身体の中から狙い撃ち!? ― 内用療法(核医学治療)について ―


内用療法(核医学治療)とは?

体内に投与(静脈注射、経口)した放射性同位元素(アイソトープ:RI)やこれを組み込んだ薬剤を用いた放射線治療で、核医学治療・RI内用療法・RI治療とも言われています。
現在、日本で保険収載されている内用療法は4つほどあります。

1 骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん治療(塩化ラジウム注射液、ゾーフィゴ®静注)
2 骨転移疼痛緩和治療(塩化ストロンチウム注射液、メタストロン®注)
3 甲状腺癌に対する術後アブレーション
4 バセドウ病に対する内用療法

これらの4つに関して紹介させて頂きます。

1.去勢抵抗性前立腺がんの骨転移治療

ゾーフィゴ®静注という放射性医薬品を静脈注射して治療を行います。

ゾーフィゴ®静注とは?
ゾーフィゴ®静注には、α線を放出する223Ra(ラジウム)という放射性物質が含まれています。この223Raには骨成分であるカルシウムと同様に骨に集積しやすい性質があり、静脈注射で体内に送られると代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く運ばれます。そして、そこから放出されるα線が骨転移したがん細胞の増殖を抑えます。(下図)
こうした作用により、骨転移した去勢抵抗性前立腺がんに対して治療効果が期待できる放射性医薬品です。

2.骨転移疼痛緩和治療のメタストロン®治療

メタストロン®注という放射性医薬品を静脈注射して治療を行います。

メタストロン®注とは?

メタストロン®注は、がんの骨転移による疼痛緩和を目的とした治療用の放射性医薬品です。この薬はβ線を放出する89Sr(ストロンチウム)という放射性物質が含まれています。この89Srには骨成分であるカルシウムと同様に骨に集積しやすい性質があり、骨転移部では、正常の骨より長く留まり、その部位に放射線があたることにより疼痛緩和が期待できると考えられています。

3.甲状腺癌に対する術後アブレーション

放射線ヨウ素甲状腺乳頭癌および濾胞癌が治療の対象となります。

アブレーションとは?

放射性ヨウ素(131I)という放射性物質が含まれたカプセルを内服します。ヨウ素が甲状腺に集積する性質を利用して、甲状腺に取り込ませ、放射性ヨウ素から放出されるβ線により破壊することをアブレーションと言います。
甲状腺癌により甲状腺全摘術によって病巣をすべて取り除くことができたと判断された場合でも、わずかに残存していることがあります。これにより、甲状腺癌の再発や他部位への転移を予防する目的でアブレーションを行います。

4.バセドウ病に対する内用療法

バセドウ病には薬物療法、手術療法とアイソトープ治療(内用療法)があります。

アイソトープ治療とはどのようなことをするの?

放射線ヨウ素を含んだカプセルを内服します。ヨウ素が甲状腺に集積する性質を利用して、甲状腺に取り込ませ、放射性ヨウ素から放出されるβ線により組織を破壊し、甲状腺を小さくしてホルモンを産生する力を弱くする治療法です。

これらの4つの内用療法の内、代表的なゾーフィゴ®静注とメタストロン®注の開始に向けて放射線治療科の朝比奈先生を筆頭に核医学チームで準備を進めております。今後の進捗状況や、内用療法が実際に運用を開始した際にはまた改めてお知らせします。

参考文献)
・バイエル薬品株式会社「知っておきたい治療のお話と治療中の注意点」
・日本メジフィジックス株式会社「メタストロン注(ストロンチウム-89)の治療を受けられる患者さんとご家族の方へ」
・富士フィルムRIファーマ株式会社「外来アブレーションをお受けになる患者さんへ」、「バセドウ病アイソトープ治療Q&A」

ダットスキャン(DAT-Scan)がまた一歩前進します ~「DAT View」のバージョンアップ御報告~


ダットスキャンの解析アプリケーションソフトである「DAT View」がこのたびバージョンアップされました。今回はバージョンアップで新たな展開を迎えることができたので、その経緯と内容につきまして簡単に紹介させていただきます。

<DAT Viewとは?>

「DAT View」ではダットスキャンのSPECT画像の解剖学的標準化および正規化を行い、使用RI(123I-Iofulpan)の線条体への集積と線条体以外の脳実質への集積比を指標として算出します。SBR(Specific Binding ratio)と定義され、投与された放射性医薬品(DATスキャン:123I-イオフルパン)の線条体への集まり具合を数値化して評価する方法で線条体以外の部分、すなわちバックグラウンド(BG)を1とした場合の線条体の集積比を数値とします。線条体全体の集積が下がると疾患として有意であるとされています。また左右の尾状核や被殻への集積差について神経症状との関連も評価を行っています。

<正常データベースを利用した評価が可能に!>

「DAT View」のSBRについては基準値等につき広く検討されてきましたが、昨今特に高齢者について年齢の増加によるSBRの低下の報告が多数挙がり、各年齢群にて健常者のSBRを求める研究が課題とされてきました。今回そのような背景を踏まえ、「DAT View」のSBRについて年齢群に応じた基準値を正常データベースに照らして評価する方法が新たに加わりました。さらに年齢群のデータベースを活用するに至り、国立精神神経医療センターで有するデータに対して共通のファントムによる収集を行って相関を求める機器間補正を行い、国立精神神経医療センターのデータベース活用が可能となりました。
年齢群の平均値とZ-Scoreの上限下限をプロットすることで求められたSBRが年齢群に対して正常の範囲にあるか否かを判定することが可能となります。実例を紹介します。

今回「DAT View」のバージョンアップを経てダットスキャンによる診断は一歩進んだステージを迎えました。また新しい展開がありましたら、ニュースレターの場をお借りしまして紹介させていただきます。

核医学専門認定技師 荒田 光俊

脳血流SPECT統計解析ソフトウェア (e-ZIS) が新しくなりました


e-ZISとは

脳神経関連疾患の核医学検査には脳血流をみるもの、物質代謝をみるもの、交感神経を見るもの等あります。CTやMRIと比較してもやもやとしていてわかりにくいSPECT画像ですが、軽微な所見を拾い上げまた客観性が保たれるような指標となる数値データを算出できることが特徴となります。中でも脳血流SPECT検査においては、SPECT画像のみでは脳のどの部分の血流が軽度低下しているのかを判断しにくいため、たくさんの正常患者のデータを集めて(正常データベース)それと比較することで血流の低下している場所をわかりやすくしています。
そのための解析ソフトのひとつがe-ZISと呼ばれるソフトウェアです。初期のアルツハイマー型認知症に関して血流低下がみられる部位、血流低下領域の割合などを数値化したZ-Scoreと呼ばれる指標を算出しています。

AD(Alzheimer’s disease)とDLB(レビー小体型認知症)の鑑別は?

先生はCingulate island signというサインをご存知でしょうか?これはPET検査においてADとDLB患者においてDLBのときは後頭葉の糖代謝の低下が見られる一方、後帯状回の糖代謝が相対的に保持されることが多く、結果として後帯状回が海に浮かぶ島のように写ってくるというものです1) これについてはDLBの臨床診断基準2017改訂版に支持的バイオマーカーの所見の一つとして位置づけられています。2)

上記はPET検査での所見ということでしたが、最近の報告によると脳血流SPECT検査でも同様な傾向を見ることができるそうです。(図1)3)

新指標「CIScore」を新たに算出

今回新しくなるe-ZISではSPECT画像において、この後頭葉と後帯状回の領域について関心領域(VOI:Volume of interest )を設定し、その割合をScore化して表示できるようになりました。CIScoreという指標になります。

(図2、図3)

参考文献:
1) Lim SM et al. j Nucl Med.2009; 50: 1638-1645.
2) Mckeith IG et al.Neurology.2017; Jun 7.[ Epub ahead of print]
3) Imabayashi E et al. EJNMMI Res.2016; 6: 67. (http://creativecomons.org./licenses/by/4.0/)
*写真は富士フイルムRIファーマ株式会社eZIS配布資料より抜粋いたしました。

 

実際のe-ZIS結果表示例
(DLB疑いで行われた脳血流SPECT症例)

Z-Scoreを表す標準脳との重ね合わせ画像において、後頭葉を中心とした血流低下を反映したZ-Scoreが、CIScoreVOI1(水色枠)の中に抽出されており、一方の後部帯状回を中心としたVOI2(赤枠)内では後帯状回の血流が保持されZ-Scoreは抽出されておらず、結果としてCIscoreは0.06と算出されています。

新しいデータベースも追加されます

従来より算出されているZ-Scoreに関してもアップデートされ正常データベースの追加があります。今までは70歳代までの正常データベースしかなかったのですが、新たに80歳代の正常データベースも追加されました。
認知症関連疾患については判断が難しいものと思われますが、このようなソフトウェアによる指標が客観性のある診断の材料となればと思います。

 

核医学画像診断における 「サイン」 とは?


核医学診断は目的とする臓器や組織の何を知りたいかにより検査方法や投与される放射性医薬品が全て異なるという特徴についてこれまで何回か触れる機会がありました。
それぞれの医薬品が多く集まる、集まりが少ないなどで臨床情報を捉えていますが、集まり方が特徴的なものについては「○○サイン」として診断に有用な情報となります。今回は「サイン」の入門編という形で、骨シンチグラムやガリウムシンチグラムなどの画像診断における「サイン」をご紹介させていただきます。

核医学認定技師 荒田光俊

脳血流SPECT:統計解析による診断のポイント その3 ~アルツハイマー病におけるZ-Scoreによる評価~


Z-socoreとは(前回の復習)

当院で使用されている脳血流統計解析ソフトeZISではZ-Scoreという数値(指標)を使用します。
Z-Score=(正常群平均Voxel値―症例Voxel値)/(正常群標準偏差)
で表されます。すなわち血流低下が大きいほどZ-Scoreは大きくなります。また一定のZ-Score以上の領域を投影することで臨床上有意な血流低下各領域を抽出することが可能になります。
ここまでは前回お話しさせていただきました内容です。

アルツハイマー病におけるZ-Scoreについて

今回は99mTc-ECDを使用した脳血流SPECTを統計解析ソフト「eZIS」で処理を行った画像につき、アルツハイマー病におけるZ-Scoreの話をさせていただきます。アルツハイマー病では、その前駆期には後(部)帯状回から楔前部に血流低下がみられ、さらに頭頂葉皮質で血流低下が顕著な例は、進行が早いとされています。1)
前回の話で取りあげた部位と機能をもう一度下記に示しますが、下線部の3ヶ所に焦点を設定します。
海馬 … 主に記憶を作るところであり、特に新しい記憶に関係があります。
後(部)帯状回 … 空間認知や記憶などに関係があります。
頭頂葉 … 言語による表現、行動、空間認知などに関係があります。
楔前部(せつぜんぶ) …感覚情報、 記憶などに関係があります。
前頭葉 … 行動をおこすこと(運動・意思など)に関係があります。

統計解析ソフト「eZIS」では脳血流SPECT画像における全ての画素(ボクセル)にZ-Scoreを算出しておりますが(図1)、後(部)帯状回、楔前部、頭頂葉を疾患特異領域として関心領域を設定し、領域内のZ-Scoreについて以下の指標や割合を算出しています。(図2.3)

Severity
疾患特異領域の血流低下程度(Severity)は疾患特異領域内のZ>0のみのZ-Score平均であり閾値を1.19としています。
Extent
血流低下領域の割合(Extent)は疾患特異領域内のZ≧2のボクセルの割合を示し、閾値は14.2%としています。
Ratio
疾患特異領域と全脳の血流低下領域の割合の比較(Ratio)は全脳の血流低下を1とした場合での比較で、閾値は2.22倍となっております。こちらは他の領域での血流低下が大きいと閾値を下回る結果を伴うことが多々あります。

参考文献:1)松田博史:SPECTにおける画像棟計解析(画像診断 2003:23:1296-1309)

次回は認知症疾患に加えて他の神経疾患も含めて「eZIS」画像をより詳しくお話しさせていただく予定です。 (核医学専門技師 荒田 光俊)

脳血流SPECT:統計解析による診断のポイント:その2~血流低下の大きさ・部位を可視化する~


解剖学的標準化(前回のおさらい)

前回では脳血流SPECT画像を解剖学的標準化により標準脳に変換し、血流低下部位をMRIモデルに投影するところまでを紹介させていただきました。(図1)

図1

CBFpart2ふきだし

血流低下の大きさ・部位を可視化する

Z-Scoreという指標

前回でも触れさせていただきましたが、脳血流SPECTは局所の脳血流量に応じて分布するトレーサーを用いて検査を行います。脳血流がある部位で正常よりも血流が低下していれば、その場所の脳機能が低下していると考えられます。通常はSPECT画像を視覚的に判断しますが、精神疾患や神経変性疾患の初期では脳血流量の低下は僅かなものが多く、判断に困難を極めることが多々あります。また正常の血流分布は年齢群によって変わるため、ある部位で実際に血流が低下している場合でも年齢によって正常と捉えられてしまうことがあります。1)
ポイントは脳血流SPECTで血流の分布に応じてカウントが得られることを踏まえ、

①特定の場所で
②同年齢(群)の正常の平均に比べて
③どの程度カウントが低下しているか

を評価する数値や指標が必要となります。
当院で使用されている脳血流統計解析ソフトeZISではZ-Scoreという数値(指標)を使用します。
Z-Score=(正常群平均Voxel値―症例Voxel値)/(正常群標準偏差)
で表されます。すなわち血流低下が大きいほど症例Voxel値は小さいため、分子が大きくなりZ-Scoreが大きくなります。また一定のZ-Score以上の領域を投影することで臨床上有意な血流低下各領域を抽出することが可能になります。

今回は99mTc-ECDを使用した脳血流SPECTを統計解析ソフト「eZIS」で処理を行った画像につき、代表的な3つの認知症について紹介させていただきます。Z-Score>1.0のものをMRIモデルに投影することで、その部位の血流低下の有無、低下の程度が把握しやすくなります。

まず、認知症画像診断で注目される場所と疾患を図2に示します。(この中で主な場所の働きは以下のようになります。)

CBFpart2図2

1)アルツハイマー型認知症(AD)

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞と神経細胞の間にシミのような老人斑(アミロイド斑)の出現により、脳が萎縮します。新しいことを覚える機能を障害されることが多いので、出来事自体を忘れてしまい、日常生活に支障をきたします。
アルツハイマー型認知症の脳血流SPECT画像の特徴としては①後帯状回から②楔前部および側頭頭頂葉皮質の血流低下が見られます。(図3)
またアルツハイマー型認知症の進行の程度についても、eZISによる統計処理画像にて把握することが可能となりました。(図4)

CBFpart2図3.4

2)レビー小体型認知症(DLB)

レビー小体型認知症とは脳の内部に異常なたんぱく質(レビー小体)が蓄積して神経細胞が障害されて起こる認知症です。はっきりした幻視、被害妄想、抑うつ症状がみられます。同じくレビー小体が原因となるパーキンソン病と似た症状があり、手足が震える、身体の動きが遅くなる、歩幅が小さくなるという症状も観察されることがあります。
脳血流SPECT画像の特徴として、アルツハイマー型認知症と同様に①帯状回から②楔前部および③側頭頭頂葉皮質の血流低下、に加えて④後頭葉皮質の血流低下が見られます。(図5)

CBFpart2図5

3)前頭側頭葉型認知症(FTD)

脳の前頭葉が萎縮して起こる認知症で、アルツハイマー型認知症のような記憶障害が初期には見られないのが特徴です。認知症状として社会的なルールを無視するような行動が見られ、行動的な特徴として好みの変化、同じ言葉の繰り返し、毎日同じ食べ物だけを好んで摂る、毎日まったく同じ時間に同じ行動をとる、などがあります。一緒に生活している人は、まるで別人がいるように感じるほどです。このような症状が出ていても、最近のことをきちんと記憶している人がいます。ピック病と呼ばれる場合もあります。
FTDの脳血流SPECTでは前頭葉、側頭葉の血流低下が特徴的です。(図6)

CBFpart2図6

今回は誌面の都合でここまでの紹介とさせていただきますが、詳しくは富士RIファーマ株式会社HP(http://fri.fujifilm.co.jp/index.html)内「撮って診る!!認知症」のコーナーにてとても分かり易い案内があります。御参照いただければ幸いです。
次回はアルツハイマー型認知症をZ-Scoreの数値を更に評価する方法について、より詳しく説明したいと思います。

参考文献:1)松田博史、朝田隆:ここが知りたい認知症の画像診断(2014.10 harunosora)

(核医学専門技師 荒田 光俊)

脳血流SPECT:統計解析による診断のポイントその1 ~統計解析の仕組み~


日頃脳血流SPECT(図1)の検査依頼いただき、厚く御礼申し上げます。脳血流SPECTの統計解析は認知症および神経疾患における核医学診断では標準的手法として恒常的に施行されております。

図1:spect
図1:spect

そこで今回は脳血流SPECT画像を統計解析する流れを紹介させていただきます。
当院では脳血流SPECT検査におきましては
・99mTc-ECDでは「eZIS」(図2)
・99mTc-HMPAOでは「iSSP」(図3)
という統計解析ソフトを使用し、脳外科依頼を含めて全ての脳血流SPECT検査に統計解析を行います。

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統計解析による手法とは~正常画像との比較~

・各年齢群におけるノーマルデータベースと比較

統計解析による手法は個々の脳血流SPECT画像につき、同年齢群の正常データベースと比較して血流が低下している部位を探し出す方法です。「同年齢群」という表現ですが、年齢毎に正常での脳の血流分布は異なります。そこで例えば55歳なら51~60歳の正常例の脳血流分布との比較、75歳なら71~80歳の正常例の脳血流分布との比較というくくりで解析を行うことになります。最近は高齢化に伴い、80歳代のノーマルデータベース(NDB)も追加されています。(図4)

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*同一年齢群と異なる年齢群で統計解析した場合の違い

年齢とは異なる年齢群のデータベースで解析を行うと違った結果をもたらすので注意が必要です(図5)。

NDBの違いによる解析結果の変化
図5:NDBの違いによる解析結果の変化 80歳代のノーマルデータベースを用いて比較すると後部帯状回の血流低下が明瞭に描出されています。

・標準化してから正常脳に重ねあわせます

もちろん脳血流SPECT画像について皆それぞれ血流分布はもとより、形状や大きさはそれぞれ少しずつ異なります。そこで個々の画像を一定の形に変換する「解剖学的標準化」という作業を行います。これにより、脳の大きさの差異、左右の歪みなども一定の形に置き換えることが可能になります。一方で正常データベースで得られた脳血流分布も同様に「解剖学的標準化」することで、個々の場所での血流分布を比較することが出来ます。

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次回は血流低下部位を抽出する仕組みについてお話しさせていただきます。

(核医学認定技師 荒田 光俊)

 

3年目の「脳DATスキャン」


脳核医学画像診断「脳DATスキャン」:ドーパミントランスポータシンチグラフィー(図1)については当院でも検査開始から3年目へ突入しました。最近では幾つかのご施設から検査依頼の御紹介いただき厚く御礼申し上げます。
3年目に入った節目として、改めて脳DATスキャンのおさらいをしてみます。

1)基本原理

①神経伝達物質であるドパミンはシナプス小胞に包れ、シナプス間隙に放出されます。

②放出されたドパミンはドパミン受容体に結合し、信号が神経細胞に伝達されます。

③シナプス間隙のドパミンはDATにより再取り込みされ、シナプス小胞に貯蔵されます。

④ドパミン神経の変性・脱落がみられるPDでは、ドパミン神経の減少とともにDATが減少します。

下記図1にて健常例とパーキンソン病例を提示します。

DAT1

2)画像評価

①視覚評価

線条体部位の形状を評価します。検査開始当初は線条体への集積が正常では「勾玉(まがたま)」、「三日月」「カンマ」、異常では「ドット」かという見分け方が典型とされていました。(図2)

DAT2

最近では左右の対称性、非対称性も視覚評価のポイントとして重要視され、特に被殻後部から集積低下が始まることが着目されています。(図3)

DAT3

②定量的評価

投与された放射性医薬品(DATスキャン:123I-イオフルパン)の線条体への集まり具合を数値化して評価する方法で線条体以外の部分、すなわちバックグラウンド(BG)を1とした場合の線条体の集積比をSBR(Specific Binding ratio)と称す数値とします。現在、全国的に「DATView」という解析ソフトウェアが広く使用されております。前の視覚評価で取り上げた左右の集積比であるAIという指標も作成しております。(図3)

DAT3.2

3)DATスキャン:3年目の現場の取り組み

この4月に従来の「DAT View」を含む核医学解析ソフト「隼」を導入し、新たな展開を迎えようとしています。

従来の「DAT View」では構成する断面をAC-PCラインに合せて再構成していましたが、実際のSPECT断面からAC-PCラインを同定するのはかなり困難な作業でした。(図4)

DAT4

新規ソフトウェアの導入にて「Assist AC-PC」という機能が加わり、これまで困難であったAC-PCラインの自動同定によって処理作業の煩雑さが解消され、併せて処理解析による誤差も解消しております。(図5)

DAT5

現在、神奈川県内13施設において同一の最新型線条体ファントムを用いた多施設共同研究が展開されております。施設および機器による測定誤差等を解析し、施設間差を是正する標準化作業の一環として取り組んでおり、当院も参加させていただいております。3年目を迎え、より正確な検査が出来るよう、今後とも様々な点からアプローチして行く所存であります。(核医学認定技師 荒田 光俊)

*神奈川県線条体ファントム多施設共同研究参加施設

東海大学医学部付属病院、北里大学病院、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学藤が丘病院、横浜市立大学横浜市総合医療センター、横浜市立大学医学部附属病院、新百合ヶ丘総合病院、、帝京大学溝口病院、横浜みなと赤十字病院、川崎市立川崎病院、済生会横浜市東部病院、関東労災病院、横浜栄共済病院

 

あらためて考える「SPECT」の意義・その1


核医学検査で「SPECT」という言葉を耳にすることがあると思われます。「SPECT」はSingle Photon Emission CTの略で核医学ガンマカメラの撮影手技のひとつであり、X線CTなどと同様の断層撮影です。脳血流や心筋シンチグラムではこの手技が第1選択となります。一方で骨シンチグラムやガリウムシンチグラムでは全身像や局所の撮影は従来から第1選択であり、必要に応じてSPECT撮影を追加します。当院の実際としては、これらの検査においてはほぼ全例SPECT撮影を行っております。また腎レノグラムや唾液腺シンチグラムなどに代表される放射性医薬品を投与された後の経時的画像収集検査においても、SPECTは追加項目の検査になる場合があります。
唾液腺シンチグラムは過テクネチウム酸ナトリウム溶液(99mTcO4-:パーテクネテート)を投与し唾液腺への集まり具合やクエン酸刺激への反応を観察する検査です。シェーグレン症候群に代表される唾液腺分泌機能を評価する検査が唾液腺動態シンチグラムです。一方、唾液腺腫瘍などでWartin腫瘍や多形腺腫などの判別を目的として行う検査として唾液腺形態シンチグラムがあります。Wartin腫瘍や多形腺腫では投与された放射性医薬品は正常唾液腺と同様に必ず集積しますが。クエン酸刺激に対しては正常唾液腺が分泌排出されて唾液腺への集まりが低下するのに対し、Wartin腫瘍や多形腺腫では刺激に反応せずにそのまま留まっていることが判別のポイントとなります。
唾液腺形態シンチグラムではパーテクネテートを投与後、10分前後、20分前後、30分前後、40分前後で正面像、左右側面像の局所撮影を行います。20分での撮影を終えた後、クエン酸刺激反応を観察するためにレモンキャンディーを舐めていただきます。20分前後/30分前後の画像の差異を検討するのには正面像が従来重要視されて来ましたが、当院ではクエン酸刺激を行う直前にSPECT収集を行い、刺激後30分前後の局所撮影を行った後に続けて再度SPECT収集を行います。
下記は右耳下腺腫瘍疑いで施行された一例です。投与後20分の正面像撮影(図1)を行い、その後SPECT撮影を実施しております(図2)。クエン酸刺激後に投与後30分の正面像撮影(図3)を行い、その後同様にSPECT撮影を実施しております(図4)。正面像の比較でクエン酸刺激前後のある程度の判別は可能ですが、目的部位の実際の集積についてはSPECTを追加することによって、より鮮明になってきます。
経時的な撮影を行っている上でのSPECT撮影を組み込むので以前のガンマカメラではSPECTを収集する時間の確保がままなりませんでしたが、現在のガンマカメラでは「分解能補正+OSEM (Ordered Subset Expectation Maximization)」という画像再構成手法で短時間の収集(7分程度)でも鮮明なSPECTイメージを得ることが容易となったことでプロトコルが達成されています。次回は「分解能補正+OSEM」についてお話することにしましょう。

図11

脳DATスキャンのご紹介


パーキンソン症候群およびレビー小体型認知症の画像診断が可能になりました

脳核医学画像診断の最新の話題として、パーキンソン症候群およびレビー小体型認知症を対象とした検査名「脳DATスキャン」:ドーパミントランスポータシンチグラフィーを紹介させていただきます。

2014年1月27日(月)より(株)日本メジフィジックスより「ダットスキャン静注」(123I-イオフルパン:123I-FI-CIT)の販売開始となり、当院でも検査を開始しております。

本製剤ではパーキンソン病(PD)およびレビー小体型認知症(DLB)にみられる黒質線条体ドパミン神経の変性・脱落を評価するために、黒質線条体ドパミン神経のターミナル(終末)に高発現している、ドパミントランスポーター(DAT)の結合能の評価をターゲットとします。ゆえに黒質線条体ドパミン神経の変性・脱落により、本製剤の線条体への集積は低下することで

①臨床的に診断が確定しないパーキンソン症候群患者において,特発性パーキンソン病に関連するパーキンソン症候群,多系統萎縮症,及び進行性核上性麻痺と本態性振戦(ET)の鑑別診断

②レビー小体型認知症(DLB)と推定される病態とアルツハイマー型認知症(AD)の識別診断

が期待されます。

線条体への集積は年齢ごとに減少していくとの報告もあり、脳血流の統計解析手法と同様に今後解析方法等の更なる開発は進んで行くと思われます。21世紀の脳核医学診断の第一弾としてご紹介させていただきました。

図1