知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎⑦ 番外編 乳がんのサブタイプとは


乳がんと一言で言っても、様々な臨床経過をとるものがあることは皆さまご存知だと思います。例えば昨年亡くなった某元アナウンサーさんの乳がんのように、発見されてからあっという間に転移して患者さんの命を奪ってしまう乳がんもあります。その一方でしこりに気づいていながら何年も放っておいても転移を起こさず、皮膚潰瘍を作って初めて患者さんが受診するなんてことも時々起こります。その違いはなんでしょうか?
それは「サブタイプ」の違いなのです。最近の乳がんの治療においては、何をおいてもまず「サブタイプ」を知らなければ治療も始まらないくらい重要な概念です。患者さんもよく勉強していて、「サブタイプはなんですか?」と聞いてこられる患者さんも最近は少なくありません。しかしここ10年くらいで一般的になってきた概念なので、他科の先生方にとっては「何となく聞いたことあるけど。。」くらいかもしれませんね。今回はサブタイプのお話をしたいと思います 。

トリプルネガティブ乳がん?

乳がんの治療薬にタモキシフェン、アナストロゾールなどの「内分泌療法」、ハーセプチン®などの「抗HER2療法」があります。非常にざっくり言いますと現在臨床で使用しているサブタイプ分類は内分泌療法や抗HER2療法の効果がありそうか否かで4分割しています。
内分泌療法も抗HER2療法も効果が期待できない乳がんが「トリプルネガティブ乳がん」です。
エストロゲンと結合し乳がんの増殖を促す「エストロゲン受容体(ER)」の発現があれば、Luminalタイプとします。また細胞膜表面に存在するチロシンキナーゼで細胞の増殖、分化の調節に関与する「ヒト上皮増殖因子受容体ー2(HER2)」の過剰発現があるかどうかでHER2陽性、HER陰性に分類します。ER陽性の乳がんの増殖はERにエストロゲンが結合することによって惹起されます。よってER陽性の乳がんに対してはERを標的にした内分泌療法の効果が期待できます。HER2 が過剰発現しているがんにはHER2タンパクを標的とした抗HER2療法の効果が期待できます。乳がんだけではなく胃がんの一部でもHER2の過剰発現があり、最近は胃がんでも抗HER2療法が行われるようになっています。抗HER2療法は単剤よりもタキサンなどの抗がん剤と併用すると抗腫瘍効果が高まるので通常化学療法と併用療法します。トリプルネガティブ乳がんに対しては化学療法が薬物療法の決め手となります。

 

Luminal Aタイプ、Bタイプ

ER陽性乳がんならば必ず内分泌療法が効くのかと言われると、そう簡単ではありません。実際に治療してみると思ったほど効果がないこともあります。一方で非常によく治療が効いて遠隔転移のある状態ながら5年以上元気でいられるような乳がんも珍しくはありません。そのような乳がんの中にはLuminalタイプがよくみられます。

同じLuminalタイプの中でも様々な臨床経過を取るものがあります。内分泌療法がよく効いてゆっくり進行するLuminal Aと、そうではないLuminal Bタイプにさらに分けて考えます。臨床的にはER,PgRの両方が高発現していてかつHER2陰性、核異型が軽度(Grade1)、細胞増殖マーカーであるKi67の発現が軽度という条件の全てを満たす場合をLuminal Aタイプと定義しています。臨床的特徴として比較的増殖がゆっくりで予後が良いことが挙げられます。
また内分泌療法の感受性は高いが化学療法の感腫瘍細胞の核内には高くないく、比較的晩期再発が多く、再発してからの生存期間は長い傾向にあります。遠隔転移の治療をしながら5年以上元気でいられたり、術後20年以上経って再発するような患者さんを乳がんでは時々経験しますが、このような乳がんのほとんどLuminal Aタイプです。
しかしER陽性でも内分泌治療が奏功せずあっという間に進行してしまうことも度々あります。このような乳がんはLuminal Bタイプに含まれます。昨年亡くなられた某元アナウンサーさんの乳がんもおそらこのタイプのがんであったと推測します。
Luminal B は Luminal A以外というのが定義で、AとBの間にはっきり線を引けるわけではなく連続的なものです。現在使用されている定義も流動的です。