骨密度装置をご紹介します


当院では長年HOLOGIC社製の骨密度装置を使用してきましたが、令和4年3月よりGE社製の骨密度装置 Prodigy を導入致しました。
製造業者が異なるので、装置の入れ替えに伴い測定データを引き継げるのか懸念していましたが、無事に引き継ぐことができ前装置との測定値の比較が可能となったので一安心しています。

いちおしポイント! Prodigy の特徴

One Scanによる快適な検査

原発性骨粗鬆症のガイドラインでは腰椎と大腿骨の検査が推奨されており、一般的な骨密度装置は、腰椎と大腿骨を別々に撮影する為、その都度ポジショニングが必要となります。
Prodigy のOne Scanは最初から脚を下げて腰椎を測定し、体位変更をせずに大腿骨を測定する技術です。腰椎および大腿骨のスキャンを1度のポジショニングで測定することによりスループットが向上し、患者さんの拘束時間や負担の軽減に繋がります。以前の装置で検査歴のある患者さんや仰向けで寝るのが辛い患者さんからは「もう終わったの?」と驚かれることもあります。

新!X線照射法 スマートファンビーム方式

従来のX線照射法(Wide Angle Fan Beam:放射状にX線が通過するファンビーム)ですと、測定画像は拡大による歪みが生じやすくなります。これにより骨の位置によっては骨密度と骨面積の値に誤差が生じやすくなります。Prodigy のスマートファンビームは拡大誤差の発生を抑えた鋭角なビームで、常時体に対して垂直にX線を当てることで誤差を最小限に抑えた測定が可能です。

自動解析で精度向上、さらに検査時間短縮

個人的に1番良くなったと感じる所は、自動解析の精度が格段に向上したところです。以前の装置の自動解析はあまり精度が高くなかった為、技師が手動で骨の位置をトレースし直す必要がありました。その為、技師間の解析誤差が多少生じていたのですが、Prodigy の自動解析は精度が高く部分的な手直しのみで済むようになりました。技師間での解析誤差は減少し、再現性が高まっています。検査時間も解析に時間を要していた為、撮影~解析まで平均20分程度掛かってたところが短縮して10~15分程度になり、患者さんの待ち時間も少なくなっています。

新たな評価指標 ! TBS(Trabecular Bone Score) 測定

この結果って正しいの??

骨密度測定結果を見て、どうしてこんなに数値が高いのだろうと感じたことはないでしょうか?
骨粗鬆症の主な症状(背中や腰が曲がる・痛む、身長が縮む、骨折しやすくなる、背中や腰が痛むなど)があり骨密度測定をしたところ、測定結果が正常範囲や20歳代と同等またはそれ以上に高くなる場合があります。当院でもこのようなケースがあり、撮影範囲・解析方法共に問題はなかったため為要因を調査しました。
骨密度を上昇させる因子として以下の要因があります。
・椎体変形(圧迫骨折、骨棘、骨硬化 等)
・大動脈石灰化
該当患者さんの直近CT検査を確認したところ、椎間板変性に伴う椎体辺縁骨硬化や骨棘形成を認め、大動脈の石灰化も認めました。このような場合ですと、どうしても骨密度の値が高くなってしまいます。

では、このような場合では骨密度測定を行っても意味がないのでしょうか?

強さの秘密は密度と質

当院では骨密度に加え、骨質(TBS:Trabecular Bone Score )を調べることができます。
『骨強度』は骨密度と骨質の2つの要因からなり、ほぼ70%を骨密度が説明し、残りの30%程度は骨質で説明できます(骨粗鬆症の予防とガイドラインより)。
今回の患者さんの場合、椎体変形のため見かけ上の骨密度は高い値を示していますが、骨質の指標は中程度の骨折リスクを示しました。

TBSの評価は、骨密度測定の腰椎画像を元に算出するので、追加で撮影する必要がなく余計な被ばくはありませんので、是非診断に役立てて頂ければと思います(※TBSの算出はBMI15~37の範囲の方が対象となります)。
既に骨密度測定をご紹介頂いている先生には結果と共にTBSの資料をお渡ししていますので、お時間のある時にご覧頂けたらと存じます。

無事に装置更新を終えて…

骨密度装置の導入に際し、技師長よりエヴァンジェリストという役割を拝命しました。
エヴァンジェリストとは、元々はキリスト教の“伝道者”を意味し、主にキリスト教の啓蒙活動をしている人などを指す言葉ですが、最近ではIT企業において、「自社の製品やサービスについて分かりやすく説明(伝道)する人」という意味でエヴァンジェリストという役割が生まれており、余談ですが新世紀エヴァンゲリオンの語源もエヴァンジェリスト(伝道師)からきているそうです。
エヴァンジェリストとして何ができるのか、何をすべきなのかを考え、科員全員が装置を使いこなせるように取扱説明書をしっかり読み、要点をまとめたマニュアルを自作することから始めました。自作マニュアルは随時更新しており、何かあればマニュアルを見て対応してくれている姿を見ると、とても嬉しくなります。
装置の立ち上げを経験したことによって、今まで当たり前のように使用してきた装置も先輩の尽力があってのことだと改めて感じ、僕以上の試行錯誤があったことは容易に想像できるので、感謝の気持ちと共に頼りになる先輩と一緒に働けていることを誇りに思います。
高橋(達)

腎機能が低下した患者さんの造影検査


“ぞうえいざい”ってすごいんです!

造影CTは非造影CTに比べて多くの情報が得られる有用な検査です。しかし、腎機能が低下した患者さんに対しては造影剤の使用を慎重に考える必要があります。当院では腎機能が低下した患者さんには使用する造影剤の量を減らして検査を行っていますが、その際、“dual energy CT”という特別な検査方法を行うことで造影効果を高めています。今回はそんな当院における造影剤減量の検査を紹介します。

そもそも、造影剤と腎機能って??

CTで用いる造影剤は体内に残ることなく、腎臓を通って体外へ尿として排泄されます。このとき腎臓に負担をかけるため、腎機能が低下した患者さんに造影剤を使用すると造影剤腎症になるリスクが高いことが知られています。造影剤腎症とは造影剤による腎障害のことで、造影投与と関連する腎機能低下です。一般的に腎機能は7~14日で元に戻りますが、場合によっては稀ではありますが腎機能低下が進行して人工透析が必要となる場合もあります。
腎機能はeGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推算糸球体濾過値)で判断します。
eGFRが低いほど腎機能が低下していることを示しており、当院ではeGFR 45以下の患者さんには使用する造影剤の量を減らして検査を行っています。また、eGFR 30以下の患者さんには原則として造影剤を使用しないことになっています。

造影剤を減らしたCT検査

基本的にCTは管電圧(X線のエネルギー)を下げるほど造影効果を高めることができます。一方で管電圧を下げるとX線の量が足りずに画質低下を引き起こします。
“dual energy CT”は2種類のエネルギーのX線(80kv,140kv)を利用して撮像することで通常のCTに加えいろいろな種類の画像を得ることができます。その1つに「仮想単色X線画像」というものがあります。これは2種類のエネルギーで得られた情報から計算を行い仮想的に低電圧で撮像したような画像のことです。

見劣りしない!低電圧のCT画像

通常の造影CT画像と造影剤を減量した仮想単色X線画像を比較すると全く同様の画質とはならないものの、通常の造影検査と遜色ない造影効果が得られています。“dual energy CT”はその機能が搭載されている装置でしか行うことができません。
当院では“dual energy CT”が使える装置を導入しており、腎機能が低下した患者さんに対しても造影剤減量による画像コントラストを低下させずに造影検査が可能となっています。

五十嵐

 

えっ! 放射能を体にいれるの!?


私事でございますが核医学検査も担当するようになり数年たちました。ひとつ印象的だった経験があります。それが「今日の検査って放射能を体に注射するのよね?なんだか怖いわ!」という患者さんのつぶやきでした。放射能という言葉を聞くと、すぐ原子爆弾をイメージしてしまい、とても怖いものに感じてしまいます。また、福島第一原子力発電所事故の影響もあって放射能 = 悪いもの!のイメージしかない方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。
今回はこの放射能という言葉と核医学検査で使われる放射性検査薬について簡単にご説明させて頂き、核医学検査の安全性についてお話させて頂きます。当院にご紹介頂く患者さんへの検査説明の一助となれば幸いです。

放射線=放射能?

放射能という言葉が一般的な使い方として放射線物質と同じ意味合いで使用されていることがありますが、放射能というのはその物質が放射線を出す能力の事を言います。ですから一般的に用いられるところのそれは放射性物質です。

放射性物質に寿命あり!

放射性物質は放射能を持つ物質の総称です。そしてこの放射性物質には寿命があります。
放射性物質は物理学的に不安定な状態であると表現されています。その不安定から安定に落ち着く過程で放射線を放出していきます。そして安定まで行けば放射能を失うことになります。若い頃はエネルギーをもてあまして極悪と呼ばれたような不良が、その有り余るエネルギーをラグビーに向け、花園を目指し、その後立派な社会人として安定自立する感じというとイメージしやすいでしょうか。。。

 

 

いつまで続くの?反抗期!?

その安定化するまでの時間を表すのが放射性物質の半減期と呼ばれるものです。これは放射能が半分になる時間を表しています。当然、この時間が短いほど放射線の影響を受ける時間が短くなります。

人生いろいろ?

放射性物質が安定化するまでの時間は放射性物質の種類によって違います。半減期が年単位のものや数秒まで様々です。かつての総理大臣の言葉を借りると、人生色々、会社も色々、放射性物質も色々となります。

核医学検査薬は短命!

半減期が短いほどその影響は短くなりますから、被ばくという観点からすると有効です。ちなみに原発で問題となる放射性物質としてよく挙げられるのがセシウムです。セシウムにも種類があるのですが、半減期が長いものだと約30年です。それに対し核医学検査でよく使われるのがテクネシウムというもので、半減期6時間となっています。ですので、セシウムと比べると比較にならないほど短いと言えます。

以上放射能から放射性物質そして半減期までご紹介させて頂きました。
半減期の短さからその安全性についてご説明させて頂きましたが、少ないとは言っても放射性物質です。無駄な被ばくや汚染などないように日々注意して検査を行うように努めています。最後に核医学検査の一般的な被ばく線量についての資料を添付します。
核医学担当 保田

外傷による肩関節の撮影で注意している点


今回は交通事故、その他の外傷による肩甲骨の撮影法と注意している点について書かせて頂きます。
私自身の学習を含めはじめに肩関節の構成から説明します。肩関節は肩甲骨・上腕骨・鎖骨からなり、肩甲骨関節窩に上腕骨頭が入り込み肩甲骨肩峰と鎖骨外側とで肩鎖関節を作っています。
外傷での正面撮影は範囲を広くして肩全体を撮影します。各部位に大きな骨折がないか、脱臼していないかをまず確認するためです。

外傷撮影こそ腕の見せどころ!

次に正面撮影で分かりにくい部位を斜位撮影にて観察します。斜位像では正面像より上腕骨の骨折線をはっきり描写できる事がよくあります。また、この時に上部肋骨の骨折が判明する場合もあるので斜位像は欠かせません。
患者さんはストレッチャーにて搬送されてくる場合が多いので立位で撮影が出来ません。その場合斜位撮影は臥位のまま患者さん自身に体を斜めにしてもらうので痛みで体動があると画像にブレが生じ、再撮を行うことがあります。

小さな骨折線も見逃しません!

肩関節の中でも肩甲骨の撮影は難しいと思ってます。肩甲骨は薄いため小さな骨折線は分かりづらく烏口突起の骨折線は上腕骨頭と重なり、また肩峰は鎖骨と肩鎖関節をなしているため一枚の画像に全ての骨折線を描写する事は出来ません。そのため、肩関節を撮影するには正面像・斜位像・軸位像(スカプラY像)の3方向がそれぞれ重要となります。右の画像は自転車で転倒された方の画像でスカプラY像で骨折線がはっきりと描写されてます。

今後も、先生の診断に役立つ画像を提供していきたいと思っております。
青木

マットにコロン 大腸ふんわり


大腸CT検査(以下CTC検査)において、腸管の拡張は検査精度に影響を及ぼす最も重要な要因の1つです。
CTC検査では、肛門から炭酸ガスを注入することで大腸を拡張し、背臥位(あおむけ)と腹臥位(うつぶせ)でCT撮影をします。大腸がしっかり拡張されると腸管壁がよく観察でき所見も見つけやすくなります。しかし、腹臥位(うつぶせ)の撮影では腹部の圧迫により横行結腸やS状結腸が圧排されて十分な拡張が得られないことがあり、読影に影響がでます。

とくに腹部の膨らみのある方(BMI25以の方)は腹臥位(うつぶせ)撮影での拡張不良が顕著となります。そのため当院では、腸管の拡張を良好にするため大腸CTマット(以下コロンマット)を用いて撮影しています。

大腸ふんわり 魔法のマット!

コロンマットはCT検査台の上に置いて使用します(貼付け等の作業は不要です)。マットの空洞部に腹部を入れるようにして腹臥位(うつぶせ)になることで腹部とCT検査台の間に空間ができ腹部の圧迫が軽減、腸管拡張も良好になります!

CTC検査は側臥位→腹臥位→背臥位と体位変更が多い検査のため、コロンマットがあると“体位変換が行いやすい”“安定した体位維持が可能となる”など“腹部とCT検査台の間に空間をつくる”だけでないとても役に立つマットです。
診療放射線技師として良好な画像を提供できるように日々研鑽していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
胃がん検診技術部門 B資格 小曽根

256列のパワー!新入りCTが凄い!


2021年3月から、GEヘルスケア社のRevolution CTが当院に新しく設置されました。2021年9月号のニュースレターで少しだけ登場しましたが、今回は大きく4つに分けて詳しくご紹介させていただきます。この装置を簡潔に表すなら“速く綺麗に撮れる”。その高性能っぷりに私たちも日々驚かされています。そんなRevolution CTの魅力を少しでもお伝えできればと思います。

一目瞭然!4倍撮影が可能に

このCT最大の特徴は、256列マルチスライスCTであるというところです。0.625mmの検出器が管球に対し256列並んでいるので、1回転で0.625mm×256つまり16cm分撮影できます(身の回りのものでわかりやすく例えると1万円札の長尺側と同じ長さです)。すでに当院にある従来CT(64列)では1回転4cm分撮影が可能ということなので、4倍撮影できる範囲が広がったということになります。では、この256列の力が生かされるときとはいったいどんな時でしょうか?

1回転スキャンで頭部もバッチリ

1回転スキャンの素晴らしさを最も実感するのが頭部CT撮影です。頭部撮影中は動かないでいることが重要であるため、患者さんには10数秒間ほど動かずじっとしてもらう必要がありました。しかし、中にはどうしても動いてしまう患者さんもいらっしゃいます。そこで登場するのがこの1回転スキャンです。16cm以内であればなんと1秒で撮影することができます。これによって、長時間じっとしていることが困難な患者さんの検査もスムーズに行うことができます。

幅広な検出器を生かした高速撮影

先述の頭部撮影だけでなく、他部位の撮影も速いのがこのRevolution CTの素晴らしい点になります。従来CT(64列)と比較すると、体幹部の撮影時間が1/2~1/3程度になりました。呼吸苦などで息を止めていられない患者さんや小児の撮影で力を発揮してくれています。

高心拍・不整脈どんとこいの心臓撮影

造影検査といえば様々ありますが、なかなか一筋縄ではいかないのが心臓CT検査です。特に高心拍や不整脈がある心臓だとブレが大きく、思うような画像が得られない場合も多々ありましたが、このCTを導入してからは格段に減少しました。
ここでも大活躍するのが1回転スキャンです。従来CT装置は約4回転のスキャンと長い息止めを必要としていましたが、16cm以内の心臓であれば、1回転分つまり1秒以下で撮影可能になりました。具体例として、従来CTとRevolution CTとで比較した資料を掲載いたします。どちらも同じ患者さんを撮影しています。Revolution CTでの撮影の方が高心拍ですが、LAD分枝がはっきりと映し出されています。従来CTも管球回転速度が速く心臓CTに強い装置でしたが、Revolution CTはそれを遥かに上回る性能になっています。何回転もスキャンがいらないので画像のブレを抑制できることに加え、10秒以上の息止めをしていただくことも無くなりました 。

Revolution CTを迎え入れてから、提供できる画像の質が大幅にアップし、短時間撮影の実現により患者さんの負担を軽減することができるようになりました。私たちも装置の進歩に負けず、より一層精進して参ります。今後ともよろしくお願いいたします。
清水

核医学プチ講座 ブルズアイ(その2) 「ブルズアイ」でわかること「いろいろ」


前回に引き続き「ブルズアイ (Bull’s-Eye)」特集です。今回は臨床でのブルズアイ画面の見方や評価方法についてお話させていただきます。

まずはおさらいになりますが、「ブルズアイ (Bull’s-Eye) 」とは心筋SPECT画像の短軸像 (Short Axis:SA) を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものです。
同心円状に展開していることから「極座標表示」「Polar-Map」とも呼ばれています。

ブルズアイの見方や評価方法は以下の4つです。
◎ 負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化の観察
◎ 時間毎の集積変化を観察
◎ 2つのRI薬品の心筋への集積を観察
◎ 心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察
それぞれ詳しく解説していきます。

負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化の観察

アデノシン薬剤負荷心筋血流SPECT短軸像を心尖部から心基部まで展開しています。上段は負荷血流、下段は安静血流です。中央部~心基部の中隔下壁~下壁にて負荷時集積低下が観察されます。

前頁の短軸像をブルズアイ展開します(上段:負荷血流 下段:安静血流)。Extentは集積低下が [2.5×標準偏差] 以下を一律で黒抜き表示します。[2.5×標準偏差] 以下で集積低下が統計的優位であるとされています。Severityは低下部位の深達度表示です。負荷時のExtent、Severityが安静時に比べて大きく抽出されていて、負荷時の血行障害を示しています。

さらにブルズアイを17の区域に分けてカウントの低下度合いを数値化し、負荷/安静相互の比較を行います。負荷時の低下度“SSS (Summed Stress Score) ”から安静時の低下度“SRS (Summed Rest Score)”を引いた“SDS (Summed Difference Score)”は実際の低下度として虚血性変化の指標値となり、血行再建術の適応評価に多く利用されています。

時間毎の集積変化を観察

心筋SPECTにおける早期像と遅延像をブルズアイ展開することにより、放射性薬剤が心筋内に“滞留”しているか、あるいは“流出(洗い出し)”しているかを判定します。

心筋血流製剤(201TlCl,99mTc-TF)や心筋脂肪酸製剤(123I-BMIPP)では心筋変性や心筋細胞の脱落がある場合に“流出”が観察されることがありますが、近年心筋脂肪酸製剤では“洗出”が停滞するケースで有意な疾患があるという報告も挙がってきています。

2つのRI薬品の心筋への集積を観察

201TlCl/123I-BMIPPをブルズアイ上で比較算出により集積の乖離度(ミスマッチ:Mismatch)の判定も可能になります。

心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察

当院では心筋血流SPECT収集においてほぼ全例に心電図同期収集を行い、血流の評価に加えて壁運動等の心機能解析を行っております。各部位における壁運動や壁厚変化を観察し、部位による容積曲線の変化や、位相解析を行っています。負荷誘発における壁運動の同調性の低下や、心ペーシング施行前の心機能解析としてPhase-Mapの算出等も求められます。

またまた誌面の都合で次回はブルズアイ展開とSegment解析に絞ってまたお話させていただければと願っています。

参考文献
1)日本メジフィジックス医療関係者向けサイト:シンポジウム/心不全における心臓核医学によるアプローチ:BMIPPイメージング(TGCV)

症例(救急CT) 2021.12月号掲載


次の3例に共通するキーワードはなんでしょうか?日本語2文字でご回答ください。

症例1. 70代 男性
腹部膨満が1週間程度持続後、朝食摂取後嘔吐にて近医受診。CT施行後、当院搬送。

症例2. 30代 男性
飲酒後深夜に自転車にて帰宅。
朝腹痛と血尿出現。

症例3. 80代 男性
一過性の左下肢脱力、鼠径部から左上腹部の痛みで来院。
入院2日後背部痛と血圧低下あり。CT撮影。

 


解答と解説

 

解答 “破裂”の2文字です。では症例ごとに解説いたします。

症例1. 70代 男性 腹部膨満 → 診断:胃破裂

A’, B’. 胃小彎側に胃壁の欠損が見られ(黄矢印)、壁外に空気が漏れ出ている(腹腔内遊離ガス)(赤矢印)。門脈ガス(黒矢印)は胃壁のガス(青矢印)が胃静脈を介して門脈へ運ばれたものと推察される。幽門前庭部に異常な胃壁の肥厚がみられ(緑矢印)、通過障害→胃拡張→胃破裂となったと考えられる。胃壁肥厚は胃癌によるものと判明。

 

症例2. 30代、男性 飲酒後深夜に自転車で帰宅 → 診断:膀胱破裂

C’, D’. 膀胱頂部に膀胱壁の不連続が認められる(限局性壁欠損)(黄矢印)。
E’.上記で疑われた壁欠損部(黄矢印)を介して、5時間前の造影CT時に投与され、膀胱へ排泄された造影剤が腹腔内に漏出している(赤矢印)。
F’. 単純写真においても膀胱外へ漏出した造影剤が明瞭(赤矢印)。

症例3. 80代 男性 入院後背部痛と血圧低下 → 診断:大動脈破裂

G’. 腹部大動脈の拡大とそれに連続して層状の低吸収域と高吸収域が認められる(赤矢印)。出血時期の異なる血腫と推察される。

H’. ダイナミック造影CT早期相では大動脈瘤から連続する造影剤の血管外漏出像(黄矢印)が認められ、大動脈破裂と考えられる。

解説

今回は以前と少し趣向を変えて共通のキーワードという形で問題を作成しました。1例目は胃幽門前庭部胃癌(2型)のために幽門狭窄を呈し、食物の通過障害と胃の拡張状態の持続から胃壁の脆弱化、胃内腔の圧の高まりのために胃破裂を呈した症例で、内腔の空気や残渣が腹腔へ漏れ出て腹膜炎を呈し、緊急手術(胃全摘出術施行)となったものです。 手術で胃体部小彎に約9cmの縦走破裂裂傷が認められました。一般的には食道胃接合部や小網に固定され膨張性に乏しい小彎や前壁が破裂しやすいと言われています。
症例2は、泥酔状態での自転車走行に伴う外傷(サドルを股間に強打?)のために膀胱が破裂し、尿が腹腔内に漏れ出たもので、やはり緊急手術となっています。飲酒により膀胱が尿で充満したときに、腹圧が上昇して発生する腹腔内破裂は有名で通常本症例のように膀胱頂部に生じると言われています。
3例目は、大動脈瘤にて他院で経過観察中だった患者さんが切迫破裂から緊急入院となり、一時的には止血していたものの、2日後に再度破裂を呈して、血液が後腹膜へ漏れ出て緊急手術となった症例です。残念ながら、救命はできませんでした。
以上3例は胃、膀胱、大動脈といった異なる臓器が破裂という同じ機転から空気、尿、血液といった異なる内容物が本来存在するべき場所から腹腔内、腹腔内、そして後腹膜など様々な場所に漏れ出たものです。このように1つのキーワードをテーマにした演題は教育的展示として北米放射線学会ではよく演題としてエントリーされ、教育的と思われた演題には星印が演題に貼られ、Radiographics という北米放射線学会が運営する教育目的の雑誌に投稿しても良いというお墨付きを頂けます。ただし、雑誌投稿時には査読が入るため、星印がついても必ず雑誌に掲載されるわけではなく、星印付きであっても厳しい審査で40%は落とされてしまうと言われています。

 

見えない傷を見つけ出せ! 防護衣の管理について


当院では約120枚のプロテクター(X線防護衣)を所有し、一般撮影室・透視室・血管撮影室・CT室・手術室・救急室など様々な場所で使用しています。今回はこのプロテクターについてのお話です。

見えない傷ありませんか??

プロテクターの構造をご存知でしょうか。
遮へい元素(鉛やその他の元素)を高比率配合している“遮へいシート”を“保護シート”が覆う構造になっています。
“遮へいシート”は“保護シート”より物理的に弱い傾向にあるため、遮へいシートに損傷が生じても保護シートには問題がなく外観から損傷が分からない場合があります。
そのため、120枚すべてのプロテクターに対し1枚ずつ1年に2回、透視装置を用いてチェックを行います 。

大切に長持ちさせましょう

メーカーは専用のハンガー、スタンド等に掛けて保管することを推奨しています。時おりご丁寧に畳んで置いてあるのを見かけますが、折り曲げ状態での長時間放置は内部の“遮へいシート”が傷むのでいけません。

当院では使用する皆さんが掛けて保管してくれているので買い替えは1年に2~3枚です。
思いがけない傷が見つかるかもしれません、定期的な点検をお勧めします。

症例(MRI) 2021.6月号掲載


70代 男性
主訴:昼頃からの健忘、記銘力低下

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

 


解答と解説

解答:一過性全健忘

解説

突然発症の一時的な健忘を生じた高齢男性の症例です。
来院時のMRI検査では海馬領域を含め異常所見は指摘できなかったものの(図1)、来院24時間後のMRI検査では拡散強調像で左海馬に点状の高信号域が見られ、FLAIR像でも淡い信号上昇が見られます。ADCmapでは同領域に信号低下が見られます(図3黄矢印)。一過性全健忘として典型的な所見です。

一過性全健忘は突然発症する一時的な純正健忘に対して命名された臨床的概念です。急性発症の健忘が数時間継続し、数時間から1日かけて徐々に改善します。多くは50-70歳の男性に多く、近い過去に関する全健忘や逆行性健忘を伴います。
診断基準は以下のHodges1)のものが知られています
・発作が目撃され、情報が得られること ・明確な前行性健忘が発作中にあること
・意識混濁や事故の見当識障害がなく、認知障害は健忘に限られること
・発作中に神経症候なく発作後に有意な神経徴候を残さないこと
・てんかんの特徴がないこと      ・発作は24時間以内に消失すること。
・頭部外傷や活動性てんかんがある場合は除外

記憶障害は順行性健忘で発作中の記憶はほとんど残らないものの、それ以外の記憶は回復します2)。この症例でも発作時の記憶以外は回復していました。
一過性全健忘の病態はストレスや疼痛などによる海馬領域の緩徐な血流低下によって生じるものと推測されています3)。

画像所見は海馬CA1領域(図4:黄色矢印 白色部分)に拡散強調像で微少な高信号域が出現することが特徴です。
CA1領域は海馬内回路で記憶統合プロセスに関与する部分であり、同部位の障害が健忘の原因とされています。この領域は上海馬動脈と下海馬動脈の分水嶺領域に位置しており、血行力学的な脆弱性により低酸素や代謝異常を来しやすい部位と考えられています3)。
高信号域は発症当日の6時間以内は34%と検出率が低いものの、24-72時間では75%となり時間経過で検出率が高くなる傾向にあります4)。信号は10-14日後から消退傾向で、1年後には所見が消失することが知られています5)。
本症例でも発症直後のMRI検査では所見がみられないものの(図1)、24時間後のMRI検査では海馬領域に拡散強調像で高信号域が出現しています(図2)。1ヶ月後のMRI検査では同所見は消失(図5)しており一過性全健忘の経過として矛盾しませんでした。

症例のポイント

①意識清明な急性の健忘発作
②拡散強調像での海馬領域の微少高信号
③高信号域は症状から遅れて(24-72時間後)出現することが多い
④高信号域は経過で消退

典型的な画像所見と経過を呈した一過性全健忘の1例でした。

【参考文献】
1)Hodges JR,Warlow CP. Neurology Neurosurgery Psychiatry. 1990; 53:834-843
2) 吉田智子ら. 多根医学会雑誌. 2016; 5:61-65     3)水間啓太ら. 昭和学士会雑誌. 2015; 2:191-197
4)Ryoo I, et al. Neuroradiology 2012; 54:329-334    5)Bartsch T, et al. Brain 2006; 129:2874-2884