○○は脱がさないで!? 止まらない検査依頼!画像診断現場のリアル


【情報通信技術の進化とCT現場】
この25年の間、情報通信技術は飛躍的に進化しました。スマートフォンやイ
ンターネット、AIが普及し、その技術革新は医療現場にも大きな影響を与えま
した。レントゲンはフィルムからモニター診断へ、カルテは電子化され、紙を
探し回る手間もなくなりました。画像診断の分野で特に大きな変化をもたらし
たのが マルチスライスCT です。25年前、当院のCTは1回転で1枚の画像し
か撮れませんでしたが、今では256枚以上を同時に撮影可能です。検出器を小
型化して多数並べたことで、1回のスキャンで一気に画像が得られるように
なったのです。半導体技術の進歩も大きく貢献しました。その結果、かつて
30分かかっていた検査が、今では5~10分で完了します。

【急増する検査件数】
「こんなに早く検査できるなら、もっと多くの患者さんを診られるはず!」─
─ 当然、臨床サイドの要望は増えます。毎年件数は増えて気がつけば、1日
40件だったCT検査が70~80件、最近では120件を超える日もあります。
とはいえ、装置の進化だけではここまでの対応は不可能です。現場でもあれこれ工夫を凝らし、効率化を図ってきました。

【現場での工夫と効率化の取り組み】
患者さんの負担を減らす工夫(長谷川主任が導入!:2000年頃からスタート)
なるべく服や靴を脱がずに検査を受けられるようにしていま
す。服の脱ぎ着には1回あたり5分ほどかかり、1日に100件
の検査を考えると大きな時間短縮につながります。


3D画像処理のクラウド化(2010年頃からスタート)
これまでCT室で行っていた3D画像処理をクラウド化し、レントゲン室のスタッフ
も手伝える体制にしました。CTスタッフの負担を軽減し、全体の効率を向上させ
ています。
予約枠の調整(コロナ頃からスタート)
週明けの月曜日は、週末に入院した患者さんなど、病棟からの検査依頼が増える
ことが多いため、外来患者さんの予約枠を減らして、待ち時間が長くならないよ
うに調整をしています。
血管確保の時間を短縮(コロナ明けからスタート)
造影剤を使う検査では、検査室内ではなく、前室であらかじめ血管確保を行い、
検査時の時間を短縮しています。確保困難事例で検査室が長時間占拠されること
もなくなりました。

【待ち時間の現実と予約システムの課題】
それでも、同じ時間帯に患者さんが集中すると混雑は避けられません。「予約した
のに1時間も待たされた!」という声が聞こえることもありますし、タイミングに
よっては2時間待ちになることもあります。救急外来や病棟の急変、緊急手術の可
能性がある場合など、どうしても予約患者さんの対応が後回しになることがあり、
予約システムが形骸化しているのが現状です。
【現場スタッフの奮闘】
技師、看護師、事務が協力し、なんとか毎年増え続ける検査件数をこなしていま
す。正直、勤務時間をオーバーする日が多いですが、皆の努力と工夫で現場が回っ
ている状態です。今後もさらに効率化を図れるのか、試行錯誤を続けていくしかあ
りません。そういえば細川前院長が「変化を続けられるものが生き残る」みたいな
ことおっしゃっていました。技術の進歩がどんなに進んでも、最終的には「現場の
知恵と努力」が不可欠です。今日も待合室では、検査の順番を待つ患者さんが、ス
マートフォンを見つめながらそわそわしています。そんな視線を感じつつ、私たち
はまた次の検査へと足を運んでいます。

保田

“FFR-Angio”を導入


心臓カテーテル検査において、冠動脈に狭窄
を認めた場合の心筋虚血評価の指標として冠血
流予備量比(Fractional Flow Reserve:以下
FFR)というものがあります。冠動脈に圧測定用
ワイヤーを挿入し、狭窄の前後の血管内圧を測
定することでFFR値を算出し冠動脈形成術が必
要かどうかを判断する検査法ですが、狭窄部に
ワイヤーを通過させることによる血管損傷など
のリスクがあります。

 

 

 

 

 

 

“FFR-Angio”とは、冠動脈にワイヤーを通すことなく、冠動脈造影の画像からFFR値を算出することができる解析ソフトです。日本でも承認されたため、早速当院も導入しました。
“FFR-Angio”は従来のFFRより低侵襲で行える検査となっておりますが、データを転送すれば自動で解析されるわけではありません。冠動脈を正確にトレースする必要があるため、良好な冠動脈造影の画像が必要となります。また冠動脈のトレースには30分程度の時間を要します。
検査を担当する放射線技師は、検査中に医師からFFR-Angioの依頼を受けると、最適な画像が得られる角度・造影剤の量を判断し解析用の冠動脈造
影を追加撮影します。そして画像をワークステーションに転送、冠動脈のトレース、算出されたFFRAngio値をレポートとしてPACSに保存するところ
までが放射線技師の役割となります。

今回ご紹介したFFR-Angioは患者さんにとって低侵襲で有益な検査ではありますが、解析結果が冠動脈形成術の必要性を判断する材料となるため、解析を担当する責任の重さを肝に銘じスタッフ一同精進していく所存です。

北畠(太)

パワーアップした 3.0T MRI を紹介!


3.0TのMRI装置が更新となり、「SIGNA Architect シグナ アーキテクト」という最新のMRI装置にバージョンアップしました。
ディープラーニング画像再構成である「AIR Recon DL エアー リコン ディーエル」が使用可能になったことに加え、新コイルである「AIR Coil エアーコイル」が導入されました。

ココが変わった!AI搭載!画像再構成技術

AIR Recon DLは、撮像された生データ(Rawデータ)全体に直接ディープラーニングアルゴリズムを適用する画像再構成技術です。詳細な解説は紙面の関係上省略しますが、AI(人工知能)を活用しており、以下の3つの効果を同時に得ることができます:

● ノイズ低減:SNR(信号対雑音比)が大幅に向上
● 画像尖鋭度の向上:空間分解能が改善
● トランケーションアーチファクト*の低減:画像への悪影響を軽減

これらの効果により、より鮮明で高画質なMRI画像が得られるようになります。
従来の装置では、高分解能・高画質な画像を得るためには撮像時間が長くなるという課題がありました。しかし、AIR Recon DLの導入により、高画質化と撮像時間短縮を同時に実現。これにより、検査時間が短縮され、狭い空間で長時間じっとしていなければならない患者さんの負担を大きく軽減することが可能になりました。

*トランケーションアーチファクト:「データ不足」が原因で、画像内に
縞模様や線が描出されてしまう現象

毛布のようなコイル

MRI検査ではコイルを使用して 撮像を行ないますが、ポジショニングのとき、患者さんからコイルが重くてしんどいと言われることがありました。しかし、このAIRコイルは従来のコイルと比べはるかに軽くやわらかい素材でフィット感があり、まるで毛布に包まれているような安心感があります。AIRコイルは、内部に小型の独立したコイルが高密度に配置されており、隣り合うコイル間
の電気的な干渉を最小限に抑えています。これにより信号低下を抑制し、やわらかいコイルを使用しても撮像への影響が少なくなるよう工夫されています。
また、検査をする放射線技師の立場からすると、患者さんへのコイルのセッティングのしやすさと広い適用範囲による画質の安定性向上が見込まれます。 軽くて柔軟性の高いコイルは取り扱いやすく撮像部位にフィットします。従来は撮像部位に合わせた適切なコイル選択が重要で、MRI担当技師の知識や経験に左右される部分が多かったのですが、そういった手間がほぼ不要になります。

 

今月の症例(2025年3月号掲載)


問:80代 女性 腹痛で当院受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 


解答:嫌色素性腎細胞癌

解説

80代女性、腹痛の症例です。精査のためCT検査が施行され、偶発的に左腎腫瘍が見つかりました。
画像所見の解説です。単純CT検査では内部に点状の高吸収域が見られます(図2a:橙矢印)。造影後では辺縁部主体(図2a,d:黄矢印)の造影効果が見られます。中心部では瘢痕状の低吸収域が見られます(図2c,d:緑矢印)。造影効果は漸増性です(図3a-c:赤枠)。
漸増性の造影効果で典型的な淡明細胞癌とは言えないものの、乳頭状腎癌や嫌色素性腎細胞癌の可能性があり手術が施行されました。病理結果は嫌色素性腎細胞癌でした。

嫌色素性腎細胞癌は腎細胞癌のうち3番目に多い組織型で全腎腫瘍の2-4%、腎癌の5%を占めます。オンコサイトーマ同様に集合管の介在細胞から発生します。病期も進行例は少なく淡明細胞癌より予後がよく乳頭型と同じかそれ以上に良好とも言われます。周囲への浸潤や転移も少ないとされます。

画像所見は比較的均一で中等度の造影効果を示すことが多いです。ダイナミックCT検査では比較的乏血性であることが多く、淡明細胞癌のように動脈相から急速な造影効果と後期相でwashoutを呈することは少ないとされますが、多血性の症例もありえます。
内部に石灰化や中心性瘢痕が見られる場合があります(図4a,b)。また、超音波検査のカラードップラーでは腫瘍中心部から放射状に分布する車軸状の血管構築が見られる症例もあります。本症例の超音波検査では腫瘍中心部から放射状に広がる血流が見られ(図5a,b)、車軸状の血管構築が確認できます(図5c,d)。
鑑別はオンコサイトーマで上皮性腎腫瘍の5%程度の頻度で見つかる良性腫瘍です。所見は嫌色素性腎細胞癌と類似しており、石灰化や中心性瘢痕や車軸状の血管構築などを認め鑑別は困難です。図6はオンコサイトーマの症例ですが、辺縁部主体に強い造影効果とwashoutが見られます(図6a-c:赤枠)。中心性瘢痕が見られ(図6c,d:緑矢印)、画像上は嫌色素性腎細胞癌と類似しています(やや多血性ですが)。このようにオンコサイトーマと嫌色素性腎細胞癌の鑑別は困難であり、腎摘出術が行われることが多いです。
その他、乏血性腫瘍として乳頭状腎癌も鑑別ですが予後や治療方針が類似するため両者を鑑別する意義はありません。

嫌色素性腎細胞癌の1例でした。

【参考文献】
山下康行, 知っておきたい泌尿器のCT・MRI, 改訂第2版, 秀潤社, 2019年: 70-71.

線量管理による被曝低減の取り組み


診療放射線技師の仕事”というと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。おそらく真っ先に思いつくのはレントゲンやCT、MRIの撮影ではないでしょうか。しかし、それ以外にも診療放射線技師の大事な仕事があります。それは患者さんと医療スタッフの被ばくを管理することです。患者さんと医療スタッフの被ばくを最小限に留めることは診療放射線技師の責務です。今回は患者さんの被ばくを最小限にして検査をするために行っている当院の取り組みを紹介します。

被ばく低減の考え方

被ばくを少なくするためには、ただ“放射線の量を少なくすればいい”ということではありません。今回は教育を目的として、低線量から高線量でスイカをCT撮影してみました。スイカのタネを病変と仮定します。線量不足では画質が悪くタネはほとんど識別できません。これでは病変を見落としてしまいます。低被ばくで検査を行っていても病変を見つけられなければ意味がありません。次に線量適正の画像は線量過剰と比べると画質は劣りますが、タネ5つが明確に識別可能です(黄色矢印)。最高の画質ではありませんが、診断には十分な画質と言えます。そして線量過剰の画像はタネがとても明瞭に見えますが、これは線量適正でも得られる情報ですので、それ以上の画質を求めるのは余計な被ばくということになります。我々は全ての患者さんに対して“適正線量”で検査するために線量管理を行っています。

線量管理の取り組み

当院では半年に1度、それまでの検査を見返して線量の見直しを行っております。日本では診断参考レベルと呼ばれる線量の基準値が定められておりますが、当院のCT装置ではその基準値より大幅に低い線量で検査を行っています(下表)。

これほど低線量で検査できる理由の一つは装置の性能が良いためと言うのもありますが、定期的な線量の見直しをしていることで、さらなる装置の性能を活かすことができるのです。また、装置に表示される線量と実際に出力されている線量がズレていないかの確認もおこなっています。当院では今後も適正な線量での検査を行ってまいります。  五十嵐

新しい乳腺生検装置が入りました


2023年3月に生検装置(ステレオガイド下吸引式生検装置)をリニューアルし、同年5月より運用を開始いたしました。
以前はデヴィコア社製「マンモトーム」を使用していましたが、物品販売の終了に伴いメディコン社製「エンコア」(写真1)に更新しました。
今回は吸引式生検装置「エンコア」についてご紹介したいと思います。

ステレオガイド下吸引式生検とは?

ステレオガイド下吸引式生検とは、マンモグラフィ画像上で位置を特定し、吸引式の針を使用して行う生検のことです。主に超音波装置で見えにくい石灰化などの採取をすることに優れています。
超音波検査下で行う針生検(CNB)に比べ吸引式乳腺組織生検(VAB)は太い針を使用することや組織を吸引して採取することにより、採取量が針生検より多くなります。また、1回の穿刺でCNBでは基本1本の組織採取ですが、VABでは針を回転させて360°自由な方向から採取が可能になるので複数の組織が採取できます。
しかし、太い針を使用するので出血や採取部位に血腫ができるリスクがあります。また、あまりに乳房厚が薄い方などは採取が難しいことがあります。
下図は当院で施行したステレオガイド下吸引式生検画像です。

ステレオガイド下吸引式生検も進化してます!!

当院では、ステレオガイド下吸引式生検を2010年より開始し現在に至ります。開始当初は現像したフィルム上で石灰化を特定し行っていた操作も、今ではデジタル化され撮影した画面上で石灰化を特定し採取位置を決定することができます。さらに今回の新しい装置では、生検装置自体にタッチパネル式の操作画面が備わっており操作性がとても良くなりました。以前は手動で採取方向へと針を回転させていましたが、タッチパネル上で採取したい方向の選択が可能になり、選択した方向へ自動で回転し連続で採取できるようになりました。それに伴い採取時間が短縮されました。
また、血腫予防のために生理食塩水を使用して穿刺位置の洗浄や吸引を行うことができるようになりました。
VABは使用する針の開口部を開口させて、その開口部から吸引させて組織を採取するため、開口部が全て乳房内に挿入されていないと吸引圧がうまくかからず組織も十分に採ることができません。そのため、乳房厚や病変部の深さなどがとても重要になります。今回の装置では「ハーフモード」という開口部を半分だけ開口させて採取することができるようになりました。(写真2)そのモードが備わったおかげで乳房厚の薄い方(20mm前後)も許容されるようになりました。

アルツハイマーを見つける!脳血流シンチとは?


今回は毎月ご紹介を頂いております脳血流シンチについての実際をご紹介したいと思います。

検査の流れと重要作業

脳血流シンチは脳の血流を評価する核医学検査です。最近では物忘れといった認知機能低下などを目的として行われることが多く、アルツハイマー病診断の参考などに利用されています。
【おおまかな流れ】
ポジショニング→血管確保→動態撮影(2分)→スペクト撮影(20分)→検査終了
検査時間は約30分程度です。最初に患者さんにベッドに寝て頂き、ポジショニングを行います。
カメラの撮像範囲内に頭頂部から上行大動脈が十分含まれるようにポジショニングを行います。その状態から患者さんに腕を出して頂き、右腕から静脈にお薬(放射性医薬品:RI)注入用の血管確保を行います。
血管確保というと日常的な医療行為ではありますが、この検査においてはとても重要な作業となります。核医学検査で使用するお薬は3㏄程度の量しかなく、また半減期という放射能の使用期限があり、6時間で半分になってしまうという理屈からすぐに代替を用意できないため、漏出がないよう慎重に血管確保を行う必要があります。

ダイナミックとスペクト

血管確保が終わったら、動態撮影(ダイナミック撮影)をおこないます。具体的には、撮影スタートと同時にお薬を注入し2分間ほど連続で撮影を行います。
この連続データは脳血流の定量解析に用いられます(図)。


ダイナミック撮影後、スペクト撮影を行います。スペクトとはSPECTの略で、Single Photon Emission CT(単一光子放出核種コンピュータ断層撮影)の意味です。一言でいいますと、ガンマー線という放射線を放出する放射性核種を利用してコンピューターで計算して断層画像を得る検査ということになります。
核医学検査では、カメラをできるだけ頭部に近接させます。近接させるほどガンマー線が拾いやすくなり画像がきれいになる為です。患者さんには肩の力をぬき、目を閉じていただくなど、怖くならないように配慮しながら、なるべくカメラを近づけるように努力します(図)。


スペクト撮影では360度のデータを収集していますので、時間がかかります。短くすることも不可能ではありませんが、データの信頼性に欠けます。通常20分ほどの撮影時間となります。
以上で検査は終了となり、患者さんにはご帰宅頂きます。その後画像処理(脳血流量の定量や統計学的処理、断層画像を見やすく切り出すなど)を行い、放射線科の先生に提供します。

自動化は難しい…?

最近は認知症疑いの患者さんが増えているので、検査中に何度も同じ質問をくり返したり、検査中に起き上がってしまったりするケースも見られるようになりました。以前は撮影中も別の検査の画像処理などをしていましたが、今は常に患者さんに注視して検査を行う事が多くなりました。自動運転やChatGPTなどのAIが最近の流行ですが、自動化が出来そうなのは撮影後の画像処理程度で、実際の現場では予測などできず、自動化が難しい作業が大半となっています。自動化部分もうまく活用しつつ、今後も安全に努めて検査を行っていきたいと思います。
画像引用:日本メジフィジックス株式会社HP資料より

放射線治療では第三者評価が行われています!


今回は、放射線治療における品質管理についてご紹介です。自施設での品質管理では無く、第三者機関による評価について書かせていただきます。

第三者の目でチェック

患者さんへ安全な医療を提供することは最も基本的な要件の一つであり、放射線治療においても、定期的な放射線治療装置の出力線量評価は必要不可欠なことであります。
2000年代初頭に国内の施設で判明した複数の誤照射事故の教訓から、施設内での安全管理体制のみならず、第三者機関による評価が必要と認識されるようになりました。そこで、2018年に「がん診療連携拠点病院の指定要件」において、第三者機関による出力線量測定を実施することが求められ、2021年には第三者機関による出力線量測定によって誤照射事故の存在が明らかになりました。
治療装置の出力線量が全国的に同一基準であることが放射線治療の基本ですので、施設の現状を知る上でも第三者機関による出力線量測定が重要な評価手段となっています。

実際の評価方法は?

第三者機関による出力線量測定は、訪問による調査と郵送による調査に分けられ、複数の機関や団体により実施されています。当院では、医療原子力技術研究振興財団1)の郵送による出力線量測定を受けています。郵送での評価は、IAEA(International Atomic Energy Agency)やWHO(World Health Organization)を始めとした機関により世界各国で実施されており、全世界の約60%の施設が郵送測定による第三者機関の評価を受けています。
出力線量測定の申し込み後、財団より出力線量測定セットが施設に送付されてきます。使用する線量計はガラス線量計2)で、決められた測定条件3)に基づき、ガラス線量計に照射を行います。照射後、出力線量測定セットを財団に返送し、財団の方で出力線量の読み取り・データを解析・評価をおこなう流れです。結果は2週間程で施設に届きます。

出力線量の評価は、基準線量に対し±5%以内を許容範囲とし、±5%を超える場合には、財団より施設の品質管理担当者へのヒアリングが行われ、測定手順等に相違はないか確認が行われます。その上で再測定の希望の有無が確認されます。基準線量の±10%を超える場合については、品質管理担当者へのヒアリング後、早急に施設の基準線量計で再測定の実施が求められ、必要に応じ訪問調査の有無が確認されます。当院での結果(右図)は、いずれも±1%未満でとても良い結果を得ることができました。この結果に甘んじることなく、日々品質管理に努めていかなければならないと思っております。

1)公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団(ANTM : Association for Nuclear Technology in Medicine):平成8年3月に設立。各種放射線による疾病の治療・診断等、医用原子力技術の研究を推進し、普及を図ることにより科学技術の振興を図り、もって人類の福祉向上に寄与することを目的とする財団。

2)蛍光ガラス線量計:ラジオフォトルミネセンス(RPL : Radio photo luminescence)現象を利用した固体線量計。紫外線や読み取り操作等による消滅がなく、フェーディングの影響が極めて小さいなど優れた特性を持つ。繰り返し読み取り・使用が可能。

3)測定条件:測定エネルギーは任意(当院では、4・6・10MVのX線3本)。照射野サイズは、10cm×10cmの校正条件および任意のサイズ(当院では校正条件プラス5cm×5cm)。10cm深位置で、吸収線量が100cGyとなるMU値を治療計画装置で算出し照射。その他、任意条件での測定あり。

第三者機関による評価についは、3年に1回実施することが推奨されています。当院も今年がちょうど前回の実施から3年目となりますので、現在、評価に向けての準備をしております。

当院は地域に密着した放射線治療の提供を目指しております。これまで以上に地域の皆様へ安全で安心できる放射線治療を提供して参りますので、引き続きよろしくお願いいたします

今月の症例(2024.12掲載)


問:70代 女性 心不全評価のため当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

解答解説

解答:心アミロイドーシス

解説

70代女性、心不全の症例です。精査のためピロリン酸シンチグラフィが施行されています。
画像所見の解説です。ピロリン酸シンチグラフィ(図2)ですが、心臓への強い集積が見られます(図2a,b:橙矢印)。H/CL(heart-to-contralateral) 比(心臓/対側縦隔集積比)は白丸Aを白丸Bの集積で除した値で1.7となっています(図2c)。水平断SPECT像では左室心筋への集積が見られます(図2d)。心アミロイドーシス診療ガイドラインではピロリン酸シンチグラフィの評価方法として視覚評価、定量評価が用いられており(表1)、今回症例は視覚評価Grade3(肋骨より強い集積)、定量評価H/CL比>1.3(3時間後)で有意な集積と言えます(視覚評価はGrade2以上が陽性)。心筋生検が施行され、心アミロイドーシスと診断されました。

心アミロイドーシスは心臓の間質にアミロイド繊維が沈着し、形態的かつ機能的な異常を呈する疾患です。心アミロイドーシスの主な病型はATTR(amyloid transthyretin)とAL(amyloidosis of lg light chain type)に大別されているものの臨床症状や検査所見は共通する点も多く見られます。一般的には心肥大、拡張障害主体の病態を呈します。心アミロイドーシスに対しては有効な治療方法が開発されており二次性心筋症の一つとして心アミロイドーシスを分類し適切な診断をすることが重要となっています。
心アミロイドーシスの診断において、2020年から99mTc-PYPシンチグラフィ(ピロリン酸シンチグラフィ)、2022年から99mTc-HMDPシンチグラフィが保険適応となりました。
ピロリン酸はカルシウムに親和性を有する物質でATTR心アミロイドーシスの検出に有用であり集積機序は不明ですが、カルシウム介在性のメカニズムが推察されています。評価方法は表1に示したとおり視覚評価、定量評価を総合して判断します。
心アミロイドーシスではピロリン酸は心筋に集積します。ところが心房、心室内の血液への集積を心筋集積と誤って判断してしまう場合があります(血液プールへの集積)。その場合はSPECT撮影、CT検査とのfusion像(合成像)が有用となります。
SPECT撮影やfusion像が有用であった症例を供覧します。図3では心筋への集積は強く(Grade3)、H/CL比も高値です(1.6)。SPECT像(図4a)では心筋に集積があるように見えます。当院で別日に撮影されたCT検査とfusion像を作成すると(図4b)心筋への集積がより分かりやすくなります。心筋のシェーマ(図4c)で解説すると、左室壁や中隔を主体とする集積がみられます(図4d)。
一方で図5の症例では視覚評価Grade2、H/CL比は1.2であり心筋集積かどうか判然としません。水平断像のfusion像(図6a)を確認すると、集積部位は心筋ではなく心房・心室内であることが分かります(図6b)。この症例は血液プールへの集積による偽陽性症例であり、SPECT像、fusion像が鑑別に有用な症例でした。

症例のポイント
心アミロイドーシスではピロリン酸シンチグラフィが保険適応
ピロリン酸シンチグラフィでは視覚評価、定量評価から判断する
血液プールへの集積による偽陽性がありうる

ATTR心アミロイドーシスの1例でした。

【参考文献】
2020年度版 心アミロイドーシス診療ガイドライン

息を止められなくても大丈夫!-MRI 撮像編


当院では通常、MRCPなどの腹部撮影で息止めをして撮影します。息止めの時間は長い時で20秒を超えるため、高齢の患者さんが増えた今、息止めがしっかり出来ないという場面が多くなっています。息止めが出来ないと撮影は出来ないのか?実は息止めが出来なくても撮影は出来ます。今回は、息止めができない患者さんに対してどのような方法で撮影しているかをご紹介したいと思います。

どうやって検査中に息止めを確認しているの?

患者さんのお腹にベローズと呼ばれるチューブを巻いて、お腹の動きをモニターに反映させます。

息止めが出来ない患者さんをどうやって撮影するの?

下図のように息を吐いているタイミングだけを狙ってデータを収集し画像にします。このように呼吸に合わせて撮影する方法を呼吸同期法と呼びます。
息止めが出来なくてもあたかも息が止まっているかのような画像を得ることができます。

呼吸同期法のメリット・デメリット

メリット

〇息止めが出来なくてもきれいな画像が得られる

デメリット

〇撮影時間が長くなる

息止めでは1回の撮影時間は20秒前後、呼吸同期は呼吸の早さにもよりますが、数分かかる場合がほとんどです。

呼吸同期でもキレイに撮れない時もあります・・・

呼吸同期法でキレイに撮れない理由は、安定した呼吸でないと息を吸っているタイミングや吐いているタイミングをうまく追従できないためです。結果、お腹の動きがアーチファクトとなって画像に表れてしまいます。
患者さんが検査に慣れてきて呼吸が安定してるタイミングを狙ったり、リラックスして呼吸が安定するようにお声かけさせていただいたりなど工夫しています。

 

日頃から患者さん一人一人に合った撮像方法を考えています!

このように私たちは日頃から、限られた時間の中でどうしたら患者さんが楽に、そしてきれいな画像を提供できるかを考えながら撮影しています。撮像方法を考えるだけではありません。どうしても息止めをしないといけない検査では「〇秒間の息止めがあります、頑張ってください。」「今の息止め、とても良かったです!」など声掛けをしながら検査することもより良い画像を得るためには必要不可欠なのです。撮影の技術や知識はもちろんですが、患者さんと協力して検査を進めることで、良い検査、きれいな画像を提供できるのだと感じています。