問:80代 女性 腹痛で当院受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?
解答:嫌色素性腎細胞癌
解説
80代女性、腹痛の症例です。精査のためCT検査が施行され、偶発的に左腎腫瘍が見つかりました。
画像所見の解説です。単純CT検査では内部に点状の高吸収域が見られます(図2a:橙矢印)。造影後では辺縁部主体(図2a,d:黄矢印)の造影効果が見られます。中心部では瘢痕状の低吸収域が見られます(図2c,d:緑矢印)。造影効果は漸増性です(図3a-c:赤枠)。
漸増性の造影効果で典型的な淡明細胞癌とは言えないものの、乳頭状腎癌や嫌色素性腎細胞癌の可能性があり手術が施行されました。病理結果は嫌色素性腎細胞癌でした。
嫌色素性腎細胞癌は腎細胞癌のうち3番目に多い組織型で全腎腫瘍の2-4%、腎癌の5%を占めます。オンコサイトーマ同様に集合管の介在細胞から発生します。病期も進行例は少なく淡明細胞癌より予後がよく乳頭型と同じかそれ以上に良好とも言われます。周囲への浸潤や転移も少ないとされます。
画像所見は比較的均一で中等度の造影効果を示すことが多いです。ダイナミックCT検査では比較的乏血性であることが多く、淡明細胞癌のように動脈相から急速な造影効果と後期相でwashoutを呈することは少ないとされますが、多血性の症例もありえます。
内部に石灰化や中心性瘢痕が見られる場合があります(図4a,b)。また、超音波検査のカラードップラーでは腫瘍中心部から放射状に分布する車軸状の血管構築が見られる症例もあります。本症例の超音波検査では腫瘍中心部から放射状に広がる血流が見られ(図5a,b)、車軸状の血管構築が確認できます(図5c,d)。
鑑別はオンコサイトーマで上皮性腎腫瘍の5%程度の頻度で見つかる良性腫瘍です。所見は嫌色素性腎細胞癌と類似しており、石灰化や中心性瘢痕や車軸状の血管構築などを認め鑑別は困難です。図6はオンコサイトーマの症例ですが、辺縁部主体に強い造影効果とwashoutが見られます(図6a-c:赤枠)。中心性瘢痕が見られ(図6c,d:緑矢印)、画像上は嫌色素性腎細胞癌と類似しています(やや多血性ですが)。このようにオンコサイトーマと嫌色素性腎細胞癌の鑑別は困難であり、腎摘出術が行われることが多いです。
その他、乏血性腫瘍として乳頭状腎癌も鑑別ですが予後や治療方針が類似するため両者を鑑別する意義はありません。
嫌色素性腎細胞癌の1例でした。
【参考文献】
山下康行, 知っておきたい泌尿器のCT・MRI, 改訂第2版, 秀潤社, 2019年: 70-71.