現在、日本の死亡原因第1位はがんや悪性腫瘍で、死亡者数は年間30万人を超えています。これは3人に1人が、がんや悪性腫瘍で亡くなっていることを意味します。また、罹患率で見てみますと、年間70万人を超える人が、がんや悪性腫瘍に罹っていてこれは男女とも2人に1人が一生涯でがんや悪性腫瘍を経験する数値と言われています。
その様な状況の中、がんや悪性腫瘍の治療の一角を担う放射線治療は現在、以前に比べ照射技術(照射位置の正確性、線量の集中性)が格段の進化を遂げております。
がんや悪性腫瘍の位置や動きを事前に確認して照射を行う技術(IGRT)※1や放射線の強度を変化させながら照射を行う技術(IMRT)※2など、高精度で高技術な照射ができるようになり、放射線による副作用の少ない治療が行えるようになっています。これらの高技術な照射を行うには、治療時の照射精度の担保が必須となります。
今回は、照射精度を向上させるために使用する固定具や補助具について紹介させて頂きます。
放射線治療において、治療体位の再現性は非常に重要であるため、治療寝台上で患者さんを固定するさまざまな固定具や補助具が存在します。これらを有効に使用することで、精度の高い放射線治療が可能となります。
固定シェル
シェルは頭部、頭頸部、体幹部で使用されます。
60°〜70°で柔らかく進展し、常温で硬化する性質を持つため、専用の加温装置を使用し、柔らかい状態にて患者さんの型取りを行います。シェルを使用することにより、固定精度が向上し、照射位置精度の再現性が担保できます。治療中に照射部位に変化(浮腫や体重減少など)が現れた時は、固定精度が悪くなる場合があります。この様な場合は、合わなくなってきた場所を温め直して再形成したり、新たにシェルを作成して対応していきます。
頭頸部枕
頭頸部を安定させ、体位を維持するための補助具となります。シェルを作成する時に多く用いられます。様々な種類があるので後頭部や首のラインに形状が一致する枕を選択します。
吸引式固定具
バック内に発砲スチロールビーズが封入されており、バック内の空気を吸引すると硬化します。よって患者さんの身体にフィットした固定具が作成できます。主に体幹部の固定具として使用します。吸引式固定具は型崩れしにくく、エックス線低吸収で繰り返し使用が可能です。
上腕挙上固定台
乳房照射や肺などの照射時に使用します。両腕を挙げた状態で保持する固定具で、腕の挙げ方が毎回の照射時で同じになります。上腕位置を任意に調整し固定できるため、患者さんの腕挙げ体位の負担を軽減し安定させることができます。
下肢固定具
主に脊椎や前立腺、骨盤の照射時に使用します。下肢の固定具は患者さんの安定性や快適性を担保することができます。
以上、今回は一部の固定具について紹介をさせていただきましたが、その他、様々な固定具や補助具が存在します。いずれも患者ごとおよび照射部位ごとに適した固定具を使用する事で、照射精度が担保され高精度な治療が可能となります。当院においても患者さんの負担を可能な限り軽減させ、固定精度を担保し、精度の高い照射を行えるよう日々努力しております。
放射線治療認定技師 江川 俊幸
※1)IGRT:画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy)
X線画像や超音波画像等を利用して照射直前に照射位置の照合を行い、位置を修正しながら照射を行う技術 。
※2)IMRT:強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy)
専用のコンピュータを使用し、照射野形状を変化させたビームを複数用いて行う照射方法です。IMRTは腫瘍に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすことができるため、より強い放射線を腫瘍に照射することが可能になり、周囲臓器の副作用が軽減できます。