(左前大脳動脈は一部低形成です)。
拡散強調像の連続画像では側脳室周囲白質から被殻や尾状核、両側内包後脚に沿って高信号域が認められます(図4:黄矢印)。こちらも皮質に沿った高信号域が見られます(図4:橙矢印)。
低血糖による脳障害は糖尿病患者でのインスリン等の薬物使用時などに生じます。症状は脱力や錯乱、性格変化、痙攣など様々で意識障害や昏睡を呈する場合もあります。
低血糖脳症では以前は灰白質 (主に皮質や線条体、海馬) に病変が多いとされていましたが、現在では白質病変が灰白質病変より早期に高頻度に生じると考えられています1)。白質病変では内包などに限局する場合とびまん性に広がる場合があります。病変は左右対称性が多く、稀に片側性の症例もみられます。
病変は拡散強調像で最も早期に検出され、通常はADC mapで信号低下を伴います。機序としては細胞外から細胞内への一過性の体液の移動と考えられています2)。血糖改善に伴いADC mapが正常化する可能性が示唆されている報告も見られます3)。T2WIやFLAIR像でも高信号を示すこともあり、造影効果は認められないことが多いです。
病変の信号変化は内包に始まり、半球の白質に広がります。発症早期に拡散強調像を施行した低血糖患者では約1/3の症例で内包に限局した高信号域が認められ、びまん性白質病変を呈した例よりも予後が良いとされている報告があります4)5) (当院での内包後脚に限局した症例:図5)。参考症例では速やかに血糖値や意識障害は改善し、拡散強調像の所見も経時的に消退しました(図6)。
鑑別は低酸素脳症です。同様の画像所見を認める場合があるものの、低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる点が鑑別点となります。今回症例でも視床や小脳には信号変化は認められませんでした。

症例のポイント
① 低血糖や糖尿病既往
② 早期からの白質病変、内包に限局した症例では予後良好
③ 拡散強調像で高信号、ADC mapで信号低下 (T2WIで高信号となることも)
④ 低酸素脳症との鑑別点:低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる

低血糖脳症の症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105

医療法改正に伴う当院の取り組み


今年度より医療法が改正され、次年度から大きく放射線に関する扱いが変化します。病院にて、放射線安全管理責任者を立てなければなりません。基本医師ですが、放射線関連(事故や放射線障害が出たとき)に関して連絡体制などができていれば診療放射線技師が担うことができるとされています。多くの病院では放射線科医師が適任であると思いますが、大学病院でない場合マンパワーの問題などがあるので診療放射線技師が事実上担うことが予想されます。

放射線もしっかり証拠保全!?

具体的には2020年度より、使用した放射線量(線量)を表示できる装置を有する場合、照射録に記載する撮像条件とは別に個々の患者さんの情報・撮像部位を線量と共に記録する必要があります。CT・血管撮影装置(移動型含む)・核医学撮影装置などが対象です。CTの線量が問題となって、脱毛がおきた事例があります。また血管撮影や循環器領域では透視を使って治療をおこなうために透視時間が問題になります。最近では脳神経領域も治療で血管撮影装置を使うので透視時間が問題になります。一昔前までは透視は診断でしたが、現在では透視は治療と捉えて、適切な透視時間や透視線量を管理しないと放射線障害が起きる可能性があります。

当院ではまず従事者の被ばく管理を徹底的にチェックすることにしました。従事者は線量限度が適用されます。特に循環器系医師、脳神経外科医師、泌尿器科医師、消化器系医師がクローズアップされます。2021年度には水晶体の線量限度が年20mSvになると言われており(現在は150mSv)、大きく規制されます。放射線防護眼鏡が従事者には必須となります。
次に患者さんに放射線検査の正当性と、自院での放射線量、また自院での放射線量の適正化の取り組みを検査前にしなければなりません(ここは当院もこれから検討に入ります)。
このように昨今、放射線の取扱に関して大きく変化していますので十分留意ください。当院で依頼くださるCT検査、核医学検査においては2015年にJRIMEが提唱した線量指標を参考に適切に放射線量を調整していますのでご安心ください。放射線の取扱に関しては自院で指針を作成しなければならないため、当院も作成するための組織づくり・体制づくりを進めています。

放射線技術科 技師長  高橋 光幸

軟部腫瘍のMRI検査


軟部腫瘍の画像診断では、腫瘍の存在診断に始まり、良悪性の鑑別や組織の推定、腫瘍の進展範囲の把握などが行われています。
現在、多くの画像モダリティ(超音波、単純X線撮影、CT、MRIなど)がある中で、組織コントラストに優れ、任意の断面を撮像可能であり、軟部腫瘍に対しての質的診断、広がり診断に優れているMRI検査は極めて重要であり、当院でも月に数例は必ずオーダーされています。
病変部位や腫瘍形態が様々であるため、軟部腫瘍は撮像する技師の腕の見せ所でもあります。

勝負は検査の前から!!

検査前に病変部位を確認し撮像範囲を決めます。
MRI検査の撮像時間は他のモダリティと比べて長く、どの撮像部位でも20~30分はかかる検査であり、患者さんは撮影中、可能な限り動いてはいけません。なかなか大変な検査ですが、われわれ技師はなるべく早く検査を終えてあげたいと考えています。
そこで事前に依頼医からの情報やカルテを確認し、さらに検査前に患者さんと部位の確認をしています。より多くの情報を得ることで、患者さんの撮影体位、撮像コイルの選択がスムーズに決まり、円滑に検査を進めることができます。

病変部位にマーカーと言う、いわゆる目印となるものを貼り付けるのも必須です。これは、MRI画像で基本となる、T1強調画像とT2強調画像で共に高信号を示すもので、撮影時・読影時の目印になるものです。

手指、手関節、肘関節にある軟部腫瘍に対しては、基本的にうつぶせで寝てもらいます。病変部にマーカーを貼り付け、撮影したい範囲がしっかり入るようコイルを選択しています。
動かないように固定することが大事です。病変部を圧迫し過ぎないように注意します。

コントラストを制する!!撮像シーケンス

T1強調画像とT2強調画像、T2脂肪抑制画像を基本とし、より脂肪を疑う場合はT1脂肪抑制画像、出血病変やヘモジデリン沈着の検出にはT2スター強調画像、また腫瘍の良悪性の鑑別の助けとなる拡散強調画像も撮像しています。

脂肪腫疑いの1例
T1強調画像、T2強調画像ともに高信号で、境界明瞭、辺縁平滑な腫瘤を認めます。
T1脂肪抑制画像にて内部の信号低下あり、一部隔壁構造も伴っているのが分かります。
明らかな充実成分や、拡散強調画像で高信号となるような、拡散制限を伴う部位は無いということで、今回の検査では脂肪腫が疑われました。

 

CT画像処理の最前線


近年のCTやMRI等の検査における提供画像は、装置から得られる断層画像だけでなくその断層画像データを元に作成する3D画像の構築も一般的に行われています。(図1)
そこで今回は、従来行ってきた画像処理方法と近年の新技術について当院で実際に使用しているワークステーションの画像処理機能を例に挙げてご紹介したいと思います。

3Dってこんなに見える!

まず始めに、当院で行なっている3D処理画像の一例をお示しします。見て頂くとわかるように、空気(大腸)・血管(造影剤)・骨等あらゆる部位で3D画像が利用されています。(図2)これらの画像処理の共通点としては、各組織のCT値の違いを利用しているところにあります。(図3)

3D画像処理では、注目したいCT値以外を表示しない設定にして(=しきい値を設定して)目的の組織のみが描出されるようにします。例えば骨のみの3D表示であれば骨以外が表示されないCT値をしきい値として設定することで、そのCT値以外の物質は非表示となり骨のみが表示できます。(図4)

これぞ、3D画像作成の極意!
関節面を評価する画像処理

前述した骨と軟部組織のように、CT値の差が大きい組織同士を分離して表示するのは簡単な作業です。しかし、CT値が近い物質が隣接する場合、細かいしきい値設定を行いながら不要な組織を除去する作業が必要になり、画像作成に時間がかかることや、うまく分離できない場合もあります。(図5)

ついになくなる?職人技!?
自動分離機能の紹介

“CT値の近い物質を分離する”という難しい課題を近年新たに加わった「自動分離」機能は残したい部分をクリックするだけで解決します!(図7)
この機能を用いることにより、従来の作成方法と比べてより早く簡単に画像作成が可能になりました。

最後にこの機能が有用であった症例を一例紹介します。

新しい機能をより味方に!

自動分離機能によって、より有益な画像の提供を簡単かつ短時間に提供できるようになりました。しかしながら自動分離機能の精度は高いものの、中には上手く分離されない症例もあります。その場合はこれまでに培った画像処理技術を生かして3D画像を提供するため、やはり職人技術を磨くことも大切だと思います。
近年はCT装置だけでなく、画像処理装置等の進歩も早いと感じます。基礎的な技術と新しい技術をいち早く取り入れ、より良い画像提供が行えるように努めていきたいと思います。

X線CT認定技師 江上 桂

 

最新型のレントゲン撮影システムについて御紹介します


当院の一般撮影装置は2019年よりComputed Radiography (CR)からFlat Panel Detector (FPD)へと移行しました。
FPDと聞いても「よくわからないけど新しくなって良くなった」とか「撮ったらすぐ画像が見れる」くらいの印象しかない先生もいらっしゃるのではないかと思います。そこで今回、このFPDについて紹介したいと思います。

CRは照射されたX線の情報をImaging Plate (IP)に蓄積してそれを専用の大きな機械で読み取ることで画像化します。またIPを繰り返し使用するために蓄積した情報は一回毎に消去する必要があります。この読み取り・消去の過程で10~30秒程かかります(カセッテの大きさ、照射線量に依存)。

FPDは照射されたX線エネルギーを電気信号に変換して、その場で画像化することが可能です。
フィルムやCRと異なりFPDはそれ自体が電源を必要とする機械であり、読み取り装置を必要としない、画像をすぐに確認・転送できるという利点があります。一方で充電が必要、衝撃に弱いという特徴があります。

FPDの使用でより患者さんにやさしい検査を!

①検査時間の短縮

画像化までが短縮され、撮影毎にIPの入れ替えもないため検査時間を短縮できます。検査時間の短縮は患者さんの負担軽減、待ち時間の短縮につながり、ストレスの少ない検査を受けていただけます。

②被ばく低減

FPDはX線の感度が高く、低線量のX線で撮影することができます。

 

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑥ マンモグラフィーの弱点を補うために


マンモグラフィーは「高濃度乳房に弱い」という話題を第2回、第5回で取り上げました。高濃度乳房では背景乳腺がマンモグラフィー上高濃度につまり白く描出されるため、やはり白く描出される乳がんが隠れてしまいやすいのです。アメリカのコネチカット州では健診マンモグラフィで高濃度の場合はそのことを受診者に知らせるべきあるとの法律が策定されました。日本でも患者団体からの同様の要望書が厚生労働省に提出されています。任意型の健診ではすでに乳腺濃度を結果説明の際に受診者に知らせる試みが広がっています。乳房構成が高濃度であると、マンモグラフィで乳がんが見つかりにくいことを知らせ、他のモダリティの検査の受診を勧めることが目的です。
昨年の春より当院の乳がんドックでもマンモグラフィの乳房の構成を受診者に知らせることにしています。

乳がんドック報告書(抜粋)

超音波検査について

マンモグラフィーのこの弱点を克服するための方法としては、前回取り上げたトモシンセシス撮影(断層撮影)が有用です。そのほかには超音波検査も有用です。
超音波検査で使用するプローブは生体内に「超音波」を発射します。発射された超音波は生体内の組織で一部反射し、一部透過します。反射波(エコー)はプローブに戻ってきます。エコーの強さの情報をグレースケールに振り分けて輝度変調し、エコーが戻ってくるまでの時間を距離に変換して画像表示したものが超音波検査です。超音波プローブの中には超音波を発射する圧電素子が横並びしており、横方向に順次超音波を発生させることで「Bモード画像」が出来上がります。

生体内の組織によって音響インピーダンスが異なっており、組織間の音響インピーダンスの差が大きいほど超音波の反射が大きく、差が小さければ音波はほとんど透過します。腸管内ガスや骨は超音波をほとんど反射してしまうので、検査では真っ白に見え、ガスや骨の後方は何も見えません。水は超音波をほとんど透過しますので、膀胱に溜まった尿や血管内の血液は超音波検査では真っ黒に均一に描出されるのです。

超音波の波長より十分に小さい境界の集合体(不均質な組織)では音波はあらゆる方向に散乱します。このうちプローブに帰る方向への散乱を「後方散乱」と呼びます。後方散乱は病変の「内部エコー」の違いに関与しています。病変の中に音響インピーダンスの異なる組織が混在する場合や、網目構造、乳頭状構造がある場合は、後方散乱が強く起こるため内部エコーは高く、つまり白っぽく描出されます。病変の内部に均一な腫瘍細胞がぎっしり詰まっているような場合は内部エコーは低く、つまり黒っぽくなります。

乳がんUS

乳房構成の違いと正常乳腺の超音波画像

乳がんの中でも、腫瘍細胞が均一に増殖する充実腺管がんや髄様がん、腫瘍内部に線維成分の増生が強い硬がんは超音波画像では内部エコーレベルが低エコーで黒っぽく見えます。内部に細かい隔壁構造があり粘液の中に腫瘍細胞がまばらに存在する粘液がんや、乳頭状の構造をとる乳頭腺管がんは、比較的エコーレベルが高くなります。これらのがんが、脂肪性の乳腺の中にできると、マンモグラフィでは見逃すことはまずないですが、超音波検査では腫瘍と正常乳腺のコントラストが小さいためうっかりすると見落としてしまいます。

一般に超音波は若年者に多い高濃度乳房が得意で、マンモグラフィーは高齢者になると多い脂肪性乳腺が得意と言えます。精密検査を行う乳腺外来では両方とも行います。検診はマンモグラフィーが基本です。しかし高濃度乳房が多く、乳がんの罹患率も高めの40代の健診に超音波検査をどのように取り入れることができるか、検討されつつあります。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗

脳血流SPECT:統計解析による診断のポイントその1 ~統計解析の仕組み~


日頃脳血流SPECT(図1)の検査依頼いただき、厚く御礼申し上げます。脳血流SPECTの統計解析は認知症および神経疾患における核医学診断では標準的手法として恒常的に施行されております。

図1:spect
図1:spect

そこで今回は脳血流SPECT画像を統計解析する流れを紹介させていただきます。
当院では脳血流SPECT検査におきましては
・99mTc-ECDでは「eZIS」(図2)
・99mTc-HMPAOでは「iSSP」(図3)
という統計解析ソフトを使用し、脳外科依頼を含めて全ての脳血流SPECT検査に統計解析を行います。

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統計解析による手法とは~正常画像との比較~

・各年齢群におけるノーマルデータベースと比較

統計解析による手法は個々の脳血流SPECT画像につき、同年齢群の正常データベースと比較して血流が低下している部位を探し出す方法です。「同年齢群」という表現ですが、年齢毎に正常での脳の血流分布は異なります。そこで例えば55歳なら51~60歳の正常例の脳血流分布との比較、75歳なら71~80歳の正常例の脳血流分布との比較というくくりで解析を行うことになります。最近は高齢化に伴い、80歳代のノーマルデータベース(NDB)も追加されています。(図4)

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*同一年齢群と異なる年齢群で統計解析した場合の違い

年齢とは異なる年齢群のデータベースで解析を行うと違った結果をもたらすので注意が必要です(図5)。

NDBの違いによる解析結果の変化
図5:NDBの違いによる解析結果の変化 80歳代のノーマルデータベースを用いて比較すると後部帯状回の血流低下が明瞭に描出されています。

・標準化してから正常脳に重ねあわせます

もちろん脳血流SPECT画像について皆それぞれ血流分布はもとより、形状や大きさはそれぞれ少しずつ異なります。そこで個々の画像を一定の形に変換する「解剖学的標準化」という作業を行います。これにより、脳の大きさの差異、左右の歪みなども一定の形に置き換えることが可能になります。一方で正常データベースで得られた脳血流分布も同様に「解剖学的標準化」することで、個々の場所での血流分布を比較することが出来ます。

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次回は血流低下部位を抽出する仕組みについてお話しさせていただきます。

(核医学認定技師 荒田 光俊)

 

特集CT:手術支援3D画像処理


前回の特集ではCTにおける専用ワークステーションを使用した基本的な画像処理技術について記載させて頂きましたが、今回はその画像処理技術を利用したCTによる手術支援3D画像について大腸がんの症例を元にご紹介させて頂きたいと思います。
近年、腹腔鏡の技術が進歩し大腸癌の手術でも腹腔鏡下でおこなうことが多くなり、当院でも行われています。開腹術と比較し、腹腔鏡下での手技は当然ながら視野が狭くなります。手術前に腫瘍や血管等の位置を把握できるような3D画像を外科の先生に提供するようにしています。

術前支援3D画像

【下行結腸癌術前】

当院では大腸がん術前の時などにおいて造影剤を使用してのCTC撮影(後述)を行っています。造影剤を使用することにより、動脈・門脈を描出することが可能となり、さらに腫瘍も造影剤によって染まるため、血管と腫瘍の位置関係が鮮明になり、術前計画や術中の画像支援として有用であると考えています。
下の画像は下行結腸にできた腫瘍の術前の為、造影剤を使用したCTC検査を行った症例です。エアーイメージで大腸の走行、腫瘍の位置や形状が確認でき(赤丸)、さらに造影剤を使用することにより動脈・門脈の血管走行、腫瘍(赤矢印)への栄養血管を確認できます。

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CTCとは?

下に示した検査手順の通り、CT検査は肛門からチューブを挿入し(図1)、そこから空気を注入して大腸全体を十分に拡張させた状態で、仰向けとうつ伏せの2体位でCT撮影を行います(図2)。2体位で撮影することで、腸管描出不良部分を補完するだけでなく病変に見える残便を移動させて診断能を向上させることが可能となります。そして、得られた画像データは画像処理専用のワークステーションで処理することにより、空気だけを抽出したエアーイメージ画像や、仮想内視鏡画像という内視鏡検査を行ったような大腸画像を作成することができます。(図3)以上までを一般的にはCTC(CTcolonography)検査と呼ばれています。

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内視鏡挿入困難症例

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図は、エアーイメージとその病変部の拡大画像、さらに、カメラのイラストの方向から病変部を観察した仮想内視鏡画像になります。こちらの方は大腸内視鏡挿入が困難であったためCTCが検討され、このようにCTC検査によって病変の診断が可能になりました。当院では、この症例のように、腸管の屈曲が強い等の理由で内視鏡検査が困難であった方の多くがCTCを施行し、病変部の描出を可能にしています。

CTCは、わが国ではまだ特殊検査という位置づけですが、欧米では大腸がんのスクリーニング検査にも用いられており、当院でも多くの方が受けられております。これからも診断に役立てていただけるよう我々放射線技師は画像処理に取り組みたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。(江上 桂)

今月の症例(胸部レントゲン)


76歳男性、喫煙者。2016年5月の検診で異常を指摘されました。下の画像から考えられる疾患は?

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解答:右下肺野結節影の出現

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2014年8月の胸部単純写真と2016年5月の胸部単純写真をよく見比べると、右下肺野に結節影が新たに出現しているのがわかります。

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CTでも、右中葉の不整形の高吸収結節は、形態的には炎症瘢痕様にも見えますが、2014年から2016年にかけてやや増大していることがわかります。この方は当院で手術が施行され、病理の結果は腺癌でした。2016年5月の胸部単純写真では異常はややわかりにくいと思われますが、前回と比較するとはっきりしてきます。やはり、比較は非常に重要ということがよくわかります。今回の症例では単純写真もそうですが、胸部CT上瘢痕様でしかも、発育も非常にゆっくりとなっています。渡邊らの初回CTで瘢痕様陰影を呈した肺癌の39例の検討では、特徴として男性、喫煙者、既存肺に変化のある症例に多く、腫瘍の倍加時間が短く、特に既存肺変化群で予後不良例が含まれるため注意が必要で、初回CTから2-3か月以内のフォローが望ましく、その後のフォローも必要と述べています。
文献:渡邊 創ら。初回のCT画像所見が瘢痕様陰影を呈する肺癌の検討. 肺癌2009;49:1011-1018

今月の症例(膝MRI)


問題:下の画像から想定される疾患は?

図1-1:プロトン強調矢状断像
図1-1:プロトン強調矢状断像
図1-2:プロトン強調矢状断像
図1-2:プロトン強調矢状断像
図2-1:プロトン強調冠状断像
図2-1:プロトン強調冠状断像
図2-2:プロトン強調冠状断像
図2-2:プロトン強調冠状断像

解答:左外側半月板バケツ柄断裂

半月板のバケツ柄断裂は、半月板の縦断裂が前節から後節まで進展し、中央寄りの断片が顆間窩へ変位したものです(図4)。

図4:バケツ柄断裂シェーマ
図4:バケツ柄断裂シェーマ 引用元:http://www.judo-akimoto.com/sports_medicine16.htm

MRIの特徴的所見としては、本来あるべき位置の半月板が小さく変形している、冠状断像にて顆間窩にはがれた半月板の断片が認められる(fragment-in-notch sign)等があります。
図1-1では、図3の正常例で認められる半月板の蝶ネクタイ構造が認められなくなっています(absent bow tie sign)()。
図2-1では、顆間窩から外側顆背側にかけて異常な構造物が認められ()、フラップ状にはがれた外側半月板を見ているものと思われます。

図1-1:プロトン強調矢状断像
図1-1:プロトン強調矢状断像
図3:正常例
図3:正常例
図2-1:プロトン強調冠状断像
図2-1:プロトン強調冠状断像