今月の症例 


問題:40代 女性
主訴:左母趾の爪部疼痛あり当院に紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1 足部単純写真
a:単純写真 正面像,
b:単純写真 斜位像

 

 

 

 

 

 

 

図2 足部MRI検査
a:T2強調像 矢状断像,
b:T1強調像 矢状断像,
c:Short tau inversion recovery:
STIR像 矢状断像,
d:脂肪抑制T1強調像 矢状断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 足部MRI検査
a:T2強調像 水平断像,
b:STIR像 水平断像,
c:Diffusion weighted imaging (DWI) 水平断像,
d:Apparent diffusion coefficient map (ADC map) 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

図4 足部MRI検査 a:T2強調像 矢状断像, b:T2強調像 水平断像,
c:STIR像 矢状断像, d:STIR像 水平断像

 

 

 

 

 

 

 

 

 


解答 グロムス腫瘍

解説

40代女性、左母趾爪部痛が持続するため当院に紹介受診となりました。肉眼では爪部の病変の同定が困難であり、検査所見や臨床症状からグロムス腫瘍が疑われました。手術が施行され、グロムス腫瘍の診断となっています。
単純写真(図1)では明らかな所見は指摘できませんでした。
足部MRI検査では母趾爪部直下に結節構造が描出されています(図2、3橙矢印)。T2強調像では高信号(図2a)、T1強調像では低信号(図2b)、STIR像では高信号(図2c)で脂肪抑制T1強調像では皮下組織とほぼ等信号(図2d)です。また、DWIで高信号(図3c)、ADC map(図3d)では軽度低信号が見られ、漿液性の嚢胞病変ではありません。超音波検査で内部血流が見られ、MRI検査所見とあわせてグロムス腫瘍が疑われました。
グロムス腫瘍はグロムス体に類似した平滑筋様細胞の組織からなる間葉系腫瘍で基本的には良性腫瘍です。グロムス体とは血管周囲に存在する微小な動静脈シャントのことで温度調整機能を有し、指趾、鼻などの真皮や爪下に多く存在します。グロムス腫瘍の頻度は2%以下と稀で比較的若年女性に多く、爪下に発生するものは圧倒的に女性が多いとされます1)
グロムス腫瘍の画像所見はMRI検査ではT2強調像で強い高信号、T1強調像で低信号、造影検査で強い造影効果を呈する事が特徴です。今回症例では造影検査のかわりに超音波検査で内部血流が確認されています。単純写真やCT検査では腫瘍と隣接する骨に侵食像を呈することが知られています2)

当院の右環指末節骨に生じたグロムス腫瘍(図5a緑矢印)の症例では、単純写真で末節骨が圧排(図5b黄色矢印)、腫瘍による骨侵食像(図5c白点線)が見られました。健側では同所見は見られません(図5c)。
鑑別は爪下ガングリオンで、内部の造影効果が見られない場合はガングリオンと診断されます。
治療は切除です。根治のためには完全切除が必要であり、術前のMRI検査や超音波検査での位置や範囲の評価が重要となります3)

 

図5 右環指末節骨に接するグロムス腫瘍による骨の侵食像

a:STIR像 冠状断像, b:患側末節骨 単純写真,
c:患側末節骨(腫瘍シェーマ) 単純写真, d:健側末節骨 単純写真,

 

 

 

 

 

 

症例のポイント

症例のポイント

① 持続する爪部痛(特に女性)

② T2強調像で高信号、T1強調像で低信号な結節構造

③ 造影検査や超音波検査で内部血流を確認する

④ 腫瘍に隣接する骨の侵食像が見られることがある

⑤ 根治には完全切除が必要であり画像検査での位置や範囲の把握が重要となる

 

足趾に生じたグロムス腫瘍の1例でした。

【参考文献】

1) 福田 国彦 編, 軟部腫瘤の画像診断-よくみる疾患から稀な疾患まで- 画像診断増刊号, 秀潤社, 2016;36:s154-155

2) Kira M, et al. RadiogGraphics. 2014; 34:1954-1967

3) Baek HJ, et al. RadiogGraphics. 2010; 30:1621-1636