特集MRI:薬を使わないでできる脳血流検査  ASLを紹介します


MRIで脳血流診断?

脳血流の評価というと、放射性核種を用いて血流量を定量評価する脳血流シンチがゴールドスタンダードです。当院の核医学検査でも行っている検査ですが、当院のように核医学検査装置を有している施設でなければ検査ができません。MRIで脳血流が評価できないかという事で、造影剤を使って脳血流を評価する方法(dynamic susceptibility contrast:DSC法)があります。DSC法は造影剤が脳血管内に流入する状態を撮影し続けます。しかし、解析方法の自動設定が難しく、定量値が撮影法に依存すること、定量値に誤差が生じやすいなどの問題点があり、精度の高い安定した定量値を得ることは難しいため、定性的な評価に利用されています。
近年、造影剤を使わずに脳血流評価が行えるASL (arterial spin labeling)法が普及してきました。ASLの研究自体は古く約20年の歴史がありましたが、装置の高性能化・高磁場強度の装置の登場により、ようやくソフトウェア技術が追いついてきました。造影剤が不要で、放射線被ばくも無く、非侵襲的に繰り返し検査することが可能で、当院のプロトコルでは約2分で撮影する事が可能です。

なぜ注射なしでOKなのか?

原理は頸部血管にラジオ波を照射して血液内のプロトンをラベリング(磁気的に標識)します。このラジオ波をラベリングパルスと呼びます。ラベリングされた血液が脳組織に到達するまで待った後、高速に画像収集を行います。ラベリングパルス「あり」の時と「なし」の時の差を解析するとわずかな磁場の変化がみられます。この違いが入ってきた脳血流の違いとして描出され、核医学検査のような脳灌流画像を取得する事ができます。ラベリングされた血液が造影剤代わりとなることから、適切なタイミングで撮像されていないと結果が正しくなくなる恐れがあります。

図1
InnervisionHPより引用

どのタイミングで撮影するのか?

ラジオ波でラベリングされた血液が脳組織に到達してから画像収集までの時間をPLD(post label delay)といいます。臨床では血流速度に個人差や左右差があることから適切なタイミングでの撮影が難しいときがあります。その為、原則としてPLD=1525msec(1.5秒)とPLD=2525msec(2.5秒)の2つのタイミングで撮影をしています。血流速度の速いものを反映しているのがPLD1525msecの画像、遅い血流を反映しているのがPLD2525msecであると考えられます。(当院症例:Case5をご参照ください)

図2
各種脳還流画像検査法の特徴(表:八重洲クリニック様HPから引用改変)

当院での症例

50歳代女性 左方麻痺 救急車で当院に搬送された。
CTでは異常所見なく、MRIを施行された。
拡散強調画像で淡い高信号、MRAで右MCAに狭窄が疑われ、ASL画像にて右中大脳動脈支配領域に一致した血流低下が疑われた。DSA検査を施行後、血管内治療が行われた。

図4

図5

図8

 

 

 

脳DATスキャンのご紹介


パーキンソン症候群およびレビー小体型認知症の画像診断が可能になりました

脳核医学画像診断の最新の話題として、パーキンソン症候群およびレビー小体型認知症を対象とした検査名「脳DATスキャン」:ドーパミントランスポータシンチグラフィーを紹介させていただきます。

2014年1月27日(月)より(株)日本メジフィジックスより「ダットスキャン静注」(123I-イオフルパン:123I-FI-CIT)の販売開始となり、当院でも検査を開始しております。

本製剤ではパーキンソン病(PD)およびレビー小体型認知症(DLB)にみられる黒質線条体ドパミン神経の変性・脱落を評価するために、黒質線条体ドパミン神経のターミナル(終末)に高発現している、ドパミントランスポーター(DAT)の結合能の評価をターゲットとします。ゆえに黒質線条体ドパミン神経の変性・脱落により、本製剤の線条体への集積は低下することで

①臨床的に診断が確定しないパーキンソン症候群患者において,特発性パーキンソン病に関連するパーキンソン症候群,多系統萎縮症,及び進行性核上性麻痺と本態性振戦(ET)の鑑別診断

②レビー小体型認知症(DLB)と推定される病態とアルツハイマー型認知症(AD)の識別診断

が期待されます。

線条体への集積は年齢ごとに減少していくとの報告もあり、脳血流の統計解析手法と同様に今後解析方法等の更なる開発は進んで行くと思われます。21世紀の脳核医学診断の第一弾としてご紹介させていただきました。

図1

高度化する放射線治療


今回は放射線治療の進化した背景についてご紹介したいと思います。現在の放射線治療の進化は目覚ましく、以前と比べることができないくらいに進化しています。その中で最も変化をもたらしたのが、マルチリーフコリメータが登場したことです。以前の照射では、照射をおこなう部位に対し、固形の鉛ブロック(モノブロック)を複数使用し照射野を形成し(図1)、これを照射装置のヘッド部分に取り付けて照射をおこなっていました。現在はマルチリーフコリメータがヘッド部内に装備され、一枚一枚の板を動かすことで病巣の形に合わせた照射がおこなえるようになりました(図2)。また安全面においても、以前のように治療中にブロックが落下するなどの心配もなくなりました。
マルチリーフコリメータの一番の利点は、リスク臓器への線量を減らす照射野が容易に作成できるようになったことです。この技術を利用することで、最近注目されている、SRT(定位的放射線治療)、IMRT(強度変調治療)、IGRT(イメージガイド下放射線治療)などの高精度で高技術な放射線治療が可能となりました。こちらの方は随時紹介していく予定であります。さらに現在では、マルチリーフコリメータも進化しており、放射線遮蔽能力の向上や運動性能の向上(移動スピード)などが大幅に進化しております。
当施設に入る治療装置にも最先端の技術が搭載されたマルチリーフコリメータが装備されていますので体に優しく安心できる放射線治療がご提供できると思います。

マルチリーフコリメータ

知っているようで知らない マンモグラフィの基礎③


石灰化=がん それは間違いです!!

マンモグラフィーでよくみかける石灰化。石灰化があると必ずがんが隠れているのでしょうか??今回は、知っているようで知らない「石灰化」を掘り下げてみようと思います。

「石灰化」とは文字通り組織にカルシウムが沈着してできた構造物です。マンモグラフィーにうつっている石灰化それ自体は結晶化したカルシウムです。がんに関連する石灰化であってもそれは同じです。どうも石灰化という用語が一人歩きしていて、一般の患者さんのなかには石灰化=がんだと思い込んでしまっているかたもよくいらっしゃいます。もちろん石灰化=がん細胞が描出されているのではありません。石灰化、つまりカルシウムの結晶がどのような機序で生成され、その周囲がどんな構造かが問題なのです。それは良性のこともあるし悪性のこともあるのです。

石灰化はみつけるのは簡単! みつけたあとの良悪性の鑑別診断が重要

マンモグラフィ上には、皮膚、乳腺、乳腺周囲の結合組織、脂肪組織等が描出されています。それぞれの組織ごとにX線吸収度が異なりその違いがマンモグラフィーでは白〜黒のグラデーションで表現されます。乳がんのX線吸収係数は0.85cm-1/20keVです。それに対し正常の乳腺組織は0.80、脂肪組織は0.45、微小石灰化は12.5です。背景乳腺が高濃度乳腺であっても脂肪性乳腺であっても石灰化をマンモグラフィー上で見つけることは比較的簡単なのです。前回背景乳腺濃度のお話しをしました。背景乳腺が高濃度だと、がんがあっても腫瘍そのものが視認しにくいことがあるのですが、そんな場合でも石灰化はよく見えます。高濃度乳腺や不均一高濃度の乳腺ではがんの本体は見えなくても石灰化のみが見えてがんが見つかることもしばしばあります。
しかし石灰化は数からいうと良性変化に伴うものが圧倒的多数で、がんに伴うものは一部です。ほとんどのマンモグラフィーでなんらかの石灰化がうつっています。全く石灰化のうつっていないマンモグラフィーを探す方が難しいくらいです。石灰化は見つけることよりも、鑑別診断がキモなのです!!

良悪性の鑑別のポイント1  大きい石灰化(短径5mm以上のもの)はまず良性

図2

良悪性の鑑別のポイント2  ミリ単位の微小石灰化は良悪性の鑑別が必要

乳がんに関連する石灰化のほとんどは、乳管内のがんに生じます。乳管内のがんに起こる石灰化の生成機序は大きく分けて2通りあります。一つは乳管内に生じたがん細胞が増殖した結果、乳管の中心部で腫瘍壊死が起こり、壊死組織に石灰が沈着する「壊死型石灰化」です。壊死型石灰化=がんの石灰化と考えてよいです。もう一つは、乳管の管腔や篩状構造をとったがんのなかの管腔構造の中に石灰分を含んだ分泌物が貯留し、その分泌物の中に石灰の結晶が析出する「分泌型石灰化」です。

壊死型石灰化=乳管内を埋め尽くしたがんの中心が壊死してその内部にできる。

図4

分泌型石灰化=乳管内の分泌物に石灰の結晶が析出

図6

良悪性の鑑別のポイント3  規則性をもった分布は乳がんの可能性が高い

図7

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎②


Are you DENSE? 〜マンモグラフィーが不得意な乳房とは〜

Dense Breast という言葉 ご存知ですか?日本語でいうと「高濃度乳腺」といいます。マンモグラフィーが真っ白にうつる乳腺をこう呼んでいます。高濃度乳腺の中では、腫瘍があっても判別しづらく、ときにマンモグラフィ検査での「見逃し」の原因となります。

米国では一般向けに自分の乳腺濃度を知って、適切な健診を受けることを啓発するサイトもあります。

http://www.areyoudense.org

図1

Dense Breast 高濃度乳腺とは?

乳房は乳腺実質と脂肪組織で構成されます。マンモグラフィの読影に際して乳房内の乳腺実質と脂肪組織の混在する程度(乳房の構成)を評価します。乳房の構成は脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度に分類されます。

乳腺実質内にほとんど脂肪の混在がない乳房を高濃度乳腺と呼びます(=Dense Breast)

高齢、授乳経験が多いほど乳腺の萎縮が進み脂肪組織が多くなり乳房全体が黒っぽくうつります。若年、授乳経験なし、エストロゲン補充療法をしている女性は乳腺の萎縮が軽度でマンモでは乳房全体が白っぽくうつります。

図2

乳がんは高濃度(白く)描出される。背景が高濃度乳腺だと認識しづらい

図3
乳腺散在の乳腺です。やはり左上に腫瘤があります。こちらは腫瘤の存在がよく見えます。不均一高濃度の乳腺です。左上に腫瘤の端が見えていますが、大部分は背景乳腺に隠れています。
乳腺散在の乳腺です。 やはり左上に腫瘤があります。 こちらは腫瘤の存在がよく見えます。
乳腺散在の乳腺です。
やはり左上に腫瘤があります。
こちらは腫瘤の存在がよく見えます。

マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手

高濃度乳腺では散在性や脂肪性乳腺に比べてマンモグラフィで病変が認識しづらいことがあります。乳腺外来では超音波検査や乳房MRI検査など他の検査方法を追加して、病変の見落としを防ぎます。横浜市乳がん検診のような「対策型検診」では50歳代以上の受検者に対してはMLO1方向撮影ですが、高濃度乳腺の多い40歳代の受検者に対してはMLO,CCの2方向撮影を行うことでカバーしています。

マンモグラフィの弱点を補完する トモシンセシス撮影

X線管球を回転させて多方向からマンモグラフィーを撮影。乳腺の断層像を再構成する技術。1乳房につき30-60スライスの断層像で表示します。高濃度乳腺の重なりを排除でき病変を認識しやすくなります。また高濃度乳腺に隠された病変の辺縁もより詳細に読影できます。

図5

当院では平成27年3月末よりトモシンセシス撮影のできるマンモグラフィ機器が稼働しています。

右図はノルウエーのオスロで行われた検診における臨床研究です。従来撮影法(2D)にトモシンセシス撮影(3D)を追加したところ(右図赤いバー)、乳腺濃度が高い群でも浸潤がんの発見率が向上するという結果でした。トモシンセシスの検診への応用も期待されます。
:Radiology267:47-56,2013より改変引用

マンモグラフィ検診で高濃度乳腺と評価されたら?

精密検査不要の判定でも人間ドックなどの機会に超音波検査も追加してみるとよいでしょう。ただし高濃度乳腺だから乳がんに罹りやすいわけではありませんから心配はいりませんし急ぐ必要はないです。あくまで何かの機会にというスタンスで。ですがしこりなどの症状の自覚がある場合は早めに乳腺外来に受診しましょう。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎①


マンモグラフィーをどのように撮影するかご存知ですか?

乳房を圧迫板で薄くぴんとのばして「耐えられる最大限の圧迫」を加えて撮影します。日本人女性の場合120ニュートン(kg.m/s2) 程度の圧で撮影されることが多いです。
できるだけ薄くのばすことで少ない被曝量で解像度、コントラストに優れたよい画像を撮影することができます。
「苦痛が少なく」かつ「画質のよい写真を撮影」することは撮影技師の腕の見せ所です。

標準的撮影方法
斜めに乳房を圧迫する内外斜方向(Mediolateral Oblique:MLO)撮影と、水平に圧迫する頭尾方向(Cranio-Caudal:CC)撮影があります。

MLO撮影は一方向で乳腺組織全体を最も広く描出できる撮影方法です。特に乳腺組織量が多い乳房の上外側の深部組織がよく描出されます。
横浜市も含め多くの自治体による対策型検診では50歳以上の女性にはMLO一方向撮影で検診が行われています。

図1

マンモグラフィーには何がうつっているのでしょう?

図2

すべての乳がんがマンモグラフィでみえる?!わけではない

図3

図5

マンモグラフィの撮影範囲に入らなければ、がんがあっても描出されません。
乳房の内側は乳房組織や脂肪組織が薄く、腫瘤ができると触知しやすい部位でもあるのです。乳房触診を行う際には、この部位に腫瘍がないかも意識してみていただけるとありがたいです。

撮影体位図は医学書院 マンモグラフィガイドライン第3版 p8-9図より引用

症例は当院手術症例より

骨密度検査を受けましょう!


骨密度検査とは?

骨に含まれるミネラル、すなわちカルシウムの量を測定する検査です。
骨折の危険性を診断するうえで有効な手法であるとされていて、社会の高齢化に伴い骨粗鬆症患者が増加している現在、欠かすことのできないものとなっています。
骨密度の測定法にはいくつかありますが、当院では最も信頼度の高いDEXA法(二重エネルギーエックス線吸収測定法)を用いた装置により腰椎と大腿骨頚部で検査を行っております。DEXA法とは2種類のエネルギーの放射線を検査部位に当てて、透過したそれぞれの放射線エネルギーの減衰から骨密度(骨塩量)を測定する方法です。

骨粗鬆症とは?

年をとることや閉経を迎えたことに加えて、食事でのカルシウム摂取不足や、運動不足などが原因となって骨のカルシウム量が減少し、骨がスポンジのように粗くなり骨折しやすくなる病気です。

ご紹介頂くにあたり

・測定はベッドに上向きで寝ていただくだけです。測定部位(腰椎もしくは大腿骨)によって異なりますが、5~10分程度で終了します。
・この検査で受けるエックス線の量は非常に少なく、受けたエックス線によって身体に影響があらわれるようなことはありません。ただし妊娠している方、またはその可能性がある方は、胎児への影響を避けるため検査を受けられないことがあります。
・X線検査と同様に金属類は計測・診断の妨げとなります。検査着もご用意していますが、金属類の付いていない服装で来ていただけるとスムーズに検査を受けることが出来ます。またカイロやエレキバン、湿布等も外していただきます。
・検査当日は飲食の制限はありません。
・検査前1週間以内に、バリウム検査(胃透視・注腸等)を受けられると、バリウムの影響から骨密度検査が出来ない場合がありますので、ご注意ください。

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胃X線検査の透視観察


日本消化器がん検診学会胃がん検診精度管理委員会によって基準撮影法ガイドラインが改正されて3年が経過しました。現在では、検診に従事する全国の技師に普及浸透し、ある一定の効果を得ていると確信されます。しかしながら、ただマニュアル通り撮影しても救命可能な早期胃がんは拾い上げることは容易ではありません。先生のやってらっしゃる内視鏡検診と肩を並べる精度を維持するためには、我々撮影する技師には熟練した透視観察が必要であると痛感しております。東京都がん検診センターの入口陽介先生のお言葉をお借りすると「ただ透視像を漫然とみる」のではなく、「自ら観に行く」事が必要だそうです。そこで、我々が普段拾い上げに使っている撮影テクニック(ってほどでもございませんが)を、ひとつご紹介させていただきます。

通常のX線検診においてはブスコパン等の鎮痙剤は使用しておりませんので、どうしても十二指腸へバリウムが流出してしまい、同時に幽門前部の蠕動も活発化します。よって前庭部~幽門前部にかけての観察がしづらくなります。しかしそんな時にもあわてずに、体位変換により椎体との重なりを避け、深い呼気によって前庭部を伸展させます。さらに幽門前部が拡がる撮影タイミングを計れば観察できる範囲も大きくなります。(図1)

前壁二重造影像においては胃型によっては描出が非常に難しく、さらに被検者様に逆傾斜がかかっている状態で透視観察をしなくてはならないので、できるだけ短時間の観察で最大の効果を求められます。我々の工夫としては圧迫ふとんの厚さを胃型に応じて可変させたり、透視観察時に吸気と呼気を使い分けたりしながら病変を拾い上げます。(図2)の左側の像では十二指腸の重なりによって陥凹病変が隠れていますが、その右側に先細りするヒダ集中像らしきものが透視上で目視できました。しかしこれだけでは要精検として拾い上げる所見としては乏しいので、深い呼気によって胃自体を押し上げて十二指腸と分離させて陥凹病変を描出しました。その陥凹周囲にはバリウムをはじいた粘膜の高まりも観察できました。これでがんを疑う所見をそろえることができたわけです。内視鏡下での拾い上げと同様、胃X線検査においても我々撮影技師自身が、胃がんのX線所見が頭に入っていないとなかなか拾い上げられません。

胃透視今後も研鑽を重ねて、地域のがん検診に微力ながらお役に立てるようにしていきたいと思っております。
(横山力也;胃がん検診専門認定技師、胃がんX線検診読影部門B資格)

肝MRエラストグラフィ


肝硬変を初期に発見することの重要性
日本では、肝炎ウィルスによる肝硬変の発症がおおいですが、アルコールやカロリーの撮り過ぎなどによる脂肪肝から重度の脂肪肝、そして肝硬変へと至るケースもあります。肝硬変は、肝がんを誘発させることから、早期の段階で肝硬変を把握し治療へつなげることは重要です。
肝臓MRエラストグラフィは、肝臓の硬さを定量化し、肝の線維化を把握することができる新しい画像診断法です。

図1

最先端CT装置の今


今回は今春に横浜で行われました医用画像機器展での情報をもとに最先端のCT装置に関してご紹介したいと思います。

マルチスライスCTは現在国内に1万台以上設置されており、広く普及しています。このニュースレターでも紹介しているように撮影スピードが高速化され冠動脈の撮影までもが可能になってきていることも普及を後押ししているものと思われます。しかし、マルチスライスCTであれば冠動脈の検査ができるというわけではありません。現在のところ64列以上のCTで撮影することが推奨されていますが、それでもきれいに撮影できないような症例もあります。
最新のCT装置では64列以上でも撮影が難しかった心臓の動きが速くシャッタースピードが間に合わない症例などにも対応できる装置が開発されています。CTの撮影技術は冠動脈以外の部分はほぼ確立されてきており、冠動脈の撮影がどこまでできるかが装置を比較するうえで重要なポイントとなります。

現在国内で使用されている最先端CT装置メーカーは、ドイツのシーメンス、アメリカのGE、日本の東芝の装置でしょう。
それぞれに特徴のある製品を販売していますので、それぞれのフラッグシップモデルについてご紹介いたします。

図2

シーメンスではエックス線管が2個搭載された装置を開発しています。すでに開発から10年が経過していますが、いまだに他社は開発できていません。この2管球搭載型装置というのはX線の出力源であるX線管球を2つ搭載している装置です。メリットは、撮影時間を通常の半分の時間にできるという点になります。この撮影時間というのは一般的な写真撮影で言うとシャッタースピードに当たります。
心臓は息止めをしても止めることができませんので、どれだけ高速にシャッターを切れるかどうかは非常に重要なポイントになります。この装置のシャッタースピードがどれだけ速いのかというと、現在のCT装置の1回転にかかる時間が約0.3秒程度ですので、その半分の0.15秒程度のシャッタースピードを確保することができる装置です。たいした差ではないように感じますが、これによって今まで心拍数が高くて綺麗に撮影できなかったような症例も撮影できるようになり、動きの早い大動脈弁なども静止した画像を得ることができるようです。今までは検査前にベーターブロッカーの服用をし、心臓の動きを緩やかにして撮影していましたが、このような前処置も不要になります。
この高速撮影は心臓以外の部位にも有効です。胸部CTなどは1秒以下で撮影でき、息止めの必要がないといわれるほどの圧倒的なスピードです。救急から小児までと幅広く活用されています。

図3

デュアルエナジー技術による石灰化除去

2つエックス線管から異なるエネルギーのエックス線を出力することにより、組織弁別が可能となるデュアルエナジー技術もこの装置が最初に商品化した技術になります。この技術を利用することにより、腎結石の性状を同定することや冠動脈や大動脈などに生じた石灰化を造影剤と分離して表示することなどができるようになります。また画質を綺麗にすることができる効果があり、腕を下した状態で撮影した腹部CT画像なども綺麗に観察できるようです。このほかにも、造影剤を濃く映すことが可能なので、造影剤を半分まで減らすことができます。この技術は現存の64列装置でもある程度可能な技術ではありますが、冠動脈撮影には利用できなかった技術であり、これで造影剤20cc以下での冠動脈撮影も可能となります。


図4

東芝の装置はシーメンスの装置とは異なり1回転で広範囲を撮影できるという点が特徴となっています。これは一般的な写真撮影でいうと「広角が広く撮れる」という表現が最も近いと思います。0.5ミリの検出器を320列配置することで、一度に160mmの範囲を撮影することが可能です。「面検出器CT」とか「ワイドカバレッジCT」などと表現されていて写真に示すようにかなり幅広の検出器が搭載されています。
この面検出器は東芝が世界に先駆けて開発した技術でした。

この装置の利点は広範囲を繰り返し撮影することができますので、血流解析などが可能です。臓器に造影剤が入ってくるところから出て行くところまでを繰り返し撮影するパーフュージョン検査と呼ばれるものの精度が向上します。パーフュージョン検査は現存の64列装置でも可能で頭部の動きの少ない部分でよく利用されていますが、このワイドカバレッジ装置ですと心臓のパーフュージョン検査も出きるようになります。心筋に取り込まれる造影剤をダイナミックに観察することができ、心筋虚血の有無を確認することができるようです。ただし、シャッタースピードが2管球搭載型と同じとはいきませんので心拍数が低めの患者様が対照となり限定的ではあります。
シーメンスの項でご紹介したデュアルエナジー技術に関しては、東芝の装置は1回目の撮影と2回目撮影で電圧切り替えを行うことにより2種類のエネルギー画像を得る方式です。簡易的でよいのですが、2度の撮影の間に時間が経過するため冠動脈などといった動きのある部位に対しては良い適応ではないようです。しかしこの点に関しては、ソフトウェアによる動態解析を利用し静止画を取得できるような工夫をしています。

図8


 

図7

GEの装置も東芝の装置と同様に160mmの幅を1回転で撮影することが可能なワイドカバレッジ装置です。東芝の装置と同様に血流解析等が可能ですが、心拍数に対して限定的となります。しかし、動態解析を使用したソフトウェアを利用し静止画を取得するような技術を搭載しており高心拍へも対応できるよう工夫されています。この動態解析ソフトウェアはGE社が最初に開発したもので、高い評価が得られているようです。
通常のヘリカルスキャンに関してはワイドカバレッジ装置の場合は少しスピードを落とす必要があることから、シーメンスの装置のような超高速ヘリカル撮影はできません。それでも写真に示すような冠動脈撮影と大動脈撮影の同時撮影を7秒ほどで可能にしています。

デュアルエナジー技術に関しては、このフラッグシップモデルでは東芝と同じように2回の撮影が必要となりますが、GE社はすでに1度の撮影中にエックス線管にかける電圧をミリ秒単位で変化させることで2種類のエネルギーのエックス線を出力させる技術を持っています。来年にはこの装置でも冠動脈にも対応可能な装置が発表されるものと期待されます。

図5


以上のようにフラッグシップモデルにはそれぞれに特徴があります。個人的にはシーメンスの技術が頭一つ抜け出ているように感じられます。しかし、一般の家電と同じように、最高位機種が一番売れているわけではなくそれぞれのニーズにあったものが売れています。特にコストや使いやすさという点で国産装置は日本では圧倒的に有利です。国内市場は東芝の装置が多数を占めており、近隣施設にも東芝の320列装置や64列装置が多数設置されています。日本が世界一のCT保有国であるのも東芝社の力によるところが大きいでしょう。
このようにCT装置の技術革新は目覚しいものがありますが、実はこのほかにも3D画像処理コンピューターなども大きく発展しています。また最近では手術前に3Dモデルを作成することで診療報酬の面で加点があったことから、3Dプリンタとの接続も一般的に行われるようになってきています。次回はこれらCT装置周辺機器についてご紹介できたらと思います。

(X線CT認定技師:保田 英志)R@H2015年11月号より