今月の症例(2024.9月掲載)


問:40代 男性 胸部異常陰影で紹介受診
下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

解答と解説

解答:サルコイドーシス

解説

40代男性、胸部異常陰影の症例です。胸部単純写真で左上肺野に腫瘤影が認められ、精査のため当院に紹介受診、 CT 検査が施行されました。肺癌も否定できず縦隔のリンパ節生検が施行され、サルコイドーシスと診断されました。
画像所見の解説です。胸部単純写真(図1)ですが、左上肺野に腫瘤影が描出されています。胸部単純 CT 検査(図2)では、左肺上葉に収縮性変化を伴う腫瘤構造が認められます(図4a:橙矢印)。また右肺上葉では微小粒状構造も認められます(図4a:黄矢印)。同様に左肺上葉腫瘤病変の尾側では微細な粒状構造が認められます(図4b:黄矢印)。
縦隔条件では、多数の腫大したリンパ節が認められます(図5a-c:黄矢印)。左肺上葉の病変は一見すると肺癌のような腫瘤に見えますが、尾側や右肺上葉の粒状構造、縦隔リンパ節腫大からサルコイドーシスが鑑別に挙がる所見です。
サルコイドーシスは多臓器における非乾酪性類上皮肉芽腫を特徴とする原因不明の全身性肉芽腫性疾患です。肺及び肺門、縦隔リンパ節が侵される頻度は90%以上で肺野の所見も合わせ多彩な像を呈することが知られています。
CT 所見は胸膜下、小葉間隔壁、小葉中心部の小葉内気管支肺動脈周囲などに1~5mm 程度の境界明瞭な粒状構造が見られます。肺野病変は上中肺野優位に見られることが多いとされています。また、辺縁不整な1cm 以上の結節構造や腫瘤構造が見られることもありますが、無数な微細な粒状構造が集簇して形成されており「galaxy sign」 と呼ばれます。病変が慢性化すると線維化や空洞性病変、嚢胞変化が起こります。縦隔、肺門部リンパ節に癒合傾向はなく、内部は壊死を伴わず均一であることが多いです。
今回症例では左肺上葉の腫瘤性病変は微細な粒状構造が集簇して形成されており(図4b:黄矢印)、 「galaxy sign」 の所見です。
サルコイドーシスの肺結節の説明の前に小葉構造を解説いたします。肺内では気管支や肺胞、脈管系、リンパ管が存在しており、気管支は肺動脈と並んで走行します。肺静脈は肺胞を含む小葉という構造の辺縁部に位置します。この小葉内には終末細気管支、肺胞構造、並走する肺動脈が存在しており、小葉間は小葉間隔壁で隔たれています。肺水腫の症例で上記構造を確認します(肺水腫の症例ではうっ血により肺静脈が拡張するため肺の構造が分かりやすくなります)。肺尖部では亀の子模様の線状構造が見られます(図6a赤枠)。赤枠を拡大すると、中心部を走行する肺動脈、辺縁部に見られる肺静脈が描出されています。肺静脈の走行は小葉間隔壁と同様です。 CT 検査上は末梢の気管支や肺胞構造は描出困難ですが、実際は肺動脈と併走して存在しています(図6c)。

サルコイドーシスの微小粒状構造が散見される症例では結節構造が葉間(図7a:黄矢印)、胸膜直下など(図7b,c,d:黄矢印)小葉辺縁に位置しています。小葉間隔壁や気管支周囲、胸膜にはリンパ管が存在し、サルコイドーシスや珪肺などの結節は小葉辺縁部優位に分布することが多いとされます。この部分には肺胞は存在せず一般的な気管支炎や肺炎とは分布が異なります。図7の症例の胸膜直下結節(図8a)を拡大すると、辺縁に小葉間隔壁が描出されており(図8b )小葉辺縁部主体の結節分布であることが分かります。このような分布をリンパ路性分布と表現します(図8c )。

症例のポイント

① 多発結節
② リンパ路性の結節分布
③ 結節が集簇し腫瘤様となる場合もある(galaxy sign)
④ 肺門や縦隔リンパ節腫大

肺癌様に見えたサルコイドーシスの1例でした。

【参考文献】
高橋雅士, 新 胸部画像診断の勘ドコロ, 第3版, メディカルビュー社, 2014年: 125-138, 194-196.