今月の症例(2023年3月掲載)


問題:40代 男性   主訴:1ヶ月継続する咳嗽  既往:喘息
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真 正面像

図2:胸部単純CT検査
a:肺野条件 水平断像        b:縦隔条件 水平断像
c:縦隔条件 水平断像(bより尾側) d:縦隔条件 冠状断像

解答と解説

解答:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)

図3:胸部単純写真 正面像 拡大

図4:胸部単純CT検査(拡大)

図5:胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign

<解説>
40代男性の持続する咳嗽の症例です。
単純写真では、右中肺野で肺門部から中枢側に浸潤影が見られます。一部棍棒状にも見える陰影も内部に見られます(図3:黄矢印)
CT検査所見では右上葉にconsolidationと周囲に気道散布性の陰影が見られます(図4:黄矢印)。さらにこの症例で特徴的な所見として、consolidation内に高吸収な線状の構造が認められます(図4:青矢印)。この所見は気管支内を鋳型状に占拠する高吸収な粘液栓を反映したものです。

ABPAはアスペルギルス抗原に対する過敏性反応であり、喘息を有する患者に見られます。アスペルギルスに特異的なIgEが関与するI型アレルギー反応とIgGが関与するⅢ型アレルギー反応が病勢において重要な役割を果たすと考えられています1)。
ABPAの診断は画像所見や血清学的検査などで診断されます。診断基準としては古典的なRosenbergらの診断基準2)が用いられてきましたが、現在は日本医療研究開発機構よりアレルギー性気管支肺真菌症の新たな診断基準が提唱されています3)。以下のうち6項目以上を満たしたものをアレルギー性気管支肺真菌症として診断します。
①喘息の有無
②末梢血好酸球数上昇≧500/mm3
③血清IgE値の上昇≧417mm3
④アスペルギルスなど糸状菌に対する皮膚テスト即時型反応または特異的IgE陽性
⑤アスペルギルスなど糸状菌に対する沈降抗体や特異的IgG陽性
⑥喀痰や気管支洗浄液で糸状菌培養陽性
⑦粘液栓内の糸状菌染色陽性
⑧CT検査で中枢側の気管支拡張
⑨CT検査や気管支鏡で中枢気管支内粘液栓
⑩CT検査で高吸収な粘液栓

本症例では喘息既往と好酸球、血中IgE値の上昇、特異的IgE陽性(アスペルギルス)、CT検査での中枢側の高吸収粘液栓からABPAと診断されました。
ABPAの画像所見では、胸部単純写真で気管支内粘液栓を反映した棍棒状陰影がFinger in glove signとして知られています4)。本症例でも右中肺野の粘液栓の棍棒状陰影が手袋状のようにも見えます(図5) 。
その他、診断基準にも示されているようにCT検査で中枢側気管支を鋳型状に占拠する高吸収粘液栓も特徴的な所見です(図4:青矢印)。
アレルギー性真菌性副鼻腔炎など真菌アレルギーでは病変部が高吸収になることが知られており、凝集した鉄やマンガンなどの重金属、カルシウム、濃縮された分泌物などを反映しています5)。
同様の理由でABPAの粘液栓も高吸収となると考えられており、この所見の感度は39.7%、特異度は100%とされています6)。

症例のポイント
①喘息の既往
②胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign
③CT検査で気管支内の高吸収粘液栓

ABPAの症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105