症例1 70代 女性 背部痛:図1
症例2 30代 男性 心窩部痛 嘔吐:図2
症例3 70代 男性 嘔吐:図3
下記の画像から想定される構造物はなんでしょうか?
解答と解説
解答
症例1:魚骨 症例2:餅 症例3:椎茸
解説
・症例1 図1では胸部上部食道内に扁平な線状の高吸収構造が描出されています(図1黄色矢印)。事前に鯛のあら汁を食べたとの食事歴があり、内視鏡検査で食道内に魚骨が見つかり摘出されました(図4)。
・症例2 図2では胃の幽門部から十二指腸球部付近に高吸収構造が認められます(図2橙色矢印)。1月の症例であり、食事歴や高吸収な構造であることから餅による軽微な通過障害が存在したものと推測されます。この症例は経過観察で改善しました。
・症例3 図3aではらせん状の低吸収構造が食道内に認められます(赤矢印)。図3b,cではともに中心部に低吸収域を伴う円形から楕円形の構造を認め、内視鏡検査では椎茸が摘出されました(図5)。食事の際に椎茸を丸呑みしたようです。
消化管異物の多くは自然排泄され、消化管穿孔など合併症確率は1%以下とされています1)。
症例1の魚骨や義歯など食道異物は穿孔や縦隔膿瘍、臓器損傷となる可能性があり、内視鏡で摘出する必要があります。穿孔を起こす異物は欧米では鶏骨や爪楊枝が多いとされますが、日本では食生活を反映し魚骨が最も多いとされます2)。その他の誤嚥物はPTPシートや義歯が多いとされ、食道内に留まることが多いようです。魚骨の種類は鯛が最も多く、鮭とヒラスがそれに続きますが総数が少なく参考程度の報告です3)。穿孔部位は報告により様々で結腸に多いとされます4)。
症例2、3の餅やキノコなどの食餌性イレウスは全イレウスの中で0.3-4.0%と比較的稀とされます5)。食餌性イレウスの原因としてはこんにゃく類(30%),海藻類(10%),餅(5%),種子,キノコなど報告されています6)。
餅は消化に良いと認識されがちですが、餅米のデンプンはアミロペクチンという熱水にも溶解しない成分で構成されており、低温で硬くなり粘着性が増す特性があります。
丸呑みされた餅であっても高温で変形しやすければ幽門輪を通過し、小腸内で温度低下、硬化した際に通過障害となる機序が存在するようです7)。今回の症例2では胃の幽門部から十二指腸球部付近に餅が位置しており比較的低温の餅の可能性があります。さらに餅の場合は時期も重要であり、1月に症例が集中します。
症例3の椎茸に関しては食物線維が豊富で消化困難かつ水分により腸管や食道内で膨張するため十分な咀嚼が必要であるとされます8)。
画像所見は症例1の魚骨はカルシウム成分を反映して高吸収の線状構造として描出されます。CT検査では魚骨の90%が描出され、術前診断に有用とされます3)。
症例2の餅も均一な高吸収構造として描出され、CT値は145HU前後とされています9)。今回症例でも高吸収であり、餅による通過障害の診断にはCT検査が非常に有用となります。
症例3の椎茸ですが原型を留めていればらせん状の低吸収構造として描出されるものの、角度によっては典型像とならないため術前診断は困難な事が多いとされます10)。今回症例では食道内構造が図3a水平断像でらせん状に見え、摘出後の椎茸と対比すると傘や軸のような構造も認められます(図6)。しかしながら事前情報(食事歴など)が無い場合には診断は困難となります。また、当院では腸管内にキノコ様構造が描出されているものの自然軽快した症例も存在します(図7)。過去の報告では消化管内の5cm以上の椎茸は手術治療を必要とする可能性が高いようです10)。
症例のポイント
① 魚骨や餅など高吸収物質ではCT検査が術前診断に有用
② 低吸収な食餌性通過障害では異物の種類の同定は困難
③ 典型的な形態を呈した場合は術前診断できることもある
④ 食事歴や時期など臨床情報が重要
消化管の食餌性通過障害の3症例でした。
【参考文献】
1) Perelman H, Journal Abdomen Surgery. 1962; 4:51-53. 2) 石橋ら, 日本外科学会雑誌. 1961; 62:489-509.
3) 及川ら, 日本腹部救急医学会雑誌. 2007; 27:441-446. 4) 松井ら, 日本臨床外科学会雑誌. 1986; 47:955-961.
5) 小金沢滋, 日本臨床外科学会雑誌. 1968; 29:61-70. 6) 石橋ら, 京都医師会雑誌. 2010; 57:55-58.
7) 野村ら, 仙台市立病院医学会雑誌. 2018; 38:3-8
8) Gerber P, Schweizerische Medizinische Wochenschrift. 1989; 119:1479-1481.
9) 岡ら, 日本消化器外科学会雑誌. 2013; 110:1804-1813.
10) 永岡ら, 日本腹部救急医学会雑誌. 2017; 37:1039-1042.