今月の症例 2023年6月号掲載


問題:90代 男性   主訴:意識障害
来歴:道で倒れているところを発見され救急搬送となった
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:頭部MRI検査
a:T2 Weighted Imaging (WI)
b:Fluid Attenuated Inversion Recovery (FLAIR)像
c:T2*像
d:拡散強調像(Diffusion Weighted Imaging: DWI)
e:Apparent Diffusion Coefficient map (ADC map)
f:Magnetic Resonance Angiography (MRA像)

図2:頭部MRI検査 DWIの連続画像
a:DWI 放線冠
b:DWI 基底核上部
c:DWI 基底核中部
d:DWI 基底核下部


解答・解説

解答:低血糖脳症

解説

90代男性の意識障害の症例です。来院時血糖は13 mg/dlであり、画像所見や臨床症状と合わせて低血糖脳症の診断となりました。
頭部MRI検査ではDWIで被殻や尾状核に左右対称性に高信号域が認められ、ADC mapでも明瞭な信号低下が見られます。T2WIやFLAIR像でも淡い高信号として描出されています(図3:黄矢印)。また、脳溝に沿った皮質にも拡散強調像で淡い高信号域が見られます(図3:橙矢印)。T2*像では出血所見は指摘できず、MRA検査でも動脈瘤や狭窄所見は指摘できませんでした(左前大脳動脈は一部低形成です)。
拡散強調像の連続画像では側脳室周囲白質から被殻や尾状核、両側内包後脚に沿って高信号域が認められます(図4:黄矢印)。こちらも皮質に沿った高信号域が見られます(図4:橙矢印)。
低血糖による脳障害は糖尿病患者でのインスリン等の薬物使用時などに生じます。症状は脱力や錯乱、性格変化、痙攣など様々で意識障害や昏睡を呈する場合もあります。
低血糖脳症では以前は灰白質 (主に皮質や線条体、海馬) に病変が多いとされていましたが、現在では白質病変が灰白質病変より早期に高頻度に生じると考えられています1)。白質病変では内包などに限局する場合とびまん性に広がる場合があります。病変は左右対称性が多く、稀に片側性の症例もみられます。
病変は拡散強調像で最も早期に検出され、通常はADC mapで信号低下を伴います。機序としては細胞外から細胞内への一過性の体液の移動と考えられています2)。血糖改善に伴いADC mapが正常化する可能性が示唆されている報告も見られます3)。T2WIやFLAIR像でも高信号を示すこともあり、造影効果は認められないことが多いです。
病変の信号変化は内包に始まり、半球の白質に広がります。発症早期に拡散強調像を施行した低血糖患者では約1/3の症例で内包に限局した高信号域が認められ、びまん性白質病変を呈した例よりも予後が良いとされている報告があります4)5) (当院での内包後脚に限局した症例:図5)。参考症例では速やかに血糖値や意識障害は改善し、拡散強調像の所見も経時的に消退しました(図6)。
鑑別は低酸素脳症です。同様の画像所見を認める場合があるものの、低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる点が鑑別点となります。今回症例でも視床や小脳には信号変化は認められませんでした。

症例のポイント
① 低血糖や糖尿病既往
② 早期からの白質病変、内包に限局した症例では予後良好
③ 拡散強調像で高信号、ADC mapで信号低下 (T2WIで高信号となることも)
④ 低酸素脳症との鑑別点:低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる

低血糖脳症の症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105

最新CT“Revolution”で頭部撮影!


今回は2021年3月に更新となった新しいCT装置Revolutionでの頭部単純撮影についてご紹介します。

わずか1秒

“Revolution”はGE社製256列マルチスライスCT装置で、最高位モデルとなります。従来より短時間、高精細、低被ばく撮影が可能になりました。
最大50cm径で16cmの範囲をわずか1秒で撮影できます。頭部撮影では以前はヘリカル(らせん状)スキャンで寝台を動かしながら10秒程かける方法だけでしたが、それに比べてはるかに撮影時間が短くなりました。当直業務に入っておりますと、頭部のCT撮影を頻繁に行います。夜間救急で運ばれてくる小児や認知症、泥酔した患者さんなどの場合は撮影中静止していることが難しいため非常に役に立っています。

脳実質が鮮明に

画質に関しましてもAIによるディープラーニングを用いた新しい画像再構成により脳実質のわずかな濃度差をより鮮明に写すことが可能になりました。以前からある装置に比べ新しい装置の画像の方が灰白質と白質の境界が明瞭に見えます。

もちろん低被ばく

被ばく線量は、“診断参考レベル”という撮影時の放射線量が他の医療機関と比較して高すぎていないかを判断する目安となる線量指標が公表されており、成人の頭部CTの診断参考レベルは77mGyと言われています。当院では従来装置での撮影が約76mGy、新しい装置では約66mGyと13%もの被ばく量が低減された事例もあります。
他の部位に関しましても、適切な線量で診断に適した画像を提供して行きたいと思いますので今後ともよろしくお願い申し上げます。

 

どちらを選ぶ?? 2Dと3D


フォーカス!MRI検査

当院の腰椎MRI検査は、ミエログラフィー・T1強調画像とT2強調画像の矢状断・水平断を撮像しています。コントラストの異なった撮像条件を2方向から観察することにり、局在診断・質的診断を容易に可能とします。

左下肢痛の症例を以下に示します。T2強調画像の矢状断で脊柱のアライメント・椎体の信号・椎間板の突出を、水平断で脊柱管がどの程度狭窄しているか観察します。

最近のトレンド

ルーチン撮影の水平断(2D撮像でスライス厚5mm)で椎間板の膨隆による硬膜嚢の狭窄は指摘できますが、当院の整形外科医から依頼されるティーツー キューブ「T2 CUBE」という追加撮像シーケンスがあります。(※椎体を専門とする先生からのオーダーで、オプション検査として運用しております)
これは3D撮像シーケンスです。詳細は割愛しますが、簡単に言うと、画像の「ぼけ」をより抑えられるような撮像方法です。

従来撮像では2Dで3~5mmスライス厚のデータ収集を行うため、撮像方向のみ観察可能でしたが、「T2 CUBE」は1mmのアイソトロピックボクセルによるデータ収集※であるため、CT画像のように撮像後のデータを任意の断面に再構成して取得することができます。
※アイソトロピックボクセルデータ収集
3D画像作成時の使用データがX軸、Y軸、Z軸の各方向ともほぼ同じサイズの立方体として得られること

先ほどの左下肢痛症例で「T2 CUBE」を撮影すると、矢状断で撮影後、水平断および冠状断へ再構成が可能となります。

技術がどんどん進歩

腰椎はもともと生理的湾曲の強い箇所なので、「T2 CUBE」で撮像することで、任意の断面に再構成が可能となり、診断するうえでも非常に多くの情報が得られます。これらの技術は、高性能な撮像コイル・MRI装置のハード面・ソフト面の進化によってもたらされたものであり、MRI検査を受ける患者さんに対しても、非常に有益な情報を提供できます。
ただし、やはり分解能においては2D撮像の方が良好です。さらに3Dは撮像時間が長い(4分30秒程)ため、痛みが強く体勢保持が難しい場合は2D撮影(2分30秒程)の方が適していることもあります。
この他、疑う症例によってT2脂肪抑制画像、拡散強調画像など撮影することもあります。それぞれの症例をしっかりと診断、読影できるように、そして、個々の患者さんごとに様々な撮像シーケンスを駆使してMRI検査を行っております。今度ともよろしくお願い致します。

今月の症例(2023年3月掲載)


問題:40代 男性   主訴:1ヶ月継続する咳嗽  既往:喘息
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真 正面像

図2:胸部単純CT検査
a:肺野条件 水平断像        b:縦隔条件 水平断像
c:縦隔条件 水平断像(bより尾側) d:縦隔条件 冠状断像

解答と解説

解答:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)

図3:胸部単純写真 正面像 拡大

図4:胸部単純CT検査(拡大)

図5:胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign

<解説>
40代男性の持続する咳嗽の症例です。
単純写真では、右中肺野で肺門部から中枢側に浸潤影が見られます。一部棍棒状にも見える陰影も内部に見られます(図3:黄矢印)
CT検査所見では右上葉にconsolidationと周囲に気道散布性の陰影が見られます(図4:黄矢印)。さらにこの症例で特徴的な所見として、consolidation内に高吸収な線状の構造が認められます(図4:青矢印)。この所見は気管支内を鋳型状に占拠する高吸収な粘液栓を反映したものです。

ABPAはアスペルギルス抗原に対する過敏性反応であり、喘息を有する患者に見られます。アスペルギルスに特異的なIgEが関与するI型アレルギー反応とIgGが関与するⅢ型アレルギー反応が病勢において重要な役割を果たすと考えられています1)。
ABPAの診断は画像所見や血清学的検査などで診断されます。診断基準としては古典的なRosenbergらの診断基準2)が用いられてきましたが、現在は日本医療研究開発機構よりアレルギー性気管支肺真菌症の新たな診断基準が提唱されています3)。以下のうち6項目以上を満たしたものをアレルギー性気管支肺真菌症として診断します。
①喘息の有無
②末梢血好酸球数上昇≧500/mm3
③血清IgE値の上昇≧417mm3
④アスペルギルスなど糸状菌に対する皮膚テスト即時型反応または特異的IgE陽性
⑤アスペルギルスなど糸状菌に対する沈降抗体や特異的IgG陽性
⑥喀痰や気管支洗浄液で糸状菌培養陽性
⑦粘液栓内の糸状菌染色陽性
⑧CT検査で中枢側の気管支拡張
⑨CT検査や気管支鏡で中枢気管支内粘液栓
⑩CT検査で高吸収な粘液栓

本症例では喘息既往と好酸球、血中IgE値の上昇、特異的IgE陽性(アスペルギルス)、CT検査での中枢側の高吸収粘液栓からABPAと診断されました。
ABPAの画像所見では、胸部単純写真で気管支内粘液栓を反映した棍棒状陰影がFinger in glove signとして知られています4)。本症例でも右中肺野の粘液栓の棍棒状陰影が手袋状のようにも見えます(図5) 。
その他、診断基準にも示されているようにCT検査で中枢側気管支を鋳型状に占拠する高吸収粘液栓も特徴的な所見です(図4:青矢印)。
アレルギー性真菌性副鼻腔炎など真菌アレルギーでは病変部が高吸収になることが知られており、凝集した鉄やマンガンなどの重金属、カルシウム、濃縮された分泌物などを反映しています5)。
同様の理由でABPAの粘液栓も高吸収となると考えられており、この所見の感度は39.7%、特異度は100%とされています6)。

症例のポイント
①喘息の既往
②胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign
③CT検査で気管支内の高吸収粘液栓

ABPAの症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105

核医学プチ講座 ブルズアイ(最終章)  「SSS」「SRS」「SDS」って何ですか?


核医学プチ講座「ブルズアイ」のシリーズ最終章!
負荷心筋血流シンチにおける負荷誘発虚血の評価指標値「SSS」「SRS」「SDS」についてのお話です。

まずはおさらい(詳細は2021年9月号ご参照ください)

「ブルズアイ(Bull’s-Eye)」とは心筋SPECT画像の短軸像(Short Axis : SA)を心尖部から心基部まで同心円状に投影したものです。(下図)ブルズアイの見方や評価により以下の観察が可能となります。
◎ 負荷心筋血流SPECTにおける虚血性変化を観察
◎ 時間毎の集積変化を観察
◎ 2つのRI薬品の心筋への集積を観察
◎ 心電図同期収集による心筋SPECTの壁運動等、動態観察

ここから本題!

「SSS」「SRS」「SDS」とは

ブルズアイを17または20セグメントに分割し(当院では17セグメントを採用)、0(正常)~4(無集積)の5段階にスコア化、このスコアをもとに評価します。
SSSは負荷時の合計スコア、SRSは安静時の合計スコア、SDSはSSSからSRSを差し引いた虚血心筋スコアとなります。 SDSを%表示し虚血心筋量を半定量的に評価したものが%Ischemic(%SDS)と定義されます。

以下、自験例を2例紹介します

症例1 %Ischemic=13.2%

症例2 %Ischemic=7.4%

最新の動向は

今回の内容につきましては、日本メジフィジックス 医療関係者向けサイト「SPECTを用いた虚血心筋の評価による治療選択と予後 %Ischemicの概念と臨床応用」(日本大学医学部循環器内科教授 松本直也先生監修)を参考に掲載しました。その中から一部%Ischemicに関する動向を紹介します。
Hachamovitchらは2003年に、虚血心筋量(%Ischemic)が左室心筋全体の10%以上の場合、薬物治療よりも血行再建術が予後を改善すると報告しております1)。その後、同一著者らが追試を行い、心筋梗塞の既往のない患者において、やはり虚血心筋量10%が血行再建術による予後改善の閾値であること(全ページの症例1はこれに相当)、虚血心筋量が大きいほど血行再建による予後改善効果が大きいことが報告されています2)。
虚血心筋を有する症例に対し、冠血行再建術が予後の改善につながるか否かを評価する前向き無作為化国際研究が現在進行中です(ISCHEMIA study)3)。また、相対的な心筋血流評価を補う方法として半導体検出器カメラを用いた心筋血流定量(myocardial flow reserve算出)の臨床的有用性4)も示唆されています。今後はこのような多方面からのエビデンスの蓄積や定量法の普及が望まれることになります。

放射線技術科主任/核医学専門認定技師/放射線内用療法安全取扱担当者 荒田

今月の症例(2022年12月号掲載)


問題:90代 女性   主訴:昼食後からの右下腹部痛 下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純・造影CT検査
a:単純CT検査 水平断像 胆嚢下部  b:造影CT検査 水平断像 胆嚢上部
c:造影CT検査 水平断像 胆嚢中部  d:造影CT検査 水平断像 胆嚢下部

図2:造影CT検査 胆嚢の冠状断像
a:冠状断像① b:冠状断像②(aよりも背側)

図3:Magnetic resonance cholangiopancreatography (MRCP) 検査
a:T2 Weighted Imaging (WI) 冠状断像 b:MRCP maximum intensity projection (MIP)
c:T2WI冠状断像(aより背側)    d:Fat Saturation(FS:脂肪抑制)T1WI

解答と解説

解答:胆嚢捻転

図4:単純・造影CT検査
a:造影CT検査 冠状断像
b:単純CT検査 水平断像 胆嚢下部
c:造影CT検査 水平断像 胆嚢下部

図5:MRCP検査
a:T2WI b:MRCP MIP  c:T2WI冠状断像(aより背側)  d:FST1WI

図6:遊離胆嚢のGross分類

図7:画像と対比した胆嚢捻転のシェーマ
a:T2WI冠状断像 b:胆嚢捻転のシェーマ像

90代女性で急性発症の腹痛の症例です。
CT検査画像では、図4aで腫大した胆嚢が認められます(緑矢印→)。胆嚢頚部は肥厚しています(橙矢印→)。図4bでは胆嚢壁の一部が高吸収となっており、壁内の微小出血などを反映した所見と考えられます(黄矢印→)。
図4c では同部位の壁構造や造影効果はやや不明瞭です(青矢印→)。
MRCP 検査では図5aで胆嚢内腔がくちばし状に変形しており、図5b で胆嚢管の構造ははっきりしません(共に青矢印→)。
図5cでは頚部は T2WI で低信号となり渦巻き状にも見えます(黄矢印→)。また、胆嚢は肝臓と離れて存在しています。
図5d では、単純 CT 検査で見られた高吸収域(図4b)に一致して高信号域(橙矢印→)が見られます。FS T1WI で高信号であり、CT検査所見と合わせて胆嚢壁内出血として矛盾しない像と考えます。
胆嚢腫大、壁内出血や頚部の肥厚と渦巻き状所見より、胆嚢捻転を疑いました。
その後、手術となりました。術中では肝床部から完全に遊離した胆嚢が360°捻転しており、胆嚢捻転と診断されています。

胆嚢捻転は先天的要因として遊離胆嚢と呼ばれる状態に亀背や側弯、るい痩、打撲など物理的要因が加わることで発症します。
高齢女性に多く、急性発症の右季肋部痛で腫瘤様構造を触知することも多いとされています1)。
遊離胆嚢とは胆嚢が肝床部に付着せず離れて存在する状態を指し、Grossの分類(図6)が知られています2)。Ⅰ型は胆嚢と胆嚢管が間膜で肝下面と連結しているものでⅡ型は胆嚢管のみが間膜で肝下面に連結しているものと分類されています。Ⅰ型は不完全な捻転が多く、Ⅱ型は本症例のように、180°以上捻転する完全型が多いとされます。ただし、間膜は画像上同定できず画像からGross分類を判別することは困難です。
胆嚢捻転の画像所見は 胆嚢壁肥厚や腫大、偏位がみられ、さらに胆嚢頚部の渦巻き像 (whirl sign) が見られれば診断の重要な所見となります(図7) 3)。その他、胆嚢管の途絶や胆嚢壁の虚血性変化も胆嚢捻転を示唆する所見となります。
捻転の程度により静脈のみが閉塞し、胆嚢のうっ血所見が中心となることもあるため、超音波検査などで動脈の血流が残存していても注意が必要です。
この症例のように特徴的な画像所見であれば診断が可能ですが、一般的には術前診断が可能な例は約10%とされ診断に苦慮する場合もあります4)。

症例のポイント
① 高齢女性の急性腹症
② 遊離胆嚢
③ 胆嚢頚部の渦巻き状所見 (whirl sign) 、胆嚢管の途絶、胆嚢腫大や偏位
④ 一般的な術前診断が可能な例は約10%

胆嚢捻転の症例でした。

【参考文献】
1)山下 康行ら: 肝胆膵の画像診断-CT・MRIを中心に- 改訂第2版. 秀潤社, p.516-517, 2022.
2)Gross RE. Archives of Surgery. 1936; 32:131-162
3)Tajima Y. The American Journal of Surgery. 2009; 197:9-10
4)Baig Z, Ljubojevic V, Christian F. Internal journal of Surgery Case Reports. 1936; 32:131-162

造影剤なしで冠動脈をみる フィエスタFIESTAとは?


造影剤なし!冠動脈MRA

当院では冠動脈疾患が疑われる患者さんにCTにて造影剤を用いた冠動脈撮影(冠動脈CTA)を実施しています。しかし、冠動脈CTAは造影剤を使う為、腎機能が悪い方や造影剤アレルギーをお持ちの方に検査することができません。そこで造影剤を用いずに冠動脈を描出する“冠動脈MRA”がMRIでは可能です。さらに冠動脈CTAで評価が難しいとされる石灰化部も、“冠動脈MRA”では石灰化を除いて血管の評価が可能なため有効とされております。

テクニックは3つ

MRIで冠動脈を撮影するために必要となるテクニックは大きく3つあります。
・心電図同期
・呼吸同期
・高速信号収集
今回は3つ目の「高速信号収集」についてご紹介させていただきます。

“フィエスタFIESTA”が血流を描出

冠動脈MRAは常に流れている血液(撮影対象が動いている状態)を高信号で描出する為に、データ収集時間を短くする必要があります。一般的なT1強調画像やT2強調画像の撮影方法では、信号収集にかかる時間が長いため、流れている血液から信号を得ることができません。そこで“FIESTA”という撮影方法を用います。“FIESTA”は信号収集時間が極端に短いため、血流を高信号で描出することができます。T1強調画像、T2強調画像とは異なるコントラスト画像となります。

MRIでは本来、データ収集時間を短くしようとすると収集できる信号が減るため、画像の劣化を招いてしまいます。しかし“FIESTA”では、画像コントラストに影響を及ぼす通常では用いられない信号も含めた多くの信号を収集するので、一般的なT1強調画像やT2強調画像のようなコントラストにならない代わりに、短時間にも関わらず広い範囲を高画質で撮影できます。この撮影方法により良好な冠動脈の撮影が可能となります。

Case Study

狭心症の除外目的で冠動脈CTAを撮影したところ、石灰化部の評価ができなかったため、冠動脈MRAを撮影することになった症例です。左冠動脈(LAD)の走行に沿って再構成した画像を以下に示します

緊急性が高くない冠動脈検査はほとんどCTで行われております。MRIの依頼があるのは腎機能等の理由で造影剤が使用できない患者さんの場合です。どの検査も一長一短なのでCTと比較して、
・解像度が劣る(分枝の評価は難しい)
・撮影時間が長い(45分ほど)
・心電図と呼吸両方の撮影タイミングが必要(同期が合わないと撮影不可の場合もあり)
以上のような短所もあります。しかし造影剤が使えない患者さんにとって唯一ともいえる冠動脈の描出法なので、依頼があった際はより一層の責任感を持って検査に望んでおります。患者さん、先生に貢献できるように今後とも研鑽を積み続け、より良い画像をお届けしていきたいと思います。

大腸CT検診スタートから4年で見えてきたもの


大腸CT検診について

大腸CT検査は適切な前処置を行った上で肛門部にカニューレを挿入、炭酸ガスを逆行的に大腸内に注入し続けた状態で腹臥位、背臥位の2体位(必要であれば側臥位も追加して)撮影を行います。さらに撮影データは画像ワークステーション(当院ではziosoft社のziostation2を使用)にて解析・観察します。
全大腸検査のGolden Standardといわれる大腸内視鏡検査と比べて、被検者の苦痛が少なく、多種に渡る画像解析(仮想大腸展開画像①や仮想内視鏡画像②、仮想注腸画像③など)を駆使して、多角的な読影が可能です。
大腸がんは我が国で増大傾向にあり、検診分野のさらなる普及が予想されます。当院では2018年11月より大腸CT検診を開始いたしました。院内掲示や当院ウェブサイト等で募集を行ってまいりましたところ、栄区や近隣の市区以外の地域からもお申し込みをいただいております。

大腸CT検診の前処置について

当院大腸CT検診の前処置法④は、検査前日の大腸CT検査食3食に加えて、毎食後、大腸CT用バリウム(商品名;コロンフォート)を服用し、検査前夜にマグコロール散50gを400mlの水にて溶かし服用するという方法をとっています。
全大腸内視鏡検査に行うゴライテリー法(検査当日にニフレックを約2,000ml服用)に比べて受容性が高く、自宅にて安全に行うことができる前処置法であります。食後に服用する大腸CT用バリウムは解析時に、病変と残渣を区別するために、残渣に標識する目的(fecal tagging)で服用しております。多少残液が残っていても、均一に標識されていれば病変との鑑別は容易になり、読影時間が短縮できるというメリットがあります。

検査精度について

検査精度についてお示しいたします⑤。大腸CT検診は4年間で75名(ボランティア含む)の方が受検されました。受検者の内訳は、男性46名、女性29名で年齢は29才~80才(中央値60才)でした。受検者75名中、異常なしは37名(49.3%)、経過観察(1年後に大腸CTもしくは大腸内視鏡を受検推奨)が、21名(28.0%)、要精密検査対象の方が11名(要精検率9.1%)いらっしゃいました。そのうち8名の方が精密検査(大腸内視鏡検査)を当院消化器内科で施行した結果、早期大腸がんの方が1名(1.3%)いらっしゃいました。また、大腸CT検査の所見と大腸内視鏡検査の所見が一致した方が8人中6人で陽性反応的中率は75.0%でした。その一方で腸管拡張不良や前処置不良等の理由により、大腸の一部が判定不能となってしまった方も6名(8.0%)いらっしゃいしました。

今後の課題

判定不能例をさらに少なくすることが望まれます。前処置の方法を今後改善していくことになると思うのですが、受検者によって状態もまちまちであることや、受容性と腸管洗浄効果はトレードオフの関係ですので、今後慎重に検討、対応することが必要と考えます。今後も地域の皆様に良質な検診をご提供できるように研鑽してまいります。

横山

今月の症例(2022年9月号掲載)


問題:70代 男性
主訴:3ヶ月前から腰痛
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:造影CT検査
a:L3椎体レベル, b:骨条件矢状断像, c:冠状断像, d:骨条件冠状断像

図2:腰椎 MRI検査
a:脂肪抑制T1強調像, b:造影後脂肪抑制T1強調像, c:拡散強調像, d: ADCmap

図3:腰椎 MRI検査
a:T2強調像冠状断像 b:造影後脂肪抑制 T1強調像冠状断像

 

解答と解説

解答:化膿性椎体炎、椎間板炎からの左腸腰筋膿瘍

図4:造影CT検査
a:L3椎体レベル, b:骨条件矢状断像, c:冠状断像, d:骨条件冠状断像

図5: MRI 検査
a:造影後脂肪抑制 T1強調像冠状断像,b:拡散強調像, c:ADC map

図6: 化膿性椎体炎 感染の広がり

3ヶ月ほど持続した腰痛の症例です。
造影CT検査では図4a、図4c黄色矢印←部分で腸腰筋内に嚢胞状構造が認められます。内部には一部石灰化もみられます。図4b 、図4d 橙矢印←では L2椎体に破壊性変化が認められます。
MRI 検査(図2)では、上記病変は脂肪抑制 T1強調像で背側が高信号、造影後脂肪抑制 T1強調像で辺縁部が造影され、拡散強調像では背側が高信号、 ADC map では背側が信号低下しています。冠状断像(図3)では T2強調像で内部は高信号、造影後 T1強調像冠状断像では、辺縁部が造影され内部には隔壁構造も見られます。また T2強調像冠状断像では L1/2椎間板に高信号域が認められます。
図5では分かりやすいようにMRI所見にアノテーションをつけています。図5aでL1、2椎体間より連続する(黄色矢印←)嚢胞構造が腸腰筋内に見られます。内部には隔壁を伴っています(緑矢印←)。図5b拡散強調像では背側主体に高信号域が認められ、図5cのADC map では同領域の信号が低下しており、粘稠度の高い成分が存在していると考えます(橙矢印←)。腸腰筋内の嚢胞状構造は画像所見から膿瘍と考えられました。
以上の所見より、L1、2椎体を主体とした化膿性椎体炎、椎間板炎からの左腸腰筋膿瘍形成と診断しました。
CT ガイド下でドレナージを施行し黄色ブドウ球菌による感染が確認されました。その後、膿瘍腔は縮小、改善が得られました。

化膿性椎体炎は脊椎椎体及び接する椎間板の炎症であり、起炎菌は黄色ブドウ球菌が最多です。小児と中年から高齢者(50~60代)に多くみられます。好発部位は、腰椎>胸椎>頚椎の順です。原因としては、脊椎外の感染巣から生じた敗血症によることが多いとされています1)。
血管が豊富で血流の終末部に当たる終板に接する①前軟骨下層に菌が付着し、その後に②椎間板、椎体や③前縦靭帯、傍椎体軟部組織に感染が広がります(図6) 1)。その過程で腸腰筋にも膿瘍を形成します。
画像所見ですが MRI 検査では椎間板は T2強調像で高信号となり、椎間板隙の狭小化、椎体の圧潰が認められます。傍椎体領域には75%で椎体周囲に液体貯留を呈するとされており、多くは膿瘍です1)。膿瘍の診断には拡散強調像、造影 MRI 検査が有用です。拡散強調像で高信号、 ADC map で信号が低下していた場合は粘稠度の高い液体貯留であると想定できます。造影後に内部に造影効果を伴わないことが確認できれば、腫瘤性病変ではなく膿瘍が疑われます。
また、CT検査では椎体の破壊性変化の評価や膿瘍の進展範囲の評価が可能です。

鑑別は結核性脊椎椎間板炎です。化膿性椎体炎では罹患椎体は2椎体までであり、3椎体以上の椎体への進展は稀とされています。一方で結核性椎体椎間板炎は3椎体以上の椎体への進展がみられ、胸腰椎移行部が好発部位です。
また結核性では腰筋の筋膜に沿って粗大な膿瘍を形成することがあり、慢性期では内部に石灰化が生じるとされています(冷膿瘍)2)。今回症例では膿瘍は比較的大きく、内部に石灰化があったものの培養結果からは結核菌は検出されませんでした。

症例の鑑別ポイント
① 2椎体までの罹患椎体、破壊性変化
② 化膿性椎体炎は腰椎>胸椎>頚椎
③ 椎体/椎間板のみならず筋肉内も含めた傍椎体領域も評価が必要
④ 結核性は3椎体以上、胸腰椎移行部に好発、内部石灰化

化膿性椎体炎、椎間板炎と腸腰筋膿瘍の1例でした。

参考文献】
1) 柳下 章: エキスパートのための脊椎脊髄疾患のMRI 第3版. 三輪書店, p.416-425, 2015.
2) 福田 国彦:ステップアップのための骨軟部画像診断-Q&Aアプローチ-. 秀潤社, p.142-145, 2015.

今月の症例(2022.6月号掲載)


問題:80代 男性
主訴:大動脈解離の経過観察中の偶発的所見
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純CT検査副腎レベル
a:今回CT検査 副腎レベル b:4ヶ月前CT検査 副腎レベル

図2:腹部 MRI検査
a:T1WI(weighted image)opposed phase b:T1WI in phase c:T2WI
d:拡散強調像 e:ADCmap f:opposed phase 冠状断

解答と解説

解答:右副腎原発リンパ腫 B-cell lymphoma

大動脈解離の経過観察中に出現した右副腎腫瘤の症例です。
4ヶ月前のCT検査では副腎には腫瘤は見られず、短期間で出現、増大する4cm大の腫瘤(図1)であり、内部は均一で境界明瞭です。
MRI検査所見ではT1WI opposed phase 、T1WI in phaseで脂肪含有を評価します。両者は chemical shift imaging と呼ばれ、in phase と比較して opposed phase で信号が低下していた場合、脂肪が含有しているものと考えられます。今回検査では、opposed phase で信号低下なく脂肪の含有は認められませんでした。 T2WI では腫瘍は筋肉よりも高信号であり、内部は比較的均一です(図2)。
拡散強調像は細胞密度が高い病変や浮腫などで高信号になり、 ADC map ではその程度を数値化して診断することができます。 この腫瘤では、拡散強調像は辺縁部を主体とし、まだらな高信号でADC 値は一般的な基準である1.0×10-3mm2/sよりも低下していました(図3)。
以上の所見より、短期間で出現する腫瘍として副腎腺腫、褐色細胞腫は考えにくく、リンパ腫を鑑別としました。その他、転移性腫瘍や副腎癌も短期間で増大する可能性はありますが、内部が比較的均一な点、転移としては片側である点がやや非典型的です。
手術の結果、リンパ腫と診断されました。

悪性リンパ腫の中で内分泌臓器に初発する頻度は3%とされており、中でも副腎原発例は稀とされています。高齢男性に多く背部痛や季肋部痛など自覚症状を伴い、病理組織学的にはB-cell typeが多いようです1)。

副腎原発リンパ腫は一般的には約半数が両側性とされています2)。周囲への浸潤所見を呈する場合もありますが、副腎内に限局、境界明瞭な病変の場合では画像所見は非特異的となります。両側性であれば転移が、6cmを越える大きな腫瘤の場合は副腎癌も鑑別となり得ます。
今回の重要な鑑別点は拡散強調像とADCmapです。拡散強調像は水分子の動きを画像化したもので、動きが制限された水が存在すると高信号となります。ADCmapは拡散強調像を元にして作成された画像で、水運動の程度を数値化して表示することができます。具体的には拡散強調像で高信号(白)、ADCmapで低信号(黒)として表される部分は動きが制限された水≒細胞密度が高い領域や粘稠性の高い成分と考えられます。
悪性リンパ腫は細胞密度の高い病変であるため一般的にADC値は低い(0.5~0.9×10-3mm2/s)腫瘤であり3)4)、今回症例では0.5×10-3mm2/sと強い低下が見られた(図3)ためリンパ腫に合致する所見でした。ただし、その他の悪性病変でも細胞密度が高い部分ではADC値が低値となる場合もあり診断には注意が必要です。

症例の鑑別ポイント
① 短期間で増大する副腎腫瘤=良性は考えにくい
② 大きさの割に境界明瞭で比較的内部が均一な腫瘤
③ 拡散強調像で高信号、ADC値の低値

右副腎原発リンパ腫という稀な1例でした。

【参考文献】
1) 松岡 隆久. 日本消化器外科学会誌 2005; 38:509-515
2)Khaled M, et al. Radiographics 2004; 24:73-85
3)S Colagrande, L Calistri, et al. Abdominal Radiology 2018; 43:2277-2287
4) 佐藤 修. 悪性リンパ腫, リンパ増殖性疾患-特徴的画像所見と注意点- 画像診断 2019;39:1015-1027