脳血流SPECT:統計解析による診断のポイントその1 ~統計解析の仕組み~


日頃脳血流SPECT(図1)の検査依頼いただき、厚く御礼申し上げます。脳血流SPECTの統計解析は認知症および神経疾患における核医学診断では標準的手法として恒常的に施行されております。

図1:spect
図1:spect

そこで今回は脳血流SPECT画像を統計解析する流れを紹介させていただきます。
当院では脳血流SPECT検査におきましては
・99mTc-ECDでは「eZIS」(図2)
・99mTc-HMPAOでは「iSSP」(図3)
という統計解析ソフトを使用し、脳外科依頼を含めて全ての脳血流SPECT検査に統計解析を行います。

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統計解析による手法とは~正常画像との比較~

・各年齢群におけるノーマルデータベースと比較

統計解析による手法は個々の脳血流SPECT画像につき、同年齢群の正常データベースと比較して血流が低下している部位を探し出す方法です。「同年齢群」という表現ですが、年齢毎に正常での脳の血流分布は異なります。そこで例えば55歳なら51~60歳の正常例の脳血流分布との比較、75歳なら71~80歳の正常例の脳血流分布との比較というくくりで解析を行うことになります。最近は高齢化に伴い、80歳代のノーマルデータベース(NDB)も追加されています。(図4)

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*同一年齢群と異なる年齢群で統計解析した場合の違い

年齢とは異なる年齢群のデータベースで解析を行うと違った結果をもたらすので注意が必要です(図5)。

NDBの違いによる解析結果の変化
図5:NDBの違いによる解析結果の変化 80歳代のノーマルデータベースを用いて比較すると後部帯状回の血流低下が明瞭に描出されています。

・標準化してから正常脳に重ねあわせます

もちろん脳血流SPECT画像について皆それぞれ血流分布はもとより、形状や大きさはそれぞれ少しずつ異なります。そこで個々の画像を一定の形に変換する「解剖学的標準化」という作業を行います。これにより、脳の大きさの差異、左右の歪みなども一定の形に置き換えることが可能になります。一方で正常データベースで得られた脳血流分布も同様に「解剖学的標準化」することで、個々の場所での血流分布を比較することが出来ます。

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次回は血流低下部位を抽出する仕組みについてお話しさせていただきます。

(核医学認定技師 荒田 光俊)

 

特集CT:手術支援3D画像処理


前回の特集ではCTにおける専用ワークステーションを使用した基本的な画像処理技術について記載させて頂きましたが、今回はその画像処理技術を利用したCTによる手術支援3D画像について大腸がんの症例を元にご紹介させて頂きたいと思います。
近年、腹腔鏡の技術が進歩し大腸癌の手術でも腹腔鏡下でおこなうことが多くなり、当院でも行われています。開腹術と比較し、腹腔鏡下での手技は当然ながら視野が狭くなります。手術前に腫瘍や血管等の位置を把握できるような3D画像を外科の先生に提供するようにしています。

術前支援3D画像

【下行結腸癌術前】

当院では大腸がん術前の時などにおいて造影剤を使用してのCTC撮影(後述)を行っています。造影剤を使用することにより、動脈・門脈を描出することが可能となり、さらに腫瘍も造影剤によって染まるため、血管と腫瘍の位置関係が鮮明になり、術前計画や術中の画像支援として有用であると考えています。
下の画像は下行結腸にできた腫瘍の術前の為、造影剤を使用したCTC検査を行った症例です。エアーイメージで大腸の走行、腫瘍の位置や形状が確認でき(赤丸)、さらに造影剤を使用することにより動脈・門脈の血管走行、腫瘍(赤矢印)への栄養血管を確認できます。

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CTCとは?

下に示した検査手順の通り、CT検査は肛門からチューブを挿入し(図1)、そこから空気を注入して大腸全体を十分に拡張させた状態で、仰向けとうつ伏せの2体位でCT撮影を行います(図2)。2体位で撮影することで、腸管描出不良部分を補完するだけでなく病変に見える残便を移動させて診断能を向上させることが可能となります。そして、得られた画像データは画像処理専用のワークステーションで処理することにより、空気だけを抽出したエアーイメージ画像や、仮想内視鏡画像という内視鏡検査を行ったような大腸画像を作成することができます。(図3)以上までを一般的にはCTC(CTcolonography)検査と呼ばれています。

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内視鏡挿入困難症例

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図は、エアーイメージとその病変部の拡大画像、さらに、カメラのイラストの方向から病変部を観察した仮想内視鏡画像になります。こちらの方は大腸内視鏡挿入が困難であったためCTCが検討され、このようにCTC検査によって病変の診断が可能になりました。当院では、この症例のように、腸管の屈曲が強い等の理由で内視鏡検査が困難であった方の多くがCTCを施行し、病変部の描出を可能にしています。

CTCは、わが国ではまだ特殊検査という位置づけですが、欧米では大腸がんのスクリーニング検査にも用いられており、当院でも多くの方が受けられております。これからも診断に役立てていただけるよう我々放射線技師は画像処理に取り組みたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。(江上 桂)

ピンクリボンアドバイザーをご存知ですか?


昨年11月に行われた、ピンクリボンアドバイザー認定試験を受験しました。
今回は、このピンクリボンアドバイザーについて紹介していきたいと思います。

いきなりですが、乳がん検診の受診率はご存知でしょうか。
がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)によると、乳がん検診の受診率は34.2%です(2013年)(グラフ1)。全国でピンクリボン運動が精力的に行われ受診率が増加しているとは言うものの、実際に検診を受けた人は3人に1人程度とまだ少ないのが現状です。
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では、どのようにすれば受診率が向上するのでしょうか。
認定NPO法人乳房健康研究会が2013年に行った調査によると、住民検診でマンモグラフィを受けた人の3割は「知人・友人」に勧められたと回答しています。このことから、乳がん検診を勧める人の存在が受診率向上につながると考えられます。
そこで、“乳がんの検診、治療、ピンクリボン運動などについて正しい知識を持って、まわりの人の乳がん検診受診のきっかけをつくる人”として、ピンクリボンアドバイザー認定試験が始まりました。認定試験は初級・中級・上級と3段階に分かれています。
それぞれ、乳がんに関する正しい知識を身に付け、

初級…自分自身の健康管理に役立てたり、家族や知人・友人などの身近な人に乳がん検診を勧めたりする

中級…職場や地域の人々に乳がん検診を勧め、乳がんの正しい知識を伝える

 さらに、乳がんに関するさまざまな問題を理解し、その解決のために行動する

上級…乳がん検診や乳がんを取り巻く環境改善のために、教育・指導・社会活動を主導する

ピンクリボンアドバイザーは、ピンクリボン運動の主旨に賛同する人なら誰でも受験するこができます。私が受験した際には、医療関係者はもちろん一般の方もたくさん受けていました。私は昨年の試験で初級を取得したので、今年は中級を取得したいと思っています。
これから、ピンクリボンアドバイザーの活躍により受診率の向上、そして乳がんの早期発見につながることを期待し、私自身もピンクリボン活動に積極的に参加していきたいと思います。(大山 薫)

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今月の症例(胸部レントゲン)


76歳男性、喫煙者。2016年5月の検診で異常を指摘されました。下の画像から考えられる疾患は?

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解答:右下肺野結節影の出現

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2014年8月の胸部単純写真と2016年5月の胸部単純写真をよく見比べると、右下肺野に結節影が新たに出現しているのがわかります。

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CTでも、右中葉の不整形の高吸収結節は、形態的には炎症瘢痕様にも見えますが、2014年から2016年にかけてやや増大していることがわかります。この方は当院で手術が施行され、病理の結果は腺癌でした。2016年5月の胸部単純写真では異常はややわかりにくいと思われますが、前回と比較するとはっきりしてきます。やはり、比較は非常に重要ということがよくわかります。今回の症例では単純写真もそうですが、胸部CT上瘢痕様でしかも、発育も非常にゆっくりとなっています。渡邊らの初回CTで瘢痕様陰影を呈した肺癌の39例の検討では、特徴として男性、喫煙者、既存肺に変化のある症例に多く、腫瘍の倍加時間が短く、特に既存肺変化群で予後不良例が含まれるため注意が必要で、初回CTから2-3か月以内のフォローが望ましく、その後のフォローも必要と述べています。
文献:渡邊 創ら。初回のCT画像所見が瘢痕様陰影を呈する肺癌の検討. 肺癌2009;49:1011-1018

放射線治療始動!(横浜栄共済病院の放射線治療装置のご紹介)


お世話になります、放射線技術科の江川です。
長らくお待たせしておりました放射線治療設備ですが、9月に治療装置の設置および調整が完了しついに10月1日よりスタートすることができました。現在、順調に運営が進んでおります。
そこで今回は予定を変更し、当院に導入された放射線治療装置および関連機器について紹介させて頂きます。

〇放射線治療装置(直線加速器:LINAC)

elekta-synergyこのたび当院に設置されたのはスウェーデンに本社をおくElekta社の装置で、Elekta Synergy®(エレクタ シナジー)と呼ばれる装置です。この装置では従来の治療ビームでの位置照合装置の他、リニアックのガントリ部にCT画像が撮影できるX-ray Volume Imaging (XVI)を搭載し、画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy:IGRT)が可能な治療装置です(写真)。治療ビームに対して垂直方向に kV電圧(CTで利用されるエネルギー)のX線管球とフラットパネル検出器を装備しており、2D撮影や連続撮影(透視撮影)だけでなく、コーンビーム技術による3次元のCT(Cone Beam CT:CBCT)を撮影できる機能を備えています。(図1)

図1:IGRT機能搭載
図1:IGRT機能搭載 XVI(kV撮影による照合)およびiView System(MV撮影による照合) FPD:フラットパネルディテクタ

治療患者を寝台上でポジショニングした後、ガントリを1回転させCBCTを撮影することにより、実際の治療位置で3次元CT画像を得ることができます。得られた3次元画像を専用のワークステーション上で治療計画のCT画像と重ね合わせを行い、位置誤差を計算し、得られた位置誤差を自動で補正することが可能で以前より正確な位置で照射を行うことができます。また、6軸補正が可能な治療寝台HexaPOD™ evo(図2)を搭載しておりますので、より高精度な照射時にもスムーズな位置照合を行い照射をするすることができます。

図2:6軸補正が可能な治療寝台HexaPOD
図2:6軸補正が可能な治療寝台HexaPOD

〇放射線治療計画CT

写真2 放射線治療計画専用CT TOSHIBA AquilionLB 16列MDCT
写真2 放射線治療計画専用CT TOSHIBA AquilionLB 16列MDCT

放射線治療計画専用CTは、東芝AquilionLBを導入しました(写真2)。LBとはLarge Bore(ラージボア)の略で、開口径(内径)900mm、画像化領域850mmΦを実現した16列マルチスライスCTになります。
画像化領域が診断用のCTに比べ350mmも広いため、放射線治療計画に重要な、体表面まで確実に含んだ撮影が可能です。ラージボアCTは、ポジショニングの自由度が広がるため、患者固定具を使用した撮影や通常の体位が困難な場合の撮影時などに大きな威力を発揮します。
CT寝台も治療寝台と同じカーボンファイバーのフラット天板を採用しているため、位置の再現性も高精度に保たれます。
アプリケーションでは、被ばく低減技術である逐次近似計算ソフトを搭載しており、最大50%のノイズ低減と、75%の被ばく低減効果を実現しています。
また、呼吸同期撮影機能も搭載しているので、呼吸に合わせた撮影も可能です。

〇放射線治療計画装置 Pinnacle3

放射線治療計画装置 Pinnacle3
放射線治療計画装置 Pinnacle3

高度な処理による治療計画の時間を大幅に短縮することができ、自動臓器輪郭抽出ソフトウェアや3Dボリューム抽出ソフトウェアを搭載しており膨大な輪郭作成の時間を大幅に短縮し、治療計画を行うことができます。
また計画時にマルチモダリティ(CT & MRI・CT & PET・CT & CT 等)な画像を活用し、ワンクリックで画像の自動重ね合わせ(オートイメージフュージョンソフトウェア)を実現できるため、より正確な治療計画を可能とします。

〇装置の品質管理について

放射線治療を安全に行うための品質管理機器も充実しております。線量測定に必要なファントムや線量計、ビームチェック装置や投与線量検証プログラム、治療計画線量分布確認システムなど、日常の管理ツールから高精度な品質管理ツールまで多数導入することができました。これらのツールを有効に使用し、放射線治療が安全に提供できるよう品質管理に努めていく予定です。

安全で安心できる放射線治療の提供を目標に、地域密着の放射線治療を目指して参りますので、先生におかれましては、適応の患者さまがいらっしゃいましたら、是非とも当院にご紹介して頂ければと思います。よろしくお願い致します。

次回は、今回紹介の予定であった放射線の種類を変る技術(粒子線治療)について紹介させて頂きます。

(放射線治療認定技師 江川 俊幸)

当院のGE社製 3T(テスラ)MRI装置のご紹介


3.0T(テスラ)MRIが当院に入ってから、早いものでもう3年が経過しました。事故もなく安全に検査をすることが出来ていると言う事は、何ものにも変えがたい喜びです。安全第一で今後もMRI検査を行っていきたいと思います。

そこで、今回はあらためて3.0T MRIのメリット・デメリット・安全上の注意点などを交え、紹介したいと思います。
現在、日本国内で人体に使用できるMRI装置には静磁場強度が、0.5T~3.0Tまで多種多様な装置があります。臨床機では3.0Tが最上位機種となります。また、実験段階ではありますが、すでに7.0TのMRI装置で人体の撮影も行われています。近い将来、7.0T の臨床装置が登場する日もそう遠くはないかもしれません。
静磁場強度が高くなる最大のメリットは、信号強度(signal/noise)が向上することにより、高分解能な画像が撮影できる様になることです。また、撮影時間の短縮も可能になります。(画像1)

MR1
画像1

わずかな磁化率の差が画像に影響するため、今までは見えなかったものが見えるようになることもあります。(画像2)

MR2
画像2

周波数の差が大きくなるため、T2強調画像やT1強調画像だけではなく、ASLやMRS(画像3)などもきれいに撮影できます。また、functionalやelastgraphyなども1.5T MRIよりきれいに撮影することが出来ます。

MR3
画像3:3T装置で撮影されたT2強調画像、T1強調画像(造影)、ASL画像、MRS

また、デメリットとしては、3.0T MRI対応の体内金属以外は検査が出来ません。冠動脈ステントも、5年以上前に挿入したものは3.0T MRIでの磁場試験を行っていない製品も多く存在するため、安全性が確認できないものに関しては1.5T MRIでの検査となります。また、他院で挿入した冠動脈ステントや体内金属などは、製品の型番が確認できて安全性が担保できなければ3.0T MRIでは検査を行わないようにしています。一番重要なことは、安全性の担保に尽きると思います。リスクを負ってまで3.0T MRIで検査する必要はありません。安全面が確認できない場合は、1.5T MRIで検査をおこなえば良いのです。2台を使い分けすることで、スムースな検査が可能となっています。磁場強度が増すと、それだけ金属の吸引力が増加します。もし誤って金属を持ち込むと、3.0T MRIは1.5T MRIの2倍の吸引力になるため、大事故になりかねません。3.0T MRIが納入された時から、金属に関しては今まで以上に慎重に対応するようになりました。実際に磁場の吸引力を体験すると分かるのですが、3.0T MRIは桁違いの磁力です。
3.0TのMRI装置はメリット・デメリットありますが、安全に使い分けを行えば非常にメリットの多い装置であることは間違いありません。患者さんにとって、安全に安心して検査が行えるように、これからも日々精進してまいります。

結石破砕治療の実際


今回は尿管結石の治療を行うESWL装置についてご紹介したいと思います。その前にご存知の先生も多いかと思われますが、専門外の先生やスタッフもいらっしゃるかと思いますので、まず尿管結石について簡単に復習してみたいと思います。

●尿管結石について

尿管結石とは「尿路」に石ができる病気で、その素材は尿に溶けこんでいるカルシウムやシュウ酸、リン酸などです。これらのミネラル物質が何らかの原因で結晶となり、有機物質も巻き込んで石のように固まってしまうのです。
なぜ石が出来るのかは尿路感染、代謝異常、ホルモン、薬など、原因のはっきりしているものもありますが、およそ約8割は原因不明です。2:1以上の割合で男性に多い病気です。
いったんこの結石ができると、石が細菌を増やし、細菌は石をますます成長させるという悪循環が起こり、腎盂腎杯の形そのままのサンゴ状結石となりやすいのが特徴です。

●サンゴ状結石

サンゴ状結石とは、結石関連物質が種々の条件下で結晶化し増大した結石が二つ以上の腎杯におよぶもののことをいいます。最近では、サンゴ状結石に対して経皮的腎結石摘出術(PNL)を行うことが多いですが、併用してESWLを行うことがあります。ESWLは体に傷をつけずに治療することができるという利点がありますが、サンゴ状結石の場合は大きい結石なだけにリスクもあります。そのひとつが“stone street”(ストーン・ストリート)と呼ばれる破砕した細かい結石の小片が尿道に詰まってしまう状態です。この状態になってしまうと尿管が結石により閉塞され腎機能の低下を引き起こす可能性があります。この状態になってしまった場合は、ダブルJなどの尿管ステントを挿入して再度ESWLをおこなって徐々に排石させていきます。次に実際に当院で行われた症例をご紹介します。

当院で行ったサンゴ状結石のESWLによる破砕

73歳男性。肉眼的血尿で来院され、CTでサンゴ状結石と診断された患者さんです。
そのサンゴ状結石に対してESWLを行いました。その結果、破砕されたものの“stone street”となりダブルJステントを挿入しました。その後少しずつ排石され腎機能も改善してきました。まだ尿管内に結石が残っているためダブルJは抜去できませんが、尿管内から排石されると抜去できます。少しずつ破砕の効果はあり、腎臓に残っている結石もそのまま大きくならなければフォローできます。当院のESWLは初回は入院していただくことが多いですが、その後は通院での治療が可能となります。尿路結石症は再発する頻度が高く、結石治療後も定期的受診による再発有無の確認、再発予防のための生活指導が重要になります。これから暑い季節になってきますと発汗などで水分不足になりがちです。水分補給もひとつの予防策になるので、水分補給を心がけるのもよいそうです。 (北畠 智子)

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知っているようで知らない!? レントゲンの基礎② ー撮影条件ー


前回、単純撮影の撮影条件は、X線管電圧、X線管電流、撮影時間で決まるというお話をさせて頂きましたが、今回は実際に当院での撮影条件を元に、どのような組み合わせで撮影しているかをお話させて頂きたいと思います。

大人と子供でこんなに違う撮影条件

単純撮影と聞いて、1番最初に思い浮かぶのはやはり胸部撮影ではないでしょうか?

当院でも最も撮影数の多い検査の1つとなっていますが、撮影回数が多いからこそ適正な撮影条件を組む必要があります。

実際に当院での撮影条件をお示しします。

管電圧(kV) 管電流(mA)  撮影時間(msec)
大人 120  100 32
小児 100  100 16
乳児 65 500  10

大人と小児では体格が違うので、管電圧(被写体コントラストを決定するもの)が違うのは当然のことですが、注目すべきは撮影時間ではないでしょうか?
胸部写真は息を止めて撮影しますが、乳児の場合息を止めての撮影はとても困難です。多くの乳児は泣き叫ぶので、息を吸った瞬間にタイミング良く撮影しなければなりません。しかし、撮影時間が長いとタイミングがズレてしまい、ブレた画像になってしまいます。ですので、出来るだけ撮影時間を短くし、ブレの少ない画像になるように心掛けています。
当院でも数年ぶりに産科が復活し、これから乳児を撮影する機会も増えてくると思います。
現在はこのような条件で撮影を行っていますが、機器の性能の向上に伴い、今後も検討する必要があります。

単純撮影は単純か?

決して単純ではなく、考慮すべき様々な内容が含まれています。しかもそれは、古典的なものから最新の撮影機器や最新技術に関係する重要なものばかりです。
CR装置では、撮影後に濃度調整機能や画像処理によって均一な黒化度が得られることから、撮影条件の選択から解放された気がしますが、それは誤りです。いくら画像処理を行おうが、センサーに入力される前の被写体コントラストを変化させることは出来ないので、検査に応じて適正な撮影条件を組むことが重要です。

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画像:Meiji Seika ファルマ株式会社HPより引用

 

今月の症例(膝MRI)


問題:下の画像から想定される疾患は?

図1-1:プロトン強調矢状断像
図1-1:プロトン強調矢状断像
図1-2:プロトン強調矢状断像
図1-2:プロトン強調矢状断像
図2-1:プロトン強調冠状断像
図2-1:プロトン強調冠状断像
図2-2:プロトン強調冠状断像
図2-2:プロトン強調冠状断像

解答:左外側半月板バケツ柄断裂

半月板のバケツ柄断裂は、半月板の縦断裂が前節から後節まで進展し、中央寄りの断片が顆間窩へ変位したものです(図4)。

図4:バケツ柄断裂シェーマ
図4:バケツ柄断裂シェーマ 引用元:http://www.judo-akimoto.com/sports_medicine16.htm

MRIの特徴的所見としては、本来あるべき位置の半月板が小さく変形している、冠状断像にて顆間窩にはがれた半月板の断片が認められる(fragment-in-notch sign)等があります。
図1-1では、図3の正常例で認められる半月板の蝶ネクタイ構造が認められなくなっています(absent bow tie sign)()。
図2-1では、顆間窩から外側顆背側にかけて異常な構造物が認められ()、フラップ状にはがれた外側半月板を見ているものと思われます。

図1-1:プロトン強調矢状断像
図1-1:プロトン強調矢状断像
図3:正常例
図3:正常例
図2-1:プロトン強調冠状断像
図2-1:プロトン強調冠状断像

 

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑤ マンモグラフィーの弱点


マンモグラフィーの弱点

第2回で高濃度乳腺を、第4回ではFAD(局所性非対称陰影)についてとりあげました。マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手です。マンモグラフィでは乳腺実質は白く描出されますが、腫瘍も白く描出されるため高濃度、不均一高濃度乳腺では病変がはっきり認識できないことがあります。

マンモグラフィで「がん」がどの程度描出されるのでしょうか。宮城県は全国にさきがけてがん登録を行っている数少ない自治体のひとつです。その宮城県では検診発見乳がんと中間期乳がんを合わせた解析を行い、マンモグラフィの感度を算出しています。(グラフ)

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乳腺の構成別にみると、脂肪性乳腺では感度91%であるのに対し、高濃度乳腺で51%にとどまります。40歳代ではマンモグラフィの感度は59%でした。60歳代の81%と比較するとかなり低いことがわかります。若年であるほど高濃度、不均一高濃度乳腺の割合が多いためと推察されています。

マンモグラフィーの弱点はどう克服する?

トモシンセシス撮影

マンモグラフィーの断層撮影のような画像を得ることができ、乳腺の重なりの影響を排除できます。当院では2015年3月より乳腺外来診療に、2016年4月より人間ドック部門の健診にトモシンセシスを導入しています。

超音波検査

40歳代女性に対する乳がん検診においてマンモグラフィを行う群とマンモグラフィに超音波 を加えた群の検診成績を比較し乳房超音波検査の有効性を検証するランダム化比較試験(J−START)の結果が昨年発表されました。マンモグラフィ群0.33%の乳がん発見率に対し超音波を加えた群では0.50%で、乳がん発見率が改善したと報告されています。

従来法とトモシンセシス

トモシンセシスは紙芝居のように、コマ送りの動画で読影するため、紙面で再現するのは難しいのですが、マンモの「やぶにらみ」を減らすには有効な手段と考えております。

従来法とトモシンセシス
従来法とトモシンセシス
写真1 不均一高濃度の背景乳腺
写真1 不均一高濃度の背景乳腺 左MLO 黄色で囲った部分に病変があります
写真2 従来法とトモシンセシス
写真2 従来法とトモシンセシス 従来法のマンモでは石灰化しか描出されません。トモシンセシスでは石灰化の背景にある腫瘤まで明瞭に描出されています
写真3 乳腺散在の背景乳腺 写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です
写真3 乳腺散在の背景乳腺
写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です

マンモグラフィ専用ビューワー

マンモグラフィは乳腺を折りたたんで撮影するので、マンモグラフィに描出されている病変が乳房のどの辺りに位置するかを推定することは、意外に難しいものです。当院で採用しているマンモグラフィ専用ビューワーMammodite®(Netcamsystems)には、病変の位置推定機能があり、簡便に気になった病変の位置を推定することができます。(図1)

図1 Mammodite®(Netcamsystems)
図1 Mammodite®(Netcamsystems)

超音波検査を行う際、超音波検査技師がマンモグラフィ読影結果を参照して病変位置を推定しながら検査を行うとより正確な診断にたどり着くことができます。検査方法の特徴を知って、うまく組み合わせることが肝要です。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗