放射線治療では第三者評価が行われています!


今回は、放射線治療における品質管理についてご紹介です。自施設での品質管理では無く、第三者機関による評価について書かせていただきます。

第三者の目でチェック

患者さんへ安全な医療を提供することは最も基本的な要件の一つであり、放射線治療においても、定期的な放射線治療装置の出力線量評価は必要不可欠なことであります。
2000年代初頭に国内の施設で判明した複数の誤照射事故の教訓から、施設内での安全管理体制のみならず、第三者機関による評価が必要と認識されるようになりました。そこで、2018年に「がん診療連携拠点病院の指定要件」において、第三者機関による出力線量測定を実施することが求められ、2021年には第三者機関による出力線量測定によって誤照射事故の存在が明らかになりました。
治療装置の出力線量が全国的に同一基準であることが放射線治療の基本ですので、施設の現状を知る上でも第三者機関による出力線量測定が重要な評価手段となっています。

実際の評価方法は?

第三者機関による出力線量測定は、訪問による調査と郵送による調査に分けられ、複数の機関や団体により実施されています。当院では、医療原子力技術研究振興財団1)の郵送による出力線量測定を受けています。郵送での評価は、IAEA(International Atomic Energy Agency)やWHO(World Health Organization)を始めとした機関により世界各国で実施されており、全世界の約60%の施設が郵送測定による第三者機関の評価を受けています。
出力線量測定の申し込み後、財団より出力線量測定セットが施設に送付されてきます。使用する線量計はガラス線量計2)で、決められた測定条件3)に基づき、ガラス線量計に照射を行います。照射後、出力線量測定セットを財団に返送し、財団の方で出力線量の読み取り・データを解析・評価をおこなう流れです。結果は2週間程で施設に届きます。

出力線量の評価は、基準線量に対し±5%以内を許容範囲とし、±5%を超える場合には、財団より施設の品質管理担当者へのヒアリングが行われ、測定手順等に相違はないか確認が行われます。その上で再測定の希望の有無が確認されます。基準線量の±10%を超える場合については、品質管理担当者へのヒアリング後、早急に施設の基準線量計で再測定の実施が求められ、必要に応じ訪問調査の有無が確認されます。当院での結果(右図)は、いずれも±1%未満でとても良い結果を得ることができました。この結果に甘んじることなく、日々品質管理に努めていかなければならないと思っております。

1)公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団(ANTM : Association for Nuclear Technology in Medicine):平成8年3月に設立。各種放射線による疾病の治療・診断等、医用原子力技術の研究を推進し、普及を図ることにより科学技術の振興を図り、もって人類の福祉向上に寄与することを目的とする財団。

2)蛍光ガラス線量計:ラジオフォトルミネセンス(RPL : Radio photo luminescence)現象を利用した固体線量計。紫外線や読み取り操作等による消滅がなく、フェーディングの影響が極めて小さいなど優れた特性を持つ。繰り返し読み取り・使用が可能。

3)測定条件:測定エネルギーは任意(当院では、4・6・10MVのX線3本)。照射野サイズは、10cm×10cmの校正条件および任意のサイズ(当院では校正条件プラス5cm×5cm)。10cm深位置で、吸収線量が100cGyとなるMU値を治療計画装置で算出し照射。その他、任意条件での測定あり。

第三者機関による評価についは、3年に1回実施することが推奨されています。当院も今年がちょうど前回の実施から3年目となりますので、現在、評価に向けての準備をしております。

当院は地域に密着した放射線治療の提供を目指しております。これまで以上に地域の皆様へ安全で安心できる放射線治療を提供して参りますので、引き続きよろしくお願いいたします

今月の症例(2024.12掲載)


問:70代 女性 心不全評価のため当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

解答解説

解答:心アミロイドーシス

解説

70代女性、心不全の症例です。精査のためピロリン酸シンチグラフィが施行されています。
画像所見の解説です。ピロリン酸シンチグラフィ(図2)ですが、心臓への強い集積が見られます(図2a,b:橙矢印)。H/CL(heart-to-contralateral) 比(心臓/対側縦隔集積比)は白丸Aを白丸Bの集積で除した値で1.7となっています(図2c)。水平断SPECT像では左室心筋への集積が見られます(図2d)。心アミロイドーシス診療ガイドラインではピロリン酸シンチグラフィの評価方法として視覚評価、定量評価が用いられており(表1)、今回症例は視覚評価Grade3(肋骨より強い集積)、定量評価H/CL比>1.3(3時間後)で有意な集積と言えます(視覚評価はGrade2以上が陽性)。心筋生検が施行され、心アミロイドーシスと診断されました。

心アミロイドーシスは心臓の間質にアミロイド繊維が沈着し、形態的かつ機能的な異常を呈する疾患です。心アミロイドーシスの主な病型はATTR(amyloid transthyretin)とAL(amyloidosis of lg light chain type)に大別されているものの臨床症状や検査所見は共通する点も多く見られます。一般的には心肥大、拡張障害主体の病態を呈します。心アミロイドーシスに対しては有効な治療方法が開発されており二次性心筋症の一つとして心アミロイドーシスを分類し適切な診断をすることが重要となっています。
心アミロイドーシスの診断において、2020年から99mTc-PYPシンチグラフィ(ピロリン酸シンチグラフィ)、2022年から99mTc-HMDPシンチグラフィが保険適応となりました。
ピロリン酸はカルシウムに親和性を有する物質でATTR心アミロイドーシスの検出に有用であり集積機序は不明ですが、カルシウム介在性のメカニズムが推察されています。評価方法は表1に示したとおり視覚評価、定量評価を総合して判断します。
心アミロイドーシスではピロリン酸は心筋に集積します。ところが心房、心室内の血液への集積を心筋集積と誤って判断してしまう場合があります(血液プールへの集積)。その場合はSPECT撮影、CT検査とのfusion像(合成像)が有用となります。
SPECT撮影やfusion像が有用であった症例を供覧します。図3では心筋への集積は強く(Grade3)、H/CL比も高値です(1.6)。SPECT像(図4a)では心筋に集積があるように見えます。当院で別日に撮影されたCT検査とfusion像を作成すると(図4b)心筋への集積がより分かりやすくなります。心筋のシェーマ(図4c)で解説すると、左室壁や中隔を主体とする集積がみられます(図4d)。
一方で図5の症例では視覚評価Grade2、H/CL比は1.2であり心筋集積かどうか判然としません。水平断像のfusion像(図6a)を確認すると、集積部位は心筋ではなく心房・心室内であることが分かります(図6b)。この症例は血液プールへの集積による偽陽性症例であり、SPECT像、fusion像が鑑別に有用な症例でした。

症例のポイント
心アミロイドーシスではピロリン酸シンチグラフィが保険適応
ピロリン酸シンチグラフィでは視覚評価、定量評価から判断する
血液プールへの集積による偽陽性がありうる

ATTR心アミロイドーシスの1例でした。

【参考文献】
2020年度版 心アミロイドーシス診療ガイドライン

息を止められなくても大丈夫!-MRI 撮像編


当院では通常、MRCPなどの腹部撮影で息止めをして撮影します。息止めの時間は長い時で20秒を超えるため、高齢の患者さんが増えた今、息止めがしっかり出来ないという場面が多くなっています。息止めが出来ないと撮影は出来ないのか?実は息止めが出来なくても撮影は出来ます。今回は、息止めができない患者さんに対してどのような方法で撮影しているかをご紹介したいと思います。

どうやって検査中に息止めを確認しているの?

患者さんのお腹にベローズと呼ばれるチューブを巻いて、お腹の動きをモニターに反映させます。

息止めが出来ない患者さんをどうやって撮影するの?

下図のように息を吐いているタイミングだけを狙ってデータを収集し画像にします。このように呼吸に合わせて撮影する方法を呼吸同期法と呼びます。
息止めが出来なくてもあたかも息が止まっているかのような画像を得ることができます。

呼吸同期法のメリット・デメリット

メリット

〇息止めが出来なくてもきれいな画像が得られる

デメリット

〇撮影時間が長くなる

息止めでは1回の撮影時間は20秒前後、呼吸同期は呼吸の早さにもよりますが、数分かかる場合がほとんどです。

呼吸同期でもキレイに撮れない時もあります・・・

呼吸同期法でキレイに撮れない理由は、安定した呼吸でないと息を吸っているタイミングや吐いているタイミングをうまく追従できないためです。結果、お腹の動きがアーチファクトとなって画像に表れてしまいます。
患者さんが検査に慣れてきて呼吸が安定してるタイミングを狙ったり、リラックスして呼吸が安定するようにお声かけさせていただいたりなど工夫しています。

 

日頃から患者さん一人一人に合った撮像方法を考えています!

このように私たちは日頃から、限られた時間の中でどうしたら患者さんが楽に、そしてきれいな画像を提供できるかを考えながら撮影しています。撮像方法を考えるだけではありません。どうしても息止めをしないといけない検査では「〇秒間の息止めがあります、頑張ってください。」「今の息止め、とても良かったです!」など声掛けをしながら検査することもより良い画像を得るためには必要不可欠なのです。撮影の技術や知識はもちろんですが、患者さんと協力して検査を進めることで、良い検査、きれいな画像を提供できるのだと感じています。

今月の症例(2024.9月掲載)


問:40代 男性 胸部異常陰影で紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

解答と解説

解答:サルコイドーシス

解説

40代男性、胸部異常陰影の症例です。胸部単純写真で左上肺野に腫瘤影が認められ、精査のため当院に紹介受診、 CT 検査が施行されました。肺癌も否定できず縦隔のリンパ節生検が施行され、サルコイドーシスと診断されました。
画像所見の解説です。胸部単純写真(図1)ですが、左上肺野に腫瘤影が描出されています。胸部単純 CT 検査(図2)では、左肺上葉に収縮性変化を伴う腫瘤構造が認められます(図4a:橙矢印)。また右肺上葉では微小粒状構造も認められます(図4a:黄矢印)。同様に左肺上葉腫瘤病変の尾側では微細な粒状構造が認められます(図4b:黄矢印)。
縦隔条件では、多数の腫大したリンパ節が認められます(図5a-c:黄矢印)。左肺上葉の病変は一見すると肺癌のような腫瘤に見えますが、尾側や右肺上葉の粒状構造、縦隔リンパ節腫大からサルコイドーシスが鑑別に挙がる所見です。
サルコイドーシスは多臓器における非乾酪性類上皮肉芽腫を特徴とする原因不明の全身性肉芽腫性疾患です。肺及び肺門、縦隔リンパ節が侵される頻度は90%以上で肺野の所見も合わせ多彩な像を呈することが知られています。
CT 所見は胸膜下、小葉間隔壁、小葉中心部の小葉内気管支肺動脈周囲などに1~5mm 程度の境界明瞭な粒状構造が見られます。肺野病変は上中肺野優位に見られることが多いとされています。また、辺縁不整な1cm 以上の結節構造や腫瘤構造が見られることもありますが、無数な微細な粒状構造が集簇して形成されており「galaxy sign」 と呼ばれます。病変が慢性化すると線維化や空洞性病変、嚢胞変化が起こります。縦隔、肺門部リンパ節に癒合傾向はなく、内部は壊死を伴わず均一であることが多いです。
今回症例では左肺上葉の腫瘤性病変は微細な粒状構造が集簇して形成されており(図4b:黄矢印)、 「galaxy sign」 の所見です。
サルコイドーシスの肺結節の説明の前に小葉構造を解説いたします。肺内では気管支や肺胞、脈管系、リンパ管が存在しており、気管支は肺動脈と並んで走行します。肺静脈は肺胞を含む小葉という構造の辺縁部に位置します。この小葉内には終末細気管支、肺胞構造、並走する肺動脈が存在しており、小葉間は小葉間隔壁で隔たれています。肺水腫の症例で上記構造を確認します(肺水腫の症例ではうっ血により肺静脈が拡張するため肺の構造が分かりやすくなります)。肺尖部では亀の子模様の線状構造が見られます(図6a赤枠)。赤枠を拡大すると、中心部を走行する肺動脈、辺縁部に見られる肺静脈が描出されています。肺静脈の走行は小葉間隔壁と同様です。 CT 検査上は末梢の気管支や肺胞構造は描出困難ですが、実際は肺動脈と併走して存在しています(図6c)。

サルコイドーシスの微小粒状構造が散見される症例では結節構造が葉間(図7a:黄矢印)、胸膜直下など(図7b,c,d:黄矢印)小葉辺縁に位置しています。小葉間隔壁や気管支周囲、胸膜にはリンパ管が存在し、サルコイドーシスや珪肺などの結節は小葉辺縁部優位に分布することが多いとされます。この部分には肺胞は存在せず一般的な気管支炎や肺炎とは分布が異なります。図7の症例の胸膜直下結節(図8a)を拡大すると、辺縁に小葉間隔壁が描出されており(図8b )小葉辺縁部主体の結節分布であることが分かります。このような分布をリンパ路性分布と表現します(図8c )。

症例のポイント

① 多発結節
② リンパ路性の結節分布
③ 結節が集簇し腫瘤様となる場合もある(galaxy sign)
④ 肺門や縦隔リンパ節腫大

肺癌様に見えたサルコイドーシスの1例でした。

【参考文献】
高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年: 125-138, 194-196.

新しい画像補正技術による冠動脈CT撮影の 進化


冠動脈CT撮影(Coronary CT Angiography)は、心疾患の診断において重要な検査方法です。当院では現在、3台のCT装置を運用しており、そのうち2台はGE社製の心臓CT撮影が可能な装置です。これらの装置には、GE社の画像補正技術(Snap Shot Freeze:以下SSF)が適用可能であり、心臓の動きによる画像のブレを抑え、診断の精度と効率を大幅に向上させます。今回は、この技術の仕組みとその多くの利点について詳しく紹介します。

■ 従来の冠動脈CT撮影の課題

冠動脈CT撮影は、心電図波形を監視しながら、心拍に合わせて冠動脈の状態を撮影します。高心拍や不整脈、呼吸による動きは画像のブレを引き起こしますが、心臓の動きが少ないタイミングを自動的に探し出し、冠動脈が最も安定している瞬間を利用することでブレのない画像を作成しています。しかし、最も安定しているタイミングでも画像のブレが残ることがありました。

■ 画像補正技術の紹介

GE社の画像補正技術(SSF)は、前述の動きが少ないと判断されたタイミングのデータだけでなく、その前後約60ミリ秒のデータを使用します。これにより、合計3タイミングのデータを基に、冠動脈の速度や移動方向といった動きを解析し、動きによるブレ(モーションアーチファクト)の原因を特定、補正します。この技術により、高心拍(HR80程度)の方にも鮮明な画像を提供することができるようになりました。
下図は、この技術の動作原理を視覚的に示しています。心臓の動きが最も少ない瞬間(ターゲット心位相)を選び出し、その前後のデータ(左位相と右位相)も使用して動きの解析を行います。ベクトル動態解析によって各瞬間のデータを基に、心臓の動きを解析し、動きによるブレを補正します。最終的にブレのない鮮明な画像が生成されます。そして現在、SSFがver2(SSF2)となり、さらなる技術革新が進みました。従来は主に冠動脈の動き補正のみであったのに対し、SSF2ではそれに加えて弁、心腔、心筋の動きも補正できるようになりました。

■ 症例提示

GE社の画像補正技術により高心拍や不整脈の患者でも鮮明な画像を提供することが可能となり、さらにSSF2では弁、心腔、心筋の動きも補正できるため、心臓全体の詳細な画像を取得することができるようになりました。今後もこのような技術の進歩に注目し、最新のアプリケーションを積極的に取り入れることで、より高品質な医療サービスを提供していけるよう日々研鑽を積んでいきたいと思います。

CT担当 江上

血管撮影装置更新しました


Azurion7(オランダのフィリップス社製最新装置)を導入し、2023年の10月より稼働を開始しました。

C-アームが2つ搭載されているバイプレーンシステムであり、一度の造影で2方向から同時に撮影可能な構成となっています。画像構成のキモとなるフラットパネルは、20インチと15インチの2種類のサイズで、広い視野が必要となる頭部領域や腹部領域、深い角度付けを必要とする循環器領域の両方に対応が可能となります。

操作性も申し分なく、ベッドサイドに位置するタッチパネルを用い、術者が清潔下で様々な操作をすることが可能です。スマホ感覚で画像の拡大ができ、3D画像を動かして観察することもできます。

アプリケーションも豊富に搭載されており、なかでも脳動脈瘤の血流解析ができる「Aneurysm Flow」は最新の技術です。脳動脈瘤のどの壁に力が加わっているのか、また治療前後で血流がどのように変化したかを可視化できるため、治療方針の一助となります

導入から数か月たち画質の調整や担当技師の研修が落ち着いた段階であり、装置を使いこなすところまでは到達していないのが現状ですが、装置のスペックを最大限に引き出せるよう努力していく所存です。

血管撮影担当 北畠(太)

今月の症例(2024.6掲載)


症例1 70代 女性 背部痛:図1
症例2 30代 男性 心窩部痛 嘔吐:図2
症例3 70代 男性 嘔吐:図3
下記の画像から想定される構造物はなんでしょうか?

 

解答と解説

解答
症例1:魚骨 症例2:餅 症例3:椎茸

解説

・症例1 図1では胸部上部食道内に扁平な線状の高吸収構造が描出されています(図1黄色矢印)。事前に鯛のあら汁を食べたとの食事歴があり、内視鏡検査で食道内に魚骨が見つかり摘出されました(図4)。


・症例2 図2では胃の幽門部から十二指腸球部付近に高吸収構造が認められます(図2橙色矢印)。1月の症例であり、食事歴や高吸収な構造であることから餅による軽微な通過障害が存在したものと推測されます。この症例は経過観察で改善しました。
・症例3 図3aではらせん状の低吸収構造が食道内に認められます(赤矢印)。図3b,cではともに中心部に低吸収域を伴う円形から楕円形の構造を認め、内視鏡検査では椎茸が摘出されました(図5)。食事の際に椎茸を丸呑みしたようです。

消化管異物の多くは自然排泄され、消化管穿孔など合併症確率は1%以下とされています1)
症例1の魚骨や義歯など食道異物は穿孔や縦隔膿瘍、臓器損傷となる可能性があり、内視鏡で摘出する必要があります。穿孔を起こす異物は欧米では鶏骨や爪楊枝が多いとされますが、日本では食生活を反映し魚骨が最も多いとされます2)。その他の誤嚥物はPTPシートや義歯が多いとされ、食道内に留まることが多いようです。魚骨の種類は鯛が最も多く、鮭とヒラスがそれに続きますが総数が少なく参考程度の報告です3)。穿孔部位は報告により様々で結腸に多いとされます4)
症例2、3の餅やキノコなどの食餌性イレウスは全イレウスの中で0.3-4.0%と比較的稀とされます5)。食餌性イレウスの原因としてはこんにゃく類(30%),海藻類(10%),餅(5%),種子,キノコなど報告されています6)
餅は消化に良いと認識されがちですが、餅米のデンプンはアミロペクチンという熱水にも溶解しない成分で構成されており、低温で硬くなり粘着性が増す特性があります。
丸呑みされた餅であっても高温で変形しやすければ幽門輪を通過し、小腸内で温度低下、硬化した際に通過障害となる機序が存在するようです7)。今回の症例2では胃の幽門部から十二指腸球部付近に餅が位置しており比較的低温の餅の可能性があります。さらに餅の場合は時期も重要であり、1月に症例が集中します。

症例3の椎茸に関しては食物線維が豊富で消化困難かつ水分により腸管や食道内で膨張するため十分な咀嚼が必要であるとされます8)
画像所見は症例1の魚骨はカルシウム成分を反映して高吸収の線状構造として描出されます。CT検査では魚骨の90%が描出され、術前診断に有用とされます3)
症例2の餅も均一な高吸収構造として描出され、CT値は145HU前後とされています9)。今回症例でも高吸収であり、餅による通過障害の診断にはCT検査が非常に有用となります。
症例3の椎茸ですが原型を留めていればらせん状の低吸収構造として描出されるものの、角度によっては典型像とならないため術前診断は困難な事が多いとされます10)。今回症例では食道内構造が図3a水平断像でらせん状に見え、摘出後の椎茸と対比すると傘や軸のような構造も認められます(図6)。しかしながら事前情報(食事歴など)が無い場合には診断は困難となります。また、当院では腸管内にキノコ様構造が描出されているものの自然軽快した症例も存在します(図7)。過去の報告では消化管内の5cm以上の椎茸は手術治療を必要とする可能性が高いようです10)

症例のポイント
① 魚骨や餅など高吸収物質ではCT検査が術前診断に有用
② 低吸収な食餌性通過障害では異物の種類の同定は困難
③ 典型的な形態を呈した場合は術前診断できることもある
④ 食事歴や時期など臨床情報が重要

消化管の食餌性通過障害の3症例でした。

【参考文献】
1) Perelman H, Journal Abdomen Surgery. 1962; 4:51-53. 2) 石橋ら, 日本外科学会雑誌. 1961; 62:489-509.
3) 及川ら, 日本腹部救急医学会雑誌. 2007; 27:441-446. 4) 松井ら, 日本臨床外科学会雑誌. 1986; 47:955-961.
5) 小金沢滋, 日本臨床外科学会雑誌. 1968; 29:61-70. 6) 石橋ら, 京都医師会雑誌. 2010; 57:55-58.
7) 野村ら, 仙台市立病院医学会雑誌. 2018; 38:3-8
8) Gerber P, Schweizerische Medizinische Wochenschrift. 1989; 119:1479-1481.
9) 岡ら, 日本消化器外科学会雑誌. 2013; 110:1804-1813.
10) 永岡ら, 日本腹部救急医学会雑誌. 2017; 37:1039-1042.

核医学装置が 更新されました!


2010年3月よりおよそ14年間稼働していました「Infinia」は2月17日をもってその役目を終えました。設備改修を伴う1か月ほどの更新工事を経て3月13日より新規核医学診断装置「NM/CT 850」が稼働開始となりましたので、新装置「NM/CT 850」の特徴をご紹介します。

1 新コリメータとSwift Scan

新コリメータ「LEHRS(Low Energy High Resolution Sensivity)」は、従来コリメータの分解能の良さを保持したまま、感度が大幅にアップします。さらにSwift Scanというアプリケーションも付帯されます。これにより、検出器が移動する際のデータ収集も可能となりWhole Body収集(全身像撮影)、SPECT収集(断層撮影)ともに最大25%の収集時間短縮が実現します。

2 新しい解析ソフトウェア/アプリケーションの搭載

新たな解析ソフトウェア/アプリケーションを導入します。代表的なものを幾つかピックアップしてご紹介します。

<DAT Quant(ダット クオント)>
ドーパミントランスポーター・イメージング(DATスキャン)にて視覚的評価、自動ROI解析、ノーマルデータベースとの比較を行います。線条体への集積については左右の尾状核、被殻と分けて評価を行います。従来のDAT Viewに加わることで、より詳細な評価が可能となります。

<Q Metrix(キュー メトリックス)>
SPECT SUV(SUV : Standard Uptake Value)の使用で診断に定量的評価が加味されます。

<Q Lung(キュー ラング)>
肺機能の定量評価を自動区域分け機能でより正確に、簡便に行えます。

<DOSIMETRY TOOLKIT(ドジメトリー ツールキット)>
経時的に取得した画像から、目的臓器毎の放射性医薬品の滞留時間を算出します。昨今の放射線内用療法でも注目されています。

3 短時間収集を可能とする様々なテクノロジー

操作性が簡便で、多軸同時駆動により素早くガントリー(検出部)が稼働し、ポジショニングの短縮が達成されます。前装置より引き継がれたEvolution(分解能とノイズを改善する画像処理,従来はSPECTのみ適応)は適応が拡大され、画質を維持しつつ収集時間の大幅な短縮が可能となります。

4 操作性と再現性の向上

複数同じ部位を撮影する際の位置決めの再現性が向上、撮影手技を変更追加するときの操作の切り替えのスピードが格段に向上しました。

5 吸収補正用CT搭載型SPECT装置

NM/CT 850にはCT管球が搭載されています。吸収補正を目的とするため、使用する管電流は30mAで低線量であり低被ばくです(診断用CTは数百mA)。SPECT画像における集積部位の位置情報取得および集積程度の評価精度向上が達成されます。前述2で挙げました「新しい解析ソフトウェア/アプリケーションの搭載」にも応用されています。なお、新装置NM/CT 850で得られましたCT画像を一般的な診断画像として供出することや画像診断をすることはありませんのでご承知おき願います。SPECTとCTのFusion画像につきましては診断用CTで撮影された画像を用いて作成させていただきます。

核医学担当 荒田

今月の症例


症例
10代 女性
発熱、咳嗽あり肺炎の診断で抗生剤加療されていたが解熱せず。
既往:特記事項なし
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?


解説と解答

解説

10代女性の肺結核の症例です。発熱が続き、抗生剤投与でも改善せず当院に紹介受診となりました。周囲に明らかな結核感染者はおらず、感染経路は不明です。胸部単純写真で右上肺野に浸潤影がみられ、両側肺に結節影もあり初診時は肺炎が疑われました(図1)。
1ヶ月後、浸潤影は淡くなっているものの症状改善しないためCT検査が施行されています(図2,3)。CT検査では右上葉肺尖部付近に不整な空洞状構造(図4a 橙色矢印)が認められ、周囲や中葉、舌区、両側下葉にコンパクトな粒状構造が散見されます(図4a 黄枠)。分布や所見から典型的な二次結核と考えます。
CT検査所見と合わせて単純写真の所見を解説します。右上肺野の浸潤影に囲まれた部分が空洞を示唆する所見です(図5a,b 黄枠、黄矢印)。さらに、微小な結節影が散見されます(図5a,c 橙色矢印)。単純写真で右肺尖部の空洞構造や結節影を指摘出来るかが今回症例での重要なポイントとなります。空洞性病変は気道末梢の結核病変の乾酪壊死により液状化が起こり、癒合することで形成されます1)。その過程で乾酪壊死した成分が気管支を充填し樹枝状構造と周囲のつぼみ状の構造が形成されます。CT検査では末梢肺の細やかな分枝状構造として見られ、tree-in-bud appearanceと表現されます1)(図6)。治療後では空洞構造は残存しているものの周囲の浸潤影や粒状構造は改善が見られました(図7)。

解答:肺結核

症例のポイント

①両側上肺野主体の空洞構造や粒状影 (胸部単純写真)
②持続する咳嗽、発熱
③周囲の結核感染者の存在
④CT検査での空洞構造の確認、コンパクトな粒状構造、tree-in-bud appearance

結核は一般的な病気ですが想定されていない場合は診断に苦慮することもあります。胸部単純写真の所見が重要となる症例でした。

【参考文献】
1)高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年, 結核と非結核性抗酸菌症における画像診断のABC: 160-166.

 

今月の症例


問題:70代 男性
主訴:右鼻腔から鼻出血があり評価目的に当院受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 単純CT検査 水平断像
a:蝶形骨洞レベル, b:aより頭側, c:bより頭側、d:cより頭側

 

 

 

 

図2 造影CT検査 水平断像
a:蝶形骨洞レベル, b:aより頭側, c:bより頭側、d:cより頭側

 

 

 

 

図3 造影CT検査

 

 

 

図4 MRI検査
a:T1 weighted imaging (WI) 矢状断像 蝶形骨洞レベル, b:T2WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル,

c:T1WI 矢状断像 下垂体後葉レベル,d:造影後T1WI 冠状断像
海綿静脈洞レベル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図5 T1WIダイナミック造影下垂体MRI検査 冠状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 下垂体腺腫 (macroadenoma) 

解説

70代男性の鼻出血の症例です。当初は蝶形骨洞の腫瘤性病変が疑われCT検査、MRI検査が施行されましたが形態や進展形式から下垂体病変が疑われました。手術の結果、下垂体腺腫(プロラクチン産生性)と診断されました。

図6 正常下垂体 MRI検査での構造評価

a:T1WI 矢状断像
b:T1WI 冠状断像
c:T1WI 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

画像所見の解説です。まずはMRI検査で正常下垂体の構造をお示しします(図6a)。下垂体はおおまかに前葉と後葉、下垂体柄からなります。
下垂体前葉(図6a赤色)は腺性下垂体の大部分を占め、一部下垂体柄を構成します。T1WIでは通常は中等度信号で造影後では強く造影されます1)
下垂体後葉は視床下部の神経末端により構成され、T1WIでは高信号として描出されます(図6a,c白矢印)。これは後葉ホルモンであるバゾプレシンの濃度に相関するとされ、高信号が消失した場合は中枢性尿崩症など異常が疑われます1)
下垂体柄(図6a,b黄色矢印)は下垂体後葉と連続する漏斗茎からなる構造です。径は4mm以下とされ、T1WIでは脳実質と同程度、造影後は下垂体後葉と同じく早期から造影効果が見られます1)
海綿静脈洞部(図6b橙色)は下垂体を取り囲み、複数の静脈路や内頸動脈(図6b青矢印)、脳神経が存在しています。下方には蝶形骨洞が存在しており、下垂体病変の進展を評価する上で重要な部位となります。

今回の症例は蝶形骨洞から鞍上部に連続する腫瘤性病変です(図7a,d)。内部の造影効果は比較的均一で左海綿静脈洞に進展して見えます(図7b,c橙矢印)。蝶形骨洞の悪性病変による浸潤、あるいは下垂体病変が疑われMRI検査が施行されました。

図7 造影CT検査 腫瘍の部位と進展

a:水平断像 蝶形骨洞レベル b:aより頭側,
c:冠状断像 鞍上部レベル  d:矢状断像 鞍上部レベル

 

 

 

 

MRI検査では病変はTWIで脳実質と等信号、T2WIでは内部に一部高信号域が見られます(図8b橙色矢印)。下垂体柄は右側に偏位しており(図8c黄矢印)、正常下垂体を右側に圧排する下垂体病変が示唆されます。MRI検査でも左海綿静脈洞部に進展が疑われました(図8d赤矢印)。また、ダイナミック造影MRI検査では比較的均一な漸増性の強い濃染が見られます(図5)。

図 8 MRI検査 腫瘍部位と進展

a:T1WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル  b:T2WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル,
c:造影後T1WI 冠状断像 下垂体柄レベル d:造影後T1WI 冠状断像 海綿静脈洞レベル

 

 

 

下垂体腺腫(macroadenoma)は脳腫瘍の10-20%を占める比較的高頻度の疾患です。ホルモンを分泌する機能性腺腫と分泌しない非機能性腺腫に分かれています。1cm未満の腺腫をmicroadenoma、1cm以上の腺腫はmacroadenomaと分類しています1)。また、今回症例のように副鼻腔や上咽頭に進展するものは下垂体腺腫の0.8%程度であり、鼻出血や鼻閉などを初発として耳鼻咽喉科を受診する例も見られます2)

画像所見はT1WIで正常下垂体と比較して等信号から低信号、T2WIでは変性や出血、梗塞などで症例により様々な信号を呈します。

下垂体腺腫は造影検査で全体的によく造影されます。microadenomaは微小な病変ですが、正常下垂体よりも造影ピークが遅れます。そのため、ダイナミック造影MRI検査では造影剤投与後1-2分に正常下垂体より低信号となることで検出することが可能です1)

一方macroadenomaは信号や造影効果は上記に準じますが、存在診断に加えて周囲への広がりや正常下垂体の位置の同定が重要となります。
今回症例の図9aでは正常下垂体後葉が右側に偏位していることが分かります。また、図9bでは下垂体柄も右側に偏位しており前葉は不明瞭ながら、正常下垂体が右側に偏位して存在することを示唆しています。
図9cでは左内頸動脈周囲に造影効果を伴う腫瘤性病変の進展が見られます。腫瘍が内頸動脈を取り囲む比率(2/3以上を取り囲むなど) 1)や外側接線を越えていること3)などが浸潤を示唆するとされ、全切除できる可能性が低くなります。今回症例では腫瘍が左内頸動脈を取り囲む範囲は半周程度となります。
手術所見では正常下垂体は右側に存在しており、内頸動脈周囲への強い浸潤なく腫瘍も全摘出できました。画像所見から得られる情報と合致していました。

図9 正常下垂体の位置と下垂体病変の進展
a:T1WI 水平断像, b:造影後T1WI 冠状断像, c:造影後T1WI 冠状断像 bより腹側

 

 

 

 

症例のポイント

① 鞍上部から蝶形骨洞に進展する腫瘤では下垂体病変も考慮される

② 鼻出血を主訴とする場合もある

③ ダイナミック造影検査で漸増性の濃染(正常下垂体よりは造影ピークは遅い)

④ macroadenomaでは正常下垂体の同定と周囲進展が重要

鼻出血を主訴とした下垂体腺腫(macroadenoma)の1例でした。

【参考文献】
三木幸雄, 佐藤典子 編, 下垂体の画像診断, メジカルビュー社, 2017
細川誠二. 耳鼻咽喉科・頭頚部外科. 2011; 83:233-236
Knosp E, et al. Neurosurgery. 1993; 33:610-618