知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑤ マンモグラフィーの弱点


マンモグラフィーの弱点

第2回で高濃度乳腺を、第4回ではFAD(局所性非対称陰影)についてとりあげました。マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手です。マンモグラフィでは乳腺実質は白く描出されますが、腫瘍も白く描出されるため高濃度、不均一高濃度乳腺では病変がはっきり認識できないことがあります。

マンモグラフィで「がん」がどの程度描出されるのでしょうか。宮城県は全国にさきがけてがん登録を行っている数少ない自治体のひとつです。その宮城県では検診発見乳がんと中間期乳がんを合わせた解析を行い、マンモグラフィの感度を算出しています。(グラフ)

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乳腺の構成別にみると、脂肪性乳腺では感度91%であるのに対し、高濃度乳腺で51%にとどまります。40歳代ではマンモグラフィの感度は59%でした。60歳代の81%と比較するとかなり低いことがわかります。若年であるほど高濃度、不均一高濃度乳腺の割合が多いためと推察されています。

マンモグラフィーの弱点はどう克服する?

トモシンセシス撮影

マンモグラフィーの断層撮影のような画像を得ることができ、乳腺の重なりの影響を排除できます。当院では2015年3月より乳腺外来診療に、2016年4月より人間ドック部門の健診にトモシンセシスを導入しています。

超音波検査

40歳代女性に対する乳がん検診においてマンモグラフィを行う群とマンモグラフィに超音波 を加えた群の検診成績を比較し乳房超音波検査の有効性を検証するランダム化比較試験(J−START)の結果が昨年発表されました。マンモグラフィ群0.33%の乳がん発見率に対し超音波を加えた群では0.50%で、乳がん発見率が改善したと報告されています。

従来法とトモシンセシス

トモシンセシスは紙芝居のように、コマ送りの動画で読影するため、紙面で再現するのは難しいのですが、マンモの「やぶにらみ」を減らすには有効な手段と考えております。

従来法とトモシンセシス
従来法とトモシンセシス
写真1 不均一高濃度の背景乳腺
写真1 不均一高濃度の背景乳腺 左MLO 黄色で囲った部分に病変があります
写真2 従来法とトモシンセシス
写真2 従来法とトモシンセシス 従来法のマンモでは石灰化しか描出されません。トモシンセシスでは石灰化の背景にある腫瘤まで明瞭に描出されています
写真3 乳腺散在の背景乳腺 写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です
写真3 乳腺散在の背景乳腺
写真3の右MLO 黄色で囲った部分が対側に比べ白く描出されています。局所的非対称性陰影、カテゴリー3と判定されます。トモシンセシスでみると、乳腺の重なりと判定できました。精密検査の際は超音波検査も行います。非対称性陰影と考えられた部位には、超音波検査では病変を認めませんでした。超音波検査もこのような所見の鑑別診断には有効な手段です

マンモグラフィ専用ビューワー

マンモグラフィは乳腺を折りたたんで撮影するので、マンモグラフィに描出されている病変が乳房のどの辺りに位置するかを推定することは、意外に難しいものです。当院で採用しているマンモグラフィ専用ビューワーMammodite®(Netcamsystems)には、病変の位置推定機能があり、簡便に気になった病変の位置を推定することができます。(図1)

図1 Mammodite®(Netcamsystems)
図1 Mammodite®(Netcamsystems)

超音波検査を行う際、超音波検査技師がマンモグラフィ読影結果を参照して病変位置を推定しながら検査を行うとより正確な診断にたどり着くことができます。検査方法の特徴を知って、うまく組み合わせることが肝要です。

外科乳腺甲状腺担当部長
俵矢 香苗

 

乳房トモシンセシスの使用経験-3Dマンモグラフィの実際-


昨年トモシンセシス(3D)撮影ができるマンモグラフィ装置「Selenia Dimensions」(Hologic社製,販売:日立製作所)が導入されたことをお伝えしてから早いもので1年が経ちました。
この1年でトモシンセシスの有効性を実感できる様々な臨床症例を経験しました。そこで今回は、使用経験についてお伝えさせて頂きます。

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当院では診療受診者は初診・再診に関わらず全員combo撮影を実施しています。cobmo撮影というのはトモシンセシスと通常のマンモグラフィ(2D)が1度の圧迫で同時に撮影できるというものです。撮影時間は1方向8秒ほどで完了します。
トモシンセシスはマンモグラフィの弱点であった乳腺の重なりを排除できる画像が得られるため、通常より強い圧迫を必要としないという議論もなされていますが、乳房を薄くすることで被ばく線量を減少させられること、motion artifactを回避できることを考慮して、できるだけ圧迫をして撮影を行っています。
通常のマンモグラフィよりもわずかではありますが圧迫時間が長くなるため、当初は患者さまの負担を心配していました。しかし、お話を伺うと負担は全くと言っていいほどありませんでした。実際の患者さまの反応をご紹介させて頂きます。

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◆ 圧迫時間の延長に気付かない、違和感のない方が大多数

◆ 圧迫を弱めたりはしていないにも関わらず以前の機械より痛くないという声が多い

◆ 3D撮影ができることへの喜び、興味が大きい

◆ 一方で、少数ではあるが従来のマンモグラフィより詳細に描出されることへの不安を抱く方もいる

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症例1

昨年、芸能界で話題となった「乳頭直下の腫瘤」です。2D画像(左)では見落としてしまいそうですが、トモシンセシス画像(右)では境界明瞭な腫瘤をしっかりと認めます。

症例2

2D画像(左)でも境界が微細鋸歯状な腫瘤を認めますが、トモシンセシス画像(右)では辺縁にスピキュラが伴っている(ピンクの矢印部分)ことが認められます。
それに加えてさらに胸壁寄りに2Dでは確認できない構築の乱れ(赤い矢印部分)が認められます。こちらは術後の病理結果でdaughter lesion(娘病変)と診断されました。

症例3

2D画像(左)では背景の乳腺濃度が高いため所見を認めるのが困難です。トモシンセシス画像(右)では乳頭方向に辺縁にスピキュラを伴うFAD(ピンクで囲まれた部分)が認められます。
それに加えて構築の乱れ(赤で囲まれた部分)が認められます。こちらは術後の病理結果で副病変と診断されました。

症例4

2D画像(左)でも乳頭方向に構築の乱れが認められますが、トモシンセシス画像(右)ではよりはっきりと構築の乱れ(ピンクで囲まれた部分)が認められます。
それに加えて境界が辺縁明瞭な腫瘤(赤い矢印)を認めましたが、こちらはUSで線維腺腫と診断されました。

症例4-2

上記の画像の対側である右乳房の画像です。トモシンセシス画像(右)でFADが認められました。


実際の症例を提示しながら、トモシンセシスの使用経験について述べさせて頂きました。

トモシンセシスは乳腺の重なりという弱点を打開する新たな技術であり、病変の検出、辺縁の詳細な描出、広がりの把握等に有効であることが分かりました。また、明らかな乳癌所見に対しては2D画像でも判断できますが、daughter lesion(娘病変)や副病変の有無、対側乳房病変の発見にも有効であると感じられました。動画でないと分かりづらいため症例は提示しませんでしたが、検診においてFAD等を指摘され要精密検査となり3D撮影を施行し、正常乳腺の重なりであることが明らかになり異常なしと判断された症例も経験しました。石灰化病変においては2D画像だけで十分な形態診断は可能だと感じました。しかし、マンモトーム対象症例においてはトモシンセシス画像により石灰化の深さ方向まで把握できるため、非常に有用です。今後も使用経験を重ねていく上で、トモシンセシスの可能性をさらに見出していきたいと思います。

(マンモグラフィ認定技師 塚川 知里)

3D画像処理の実際


前回のCT特集ではCT画像の成り立ちから3D画像の作られ方、そして画像の種類について江上技師が紹介しました。今回は3D画像ができるまでの実際の流れを当院の最新型ワークステーションを例にご紹介したいと思います。

3Dワークステーション

3D画像は簡単なものですとCT装置の中に入っているソフトウェアで作成することも可能ですが、機能に制限があり専用の画像処理装置を用いるのが一般的です。
当院ではザイオステーションと呼ばれる日本製のソフトウェアを使用して画像処理を行っています。実際の流れとして腹部血管の画像処理をご紹介します。
マルチスライスCTではCT画像を撮影しますと自動的に1ミリスライス以下の画像が再構成され、装置からザイオステーションへ自動転送されます。その画像は部位にもよりますが300枚から1000枚くらいです。この画像をワークステーションで展開するとこのような画像が出来上がります。 (写真1)

CT1

実際の画像処理の流れ

これだけでも十分きれいな画像といえるのですが、実はこの程度のことは最近のCT装置であれば装置付属のソフトウェアでも作ることができます。しかし、この画像は色合いだけを変更しているにすぎません。CT画像はその濃度差で大まかな組織がわかりますので、それにあわせてこの濃度は筋肉だから赤黒黄色っぽい色、骨だから白、血管だから赤などという感じで色付けしている画像になります。ですから細かく見ると、造影剤も骨も同じような色合いで表現されており、血管と骨の違いが認識しづらくなります。

 

専用ワークステーションの威力

そこで実際にはワークステーションを利用してひと手間加えます。

その作業というのは1個のCTデータを分割し骨だけのデータ、血管だけのデータといった具合に厳密に切り分けを行う操作です。そうすることによりそれぞれに別々の色をつけて最終的に一つの3D画像に戻してあげるということができ、それぞれのコントラストが明確になります。

こちらは処理前の画像です。3D画像の濃度を変更させると実際に存在しているデータすべてが表現できます。これが本当の実データで、立方体となっています。(写真2)

CT2

この立方体を濃度変化だけで表現したのが先ほどの画像になります。(写真1)ここから専用ワークステーションで立方体のなかから、この部分は骨、この部分は造影剤だという風に切り分けを行うことで、血管だけを描出したり、骨だけを描出したり、また大動脈と門脈や肝静脈を色分けしたりということができるようになります。実際には、画像の濃度差を利用して分けていきます。

実際の切り分け手法

一番簡単な例をご紹介します。腹部大動脈の症例でこれを血管と骨に分離します。最初に濃度を変更します。CT画像上もっとも白く映る「骨」以外が消えるような濃度まで設定を変更し、この状態で骨を消すという指令をかけます。(写真3、4)そうするとここに見えている骨だけが消えます。

CT3

しかし、このままの濃度だと大動脈も見えません。ですので、血管が見えるような濃度にもどしていきます。すると、大動脈が見えてくるのと同時に消しきれなかった骨の薄い部分がみえてきます。 (写真5)そうしたら今度は血管を残すという処理をかけます。すると血管だけを残すことができます。(写真6)

CT4

この様なことを繰り返し行って大動脈と骨のそれぞれの3Dデータを作成します。ここからそれぞれに色付けを行います。骨は白で、血管は赤といった感じです。質感を持たせるためにカラーにはグラデーションをつけたりしています。するとこのように血管だけをはっきり観察できる画像をつくることができます。(写真7)

さらに血管の画像と骨の画像を組み合わせたり、骨だけをすかせて表現することも可能となります。(写真8、9)

CT5

画像処理の基本はこのような「骨はずし」と呼ばれる手法が基本となります。実際はこのほかにも冠動脈の画像処理のように、冠動脈の屈曲に合わせて画像を切り出す処理やサブトラクションといって造影剤の使用前後で画像同士を引き算して造影剤だけを画像化する頭部血管画像処理(写真10)、空気だけを表現して大腸の走行をみたりするCTC画像処理(写真11)といった骨はずし以外の画像処理も多々あります。処理には時間がかかるものとかからないものとがあり、その差は症例によるところが大きいと感じています。

CT6

先日、横浜で行われた学会と機器展示に参加し最新型のワークステーションを拝見してきました。最近のワークステーションは自動で画像処理をしてくれるようなものもあり、画像を転送しただけで自動的に骨を外してくれるそうです。しかし血管の走行や骨の変形などは症例によって変わってくるため、すべての症例で自動処理がうまくいくというレベルには至っていないようでした。しかし、これらのパターンマッチング技術に関してはビッグデータが活用され、最近話題の人工知能も用いられるようになれば今後解決されるのではないかと思っているのですが、それはそれでこちらが困ってしまうな~とも思っています。汗(^▽^)汗

保田 英志 (X線CT専門技師および肺がんCT検診認定技師)

 

当院の健診センターがリニューアルされました!


当院のリニューアル工事が進行中であるのは、すでにご存知であると思いますが、待望の第一期工事がこの春に完了いたします。今回竣工する新B棟には、病棟のほか、放射線治療施設や薬剤部、職員食堂などのほか、私どもが勤務します健康医学センター(健診センター)も入ります。これを機にセンター常設のX線機器も更新されますので、この紙面をお借りして、新機種のご紹介をさせていただきます。
当科の診療放射線技師は「安全に精度の高い検査や治療を低被ばくで提供する」という共通目標で日々業務を行っていますが、まさにそれを実現するためのサポート役として、申し分ないデヴァイスを手に入れることができました。特に安全面においては、被検者様にご協力していただき体位変換をお願いしている胃X線検査の前壁撮影逆傾斜時の安全をサポートしてくれる「自動肩当て装置」の存在は、我々としても待望の装置であり、昨年あった群馬での死亡事故のような危険は回避するのは当然ですが、被検者様にも検査時の安心感をご提供できると強く思う次第であります。胸部X線装置も更新され、X線TV同様、高精細な Panel Detector(FPD)の搭載モデルが導入されたことも精度をさらに向上させる一因となることを期待します。また、近年、話題になりがちな放射線被ばく管理についても、今回導入された装置はいずれも、一検査あたりの入射線量(計算値)がリアルタイムで表示され、効率よく管理することができます。胃X線検査を行うFPD搭載X線TV装置(写真1、2)は、パルス透視やDose rateを設定することができるため従来の機器より半分の透視線量で検査を行うことができます。今後、これらの装置の至適な安全運用と精度向上の手技を模索していこうと思っております。
センターのオープンは6月半ばの予定です。この稿がお目にかかる頃にはすでに軌道に乗っていると思います。もちろん先生のご利用も心よりお待ち申し上げております。

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少し宣伝をさせていただきます。
当院健康医学センターでは、より多くの方が便利にご利用いただけるよう、基本人間ドック、脳ドック、乳がんドックがインターネットで予約できるようになりました。当院ホームページの健康医学センターのバナーより入ることができます。どうぞご利用ください!
また、センターの公式Facebookページも開設されましたので、併せて、よろしくお願いいたします。

横山力也 (日本消化器がん検診学会認定 胃がん検診専門技師、NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構 胃がん検診読影部門 B資格)

3年目の「脳DATスキャン」


脳核医学画像診断「脳DATスキャン」:ドーパミントランスポータシンチグラフィー(図1)については当院でも検査開始から3年目へ突入しました。最近では幾つかのご施設から検査依頼の御紹介いただき厚く御礼申し上げます。
3年目に入った節目として、改めて脳DATスキャンのおさらいをしてみます。

1)基本原理

①神経伝達物質であるドパミンはシナプス小胞に包れ、シナプス間隙に放出されます。

②放出されたドパミンはドパミン受容体に結合し、信号が神経細胞に伝達されます。

③シナプス間隙のドパミンはDATにより再取り込みされ、シナプス小胞に貯蔵されます。

④ドパミン神経の変性・脱落がみられるPDでは、ドパミン神経の減少とともにDATが減少します。

下記図1にて健常例とパーキンソン病例を提示します。

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2)画像評価

①視覚評価

線条体部位の形状を評価します。検査開始当初は線条体への集積が正常では「勾玉(まがたま)」、「三日月」「カンマ」、異常では「ドット」かという見分け方が典型とされていました。(図2)

DAT2

最近では左右の対称性、非対称性も視覚評価のポイントとして重要視され、特に被殻後部から集積低下が始まることが着目されています。(図3)

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②定量的評価

投与された放射性医薬品(DATスキャン:123I-イオフルパン)の線条体への集まり具合を数値化して評価する方法で線条体以外の部分、すなわちバックグラウンド(BG)を1とした場合の線条体の集積比をSBR(Specific Binding ratio)と称す数値とします。現在、全国的に「DATView」という解析ソフトウェアが広く使用されております。前の視覚評価で取り上げた左右の集積比であるAIという指標も作成しております。(図3)

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3)DATスキャン:3年目の現場の取り組み

この4月に従来の「DAT View」を含む核医学解析ソフト「隼」を導入し、新たな展開を迎えようとしています。

従来の「DAT View」では構成する断面をAC-PCラインに合せて再構成していましたが、実際のSPECT断面からAC-PCラインを同定するのはかなり困難な作業でした。(図4)

DAT4

新規ソフトウェアの導入にて「Assist AC-PC」という機能が加わり、これまで困難であったAC-PCラインの自動同定によって処理作業の煩雑さが解消され、併せて処理解析による誤差も解消しております。(図5)

DAT5

現在、神奈川県内13施設において同一の最新型線条体ファントムを用いた多施設共同研究が展開されております。施設および機器による測定誤差等を解析し、施設間差を是正する標準化作業の一環として取り組んでおり、当院も参加させていただいております。3年目を迎え、より正確な検査が出来るよう、今後とも様々な点からアプローチして行く所存であります。(核医学認定技師 荒田 光俊)

*神奈川県線条体ファントム多施設共同研究参加施設

東海大学医学部付属病院、北里大学病院、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学藤が丘病院、横浜市立大学横浜市総合医療センター、横浜市立大学医学部附属病院、新百合ヶ丘総合病院、、帝京大学溝口病院、横浜みなと赤十字病院、川崎市立川崎病院、済生会横浜市東部病院、関東労災病院、横浜栄共済病院

 

IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)とは?


さて今回は、放射線の強さを変える技術について説明させて頂きます。IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)という治療技術です。日本語では強度変調治療と呼ばれます。お聞きになったことがあるのではないでしょうか?
IMRTは、照射野内で不均一な線量分布を作成しながら照射をおこないます。通常の照射方法では、正常組織にも同じように放射線が照射されてしまいますが、IMRTは放射線の強度を変化させ、多方向から照射をおこなうことで、病巣へ線量を集中させ、正常な所に照射される量を少なくすることができます。つまり、IMRTは病巣への線量集中と正常組織の線量低下を一変にかなえることが可能な高精度な照射技術となります(図3、図4)。この技術の登場により、従来では実現不可能であった放射線治療が展開できるようになったため大幅に悪性腫瘍の治療方法の選択が拡がりました。

IMRTにはSMLC-IMRT、DMLC-IMRT、Compensating filter IMRTなどの手法があります。それぞれ紹介致します。
(1) SMLC-IMRT(Segmental MLC-IMRT)
別称step and shoot法と呼びます。MLC形状の異なった複数の照射野を重ね合わせることにより、1つの照射野を作成し照射をおこないます。多数のMLCパターン(セグメント)の合成による照射方法です。
(2) DMLC-IMRT(Dynamic MLC-IMRT)
別称sliding window法と呼びます。照射中にMLCを連続的に動かし、左右1対のリーフの運動速度の差により強度を変調させ照射をおこないます。
(3) Compensating filter IMRT
別称physical modulator IMRT(補償フィルタ強度変調放射線治療)法と呼びます。専用の補償フィルタを用いてビーム強度プロファイルを作成し照射をおこないます。

現在IMRTの適応は、頭頸部腫瘍や前立腺がんが主流ですが、乳がんや肺がんなど、その他の疾患でも積極的に検討がなされています。近い将来、IMRTが通常の照射法となるかも知れません。また、IMRTの照射技術も日々進化しております。最近ではより高技術なVMAT(Volume Modulated Arc Therapy:強度変調回転照射)※3と呼ばれる照射法もおこなわれる様になっています。
当院でもIMRT可能な治療装置を導入しました。こちらの方も順次準備を整えていきたいと考えていますので、ご期待頂ければと思います。

次回は、既に放射線治療が開始していると思います。順調にスタートしていれば良いのですが…
ということで次回は、放射線治療の開始報告と放射線の種類を変る技術について紹介させて頂きます。

(放射線治療認定技師 江川 俊幸)

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※1コミッショニング
各施設に納入された高エネルキー放射線治療機器特有の放射線出力の状態について、測定・数値なとの登録・確認を行い、品質か管理されていることを確認すること.受入れ試験に引き続きおこなう一連の作業行程.
※2モデリング
治療計画装置にビームデータや加速器のパラメータを登録し、計算アルゴリズムに応じた関数の設定をビームデータに合わせ込み、最終的にビームデータを承認するまでの作業.
※3VMAT
IMRTの進化形であり、ガントリーを回転しながらX線量を加減し治療を行います.IMRTより良好な線量分布を達成しつつ、治療時間の短縮が可能のため患者の負担が軽減できる.

CT所見を利用した脾臓の重症度分類


2015年12月と1月の2か月間、放射線科で研修させていただいた初期研修医2年目の金澤将史と申します。私は救急科志望であり、広い救急の分野の中でも外傷救急は画像診断の果たす役割が大きいと日々の臨床経験を通して実感しています。今回、脾臓の損傷と治療方針選択にあたってCT所見を利用した重症度分類を用いることの有用性を検討する論文を見つけましたので、その内容を紹介させていただきます。

Nitima Saksobhavivat、 MD et al.
Blunt Splenic Injury: Use of a Multidetector CT–based Splenic Injury Grading System and Clinical Parameters for Triage of Patients at Admission
Radiology 2015;274:702-711.

鈍的脾損傷に対しては、循環動態や腹膜炎の有無をもとに手術または非外科的治療が選択され、脾動脈塞栓術も一般的に行われるようになっています。しかしながら、治療法を選択するためのガイドラインやコンセンサスはありません。一方で、脾損傷の重症度評価のためのCT所見に基づいたグレード分類システムが開発され、最適な治療のためには動脈相と門脈相の2相性CTが重要という報告もされています。ここでいうグレード分類システムというのは、血腫(画像1 グレード3 3cmより大きな実質内血腫)や活動性出血(画像2 グレード4a  活動性実質内出血)などのCT所見をもとに脾損傷の重症度を分類するもので、グレード 1、2、3、4a、4bに分類され数字が大きいほど重症度が高いというものです。論文では、鈍的脾損傷患者に適切な治療(保存的治療、脾動脈塞栓術、手術など)を選択する際、2相性CTに基づくグレード分類システム及び臨床パラメータを使用した場合の有用性を評価しています。入院時にCTを施行した鈍的脾損傷患者171人を対象としたレトロスペクティブな検討です。CTグレード分類で重症度の低かった症例(グレード 1~3)は保存的治療のみでその他侵襲的な治療を要さなかった例が多く、グレード分類の重症例(グレード 4a、4b)の多くは手術や塞栓術などを必要としました。筆者たちは、鈍的脾損傷においてCTによるグレード分類システムは保存的治療成功例の最良の予測因子であると結論付けるとともに、動脈相と門脈相の画像を適用して脾損傷による活動性出血や非出血性血管損傷を識別しやすくすることが、正確な損傷の分類や治療方針決定に必須であると述べています。
外傷診療における重症度評価や治療方針決定にCTがいかに有用であるかを改めて認識するような報告でした。外傷初期診療ガイドラインでもCTは画像検査の中心に位置づけられており、機器の性能向上と撮影時間短縮により、ますますその有用性が指摘されています。全身CTや撮影のタイミングについてはまだ検討の余地がありますが、今後も外傷診療において中心的役割を担うものと考えられます。

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核磁気共鳴装置と体内金属の果てしない戦い-メタルウォーズ!?-


MRIは強力な磁場を利用していることから、金属類は身に着けないように注意して撮影しているのは一般的にもよく知られているところかと思います。入れ歯や時計など体から取り外すことが出来る金属に関してはすべて外していただいていますが、心臓ペースメーカーなどをはじめとした体内金属デバイスに関しては取り外すことは出来ません。過去においてはこれらの体内金属が体に埋め込まれている方は検査を行うことは出来ませんでしたが、最近は磁場の影響を受けない非磁性体素材を用いた体内金属デバイスなど技術が進み、冠動脈ステントや脳動脈クリップなどが埋め込まれた方も撮影できるようになってきました。しかし撮影に制限があるデバイスもまだまだたくさんあり、撮影できるものとできないものがあるので複雑な状況となっています。今回はMRIと体内金属デバイスについて簡単にまとめさせていただきたいと思います。

3.0テスラ装置は体内金属要注意!

当院には2台のMRI装置がありそれぞれ磁場の異なる1.5テスラ、3.0テスラのMRI装置が稼働しています.3.0テスラMRIは、1.5テスラMRIと比較して画像情報が多く診断能が高いというメリットがありますが、静磁場上昇に伴い体内金属デバイスへの影響がより大きくなります。それは1.5テスラ装置では撮影可能な金属も3.0テスラでは撮影できないというようなケースがあるためです。
ではなぜそのようなことになるのでしょうか?これは1.5テスラと3.0テスラという磁場強度の違いによります。磁場の金属に対する吸引力は静磁場*(1.5テスラや3.0テスラなど)×空間勾配(その磁界の密度の違い)で決まります。
ですから、吸引力は1.5テスラよりも3.0テスラのほうが2倍大きくなるという計算になり、同じ金属デバイスであっても影響される力が違うため、デバイスによってはどちらの装置でも大丈夫と一概には言えないということになっています。

*静磁場とは?
もともとMRI装置に備わっている磁場のことで、その強さを静磁場強度という。例えば‘1.5テスラの静磁場強度のMRI’というように使われる。

吸引力半端ねーぜ

同じ磁場強度でも撮影できない時も・・

先ほど吸引力は静磁場×空間勾配と書きましたが、吸引力は静磁場だけでなく空間勾配というものによっても変わってきます。ですのでこの値によっては撮影の実施に制限が出てきます。例えば、同じ3.0テスラの装置でもこの空間勾配の値が違えば撮影できる時とできない時があるということも考えられるのです。

空間勾配とは
さて、この空間勾配というのはなんでしょうか?これは静磁場中の磁界の強さ(磁束密度)の変化率を表しています。MRI装置では装置周辺の磁場の強さの分布のなかに、その強さの違いが高いところと低いところがあります。それが勾配を形成しているわけです(図1)。通常この勾配は装置のボアと呼ばれる患者さんが入る穴の入り口のところが最大です。そして装置の形状などによりその値が変化します。そのため同じ3テスラ装置でも空間勾配に違いが生じます。例えば、同じメーカーの同じ静磁場強度の装置でもボアの構造などによって値が変化します。

添付文書の確認が大事
現在この空間勾配については装置固有の値として発表されており、また金属デバイスについてはそれぞれ添付文書に許容値が記載されております。そのデバイスの空間勾配の制限値がMRI装置固有の値より低くなっているかどうかを確認する必要があります。

MRI引っ張られるー

以上のように、現状では体内金属デバイスに対するMRI撮影は非常に複雑化しており、デバイスによって撮影装置が変わるため煩雑となっています。
ウェブ検査予約等で先生からいただいております検査依頼表に体内金属の有無等を記載する欄を設けており、いつもご記載をいただいており非常に助かっております。MRIの安全運用のためにも今後もご協力をお願いいたします。

*写真はGEヘルスケアHPより引用

摂食・嚥下障害検査をみる!


放射線科には直接関係ないのですが、摂食・嚥下障害検査で嚥下造影(videofluorography:VF)に立ち会う機会が最近増えてきましたので、今回これを紹介したいと思います。
摂食・嚥下障害とは、字の如く口から食べる機能障害のことで、普段私たちは意識していませんが、食べ物を口に入れて飲み込むまでに5つのステージがあるそうです。食べ物を認知する先行期、食べ物を良く噛む準備期、食べ物を後ろ側へ送る口腔期、食べ物が咽頭を通過する咽頭期、食べ物が食道を通過する食道期の5つです。これらのうち1つまたは複数機能しない場合を摂食・嚥下障害があるとされています。摂食・嚥下障害により、ご飯がうまく食べられないことによる栄養状態の低下や気道に食べ物が入ってしまう誤嚥性肺炎へのリスクがある他、ご飯が食べられないことによる食べる楽しみの喪失があげられます。原因としては高齢による飲み込みの筋力低下は一因ではありますが、最大の原因は脳卒中です。それが嚥下障害の40%を占め、急性期には30%の患者さんに誤嚥が認められるそうです。嚥下検査にはいくつかあるようですが精密検査としては嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(以下、VF)があります。今回、我々放射線科に関わりのあるVFを紹介します。

VF検査とは

この検査はTV室で透視をしながら検査をします、スタッフとして言語聴覚士(ST)、主治医、看護師、放射線技師で行なっています。バリウムが混ぜられている専用の検査食が用意され、とろみ、ゼリー、ヨーグルト、お粥など硬さの違う食べ物(写真1)を飲み込んでもらいます。基本的には坐位で検査を行い、言語聴覚士が介助を行いながら食物の飲み込みをしてもらい、その様子を透視で観察します。放射線技師はX線透視の調整と被ばくのコントロール、透視画像の記録を行っております。飲み込んだ食べ物が気管に入らないか、咽頭に残留がないか、坐位の角度によって嚥下状態に変化があるか、どの様な食形態ならば安全に食べることができるのかを評価します。

写真1

嚥下障害画像

30~40分程度の検査ですが誤嚥のリスクが非常に高いので常に吸引ができるよう準備をしています。透視画像は動画と音声を同時にDVDに記録保存し、スロー再生やコマ送りをして観察できるようにしています。検査の結果をふまえて、食事形態や食事時の姿勢の調節などを考察し、どのようなリハビリが必要か検討します。

当院CT撮影線量について


先生こんにちは 診療放射線技術科の石井です。先日「神奈川放射線学術大会」に参加し、
「当院におけるCT撮影線量と診断参考レベルとの比較検討」というタイトルで発表をさせていただきました。今回はその「当院におけるCT撮影線量」についてお話しします。

【医療被ばくの最適化とは】

医療行為に使われる放射線には線量制限が課せられていません。これは、仮に線量に制限を設けてしまうと患者さんの診断や治療に支障をきたすおそれがあるためです。例えば診断においては、線量が低すぎると画質が損なわれ、診断能の低下を招きます。逆に高すぎる線量は不必要な被ばくとなります。
そこで「医療被ばくの最適化」を目的として昨年公開されたのが、「DRL(診断参考レベル)」です。

【DRL(診断参考レベル)とは?】

DRL(診断参考レベル)はJ-RIMEと呼ばれる医療被ばくに関するデータの収集・実態把握を目的とした団体により策定されました。意義は、「放射線診断においてその値を超えた場合は線量を下げることを検討すべきである」というものです。ただし注意すべき点として、臨床的に正当な理由がある場合は超過してもよいこと、が挙がります(患者さんの体重や体格により、高い線量が必要とされる場合があるため)。あくまでも目的は医療被ばくの低減ではなく最適化です。また、DRLの数値は患者さんの被ばく線量(臓器吸収線量や実効線量)は示していない点にも注意が必要です。

【当院のCT撮影線量とDRLを比較】

今回私は当院で扱っているCTの撮影線量とDRLの値を比較、調査をしました。(グラフ1)
グラフ1はCTDIと呼ばれるCTにおける線量の指標を示しています。赤で示されたグラフが先ほど説明したDRLの値、青で示されたグラフが当院の線量になります。結果、全ての検討部位でDRLの値を大きく下回りました。特に冠動脈CTは被ばくが多くなる分野ですが、当科の値は大きく下回る結果となりました。これは病院が海外製の高額なCT装置を整備してくれたこと、そして循環器内科岩城医師が積極的に低被ばく撮影を推奨したこと、それに応じてスタッフもソフトウェアを応用するなどの工夫をしたことによる結果であると考えています。

CTDI

近年、原子力発電所の事故などにより放射線に対して多少なりとも抵抗を覚える患者さんはいらっしゃると思いますが、今回のこの結果がそういった方々の検査に対する安心感に繋がれば幸いです。
当院では常に患者さんの被ばく線量を考慮し、最適な画像を提供するように心がけております。今回行った調査により当院で扱っているCT撮影の線量はDRLを大きく下回りましたが、この結果に満足せずこれからも被ばく低減・画質向上に努めていきます。今後ともどうぞ宜しくお願いします。