放射線の種類を変えて照射をおこなう技術


放射線の種類を変えて照射をおこなう技術

さて、これまで現在注目されている3つの照射技術、『がんの形や動きに合わせて照射をおこなう技術』、『放射線の強さを変えて照射をおこなう技術』の2つについて解説してきました。今回は、最後の1つ『放射線の種類を変えて照射をおこなう技術』について説明させて頂きます。
放射線の種類を変える技術とは、放射線そのものを変えて治療をおこなう技術です。これまでは、リニアック(直線加速器)を使用したX線や電子線を用いた放射線治療を紹介してきましたが、今回は話題の粒子線治療について紹介いたします。

○粒子線治療とは?

粒子線(荷電重粒子線(かでんじゅうりゅうしせん))治療とは、粒子放射線ビームを用いた放射線治療法の総称です。陽子線治療、重粒子(炭素イオン)線治療が有名で世界の各地で臨床応用や研究が行われています。

○粒子線治療の特徴

粒子線治療は、サイクロトロンやシンクロトロン等の加速器から得られる陽子線や重粒子(炭素イオン)線を病巣に照射します。

ガンマ線、エックス線、電子線などは体外から照射すると、体の表面近くで線量が最大(ピーク)となり、それ以降は深さとともに減少します。一方、粒子線はそのエネルギーによって飛程(体内で到達する深さ)が一定で、その飛程の終端近くでエネルギーを急激に放出して止まります。この現象をブラッグ・ピークと呼びます(図1)。実際の治療では特殊なフィルター(リッジフィルター)を使用し、このブラックピークの幅を拡げて照射を行います(図2)。

RT図1図2

粒子線治療は病巣の部分で粒子が止まり、体表面から照射の道筋にある正常な細胞にあまり影響を与えず照射をすることが可能な治療なので、とても体に優しく、今までのX線治療では効かなかった病気も治ると期待されています(図3)。

RT図3

○実際の粒子線治療

陽子線や重粒子(炭素イオン)線は病巣に限局して照射できることから、進行していない限局した病巣の治療に適していると考えられています。病巣の周りに放射線に弱い組織がある場合に、特に有効性が発揮できると言われています。(図4)

料金の方は高額で300万円程かかってしまいます。しかし近年、ある特定の疾患で保険診療が使用できるようになりました。

図4.粒子線治療装置と症例
図4.粒子線治療装置と症例

○現在の粒子線治療施設

現在、日本には粒子線がん治療施設が15ヵ所(重粒子線:5ヵ所、陽子線:11ヵ所)あります。粒子線治療施設数においては世界で一番多い国となっています(世界の39箇所で稼働、内15箇所は日本で稼働)。特に重粒子線治療については、治療患者数、治療成績の観点からも世界の最先端技術を誇っています。
神奈川県内では、神奈川県立がんセンターでH27年12月より重粒子線治療を行っています。詳しくは神奈川県立がんセンター重粒子線治療施設「 i-ROCK 」のページをご参照下さい。
ご紹介した通り、粒子線治療はとても体に優しく、夢の治療だと言われています。まだまだ高額な料金がかかってしまうという問題等もありますが、近い将来必ず身近な治療になると思います。

当院の放射線治療装置も順調に稼動しています

ご無沙汰しております、放射線技術科の江川です。

待ちに待った放射線治療が10月よりついに始まりました。ご心配お掛けしましたが、治療患者数も順調に増えており、年内中(12月28日現在)には50名を超える患者数となりそうです。

当院は放射線治療が初めての経験と言うことで、現在通常の照射方法で対応していますが、来年は新たに高精度な治療も取り組んでいく予定でおりますのでご期待頂ければと思います。

先生の施設において放射線治療適応の患者様がおいでになりましたら是非とも当院への受診をお勧め下さい。よろしくお願い致します。

 

放射線治療専門技師 江川 俊幸

図1