解剖学的標準化(前回のおさらい)
前回では脳血流SPECT画像を解剖学的標準化により標準脳に変換し、血流低下部位をMRIモデルに投影するところまでを紹介させていただきました。(図1)
血流低下の大きさ・部位を可視化する
Z-Scoreという指標
前回でも触れさせていただきましたが、脳血流SPECTは局所の脳血流量に応じて分布するトレーサーを用いて検査を行います。脳血流がある部位で正常よりも血流が低下していれば、その場所の脳機能が低下していると考えられます。通常はSPECT画像を視覚的に判断しますが、精神疾患や神経変性疾患の初期では脳血流量の低下は僅かなものが多く、判断に困難を極めることが多々あります。また正常の血流分布は年齢群によって変わるため、ある部位で実際に血流が低下している場合でも年齢によって正常と捉えられてしまうことがあります。1)
ポイントは脳血流SPECTで血流の分布に応じてカウントが得られることを踏まえ、
①特定の場所で
②同年齢(群)の正常の平均に比べて
③どの程度カウントが低下しているか
を評価する数値や指標が必要となります。
当院で使用されている脳血流統計解析ソフトeZISではZ-Scoreという数値(指標)を使用します。
Z-Score=(正常群平均Voxel値―症例Voxel値)/(正常群標準偏差)
で表されます。すなわち血流低下が大きいほど症例Voxel値は小さいため、分子が大きくなりZ-Scoreが大きくなります。また一定のZ-Score以上の領域を投影することで臨床上有意な血流低下各領域を抽出することが可能になります。
今回は99mTc-ECDを使用した脳血流SPECTを統計解析ソフト「eZIS」で処理を行った画像につき、代表的な3つの認知症について紹介させていただきます。Z-Score>1.0のものをMRIモデルに投影することで、その部位の血流低下の有無、低下の程度が把握しやすくなります。
まず、認知症画像診断で注目される場所と疾患を図2に示します。(この中で主な場所の働きは以下のようになります。)
1)アルツハイマー型認知症(AD)
アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞と神経細胞の間にシミのような老人斑(アミロイド斑)の出現により、脳が萎縮します。新しいことを覚える機能を障害されることが多いので、出来事自体を忘れてしまい、日常生活に支障をきたします。
アルツハイマー型認知症の脳血流SPECT画像の特徴としては①後帯状回から②楔前部および側頭頭頂葉皮質の血流低下が見られます。(図3)
またアルツハイマー型認知症の進行の程度についても、eZISによる統計処理画像にて把握することが可能となりました。(図4)
2)レビー小体型認知症(DLB)
レビー小体型認知症とは脳の内部に異常なたんぱく質(レビー小体)が蓄積して神経細胞が障害されて起こる認知症です。はっきりした幻視、被害妄想、抑うつ症状がみられます。同じくレビー小体が原因となるパーキンソン病と似た症状があり、手足が震える、身体の動きが遅くなる、歩幅が小さくなるという症状も観察されることがあります。
脳血流SPECT画像の特徴として、アルツハイマー型認知症と同様に①帯状回から②楔前部および③側頭頭頂葉皮質の血流低下、に加えて④後頭葉皮質の血流低下が見られます。(図5)
3)前頭側頭葉型認知症(FTD)
脳の前頭葉が萎縮して起こる認知症で、アルツハイマー型認知症のような記憶障害が初期には見られないのが特徴です。認知症状として社会的なルールを無視するような行動が見られ、行動的な特徴として好みの変化、同じ言葉の繰り返し、毎日同じ食べ物だけを好んで摂る、毎日まったく同じ時間に同じ行動をとる、などがあります。一緒に生活している人は、まるで別人がいるように感じるほどです。このような症状が出ていても、最近のことをきちんと記憶している人がいます。ピック病と呼ばれる場合もあります。
FTDの脳血流SPECTでは前頭葉、側頭葉の血流低下が特徴的です。(図6)
今回は誌面の都合でここまでの紹介とさせていただきますが、詳しくは富士RIファーマ株式会社HP(http://fri.fujifilm.co.jp/index.html)内「撮って診る!!認知症」のコーナーにてとても分かり易い案内があります。御参照いただければ幸いです。
次回はアルツハイマー型認知症をZ-Scoreの数値を更に評価する方法について、より詳しく説明したいと思います。
参考文献:1)松田博史、朝田隆:ここが知りたい認知症の画像診断(2014.10 harunosora)
(核医学専門技師 荒田 光俊)