特集CT:名機の条件


おやじも悩ます!? CTの進化が止まらない!

昨年末、北米放射線学会という学会がシカゴで行われました。この学会は放射線関連学会では世界最大のもので、ここで毎年最新の技術を搭載した新装置が発表されます。今年も様々な技術開発があったそうです。放射線関連業界では毎年技術が進み、新しい装置が販売されていきます。CT装置に関しても様々な機種が販売され、16列とか64列とか、320列、256スライスなど、また2管球搭載型、最新型検出器によるデュアルエナジー機能搭載型等どんどん新しいものが販売されています。こうなってくると、僕らのように毎日使っているような人間でもどの装置が本当に良いものなのかわかりにくくなってきます。また最新のマーケティング技術によって装置の良し悪しを決める大切な部分を隠すことも高度化されていますので、注意する必要があります。そのため正しい知識を身につけることも我々の仕事であると先代の技師長から教育されてきました。私も努力をするように勤めているつもりです。
最新機種は色々とあるものの、エックス線CTの良し悪しというのはエックス線を使用した装置である以上その原理的背景からして一貫していると思っています。今回は本当に良いCT装置という少々マニアックな話ではありますが、お付き合いいただけたら幸いです。

CT装置:ここが「キモ!」

○馬力が重要なのはヒトも車もCTも同じ

CT装置で最も重要なのは、なんと言ってもエックス線管球であると思います。エックス線管球というのはエックス線を発生させる部品です。エックス線撮影装置はエックス線を出すエックス線管球、エックス線を受ける検出器(フィルム)が基本構成でCTも同様です。その中で特にエックス線管球からのエックス線最大出力が大きいほど良い管球といえます。
それではなぜ最大出力が重要なのでしょうか?これはエックス線検査の基本的な原理と関係があります。CT装置ではエックス線を使用して画像を得るのですが、エックス線の使用量が少ないと画像が汚くなります。これは患者さんの体を透過してきたエックス線の量が少なくなり、ノイズの割合が増えるためです。ですから体の大きい人の撮影時には透過エックス線量がたらず、画像が荒くなってしまいます。ノイズの影響を少なくするためには十分なエックス線量が必要になります。

○量を出すにはどうするか?

さて、X線の量を増やすにはどのようにすればよいのでしょうか。それにはX線を出す力を増やす方法(出力を上げる)と時間をかける方法(出力している時間を延ばす)の二つがあります。
前者の方法は、エックス線管球が持つ元々のパワーによりますので限界があります。軽自動車が200キロ以上のスピードを出せないのと同じように、資質によるところで決まるわけです。そこで最大出力以上のエックス線が必要な場合には、エックス線をかける時間を長くすれば必要な量をえることができますのでそのような方法をとります。これは軽自動車でもゆっくり走ればいつかは目的地に到着するのと同じです。このように量を出す為に時間をかけるわけですが、ここにCT装置の良し悪しをきめるポイントがあります。

○止められない♪、あ~止まらない♪

何がポイントなのかというと、この「時間をかける」というのが問題となります。CT撮影は体内臓器を対象にした撮影ですから、あまりに長い時間エックス線を照射しても患者さんが息を止めていられないからです。そしてこの影響を大きく受けるのが、常に動いている臓器(冠動脈)の撮影です。最近はCT装置で冠動脈も撮影できるようになりましたが、冠動脈というのは患者さんが息を止めても動きがとまるものではありません。ですから、動きを止めるために早いシャッタースピードで画像を取得する必要があります。つまり短い時間でエックス線を大量に発生させる必要があるということです。大火事の時には、消火器ではなくポンプ車が必要なのとおなじように一気にかけるイメージに似ていますね。火を消さなければ意味がないのと同様に、冠動脈撮影も動いていては意味がないのです。
以上のようなことから、CT装置メーカー各社はこぞって管球の最大出力を上げて1秒以下でたくさんのエックス線を出力できるような大容量のエックス線管球を開発しています。あるメーカーは最大出力を大きくするためにX線管球を2つ付けた装置も販売していますが、それでもまだ十分な出力とは言いがたいと個人的には思っています。以上のことからエックス線管球は撮影できるかできないかということを決める重要な因子であるということになります。

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○装置寿命も左右する!?

さて、話は変わりますが当院には設置から13年目を迎える16列CT装置が稼働しています。16列CT装置というと今では普及期というか最低スペックの装置に聞こえてきますが、当院のこの装置は購入当時、上から二番目のハイスペック装置でした。この装置は2番目とは言いながらも冠動脈を撮影することを目的とした装置だったので、当時では珍しくかなり高い出力が得られるエックス線管球が搭載された装置だったからです。ですから、今発売されている16列装置とは格段にパワーがちがい、高負荷のかかるような検査を連続で行っても大丈夫な今でも第一線で活躍している名機といえます。このようにエックス線管球は装置寿命という点で見た時にもとても重要なポイントとなるといえるのです。


良いCT装置とは?ということで、今回はエックス線出力についてお話ししました。かなりマニアな話でしたがエックス線管球の力がとても大事であるという点については知っていただけたかと思います。今回は技術的に良いCT装置ということに的をしぼってしまいましたが、経済的な側面で見ると良い装置とも一言では言い切れないのが今の時代です。それはエックス線CTの診療報酬では列数による加点はあるものの管球出力による加点はないからです。そういった点で言えば、むだに高い出力をもった装置というのはコスト的に良い装置とは言えないのです。
とは言っても出力が高い装置のメリットはとても多く、冠動脈も前投薬無しで撮影できたり、息止めすら必要なく撮影できたり、また造影剤を半分以下に減らせたりすることもできるため、患者さんにも我々にも先生にもメリットがたくさんあるからです。
以上のようなことも含めて良いCT装置とは…と考えてみると13年前冠動脈の加算もない時代にあのような先駆的な装置が当院に導入されたことは誇らしいことであったのだと改めて感じています。
X線CT専門技師・肺がんCT検診認定技師 保田英志

特集CT:手術支援3D画像処理


前回の特集ではCTにおける専用ワークステーションを使用した基本的な画像処理技術について記載させて頂きましたが、今回はその画像処理技術を利用したCTによる手術支援3D画像について大腸がんの症例を元にご紹介させて頂きたいと思います。
近年、腹腔鏡の技術が進歩し大腸癌の手術でも腹腔鏡下でおこなうことが多くなり、当院でも行われています。開腹術と比較し、腹腔鏡下での手技は当然ながら視野が狭くなります。手術前に腫瘍や血管等の位置を把握できるような3D画像を外科の先生に提供するようにしています。

術前支援3D画像

【下行結腸癌術前】

当院では大腸がん術前の時などにおいて造影剤を使用してのCTC撮影(後述)を行っています。造影剤を使用することにより、動脈・門脈を描出することが可能となり、さらに腫瘍も造影剤によって染まるため、血管と腫瘍の位置関係が鮮明になり、術前計画や術中の画像支援として有用であると考えています。
下の画像は下行結腸にできた腫瘍の術前の為、造影剤を使用したCTC検査を行った症例です。エアーイメージで大腸の走行、腫瘍の位置や形状が確認でき(赤丸)、さらに造影剤を使用することにより動脈・門脈の血管走行、腫瘍(赤矢印)への栄養血管を確認できます。

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CTCとは?

下に示した検査手順の通り、CT検査は肛門からチューブを挿入し(図1)、そこから空気を注入して大腸全体を十分に拡張させた状態で、仰向けとうつ伏せの2体位でCT撮影を行います(図2)。2体位で撮影することで、腸管描出不良部分を補完するだけでなく病変に見える残便を移動させて診断能を向上させることが可能となります。そして、得られた画像データは画像処理専用のワークステーションで処理することにより、空気だけを抽出したエアーイメージ画像や、仮想内視鏡画像という内視鏡検査を行ったような大腸画像を作成することができます。(図3)以上までを一般的にはCTC(CTcolonography)検査と呼ばれています。

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内視鏡挿入困難症例

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図は、エアーイメージとその病変部の拡大画像、さらに、カメラのイラストの方向から病変部を観察した仮想内視鏡画像になります。こちらの方は大腸内視鏡挿入が困難であったためCTCが検討され、このようにCTC検査によって病変の診断が可能になりました。当院では、この症例のように、腸管の屈曲が強い等の理由で内視鏡検査が困難であった方の多くがCTCを施行し、病変部の描出を可能にしています。

CTCは、わが国ではまだ特殊検査という位置づけですが、欧米では大腸がんのスクリーニング検査にも用いられており、当院でも多くの方が受けられております。これからも診断に役立てていただけるよう我々放射線技師は画像処理に取り組みたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。(江上 桂)

3D画像処理の実際


前回のCT特集ではCT画像の成り立ちから3D画像の作られ方、そして画像の種類について江上技師が紹介しました。今回は3D画像ができるまでの実際の流れを当院の最新型ワークステーションを例にご紹介したいと思います。

3Dワークステーション

3D画像は簡単なものですとCT装置の中に入っているソフトウェアで作成することも可能ですが、機能に制限があり専用の画像処理装置を用いるのが一般的です。
当院ではザイオステーションと呼ばれる日本製のソフトウェアを使用して画像処理を行っています。実際の流れとして腹部血管の画像処理をご紹介します。
マルチスライスCTではCT画像を撮影しますと自動的に1ミリスライス以下の画像が再構成され、装置からザイオステーションへ自動転送されます。その画像は部位にもよりますが300枚から1000枚くらいです。この画像をワークステーションで展開するとこのような画像が出来上がります。 (写真1)

CT1

実際の画像処理の流れ

これだけでも十分きれいな画像といえるのですが、実はこの程度のことは最近のCT装置であれば装置付属のソフトウェアでも作ることができます。しかし、この画像は色合いだけを変更しているにすぎません。CT画像はその濃度差で大まかな組織がわかりますので、それにあわせてこの濃度は筋肉だから赤黒黄色っぽい色、骨だから白、血管だから赤などという感じで色付けしている画像になります。ですから細かく見ると、造影剤も骨も同じような色合いで表現されており、血管と骨の違いが認識しづらくなります。

 

専用ワークステーションの威力

そこで実際にはワークステーションを利用してひと手間加えます。

その作業というのは1個のCTデータを分割し骨だけのデータ、血管だけのデータといった具合に厳密に切り分けを行う操作です。そうすることによりそれぞれに別々の色をつけて最終的に一つの3D画像に戻してあげるということができ、それぞれのコントラストが明確になります。

こちらは処理前の画像です。3D画像の濃度を変更させると実際に存在しているデータすべてが表現できます。これが本当の実データで、立方体となっています。(写真2)

CT2

この立方体を濃度変化だけで表現したのが先ほどの画像になります。(写真1)ここから専用ワークステーションで立方体のなかから、この部分は骨、この部分は造影剤だという風に切り分けを行うことで、血管だけを描出したり、骨だけを描出したり、また大動脈と門脈や肝静脈を色分けしたりということができるようになります。実際には、画像の濃度差を利用して分けていきます。

実際の切り分け手法

一番簡単な例をご紹介します。腹部大動脈の症例でこれを血管と骨に分離します。最初に濃度を変更します。CT画像上もっとも白く映る「骨」以外が消えるような濃度まで設定を変更し、この状態で骨を消すという指令をかけます。(写真3、4)そうするとここに見えている骨だけが消えます。

CT3

しかし、このままの濃度だと大動脈も見えません。ですので、血管が見えるような濃度にもどしていきます。すると、大動脈が見えてくるのと同時に消しきれなかった骨の薄い部分がみえてきます。 (写真5)そうしたら今度は血管を残すという処理をかけます。すると血管だけを残すことができます。(写真6)

CT4

この様なことを繰り返し行って大動脈と骨のそれぞれの3Dデータを作成します。ここからそれぞれに色付けを行います。骨は白で、血管は赤といった感じです。質感を持たせるためにカラーにはグラデーションをつけたりしています。するとこのように血管だけをはっきり観察できる画像をつくることができます。(写真7)

さらに血管の画像と骨の画像を組み合わせたり、骨だけをすかせて表現することも可能となります。(写真8、9)

CT5

画像処理の基本はこのような「骨はずし」と呼ばれる手法が基本となります。実際はこのほかにも冠動脈の画像処理のように、冠動脈の屈曲に合わせて画像を切り出す処理やサブトラクションといって造影剤の使用前後で画像同士を引き算して造影剤だけを画像化する頭部血管画像処理(写真10)、空気だけを表現して大腸の走行をみたりするCTC画像処理(写真11)といった骨はずし以外の画像処理も多々あります。処理には時間がかかるものとかからないものとがあり、その差は症例によるところが大きいと感じています。

CT6

先日、横浜で行われた学会と機器展示に参加し最新型のワークステーションを拝見してきました。最近のワークステーションは自動で画像処理をしてくれるようなものもあり、画像を転送しただけで自動的に骨を外してくれるそうです。しかし血管の走行や骨の変形などは症例によって変わってくるため、すべての症例で自動処理がうまくいくというレベルには至っていないようでした。しかし、これらのパターンマッチング技術に関してはビッグデータが活用され、最近話題の人工知能も用いられるようになれば今後解決されるのではないかと思っているのですが、それはそれでこちらが困ってしまうな~とも思っています。汗(^▽^)汗

保田 英志 (X線CT専門技師および肺がんCT検診認定技師)

 

3DCT画像とその成り立ちについて


今回のCT特集では、画像処理技術について説明させていただきます。まず前置きとして、CT画像の成り立ちについて説明してから本題に入りたいと思います。

CT画像とは

CTで得られる画像は図1に示すような横断面(Axial断面)画像です。この画像は小さな四角形の集合体で構成されています。このマス目のX-Y方向をピクセルといい、通常512×512マス配置されています。これに厚み方向を合わせた立方体をボクセルとよびます。
このボクセルデータの集合によってCT画像は構成されています。 今回は日常診療でよく利用されるMPR法とVR法について紹介します。

図1

1枚1枚のAxial画像を積み重ねることにより下図のような3次元データとなります。そしてこの3次元データに対し種々の処理を加えることにより、様々な3D画像を得ることができるようになります(図2)。
下肢動脈の3D画像などでは約1000枚のCT画像を元に作成しています。

図2

日常診療で良く使われる代表的な3D画像処理を2つご紹介します

1.MPR(multi planar reconstruction)表示法

日常のCT検査で最も多く行われる3D画像処理です。
こちらの表示法は、日本語で「多断面再構成法」といい、任意の断面で画像を再構築する方法です。通常の横断(axial)画像のみでは把握しづらい場合等に、図に示した冠状断(coronal)や矢状断(sagittal)を追加する他、観察したい目的部分が最も良く観察できる断面(任意の断面)を再構築することができます。

図3

図4

2.VR(volume rendering)表示法

VR(volume rendering)表示法を説明するにあたって、最初にCT値について説明させていただきます。CTの画像は、CT値と呼ばれるCT画像特有の値で構成されています。人体を構成する物質のCT値は水を基準(CT値:0)として、相対値で表されます。CT値の低い方から高い方へ、黒から白の濃淡(グレースケール)で表すことにより画像化しています。例えば、図3の画像において点線で囲んだ部分に注目すると、この範囲は空気で構成されているためCT値は-1000となり画像上は黒で表現されています。
VR表示法とは、このCT値を調整することにより観察したい部分を立体的に表示します。また、CT値に対応した色と、画像に陰影をつけるための透過度の設定を行うことによって色をつけて表示することが可能です。CT値を狭めていくと皮膚面まで描出することができます。またCT値を上げていくと、臓器が見えてきます。さらにCT値を上げていくと、骨の描出ができるようになります(図4)。

図5

図6

VR画像の活用例

以前こちらで特集させて頂いた当院のマルチスライスCTでは、非常に薄いスライス厚で広範囲を短時間で撮影できるため、様々な画像処理を高精度に行うことが可能となっています。以下は、その画像処理技術の恩恵が高いものの一例です。

図7

図8

以上、今回はほんの一部ではありますが代表的な画像処理のご紹介をさせて頂きました。オートメーション化が進んではいますが、我々放射線技師がマニュアルで画像を作り込んでいく作業も多く、作成者の技術や知識が大変重要です。画像作成者としてより有用な画像作成ができるよう、画像処理技術を磨くのはもちろんのこと、ソフトとハード両面の進歩に柔軟に対応していきたいと考えています。(江上 桂)

図はCT適塾HP(:http://www.ct-tekijyuku.net/index.html)より引用改変させていただきました。

最先端CT装置の今


今回は今春に横浜で行われました医用画像機器展での情報をもとに最先端のCT装置に関してご紹介したいと思います。

マルチスライスCTは現在国内に1万台以上設置されており、広く普及しています。このニュースレターでも紹介しているように撮影スピードが高速化され冠動脈の撮影までもが可能になってきていることも普及を後押ししているものと思われます。しかし、マルチスライスCTであれば冠動脈の検査ができるというわけではありません。現在のところ64列以上のCTで撮影することが推奨されていますが、それでもきれいに撮影できないような症例もあります。
最新のCT装置では64列以上でも撮影が難しかった心臓の動きが速くシャッタースピードが間に合わない症例などにも対応できる装置が開発されています。CTの撮影技術は冠動脈以外の部分はほぼ確立されてきており、冠動脈の撮影がどこまでできるかが装置を比較するうえで重要なポイントとなります。

現在国内で使用されている最先端CT装置メーカーは、ドイツのシーメンス、アメリカのGE、日本の東芝の装置でしょう。
それぞれに特徴のある製品を販売していますので、それぞれのフラッグシップモデルについてご紹介いたします。

図2

シーメンスではエックス線管が2個搭載された装置を開発しています。すでに開発から10年が経過していますが、いまだに他社は開発できていません。この2管球搭載型装置というのはX線の出力源であるX線管球を2つ搭載している装置です。メリットは、撮影時間を通常の半分の時間にできるという点になります。この撮影時間というのは一般的な写真撮影で言うとシャッタースピードに当たります。
心臓は息止めをしても止めることができませんので、どれだけ高速にシャッターを切れるかどうかは非常に重要なポイントになります。この装置のシャッタースピードがどれだけ速いのかというと、現在のCT装置の1回転にかかる時間が約0.3秒程度ですので、その半分の0.15秒程度のシャッタースピードを確保することができる装置です。たいした差ではないように感じますが、これによって今まで心拍数が高くて綺麗に撮影できなかったような症例も撮影できるようになり、動きの早い大動脈弁なども静止した画像を得ることができるようです。今までは検査前にベーターブロッカーの服用をし、心臓の動きを緩やかにして撮影していましたが、このような前処置も不要になります。
この高速撮影は心臓以外の部位にも有効です。胸部CTなどは1秒以下で撮影でき、息止めの必要がないといわれるほどの圧倒的なスピードです。救急から小児までと幅広く活用されています。

図3

デュアルエナジー技術による石灰化除去

2つエックス線管から異なるエネルギーのエックス線を出力することにより、組織弁別が可能となるデュアルエナジー技術もこの装置が最初に商品化した技術になります。この技術を利用することにより、腎結石の性状を同定することや冠動脈や大動脈などに生じた石灰化を造影剤と分離して表示することなどができるようになります。また画質を綺麗にすることができる効果があり、腕を下した状態で撮影した腹部CT画像なども綺麗に観察できるようです。このほかにも、造影剤を濃く映すことが可能なので、造影剤を半分まで減らすことができます。この技術は現存の64列装置でもある程度可能な技術ではありますが、冠動脈撮影には利用できなかった技術であり、これで造影剤20cc以下での冠動脈撮影も可能となります。


図4

東芝の装置はシーメンスの装置とは異なり1回転で広範囲を撮影できるという点が特徴となっています。これは一般的な写真撮影でいうと「広角が広く撮れる」という表現が最も近いと思います。0.5ミリの検出器を320列配置することで、一度に160mmの範囲を撮影することが可能です。「面検出器CT」とか「ワイドカバレッジCT」などと表現されていて写真に示すようにかなり幅広の検出器が搭載されています。
この面検出器は東芝が世界に先駆けて開発した技術でした。

この装置の利点は広範囲を繰り返し撮影することができますので、血流解析などが可能です。臓器に造影剤が入ってくるところから出て行くところまでを繰り返し撮影するパーフュージョン検査と呼ばれるものの精度が向上します。パーフュージョン検査は現存の64列装置でも可能で頭部の動きの少ない部分でよく利用されていますが、このワイドカバレッジ装置ですと心臓のパーフュージョン検査も出きるようになります。心筋に取り込まれる造影剤をダイナミックに観察することができ、心筋虚血の有無を確認することができるようです。ただし、シャッタースピードが2管球搭載型と同じとはいきませんので心拍数が低めの患者様が対照となり限定的ではあります。
シーメンスの項でご紹介したデュアルエナジー技術に関しては、東芝の装置は1回目の撮影と2回目撮影で電圧切り替えを行うことにより2種類のエネルギー画像を得る方式です。簡易的でよいのですが、2度の撮影の間に時間が経過するため冠動脈などといった動きのある部位に対しては良い適応ではないようです。しかしこの点に関しては、ソフトウェアによる動態解析を利用し静止画を取得できるような工夫をしています。

図8


 

図7

GEの装置も東芝の装置と同様に160mmの幅を1回転で撮影することが可能なワイドカバレッジ装置です。東芝の装置と同様に血流解析等が可能ですが、心拍数に対して限定的となります。しかし、動態解析を使用したソフトウェアを利用し静止画を取得するような技術を搭載しており高心拍へも対応できるよう工夫されています。この動態解析ソフトウェアはGE社が最初に開発したもので、高い評価が得られているようです。
通常のヘリカルスキャンに関してはワイドカバレッジ装置の場合は少しスピードを落とす必要があることから、シーメンスの装置のような超高速ヘリカル撮影はできません。それでも写真に示すような冠動脈撮影と大動脈撮影の同時撮影を7秒ほどで可能にしています。

デュアルエナジー技術に関しては、このフラッグシップモデルでは東芝と同じように2回の撮影が必要となりますが、GE社はすでに1度の撮影中にエックス線管にかける電圧をミリ秒単位で変化させることで2種類のエネルギーのエックス線を出力させる技術を持っています。来年にはこの装置でも冠動脈にも対応可能な装置が発表されるものと期待されます。

図5


以上のようにフラッグシップモデルにはそれぞれに特徴があります。個人的にはシーメンスの技術が頭一つ抜け出ているように感じられます。しかし、一般の家電と同じように、最高位機種が一番売れているわけではなくそれぞれのニーズにあったものが売れています。特にコストや使いやすさという点で国産装置は日本では圧倒的に有利です。国内市場は東芝の装置が多数を占めており、近隣施設にも東芝の320列装置や64列装置が多数設置されています。日本が世界一のCT保有国であるのも東芝社の力によるところが大きいでしょう。
このようにCT装置の技術革新は目覚しいものがありますが、実はこのほかにも3D画像処理コンピューターなども大きく発展しています。また最近では手術前に3Dモデルを作成することで診療報酬の面で加点があったことから、3Dプリンタとの接続も一般的に行われるようになってきています。次回はこれらCT装置周辺機器についてご紹介できたらと思います。

(X線CT認定技師:保田 英志)R@H2015年11月号より