知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎 ⑧乳がんの自覚症状


乳腺外来ではどんな患者さんが来られる?

乳腺外来にはしこりなどの自覚症状を訴える方や、検診(自治体の検診、職域健診、人間ドック)等で要精密検査判定を受けた方が受診されます。
受診された患者さんは、問診、視触診、マンモグラフィー、超音波検査を受けていただきます。これらの基本検査で所見があった場合に、所見に応じてMRI検査、細胞診、生検等をご案内します。では乳がんの患者さんはどのような契機で乳腺外来を受診するのでしょうか。

乳がん患者さんの発見契機について

日本乳癌学会では2004年度から全国乳癌登録が行われています。全国の2016年度の年次集計によると、95,257名の乳がん患者さんのうち、自己発見が約半数、検診から発見されて来られるのは約3割と報告されています(図1)。
検診(検診、ドック等を含む)は本来自覚症状がない方を対象にしておりますが、検診を契機に発見される方の中で自覚症状を持ちながら検診を受ける方が少なからずいらっしゃいます。この統計では検診を契機に発見された乳がん全体(32,627名)のうち6,243名が症状がありながら検診を受けています。検診発見乳癌の約2割にのぼります。

乳癌患者さんの「自覚症状」

2006年〜2009年に当院で手術を行った乳癌患者さん235例の受診契機を調査をしました。自覚症状があったのは149例(63%)でした。
自覚症状の中では腫瘤触知が一番多く、
血性乳頭分泌 16例(10%)
乳頭陥凹 3例(2%)
乳頭びらん 1例(0.6%)と続きます。
乳房痛のみが唯一の症状である患者さんは6例(4%)でした。

乳がん検診受診者の「自覚症状」

今度は乳がん患者さんではなく、横浜市の乳がん検診受診者の問診票からみた自覚症状をみてみましょう。
平成23年度〜24年度の横浜市乳癌検診受検者は97,646名でした。検診の問診票では症状(痛み、しこり、乳頭変形、乳頭分泌、くぼみ)の有無を記載する欄があります。これらの症状のうち1つ以上を記載したのは受検者の17.1%にあたる20,092名でした。
この症状の内訳を見ますと、一番多いのが「痛み」39.3%、続いて「しこり」23.4%、「乳頭変形」20.3%、「乳頭分泌」12.7%、「くぼみ」3.5%と続きます。乳腺外来で実際にがんと診断された方と比べると、乳房の痛みを訴える患者さんが多いことがわかります。症状別に乳がんの比率を調べますと、
くぼみ 4.2%、しこり 2.8%、乳頭変形 1.0%、痛み 0.96%、乳頭分泌 0.48% でした。(平成27年日本乳癌検診学会で発表した内容からの引用)

皮膚のくぼみや、しこり(腫瘤触知)は乳がんの症状としては最も重要であることがわかります。乳頭変形や乳頭分泌の症状で乳がんの比率が意外と低いのは、おそらく陥没乳頭や乳汁分泌も統計上含まれてしまうことが一因と思われます。血性乳頭分泌や乳頭陥凹に限ると乳がんの頻度が高い症状です。これらの症状を訴える患者さんがいたら乳腺外来にご紹介いただけたらと思います。
乳房の痛みは乳癌を示唆する症状ではありません。しかし痛みを訴える受診者の乳がんの比率が意外に高いことは興味深いです。この期間の検診における無症状者も含めた乳がん発見率は0.38%ですから、それに比べると3倍近い比率になるのです。痛みは乳癌の存在とは直接関連がない症状ですが、ひょっとすると乳房痛が強いことは何らかの乳がんのリスク因子と関連があるのかもしれません。エビデンス(根拠)はないですが…..。乳房痛のみの症状でも、患者さんが気にしていらっしゃるならばご紹介いただければと思います。スクリーニングを行い、所見がなくてもその後の適切なマネジメントを患者さんにご案内いたします。

乳腺甲状腺外科担当部長 俵矢 香苗

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑦ 番外編 乳がんのサブタイプとは


乳がんと一言で言っても、様々な臨床経過をとるものがあることは皆さまご存知だと思います。例えば昨年亡くなった某元アナウンサーさんの乳がんのように、発見されてからあっという間に転移して患者さんの命を奪ってしまう乳がんもあります。その一方でしこりに気づいていながら何年も放っておいても転移を起こさず、皮膚潰瘍を作って初めて患者さんが受診するなんてことも時々起こります。その違いはなんでしょうか?
それは「サブタイプ」の違いなのです。最近の乳がんの治療においては、何をおいてもまず「サブタイプ」を知らなければ治療も始まらないくらい重要な概念です。患者さんもよく勉強していて、「サブタイプはなんですか?」と聞いてこられる患者さんも最近は少なくありません。しかしここ10年くらいで一般的になってきた概念なので、他科の先生方にとっては「何となく聞いたことあるけど。。」くらいかもしれませんね。今回はサブタイプのお話をしたいと思います 。

トリプルネガティブ乳がん?

乳がんの治療薬にタモキシフェン、アナストロゾールなどの「内分泌療法」、ハーセプチン®などの「抗HER2療法」があります。非常にざっくり言いますと現在臨床で使用しているサブタイプ分類は内分泌療法や抗HER2療法の効果がありそうか否かで4分割しています。
内分泌療法も抗HER2療法も効果が期待できない乳がんが「トリプルネガティブ乳がん」です。
エストロゲンと結合し乳がんの増殖を促す「エストロゲン受容体(ER)」の発現があれば、Luminalタイプとします。また細胞膜表面に存在するチロシンキナーゼで細胞の増殖、分化の調節に関与する「ヒト上皮増殖因子受容体ー2(HER2)」の過剰発現があるかどうかでHER2陽性、HER陰性に分類します。ER陽性の乳がんの増殖はERにエストロゲンが結合することによって惹起されます。よってER陽性の乳がんに対してはERを標的にした内分泌療法の効果が期待できます。HER2 が過剰発現しているがんにはHER2タンパクを標的とした抗HER2療法の効果が期待できます。乳がんだけではなく胃がんの一部でもHER2の過剰発現があり、最近は胃がんでも抗HER2療法が行われるようになっています。抗HER2療法は単剤よりもタキサンなどの抗がん剤と併用すると抗腫瘍効果が高まるので通常化学療法と併用療法します。トリプルネガティブ乳がんに対しては化学療法が薬物療法の決め手となります。

 

Luminal Aタイプ、Bタイプ

ER陽性乳がんならば必ず内分泌療法が効くのかと言われると、そう簡単ではありません。実際に治療してみると思ったほど効果がないこともあります。一方で非常によく治療が効いて遠隔転移のある状態ながら5年以上元気でいられるような乳がんも珍しくはありません。そのような乳がんの中にはLuminalタイプがよくみられます。

同じLuminalタイプの中でも様々な臨床経過を取るものがあります。内分泌療法がよく効いてゆっくり進行するLuminal Aと、そうではないLuminal Bタイプにさらに分けて考えます。臨床的にはER,PgRの両方が高発現していてかつHER2陰性、核異型が軽度(Grade1)、細胞増殖マーカーであるKi67の発現が軽度という条件の全てを満たす場合をLuminal Aタイプと定義しています。臨床的特徴として比較的増殖がゆっくりで予後が良いことが挙げられます。
また内分泌療法の感受性は高いが化学療法の感腫瘍細胞の核内には高くないく、比較的晩期再発が多く、再発してからの生存期間は長い傾向にあります。遠隔転移の治療をしながら5年以上元気でいられたり、術後20年以上経って再発するような患者さんを乳がんでは時々経験しますが、このような乳がんのほとんどLuminal Aタイプです。
しかしER陽性でも内分泌治療が奏功せずあっという間に進行してしまうことも度々あります。このような乳がんはLuminal Bタイプに含まれます。昨年亡くなられた某元アナウンサーさんの乳がんもおそらこのタイプのがんであったと推測します。
Luminal B は Luminal A以外というのが定義で、AとBの間にはっきり線を引けるわけではなく連続的なものです。現在使用されている定義も流動的です。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑥ マンモグラフィーの弱点を補うために


マンモグラフィーは「高濃度乳房に弱い」という話題を第2回、第5回で取り上げました。高濃度乳房では背景乳腺がマンモグラフィー上高濃度につまり白く描出されるため、やはり白く描出される乳がんが隠れてしまいやすいのです。アメリカのコネチカット州では健診マンモグラフィで高濃度の場合はそのことを受診者に知らせるべきあるとの法律が策定されました。日本でも患者団体からの同様の要望書が厚生労働省に提出されています。任意型の健診ではすでに乳腺濃度を結果説明の際に受診者に知らせる試みが広がっています。乳房構成が高濃度であると、マンモグラフィで乳がんが見つかりにくいことを知らせ、他のモダリティの検査の受診を勧めることが目的です。
昨年の春より当院の乳がんドックでもマンモグラフィの乳房の構成を受診者に知らせることにしています。

乳がんドック報告書(抜粋)

超音波検査について

マンモグラフィーのこの弱点を克服するための方法としては、前回取り上げたトモシンセシス撮影(断層撮影)が有用です。そのほかには超音波検査も有用です。
超音波検査で使用するプローブは生体内に「超音波」を発射します。発射された超音波は生体内の組織で一部反射し、一部透過します。反射波(エコー)はプローブに戻ってきます。エコーの強さの情報をグレースケールに振り分けて輝度変調し、エコーが戻ってくるまでの時間を距離に変換して画像表示したものが超音波検査です。超音波プローブの中には超音波を発射する圧電素子が横並びしており、横方向に順次超音波を発生させることで「Bモード画像」が出来上がります。

生体内の組織によって音響インピーダンスが異なっており、組織間の音響インピーダンスの差が大きいほど超音波の反射が大きく、差が小さければ音波はほとんど透過します。腸管内ガスや骨は超音波をほとんど反射してしまうので、検査では真っ白に見え、ガスや骨の後方は何も見えません。水は超音波をほとんど透過しますので、膀胱に溜まった尿や血管内の血液は超音波検査では真っ黒に均一に描出されるのです。

超音波の波長より十分に小さい境界の集合体(不均質な組織)では音波はあらゆる方向に散乱します。このうちプローブに帰る方向への散乱を「後方散乱」と呼びます。後方散乱は病変の「内部エコー」の違いに関与しています。病変の中に音響インピーダンスの異なる組織が混在する場合や、網目構造、乳頭状構造がある場合は、後方散乱が強く起こるため内部エコーは高く、つまり白っぽく描出されます。病変の内部に均一な腫瘍細胞がぎっしり詰まっているような場合は内部エコーは低く、つまり黒っぽくなります。

乳がんUS

乳房構成の違いと正常乳腺の超音波画像

乳がんの中でも、腫瘍細胞が均一に増殖する充実腺管がんや髄様がん、腫瘍内部に線維成分の増生が強い硬がんは超音波画像では内部エコーレベルが低エコーで黒っぽく見えます。内部に細かい隔壁構造があり粘液の中に腫瘍細胞がまばらに存在する粘液がんや、乳頭状の構造をとる乳頭腺管がんは、比較的エコーレベルが高くなります。これらのがんが、脂肪性の乳腺の中にできると、マンモグラフィでは見逃すことはまずないですが、超音波検査では腫瘍と正常乳腺のコントラストが小さいためうっかりすると見落としてしまいます。

一般に超音波は若年者に多い高濃度乳房が得意で、マンモグラフィーは高齢者になると多い脂肪性乳腺が得意と言えます。精密検査を行う乳腺外来では両方とも行います。検診はマンモグラフィーが基本です。しかし高濃度乳房が多く、乳がんの罹患率も高めの40代の健診に超音波検査をどのように取り入れることができるか、検討されつつあります。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗

乳がんドックのご紹介~受診のメリットについて~


昨年の12月より当院健康医学センターにおいて乳がん検診に特化した「乳がんドック」を新設したことをお伝えいたしました。今回は、受診のメリットをご紹介いたします。

乳房の構成(乳腺密度)を知ろう!

受診者は自分の乳房の状況(乳腺密度)・自分の乳がんリスク・年齢などを考えて、適切な乳がん検査を選択し受診することが大切です。
一般的に、日本女性は欧米女性の乳房(脂肪を含んだ乳腺密度が少ない大きい乳房)と異なり乳腺密度が濃い乳房の人が多く(不均一高濃度・高濃度の乳房)マンモグラフィだけでは、乳がんを見つけづらくなるため、超音波検査も併せて受診いただくことをおすすめしています。
当院の乳がんドック(B・Cコース:超音波検査を含むもの)を受診いただくと検査結果、判定と共に乳房の構成(乳腺密度)、今後における適切な乳がん検診の選択方法をお伝えしています。

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乳腺密度の違いとは?

マンモグラフィは、乳がんを白い塊として写しだすもの。しかし乳腺もまた、白く写る。つまり、乳腺密度が濃いと真っ白な画像になってしまい、乳がんが見えづらくなってしまうのです。乳腺は母乳をつくるところですから、若ければ若いほどその密度は濃く、年を重ねるにつれ徐々に薄くなっていくものです。欧米女性の場合、日本人に比べ乳腺密度が少ないことが多く、さらに乳がんの罹患年齢のピークがおよそ60〜70歳。したがって乳腺密度も薄く、マンモグラフィでも比較的見つけやすい。ところが、日本人女性の場合は罹患年齢のピークが40代、と非常に若い。加えて、50歳以上でも乳腺が濃い女性が多い。つまり、日本人女性は”マンモグラフィに不向き”なのです。
現在、横浜市乳がん検診(マンモグラフィ)では2年に1回の検査が行われています。検査は40歳代は2方向、50歳以上は1方向の撮影です。この検査だけでは心配との受診者の声が多く、その際は当院の乳がんドックAコースもしくは3Dマンモグラフィを含むCコースをおすすめしています。

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乳房について相談された際は、是非、当院の乳がんドックをおすすめしていただけましたら幸いです。女性の大切な命と乳房を守るため、早期発見率を高める努力をしていきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。(マンモグラフィ認定技師 小曽根容子)

 

ピンクリボンアドバイザーをご存知ですか?


昨年11月に行われた、ピンクリボンアドバイザー認定試験を受験しました。
今回は、このピンクリボンアドバイザーについて紹介していきたいと思います。

いきなりですが、乳がん検診の受診率はご存知でしょうか。
がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)によると、乳がん検診の受診率は34.2%です(2013年)(グラフ1)。全国でピンクリボン運動が精力的に行われ受診率が増加しているとは言うものの、実際に検診を受けた人は3人に1人程度とまだ少ないのが現状です。
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では、どのようにすれば受診率が向上するのでしょうか。
認定NPO法人乳房健康研究会が2013年に行った調査によると、住民検診でマンモグラフィを受けた人の3割は「知人・友人」に勧められたと回答しています。このことから、乳がん検診を勧める人の存在が受診率向上につながると考えられます。
そこで、“乳がんの検診、治療、ピンクリボン運動などについて正しい知識を持って、まわりの人の乳がん検診受診のきっかけをつくる人”として、ピンクリボンアドバイザー認定試験が始まりました。認定試験は初級・中級・上級と3段階に分かれています。
それぞれ、乳がんに関する正しい知識を身に付け、

初級…自分自身の健康管理に役立てたり、家族や知人・友人などの身近な人に乳がん検診を勧めたりする

中級…職場や地域の人々に乳がん検診を勧め、乳がんの正しい知識を伝える

 さらに、乳がんに関するさまざまな問題を理解し、その解決のために行動する

上級…乳がん検診や乳がんを取り巻く環境改善のために、教育・指導・社会活動を主導する

ピンクリボンアドバイザーは、ピンクリボン運動の主旨に賛同する人なら誰でも受験するこができます。私が受験した際には、医療関係者はもちろん一般の方もたくさん受けていました。私は昨年の試験で初級を取得したので、今年は中級を取得したいと思っています。
これから、ピンクリボンアドバイザーの活躍により受診率の向上、そして乳がんの早期発見につながることを期待し、私自身もピンクリボン活動に積極的に参加していきたいと思います。(大山 薫)

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知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑤ マンモグラフィーの弱点


マンモグラフィーの弱点

第2回で高濃度乳腺を、第4回ではFAD(局所性非対称陰影)についてとりあげました。マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手です。マンモグラフィでは乳腺実質は白く描出されますが、腫瘍も白く描出されるため高濃度、不均一高濃度乳腺では病変がはっきり認識できないことがあります。

マンモグラフィで「がん」がどの程度描出されるのでしょうか。宮城県は全国にさきがけてがん登録を行っている数少ない自治体のひとつです。その宮城県では検診発見乳がんと中間期乳がんを合わせた解析を行い、マンモグラフィの感度を算出しています。(グラフ)

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乳腺の構成別にみると、脂肪性乳腺では感度91%であるのに対し、高濃度乳腺で51%にとどまります。40歳代ではマンモグラフィの感度は59%でした。60歳代の81%と比較するとかなり低いことがわかります。若年であるほど高濃度、不均一高濃度乳腺の割合が多いためと推察されています。

マンモグラフィーの弱点はどう克服する?

トモシンセシス撮影

マンモグラフィーの断層撮影のような画像を得ることができ、乳腺の重なりの影響を排除できます。当院では2015年3月より乳腺外来診療に、2016年4月より人間ドック部門の健診にトモシンセシスを導入しています。

超音波検査

40歳代女性に対する乳がん検診においてマンモグラフィを行う群とマンモグラフィに超音波 を加えた群の検診成績を比較し乳房超音波検査の有効性を検証するランダム化比較試験(J−START)の結果が昨年発表されました。マンモグラフィ群0.33%の乳がん発見率に対し超音波を加えた群では0.50%で、乳がん発見率が改善したと報告されています。

従来法とトモシンセシス

トモシンセシスは紙芝居のように、コマ送りの動画で読影するため、紙面で再現するのは難しいのですが、マンモの「やぶにらみ」を減らすには有効な手段と考えております。

従来法とトモシンセシス
従来法とトモシンセシス
写真1 不均一高濃度の背景乳腺
写真1 不均一高濃度の背景乳腺 左MLO 黄色で囲った部分に病変があります
写真2 従来法とトモシンセシス
写真2 従来法とトモシンセシス 従来法のマンモでは石灰化しか描出されません。トモシンセシスでは石灰化の背景にある腫瘤まで明瞭に描出されています
写真3 乳腺散在の背景乳腺 写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です
写真3 乳腺散在の背景乳腺
写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です

マンモグラフィ専用ビューワー

マンモグラフィは乳腺を折りたたんで撮影するので、マンモグラフィに描出されている病変が乳房のどの辺りに位置するかを推定することは、意外に難しいものです。当院で採用しているマンモグラフィ専用ビューワーMammodite®(Netcamsystems)には、病変の位置推定機能があり、簡便に気になった病変の位置を推定することができます。(図1)

図1 Mammodite®(Netcamsystems)
図1 Mammodite®(Netcamsystems)

超音波検査を行う際、超音波検査技師がマンモグラフィ読影結果を参照して病変位置を推定しながら検査を行うとより正確な診断にたどり着くことができます。検査方法の特徴を知って、うまく組み合わせることが肝要です。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗

 

乳房トモシンセシスの使用経験-3Dマンモグラフィの実際-


昨年トモシンセシス(3D)撮影ができるマンモグラフィ装置「Selenia Dimensions」(Hologic社製,販売:日立製作所)が導入されたことをお伝えしてから早いもので1年が経ちました。
この1年でトモシンセシスの有効性を実感できる様々な臨床症例を経験しました。そこで今回は、使用経験についてお伝えさせて頂きます。

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当院では診療受診者は初診・再診に関わらず全員combo撮影を実施しています。cobmo撮影というのはトモシンセシスと通常のマンモグラフィ(2D)が1度の圧迫で同時に撮影できるというものです。撮影時間は1方向8秒ほどで完了します。
トモシンセシスはマンモグラフィの弱点であった乳腺の重なりを排除できる画像が得られるため、通常より強い圧迫を必要としないという議論もなされていますが、乳房を薄くすることで被ばく線量を減少させられること、motion artifactを回避できることを考慮して、できるだけ圧迫をして撮影を行っています。
通常のマンモグラフィよりもわずかではありますが圧迫時間が長くなるため、当初は患者さまの負担を心配していました。しかし、お話を伺うと負担は全くと言っていいほどありませんでした。実際の患者さまの反応をご紹介させて頂きます。

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◆ 圧迫時間の延長に気付かない、違和感のない方が大多数

◆ 圧迫を弱めたりはしていないにも関わらず以前の機械より痛くないという声が多い

◆ 3D撮影ができることへの喜び、興味が大きい

◆ 一方で、少数ではあるが従来のマンモグラフィより詳細に描出されることへの不安を抱く方もいる

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症例1

昨年、芸能界で話題となった「乳頭直下の腫瘤」です。2D画像(左)では見落としてしまいそうですが、トモシンセシス画像(右)では境界明瞭な腫瘤をしっかりと認めます。

症例2

2D画像(左)でも境界が微細鋸歯状な腫瘤を認めますが、トモシンセシス画像(右)では辺縁にスピキュラが伴っている(ピンクの矢印部分)ことが認められます。
それに加えてさらに胸壁寄りに2Dでは確認できない構築の乱れ(赤い矢印部分)が認められます。こちらは術後の病理結果でdaughter lesion(娘病変)と診断されました。

症例3

2D画像(左)では背景の乳腺濃度が高いため所見を認めるのが困難です。トモシンセシス画像(右)では乳頭方向に辺縁にスピキュラを伴うFAD(ピンクで囲まれた部分)が認められます。
それに加えて構築の乱れ(赤で囲まれた部分)が認められます。こちらは術後の病理結果で副病変と診断されました。

症例4

2D画像(左)でも乳頭方向に構築の乱れが認められますが、トモシンセシス画像(右)ではよりはっきりと構築の乱れ(ピンクで囲まれた部分)が認められます。
それに加えて境界が辺縁明瞭な腫瘤(赤い矢印)を認めましたが、こちらはUSで線維腺腫と診断されました。

症例4-2

上記の画像の対側である右乳房の画像です。トモシンセシス画像(右)でFADが認められました。


実際の症例を提示しながら、トモシンセシスの使用経験について述べさせて頂きました。

トモシンセシスは乳腺の重なりという弱点を打開する新たな技術であり、病変の検出、辺縁の詳細な描出、広がりの把握等に有効であることが分かりました。また、明らかな乳癌所見に対しては2D画像でも判断できますが、daughter lesion(娘病変)や副病変の有無、対側乳房病変の発見にも有効であると感じられました。動画でないと分かりづらいため症例は提示しませんでしたが、検診においてFAD等を指摘され要精密検査となり3D撮影を施行し、正常乳腺の重なりであることが明らかになり異常なしと判断された症例も経験しました。石灰化病変においては2D画像だけで十分な形態診断は可能だと感じました。しかし、マンモトーム対象症例においてはトモシンセシス画像により石灰化の深さ方向まで把握できるため、非常に有用です。今後も使用経験を重ねていく上で、トモシンセシスの可能性をさらに見出していきたいと思います。

(マンモグラフィ認定技師 塚川 知里)

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎④


局所的非対称性陰影(Focal Asymmetric Density:FAD)って何?

さて、この連載もおかげさまで第4回となりました。前回は石灰化についてとりあげました。今回は「局所的非対称性陰影」についてとりあげます。FADと略語で呼ばれることもあります。マンモグラフィ独特の所見用語で、耳慣れない用語かもしれませんが、マンモ業界では「腫瘤」「石灰化」とともに非常によく出てくる用語です。
右は横浜市乳がん検診票です。ご覧になったことがありますか?
マンモ独特の用語ですがある意味マンモグラフィ読影の特徴を表している用語だと思います。

図2

高濃度乳腺にできた乳がんは雪のなかの白うさぎ。白うさぎいる??=FAD

連載第2回目に高濃度乳腺をとりあげました。乳房は脂肪、結合組織、乳腺組織から成ります。乳腺組織は乳汁を生産する組織で、加齢とともに萎縮します。乳腺組織は、マンモグラフィ上白く描出されます。若い方や授乳経験の少ない方は乳房全体が白っぽく描出され、ご高齢の方や授乳経験の多い方は乳房全体が黒っぽく描出されます。X線吸収係数が大きい組織ほど白く、小さい組織ほど黒く描出されます。乳がんの係数は0.85 に対し乳腺組織0.80,脂肪組織0.45です。若い方の高濃度乳腺はほとんど脂肪を含まないので、このような乳房に乳がんができると背景乳腺との色の差が少なく非常に見えづらくなります。

図3

図4

症例1

下の症例は比較的濃度の高い背景にできた乳がんがあります。赤点線ががんの範囲です。超音波検査でみると3.5cmの腫瘤でした。背景乳腺が高いがために「腫瘤が隠れていそうだけど本当に??そうなの??」 こんなとき局所的非対称性陰影という所見用語をつかいます。

図5

図6

症例2

この症例は背景乳腺はそれほど高濃度でないが、がんが小さいためにはっきりとした腫瘤に見えない。でもなにか隠れていそう=「局所的非対称性陰影」とされた症例です。
切除検体のMMGでは乳腺の重なりの影響が排除されがんの存在がはっきり見えます。

図7

症例3

白っぽく見えてなにか隠れていそう?精査すると何も病変はなく正常乳腺でした。
乳房を折りたたんで撮影するので、乳腺がたくさん重なって撮影された部分は正常でも白っぽく浮かび上がって見えます。病変が隠れていそうだけど実は正常乳腺の重なり=これも「局所的非対称性陰影 FAD」と表現します。

図8

乳腺と病変の違いは非常にわずか・・

乳腺と病変のX線吸収の違いは非常にわずかです。そこを目一杯強調して検出するのがマンモグラフィです。マンモグラフィの読影は雪の中で白うさぎを探す、ジャングルの中で迷彩の兵隊さんを探す、闇の中で黒子をさがすようなものです。よく見えなくて確信できないけどなんか怪しい=「局所的非対称性陰影=FAD」です。
高濃度の若い人の乳腺では悪性病変があっても腫瘤として認識できず局所的非対称性陰影としてしか認識できないことも多いです。
局所的非対称性陰影の多くは正常乳腺の重なりですが、病変が隠れていることもあるので精査の対象となります。他に悪性病変を疑う所見が一緒にあれば病変の存在する確率が高くなります。

図10

知っているようで知らない マンモグラフィの基礎③


石灰化=がん それは間違いです!!

マンモグラフィーでよくみかける石灰化。石灰化があると必ずがんが隠れているのでしょうか??今回は、知っているようで知らない「石灰化」を掘り下げてみようと思います。

「石灰化」とは文字通り組織にカルシウムが沈着してできた構造物です。マンモグラフィーにうつっている石灰化それ自体は結晶化したカルシウムです。がんに関連する石灰化であってもそれは同じです。どうも石灰化という用語が一人歩きしていて、一般の患者さんのなかには石灰化=がんだと思い込んでしまっているかたもよくいらっしゃいます。もちろん石灰化=がん細胞が描出されているのではありません。石灰化、つまりカルシウムの結晶がどのような機序で生成され、その周囲がどんな構造かが問題なのです。それは良性のこともあるし悪性のこともあるのです。

石灰化はみつけるのは簡単! みつけたあとの良悪性の鑑別診断が重要

マンモグラフィ上には、皮膚、乳腺、乳腺周囲の結合組織、脂肪組織等が描出されています。それぞれの組織ごとにX線吸収度が異なりその違いがマンモグラフィーでは白〜黒のグラデーションで表現されます。乳がんのX線吸収係数は0.85cm-1/20keVです。それに対し正常の乳腺組織は0.80、脂肪組織は0.45、微小石灰化は12.5です。背景乳腺が高濃度乳腺であっても脂肪性乳腺であっても石灰化をマンモグラフィー上で見つけることは比較的簡単なのです。前回背景乳腺濃度のお話しをしました。背景乳腺が高濃度だと、がんがあっても腫瘍そのものが視認しにくいことがあるのですが、そんな場合でも石灰化はよく見えます。高濃度乳腺や不均一高濃度の乳腺ではがんの本体は見えなくても石灰化のみが見えてがんが見つかることもしばしばあります。
しかし石灰化は数からいうと良性変化に伴うものが圧倒的多数で、がんに伴うものは一部です。ほとんどのマンモグラフィーでなんらかの石灰化がうつっています。全く石灰化のうつっていないマンモグラフィーを探す方が難しいくらいです。石灰化は見つけることよりも、鑑別診断がキモなのです!!

良悪性の鑑別のポイント1  大きい石灰化(短径5mm以上のもの)はまず良性

図2

良悪性の鑑別のポイント2  ミリ単位の微小石灰化は良悪性の鑑別が必要

乳がんに関連する石灰化のほとんどは、乳管内のがんに生じます。乳管内のがんに起こる石灰化の生成機序は大きく分けて2通りあります。一つは乳管内に生じたがん細胞が増殖した結果、乳管の中心部で腫瘍壊死が起こり、壊死組織に石灰が沈着する「壊死型石灰化」です。壊死型石灰化=がんの石灰化と考えてよいです。もう一つは、乳管の管腔や篩状構造をとったがんのなかの管腔構造の中に石灰分を含んだ分泌物が貯留し、その分泌物の中に石灰の結晶が析出する「分泌型石灰化」です。

壊死型石灰化=乳管内を埋め尽くしたがんの中心が壊死してその内部にできる。

図4

分泌型石灰化=乳管内の分泌物に石灰の結晶が析出

図6

良悪性の鑑別のポイント3  規則性をもった分布は乳がんの可能性が高い

図7

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎②


Are you DENSE? 〜マンモグラフィーが不得意な乳房とは〜

Dense Breast という言葉 ご存知ですか?日本語でいうと「高濃度乳腺」といいます。マンモグラフィーが真っ白にうつる乳腺をこう呼んでいます。高濃度乳腺の中では、腫瘍があっても判別しづらく、ときにマンモグラフィ検査での「見逃し」の原因となります。

米国では一般向けに自分の乳腺濃度を知って、適切な健診を受けることを啓発するサイトもあります。

http://www.areyoudense.org

図1

Dense Breast 高濃度乳腺とは?

乳房は乳腺実質と脂肪組織で構成されます。マンモグラフィの読影に際して乳房内の乳腺実質と脂肪組織の混在する程度(乳房の構成)を評価します。乳房の構成は脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度に分類されます。

乳腺実質内にほとんど脂肪の混在がない乳房を高濃度乳腺と呼びます(=Dense Breast)

高齢、授乳経験が多いほど乳腺の萎縮が進み脂肪組織が多くなり乳房全体が黒っぽくうつります。若年、授乳経験なし、エストロゲン補充療法をしている女性は乳腺の萎縮が軽度でマンモでは乳房全体が白っぽくうつります。

図2

乳がんは高濃度(白く)描出される。背景が高濃度乳腺だと認識しづらい

図3
乳腺散在の乳腺です。やはり左上に腫瘤があります。こちらは腫瘤の存在がよく見えます。不均一高濃度の乳腺です。左上に腫瘤の端が見えていますが、大部分は背景乳腺に隠れています。
乳腺散在の乳腺です。 やはり左上に腫瘤があります。 こちらは腫瘤の存在がよく見えます。
乳腺散在の乳腺です。
やはり左上に腫瘤があります。
こちらは腫瘤の存在がよく見えます。

マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手

高濃度乳腺では散在性や脂肪性乳腺に比べてマンモグラフィで病変が認識しづらいことがあります。乳腺外来では超音波検査や乳房MRI検査など他の検査方法を追加して、病変の見落としを防ぎます。横浜市乳がん検診のような「対策型検診」では50歳代以上の受検者に対してはMLO1方向撮影ですが、高濃度乳腺の多い40歳代の受検者に対してはMLO,CCの2方向撮影を行うことでカバーしています。

マンモグラフィの弱点を補完する トモシンセシス撮影

X線管球を回転させて多方向からマンモグラフィーを撮影。乳腺の断層像を再構成する技術。1乳房につき30-60スライスの断層像で表示します。高濃度乳腺の重なりを排除でき病変を認識しやすくなります。また高濃度乳腺に隠された病変の辺縁もより詳細に読影できます。

図5

当院では平成27年3月末よりトモシンセシス撮影のできるマンモグラフィ機器が稼働しています。

右図はノルウエーのオスロで行われた検診における臨床研究です。従来撮影法(2D)にトモシンセシス撮影(3D)を追加したところ(右図赤いバー)、乳腺濃度が高い群でも浸潤がんの発見率が向上するという結果でした。トモシンセシスの検診への応用も期待されます。
:Radiology267:47-56,2013より改変引用

マンモグラフィ検診で高濃度乳腺と評価されたら?

精密検査不要の判定でも人間ドックなどの機会に超音波検査も追加してみるとよいでしょう。ただし高濃度乳腺だから乳がんに罹りやすいわけではありませんから心配はいりませんし急ぐ必要はないです。あくまで何かの機会にというスタンスで。ですがしこりなどの症状の自覚がある場合は早めに乳腺外来に受診しましょう。