病棟撮影に欠かせない“リス”


初めまして昨年4月に新しく入りました五十嵐佳佑と申します。現在は大学院生をしながら非常勤として働いており、研究と病院での業務を両立させなければならないため非常に忙しいですが充実した毎日です。さて、この頃では初めてのポータブル撮影を経験したのですが、その時に気になったのがグリッドの存在です。胸部や腹部撮影の際に持っていくグリッドですが、先生はどんなものかご存知ですか?

グリッドとは
大別してリスホルムブレンデとブッキーブレンデの2種類があります。ここではポータブル撮影で使うリスホルムブレンデに焦点を当てて話をします。

グリッドの役割
X線写真の画質の低下を抑える役割をしています。画質低下の原因の一つが「散乱線」の存在です。通常X線写真は管球からまっすぐ放出された「一次X線」によって画像化されます。しかし、放出されたX線は人体に入射するとその一部がランダムに散乱します。このランダムに散乱したX線を「散乱線」と言い、画質を低下させる原因となります。そこでグリッドの出番です。グリッドは中に格子状の金属が入っており、「一次X線」のみを透過させ「散乱線」を除去することができます。

弱点
グリッドは一次X線が管球からまっすぐに放出されることを前提として金属の格子が配列されています。そのためX線がグリッドに対して斜入するとそれらも散乱線と同様に除去してしまいます。すると画像に大きな悪影響を与えてしまうため、グリッドを使う場合はX線をグリッドの格子に対してまっすぐに入射しなければなりません。

終りに
今まで撮影室で撮る場合には殆どグリッドを気にすることはありませんでした。それは、基本的な撮影法に則っていればグリッドに斜入する心配がないためです。しかしポータブルでは管球の位置を手動で合わせる上に柔らかいベッドにカセッテ及びグリッドを置かなければならないため、すこし気を抜くとすぐに斜入してしまいます。このようなことからグリッドのことを気にするようになり、今回の記事にしました。これを読んで先生にもよりグリッドについて知って頂ければ幸いです。

知っているようで知らない!? レントゲンの基礎④-レントゲン-


これまでのシリーズではレントゲンの基礎として、撮影条件や距離のお話をさせて頂きましたが、今回は今まで当たり前のように発していた“レントゲン”についてお話させて頂こうと思います。
また多くの方が間違った使い方をしてしまう“放射線・放射能・放射性物質”についても併せてお話させて頂きます。

レントゲンとは何か?
1895年W.C.レントゲン博士が真空放電の実験中に偶然、いろいろな物を突き抜ける不思議な光線を見つけました。
発見時、未知の光線だった為、数学の未知の数を表す「X」の文字を使いX線と名付けられました。
当時、多くの学者は彼の発見を称えその光線のことをレントゲン線と呼びました。
その名残から、未だにX線を使った検査のことを、レントゲン検査と言っていますが、近年放射線業務の領域ではレントゲン検査と呼ばずに、正式名称のX線検査と呼んでいます。
博士はその後1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞したことでも有名ですね。

放射線・放射能・放射性物質
“放射線”とは、放射線物質から放出される粒子や電磁波のことです。
“放射能”とは、放射線を出す能力のことです。
“放射性物質”とは、放射能を出す物質のことです。
蛍に例えると、放射線は蛍の光、放射性物質は蛍、放射能は光を出す能力です。
また、蛍の光が虫かごから漏れると「放射線漏れ」、蛍が虫かごから逃げ出すと「放射性物質の漏れ」ということになります。
このように“放射線”と“放射能”では大きく意味が異なるのです。
しかし、特にポータブル撮影時において、「放射能が出るから逃げないと」と発言する医療従事者もいるほどで、一から説明したくもなるのですが、グッと堪えて日々業務に励んでいます。
(参照:http://www.rikuden.co.jp/housyasennokoto/kihon.html)

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特殊撮影主任:森直彦

知っているようで知らない!? レントゲンの基礎③ -撮影距離-


前回X線写真撮影時の条件についてお話させて頂きましたが、今回は距離についてお話させていただきます。

撮影距離って重要なの?

先生の施設ではX線写真を撮る際、どれぐらい距離をとって撮影されていますか?
当院では、立位の胸部・腹部は200cm、臥位であれば100cm、その他整形等での骨の撮影は一部を除いて100cmで撮影しています。

撮影距離が短いと画像が拡大します

距離を選定する際、考えなければならないこと、それは画像の拡大(ゆがみ)です。
X線写真は、X線が管球から円錐状(四角錐)に放射されているため(図1)、厚みのある被写体を撮影するとX線写真上では常に像の拡大が発生し、実物より大きく描出されています。(図2)

距離をとることで平行に!

Aの位置よりもBの位置から撮影した方が患者さんに入射するX線が平行に近くなり画像の拡大が少なくなります。(図1.図2)
その為、可能な限り距離を離して撮影するのが理想ですが、距離を離しすぎると線量不足になります。撮影室の広さや、使用するX線発生装置の性能を考慮した上で当院では200cmと選定しました。

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胸部レントゲンを後ろから撮る理由

また、胸部撮影をPA(Posterior-Anterior view)撮影するのも、心臓をフィルムに近づけることによって、ほぼ実物大に写るからです。AP(Anterior-Posterior view)撮影では若干ですがフィルムと心臓に距離が開くので心臓がやや大きくなり、肺が狭く写ります。
従って、PAで撮影した方が心臓は実物大に写り、肺が広く写るため診断しやすくなるのです。

整形等での骨の撮影においても理想としてはなるべく距離を離した方がいいのですが、多くの場合臥位での撮影となりますので、天井の高さや操作性を考え100cmとなりました。

X線写真は、前回との比較を目的に撮影することが多いです。
我々放射線技師は、担当者が替わってもなるべく統一条件下で撮影するように心掛けて、日々従事しています。
(森 直彦)

知っているようで知らない!? レントゲンの基礎② ー撮影条件ー


前回、単純撮影の撮影条件は、X線管電圧、X線管電流、撮影時間で決まるというお話をさせて頂きましたが、今回は実際に当院での撮影条件を元に、どのような組み合わせで撮影しているかをお話させて頂きたいと思います。

大人と子供でこんなに違う撮影条件

単純撮影と聞いて、1番最初に思い浮かぶのはやはり胸部撮影ではないでしょうか?

当院でも最も撮影数の多い検査の1つとなっていますが、撮影回数が多いからこそ適正な撮影条件を組む必要があります。

実際に当院での撮影条件をお示しします。

管電圧(kV) 管電流(mA)  撮影時間(msec)
大人 120  100 32
小児 100  100 16
乳児 65 500  10

大人と小児では体格が違うので、管電圧(被写体コントラストを決定するもの)が違うのは当然のことですが、注目すべきは撮影時間ではないでしょうか?
胸部写真は息を止めて撮影しますが、乳児の場合息を止めての撮影はとても困難です。多くの乳児は泣き叫ぶので、息を吸った瞬間にタイミング良く撮影しなければなりません。しかし、撮影時間が長いとタイミングがズレてしまい、ブレた画像になってしまいます。ですので、出来るだけ撮影時間を短くし、ブレの少ない画像になるように心掛けています。
当院でも数年ぶりに産科が復活し、これから乳児を撮影する機会も増えてくると思います。
現在はこのような条件で撮影を行っていますが、機器の性能の向上に伴い、今後も検討する必要があります。

単純撮影は単純か?

決して単純ではなく、考慮すべき様々な内容が含まれています。しかもそれは、古典的なものから最新の撮影機器や最新技術に関係する重要なものばかりです。
CR装置では、撮影後に濃度調整機能や画像処理によって均一な黒化度が得られることから、撮影条件の選択から解放された気がしますが、それは誤りです。いくら画像処理を行おうが、センサーに入力される前の被写体コントラストを変化させることは出来ないので、検査に応じて適正な撮影条件を組むことが重要です。

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画像:Meiji Seika ファルマ株式会社HPより引用

 

知っているようで知らない!? レントゲンの基礎① ー管電圧とはー


レントゲン基礎

単純撮影は当院で最も多く実施される検査ですが、先生の施設でも実施される機会が多いのではないでしょうか?
現在はCR装置*が主流となっていますので、患者様の体格にかかわらず均一で安定した写真が得られますが、私がこの仕事を始めた頃は、直接フィルムに撮影し、現像して画像を得ていましたので、撮影条件を誤ると診断出来ない画像になることもありました。
先生の施設ではどのようにして撮影条件を決めていらっしゃいますか?今回は撮影条件についてお話しさせて頂きます。

*CR装置
デジタルレントゲン装置、デジタルカメラと同じようにコンピューター側で濃度を補正します。濃度差が生じる事はないのですが、適正なX線量で撮影しないと被ばくが多くなる事もあります。

レントゲンの撮影条件とは

レントゲン写真は白から黒の濃淡で表されますが、この濃淡差のつけ方の違いはX線管電圧、X線管電流、撮影時間で決定します。この値を変化させるとX線の質と量を変化させることが出来ます。質が変化すると画像のコントラストが変化し、量が変化すると濃度が変化します。これら三つの条件を使い分けることが日常業務では重要になる場面が多くあります。

画像コントラストに関係する管電圧!

X線管電圧はX線のエネルギーのことであり、X線が物体を突き抜けるちから(透過力)がどのくらい大きいかに関係しています。つまり、X線管電圧を高くするとコントラストが低下します。例えば胸部レントゲンの場合、管電圧は120kVと高圧撮影で撮影します。管電圧を高くすることで、肋骨影や石灰化が淡くなり、肺内陰影が見えやすく、心臓、横隔膜に重なった肺野も観察出来ます。また、患者さんの被ばくも減少します。(画像1)レントゲン画像1

画像濃度に関係する管電流と撮影時間!

管電流とはX線の量を決めるものです。撮影時間とはシャッタースピードのことです。この2つをかけ合わせることによって写真の濃度が決定します。フィルム時代だった頃はX線の量が多すぎると真っ黒な写真が(画像2a)、X線の量が少なすぎると真っ白な写真が出てきました(画像2b)。この管電流(単位mA)と撮影時間(単位s)をかけ合せたものをmAs値(‘ますち’と呼びます)といいます。mAs値が同じ場合、写真の濃度は同じになります。

レントゲン画像2

このように、単純撮影における撮影条件は、まず管電圧を決定することで、X線の質を決めます。次に黒化度に大きく関係するX線の量を決定します。X線の量は、管電流と撮影時間の積で与えられることから、多くの組み合わせが考えられます。単純撮影はボタン1つで撮影できます。しかし、我々診療放射線技師はそのボタンを押す前に様々なことを考えています。
患者様の状態や体格等を考慮し、長年の経験から撮影条件を決め、より適切な画像を提供出来るように努めています。

次回は実際の撮影条件の組み立て方についてご説明したいと思います。