マットにコロン 大腸ふんわり


大腸CT検査(以下CTC検査)において、腸管の拡張は検査精度に影響を及ぼす最も重要な要因の1つです。
CTC検査では、肛門から炭酸ガスを注入することで大腸を拡張し、背臥位(あおむけ)と腹臥位(うつぶせ)でCT撮影をします。大腸がしっかり拡張されると腸管壁がよく観察でき所見も見つけやすくなります。しかし、腹臥位(うつぶせ)の撮影では腹部の圧迫により横行結腸やS状結腸が圧排されて十分な拡張が得られないことがあり、読影に影響がでます。

とくに腹部の膨らみのある方(BMI25以の方)は腹臥位(うつぶせ)撮影での拡張不良が顕著となります。そのため当院では、腸管の拡張を良好にするため大腸CTマット(以下コロンマット)を用いて撮影しています。

大腸ふんわり 魔法のマット!

コロンマットはCT検査台の上に置いて使用します(貼付け等の作業は不要です)。マットの空洞部に腹部を入れるようにして腹臥位(うつぶせ)になることで腹部とCT検査台の間に空間ができ腹部の圧迫が軽減、腸管拡張も良好になります!

CTC検査は側臥位→腹臥位→背臥位と体位変更が多い検査のため、コロンマットがあると“体位変換が行いやすい”“安定した体位維持が可能となる”など“腹部とCT検査台の間に空間をつくる”だけでないとても役に立つマットです。
診療放射線技師として良好な画像を提供できるように日々研鑽していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
胃がん検診技術部門 B資格 小曽根

256列のパワー!新入りCTが凄い!


2021年3月から、GEヘルスケア社のRevolution CTが当院に新しく設置されました。2021年9月号のニュースレターで少しだけ登場しましたが、今回は大きく4つに分けて詳しくご紹介させていただきます。この装置を簡潔に表すなら“速く綺麗に撮れる”。その高性能っぷりに私たちも日々驚かされています。そんなRevolution CTの魅力を少しでもお伝えできればと思います。

一目瞭然!4倍撮影が可能に

このCT最大の特徴は、256列マルチスライスCTであるというところです。0.625mmの検出器が管球に対し256列並んでいるので、1回転で0.625mm×256つまり16cm分撮影できます(身の回りのものでわかりやすく例えると1万円札の長尺側と同じ長さです)。すでに当院にある従来CT(64列)では1回転4cm分撮影が可能ということなので、4倍撮影できる範囲が広がったということになります。では、この256列の力が生かされるときとはいったいどんな時でしょうか?

1回転スキャンで頭部もバッチリ

1回転スキャンの素晴らしさを最も実感するのが頭部CT撮影です。頭部撮影中は動かないでいることが重要であるため、患者さんには10数秒間ほど動かずじっとしてもらう必要がありました。しかし、中にはどうしても動いてしまう患者さんもいらっしゃいます。そこで登場するのがこの1回転スキャンです。16cm以内であればなんと1秒で撮影することができます。これによって、長時間じっとしていることが困難な患者さんの検査もスムーズに行うことができます。

幅広な検出器を生かした高速撮影

先述の頭部撮影だけでなく、他部位の撮影も速いのがこのRevolution CTの素晴らしい点になります。従来CT(64列)と比較すると、体幹部の撮影時間が1/2~1/3程度になりました。呼吸苦などで息を止めていられない患者さんや小児の撮影で力を発揮してくれています。

高心拍・不整脈どんとこいの心臓撮影

造影検査といえば様々ありますが、なかなか一筋縄ではいかないのが心臓CT検査です。特に高心拍や不整脈がある心臓だとブレが大きく、思うような画像が得られない場合も多々ありましたが、このCTを導入してからは格段に減少しました。
ここでも大活躍するのが1回転スキャンです。従来CT装置は約4回転のスキャンと長い息止めを必要としていましたが、16cm以内の心臓であれば、1回転分つまり1秒以下で撮影可能になりました。具体例として、従来CTとRevolution CTとで比較した資料を掲載いたします。どちらも同じ患者さんを撮影しています。Revolution CTでの撮影の方が高心拍ですが、LAD分枝がはっきりと映し出されています。従来CTも管球回転速度が速く心臓CTに強い装置でしたが、Revolution CTはそれを遥かに上回る性能になっています。何回転もスキャンがいらないので画像のブレを抑制できることに加え、10秒以上の息止めをしていただくことも無くなりました 。

Revolution CTを迎え入れてから、提供できる画像の質が大幅にアップし、短時間撮影の実現により患者さんの負担を軽減することができるようになりました。私たちも装置の進歩に負けず、より一層精進して参ります。今後ともよろしくお願いいたします。
清水

核医学プチ講座 ブルズアイ(その2) 「ブルズアイ」でわかること「いろいろ」


前回に引き続き「ブルズアイ (Bull’s-Eye)」特集です。今回は臨床でのブルズアイ画面の見方や評価方法についてお話させていただきます。

まずはおさらいになりますが、「ブルズアイ (Bull’s-Eye) 」とは心筋SPECT画像の短軸像 (Short Axis:SA) を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものです。
同心円状に展開していることから「極座標表示」「Polar-Map」とも呼ばれています。

ブルズアイの見方や評価方法は以下の4つです。
◎ 負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化の観察
◎ 時間毎の集積変化を観察
◎ 2つのRI薬品の心筋への集積を観察
◎ 心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察
それぞれ詳しく解説していきます。

負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化の観察

アデノシン薬剤負荷心筋血流SPECT短軸像を心尖部から心基部まで展開しています。上段は負荷血流、下段は安静血流です。中央部~心基部の中隔下壁~下壁にて負荷時集積低下が観察されます。

前頁の短軸像をブルズアイ展開します(上段:負荷血流 下段:安静血流)。Extentは集積低下が [2.5×標準偏差] 以下を一律で黒抜き表示します。[2.5×標準偏差] 以下で集積低下が統計的優位であるとされています。Severityは低下部位の深達度表示です。負荷時のExtent、Severityが安静時に比べて大きく抽出されていて、負荷時の血行障害を示しています。

さらにブルズアイを17の区域に分けてカウントの低下度合いを数値化し、負荷/安静相互の比較を行います。負荷時の低下度“SSS (Summed Stress Score) ”から安静時の低下度“SRS (Summed Rest Score)”を引いた“SDS (Summed Difference Score)”は実際の低下度として虚血性変化の指標値となり、血行再建術の適応評価に多く利用されています。

時間毎の集積変化を観察

心筋SPECTにおける早期像と遅延像をブルズアイ展開することにより、放射性薬剤が心筋内に“滞留”しているか、あるいは“流出(洗い出し)”しているかを判定します。

心筋血流製剤(201TlCl,99mTc-TF)や心筋脂肪酸製剤(123I-BMIPP)では心筋変性や心筋細胞の脱落がある場合に“流出”が観察されることがありますが、近年心筋脂肪酸製剤では“洗出”が停滞するケースで有意な疾患があるという報告も挙がってきています。

2つのRI薬品の心筋への集積を観察

201TlCl/123I-BMIPPをブルズアイ上で比較算出により集積の乖離度(ミスマッチ:Mismatch)の判定も可能になります。

心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察

当院では心筋血流SPECT収集においてほぼ全例に心電図同期収集を行い、血流の評価に加えて壁運動等の心機能解析を行っております。各部位における壁運動や壁厚変化を観察し、部位による容積曲線の変化や、位相解析を行っています。負荷誘発における壁運動の同調性の低下や、心ペーシング施行前の心機能解析としてPhase-Mapの算出等も求められます。

またまた誌面の都合で次回はブルズアイ展開とSegment解析に絞ってまたお話させていただければと願っています。

参考文献
1)日本メジフィジックス医療関係者向けサイト:シンポジウム/心不全における心臓核医学によるアプローチ:BMIPPイメージング(TGCV)

症例(救急CT) 2021.12月号掲載


次の3例に共通するキーワードはなんでしょうか?日本語2文字でご回答ください。

症例1. 70代 男性
腹部膨満が1週間程度持続後、朝食摂取後嘔吐にて近医受診。CT施行後、当院搬送。

症例2. 30代 男性
飲酒後深夜に自転車にて帰宅。
朝腹痛と血尿出現。

症例3. 80代 男性
一過性の左下肢脱力、鼠径部から左上腹部の痛みで来院。
入院2日後背部痛と血圧低下あり。CT撮影。

 


解答と解説

 

解答 “破裂”の2文字です。では症例ごとに解説いたします。

症例1. 70代 男性 腹部膨満 → 診断:胃破裂

A’, B’. 胃小彎側に胃壁の欠損が見られ(黄矢印)、壁外に空気が漏れ出ている(腹腔内遊離ガス)(赤矢印)。門脈ガス(黒矢印)は胃壁のガス(青矢印)が胃静脈を介して門脈へ運ばれたものと推察される。幽門前庭部に異常な胃壁の肥厚がみられ(緑矢印)、通過障害→胃拡張→胃破裂となったと考えられる。胃壁肥厚は胃癌によるものと判明。

 

症例2. 30代、男性 飲酒後深夜に自転車で帰宅 → 診断:膀胱破裂

C’, D’. 膀胱頂部に膀胱壁の不連続が認められる(限局性壁欠損)(黄矢印)。
E’.上記で疑われた壁欠損部(黄矢印)を介して、5時間前の造影CT時に投与され、膀胱へ排泄された造影剤が腹腔内に漏出している(赤矢印)。
F’. 単純写真においても膀胱外へ漏出した造影剤が明瞭(赤矢印)。

症例3. 80代 男性 入院後背部痛と血圧低下 → 診断:大動脈破裂

G’. 腹部大動脈の拡大とそれに連続して層状の低吸収域と高吸収域が認められる(赤矢印)。出血時期の異なる血腫と推察される。

H’. ダイナミック造影CT早期相では大動脈瘤から連続する造影剤の血管外漏出像(黄矢印)が認められ、大動脈破裂と考えられる。

解説

今回は以前と少し趣向を変えて共通のキーワードという形で問題を作成しました。1例目は胃幽門前庭部胃癌(2型)のために幽門狭窄を呈し、食物の通過障害と胃の拡張状態の持続から胃壁の脆弱化、胃内腔の圧の高まりのために胃破裂を呈した症例で、内腔の空気や残渣が腹腔へ漏れ出て腹膜炎を呈し、緊急手術(胃全摘出術施行)となったものです。 手術で胃体部小彎に約9cmの縦走破裂裂傷が認められました。一般的には食道胃接合部や小網に固定され膨張性に乏しい小彎や前壁が破裂しやすいと言われています。
症例2は、泥酔状態での自転車走行に伴う外傷(サドルを股間に強打?)のために膀胱が破裂し、尿が腹腔内に漏れ出たもので、やはり緊急手術となっています。飲酒により膀胱が尿で充満したときに、腹圧が上昇して発生する腹腔内破裂は有名で通常本症例のように膀胱頂部に生じると言われています。
3例目は、大動脈瘤にて他院で経過観察中だった患者さんが切迫破裂から緊急入院となり、一時的には止血していたものの、2日後に再度破裂を呈して、血液が後腹膜へ漏れ出て緊急手術となった症例です。残念ながら、救命はできませんでした。
以上3例は胃、膀胱、大動脈といった異なる臓器が破裂という同じ機転から空気、尿、血液といった異なる内容物が本来存在するべき場所から腹腔内、腹腔内、そして後腹膜など様々な場所に漏れ出たものです。このように1つのキーワードをテーマにした演題は教育的展示として北米放射線学会ではよく演題としてエントリーされ、教育的と思われた演題には星印が演題に貼られ、Radiographics という北米放射線学会が運営する教育目的の雑誌に投稿しても良いというお墨付きを頂けます。ただし、雑誌投稿時には査読が入るため、星印がついても必ず雑誌に掲載されるわけではなく、星印付きであっても厳しい審査で40%は落とされてしまうと言われています。

 

見えない傷を見つけ出せ! 防護衣の管理について


当院では約120枚のプロテクター(X線防護衣)を所有し、一般撮影室・透視室・血管撮影室・CT室・手術室・救急室など様々な場所で使用しています。今回はこのプロテクターについてのお話です。

見えない傷ありませんか??

プロテクターの構造をご存知でしょうか。
遮へい元素(鉛やその他の元素)を高比率配合している“遮へいシート”を“保護シート”が覆う構造になっています。
“遮へいシート”は“保護シート”より物理的に弱い傾向にあるため、遮へいシートに損傷が生じても保護シートには問題がなく外観から損傷が分からない場合があります。
そのため、120枚すべてのプロテクターに対し1枚ずつ1年に2回、透視装置を用いてチェックを行います 。

大切に長持ちさせましょう

メーカーは専用のハンガー、スタンド等に掛けて保管することを推奨しています。時おりご丁寧に畳んで置いてあるのを見かけますが、折り曲げ状態での長時間放置は内部の“遮へいシート”が傷むのでいけません。

当院では使用する皆さんが掛けて保管してくれているので買い替えは1年に2~3枚です。
思いがけない傷が見つかるかもしれません、定期的な点検をお勧めします。

症例(MRI) 2021.6月号掲載


70代 男性
主訴:昼頃からの健忘、記銘力低下

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

 


解答と解説

解答:一過性全健忘

解説

突然発症の一時的な健忘を生じた高齢男性の症例です。
来院時のMRI検査では海馬領域を含め異常所見は指摘できなかったものの(図1)、来院24時間後のMRI検査では拡散強調像で左海馬に点状の高信号域が見られ、FLAIR像でも淡い信号上昇が見られます。ADCmapでは同領域に信号低下が見られます(図3黄矢印)。一過性全健忘として典型的な所見です。

一過性全健忘は突然発症する一時的な純正健忘に対して命名された臨床的概念です。急性発症の健忘が数時間継続し、数時間から1日かけて徐々に改善します。多くは50-70歳の男性に多く、近い過去に関する全健忘や逆行性健忘を伴います。
診断基準は以下のHodges1)のものが知られています
・発作が目撃され、情報が得られること ・明確な前行性健忘が発作中にあること
・意識混濁や事故の見当識障害がなく、認知障害は健忘に限られること
・発作中に神経症候なく発作後に有意な神経徴候を残さないこと
・てんかんの特徴がないこと      ・発作は24時間以内に消失すること。
・頭部外傷や活動性てんかんがある場合は除外

記憶障害は順行性健忘で発作中の記憶はほとんど残らないものの、それ以外の記憶は回復します2)。この症例でも発作時の記憶以外は回復していました。
一過性全健忘の病態はストレスや疼痛などによる海馬領域の緩徐な血流低下によって生じるものと推測されています3)。

画像所見は海馬CA1領域(図4:黄色矢印 白色部分)に拡散強調像で微少な高信号域が出現することが特徴です。
CA1領域は海馬内回路で記憶統合プロセスに関与する部分であり、同部位の障害が健忘の原因とされています。この領域は上海馬動脈と下海馬動脈の分水嶺領域に位置しており、血行力学的な脆弱性により低酸素や代謝異常を来しやすい部位と考えられています3)。
高信号域は発症当日の6時間以内は34%と検出率が低いものの、24-72時間では75%となり時間経過で検出率が高くなる傾向にあります4)。信号は10-14日後から消退傾向で、1年後には所見が消失することが知られています5)。
本症例でも発症直後のMRI検査では所見がみられないものの(図1)、24時間後のMRI検査では海馬領域に拡散強調像で高信号域が出現しています(図2)。1ヶ月後のMRI検査では同所見は消失(図5)しており一過性全健忘の経過として矛盾しませんでした。

症例のポイント

①意識清明な急性の健忘発作
②拡散強調像での海馬領域の微少高信号
③高信号域は症状から遅れて(24-72時間後)出現することが多い
④高信号域は経過で消退

典型的な画像所見と経過を呈した一過性全健忘の1例でした。

【参考文献】
1)Hodges JR,Warlow CP. Neurology Neurosurgery Psychiatry. 1990; 53:834-843
2) 吉田智子ら. 多根医学会雑誌. 2016; 5:61-65     3)水間啓太ら. 昭和学士会雑誌. 2015; 2:191-197
4)Ryoo I, et al. Neuroradiology 2012; 54:329-334    5)Bartsch T, et al. Brain 2006; 129:2874-2884

 

YSK MultisliceCT Collection 2023


新型コロナウィルス感染予防対策によりCT検査が非常に多くなり、検査予約枠の減少や検査待ち時間が長くなっていることから、2021年4月にCT装置が1台増設されました。同時に128列CT装置が最新型の256列CT装置に更新され、当院には治療計画用装置を含め計4台のマルチスライスCT装置が整備されました。今回は新しくなった2台の装置を含めた当院のマルチスライスCTをご紹介します。

Revolution CT エリアディテクター型デュアルエナジーCT 2021年設置

昨年4月より新設された256列マルチスライスCT装置で同時にデュアルエナジー撮影も可能なGE社最高位機種になります。エリアディテクター(面検出器)型*なので心臓をたった0.28秒で撮影することも可能な装置です。これにより冠動脈撮影はほとんどブレることなく撮影できるようになりました。ソフトウェア技術も一新され、画像再構成にはAIが用いられ画質が向上しました。また画像作成に時間がかかっていたデュアルエナジー撮影についても高速化され、臨床で無理なく使用できるレベルへと進化、同時に画質の向上も実現され、造影剤半減した画像であっても、自然なコントラストで表現された画像を仕上げてくれるようになりました。

Aquilion Helios 80列マルチスライスCT 2021年設置

4月に新設されたキャノンメディカルシステム(旧東芝メディカル)の装置です。80列の装置ですので冠動脈撮影はできない装置ではありますが、当院で検査している検査種の90%をカバーできる万能な装置です。国産メーカーということもあり、使いやすいインターフェイスが特徴です。工事期間中はCT装置の稼働台数が少ない状態で大量の検査をこなす必要がありました。しかしながらAIを用いた画像作成により少ないエックス線量でもきれいな画像を取得できるため省力化が可能で、かなりの検査数をこなしてもオーバーヒートしませんでした。検査説明に来たメーカーの方も驚いていたそうです。

Revolution HD CT デュアルエナジーCT 2018年設置

5年前に設置されたデュアルエナジー装置です。当時最先端で大学病院などをメインに販売されていた装置です。現在も販売されており、最近では中規模の病院にも設置されるようになってきました。最新型装置(RevolutionCT)と比較すると、ソフトウェアの面では劣りますが、当時最新型機種であったこともあり、ハード面は非常に強力で最新型の装置よりもエックス線出力についてはこちらの装置の方が優秀で、骨領域の画像は最新機種よりもきれいな印象です。また1日80件撮影してもオーバーヒートすることなく稼働してくれています。

Toshiba Aquilion LB 放射線治療計画用16列CT 2016年設置

放射線治療室が整備された際に設置されたCT装置で、治療計画用途のためワードボアと言って患者さんが入るところ(丸の部分)が大きく設計された装置です。治療計画用となってはいますが16列マルチスライスCT装置ですので、全身撮影も可能です。メイン装置の点検時などには診断領域の撮影も行えるコスパ優秀な装置です。

症例(CT:腹痛)2020.12月号掲載


症例:50代 女性

主訴: 心窩部痛、発疹、掻痒感

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純CT検査 水平断像
図2:単純CT検査 a:冠状断像, b:矢状断像

解答と解説

中年女性の腹痛、発疹の症例です。
図1, 2では胃体部前壁の粘膜面から隆起する比較的低吸収な腫瘤病変が見られ、図3には同部を拡大したCT画像を供覧しています。図3a, b 黄色矢印では胃粘膜下に位置するようにして低吸収な腫瘤様構造が見られ、図3b橙矢印では対側の胃壁にもわずかに浮腫性変化が認められます。CT検査所見上で腫瘤様構造は胃の粘膜下に位置してみえ、gastrointestinal stromal tumor:GISTなど胃粘膜下腫瘍が疑わしい所見です。
診断目的に施行された内視鏡検査では白色の虫体(図4)が胃内に認められ、胃アニサキス症と診断されました。前日にしめ鯖を食べていたようです。

胃アニサキス症はアニサキス属の幼線虫が胃及び腸に寄生する幼虫移行症です。胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキス症に分かれます。アニサキスの成虫はクジラやイルカなど海洋哺乳類に寄生しており、幼虫はサバやサケ、タラ、イカなど魚介類に寄生し、生食で人の消化管壁に刺入して発症します。生食後24時間以内に発症することが多く、上腹部痛や嘔気、嘔吐や微熱が出現します。
胃アニサキス症は緩和型と劇症型に分かれ、緩和型は初感染に引き続いて起こる限局性アレルギー反応であり軽症例が多くみられます1)。一方で劇症型は再感染によるアレルギー反応で急性なアナフィラキシー様症状を呈します1)。また、今回症例のようにアレルギー反応で蕁麻疹などの掻痒感を伴う皮疹が生じる事もあります2)。治療はアニサキス虫体の内視鏡的除去です。
典型的なアニサキス症の画像は消化管壁の全周性の浮腫性変化と腹水貯留がポイントとなります。図5は典型例ですが、胃壁の全周性の強い浮腫(図5a-b)と腹水貯留が見られています(図5c)。特に腹水貯留が通常の胃炎との鑑別点となり得る所見です。鑑別は急性胃粘膜病変、好酸球性胃腸炎などが挙がります。
今回の症例ではこのような全周性の浮腫は示さず、あたかも粘膜下腫瘍の様な限局した腫瘤様の浮腫が見られました。腫瘤形態からアニサキス症を想定するのは困難となりますが、図3b橙色矢印の様に対側の胃壁にも浮腫が見られる点を考慮すると胃炎とともに鑑別には挙がるかもしれません。食事歴など生活歴も診断に重要な情報となります。

診断のポイント
① 食事歴、生活歴
② 症状(皮疹などアレルギー反応も含めて)
③ 消化管の強い全周性浮腫、腹水

診断に苦慮した胃アニサキス症の画像の非典型例を紹介いたしました。臨床情報と併せた診断の重要性を再認識した1例です。

図3: 単純CT検査 a:水平断像, b:冠状断像
図4: 内視鏡画像
図5: 胃アニサキス症 典型例CT検査画像 
 a:水平断像, b:冠状断像, c:水平断像 骨盤内

【参考文献】
1)山下康行: わかる!役立つ!消化管の画像診断. 学研メディカル秀潤社, p.60-61, 2017.
2)亀山梨奈, 矢上晶子, 山北高志, 中川真実子, 長瀬啓三, 市川秀隆, 松永佳世子. サンマ摂取によりアニサキスに対する即時型アレルギーを呈した1例. 皮膚科の臨床2006;55:1429-1432

症例(呼吸器)2021.3月号掲載


症例 50代 男性

主訴:発熱 咳嗽 食欲低下

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真
図2:単純CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像

解答と解説

発熱咳嗽の中年男性の症例です。
胸部単純写真では右中肺野や左上下肺野に胸膜直下に淡い濃度上昇が認められます(図3黄矢印)。図2では単純写真と同様に胸膜直下を主体とした非区域性の複数のすりガラス状陰影が認められます。COVID-19肺炎で一般的に報告されている画像上の特徴が認められます。この症例は他院のPCR検査で陽性となり当院に搬送となりました。

COVID-19肺炎はSARS-CoV-2による感染症であり風邪のコロナウイルス(4種)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス、中東呼吸器症候群に続く7番目のコロナウイルスです。潜伏期は1-14日で発症前2日から感染力が強く、症状後発熱、咳嗽、嗅覚異常、呼吸困難が主な症状です。危険因子として高血圧や糖尿病、心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満が関与するとされています。残存期間はエアロゾルで3時間、プラスチックやステンレス上で72時間、段ボール上で24時間残存します1)。
COVID-19肺炎の典型的な画像所見は胸膜直下に両側性かつ多発性に見られる非区域性のすりガラス状陰影および浸潤影とされています2)。

CT検査所見の経過は①すりガラス状高吸収域→②浸潤影→③収縮性変化→④陰影消退の経過をたどります。今回症例を参照すると図4のように浸潤影が見られた後、図5の様に軽微な線状の収縮性変化(図5a, b黄矢印)を残しつつ消退しました。
ただし、発症7日程度でびまん性のすりガラス状陰影や浸潤影となり重症化する症例もあるため全身状態を含めた経過観察が必要となります(図6)。
鑑別はインフルエンザウイルス含めたウイルス性肺炎が挙がります。鑑別点は典型像と同じく胸膜下に多発するすりガラス状陰影ですが感度、特異度はそれぞれ80-90%、60-70%の範囲と報告されています3)。さらにPCR検査陽性でも無症状例の46%、有症状例の20%にCT所見陰性例が存在するため3)臨床症状を含めた多角的な診断が必要となります。

図3:胸部単純写真
図4:5日後CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部
c:水平断像 下葉, d:冠状断像
図5:1ヶ月後CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像
図6 重傷例 CT検査
a:水平断像 肺尖部, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像

症例のポイント

① 胸膜直下の多発する非区域性のすりガラス状陰影および浸潤影
② PCR検査陽性でも画像所見陰性例が存在する
③ 画像、臨床症状や経過、PCR検査結果など多角的な診断が必要

新型コロナウイルス肺炎の一般的な情報や画像所見、経過を提示しました。

【参考文献】
1)N.V.Doremalen,et.al. New England Journal of Medicine. 2020; 382:1564-1567
2) RSNA,ACR,STRによる提言およびCO-RAD Radiology 296:45-54, 2020
3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期における放射線診療について 公益社団法人日本医学放射線学会

核医学プチ講座 ブルズアイ(その1) ブルズアイっていったいなんだ!?


心筋血流SPECT検査を中心に心臓核医学診断では画像表示に「ブルズアイ(Bull’s-Eye)」が用いられます。最近では心臓MRIや心臓CT(Perfusion CT)でも採用されていますので、今回は画像表示方法の基礎について述べさせていただきます。

3方向+α見える!

心筋SPECT等の検査では画像表示として3方向の断面表示に加え、ブルズアイ(Bull’s-Eye)が表示されます(Fig1)。

のっけから余談話を展開しますが、「ブルズアイ」を「ヤ○―」や「グーグ○」で検索しますとディズニーのトイストーリーに出てくる馬がHitします。次に出てくるのが「ダーツや射撃の中心円」です。またその「中心円」を射貫くという意味で航空軍事用語でも使われています。まずはダーツに使用される標的盤でイメージを膨らませてください。 さて、心筋SPECT画像の再構成では前述の3方向が表示されます。水平方向長軸(Horizonal Long Axis:HLA)、垂直方向長軸(Vertical Long Axis:VLA)、そして短軸(Short Axis:SA)があります。(Fig2)

短軸像を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものが「ブルズアイ(Bull’s-Eye)」となりますが、同心円状に展開していることから「極座標表示」「Polar-Map」とも呼ばれています。(Fig3)

ブルズアイで見てみると

ブルズアイ(極座標表示画像)では統計検定に基づいた異常領域の抽出が可能となります。またSPECT上での各区域に応じたカウントをScore表示することも出来ます。(Fig4,Fig5)

ちなみに冠動脈との標準的な位置関係も加えると以下のようになります。(Fig6)

誌面の関係で次回は「その2」として、ブルズアイ画面の見方や評価方法についてお話させていただきます。
放射線技術科主任・核医学専門認定技師 荒田