核医学検査室で「放射線を測る」とは??


過去3回に渉って「心筋SPECTブルズアイ」を紹介してきました。今回は閑話休題として、核医学設備での「放射線を測る」がテーマです。

核医学検査室では、 ① 検査目的  ② 放射線医薬品管理目的  ③ 放射線安全管理目的  の大きく3種類の目的で放射線を測ります。

① 検査目的

核医学検査は放射性医薬品を体内に投与し、体内から放出される放射線をガンマカメラ(写真1)で“どの部位”から“どの程度”放出しているか測定します。体内への投与量をあらかじめ測定することで、放射性医薬品の集積率を知ることができます。

例えば甲状腺ヨード接種率の検査では、患者さんに投与する前の放射性医薬品(ヨードカプセル)をガンマカメラで測定します(写真2)。この測定結果をもとに甲状腺へのヨード集積量の割合を求めます。

 

 

 

 

 

 

 

 

② 放射性医薬品管理目的

検査に使用する放射性医薬品(シリンジ製剤・カプセル・バイアルから分注するものなど)の放射線量を測定する目的でドーズキャリブレータ(写真3)を使用します。

 

 

 

 

③ 放射線安全管理目的

放射性同位元素の使用は、関連法令等で厳しく管理することが求められています。核医学検査設備では排気、排水系統に関する管理、または汚染防止の対策等講じなければなりません。

A 空気中RI濃度の測定(排気系統含む)

核医学検査室内3箇所(入口,体外計測室,準備室:写真4)、排気設備1か所(写真5)にエリアモニタが設置され、24時間常時空気中のRI濃度を測定しています(写真6)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B 排水設備の測定

中央監視盤にて貯留槽の監視、希釈槽での濃度測定を行います。(写真7)

 

 

 

 

 

C 表面汚染に対する測定

放射性医薬品が床にこぼれたり、人体や衣類に付着の恐れがある場合に行う測定です。床に汚染等があった場合はサーベイメータ(写真8)を用いて汚染箇所を同定します。人体や着衣に表面汚染のある場合は汚染検査室内のハンドフットクロスモニタ(写真9)にて手足、衣類の汚染がないか確認します。

 

 

 

 

 

 

その他にも放射線内用療法にて、治療用放射性ヨードを内服した患者さんの退出基準線量測定(電離箱式サーベイメータ測定)も行っています。核医学室には多数の放射線測定機器があり、診療業務と保安管理を同時に進めながら安全管理を構築していくことが日々求められています。
核医学専門認定技師/放射線内用療法安全取扱担当者 荒田

頭部血管CT撮影の実際


CT検査は短時間に素早く検査できることからあらゆる部位について撮影が行われています。今回はたくさんある撮影部位の中でも、撮影が難しい頭部血管造影CT検査の実際についてご紹介します。

スピード注入が重要!

頭部血管造影CT検査の対象で、代表的なのは脳動脈瘤になります。頭部の血管は脳動脈瘤の好発部位である脳動脈輪でも数ミリと細いです。また、脳血管の周りは脳組織が近接しています。脳組織もCT画像上白っぽく写るので、造影剤を入れた脳血管をさらに白く写さないと視認性が悪くなります。そのため濃い造影剤を速いスピードで注入しています。
早く注入するためには工夫が必要です。右腕の血管に太めの留置針を指します。ここがこの検査の重要なポイントのひとつです。左腕だと左の静脈から心臓に至るまで距離がありますが、右だと距離が短くなることなどから造影剤の高速注入に有効であるとされています。実際に左腕からで失敗したことも経験しています。針に関しては、造影剤はネバネバしていますので、太い針を用いないと勢いよく注入することができない為20Gの留置針を用いています。

タイミングを逃すな!

撮影のタイミングも重要です。脳は造影剤が動脈からすぐに静脈へと流れていきます。動脈も静脈も両方が写ってしまうと観察しにくい画像となってしまいます。その為、造影剤が脳の動脈に到達したら速やかに撮影開始する必要があります。
くも膜下出血症例の場合はさらに難しくなります。出血によって脳が腫れ、造影剤が頭の血管に入りにくい状態となるからです。これにより撮影タイミングの判断が難しくなります。さらに、くも膜下出血自体が淡く白く写るので、その淡い白色の中に存在する造影剤の白色を観察する必要があり、いつも以上に造影剤の高速注入と撮影タイミングの決定がシビアになります。また、患者さんの状態も悪いことが多く、動きにも注意して撮影する必要があります。
以上、頭部血管造影CT検査の実際についてご紹介しました。

CT担当 保田福技師長

今月の症例 


問題:40代 女性
主訴:左母趾の爪部疼痛あり当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 足部単純写真
a:単純写真 正面像,
b:単純写真 斜位像

 

 

 

 

 

 

 

図2 足部MRI検査
a:T2強調像 矢状断像,
b:T1強調像 矢状断像,
c:Short tau inversion recovery:
STIR像 矢状断像,
d:脂肪抑制T1強調像 矢状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 足部MRI検査
a:T2強調像 水平断像,
b:STIR像 水平断像,
c:Diffusion weighted imaging (DWI) 水平断像,
d:Apparent diffusion coefficient map (ADC map) 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図4 足部MRI検査 a:T2強調像 矢状断像, b:T2強調像 水平断像,
c:STIR像 矢状断像, d:STIR像 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 グロムス腫瘍

解説

40代女性、左母趾爪部痛が持続するため当院に紹介受診となりました。肉眼では爪部の病変の同定が困難であり、検査所見や臨床症状からグロムス腫瘍が疑われました。手術が施行され、グロムス腫瘍の診断となっています。
単純写真(図1)では明らかな所見は指摘できませんでした。
足部MRI検査では母趾爪部直下に結節構造が描出されています(図2、3橙矢印)。T2強調像では高信号(図2a)、T1強調像では低信号(図2b)、STIR像では高信号(図2c)で脂肪抑制T1強調像では皮下組織とほぼ等信号(図2d)です。また、DWIで高信号(図3c)、ADC map(図3d)では軽度低信号が見られ、漿液性の嚢胞病変ではありません。超音波検査で内部血流が見られ、MRI検査所見とあわせてグロムス腫瘍が疑われました。
グロムス腫瘍はグロムス体に類似した平滑筋様細胞の組織からなる間葉系腫瘍で基本的には良性腫瘍です。グロムス体とは血管周囲に存在する微小な動静脈シャントのことで温度調整機能を有し、指趾、鼻などの真皮や爪下に多く存在します。グロムス腫瘍の頻度は2%以下と稀で比較的若年女性に多く、爪下に発生するものは圧倒的に女性が多いとされます1)
グロムス腫瘍の画像所見はMRI検査ではT2強調像で強い高信号、T1強調像で低信号、造影検査で強い造影効果を呈する事が特徴です。今回症例では造影検査のかわりに超音波検査で内部血流が確認されています。単純写真やCT検査では腫瘍と隣接する骨に侵食像を呈することが知られています2)

当院の右環指末節骨に生じたグロムス腫瘍(図5a緑矢印)の症例では、単純写真で末節骨が圧排(図5b黄色矢印)、腫瘍による骨侵食像(図5c白点線)が見られました。健側では同所見は見られません(図5c)。
鑑別は爪下ガングリオンで、内部の造影効果が見られない場合はガングリオンと診断されます。
治療は切除です。根治のためには完全切除が必要であり、術前のMRI検査や超音波検査での位置や範囲の評価が重要となります3)

 

図5 右環指末節骨に接するグロムス腫瘍による骨の侵食像

a:STIR像 冠状断像, b:患側末節骨 単純写真,
c:患側末節骨(腫瘍シェーマ) 単純写真, d:健側末節骨 単純写真,

 

 

 

 

 

 

症例のポイント

症例のポイント

① 持続する爪部痛(特に女性)

② T2強調像で高信号、T1強調像で低信号な結節構造

③ 造影検査や超音波検査で内部血流を確認する

④ 腫瘍に隣接する骨の侵食像が見られることがある

⑤ 根治には完全切除が必要であり画像検査での位置や範囲の把握が重要となる

 

足趾に生じたグロムス腫瘍の1例でした。

【参考文献】

1) 福田 国彦 編, 軟部腫瘤の画像診断-よくみる疾患から稀な疾患まで- 画像診断増刊号, 秀潤社, 2016;36:s154-155

2) Kira M, et al. RadiogGraphics. 2014; 34:1954-1967

3) Baek HJ, et al. RadiogGraphics. 2010; 30:1621-1636

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓MRI検査のご紹介


心臓MRI検査には、虚血性心疾患や心筋疾患の心形態及び心機能評価や心筋viabilityなどの評価を行う心臓MRI(Cardiovascular MRI : CMRI)検査と、冠動脈の形態評価を行う冠動脈MR Angiography(MRA)があります。
心臓検査の場合、心電図同期を行って撮影するため検査時間も多少異なりますが、CMRIは50~60分くらい、冠動脈MRAは20~30分くらいかかります。また不整脈があると、もう少し検査時間が延長します。
今回はCMRI検査、実際どんな内容を撮影しているのか順に紹介します。

1.Localaizer(ロカライザー)

撮影断面を決めるための位置決め画像です。
横断・冠状断・矢状断の3方向撮影します。

 

 

2.Fiesta(フィエスタ)

心筋のシネ撮影です。心臓の形態と機能評価が可能です。
4方向(2chamber・short axial・4chamber・3chamber)撮影します。

 

 

 

 

3.脂肪抑制T2

心筋の炎症や浮腫を評価する撮影です。
3方向(short axial・2chamber・4chamber)撮影します。

 

 

 

 

4.T1 mapping(T1マッピング)

心筋のT1値(T1緩和時間)を定量的に測定する撮影法です。心筋ダメージを定量的に評価できるため、梗塞、肥大型心筋症、心筋炎、アミロイドーシスなどの検出に有効であると言われています。

 

 

 

5.Gd造影(パーフュージョン)

以前は負荷心筋パーフュージョンも行っていましたが、現在は安静時のみのパーフュージョンを行っています。造影剤のfirst passの動態撮影で心筋血流分布を評価します。

 

 

 

6.Early enhance T1(早期造影)

パーフュージョン撮影後、早期ガドリニウム造影を撮影することで、微小循環閉塞(MO)を診断目的とするため撮影します。

 

 

 

 

7.Delayed enhance (遅延造影)

心筋梗塞急性期の心筋壊死や、心筋梗塞慢性期や心筋症の線維化病変を高信号に描出する撮影法です。3方向(short axial・2chamber・4chamber)
撮影します。

 

 

 

心臓の検査は、心拍や呼吸、磁化率変化の影響を非常に受けやすいため、アーチファクトの影響も考慮しなくてはいけません。そのため、多断面撮影することで異常所見の見逃しがないようにしています。1回の息止めは10秒前後ですが、すべての撮影が終わると50分くらいかかってしまいます。長時間の検査はきついですが、検査前には患者さんにきちんと説明し、理解してもらってから検査するようにしています。患者さんの協力なくして、十分な画像は撮影できないと思っているので、検査前の数分間のコミュニケーションを大切にしています。

MR担当 平野

今月の症例 2023.9月号掲載


問:10代 女性
発熱、咳嗽あり肺炎の診断で抗生剤加療されていたが解熱せず。
既往:特記事項なし
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 


解答・解説

解説
10代女性の肺結核の症例です。発熱が続き、抗生剤投与でも改善せず当院に紹介受診となりました。周囲に明らかな結核感染者はおらず、感染経路は不明です。胸部単純写真で右上肺野に浸潤影がみられ、両側肺に結節影もあり初診時は肺炎が疑われました(図1)。
1ヶ月後、浸潤影は淡くなっているものの症状改善しないためCT検査が施行されています(図2,3)。CT検査では右上葉肺尖部付近に不整な空洞状構造(図4a 橙色矢印)が認められ、周囲や中葉、舌区、両側下葉にコンパクトな粒状構造が散見されます(図4a 黄枠)。分布や所見から典型的な二次結核と考えます。
CT検査所見と合わせて単純写真の所見を解説します。右上肺野の浸潤影に囲まれた部分が空洞を示唆する所見です(図5a,b 黄枠、黄矢印)。さらに、微小な結節影が散見されます(図5a,c 橙色矢印)。単純写真で右肺尖部の空洞構造や結節影を指摘出来るかが今回症例での重要なポイントとなります。空洞性病変は気道末梢の結核病変の乾酪壊死により液状化が起こり、癒合することで形成されます1)。その過程で乾酪壊死した成分が気管支を充填し樹枝状構造と周囲のつぼみ状の構造が形成されます。CT検査では末梢肺の細やかな分枝状構造として見られ、tree-in-bud appearanceと表現されます1)(図6)。治療後では空洞構造は残存しているものの周囲の浸潤影や粒状構造は改善が見られました(図7)。

症例のポイント

①両側上肺野主体の空洞構造や粒状影 (胸部単純写真)
②持続する咳嗽、発熱
③周囲の結核感染者の存在
④CT検査での空洞構造の確認、コンパクトな粒状構造、tree-in-bud appearance

結核は一般的な病気ですが想定されていない場合は診断に苦慮することもあります。胸部単純写真の所見が重要となる症例でした。

【参考文献】
1)高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年, 結核と非結核性抗酸菌症における画像診断のABC: 160-166.

核医学検査の現場にせまる! 放射性医薬品の取り扱いの実際


核医学検査では放射性同位元素(いわゆる放射能)を使って検査しているという話を以前しました。今回はその実際をご紹介させていただきます。

いつまでもあると思うな、親とカネと放射能!?

前回もお話させていただきましたが、放射能には寿命があります。特に病院で使われる放射線同位元素は寿命が短いです。「寿命」と表現していますが、実際にその指標となるのは“半減期”とよばれるモノで、半減期は放射線を出す能力が半分になる時間を表しています。よく核医学検査で使われるテクネチウムという放射性同位元素は半減期約6時間です。ですから、一日たつと半分の半分の・・・となりますので、放射能はかなり失われてしまって使い物にならなくなります。故に値段が高価なものとなり、骨シンチグラフィで使われるお薬で3万円弱の薬価がついています。
以上のことから、お薬については毎日注文となります。具体的には前日の夕方に薬屋さんへ電話して注文をかけ、翌朝に配達の方が持ってきてくれます。

お取り扱い注意!筋肉も必要!?

さてこのお薬。薬といっても放射性同位元素ですからお取り扱い注意品となります。では実際にどのように配送されると思われますか?ここからはお薬の到着から使用までを見ていきましょう。朝7時30分過ぎに配達業者さんが箱に入れて持ってきます。箱を開けると専用のボトルのようなものが入っています。実はこれ、ずっしりしています。と言うのもこのボトル、プラスチックに見えますが、放射性同位元素を入れるための鉛で作られたシリンジケースとなっています。

核医学検査で使われる放射性同位元素は、ガンマ(γ)線という種類の放射線を放出します。
このガンマ線が画像取得に利用されるのですが、これが外に漏れないように鉛のボトルで覆われています。さらにこの注射器も薄めではありますが鉛のシールドで包まれています。
ちなみに、鉛は元素記号“Pb”で原子番号が高い物質(X線、γ線の吸収効率が高い)としては安価に手に入ることから、放射線の遮蔽によく利用されています。ご存知かと思いますが、鉛は結構重たいので、片手で持つと軽い筋トレになります。(ぱわ~!)

お薬を使用した後も取り扱いには注意が必要で、お薬を通したチューブや入っていたシリンジなどはすべて放射線に汚染されたもの。世に言う放射性廃棄物となります。
核医学検査室には廃棄物保管庫と呼ばれる部屋があり、そこで放射能が低くなるまで保管を行い、その後専門機関に廃棄をお願いする様になっています。

以上核医学検査のお薬の取り扱いについてお話させていただきました。
このように検査薬が放射性同位元素であることから取り扱いが煩雑かつ高価なものとなっています。患者さんには、検査をキャンセルされる場合、なるべく早くにご連絡いただけるようにご協力をいただいています。

今月の症例 2023年6月号掲載


問題:90代 男性   主訴:意識障害
来歴:道で倒れているところを発見され救急搬送となった
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:頭部MRI検査
a:T2 Weighted Imaging (WI)
b:Fluid Attenuated Inversion Recovery (FLAIR)像
c:T2*像
d:拡散強調像(Diffusion Weighted Imaging: DWI)
e:Apparent Diffusion Coefficient map (ADC map)
f:Magnetic Resonance Angiography (MRA像)

図2:頭部MRI検査 DWIの連続画像
a:DWI 放線冠
b:DWI 基底核上部
c:DWI 基底核中部
d:DWI 基底核下部


解答・解説

解答:低血糖脳症

解説

90代男性の意識障害の症例です。来院時血糖は13 mg/dlであり、画像所見や臨床症状と合わせて低血糖脳症の診断となりました。
頭部MRI検査ではDWIで被殻や尾状核に左右対称性に高信号域が認められ、ADC mapでも明瞭な信号低下が見られます。T2WIやFLAIR像でも淡い高信号として描出されています(図3:黄矢印)。また、脳溝に沿った皮質にも拡散強調像で淡い高信号域が見られます(図3:橙矢印)。T2*像では出血所見は指摘できず、MRA検査でも動脈瘤や狭窄所見は指摘できませんでした(左前大脳動脈は一部低形成です)。
拡散強調像の連続画像では側脳室周囲白質から被殻や尾状核、両側内包後脚に沿って高信号域が認められます(図4:黄矢印)。こちらも皮質に沿った高信号域が見られます(図4:橙矢印)。
低血糖による脳障害は糖尿病患者でのインスリン等の薬物使用時などに生じます。症状は脱力や錯乱、性格変化、痙攣など様々で意識障害や昏睡を呈する場合もあります。
低血糖脳症では以前は灰白質 (主に皮質や線条体、海馬) に病変が多いとされていましたが、現在では白質病変が灰白質病変より早期に高頻度に生じると考えられています1)。白質病変では内包などに限局する場合とびまん性に広がる場合があります。病変は左右対称性が多く、稀に片側性の症例もみられます。
病変は拡散強調像で最も早期に検出され、通常はADC mapで信号低下を伴います。機序としては細胞外から細胞内への一過性の体液の移動と考えられています2)。血糖改善に伴いADC mapが正常化する可能性が示唆されている報告も見られます3)。T2WIやFLAIR像でも高信号を示すこともあり、造影効果は認められないことが多いです。
病変の信号変化は内包に始まり、半球の白質に広がります。発症早期に拡散強調像を施行した低血糖患者では約1/3の症例で内包に限局した高信号域が認められ、びまん性白質病変を呈した例よりも予後が良いとされている報告があります4)5) (当院での内包後脚に限局した症例:図5)。参考症例では速やかに血糖値や意識障害は改善し、拡散強調像の所見も経時的に消退しました(図6)。
鑑別は低酸素脳症です。同様の画像所見を認める場合があるものの、低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる点が鑑別点となります。今回症例でも視床や小脳には信号変化は認められませんでした。

症例のポイント
① 低血糖や糖尿病既往
② 早期からの白質病変、内包に限局した症例では予後良好
③ 拡散強調像で高信号、ADC mapで信号低下 (T2WIで高信号となることも)
④ 低酸素脳症との鑑別点:低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる

低血糖脳症の症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105

最新CT“Revolution”で頭部撮影!


今回は2021年3月に更新となった新しいCT装置Revolutionでの頭部単純撮影についてご紹介します。

わずか1秒

“Revolution”はGE社製256列マルチスライスCT装置で、最高位モデルとなります。従来より短時間、高精細、低被ばく撮影が可能になりました。
最大50cm径で16cmの範囲をわずか1秒で撮影できます。頭部撮影では以前はヘリカル(らせん状)スキャンで寝台を動かしながら10秒程かける方法だけでしたが、それに比べてはるかに撮影時間が短くなりました。当直業務に入っておりますと、頭部のCT撮影を頻繁に行います。夜間救急で運ばれてくる小児や認知症、泥酔した患者さんなどの場合は撮影中静止していることが難しいため非常に役に立っています。

脳実質が鮮明に

画質に関しましてもAIによるディープラーニングを用いた新しい画像再構成により脳実質のわずかな濃度差をより鮮明に写すことが可能になりました。以前からある装置に比べ新しい装置の画像の方が灰白質と白質の境界が明瞭に見えます。

もちろん低被ばく

被ばく線量は、“診断参考レベル”という撮影時の放射線量が他の医療機関と比較して高すぎていないかを判断する目安となる線量指標が公表されており、成人の頭部CTの診断参考レベルは77mGyと言われています。当院では従来装置での撮影が約76mGy、新しい装置では約66mGyと13%もの被ばく量が低減された事例もあります。
他の部位に関しましても、適切な線量で診断に適した画像を提供して行きたいと思いますので今後ともよろしくお願い申し上げます。

 

どちらを選ぶ?? 2Dと3D


フォーカス!MRI検査

当院の腰椎MRI検査は、ミエログラフィー・T1強調画像とT2強調画像の矢状断・水平断を撮像しています。コントラストの異なった撮像条件を2方向から観察することにり、局在診断・質的診断を容易に可能とします。

左下肢痛の症例を以下に示します。T2強調画像の矢状断で脊柱のアライメント・椎体の信号・椎間板の突出を、水平断で脊柱管がどの程度狭窄しているか観察します。

最近のトレンド

ルーチン撮影の水平断(2D撮像でスライス厚5mm)で椎間板の膨隆による硬膜嚢の狭窄は指摘できますが、当院の整形外科医から依頼されるティーツー キューブ「T2 CUBE」という追加撮像シーケンスがあります。(※椎体を専門とする先生からのオーダーで、オプション検査として運用しております)
これは3D撮像シーケンスです。詳細は割愛しますが、簡単に言うと、画像の「ぼけ」をより抑えられるような撮像方法です。

従来撮像では2Dで3~5mmスライス厚のデータ収集を行うため、撮像方向のみ観察可能でしたが、「T2 CUBE」は1mmのアイソトロピックボクセルによるデータ収集※であるため、CT画像のように撮像後のデータを任意の断面に再構成して取得することができます。
※アイソトロピックボクセルデータ収集
3D画像作成時の使用データがX軸、Y軸、Z軸の各方向ともほぼ同じサイズの立方体として得られること

先ほどの左下肢痛症例で「T2 CUBE」を撮影すると、矢状断で撮影後、水平断および冠状断へ再構成が可能となります。

技術がどんどん進歩

腰椎はもともと生理的湾曲の強い箇所なので、「T2 CUBE」で撮像することで、任意の断面に再構成が可能となり、診断するうえでも非常に多くの情報が得られます。これらの技術は、高性能な撮像コイル・MRI装置のハード面・ソフト面の進化によってもたらされたものであり、MRI検査を受ける患者さんに対しても、非常に有益な情報を提供できます。
ただし、やはり分解能においては2D撮像の方が良好です。さらに3Dは撮像時間が長い(4分30秒程)ため、痛みが強く体勢保持が難しい場合は2D撮影(2分30秒程)の方が適していることもあります。
この他、疑う症例によってT2脂肪抑制画像、拡散強調画像など撮影することもあります。それぞれの症例をしっかりと診断、読影できるように、そして、個々の患者さんごとに様々な撮像シーケンスを駆使してMRI検査を行っております。今度ともよろしくお願い致します。

今月の症例(2023年3月掲載)


問題:40代 男性   主訴:1ヶ月継続する咳嗽  既往:喘息
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真 正面像

図2:胸部単純CT検査
a:肺野条件 水平断像        b:縦隔条件 水平断像
c:縦隔条件 水平断像(bより尾側) d:縦隔条件 冠状断像

解答と解説

解答:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)

図3:胸部単純写真 正面像 拡大

図4:胸部単純CT検査(拡大)

図5:胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign

<解説>
40代男性の持続する咳嗽の症例です。
単純写真では、右中肺野で肺門部から中枢側に浸潤影が見られます。一部棍棒状にも見える陰影も内部に見られます(図3:黄矢印)
CT検査所見では右上葉にconsolidationと周囲に気道散布性の陰影が見られます(図4:黄矢印)。さらにこの症例で特徴的な所見として、consolidation内に高吸収な線状の構造が認められます(図4:青矢印)。この所見は気管支内を鋳型状に占拠する高吸収な粘液栓を反映したものです。

ABPAはアスペルギルス抗原に対する過敏性反応であり、喘息を有する患者に見られます。アスペルギルスに特異的なIgEが関与するI型アレルギー反応とIgGが関与するⅢ型アレルギー反応が病勢において重要な役割を果たすと考えられています1)。
ABPAの診断は画像所見や血清学的検査などで診断されます。診断基準としては古典的なRosenbergらの診断基準2)が用いられてきましたが、現在は日本医療研究開発機構よりアレルギー性気管支肺真菌症の新たな診断基準が提唱されています3)。以下のうち6項目以上を満たしたものをアレルギー性気管支肺真菌症として診断します。
①喘息の有無
②末梢血好酸球数上昇≧500/mm3
③血清IgE値の上昇≧417mm3
④アスペルギルスなど糸状菌に対する皮膚テスト即時型反応または特異的IgE陽性
⑤アスペルギルスなど糸状菌に対する沈降抗体や特異的IgG陽性
⑥喀痰や気管支洗浄液で糸状菌培養陽性
⑦粘液栓内の糸状菌染色陽性
⑧CT検査で中枢側の気管支拡張
⑨CT検査や気管支鏡で中枢気管支内粘液栓
⑩CT検査で高吸収な粘液栓

本症例では喘息既往と好酸球、血中IgE値の上昇、特異的IgE陽性(アスペルギルス)、CT検査での中枢側の高吸収粘液栓からABPAと診断されました。
ABPAの画像所見では、胸部単純写真で気管支内粘液栓を反映した棍棒状陰影がFinger in glove signとして知られています4)。本症例でも右中肺野の粘液栓の棍棒状陰影が手袋状のようにも見えます(図5) 。
その他、診断基準にも示されているようにCT検査で中枢側気管支を鋳型状に占拠する高吸収粘液栓も特徴的な所見です(図4:青矢印)。
アレルギー性真菌性副鼻腔炎など真菌アレルギーでは病変部が高吸収になることが知られており、凝集した鉄やマンガンなどの重金属、カルシウム、濃縮された分泌物などを反映しています5)。
同様の理由でABPAの粘液栓も高吸収となると考えられており、この所見の感度は39.7%、特異度は100%とされています6)。

症例のポイント
①喘息の既往
②胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign
③CT検査で気管支内の高吸収粘液栓

ABPAの症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105