今月の症例(2024.12掲載)


問:70代 女性 心不全評価のため当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 

解答解説

解答:心アミロイドーシス

解説

70代女性、心不全の症例です。精査のためピロリン酸シンチグラフィが施行されています。
画像所見の解説です。ピロリン酸シンチグラフィ(図2)ですが、心臓への強い集積が見られます(図2a,b:橙矢印)。H/CL(heart-to-contralateral) 比(心臓/対側縦隔集積比)は白丸Aを白丸Bの集積で除した値で1.7となっています(図2c)。水平断SPECT像では左室心筋への集積が見られます(図2d)。心アミロイドーシス診療ガイドラインではピロリン酸シンチグラフィの評価方法として視覚評価、定量評価が用いられており(表1)、今回症例は視覚評価Grade3(肋骨より強い集積)、定量評価H/CL比>1.3(3時間後)で有意な集積と言えます(視覚評価はGrade2以上が陽性)。心筋生検が施行され、心アミロイドーシスと診断されました。

心アミロイドーシスは心臓の間質にアミロイド繊維が沈着し、形態的かつ機能的な異常を呈する疾患です。心アミロイドーシスの主な病型はATTR(amyloid transthyretin)とAL(amyloidosis of lg light chain type)に大別されているものの臨床症状や検査所見は共通する点も多く見られます。一般的には心肥大、拡張障害主体の病態を呈します。心アミロイドーシスに対しては有効な治療方法が開発されており二次性心筋症の一つとして心アミロイドーシスを分類し適切な診断をすることが重要となっています。
心アミロイドーシスの診断において、2020年から99mTc-PYPシンチグラフィ(ピロリン酸シンチグラフィ)、2022年から99mTc-HMDPシンチグラフィが保険適応となりました。
ピロリン酸はカルシウムに親和性を有する物質でATTR心アミロイドーシスの検出に有用であり集積機序は不明ですが、カルシウム介在性のメカニズムが推察されています。評価方法は表1に示したとおり視覚評価、定量評価を総合して判断します。
心アミロイドーシスではピロリン酸は心筋に集積します。ところが心房、心室内の血液への集積を心筋集積と誤って判断してしまう場合があります(血液プールへの集積)。その場合はSPECT撮影、CT検査とのfusion像(合成像)が有用となります。
SPECT撮影やfusion像が有用であった症例を供覧します。図3では心筋への集積は強く(Grade3)、H/CL比も高値です(1.6)。SPECT像(図4a)では心筋に集積があるように見えます。当院で別日に撮影されたCT検査とfusion像を作成すると(図4b)心筋への集積がより分かりやすくなります。心筋のシェーマ(図4c)で解説すると、左室壁や中隔を主体とする集積がみられます(図4d)。
一方で図5の症例では視覚評価Grade2、H/CL比は1.2であり心筋集積かどうか判然としません。水平断像のfusion像(図6a)を確認すると、集積部位は心筋ではなく心房・心室内であることが分かります(図6b)。この症例は血液プールへの集積による偽陽性症例であり、SPECT像、fusion像が鑑別に有用な症例でした。

症例のポイント
心アミロイドーシスではピロリン酸シンチグラフィが保険適応
ピロリン酸シンチグラフィでは視覚評価、定量評価から判断する
血液プールへの集積による偽陽性がありうる

ATTR心アミロイドーシスの1例でした。

【参考文献】
2020年度版 心アミロイドーシス診療ガイドライン

今月の症例(2024.6掲載)


症例1 70代 女性 背部痛:図1
症例2 30代 男性 心窩部痛 嘔吐:図2
症例3 70代 男性 嘔吐:図3
下記の画像から想定される構造物はなんでしょうか?

 

解答と解説

解答
症例1:魚骨 症例2:餅 症例3:椎茸

解説

・症例1 図1では胸部上部食道内に扁平な線状の高吸収構造が描出されています(図1黄色矢印)。事前に鯛のあら汁を食べたとの食事歴があり、内視鏡検査で食道内に魚骨が見つかり摘出されました(図4)。


・症例2 図2では胃の幽門部から十二指腸球部付近に高吸収構造が認められます(図2橙色矢印)。1月の症例であり、食事歴や高吸収な構造であることから餅による軽微な通過障害が存在したものと推測されます。この症例は経過観察で改善しました。
・症例3 図3aではらせん状の低吸収構造が食道内に認められます(赤矢印)。図3b,cではともに中心部に低吸収域を伴う円形から楕円形の構造を認め、内視鏡検査では椎茸が摘出されました(図5)。食事の際に椎茸を丸呑みしたようです。

消化管異物の多くは自然排泄され、消化管穿孔など合併症確率は1%以下とされています1)
症例1の魚骨や義歯など食道異物は穿孔や縦隔膿瘍、臓器損傷となる可能性があり、内視鏡で摘出する必要があります。穿孔を起こす異物は欧米では鶏骨や爪楊枝が多いとされますが、日本では食生活を反映し魚骨が最も多いとされます2)。その他の誤嚥物はPTPシートや義歯が多いとされ、食道内に留まることが多いようです。魚骨の種類は鯛が最も多く、鮭とヒラスがそれに続きますが総数が少なく参考程度の報告です3)。穿孔部位は報告により様々で結腸に多いとされます4)
症例2、3の餅やキノコなどの食餌性イレウスは全イレウスの中で0.3-4.0%と比較的稀とされます5)。食餌性イレウスの原因としてはこんにゃく類(30%),海藻類(10%),餅(5%),種子,キノコなど報告されています6)
餅は消化に良いと認識されがちですが、餅米のデンプンはアミロペクチンという熱水にも溶解しない成分で構成されており、低温で硬くなり粘着性が増す特性があります。
丸呑みされた餅であっても高温で変形しやすければ幽門輪を通過し、小腸内で温度低下、硬化した際に通過障害となる機序が存在するようです7)。今回の症例2では胃の幽門部から十二指腸球部付近に餅が位置しており比較的低温の餅の可能性があります。さらに餅の場合は時期も重要であり、1月に症例が集中します。

症例3の椎茸に関しては食物線維が豊富で消化困難かつ水分により腸管や食道内で膨張するため十分な咀嚼が必要であるとされます8)
画像所見は症例1の魚骨はカルシウム成分を反映して高吸収の線状構造として描出されます。CT検査では魚骨の90%が描出され、術前診断に有用とされます3)
症例2の餅も均一な高吸収構造として描出され、CT値は145HU前後とされています9)。今回症例でも高吸収であり、餅による通過障害の診断にはCT検査が非常に有用となります。
症例3の椎茸ですが原型を留めていればらせん状の低吸収構造として描出されるものの、角度によっては典型像とならないため術前診断は困難な事が多いとされます10)。今回症例では食道内構造が図3a水平断像でらせん状に見え、摘出後の椎茸と対比すると傘や軸のような構造も認められます(図6)。しかしながら事前情報(食事歴など)が無い場合には診断は困難となります。また、当院では腸管内にキノコ様構造が描出されているものの自然軽快した症例も存在します(図7)。過去の報告では消化管内の5cm以上の椎茸は手術治療を必要とする可能性が高いようです10)

症例のポイント
① 魚骨や餅など高吸収物質ではCT検査が術前診断に有用
② 低吸収な食餌性通過障害では異物の種類の同定は困難
③ 典型的な形態を呈した場合は術前診断できることもある
④ 食事歴や時期など臨床情報が重要

消化管の食餌性通過障害の3症例でした。

【参考文献】
1) Perelman H, Journal Abdomen Surgery. 1962; 4:51-53. 2) 石橋ら, 日本外科学会雑誌. 1961; 62:489-509.
3) 及川ら, 日本腹部救急医学会雑誌. 2007; 27:441-446. 4) 松井ら, 日本臨床外科学会雑誌. 1986; 47:955-961.
5) 小金沢滋, 日本臨床外科学会雑誌. 1968; 29:61-70. 6) 石橋ら, 京都医師会雑誌. 2010; 57:55-58.
7) 野村ら, 仙台市立病院医学会雑誌. 2018; 38:3-8
8) Gerber P, Schweizerische Medizinische Wochenschrift. 1989; 119:1479-1481.
9) 岡ら, 日本消化器外科学会雑誌. 2013; 110:1804-1813.
10) 永岡ら, 日本腹部救急医学会雑誌. 2017; 37:1039-1042.

今月の症例


症例
10代 女性
発熱、咳嗽あり肺炎の診断で抗生剤加療されていたが解熱せず。
既往:特記事項なし
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?


解説と解答

解説

10代女性の肺結核の症例です。発熱が続き、抗生剤投与でも改善せず当院に紹介受診となりました。周囲に明らかな結核感染者はおらず、感染経路は不明です。胸部単純写真で右上肺野に浸潤影がみられ、両側肺に結節影もあり初診時は肺炎が疑われました(図1)。
1ヶ月後、浸潤影は淡くなっているものの症状改善しないためCT検査が施行されています(図2,3)。CT検査では右上葉肺尖部付近に不整な空洞状構造(図4a 橙色矢印)が認められ、周囲や中葉、舌区、両側下葉にコンパクトな粒状構造が散見されます(図4a 黄枠)。分布や所見から典型的な二次結核と考えます。
CT検査所見と合わせて単純写真の所見を解説します。右上肺野の浸潤影に囲まれた部分が空洞を示唆する所見です(図5a,b 黄枠、黄矢印)。さらに、微小な結節影が散見されます(図5a,c 橙色矢印)。単純写真で右肺尖部の空洞構造や結節影を指摘出来るかが今回症例での重要なポイントとなります。空洞性病変は気道末梢の結核病変の乾酪壊死により液状化が起こり、癒合することで形成されます1)。その過程で乾酪壊死した成分が気管支を充填し樹枝状構造と周囲のつぼみ状の構造が形成されます。CT検査では末梢肺の細やかな分枝状構造として見られ、tree-in-bud appearanceと表現されます1)(図6)。治療後では空洞構造は残存しているものの周囲の浸潤影や粒状構造は改善が見られました(図7)。

解答:肺結核

症例のポイント

①両側上肺野主体の空洞構造や粒状影 (胸部単純写真)
②持続する咳嗽、発熱
③周囲の結核感染者の存在
④CT検査での空洞構造の確認、コンパクトな粒状構造、tree-in-bud appearance

結核は一般的な病気ですが想定されていない場合は診断に苦慮することもあります。胸部単純写真の所見が重要となる症例でした。

【参考文献】
1)高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年, 結核と非結核性抗酸菌症における画像診断のABC: 160-166.

 

今月の症例


問題:70代 男性
主訴:右鼻腔から鼻出血があり評価目的に当院受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 単純CT検査 水平断像
a:蝶形骨洞レベル, b:aより頭側, c:bより頭側、d:cより頭側

 

 

 

 

図2 造影CT検査 水平断像
a:蝶形骨洞レベル, b:aより頭側, c:bより頭側、d:cより頭側

 

 

 

 

図3 造影CT検査

 

 

 

図4 MRI検査
a:T1 weighted imaging (WI) 矢状断像 蝶形骨洞レベル, b:T2WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル,

c:T1WI 矢状断像 下垂体後葉レベル,d:造影後T1WI 冠状断像
海綿静脈洞レベル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図5 T1WIダイナミック造影下垂体MRI検査 冠状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 下垂体腺腫 (macroadenoma) 

解説

70代男性の鼻出血の症例です。当初は蝶形骨洞の腫瘤性病変が疑われCT検査、MRI検査が施行されましたが形態や進展形式から下垂体病変が疑われました。手術の結果、下垂体腺腫(プロラクチン産生性)と診断されました。

図6 正常下垂体 MRI検査での構造評価

a:T1WI 矢状断像
b:T1WI 冠状断像
c:T1WI 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

画像所見の解説です。まずはMRI検査で正常下垂体の構造をお示しします(図6a)。下垂体はおおまかに前葉と後葉、下垂体柄からなります。
下垂体前葉(図6a赤色)は腺性下垂体の大部分を占め、一部下垂体柄を構成します。T1WIでは通常は中等度信号で造影後では強く造影されます1)
下垂体後葉は視床下部の神経末端により構成され、T1WIでは高信号として描出されます(図6a,c白矢印)。これは後葉ホルモンであるバゾプレシンの濃度に相関するとされ、高信号が消失した場合は中枢性尿崩症など異常が疑われます1)
下垂体柄(図6a,b黄色矢印)は下垂体後葉と連続する漏斗茎からなる構造です。径は4mm以下とされ、T1WIでは脳実質と同程度、造影後は下垂体後葉と同じく早期から造影効果が見られます1)
海綿静脈洞部(図6b橙色)は下垂体を取り囲み、複数の静脈路や内頸動脈(図6b青矢印)、脳神経が存在しています。下方には蝶形骨洞が存在しており、下垂体病変の進展を評価する上で重要な部位となります。

今回の症例は蝶形骨洞から鞍上部に連続する腫瘤性病変です(図7a,d)。内部の造影効果は比較的均一で左海綿静脈洞に進展して見えます(図7b,c橙矢印)。蝶形骨洞の悪性病変による浸潤、あるいは下垂体病変が疑われMRI検査が施行されました。

図7 造影CT検査 腫瘍の部位と進展

a:水平断像 蝶形骨洞レベル b:aより頭側,
c:冠状断像 鞍上部レベル  d:矢状断像 鞍上部レベル

 

 

 

 

MRI検査では病変はTWIで脳実質と等信号、T2WIでは内部に一部高信号域が見られます(図8b橙色矢印)。下垂体柄は右側に偏位しており(図8c黄矢印)、正常下垂体を右側に圧排する下垂体病変が示唆されます。MRI検査でも左海綿静脈洞部に進展が疑われました(図8d赤矢印)。また、ダイナミック造影MRI検査では比較的均一な漸増性の強い濃染が見られます(図5)。

図 8 MRI検査 腫瘍部位と進展

a:T1WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル  b:T2WI 矢状断像 蝶形骨洞レベル,
c:造影後T1WI 冠状断像 下垂体柄レベル d:造影後T1WI 冠状断像 海綿静脈洞レベル

 

 

 

下垂体腺腫(macroadenoma)は脳腫瘍の10-20%を占める比較的高頻度の疾患です。ホルモンを分泌する機能性腺腫と分泌しない非機能性腺腫に分かれています。1cm未満の腺腫をmicroadenoma、1cm以上の腺腫はmacroadenomaと分類しています1)。また、今回症例のように副鼻腔や上咽頭に進展するものは下垂体腺腫の0.8%程度であり、鼻出血や鼻閉などを初発として耳鼻咽喉科を受診する例も見られます2)

画像所見はT1WIで正常下垂体と比較して等信号から低信号、T2WIでは変性や出血、梗塞などで症例により様々な信号を呈します。

下垂体腺腫は造影検査で全体的によく造影されます。microadenomaは微小な病変ですが、正常下垂体よりも造影ピークが遅れます。そのため、ダイナミック造影MRI検査では造影剤投与後1-2分に正常下垂体より低信号となることで検出することが可能です1)

一方macroadenomaは信号や造影効果は上記に準じますが、存在診断に加えて周囲への広がりや正常下垂体の位置の同定が重要となります。
今回症例の図9aでは正常下垂体後葉が右側に偏位していることが分かります。また、図9bでは下垂体柄も右側に偏位しており前葉は不明瞭ながら、正常下垂体が右側に偏位して存在することを示唆しています。
図9cでは左内頸動脈周囲に造影効果を伴う腫瘤性病変の進展が見られます。腫瘍が内頸動脈を取り囲む比率(2/3以上を取り囲むなど) 1)や外側接線を越えていること3)などが浸潤を示唆するとされ、全切除できる可能性が低くなります。今回症例では腫瘍が左内頸動脈を取り囲む範囲は半周程度となります。
手術所見では正常下垂体は右側に存在しており、内頸動脈周囲への強い浸潤なく腫瘍も全摘出できました。画像所見から得られる情報と合致していました。

図9 正常下垂体の位置と下垂体病変の進展
a:T1WI 水平断像, b:造影後T1WI 冠状断像, c:造影後T1WI 冠状断像 bより腹側

 

 

 

 

症例のポイント

① 鞍上部から蝶形骨洞に進展する腫瘤では下垂体病変も考慮される

② 鼻出血を主訴とする場合もある

③ ダイナミック造影検査で漸増性の濃染(正常下垂体よりは造影ピークは遅い)

④ macroadenomaでは正常下垂体の同定と周囲進展が重要

鼻出血を主訴とした下垂体腺腫(macroadenoma)の1例でした。

【参考文献】
三木幸雄, 佐藤典子 編, 下垂体の画像診断, メジカルビュー社, 2017
細川誠二. 耳鼻咽喉科・頭頚部外科. 2011; 83:233-236
Knosp E, et al. Neurosurgery. 1993; 33:610-618

今月の症例 


問題:40代 女性
主訴:左母趾の爪部疼痛あり当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 足部単純写真
a:単純写真 正面像,
b:単純写真 斜位像

 

 

 

 

 

 

 

図2 足部MRI検査
a:T2強調像 矢状断像,
b:T1強調像 矢状断像,
c:Short tau inversion recovery:
STIR像 矢状断像,
d:脂肪抑制T1強調像 矢状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 足部MRI検査
a:T2強調像 水平断像,
b:STIR像 水平断像,
c:Diffusion weighted imaging (DWI) 水平断像,
d:Apparent diffusion coefficient map (ADC map) 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図4 足部MRI検査 a:T2強調像 矢状断像, b:T2強調像 水平断像,
c:STIR像 矢状断像, d:STIR像 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 グロムス腫瘍

解説

40代女性、左母趾爪部痛が持続するため当院に紹介受診となりました。肉眼では爪部の病変の同定が困難であり、検査所見や臨床症状からグロムス腫瘍が疑われました。手術が施行され、グロムス腫瘍の診断となっています。
単純写真(図1)では明らかな所見は指摘できませんでした。
足部MRI検査では母趾爪部直下に結節構造が描出されています(図2、3橙矢印)。T2強調像では高信号(図2a)、T1強調像では低信号(図2b)、STIR像では高信号(図2c)で脂肪抑制T1強調像では皮下組織とほぼ等信号(図2d)です。また、DWIで高信号(図3c)、ADC map(図3d)では軽度低信号が見られ、漿液性の嚢胞病変ではありません。超音波検査で内部血流が見られ、MRI検査所見とあわせてグロムス腫瘍が疑われました。
グロムス腫瘍はグロムス体に類似した平滑筋様細胞の組織からなる間葉系腫瘍で基本的には良性腫瘍です。グロムス体とは血管周囲に存在する微小な動静脈シャントのことで温度調整機能を有し、指趾、鼻などの真皮や爪下に多く存在します。グロムス腫瘍の頻度は2%以下と稀で比較的若年女性に多く、爪下に発生するものは圧倒的に女性が多いとされます1)
グロムス腫瘍の画像所見はMRI検査ではT2強調像で強い高信号、T1強調像で低信号、造影検査で強い造影効果を呈する事が特徴です。今回症例では造影検査のかわりに超音波検査で内部血流が確認されています。単純写真やCT検査では腫瘍と隣接する骨に侵食像を呈することが知られています2)

当院の右環指末節骨に生じたグロムス腫瘍(図5a緑矢印)の症例では、単純写真で末節骨が圧排(図5b黄色矢印)、腫瘍による骨侵食像(図5c白点線)が見られました。健側では同所見は見られません(図5c)。
鑑別は爪下ガングリオンで、内部の造影効果が見られない場合はガングリオンと診断されます。
治療は切除です。根治のためには完全切除が必要であり、術前のMRI検査や超音波検査での位置や範囲の評価が重要となります3)

 

図5 右環指末節骨に接するグロムス腫瘍による骨の侵食像

a:STIR像 冠状断像, b:患側末節骨 単純写真,
c:患側末節骨(腫瘍シェーマ) 単純写真, d:健側末節骨 単純写真,

 

 

 

 

 

 

症例のポイント

症例のポイント

① 持続する爪部痛(特に女性)

② T2強調像で高信号、T1強調像で低信号な結節構造

③ 造影検査や超音波検査で内部血流を確認する

④ 腫瘍に隣接する骨の侵食像が見られることがある

⑤ 根治には完全切除が必要であり画像検査での位置や範囲の把握が重要となる

 

足趾に生じたグロムス腫瘍の1例でした。

【参考文献】

1) 福田 国彦 編, 軟部腫瘤の画像診断-よくみる疾患から稀な疾患まで- 画像診断増刊号, 秀潤社, 2016;36:s154-155

2) Kira M, et al. RadiogGraphics. 2014; 34:1954-1967

3) Baek HJ, et al. RadiogGraphics. 2010; 30:1621-1636

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月の症例 2023.9月号掲載


問:10代 女性
発熱、咳嗽あり肺炎の診断で抗生剤加療されていたが解熱せず。
既往:特記事項なし
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

 


解答・解説

解説
10代女性の肺結核の症例です。発熱が続き、抗生剤投与でも改善せず当院に紹介受診となりました。周囲に明らかな結核感染者はおらず、感染経路は不明です。胸部単純写真で右上肺野に浸潤影がみられ、両側肺に結節影もあり初診時は肺炎が疑われました(図1)。
1ヶ月後、浸潤影は淡くなっているものの症状改善しないためCT検査が施行されています(図2,3)。CT検査では右上葉肺尖部付近に不整な空洞状構造(図4a 橙色矢印)が認められ、周囲や中葉、舌区、両側下葉にコンパクトな粒状構造が散見されます(図4a 黄枠)。分布や所見から典型的な二次結核と考えます。
CT検査所見と合わせて単純写真の所見を解説します。右上肺野の浸潤影に囲まれた部分が空洞を示唆する所見です(図5a,b 黄枠、黄矢印)。さらに、微小な結節影が散見されます(図5a,c 橙色矢印)。単純写真で右肺尖部の空洞構造や結節影を指摘出来るかが今回症例での重要なポイントとなります。空洞性病変は気道末梢の結核病変の乾酪壊死により液状化が起こり、癒合することで形成されます1)。その過程で乾酪壊死した成分が気管支を充填し樹枝状構造と周囲のつぼみ状の構造が形成されます。CT検査では末梢肺の細やかな分枝状構造として見られ、tree-in-bud appearanceと表現されます1)(図6)。治療後では空洞構造は残存しているものの周囲の浸潤影や粒状構造は改善が見られました(図7)。

症例のポイント

①両側上肺野主体の空洞構造や粒状影 (胸部単純写真)
②持続する咳嗽、発熱
③周囲の結核感染者の存在
④CT検査での空洞構造の確認、コンパクトな粒状構造、tree-in-bud appearance

結核は一般的な病気ですが想定されていない場合は診断に苦慮することもあります。胸部単純写真の所見が重要となる症例でした。

【参考文献】
1)高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年, 結核と非結核性抗酸菌症における画像診断のABC: 160-166.

今月の症例 2023年6月号掲載


問題:90代 男性   主訴:意識障害
来歴:道で倒れているところを発見され救急搬送となった
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:頭部MRI検査
a:T2 Weighted Imaging (WI)
b:Fluid Attenuated Inversion Recovery (FLAIR)像
c:T2*像
d:拡散強調像(Diffusion Weighted Imaging: DWI)
e:Apparent Diffusion Coefficient map (ADC map)
f:Magnetic Resonance Angiography (MRA像)

図2:頭部MRI検査 DWIの連続画像
a:DWI 放線冠
b:DWI 基底核上部
c:DWI 基底核中部
d:DWI 基底核下部


解答・解説

解答:低血糖脳症

解説

90代男性の意識障害の症例です。来院時血糖は13 mg/dlであり、画像所見や臨床症状と合わせて低血糖脳症の診断となりました。
頭部MRI検査ではDWIで被殻や尾状核に左右対称性に高信号域が認められ、ADC mapでも明瞭な信号低下が見られます。T2WIやFLAIR像でも淡い高信号として描出されています(図3:黄矢印)。また、脳溝に沿った皮質にも拡散強調像で淡い高信号域が見られます(図3:橙矢印)。T2*像では出血所見は指摘できず、MRA検査でも動脈瘤や狭窄所見は指摘できませんでした(左前大脳動脈は一部低形成です)。
拡散強調像の連続画像では側脳室周囲白質から被殻や尾状核、両側内包後脚に沿って高信号域が認められます(図4:黄矢印)。こちらも皮質に沿った高信号域が見られます(図4:橙矢印)。
低血糖による脳障害は糖尿病患者でのインスリン等の薬物使用時などに生じます。症状は脱力や錯乱、性格変化、痙攣など様々で意識障害や昏睡を呈する場合もあります。
低血糖脳症では以前は灰白質 (主に皮質や線条体、海馬) に病変が多いとされていましたが、現在では白質病変が灰白質病変より早期に高頻度に生じると考えられています1)。白質病変では内包などに限局する場合とびまん性に広がる場合があります。病変は左右対称性が多く、稀に片側性の症例もみられます。
病変は拡散強調像で最も早期に検出され、通常はADC mapで信号低下を伴います。機序としては細胞外から細胞内への一過性の体液の移動と考えられています2)。血糖改善に伴いADC mapが正常化する可能性が示唆されている報告も見られます3)。T2WIやFLAIR像でも高信号を示すこともあり、造影効果は認められないことが多いです。
病変の信号変化は内包に始まり、半球の白質に広がります。発症早期に拡散強調像を施行した低血糖患者では約1/3の症例で内包に限局した高信号域が認められ、びまん性白質病変を呈した例よりも予後が良いとされている報告があります4)5) (当院での内包後脚に限局した症例:図5)。参考症例では速やかに血糖値や意識障害は改善し、拡散強調像の所見も経時的に消退しました(図6)。
鑑別は低酸素脳症です。同様の画像所見を認める場合があるものの、低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる点が鑑別点となります。今回症例でも視床や小脳には信号変化は認められませんでした。

症例のポイント
① 低血糖や糖尿病既往
② 早期からの白質病変、内包に限局した症例では予後良好
③ 拡散強調像で高信号、ADC mapで信号低下 (T2WIで高信号となることも)
④ 低酸素脳症との鑑別点:低血糖脳症は視床、脳幹、小脳が保たれる

低血糖脳症の症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105

今月の症例(2023年3月掲載)


問題:40代 男性   主訴:1ヶ月継続する咳嗽  既往:喘息
画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真 正面像

図2:胸部単純CT検査
a:肺野条件 水平断像        b:縦隔条件 水平断像
c:縦隔条件 水平断像(bより尾側) d:縦隔条件 冠状断像

解答と解説

解答:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)

図3:胸部単純写真 正面像 拡大

図4:胸部単純CT検査(拡大)

図5:胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign

<解説>
40代男性の持続する咳嗽の症例です。
単純写真では、右中肺野で肺門部から中枢側に浸潤影が見られます。一部棍棒状にも見える陰影も内部に見られます(図3:黄矢印)
CT検査所見では右上葉にconsolidationと周囲に気道散布性の陰影が見られます(図4:黄矢印)。さらにこの症例で特徴的な所見として、consolidation内に高吸収な線状の構造が認められます(図4:青矢印)。この所見は気管支内を鋳型状に占拠する高吸収な粘液栓を反映したものです。

ABPAはアスペルギルス抗原に対する過敏性反応であり、喘息を有する患者に見られます。アスペルギルスに特異的なIgEが関与するI型アレルギー反応とIgGが関与するⅢ型アレルギー反応が病勢において重要な役割を果たすと考えられています1)。
ABPAの診断は画像所見や血清学的検査などで診断されます。診断基準としては古典的なRosenbergらの診断基準2)が用いられてきましたが、現在は日本医療研究開発機構よりアレルギー性気管支肺真菌症の新たな診断基準が提唱されています3)。以下のうち6項目以上を満たしたものをアレルギー性気管支肺真菌症として診断します。
①喘息の有無
②末梢血好酸球数上昇≧500/mm3
③血清IgE値の上昇≧417mm3
④アスペルギルスなど糸状菌に対する皮膚テスト即時型反応または特異的IgE陽性
⑤アスペルギルスなど糸状菌に対する沈降抗体や特異的IgG陽性
⑥喀痰や気管支洗浄液で糸状菌培養陽性
⑦粘液栓内の糸状菌染色陽性
⑧CT検査で中枢側の気管支拡張
⑨CT検査や気管支鏡で中枢気管支内粘液栓
⑩CT検査で高吸収な粘液栓

本症例では喘息既往と好酸球、血中IgE値の上昇、特異的IgE陽性(アスペルギルス)、CT検査での中枢側の高吸収粘液栓からABPAと診断されました。
ABPAの画像所見では、胸部単純写真で気管支内粘液栓を反映した棍棒状陰影がFinger in glove signとして知られています4)。本症例でも右中肺野の粘液栓の棍棒状陰影が手袋状のようにも見えます(図5) 。
その他、診断基準にも示されているようにCT検査で中枢側気管支を鋳型状に占拠する高吸収粘液栓も特徴的な所見です(図4:青矢印)。
アレルギー性真菌性副鼻腔炎など真菌アレルギーでは病変部が高吸収になることが知られており、凝集した鉄やマンガンなどの重金属、カルシウム、濃縮された分泌物などを反映しています5)。
同様の理由でABPAの粘液栓も高吸収となると考えられており、この所見の感度は39.7%、特異度は100%とされています6)。

症例のポイント
①喘息の既往
②胸部単純写真での特徴的なサイン:Finger in glove sign
③CT検査で気管支内の高吸収粘液栓

ABPAの症例でした。

【参考文献】
1)酒井 文和ら: 画像から学ぶびまん性肺疾患. 克誠堂, p.158-159, 2018.
2)Rosenberg M, et al. American Journal of Medicine. 1978; 64:599-604
3)Asano K, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2020; 147:1261-1268
4)Nguyen ET. Radiology. 2003; 227:453-454
5)Mukherji SK. Radiology. 1998; 207:417-422
6)Agarwal R, et al. Public Library of Science ONE. 2013; 8:e61105

今月の症例(2022年12月号掲載)


問題:90代 女性   主訴:昼食後からの右下腹部痛 下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:単純・造影CT検査
a:単純CT検査 水平断像 胆嚢下部  b:造影CT検査 水平断像 胆嚢上部
c:造影CT検査 水平断像 胆嚢中部  d:造影CT検査 水平断像 胆嚢下部

図2:造影CT検査 胆嚢の冠状断像
a:冠状断像① b:冠状断像②(aよりも背側)

図3:Magnetic resonance cholangiopancreatography (MRCP) 検査
a:T2 Weighted Imaging (WI) 冠状断像 b:MRCP maximum intensity projection (MIP)
c:T2WI冠状断像(aより背側)    d:Fat Saturation(FS:脂肪抑制)T1WI

解答と解説

解答:胆嚢捻転

図4:単純・造影CT検査
a:造影CT検査 冠状断像
b:単純CT検査 水平断像 胆嚢下部
c:造影CT検査 水平断像 胆嚢下部

図5:MRCP検査
a:T2WI b:MRCP MIP  c:T2WI冠状断像(aより背側)  d:FST1WI

図6:遊離胆嚢のGross分類

図7:画像と対比した胆嚢捻転のシェーマ
a:T2WI冠状断像 b:胆嚢捻転のシェーマ像

90代女性で急性発症の腹痛の症例です。
CT検査画像では、図4aで腫大した胆嚢が認められます(緑矢印→)。胆嚢頚部は肥厚しています(橙矢印→)。図4bでは胆嚢壁の一部が高吸収となっており、壁内の微小出血などを反映した所見と考えられます(黄矢印→)。
図4c では同部位の壁構造や造影効果はやや不明瞭です(青矢印→)。
MRCP 検査では図5aで胆嚢内腔がくちばし状に変形しており、図5b で胆嚢管の構造ははっきりしません(共に青矢印→)。
図5cでは頚部は T2WI で低信号となり渦巻き状にも見えます(黄矢印→)。また、胆嚢は肝臓と離れて存在しています。
図5d では、単純 CT 検査で見られた高吸収域(図4b)に一致して高信号域(橙矢印→)が見られます。FS T1WI で高信号であり、CT検査所見と合わせて胆嚢壁内出血として矛盾しない像と考えます。
胆嚢腫大、壁内出血や頚部の肥厚と渦巻き状所見より、胆嚢捻転を疑いました。
その後、手術となりました。術中では肝床部から完全に遊離した胆嚢が360°捻転しており、胆嚢捻転と診断されています。

胆嚢捻転は先天的要因として遊離胆嚢と呼ばれる状態に亀背や側弯、るい痩、打撲など物理的要因が加わることで発症します。
高齢女性に多く、急性発症の右季肋部痛で腫瘤様構造を触知することも多いとされています1)。
遊離胆嚢とは胆嚢が肝床部に付着せず離れて存在する状態を指し、Grossの分類(図6)が知られています2)。Ⅰ型は胆嚢と胆嚢管が間膜で肝下面と連結しているものでⅡ型は胆嚢管のみが間膜で肝下面に連結しているものと分類されています。Ⅰ型は不完全な捻転が多く、Ⅱ型は本症例のように、180°以上捻転する完全型が多いとされます。ただし、間膜は画像上同定できず画像からGross分類を判別することは困難です。
胆嚢捻転の画像所見は 胆嚢壁肥厚や腫大、偏位がみられ、さらに胆嚢頚部の渦巻き像 (whirl sign) が見られれば診断の重要な所見となります(図7) 3)。その他、胆嚢管の途絶や胆嚢壁の虚血性変化も胆嚢捻転を示唆する所見となります。
捻転の程度により静脈のみが閉塞し、胆嚢のうっ血所見が中心となることもあるため、超音波検査などで動脈の血流が残存していても注意が必要です。
この症例のように特徴的な画像所見であれば診断が可能ですが、一般的には術前診断が可能な例は約10%とされ診断に苦慮する場合もあります4)。

症例のポイント
① 高齢女性の急性腹症
② 遊離胆嚢
③ 胆嚢頚部の渦巻き状所見 (whirl sign) 、胆嚢管の途絶、胆嚢腫大や偏位
④ 一般的な術前診断が可能な例は約10%

胆嚢捻転の症例でした。

【参考文献】
1)山下 康行ら: 肝胆膵の画像診断-CT・MRIを中心に- 改訂第2版. 秀潤社, p.516-517, 2022.
2)Gross RE. Archives of Surgery. 1936; 32:131-162
3)Tajima Y. The American Journal of Surgery. 2009; 197:9-10
4)Baig Z, Ljubojevic V, Christian F. Internal journal of Surgery Case Reports. 1936; 32:131-162

今月の症例(2022年9月号掲載)


問題:70代 男性
主訴:3ヶ月前から腰痛
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:造影CT検査
a:L3椎体レベル, b:骨条件矢状断像, c:冠状断像, d:骨条件冠状断像

図2:腰椎 MRI検査
a:脂肪抑制T1強調像, b:造影後脂肪抑制T1強調像, c:拡散強調像, d: ADCmap

図3:腰椎 MRI検査
a:T2強調像冠状断像 b:造影後脂肪抑制 T1強調像冠状断像

 

解答と解説

解答:化膿性椎体炎、椎間板炎からの左腸腰筋膿瘍

図4:造影CT検査
a:L3椎体レベル, b:骨条件矢状断像, c:冠状断像, d:骨条件冠状断像

図5: MRI 検査
a:造影後脂肪抑制 T1強調像冠状断像,b:拡散強調像, c:ADC map

図6: 化膿性椎体炎 感染の広がり

3ヶ月ほど持続した腰痛の症例です。
造影CT検査では図4a、図4c黄色矢印←部分で腸腰筋内に嚢胞状構造が認められます。内部には一部石灰化もみられます。図4b 、図4d 橙矢印←では L2椎体に破壊性変化が認められます。
MRI 検査(図2)では、上記病変は脂肪抑制 T1強調像で背側が高信号、造影後脂肪抑制 T1強調像で辺縁部が造影され、拡散強調像では背側が高信号、 ADC map では背側が信号低下しています。冠状断像(図3)では T2強調像で内部は高信号、造影後 T1強調像冠状断像では、辺縁部が造影され内部には隔壁構造も見られます。また T2強調像冠状断像では L1/2椎間板に高信号域が認められます。
図5では分かりやすいようにMRI所見にアノテーションをつけています。図5aでL1、2椎体間より連続する(黄色矢印←)嚢胞構造が腸腰筋内に見られます。内部には隔壁を伴っています(緑矢印←)。図5b拡散強調像では背側主体に高信号域が認められ、図5cのADC map では同領域の信号が低下しており、粘稠度の高い成分が存在していると考えます(橙矢印←)。腸腰筋内の嚢胞状構造は画像所見から膿瘍と考えられました。
以上の所見より、L1、2椎体を主体とした化膿性椎体炎、椎間板炎からの左腸腰筋膿瘍形成と診断しました。
CT ガイド下でドレナージを施行し黄色ブドウ球菌による感染が確認されました。その後、膿瘍腔は縮小、改善が得られました。

化膿性椎体炎は脊椎椎体及び接する椎間板の炎症であり、起炎菌は黄色ブドウ球菌が最多です。小児と中年から高齢者(50~60代)に多くみられます。好発部位は、腰椎>胸椎>頚椎の順です。原因としては、脊椎外の感染巣から生じた敗血症によることが多いとされています1)。
血管が豊富で血流の終末部に当たる終板に接する①前軟骨下層に菌が付着し、その後に②椎間板、椎体や③前縦靭帯、傍椎体軟部組織に感染が広がります(図6) 1)。その過程で腸腰筋にも膿瘍を形成します。
画像所見ですが MRI 検査では椎間板は T2強調像で高信号となり、椎間板隙の狭小化、椎体の圧潰が認められます。傍椎体領域には75%で椎体周囲に液体貯留を呈するとされており、多くは膿瘍です1)。膿瘍の診断には拡散強調像、造影 MRI 検査が有用です。拡散強調像で高信号、 ADC map で信号が低下していた場合は粘稠度の高い液体貯留であると想定できます。造影後に内部に造影効果を伴わないことが確認できれば、腫瘤性病変ではなく膿瘍が疑われます。
また、CT検査では椎体の破壊性変化の評価や膿瘍の進展範囲の評価が可能です。

鑑別は結核性脊椎椎間板炎です。化膿性椎体炎では罹患椎体は2椎体までであり、3椎体以上の椎体への進展は稀とされています。一方で結核性椎体椎間板炎は3椎体以上の椎体への進展がみられ、胸腰椎移行部が好発部位です。
また結核性では腰筋の筋膜に沿って粗大な膿瘍を形成することがあり、慢性期では内部に石灰化が生じるとされています(冷膿瘍)2)。今回症例では膿瘍は比較的大きく、内部に石灰化があったものの培養結果からは結核菌は検出されませんでした。

症例の鑑別ポイント
① 2椎体までの罹患椎体、破壊性変化
② 化膿性椎体炎は腰椎>胸椎>頚椎
③ 椎体/椎間板のみならず筋肉内も含めた傍椎体領域も評価が必要
④ 結核性は3椎体以上、胸腰椎移行部に好発、内部石灰化

化膿性椎体炎、椎間板炎と腸腰筋膿瘍の1例でした。

参考文献】
1) 柳下 章: エキスパートのための脊椎脊髄疾患のMRI 第3版. 三輪書店, p.416-425, 2015.
2) 福田 国彦:ステップアップのための骨軟部画像診断-Q&Aアプローチ-. 秀潤社, p.142-145, 2015.