VMAT~part2~ 検証作業


以前VMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy:強度変調回転照射法)治療をご紹介しました。
VMAT治療は通常の放射線治療に比べ、とても複雑な治療となるため、患者さんごとに正しく照射が行われているか検証作業が必要になります。主な検証作業は、線量分布検証と評価点線量検証です。今回は当院で行っている線量分布検証をご紹介します。
線量分布検証とは、治療計画で得られた線量分布と実際に治療装置で照射をおこなった際の線量分布に相違はないか確認する作業になります。

VMATはオーダーメイド

実際の前立腺治療患者さんのVMAT治療計画です。線量ごとに色分けされた分布が表示され、赤い線は治療中にガントリーが回る軌道角度です。これだけを見ると複雑さは伝わりませんが、実際はすごく緻密に計算されており、治療目的(がん)に必要な線量があたり、リスク臓器(放射線感受性の高い正常組織)にはあまり線量が入らないような分布になっています。この治療計画をファントムに置き換えて線量分布を作成し、検証作業を行います。
VMAT治療ではマルチリーフも複雑に動くので、検証ではマルチリーフがスムーズに動いているかの動作確認も行います。

どこからでも!全方位検出!!

前述のファントムに置き換えた線量分布が正しく得られるかを測定する検出器です。1386個のSunPoint半導体検出器を円筒形ファントム内にらせん状に配列した多次元検出器で、360°どのガントリ角度からも常に一貫した等方位性が得られます。
この検出器で検出された線量分布を元に検証を行います。

誤差はどれくらい?

多次元検出器(1220型ArcCHECK)で測定した結果からガンマインデックスを求めます。ガンマインデックスとは位置誤差に対する評価値DTA(Distance to Agreement)、治療計画と測定値の相対的な差異を示すDD (Dose Difference)の両方を加味した評価指標。当院では、ガンマインデックス2mm(DTA:位置の相違),3%(DD:線量の相違)で95%以上を目標としています。
実際にArcCHECKで測定した分布とヒストグラムは以下のようになり、評価基準を満たさない点の中で、線量が基準より高く検出された点が赤く表示され、低く検出された点が青で表示されます。これによりどの部分で線量にズレが生じているか確認できます。
しかし、あくまでファントムでの評価なので実際の臓器でどのような線量分布を示すかは専用のアプリケーションを使用して検証しています。それについては、また別の機会に紹介したいと思います。

北畠(智)

VMATご存知ですか?


VMATご存知ですか?

さて今回は、2021年に当院に新しく導入されたVMATについて紹介させていただきます。
VMATとは、強度変調回転照射法(Volumetric Modulated Arc Therapy : VMAT)のことで、IMRT※1の技術に従来日本で行われていた回転原体照射の機能を加えた照射法です。 マルチリーフコリメータ(Multi Leaf Collimator : MLC)※2を常に動かしながらガントリの回転速度と照射線量率を変化させることで強度変調をおこないます。これにより照射時間の短縮が可能となります。

IMRT (固定7門) vs VMAT (1回転)

VMATの最大の利点は、従来おこなってきた固定IMRTに比べ、病巣への線量集中はそのままで(もしくはそれ以上の集中性が確保できる)、短時間での治療が可能となる点です(fig.1)。
治療部位や照射方法にもよりますが、これまで10分以上必要であった照射時間が、数分で終了となります。これにより患者さんの負担が軽減され、より楽に治療が受けられるようになります。また、治療時間の短縮が可能となりますので、治療中の体の動きによる位置誤差も少なくできます。より安全で高精度な放射線治療を受けることができます。適応疾患※3についても、これまで以上に選択の拡大が期待できます。

※3)適応疾患

脳腫瘍、多発性脳転移、頭頸部癌、食道癌、肝胆膵癌、前立腺癌、骨転移など

治療装置の品実管理(QAQC)に関しても、VMATに対応した専用の検証装置を導入しました。
安全で安心できる放射線治療の提供を目標に、スタッフ一同頑張って参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。

放射線治療で使用する固定具、補助具について


現在、日本の死亡原因第1位はがんや悪性腫瘍で、死亡者数は年間30万人を超えています。これは3人に1人が、がんや悪性腫瘍で亡くなっていることを意味します。また、罹患率で見てみますと、年間70万人を超える人が、がんや悪性腫瘍に罹っていてこれは男女とも2人に1人が一生涯でがんや悪性腫瘍を経験する数値と言われています。
その様な状況の中、がんや悪性腫瘍の治療の一角を担う放射線治療は現在、以前に比べ照射技術(照射位置の正確性、線量の集中性)が格段の進化を遂げております。
がんや悪性腫瘍の位置や動きを事前に確認して照射を行う技術(IGRT)※1や放射線の強度を変化させながら照射を行う技術(IMRT)※2など、高精度で高技術な照射ができるようになり、放射線による副作用の少ない治療が行えるようになっています。これらの高技術な照射を行うには、治療時の照射精度の担保が必須となります。
今回は、照射精度を向上させるために使用する固定具や補助具について紹介させて頂きます。
放射線治療において、治療体位の再現性は非常に重要であるため、治療寝台上で患者さんを固定するさまざまな固定具や補助具が存在します。これらを有効に使用することで、精度の高い放射線治療が可能となります。

固定シェル

シェルは頭部、頭頸部、体幹部で使用されます。
60°〜70°で柔らかく進展し、常温で硬化する性質を持つため、専用の加温装置を使用し、柔らかい状態にて患者さんの型取りを行います。シェルを使用することにより、固定精度が向上し、照射位置精度の再現性が担保できます。治療中に照射部位に変化(浮腫や体重減少など)が現れた時は、固定精度が悪くなる場合があります。この様な場合は、合わなくなってきた場所を温め直して再形成したり、新たにシェルを作成して対応していきます。

頭頸部枕

頭頸部を安定させ、体位を維持するための補助具となります。シェルを作成する時に多く用いられます。様々な種類があるので後頭部や首のラインに形状が一致する枕を選択します。

吸引式固定具

バック内に発砲スチロールビーズが封入されており、バック内の空気を吸引すると硬化します。よって患者さんの身体にフィットした固定具が作成できます。主に体幹部の固定具として使用します。吸引式固定具は型崩れしにくく、エックス線低吸収で繰り返し使用が可能です。

上腕挙上固定台

乳房照射や肺などの照射時に使用します。両腕を挙げた状態で保持する固定具で、腕の挙げ方が毎回の照射時で同じになります。上腕位置を任意に調整し固定できるため、患者さんの腕挙げ体位の負担を軽減し安定させることができます。

下肢固定具

主に脊椎や前立腺、骨盤の照射時に使用します。下肢の固定具は患者さんの安定性や快適性を担保することができます。

以上、今回は一部の固定具について紹介をさせていただきましたが、その他、様々な固定具や補助具が存在します。いずれも患者ごとおよび照射部位ごとに適した固定具を使用する事で、照射精度が担保され高精度な治療が可能となります。当院においても患者さんの負担を可能な限り軽減させ、固定精度を担保し、精度の高い照射を行えるよう日々努力しております。

放射線治療認定技師 江川 俊幸

※1)IGRT:画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy)
X線画像や超音波画像等を利用して照射直前に照射位置の照合を行い、位置を修正しながら照射を行う技術 。

※2)IMRT:強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy)
専用のコンピュータを使用し、照射野形状を変化させたビームを複数用いて行う照射方法です。IMRTは腫瘍に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすことができるため、より強い放射線を腫瘍に照射することが可能になり、周囲臓器の副作用が軽減できます。

放射線治療室の朝


放射線治療室の1日の始まりはとても早く、朝から装置の精度管理が待っています。
昨今の放射線治療は以前に比べ、高精度な治療が可能になり、様々なシステムが備わっています。それらのシステムを正確に安全に使用するためには精度管理が重要で、必ず始業前に点検を行い、正常であるかを確認しています。
今回は当院の治療装置ならびに関連装置の始業前点検についてお話したいと思います。

1. 画像誘導放射線治療(以下IGRT)1)装置の正常動作チェック

画像照合が正しく行われているか、専用のファントムを使用し確認を行います。
治療寝台にファントムを置き、寝台を予め決められた量(左右方向:1.0cm、頭尾方向:1.4cm、高さ方向1.2cm)を移動させます。移動させた位置で治療装置付属のX線管球にてコーンビームCT2)撮影を行います。撮影した画像と中心位置の画像(予め装置に登録されている)を照合し、移動量と照合精度を確認します。

次に、IGRT装置の中心位置と実際の治療ビームの中心位置に相違がないか確認をします。先程の専用ファントムを使用し、IGRT装置側で求めた中心位置を治療ビームにて撮影を行い、ズレ量を求めます。(ここまでで、約30〜40分!)

★Check point

IGRT装置と治療装置の中心位置が仮にズレた場合にはIGRTの機能が信頼できなくなり、高精度な治療が行えなくなってしまいます。そのため治療前の確認は必須になります。

1)画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radiation Therapy)
IGRTとは2方向以上の二次元画像、三次元画像、または三次元患者体表面情報に基づいて治療時の患者位置変位量を三次元的に計測・修正し、治療計画で決定した照射位置を可能な限り再現する照合技術である。従来の放射線治療と比較し、標的に対して正確な照射が可能で正常組織への線量を低減することができる。

2)コーンビームCT(Cone beam computed tomography)
治療装置に付属の撮影装置(当院はXVI:X-ray Volume Imaging)を使用し、円錐状のビーム(コーンビーム)にて撮影するCTをCone Beam CT(CBCT)と言います。CTは通常、細いスリットビームで寝台を動かしながら撮影を行いますが、CBCTは円錐状に広がる放射線で撮影するため、寝台を動かさずに、一回で撮影することが可能です。

2. 照射に用いるX線や電子線の出力チェック

照射ビームのウォーミングアップ後、出力の確認を行います。
規定の線量(当院では100MU3))を照射し、専用の出力測定装置を用いて実測値(出力線量)を確認します。当院ではX線(4MV、6MV、10MV)、電子線(4MeV、6MeV、9MeV、12MeV、15MeV)の計8本に対し毎朝行っています。(この測定で、約30分!)

★Check point

出力のズレは規定値から±3%以内としています。それ以上のズレが生じた場合は、水ファントムを使用し本格的な出力の確認が必要になります。

3)MU:モニタユニット
照射線量の単位、通常1MU=1cGyになるように調整を行っている。つまり、100MUで1Gy照射される。

3. 治療寝台のチェック

当院では6軸補正が可能な治療寝台4)を導入しています。
専用のガイドを使用し、キャリブレーションならびに寝台面の水平確認を行っています。(約5~10分!)

4)6軸補正治療寝台
X、Y、Zの3軸以外に、回転方向のRoll、Pitch、Yawが補正可能。IGRTでの照射精度をより向上できる。

4. 治療計画CT装置のチェック

治療計画CT装置も始業前点検が必要になります。ウォーミングアップならびにキャリブレーションを行った後、専用QAファントムを使用し、中心位置とCT値に変動がないか確認をします。
治療計画CT装置は壁に取り付けられたレーザを基準として撮影を行うため、正確に装置中心へ移動しているかが重要です。
また、治療計画装置では体内の密度(CT値)を使用し線量計算をおこなうため、決められた密度(CT値)に相違があると正確な治療計画を行うことが出来ません。そのため、毎朝CT値の確認が必要となります。
当院で使用しているQAファントムには模擬組織が挿入されており、それぞれのCT値を確認することで日々の変動が確認できます。(約5~10分!)

この他、装置間の通信テストやその日の患者情報の確認等も始業前に行っています。
始業前点検には約1時間から1時間半ほどの時間を要しますが、重大な事故に繋がるエラーを未然に防ぐためには、必要不可欠であると思います。
安全で安心できる放射線治療を提供するために、私たち放射線治療に携わる診療放射線技師の大切な仕事のひとつと考え、装置管理に日々取り組んでいます。他にもまだまだ定期的に行わなければならない装置点検や精度管理等多々ありますが、その話はまた別の機会に紹介させて頂きます。

放射線治療 喉頭がんについて


今回は喉頭がんについて紹介します。
放射線治療は、放射線を照射することによりがん細胞を破壊し、消滅させたり、小さくしたりすることが目的となります。
がん細胞に正確に放射線を照射するため、頭頸部領域ではシェルという固定具(写真.1)を使用するのが一般的です。シェルを使用することにより、毎回の照射精度を向上させることができます。
頭頸部領域においての放射線治療の大きなメリットは、機能温存になります。喉頭がんの場合、外科的手術にて喉頭を切除しないため、声を出す機能を失うことがありません。早期の喉頭がんの場合、治癒率についても非常に高く、最近では放射線治療が第一選択となる場合がほとんどです。
放射線は正常な細胞にもダメージを与えますが、その影響をなるべく少なくするために、分割にて放射線を照射します。通常、治療にかかる期間は6〜7週間ほどになります。
がんの進行度により、放射線治療を単独で行う場合と、放射線治療と薬物療法を併用する場合があります。早期症例(TNM分類のT1~2,N0)では放射線治療が選択されます。
声門上部がんT1~2症例や声帯運動障害があり浸潤傾向の強いT2症例に対しては化学放射線療法あるいは喉頭温存手術が推奨されています。
T3~4症例では、大半が喉頭全摘となりますが、近年では患者のQOLを考慮し、可能な限り喉頭温存を図るべきとする考えになりつつあります。

1)放射線治療(単独)

早期の場合は放射線治療単独で行います。週に5回で計30回程度(約6週)の分割照射が一般的です(図.1)。早期の場合は放射線を照射する範囲が狭いので、皮膚の発赤や嗄声(声がれ)などの比較的軽い副作用がみられます。

2)化学放射線療法

化学放射線療法は、進行した喉頭がんに対して、薬物療法と併用して放射線治療を行う方法です。薬物を併用することにより放射線治療の効果を高めることができます。最近のメタアナリシスの結果でも、同時併用化学療法が照射単独に比較して有意に予後が良好であることが示されています。同時併用薬剤としては、シスプラチン単剤がエビデンスのある薬剤になります。
一方で、副作用は化学療法と放射線の両方の副作用により嗄声や音声障害、粘膜炎による嚥下障害、皮膚炎、骨髄抑制など放射線単独時より反応が強くでます。

●副作用について

放射線治療中や治療直後の急性期の副作用としては、皮膚の炎症による痛み(図.2)、口腔・咽頭・喉頭の粘膜炎による痛みがしばし見られますが、これは時間とともに回復します。
治療後数か月経って現れる晩期の副作用としては、唾液の出る量の減少や口腔乾燥、味覚障害、摂食・嚥下機能の低下等が出る場合があります。これらについては定期的な診察にて適切に対応して行きます。

­= 参考文献 =
金原出版 放射線治療ガイドライン2016 P113~117
集潤社 がん・放射線療法2017 P709~715
金原出版 放射線治療Q&A 日本放射線腫瘍学会編 P71~77

これでぴったりマッチング! 高精度照射を行う技術 IGRTとは?


当院の放射線治療室が立ち上がり10月でまもなく3年が経とうとしています。最近では、複雑な方向からの照射や高精度な治療がますます増えてまいりました。
今回は放射線治療を行うにあたって高精度に照射を行うためのIGRTという技術を紹介したいと思います。

IGRT

IGRTとは画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy)の略称で、照射の直前や照射中にX線画像やCBCT(Cone Beam CT)などの画像情報を利用して計画画像との位置のズレを数値化し、照射位置を修正しながら照射を行う高精度治療技術です。

各治療日における内臓の充満度の違いや呼吸に伴う内臓の動きなどにより、病巣位置が計画時のCT位置と比べ動く可能性があります。そこで、IGRTを行うことにより照射位置を補正し、正確に病巣に照射することができます。
位置の修正については骨を中心に合わせるのか、組織の濃淡値による臓器を中心に合わせるのかをそのときの状況で選択できます(図1,2)。
もちろん万能ではないので、最終的には位置照合結果の判断は医師によって行われる必要があります。また、IGRTを用いることによってわずかなズレを正確な位置に補正することは可能ですが、患者体位のねじれや大幅なズレを修正することは困難です。そのため、従来通りのレーザー照準器を利用した位置合わせによる患者体位の再現性が重要となってきます。

当院では、前立腺がんや肺がん、リンパ節転移や骨転移など多方向から複雑に照射を行う治療にIGRTを利用しています。さらに、IGRTを用いると定位放射線照射なども行うことができます。定位放射線照射とは、3~4cmの小さな病変に対してピンポイントで行う照射のことです。転移性肺がんや転移性脳腫瘍などに用いられる治療でIGRTが必要不可欠となります。
さらに、当院では6軸寝台を導入していますので、患者体位のねじれ補正を行うことができます。6軸寝台はIGRTでの補正時にX軸(左右方向)、Y軸(頭尾方向)、Z軸(腹背方向)の補正だけではなく、それぞれの軸における回転方向(pitch、yaw、roll)の補正を行いますので、通常の3軸寝台よりも精度の高い照射が可能になります(図3)。

放射線治療科 朝比奈先生がお届け! 診療室での1コマ


放射線治療医の朝比奈です。ここでは放射線治療科の診察室で普段どんな患者さんを見ているのか?どんな治療をしているのかを紹介していきたい思います。

症例:80歳 男性 前立腺がんの既往
6年前に前立腺がん cT4N1M0(膀胱浸潤、骨盤内リンパ節転移、傍大動脈リンパ節転移),iPSA225.6,GS 4+3=7と診断され、ホルモン療法にて治療されていました。その後PSA2台まで低下しましたが徐々に上昇し、何度かホルモン剤の変更を行っています。いずれも一時的にはPSAの改善を認めるもののその後漸増し、今年になりPSA 23.6まで上昇したためドセタキセル導入の方針となり入院されました。

入院中に排尿コントロールがつかずオムツをして生活していることが判明し、また両臀部から下肢にかけての強い疼痛(NRS10/10)と脱力・しびれの訴えもありました。CT・MRIで第5腰椎、仙骨、両側腸骨に骨転移を認めたため、緩和照射目的に放射線治療科に紹介されました。

初診時にCT・MRIを確認したところ、特に仙骨の骨転移は骨外腫瘤を形成しており仙骨の神経孔が塞がれているような状態でした。(図1,2)ご本人にお話を伺うと、だいぶ前から便や尿の感覚はなく、今は痛みと脱力で歩くこともできないという状態でした。仙骨の骨転移により神経圧排が症状の原因と考え、同日より3Gy×10回 30Gyの緊急照射を開始しました。

治療終了1か月後には左足にしびれが残るものの、痛みはほとんど気にならなくなり(NRS1/10)、つたい歩きや歩行器を使っての歩行ができるくらいに回復しました。(図3)

〇脊髄圧迫に対する緩和照射

骨転移による脊髄圧迫により麻痺やしびれ、膀胱直腸障害などの神経障害が出現した際、緩和照射を含めた早期の治療介入が良好な機能予後につながると考えられています。症状出現から緩和照射開始までのいわゆるゴールデンタイムのようなものは規定されていませんが、英国では患者来院から24時間以内に全脊椎MRIを撮影し、撮影後24時間以内に放射線治療を開始することを推奨しています。

実際日本では照射開始までどのくらいの時間がかかっているのでしょうか?
聖路加国際病院の研究によると発症から来院まで中央値で3日(0日-143日)、来院からMRI撮影まで1日(0-20日)、MRI撮影から放射線治療開始まで2日(0-19日)でした。日本においてもかなり迅速に対応できている印象ですが、さらに期間を短縮できるとすれば・・・やはり、発症から来院までの部分でしょう!適切な患者教育がなされれば、がんの転移によって歩けなくなる患者さんはさらに減るはずです。もし癌の既往がある患者さんが歩きづらさ、手足の動かしにくさなどを訴えていたら、一度CTやMRIなどの画像検査をお勧めされたほうが良いかもしれません。

緩和照射について


今回は、放射線治療の中でも重要な位置づけにある緩和治療について書かせて頂きます。
放射線治療では、がんを治す目的の「根治的治療」だけでなく、痛みや麻痺などをコントロールするための「緩和的治療」も得意としています。終末期医療というネガティブなイメージの強い緩和治療ですが、患者さんの肉体的・精神的な苦痛を和らげQOL(生活の質)を改善するために必要不可欠な治療となっています。
放射線治療が適応となる疾患や症状を次に示します。

・脳転移(転移性脳腫瘍)
・骨転移(転移性骨腫瘍)…疼痛、四肢の麻痺、痺れなど
・腫瘍による出血
・腫瘍による気道の狭窄・閉塞…呼吸困難など
・腫瘍による消化管の狭窄・閉塞(通過障害)、腸閉塞など

〇脳転移(転移性脳腫瘍)

癌や悪性腫瘍からの脳転移の割合はとても高く、中でも肺癌や乳癌、消化器癌等からの転移が多いとされています。脳転移の治療では、ステロイドなどの薬物を症状改善の目的で用いることがありますが、ほとんどの抗がん剤は脳組織と血管との間にある障壁(血液脳関門 Blood-brain barrier:BBB)にはばまれ、脳に行きわたらないので通常は放射線治療が有利となります。
放射線治療の目的は、転移巣を縮小させたり、神経症状や頭蓋内圧亢進症状を和らげ、患者さんの生活レベル(QOL)を維持したり改善させたりすることを目的に行います。

【放射線治療方法】
転移巣が多発の場合は、全脳照射が適応となります。脳全体に3Gy/day×10回が標準的です(図1)。転移の最大径が4cm未満で転移が少数の場合は定位的放射線治療が選択されます。高線量で1回から5回の治療を行います(図
2)。放射線治療により60〜80%で症状が改善され、定位的放射線治療では60〜90%に局所制御が得られると言われています。

〇骨転移

骨へ転移したがん細胞は痛みや骨折、脊髄圧迫などの様々な症状を引き起こします。なかでも骨痛の頻度はとても高く、患者さんのおよそ7~8割が強い痛みを経験すると言われています。骨転移の放射線治療は、転移による疼痛緩和が目的となります。副作用も少なく、通院による照射も可能で、QOL(生活の質)の維持・改善にとても重要な位置づけとなっています。 放射線治療により約8割以上の患者さんに疼痛の改善の効果が認められます。その効果は人により様々で、早く出る方もいますが治療後に現れる方もいます。つまり、放射線治療は即効性のある治療法ではないため鎮痛薬との併用治療が有効となります。
多発性の骨転移に対しては、メタストロンという放射性物質を利用した内服放射線治療が有効であると言われています。

【放射線治療方法】
通常は痛みのある骨に対し、30Gy/10 回/2 週や20Gy/5 回/1 週などの分割照射が選択されます(図3)。また、痛みがとても強い場合には8Gy×1回照射が選択されます。この照射は通常の分割照射と同等の疼痛緩和効果が期待できると言われています。骨転移に対する放射線治療は、痛みが進んだ状態での治療では無く、可能な限り早めの段階で行う方が良いとされています。

参考文献
日本緩和医療学会 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 金原出版株式会社
日本放射線腫瘍学会 放射線治療計画ガイドライン2018  P355〜P369 金原出版株式会社
がん放射線療法2017  P1182〜P1220 秀潤社

放射線治療認定技師 江川 俊幸

シリーズ 放射線治療適応について ケロイド


放射線治療の適応疾患として、今回はケロイドについて紹介します。
ケロイドとは瘢痕組織が過剰に増殖した病変で、良性線維増殖性病変に分類されます。原因は明らかになっていませんが、体質的な要素が強いようです。手術後のケロイドや、ピアス後のケロイド、ニキビ跡のケロイドなど様々なケースがあります。しかし、いずれも誘因は傷です。
ケロイドの治療方法は、飲み薬、塗り薬、はり薬、注射、レーザーなど手術をしない方法が一般的ですが、ひきつれ(瘢痕拘縮)や痛み、かゆみ、目立つところで醜状が問題となれば、手術が選択されます。しかし、ケロイドは従来から安易に手術してはいけないとされてきました。なぜならケロイドを楕円形に切り取って縫い縮めると、少し長めの直線の傷となり、もしそこから新たなケロイドや肥厚性瘢痕が再発すると、以前より大きなものになってしまうからです(図1)。

そこで現在は、できる限り再発しないような縫い方の工夫をし、さらには放射線療法を併用することで、これらの問題を解決する事が出来るようになりました。傷跡を完全になくすことは難しいですが、極力目立たなくすることは可能になってきています(図2)。

http://www.nms-prs.com/original6.htmlより引用

〇ケロイドの放射線治療

悪性腫瘍などは体表から深いところにあるため、X線を用いますが、ケロイドは体表面に存在するため、表在X線または電子線を使用します(現在は電子線が主流)。
放射線治療の目的は、ケロイドの原因である線維芽細胞の異常な働きを抑えることです。
照射は術後早期に開始する方が良いとされているため、術後当日もしくは翌日には照射を開始します。創傷は被覆材で術創を被い、創傷部から5~10mmのマージンを加えて照射範囲とします。照射する形状が人それぞれ違うため、患者さんごとに鉛板で照射野形状を作成します。使用するエネルギーは2~6MeVの電子線で、15〜20Gy/3〜4回でおこなうのが一般的です(図2)。
放射線治療による合併症は、照射野内の色素沈着がありますが、時間が経過すると共に徐々に消失していきます。

当院でもケロイドの放射線治療が可能です。先生のご施設でケロイドに悩んでいる方がおられましたらご紹介頂ければと思います。少しでも患者様の精神的苦痛緩和のお手伝いができればと思います。

甲状腺眼症


甲状腺眼症とは甲状腺機能亢進症に関連した眼窩内の炎症に伴う症状のことをいいます。
外眼筋の肥大と眼窩脂肪の増量をきたし、複視や眼球突出等が引き起こされます。その他の症状としては眼瞼の浮腫、流涙、眼痛等があります。炎症が高度な症例ではCTやMRI でも外眼筋の肥厚や脂肪組織の増加が容易に確認できます。

〇治療方法について

治療法は重症度に応じて選択されます。軽度の場合は甲状腺機能を正常に保ちつつ禁煙や点眼などによる保存的な治療を行う場合が一般的です。中等度から重症の症例に対しては放射線治療が選択されます。また、ステロイドも同様に有効とされ、ステロイドのみの治療での奏効率は50~70%、ステロイドパルス療法(静脈内投与)と放射線治療の同時併用では90%を超える奏効率が報告されています1,2。
甲状腺眼症は喫煙により治療効果が落ちるという報告もあるため、禁煙が望ましいとされています。
放射線治療の目的は急性期症状の改善と再燃の予防です。この疾患に関しては良性腫瘍であり、照射の目的は症状緩和になります。眼窩内に浸潤したリンパ球に対して直接作用し、そのリンパ球が誘因の症状を抑制します。
放射線治療とステロイドの同時併用は、急性期でかつ症状が顕著な場合に特に有効です。慢性期に入ると眼筋の線維化が著明となり、眼球運動制限をきたすことがありますので、このような場合には眼窩減圧術、外眼筋手術、眼瞼手術等の外科的治療が有効となります。

〇放射線治療について

放射線治療を始めるにあたり、シェルと呼ばれる固定具を患者さんに合わせて作成します(写真1)。
シェル作成後CTを撮影し、得られた画像から3次元的に治療計画を行います。治療計画の際は照射部位およびリスク臓器の位置関係を十分考慮し照射範囲を決定します。
照射方法は通常4~6MVのX線を用いて側方からの2門照射で行います。照射のビーム軸を傾けるなどして水晶体の防御に配慮します。線量は2.0Gy/day×10回(5回/週で行う)合計20Gyが標準的な線量となります(写真2:次ページ)。

放射線治療の合併症としては、照射線量が少ないため重篤な有害事象は少ないですが、晩期有害事象として白内障が起こる頻度が多くなります。治療計画の段階で十分考慮しますが、もし白内障を発症してしまった場合でも水晶体手術で治療が可能です。ただし放射線網膜症については注意が必要で、20Gyという線量での発症は稀ですが、高血圧や糖尿病を合併するリスクが高く、特に糖尿病については禁忌とする場合もあります。
放射線治療により、眼瞼の浮腫や眼球突出等の症状改善は照射中に認められてくる場合もありますが、多くの場合、照射終了後1〜2 カ月くらいで効果がみられ、安定するのに6カ月以上かかるとされています(写真3,4)。

参考文献
1)Tsujino K, Hirota S, Hagiwara M, et al . Clinical outcomes of orbital irradiation combined with or without systemic high-dose or pulsed corticosteroids for Graves’ ophthalmopathy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 48:857-864, 2000.
2)Marcocci C, Bartalena L, Tanda ML, et al. Comparison of the effectiveness and tolerability of intravenous or oral glucocorticoids associated with orbital radiotherapy in the management of severe Graves’ ophthalmopathy:results of a prospective, single-blind, randomized study. J Clin Endocrinol Metab 86:3562-3567, 2001.