核磁気共鳴装置と体内金属の果てしない戦い-メタルウォーズ!?-


MRIは強力な磁場を利用していることから、金属類は身に着けないように注意して撮影しているのは一般的にもよく知られているところかと思います。入れ歯や時計など体から取り外すことが出来る金属に関してはすべて外していただいていますが、心臓ペースメーカーなどをはじめとした体内金属デバイスに関しては取り外すことは出来ません。過去においてはこれらの体内金属が体に埋め込まれている方は検査を行うことは出来ませんでしたが、最近は磁場の影響を受けない非磁性体素材を用いた体内金属デバイスなど技術が進み、冠動脈ステントや脳動脈クリップなどが埋め込まれた方も撮影できるようになってきました。しかし撮影に制限があるデバイスもまだまだたくさんあり、撮影できるものとできないものがあるので複雑な状況となっています。今回はMRIと体内金属デバイスについて簡単にまとめさせていただきたいと思います。

3.0テスラ装置は体内金属要注意!

当院には2台のMRI装置がありそれぞれ磁場の異なる1.5テスラ、3.0テスラのMRI装置が稼働しています.3.0テスラMRIは、1.5テスラMRIと比較して画像情報が多く診断能が高いというメリットがありますが、静磁場上昇に伴い体内金属デバイスへの影響がより大きくなります。それは1.5テスラ装置では撮影可能な金属も3.0テスラでは撮影できないというようなケースがあるためです。
ではなぜそのようなことになるのでしょうか?これは1.5テスラと3.0テスラという磁場強度の違いによります。磁場の金属に対する吸引力は静磁場*(1.5テスラや3.0テスラなど)×空間勾配(その磁界の密度の違い)で決まります。
ですから、吸引力は1.5テスラよりも3.0テスラのほうが2倍大きくなるという計算になり、同じ金属デバイスであっても影響される力が違うため、デバイスによってはどちらの装置でも大丈夫と一概には言えないということになっています。

*静磁場とは?
もともとMRI装置に備わっている磁場のことで、その強さを静磁場強度という。例えば‘1.5テスラの静磁場強度のMRI’というように使われる。

吸引力半端ねーぜ

同じ磁場強度でも撮影できない時も・・

先ほど吸引力は静磁場×空間勾配と書きましたが、吸引力は静磁場だけでなく空間勾配というものによっても変わってきます。ですのでこの値によっては撮影の実施に制限が出てきます。例えば、同じ3.0テスラの装置でもこの空間勾配の値が違えば撮影できる時とできない時があるということも考えられるのです。

空間勾配とは
さて、この空間勾配というのはなんでしょうか?これは静磁場中の磁界の強さ(磁束密度)の変化率を表しています。MRI装置では装置周辺の磁場の強さの分布のなかに、その強さの違いが高いところと低いところがあります。それが勾配を形成しているわけです(図1)。通常この勾配は装置のボアと呼ばれる患者さんが入る穴の入り口のところが最大です。そして装置の形状などによりその値が変化します。そのため同じ3テスラ装置でも空間勾配に違いが生じます。例えば、同じメーカーの同じ静磁場強度の装置でもボアの構造などによって値が変化します。

添付文書の確認が大事
現在この空間勾配については装置固有の値として発表されており、また金属デバイスについてはそれぞれ添付文書に許容値が記載されております。そのデバイスの空間勾配の制限値がMRI装置固有の値より低くなっているかどうかを確認する必要があります。

MRI引っ張られるー

以上のように、現状では体内金属デバイスに対するMRI撮影は非常に複雑化しており、デバイスによって撮影装置が変わるため煩雑となっています。
ウェブ検査予約等で先生からいただいております検査依頼表に体内金属の有無等を記載する欄を設けており、いつもご記載をいただいており非常に助かっております。MRIの安全運用のためにも今後もご協力をお願いいたします。

*写真はGEヘルスケアHPより引用

摂食・嚥下障害検査をみる!


放射線科には直接関係ないのですが、摂食・嚥下障害検査で嚥下造影(videofluorography:VF)に立ち会う機会が最近増えてきましたので、今回これを紹介したいと思います。
摂食・嚥下障害とは、字の如く口から食べる機能障害のことで、普段私たちは意識していませんが、食べ物を口に入れて飲み込むまでに5つのステージがあるそうです。食べ物を認知する先行期、食べ物を良く噛む準備期、食べ物を後ろ側へ送る口腔期、食べ物が咽頭を通過する咽頭期、食べ物が食道を通過する食道期の5つです。これらのうち1つまたは複数機能しない場合を摂食・嚥下障害があるとされています。摂食・嚥下障害により、ご飯がうまく食べられないことによる栄養状態の低下や気道に食べ物が入ってしまう誤嚥性肺炎へのリスクがある他、ご飯が食べられないことによる食べる楽しみの喪失があげられます。原因としては高齢による飲み込みの筋力低下は一因ではありますが、最大の原因は脳卒中です。それが嚥下障害の40%を占め、急性期には30%の患者さんに誤嚥が認められるそうです。嚥下検査にはいくつかあるようですが精密検査としては嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(以下、VF)があります。今回、我々放射線科に関わりのあるVFを紹介します。

VF検査とは

この検査はTV室で透視をしながら検査をします、スタッフとして言語聴覚士(ST)、主治医、看護師、放射線技師で行なっています。バリウムが混ぜられている専用の検査食が用意され、とろみ、ゼリー、ヨーグルト、お粥など硬さの違う食べ物(写真1)を飲み込んでもらいます。基本的には坐位で検査を行い、言語聴覚士が介助を行いながら食物の飲み込みをしてもらい、その様子を透視で観察します。放射線技師はX線透視の調整と被ばくのコントロール、透視画像の記録を行っております。飲み込んだ食べ物が気管に入らないか、咽頭に残留がないか、坐位の角度によって嚥下状態に変化があるか、どの様な食形態ならば安全に食べることができるのかを評価します。

写真1

嚥下障害画像

30~40分程度の検査ですが誤嚥のリスクが非常に高いので常に吸引ができるよう準備をしています。透視画像は動画と音声を同時にDVDに記録保存し、スロー再生やコマ送りをして観察できるようにしています。検査の結果をふまえて、食事形態や食事時の姿勢の調節などを考察し、どのようなリハビリが必要か検討します。

当院CT撮影線量について


先生こんにちは 診療放射線技術科の石井です。先日「神奈川放射線学術大会」に参加し、
「当院におけるCT撮影線量と診断参考レベルとの比較検討」というタイトルで発表をさせていただきました。今回はその「当院におけるCT撮影線量」についてお話しします。

【医療被ばくの最適化とは】

医療行為に使われる放射線には線量制限が課せられていません。これは、仮に線量に制限を設けてしまうと患者さんの診断や治療に支障をきたすおそれがあるためです。例えば診断においては、線量が低すぎると画質が損なわれ、診断能の低下を招きます。逆に高すぎる線量は不必要な被ばくとなります。
そこで「医療被ばくの最適化」を目的として昨年公開されたのが、「DRL(診断参考レベル)」です。

【DRL(診断参考レベル)とは?】

DRL(診断参考レベル)はJ-RIMEと呼ばれる医療被ばくに関するデータの収集・実態把握を目的とした団体により策定されました。意義は、「放射線診断においてその値を超えた場合は線量を下げることを検討すべきである」というものです。ただし注意すべき点として、臨床的に正当な理由がある場合は超過してもよいこと、が挙がります(患者さんの体重や体格により、高い線量が必要とされる場合があるため)。あくまでも目的は医療被ばくの低減ではなく最適化です。また、DRLの数値は患者さんの被ばく線量(臓器吸収線量や実効線量)は示していない点にも注意が必要です。

【当院のCT撮影線量とDRLを比較】

今回私は当院で扱っているCTの撮影線量とDRLの値を比較、調査をしました。(グラフ1)
グラフ1はCTDIと呼ばれるCTにおける線量の指標を示しています。赤で示されたグラフが先ほど説明したDRLの値、青で示されたグラフが当院の線量になります。結果、全ての検討部位でDRLの値を大きく下回りました。特に冠動脈CTは被ばくが多くなる分野ですが、当科の値は大きく下回る結果となりました。これは病院が海外製の高額なCT装置を整備してくれたこと、そして循環器内科岩城医師が積極的に低被ばく撮影を推奨したこと、それに応じてスタッフもソフトウェアを応用するなどの工夫をしたことによる結果であると考えています。

CTDI

近年、原子力発電所の事故などにより放射線に対して多少なりとも抵抗を覚える患者さんはいらっしゃると思いますが、今回のこの結果がそういった方々の検査に対する安心感に繋がれば幸いです。
当院では常に患者さんの被ばく線量を考慮し、最適な画像を提供するように心がけております。今回行った調査により当院で扱っているCT撮影の線量はDRLを大きく下回りましたが、この結果に満足せずこれからも被ばく低減・画質向上に努めていきます。今後ともどうぞ宜しくお願いします。

医療被ばく低減施設を目指します!


いつも大変お世話になっています。技師長の高橋です。本号が発刊される際は、すでに新年度が始まっていると思います。当放射線科の谷部長は「1年目標を立て、期日を決め実行することは成長していくためにも重要である」とよく話をしてくれます。それとは別に病院でも勤務員評価制度が始まり、個人の目標値を決めて日々研鑽しています。
さて、2015年度の私の成果目標は、
1)CT Colonographyによるスクリーニングのルーチン化
2)日本診療放射線技師会が定める、医療被ばく低減施設認定の取得を目標としました。

1)に関しては医師の役割、技師の役割、看護師の役割の調整がつかず、ルーチン化を断念せざるをえない結果となってしまいました。
2)に関しては取得までは到達できませんでしたが、準備を始めるところまで行くことができました。

医療被ばくに関して、昨年J-RIME(医療被ばく研究情報ネットワーク)から、診断参考レベル(Diagnostic Reference Level; 以下DRL)の指標が公開されました。興味があれば、是非こちらを閲覧していただければと思います。
このDRLの指標というのはこうしなければならないというものではなく、自施設の医療被ばくがどの程度の位置にあるのか?といった現状を把握するためのものであるということです。間違えてはいけないのは、この値は標準値ではないということです。あくまでも医師と協同でこれくらいの画像の質であれば、この撮影条件で良い、というように診断に必要な画質を担保したうえで撮像条件(医療被ばく)を決めることに変わりはありません。

放射線被ばくに関しては昨今、新聞報道などで社会的にも感心が高まっており、関連学会でもその対応としてこのようなガイドライン作成などが進められております。この医療被ばく低減施設認定を取得することで、当施設で放射線検査を受けられる患者さんが安心して検査を受けていただけるようになればと考えております。
さて、実際に医療被ばく低減施設取得に向けてと申しましても、実際にどうやって良いかが全くわからず、関連病院で唯一取得している平塚共済病院に見学に行ってきました。まず、説明されたのがX線量の実測をしておくと良いということでした。実測をするには高価な線量計が必要です。当院では昨年、X線TV装置を更新した際に、スウェーデン製のUnfors Xiという線量計を購入していました。その点では取得に向けた費用は軽減されます。もうひとつ重要なことは、審査官が来た時に、こういった理由で被ばくに取り組んでいるということをきちんと証明できれば良いということでした。そのためにはマニュアル類の整備や、放射線に関わるスタッフ教育なども必要となります。
このように認定取得にはX線の実測以外にも様々なハードルがありかなり大変なのですが、個人のスキルを磨くとともに科の底上げ効果も期待できるものと思われました。将来的には栄区および連携医の先生のご施設などで撮影線量に関するアドバイスなども出来るようになればと考えています。今すぐにできるものではないのですが、向かっていく方向はこういう方向だよということを示し、スタッフとともに頑張っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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知っているようで知らない!? レントゲンの基礎① ー管電圧とはー


レントゲン基礎

単純撮影は当院で最も多く実施される検査ですが、先生の施設でも実施される機会が多いのではないでしょうか?
現在はCR装置*が主流となっていますので、患者様の体格にかかわらず均一で安定した写真が得られますが、私がこの仕事を始めた頃は、直接フィルムに撮影し、現像して画像を得ていましたので、撮影条件を誤ると診断出来ない画像になることもありました。
先生の施設ではどのようにして撮影条件を決めていらっしゃいますか?今回は撮影条件についてお話しさせて頂きます。

*CR装置
デジタルレントゲン装置、デジタルカメラと同じようにコンピューター側で濃度を補正します。濃度差が生じる事はないのですが、適正なX線量で撮影しないと被ばくが多くなる事もあります。

レントゲンの撮影条件とは

レントゲン写真は白から黒の濃淡で表されますが、この濃淡差のつけ方の違いはX線管電圧、X線管電流、撮影時間で決定します。この値を変化させるとX線の質と量を変化させることが出来ます。質が変化すると画像のコントラストが変化し、量が変化すると濃度が変化します。これら三つの条件を使い分けることが日常業務では重要になる場面が多くあります。

画像コントラストに関係する管電圧!

X線管電圧はX線のエネルギーのことであり、X線が物体を突き抜けるちから(透過力)がどのくらい大きいかに関係しています。つまり、X線管電圧を高くするとコントラストが低下します。例えば胸部レントゲンの場合、管電圧は120kVと高圧撮影で撮影します。管電圧を高くすることで、肋骨影や石灰化が淡くなり、肺内陰影が見えやすく、心臓、横隔膜に重なった肺野も観察出来ます。また、患者さんの被ばくも減少します。(画像1)レントゲン画像1

画像濃度に関係する管電流と撮影時間!

管電流とはX線の量を決めるものです。撮影時間とはシャッタースピードのことです。この2つをかけ合わせることによって写真の濃度が決定します。フィルム時代だった頃はX線の量が多すぎると真っ黒な写真が(画像2a)、X線の量が少なすぎると真っ白な写真が出てきました(画像2b)。この管電流(単位mA)と撮影時間(単位s)をかけ合せたものをmAs値(‘ますち’と呼びます)といいます。mAs値が同じ場合、写真の濃度は同じになります。

レントゲン画像2

このように、単純撮影における撮影条件は、まず管電圧を決定することで、X線の質を決めます。次に黒化度に大きく関係するX線の量を決定します。X線の量は、管電流と撮影時間の積で与えられることから、多くの組み合わせが考えられます。単純撮影はボタン1つで撮影できます。しかし、我々診療放射線技師はそのボタンを押す前に様々なことを考えています。
患者様の状態や体格等を考慮し、長年の経験から撮影条件を決め、より適切な画像を提供出来るように努めています。

次回は実際の撮影条件の組み立て方についてご説明したいと思います。

 

3DCT画像とその成り立ちについて


今回のCT特集では、画像処理技術について説明させていただきます。まず前置きとして、CT画像の成り立ちについて説明してから本題に入りたいと思います。

CT画像とは

CTで得られる画像は図1に示すような横断面(Axial断面)画像です。この画像は小さな四角形の集合体で構成されています。このマス目のX-Y方向をピクセルといい、通常512×512マス配置されています。これに厚み方向を合わせた立方体をボクセルとよびます。
このボクセルデータの集合によってCT画像は構成されています。 今回は日常診療でよく利用されるMPR法とVR法について紹介します。

図1

1枚1枚のAxial画像を積み重ねることにより下図のような3次元データとなります。そしてこの3次元データに対し種々の処理を加えることにより、様々な3D画像を得ることができるようになります(図2)。
下肢動脈の3D画像などでは約1000枚のCT画像を元に作成しています。

図2

日常診療で良く使われる代表的な3D画像処理を2つご紹介します

1.MPR(multi planar reconstruction)表示法

日常のCT検査で最も多く行われる3D画像処理です。
こちらの表示法は、日本語で「多断面再構成法」といい、任意の断面で画像を再構築する方法です。通常の横断(axial)画像のみでは把握しづらい場合等に、図に示した冠状断(coronal)や矢状断(sagittal)を追加する他、観察したい目的部分が最も良く観察できる断面(任意の断面)を再構築することができます。

図3

図4

2.VR(volume rendering)表示法

VR(volume rendering)表示法を説明するにあたって、最初にCT値について説明させていただきます。CTの画像は、CT値と呼ばれるCT画像特有の値で構成されています。人体を構成する物質のCT値は水を基準(CT値:0)として、相対値で表されます。CT値の低い方から高い方へ、黒から白の濃淡(グレースケール)で表すことにより画像化しています。例えば、図3の画像において点線で囲んだ部分に注目すると、この範囲は空気で構成されているためCT値は-1000となり画像上は黒で表現されています。
VR表示法とは、このCT値を調整することにより観察したい部分を立体的に表示します。また、CT値に対応した色と、画像に陰影をつけるための透過度の設定を行うことによって色をつけて表示することが可能です。CT値を狭めていくと皮膚面まで描出することができます。またCT値を上げていくと、臓器が見えてきます。さらにCT値を上げていくと、骨の描出ができるようになります(図4)。

図5

図6

VR画像の活用例

以前こちらで特集させて頂いた当院のマルチスライスCTでは、非常に薄いスライス厚で広範囲を短時間で撮影できるため、様々な画像処理を高精度に行うことが可能となっています。以下は、その画像処理技術の恩恵が高いものの一例です。

図7

図8

以上、今回はほんの一部ではありますが代表的な画像処理のご紹介をさせて頂きました。オートメーション化が進んではいますが、我々放射線技師がマニュアルで画像を作り込んでいく作業も多く、作成者の技術や知識が大変重要です。画像作成者としてより有用な画像作成ができるよう、画像処理技術を磨くのはもちろんのこと、ソフトとハード両面の進歩に柔軟に対応していきたいと考えています。(江上 桂)

図はCT適塾HP(:http://www.ct-tekijyuku.net/index.html)より引用改変させていただきました。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎④


局所的非対称性陰影(Focal Asymmetric Density:FAD)って何?

さて、この連載もおかげさまで第4回となりました。前回は石灰化についてとりあげました。今回は「局所的非対称性陰影」についてとりあげます。FADと略語で呼ばれることもあります。マンモグラフィ独特の所見用語で、耳慣れない用語かもしれませんが、マンモ業界では「腫瘤」「石灰化」とともに非常によく出てくる用語です。
右は横浜市乳がん検診票です。ご覧になったことがありますか?
マンモ独特の用語ですがある意味マンモグラフィ読影の特徴を表している用語だと思います。

図2

高濃度乳腺にできた乳がんは雪のなかの白うさぎ。白うさぎいる??=FAD

連載第2回目に高濃度乳腺をとりあげました。乳房は脂肪、結合組織、乳腺組織から成ります。乳腺組織は乳汁を生産する組織で、加齢とともに萎縮します。乳腺組織は、マンモグラフィ上白く描出されます。若い方や授乳経験の少ない方は乳房全体が白っぽく描出され、ご高齢の方や授乳経験の多い方は乳房全体が黒っぽく描出されます。X線吸収係数が大きい組織ほど白く、小さい組織ほど黒く描出されます。乳がんの係数は0.85 に対し乳腺組織0.80,脂肪組織0.45です。若い方の高濃度乳腺はほとんど脂肪を含まないので、このような乳房に乳がんができると背景乳腺との色の差が少なく非常に見えづらくなります。

図3

図4

症例1

下の症例は比較的濃度の高い背景にできた乳がんがあります。赤点線ががんの範囲です。超音波検査でみると3.5cmの腫瘤でした。背景乳腺が高いがために「腫瘤が隠れていそうだけど本当に??そうなの??」 こんなとき局所的非対称性陰影という所見用語をつかいます。

図5

図6

症例2

この症例は背景乳腺はそれほど高濃度でないが、がんが小さいためにはっきりとした腫瘤に見えない。でもなにか隠れていそう=「局所的非対称性陰影」とされた症例です。
切除検体のMMGでは乳腺の重なりの影響が排除されがんの存在がはっきり見えます。

図7

症例3

白っぽく見えてなにか隠れていそう?精査すると何も病変はなく正常乳腺でした。
乳房を折りたたんで撮影するので、乳腺がたくさん重なって撮影された部分は正常でも白っぽく浮かび上がって見えます。病変が隠れていそうだけど実は正常乳腺の重なり=これも「局所的非対称性陰影 FAD」と表現します。

図8

乳腺と病変の違いは非常にわずか・・

乳腺と病変のX線吸収の違いは非常にわずかです。そこを目一杯強調して検出するのがマンモグラフィです。マンモグラフィの読影は雪の中で白うさぎを探す、ジャングルの中で迷彩の兵隊さんを探す、闇の中で黒子をさがすようなものです。よく見えなくて確信できないけどなんか怪しい=「局所的非対称性陰影=FAD」です。
高濃度の若い人の乳腺では悪性病変があっても腫瘤として認識できず局所的非対称性陰影としてしか認識できないことも多いです。
局所的非対称性陰影の多くは正常乳腺の重なりですが、病変が隠れていることもあるので精査の対象となります。他に悪性病変を疑う所見が一緒にあれば病変の存在する確率が高くなります。

図10

あらためて考える「SPECT」の意義・その1


核医学検査で「SPECT」という言葉を耳にすることがあると思われます。「SPECT」はSingle Photon Emission CTの略で核医学ガンマカメラの撮影手技のひとつであり、X線CTなどと同様の断層撮影です。脳血流や心筋シンチグラムではこの手技が第1選択となります。一方で骨シンチグラムやガリウムシンチグラムでは全身像や局所の撮影は従来から第1選択であり、必要に応じてSPECT撮影を追加します。当院の実際としては、これらの検査においてはほぼ全例SPECT撮影を行っております。また腎レノグラムや唾液腺シンチグラムなどに代表される放射性医薬品を投与された後の経時的画像収集検査においても、SPECTは追加項目の検査になる場合があります。
唾液腺シンチグラムは過テクネチウム酸ナトリウム溶液(99mTcO4-:パーテクネテート)を投与し唾液腺への集まり具合やクエン酸刺激への反応を観察する検査です。シェーグレン症候群に代表される唾液腺分泌機能を評価する検査が唾液腺動態シンチグラムです。一方、唾液腺腫瘍などでWartin腫瘍や多形腺腫などの判別を目的として行う検査として唾液腺形態シンチグラムがあります。Wartin腫瘍や多形腺腫では投与された放射性医薬品は正常唾液腺と同様に必ず集積しますが。クエン酸刺激に対しては正常唾液腺が分泌排出されて唾液腺への集まりが低下するのに対し、Wartin腫瘍や多形腺腫では刺激に反応せずにそのまま留まっていることが判別のポイントとなります。
唾液腺形態シンチグラムではパーテクネテートを投与後、10分前後、20分前後、30分前後、40分前後で正面像、左右側面像の局所撮影を行います。20分での撮影を終えた後、クエン酸刺激反応を観察するためにレモンキャンディーを舐めていただきます。20分前後/30分前後の画像の差異を検討するのには正面像が従来重要視されて来ましたが、当院ではクエン酸刺激を行う直前にSPECT収集を行い、刺激後30分前後の局所撮影を行った後に続けて再度SPECT収集を行います。
下記は右耳下腺腫瘍疑いで施行された一例です。投与後20分の正面像撮影(図1)を行い、その後SPECT撮影を実施しております(図2)。クエン酸刺激後に投与後30分の正面像撮影(図3)を行い、その後同様にSPECT撮影を実施しております(図4)。正面像の比較でクエン酸刺激前後のある程度の判別は可能ですが、目的部位の実際の集積についてはSPECTを追加することによって、より鮮明になってきます。
経時的な撮影を行っている上でのSPECT撮影を組み込むので以前のガンマカメラではSPECTを収集する時間の確保がままなりませんでしたが、現在のガンマカメラでは「分解能補正+OSEM (Ordered Subset Expectation Maximization)」という画像再構成手法で短時間の収集(7分程度)でも鮮明なSPECTイメージを得ることが容易となったことでプロトコルが達成されています。次回は「分解能補正+OSEM」についてお話することにしましょう。

図11

IGRT :画像誘導放射線治療について


さて今回も前回に引き続き、がんの形や動きに合わせて照射をおこなう技術Part2をお送りします。
今回は、IGRTと呼ばれる治療技術をご紹介致します。IGRTはImage Guided Radiation Therapyの略で、日本語では画像利用放射線治療もしくは画像誘導放射線治療と訳されます。
放射線治療では、照射時に患者自身の位置変化であったり、体内臓器の大きさの違いや動き(腸管のガスや膀胱の容量、呼吸による肺や肝臓の動き)などで、照射位置がずれる場合があります。IGRTは、これらの位置ずれを、X線画像を利用して修正を行い、放射線を正確に病巣に照射する治療技術です。
IGRTでは、放射線治療室内で照射直前に、X線撮影やコーンビームCT撮影(CBCT)、X線透視などを行い、画像を取得します。得られた画像情報(治療直前画像)と実際に照射を行う画像情報(治療計画画像)を比較し、照射位置のずれ量を1mm単位で修正し、照射を行います(図2)。照射直前に位置照合をするため、精度高い放射線治療が行えます。また、IGRTを利用することにより、正常組織への照射を最小限に抑えながら、病巣への放射線の集中性を高めることが可能になります。現在、最も注目されている治療技術です。
IGRTは通常治療から高精度治療で幅広く利用されており、最近では呼吸による病巣の動きにも対応した照射(追尾照射や迎撃照射)も可能になっています。
当院に導入される放射線治療装置(LINAC)もX線撮影、CBCT、X線透視全ての機能を搭載しておりますので、IGRTが可能です。治療する疾患や照射部位により適切な位置照合方法を選択し、精度の高い照射を行っていきます。安全で安心できる(身体にやさしい)放射線治療を目指して行きますので、ご期待して頂ければと思います。

次回は放射線の強さを変えて照射をおこなう技術(強度変調放射線治療:IMRT)についてお送りします。

図13

図14

図2 画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radiation Therapy) 画像は東芝メディカルシステムズより提供

今後の画像読取装置(カセットタイプデジタルラジオグラフィーFPD)とは


デジタルレントゲンの元祖はCR

数年前までは、カセットにX線をあて中のフイルムを現像機で現像しシャウカステンで読影を行っていました(アナログ撮影)。その後、当院でもフイルムに変わりIPカセッテ(イメージングプレート)を使用するCR(Computed Radiography)システムに移行しモニターで画像診断するようになりました(デジタル撮影)。デジタル化されモニター診断が可能となり、様々な濃度で画像を見ることが可能になりました。
しかし、CRシステムではX線をあてたIPカセッテのデータを読み取り装置に入れ、読み取った画像をサーバーに転送し、読み取った情報を消去するなど作業工程に多くの時間がかかりました。

FPD (Flat panel Detector)とは

現在各社より発売されているX線自動検出装置FPD(フラットパネルデジタルラジオグラフィーFPD)は、簡単に言えば高級デジタル一眼カメラです。従来のIPに変わり、カセッテ内にフォトダイオード(検出器)が敷き詰められており、X線信号から電気信号への変換がカセッテ内のフォトダイオードで瞬時に行われ、同時に無線通信で撮影画像がモニター上にリアルタイムで出力されます。このフォトダイオードに記憶された画像は数秒間で消去され、次の撮影も直ぐ出来る特徴を持っています。
今までは病棟のポータブル撮影に数十枚のIPカセッテを用意しなくてはいけませんでしたが、1枚のバッテリー内蔵型カセッテで(1回の充電で)、100画像以上の撮影が可能になります。カセッテがワイヤレスタイプであるので、物理的な装置との接続も不要です。さらに被曝線量の低減(50%減)も可能だそうです。
ポータブル撮影業務の効率化はもちろんのこと、一般撮影室でも使用できる装置であり価格も発売当初より下がってきましたので、今後急速に広まる医療画像装置の一つと思います。

図1