さて今回は、放射線の強さを変える技術について説明させて頂きます。IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)という治療技術です。日本語では強度変調治療と呼ばれます。お聞きになったことがあるのではないでしょうか?
IMRTは、照射野内で不均一な線量分布を作成しながら照射をおこないます。通常の照射方法では、正常組織にも同じように放射線が照射されてしまいますが、IMRTは放射線の強度を変化させ、多方向から照射をおこなうことで、病巣へ線量を集中させ、正常な所に照射される量を少なくすることができます。つまり、IMRTは病巣への線量集中と正常組織の線量低下を一変にかなえることが可能な高精度な照射技術となります(図3、図4)。この技術の登場により、従来では実現不可能であった放射線治療が展開できるようになったため大幅に悪性腫瘍の治療方法の選択が拡がりました。
IMRTにはSMLC-IMRT、DMLC-IMRT、Compensating filter IMRTなどの手法があります。それぞれ紹介致します。
(1) SMLC-IMRT(Segmental MLC-IMRT)
別称step and shoot法と呼びます。MLC形状の異なった複数の照射野を重ね合わせることにより、1つの照射野を作成し照射をおこないます。多数のMLCパターン(セグメント)の合成による照射方法です。
(2) DMLC-IMRT(Dynamic MLC-IMRT)
別称sliding window法と呼びます。照射中にMLCを連続的に動かし、左右1対のリーフの運動速度の差により強度を変調させ照射をおこないます。
(3) Compensating filter IMRT
別称physical modulator IMRT(補償フィルタ強度変調放射線治療)法と呼びます。専用の補償フィルタを用いてビーム強度プロファイルを作成し照射をおこないます。
現在IMRTの適応は、頭頸部腫瘍や前立腺がんが主流ですが、乳がんや肺がんなど、その他の疾患でも積極的に検討がなされています。近い将来、IMRTが通常の照射法となるかも知れません。また、IMRTの照射技術も日々進化しております。最近ではより高技術なVMAT(Volume Modulated Arc Therapy:強度変調回転照射)※3と呼ばれる照射法もおこなわれる様になっています。
当院でもIMRT可能な治療装置を導入しました。こちらの方も順次準備を整えていきたいと考えていますので、ご期待頂ければと思います。
次回は、既に放射線治療が開始していると思います。順調にスタートしていれば良いのですが…
ということで次回は、放射線治療の開始報告と放射線の種類を変る技術について紹介させて頂きます。
(放射線治療認定技師 江川 俊幸)
※1コミッショニング
各施設に納入された高エネルキー放射線治療機器特有の放射線出力の状態について、測定・数値なとの登録・確認を行い、品質か管理されていることを確認すること.受入れ試験に引き続きおこなう一連の作業行程.
※2モデリング
治療計画装置にビームデータや加速器のパラメータを登録し、計算アルゴリズムに応じた関数の設定をビームデータに合わせ込み、最終的にビームデータを承認するまでの作業.
※3VMAT
IMRTの進化形であり、ガントリーを回転しながらX線量を加減し治療を行います.IMRTより良好な線量分布を達成しつつ、治療時間の短縮が可能のため患者の負担が軽減できる.