核医学検査の現場にせまる! 放射性医薬品の取り扱いの実際


いつまでもあると思うな、親とカネと放射能!?

前回もお話させていただきましたが、放射能には寿命があります。特に病院で使われる放射線同位元素は寿命が短いです。「寿命」と表現していますが、実際にその指標となるのは“半減期”とよばれるモノで、半減期は放射線を出す能力が半分になる時間を表しています。よく核医学検査で使われるテクネチウムという放射性同位元素は半減期約6時間です。ですから、一日たつと半分の半分の・・・となりますので、放射能はかなり失われてしまって使い物にならなくなります。故に値段が高価なものとなり、骨シンチグラフィで使われるお薬で3万円弱の薬価がついています。
以上のことから、お薬については毎日注文となります。具体的には前日の夕方に薬屋さんへ電話して注文をかけ、翌朝に配達の方が持ってきてくれます。

お取り扱い注意!筋肉も必要!?

さてこのお薬。薬といっても放射性同位元素ですからお取り扱い注意品となります。では実際にどのように配送されると思われますか?ここからはお薬の到着から使用までを見ていきましょう。朝7時30分過ぎに配達業者さんが箱に入れて持ってきます。箱を開けると専用のボトルのようなものが入っています。実はこれ、ずっしりしています。と言うのもこのボトル、プラスチックに見えますが、放射性同位元素を入れるための鉛で作られたシリンジケースとなっています。

核医学検査で使われる放射性同位元素は、ガンマ(γ)線という種類の放射線を放出します。
このガンマ線が画像取得に利用されるのですが、これが外に漏れないように鉛のボトルで覆われています。さらにこの注射器も薄めではありますが鉛のシールドで包まれています。
ちなみに、鉛は元素記号“Pb”で原子番号が高い物質(X線、γ線の吸収効率が高い)としては安価に手に入ることから、放射線の遮蔽によく利用されています。ご存知かと思いますが、鉛は結構重たいので、片手で持つと軽い筋トレになります。(ぱわ~!)

お薬を使用した後も取り扱いには注意が必要で、お薬を通したチューブや入っていたシリンジなどはすべて放射線に汚染されたもの。世に言う放射性廃棄物となります。
核医学検査室には廃棄物保管庫と呼ばれる部屋があり、そこで放射能が低くなるまで保管を行い、その後専門業者に廃棄をお願いする様になっています。

以上核医学検査のお薬の取り扱いについてお話させていただきました。
このように検査薬が放射性同位元素であることから取り扱いが煩雑かつ高価なものとなっています。患者さんには、検査をキャンセルされる場合、なるべく早くにご連絡いただけるようにご協力をいただいています。
核医学担当 保田

今月の症例


問題:70代 男性
主訴:右鼻腔から鼻出血があり評価目的に当院受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 単純CT検査 水平断像
a:蝶形骨洞レベル, b:aより頭側, c:bより頭側、d:cより頭側

 

 

 

 

図2 造影CT検査 水平断像
a:蝶形骨洞レベル, b:aより頭側, c:bより頭側、d:cより頭側

 

 

 

 

図3 造影CT検査

 

 

 

図4 MRI検査
a:T1 weighted imaging (WI) 矢状断像 蝶形骨洞レベル, b:T2WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル,

c:T1WI 矢状断像 下垂体後葉レベル,d:造影後T1WI 冠状断像
海綿静脈洞レベル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図5 T1WIダイナミック造影下垂体MRI検査 冠状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 下垂体腺腫 (macroadenoma) 

解説

70代男性の鼻出血の症例です。当初は蝶形骨洞の腫瘤性病変が疑われCT検査、MRI検査が施行されましたが形態や進展形式から下垂体病変が疑われました。手術の結果、下垂体腺腫(プロラクチン産生性)と診断されました。

図6 正常下垂体 MRI検査での構造評価

a:T1WI 矢状断像
b:T1WI 冠状断像
c:T1WI 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

画像所見の解説です。まずはMRI検査で正常下垂体の構造をお示しします(図6a)。下垂体はおおまかに前葉と後葉、下垂体柄からなります。
下垂体前葉(図6a赤色)は腺性下垂体の大部分を占め、一部下垂体柄を構成します。T1WIでは通常は中等度信号で造影後では強く造影されます1)
下垂体後葉は視床下部の神経末端により構成され、T1WIでは高信号として描出されます(図6a,c白矢印)。これは後葉ホルモンであるバゾプレシンの濃度に相関するとされ、高信号が消失した場合は中枢性尿崩症など異常が疑われます1)
下垂体柄(図6a,b黄色矢印)は下垂体後葉と連続する漏斗茎からなる構造です。径は4mm以下とされ、T1WIでは脳実質と同程度、造影後は下垂体後葉と同じく早期から造影効果が見られます1)
海綿静脈洞部(図6b橙色)は下垂体を取り囲み、複数の静脈路や内頸動脈(図6b青矢印)、脳神経が存在しています。下方には蝶形骨洞が存在しており、下垂体病変の進展を評価する上で重要な部位となります。

今回の症例は蝶形骨洞から鞍上部に連続する腫瘤性病変です(図7a,d)。内部の造影効果は比較的均一で左海綿静脈洞に進展して見えます(図7b,c橙矢印)。蝶形骨洞の悪性病変による浸潤、あるいは下垂体病変が疑われMRI検査が施行されました。

図7 造影CT検査 腫瘍の部位と進展

a:水平断像 蝶形骨洞レベル b:aより頭側,
c:冠状断像 鞍上部レベル  d:矢状断像 鞍上部レベル

 

 

 

 

MRI検査では病変はTWIで脳実質と等信号、T2WIでは内部に一部高信号域が見られます(図8b橙色矢印)。下垂体柄は右側に偏位しており(図8c黄矢印)、正常下垂体を右側に圧排する下垂体病変が示唆されます。MRI検査でも左海綿静脈洞部に進展が疑われました(図8d赤矢印)。また、ダイナミック造影MRI検査では比較的均一な漸増性の強い濃染が見られます(図5)。

図 8 MRI検査 腫瘍部位と進展

a:T1WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル  b:T2WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル,
c:造影後T1WI 冠状断像 下垂体柄レベル d:造影後T1WI 冠状断像 海綿静脈洞レベル

 

 

 

下垂体腺腫(macroadenoma)は脳腫瘍の10-20%を占める比較的高頻度の疾患です。ホルモンを分泌する機能性腺腫と分泌しない非機能性腺腫に分かれています。1cm未満の腺腫をmicroadenoma、1cm以上の腺腫はmacroadenomaと分類しています1)。また、今回症例のように副鼻腔や上咽頭に進展するものは下垂体腺腫の0.8%程度であり、鼻出血や鼻閉などを初発として耳鼻咽喉科を受診する例も見られます2)

画像所見はT1WIで正常下垂体と比較して等信号から低信号、T2WIでは変性や出血、梗塞などで症例により様々な信号を呈します。

下垂体腺腫は造影検査で全体的によく造影されます。microadenomaは微小な病変ですが、正常下垂体よりも造影ピークが遅れます。そのため、ダイナミック造影MRI検査では造影剤投与後1-2分に正常下垂体より低信号となることで検出することが可能です1)

一方macroadenomaは信号や造影効果は上記に準じますが、存在診断に加えて周囲への広がりや正常下垂体の位置の同定が重要となります。
今回症例の図9aでは正常下垂体後葉が右側に偏位していることが分かります。また、図9bでは下垂体柄も右側に偏位しており前葉は不明瞭ながら、正常下垂体が右側に偏位して存在することを示唆しています。
図9cでは左内頸動脈周囲に造影効果を伴う腫瘤性病変の進展が見られます。腫瘍が内頸動脈を取り囲む比率(2/3以上を取り囲むなど) 1)や外側接線を越えていること3)などが浸潤を示唆するとされ、全切除できる可能性が低くなります。今回症例では腫瘍が左内頸動脈を取り囲む範囲は半周程度となります。
手術所見では正常下垂体は右側に存在しており、内頸動脈周囲への強い浸潤なく腫瘍も全摘出できました。画像所見から得られる情報と合致していました。

図9 正常下垂体の位置と下垂体病変の進展
a:T1WI 水平断像, b:造影後T1WI 冠状断像, c:造影後T1WI 冠状断像 bより腹側

 

 

 

 

症例のポイント

① 鞍上部から蝶形骨洞に進展する腫瘤では下垂体病変も考慮される

② 鼻出血を主訴とする場合もある

③ ダイナミック造影検査で漸増性の濃染(正常下垂体よりは造影ピークは遅い)

④ macroadenomaでは正常下垂体の同定と周囲進展が重要

鼻出血を主訴とした下垂体腺腫(macroadenoma)の1例でした。

【参考文献】
三木幸雄, 佐藤典子 編, 下垂体の画像診断, メジカルビュー社, 2017
細川誠二. 耳鼻咽喉科・頭頚部外科. 2011; 83:233-236
Knosp E, et al. Neurosurgery. 1993; 33:610-618

胃がんX線検診における胃前壁撮影 ~精度向上のために~


当院の胃X線検査では、NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構が推奨する基準撮影法を基に撮影を行っております。今回は、下図の6番・7番の『胃体中部から幽門部の前壁撮影』について紹介させていただきます。

基準撮影法を基にした当院での撮影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

被検者に寝台へ腹臥位となってもらい、逆傾斜をかけて頭低位とするため肩当てを使用し、安全性に留意して撮影をしています。その際、体中部から体下部前壁の粘膜面を広く描出するため、腹臥位となる被検者の心窩部に圧迫用フトンを挿入してから逆傾斜をかけて撮影をします。
また、胃の形(鈎状胃・下垂胃・横胃・牛角胃・瀑状胃)や体格によって圧迫用フトンの大きさ・厚みや挿入位置を変えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように前壁撮影する際に、適正に圧迫用フトンを使用することは描出能を向上させることができ、精度向上にも繋がります。
しかしながら、胃の形や体型により圧迫用フトンを使用しても描出が難しい場合もあるため、様々な工夫が必要となります。
普段の努力を大切にしながら研鑽を重ねていき、精度の高い検診を目指したいです。

小曽根

核医学検査室で「放射線を測る」とは??


過去3回に渉って「心筋SPECTブルズアイ」を紹介してきました。今回は閑話休題として、核医学設備での「放射線を測る」がテーマです。

核医学検査室では、 ① 検査目的  ② 放射線医薬品管理目的  ③ 放射線安全管理目的  の大きく3種類の目的で放射線を測ります。

① 検査目的

核医学検査は放射性医薬品を体内に投与し、体内から放出される放射線をガンマカメラ(写真1)で“どの部位”から“どの程度”放出しているか測定します。体内への投与量をあらかじめ測定することで、放射性医薬品の集積率を知ることができます。

例えば甲状腺ヨード接種率の検査では、患者さんに投与する前の放射性医薬品(ヨードカプセル)をガンマカメラで測定します(写真2)。この測定結果をもとに甲状腺へのヨード集積量の割合を求めます。

 

 

 

 

 

 

 

 

② 放射性医薬品管理目的

検査に使用する放射性医薬品(シリンジ製剤・カプセル・バイアルから分注するものなど)の放射線量を測定する目的でドーズキャリブレータ(写真3)を使用します。

 

 

 

 

③ 放射線安全管理目的

放射性同位元素の使用は、関連法令等で厳しく管理することが求められています。核医学検査設備では排気、排水系統に関する管理、または汚染防止の対策等講じなければなりません。

A 空気中RI濃度の測定(排気系統含む)

核医学検査室内3箇所(入口,体外計測室,準備室:写真4)、排気設備1か所(写真5)にエリアモニタが設置され、24時間常時空気中のRI濃度を測定しています(写真6)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B 排水設備の測定

中央監視盤にて貯留槽の監視、希釈槽での濃度測定を行います。(写真7)

 

 

 

 

 

C 表面汚染に対する測定

放射性医薬品が床にこぼれたり、人体や衣類に付着の恐れがある場合に行う測定です。床に汚染等があった場合はサーベイメータ(写真8)を用いて汚染箇所を同定します。人体や着衣に表面汚染のある場合は汚染検査室内のハンドフットクロスモニタ(写真9)にて手足、衣類の汚染がないか確認します。

 

 

 

 

 

 

その他にも放射線内用療法にて、治療用放射性ヨードを内服した患者さんの退出基準線量測定(電離箱式サーベイメータ測定)も行っています。核医学室には多数の放射線測定機器があり、診療業務と保安管理を同時に進めながら安全管理を構築していくことが日々求められています。
核医学専門認定技師/放射線内用療法安全取扱担当者 荒田

頭部血管CT撮影の実際


CT検査は短時間に素早く検査できることからあらゆる部位について撮影が行われています。今回はたくさんある撮影部位の中でも、撮影が難しい頭部血管造影CT検査の実際についてご紹介します。

スピード注入が重要!

頭部血管造影CT検査の対象で、代表的なのは脳動脈瘤になります。頭部の血管は脳動脈瘤の好発部位である脳動脈輪でも数ミリと細いです。また、脳血管の周りは脳組織が近接しています。脳組織もCT画像上白っぽく写るので、造影剤を入れた脳血管をさらに白く写さないと視認性が悪くなります。そのため濃い造影剤を速いスピードで注入しています。
早く注入するためには工夫が必要です。右腕の血管に太めの留置針を指します。ここがこの検査の重要なポイントのひとつです。左腕だと左の静脈から心臓に至るまで距離がありますが、右だと距離が短くなることなどから造影剤の高速注入に有効であるとされています。実際に左腕からで失敗したことも経験しています。針に関しては、造影剤はネバネバしていますので、太い針を用いないと勢いよく注入することができない為20Gの留置針を用いています。

タイミングを逃すな!

撮影のタイミングも重要です。脳は造影剤が動脈からすぐに静脈へと流れていきます。動脈も静脈も両方が写ってしまうと観察しにくい画像となってしまいます。その為、造影剤が脳の動脈に到達したら速やかに撮影開始する必要があります。
くも膜下出血症例の場合はさらに難しくなります。出血によって脳が腫れ、造影剤が頭の血管に入りにくい状態となるからです。これにより撮影タイミングの判断が難しくなります。さらに、くも膜下出血自体が淡く白く写るので、その淡い白色の中に存在する造影剤の白色を観察する必要があり、いつも以上に造影剤の高速注入と撮影タイミングの決定がシビアになります。また、患者さんの状態も悪いことが多く、動きにも注意して撮影する必要があります。
以上、頭部血管造影CT検査の実際についてご紹介しました。

CT担当 保田福技師長

今月の症例 


問題:40代 女性
主訴:左母趾の爪部疼痛あり当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 足部単純写真
a:単純写真 正面像,
b:単純写真 斜位像

 

 

 

 

 

 

 

図2 足部MRI検査
a:T2強調像 矢状断像,
b:T1強調像 矢状断像,
c:Short tau inversion recovery:
STIR像 矢状断像,
d:脂肪抑制T1強調像 矢状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 足部MRI検査
a:T2強調像 水平断像,
b:STIR像 水平断像,
c:Diffusion weighted imaging (DWI) 水平断像,
d:Apparent diffusion coefficient map (ADC map) 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図4 足部MRI検査 a:T2強調像 矢状断像, b:T2強調像 水平断像,
c:STIR像 矢状断像, d:STIR像 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 グロムス腫瘍

解説

40代女性、左母趾爪部痛が持続するため当院に紹介受診となりました。肉眼では爪部の病変の同定が困難であり、検査所見や臨床症状からグロムス腫瘍が疑われました。手術が施行され、グロムス腫瘍の診断となっています。
単純写真(図1)では明らかな所見は指摘できませんでした。
足部MRI検査では母趾爪部直下に結節構造が描出されています(図2、3橙矢印)。T2強調像では高信号(図2a)、T1強調像では低信号(図2b)、STIR像では高信号(図2c)で脂肪抑制T1強調像では皮下組織とほぼ等信号(図2d)です。また、DWIで高信号(図3c)、ADC map(図3d)では軽度低信号が見られ、漿液性の嚢胞病変ではありません。超音波検査で内部血流が見られ、MRI検査所見とあわせてグロムス腫瘍が疑われました。
グロムス腫瘍はグロムス体に類似した平滑筋様細胞の組織からなる間葉系腫瘍で基本的には良性腫瘍です。グロムス体とは血管周囲に存在する微小な動静脈シャントのことで温度調整機能を有し、指趾、鼻などの真皮や爪下に多く存在します。グロムス腫瘍の頻度は2%以下と稀で比較的若年女性に多く、爪下に発生するものは圧倒的に女性が多いとされます1)
グロムス腫瘍の画像所見はMRI検査ではT2強調像で強い高信号、T1強調像で低信号、造影検査で強い造影効果を呈する事が特徴です。今回症例では造影検査のかわりに超音波検査で内部血流が確認されています。単純写真やCT検査では腫瘍と隣接する骨に侵食像を呈することが知られています2)

当院の右環指末節骨に生じたグロムス腫瘍(図5a緑矢印)の症例では、単純写真で末節骨が圧排(図5b黄色矢印)、腫瘍による骨侵食像(図5c白点線)が見られました。健側では同所見は見られません(図5c)。
鑑別は爪下ガングリオンで、内部の造影効果が見られない場合はガングリオンと診断されます。
治療は切除です。根治のためには完全切除が必要であり、術前のMRI検査や超音波検査での位置や範囲の評価が重要となります3)

 

図5 右環指末節骨に接するグロムス腫瘍による骨の侵食像

a:STIR像 冠状断像, b:患側末節骨 単純写真,
c:患側末節骨(腫瘍シェーマ) 単純写真, d:健側末節骨 単純写真,

 

 

 

 

 

 

症例のポイント

症例のポイント

① 持続する爪部痛(特に女性)

② T2強調像で高信号、T1強調像で低信号な結節構造

③ 造影検査や超音波検査で内部血流を確認する

④ 腫瘍に隣接する骨の侵食像が見られることがある

⑤ 根治には完全切除が必要であり画像検査での位置や範囲の把握が重要となる

 

足趾に生じたグロムス腫瘍の1例でした。

【参考文献】

1) 福田 国彦 編, 軟部腫瘤の画像診断-よくみる疾患から稀な疾患まで- 画像診断増刊号, 秀潤社, 2016;36:s154-155

2) Kira M, et al. RadiogGraphics. 2014; 34:1954-1967

3) Baek HJ, et al. RadiogGraphics. 2010; 30:1621-1636

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓MRI検査のご紹介


心臓MRI検査には、虚血性心疾患や心筋疾患の心形態及び心機能評価や心筋viabilityなどの評価を行う心臓MRI(Cardiovascular MRI : CMRI)検査と、冠動脈の形態評価を行う冠動脈MR Angiography(MRA)があります。
心臓検査の場合、心電図同期を行って撮影するため検査時間も多少異なりますが、CMRIは50~60分くらい、冠動脈MRAは20~30分くらいかかります。また不整脈があると、もう少し検査時間が延長します。
今回はCMRI検査、実際どんな内容を撮影しているのか順に紹介します。

1.Localaizer(ロカライザー)

撮影断面を決めるための位置決め画像です。
横断・冠状断・矢状断の3方向撮影します。

 

 

2.Fiesta(フィエスタ)

心筋のシネ撮影です。心臓の形態と機能評価が可能です。
4方向(2chamber・short axial・4chamber・3chamber)撮影します。

 

 

 

 

3.脂肪抑制T2

心筋の炎症や浮腫を評価する撮影です。
3方向(short axial・2chamber・4chamber)撮影します。

 

 

 

 

4.T1 mapping(T1マッピング)

心筋のT1値(T1緩和時間)を定量的に測定する撮影法です。心筋ダメージを定量的に評価できるため、梗塞、肥大型心筋症、心筋炎、アミロイドーシスなどの検出に有効であると言われています。

 

 

 

5.Gd造影(パーフュージョン)

以前は負荷心筋パーフュージョンも行っていましたが、現在は安静時のみのパーフュージョンを行っています。造影剤のfirst passの動態撮影で心筋血流分布を評価します。

 

 

 

6.Early enhance T1(早期造影)

パーフュージョン撮影後、早期ガドリニウム造影を撮影することで、微小循環閉塞(MO)を診断目的とするため撮影します。

 

 

 

 

7.Delayed enhance (遅延造影)

心筋梗塞急性期の心筋壊死や、心筋梗塞慢性期や心筋症の線維化病変を高信号に描出する撮影法です。3方向(short axial・2chamber・4chamber)
撮影します。

 

 

 

心臓の検査は、心拍や呼吸、磁化率変化の影響を非常に受けやすいため、アーチファクトの影響も考慮しなくてはいけません。そのため、多断面撮影することで異常所見の見逃しがないようにしています。1回の息止めは10秒前後ですが、すべての撮影が終わると50分くらいかかってしまいます。長時間の検査はきついですが、検査前には患者さんにきちんと説明し、理解してもらってから検査するようにしています。患者さんの協力なくして、十分な画像は撮影できないと思っているので、検査前の数分間のコミュニケーションを大切にしています。

MR担当 平野

今月の症例 2023.9月号掲載


問:10代 女性
発熱、咳嗽あり肺炎の診断で抗生剤加療されていたが解熱せず。
既往:特記事項なし
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 


解答・解説

解説
10代女性の肺結核の症例です。発熱が続き、抗生剤投与でも改善せず当院に紹介受診となりました。周囲に明らかな結核感染者はおらず、感染経路は不明です。胸部単純写真で右上肺野に浸潤影がみられ、両側肺に結節影もあり初診時は肺炎が疑われました(図1)。
1ヶ月後、浸潤影は淡くなっているものの症状改善しないためCT検査が施行されています(図2,3)。CT検査では右上葉肺尖部付近に不整な空洞状構造(図4a 橙色矢印)が認められ、周囲や中葉、舌区、両側下葉にコンパクトな粒状構造が散見されます(図4a 黄枠)。分布や所見から典型的な二次結核と考えます。
CT検査所見と合わせて単純写真の所見を解説します。右上肺野の浸潤影に囲まれた部分が空洞を示唆する所見です(図5a,b 黄枠、黄矢印)。さらに、微小な結節影が散見されます(図5a,c 橙色矢印)。単純写真で右肺尖部の空洞構造や結節影を指摘出来るかが今回症例での重要なポイントとなります。空洞性病変は気道末梢の結核病変の乾酪壊死により液状化が起こり、癒合することで形成されます1)。その過程で乾酪壊死した成分が気管支を充填し樹枝状構造と周囲のつぼみ状の構造が形成されます。CT検査では末梢肺の細やかな分枝状構造として見られ、tree-in-bud appearanceと表現されます1)(図6)。治療後では空洞構造は残存しているものの周囲の浸潤影や粒状構造は改善が見られました(図7)。

症例のポイント

①両側上肺野主体の空洞構造や粒状影 (胸部単純写真)
②持続する咳嗽、発熱
③周囲の結核感染者の存在
④CT検査での空洞構造の確認、コンパクトな粒状構造、tree-in-bud appearance

結核は一般的な病気ですが想定されていない場合は診断に苦慮することもあります。胸部単純写真の所見が重要となる症例でした。

【参考文献】
1)高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年, 結核と非結核性抗酸菌症における画像診断のABC: 160-166.

核医学検査の現場にせまる! 放射性医薬品の取り扱いの実際


核医学検査では放射性同位元素(いわゆる放射能)を使って検査しているという話を以前しました。今回はその実際をご紹介させていただきます。

いつまでもあると思うな、親とカネと放射能!?

前回もお話させていただきましたが、放射能には寿命があります。特に病院で使われる放射線同位元素は寿命が短いです。「寿命」と表現していますが、実際にその指標となるのは“半減期”とよばれるモノで、半減期は放射線を出す能力が半分になる時間を表しています。よく核医学検査で使われるテクネチウムという放射性同位元素は半減期約6時間です。ですから、一日たつと半分の半分の・・・となりますので、放射能はかなり失われてしまって使い物にならなくなります。故に値段が高価なものとなり、骨シンチグラフィで使われるお薬で3万円弱の薬価がついています。
以上のことから、お薬については毎日注文となります。具体的には前日の夕方に薬屋さんへ電話して注文をかけ、翌朝に配達の方が持ってきてくれます。

お取り扱い注意!筋肉も必要!?

さてこのお薬。薬といっても放射性同位元素ですからお取り扱い注意品となります。では実際にどのように配送されると思われますか?ここからはお薬の到着から使用までを見ていきましょう。朝7時30分過ぎに配達業者さんが箱に入れて持ってきます。箱を開けると専用のボトルのようなものが入っています。実はこれ、ずっしりしています。と言うのもこのボトル、プラスチックに見えますが、放射性同位元素を入れるための鉛で作られたシリンジケースとなっています。

核医学検査で使われる放射性同位元素は、ガンマ(γ)線という種類の放射線を放出します。
このガンマ線が画像取得に利用されるのですが、これが外に漏れないように鉛のボトルで覆われています。さらにこの注射器も薄めではありますが鉛のシールドで包まれています。
ちなみに、鉛は元素記号“Pb”で原子番号が高い物質(X線、γ線の吸収効率が高い)としては安価に手に入ることから、放射線の遮蔽によく利用されています。ご存知かと思いますが、鉛は結構重たいので、片手で持つと軽い筋トレになります。(ぱわ~!)

お薬を使用した後も取り扱いには注意が必要で、お薬を通したチューブや入っていたシリンジなどはすべて放射線に汚染されたもの。世に言う放射性廃棄物となります。
核医学検査室には廃棄物保管庫と呼ばれる部屋があり、そこで放射能が低くなるまで保管を行い、その後専門機関に廃棄をお願いする様になっています。

以上核医学検査のお薬の取り扱いについてお話させていただきました。
このように検査薬が放射性同位元素であることから取り扱いが煩雑かつ高価なものとなっています。患者さんには、検査をキャンセルされる場合、なるべく早くにご連絡いただけるようにご協力をいただいています。

今月の症例 2023年6月号掲載


問題:90代 男性   主訴:意識障害
来歴:道で倒れているところを発見され救急搬送となった
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:頭部MRI検査
a:T2 Weighted Imaging (WI)
b:Fluid Attenuated Inversion Recovery (FLAIR)像
c:T2*像
d:拡散強調像(Diffusion Weighted Imaging: DWI)
e:Apparent Diffusion Coefficient map (ADC map)
f:Magnetic Resonance Angiography (MRA像)

図2:頭部MRI検査 DWIの連続画像
a:DWI 放線冠
b:DWI 基底核上部
c:DWI 基底核中部
d:DWI 基底核下部


解答・解説

解答:低血糖脳症

解説

90代男性の意識障害の症例です。来院時血糖は13 mg/dlであり、画像所見や臨床症状と合わせて低血糖脳症の診断となりました。
頭部MRI検査ではDWIで被殻や尾状核に左右対称性に高信号域が認められ、ADC mapでも明瞭な信号低下が見られます。T2WIやFLAIR像でも淡い高信号として描出されています(図3:黄矢印)。また、脳溝に沿った皮質にも拡散強調像で淡い高信号域が見られます(図3:橙矢印)。T2*像では出血所見は指摘できず、MRA検査でも動脈瘤や狭窄所見は指摘できませんでした(左前大脳動脈は一部低形成です)。
拡散強調像の連続画像では側脳室周囲白質から被殻や尾状核、両側内包後脚に沿って高信号域が認められます(図4:黄矢印)。こちらも皮質に沿った高信号域が見られます(図4:橙矢印)。
低血糖による脳障害は糖尿病患者でのインスリン等の薬物使用時などに生じます。症状は脱力や錯乱、性格変化、痙攣など様々で意識障害や昏睡を呈する場合もあります。
低血糖脳症では以前は灰白質 (主に皮質や線条体、海馬) に病変が多いとされていましたが、現在では白質病変が灰白質病変より早期に高頻度に生じると考えられています1)。白質病変では内包などに限局する場合とびまん性に広がる場合があります。病変は左右対称性が多く、稀に片側性の症例もみられます。
病変は拡散強調像で最も早期に検出され、通常はADC mapで信号低下を伴います。機序としては細胞外から細胞内への一過性の体液の移動と考えられています2)。血糖改善に伴いADC mapが正常化する可能性が示唆されている報告も見られます3)。T2WIやFLAIR像でも高信号を示すこともあり、造影効果は認められないことが多いです。
病変の信号変化は内包に始まり、半球の白質に広がります。発症早期に拡散強調像を施行した低血糖患者では約1/3の症例で内包に限局した高信号域が認められ、びまん性白質病変を呈した例よりも予後が良いとされている報告があります4)5) (当院での内包後脚に限局した症例:図5)。参考症例では速やかに血糖値や意識障害は改善し、拡散強調像の所見も経時的に消退しました(図6)。
鑑別は低酸素脳症です。同様の画像所見を認める場合があるものの、低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる点が鑑別点となります。今回症例でも視床や小脳には信号変化は認められませんでした。

症例のポイント
① 低血糖や糖尿病既往
② 早期からの白質病変、内包に限局した症例では予後良好
③ 拡散強調像で高信号、ADC mapで信号低下 (T2WIで高信号となることも)
④ 低酸素脳症との鑑別点:低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる

低血糖脳症の症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105