症例(呼吸器)2021.3月号掲載


症例 50代 男性

主訴:発熱 咳嗽 食欲低下

下記の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

図1:胸部単純写真
図2:単純CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像

解答と解説

発熱咳嗽の中年男性の症例です。
胸部単純写真では右中肺野や左上下肺野に胸膜直下に淡い濃度上昇が認められます(図3黄矢印)。図2では単純写真と同様に胸膜直下を主体とした非区域性の複数のすりガラス状陰影が認められます。COVID-19肺炎で一般的に報告されている画像上の特徴が認められます。この症例は他院のPCR検査で陽性となり当院に搬送となりました。

COVID-19肺炎はSARS-CoV-2による感染症であり風邪のコロナウイルス(4種)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス、中東呼吸器症候群に続く7番目のコロナウイルスです。潜伏期は1-14日で発症前2日から感染力が強く、症状後発熱、咳嗽、嗅覚異常、呼吸困難が主な症状です。危険因子として高血圧や糖尿病、心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満が関与するとされています。残存期間はエアロゾルで3時間、プラスチックやステンレス上で72時間、段ボール上で24時間残存します1)。
COVID-19肺炎の典型的な画像所見は胸膜直下に両側性かつ多発性に見られる非区域性のすりガラス状陰影および浸潤影とされています2)。

CT検査所見の経過は①すりガラス状高吸収域→②浸潤影→③収縮性変化→④陰影消退の経過をたどります。今回症例を参照すると図4のように浸潤影が見られた後、図5の様に軽微な線状の収縮性変化(図5a, b黄矢印)を残しつつ消退しました。
ただし、発症7日程度でびまん性のすりガラス状陰影や浸潤影となり重症化する症例もあるため全身状態を含めた経過観察が必要となります(図6)。
鑑別はインフルエンザウイルス含めたウイルス性肺炎が挙がります。鑑別点は典型像と同じく胸膜下に多発するすりガラス状陰影ですが感度、特異度はそれぞれ80-90%、60-70%の範囲と報告されています3)。さらにPCR検査陽性でも無症状例の46%、有症状例の20%にCT所見陰性例が存在するため3)臨床症状を含めた多角的な診断が必要となります。

図3:胸部単純写真
図4:5日後CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部
c:水平断像 下葉, d:冠状断像
図5:1ヶ月後CT検査
a:水平断像 上葉, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像
図6 重傷例 CT検査
a:水平断像 肺尖部, b:水平断像 中間部, c:水平断像 下葉, d:冠状断像

症例のポイント

① 胸膜直下の多発する非区域性のすりガラス状陰影および浸潤影
② PCR検査陽性でも画像所見陰性例が存在する
③ 画像、臨床症状や経過、PCR検査結果など多角的な診断が必要

新型コロナウイルス肺炎の一般的な情報や画像所見、経過を提示しました。

【参考文献】
1)N.V.Doremalen,et.al. New England Journal of Medicine. 2020; 382:1564-1567
2) RSNA,ACR,STRによる提言およびCO-RAD Radiology 296:45-54, 2020
3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期における放射線診療について 公益社団法人日本医学放射線学会