造影剤を使用しないで血管撮影!! 〜下肢動脈編〜


MRIで造影剤を使わずに頭部血管を描出できることは以前に他の技師から紹介させていただきました。実は他の部位の血管も造影剤を使わず描出可能です。今回はその一つである下肢動脈の検査についてご紹介させていただきます。

下肢動脈でも造影剤なし!

まずは撮影の手順を紹介します。
①検査着に着替えてもらい、MRI室に入ります。
②検査は仰向けで行います。足先まで覆うようにコイルを配置し、指にはセンサーを装着します。良い画像を得るために足は動かさないように患者さんにご協力いただきます。
③センサーにより心電同期させ拡張期と収縮期の画像を撮像します。
2つの画像から動脈がよく描出される画像が得られます。(下記で詳しく説明します。)
④下腿部・大腿部・骨盤部の3部位に分けて撮影し、最後に合成します。

動脈だけを画像にするには…

動脈は収縮期において血流が速いため信号が抜け描出されず、拡張期では血流速度が緩やかになるため高信号を示します。
静脈は心周期に依存することなく血流速度が遅いため、どのタイミングでも高信号に描出されます。
よって、拡張期から収縮期の画像を差分することで動脈画像となります。

CT  vs  MRI

造影剤を使用したCT画像と比較してみました。
例えば下肢痛でASOを疑った場合、エコー検査やABI測定などの生理検査で下肢血流低下を判定してから造影CTを撮影します。
CT画像の結果次第でEVT治療(カテーテル治療)の適応などを判断しますが、このCT画像(左)のように石灰化が多いと血管の狭窄部位の同定は困難です。
このような場合に、MRI撮影を行うと(右)石灰化部分の評価が可能となります。

今回紹介した撮影方法で造影剤を使用せずに石灰化の影響を受けず下肢動脈の評価が行えます。さらにMRIでの撮影なので被ばくがありません。たくさんのメリットがありますが、もちろんデメリットもあります。
まずは検査時間です。約30~40分と長時間の検査となります。その間は動かないでいただく必要がある為、患者さんの状態次第では検査不適応となってしまう場合もあります。さらに、不整脈がある場合には画像の収集がうまくできずきれいな動脈像が得られないこともあります。
メリット、デメリットが共にありますが、そんな中でもMRIによる検査が選択されているケースには腎機能不良や若年者、石灰化が多く評価困難な症例が挙げられます。
やはり造影剤を使うことなく行えることが最大のメリットなので、これからも様々なケースを経験し生かしていくことでこの検査に適応できる方を増やしていきたいと思います。

石井泰貴

特集MRI:コイルは地味だが役に立つ!


MRI用コイルってご存知ですか?

MRIは強い磁場の中に身体をおき、電磁波(RFパルス)を人体に照射したり断ったりを高速に繰り返しおこなって撮影しています。この電磁波送信の繰り返しによって、人体の水素原子から信号(FID信号)が放出され、この微弱なFID信号をMRI用コイルで受信し、演算処理をすることでMRI画像が出来上がります。
つまりこのMRI用コイルは高感度な受信アンテナで、なくてはならない物なのです。自宅で地上波を見ようとする時に、電波を受信するアンテナが必要ですよね。また、電波の感度が良ければノイズものらないはずです。MRI用受信コイルも同じようなものと考えてよろしいかと思います。ということで、今回は地味ではありますが、MRI撮影にとって重要なこのMRI用コイルについてご紹介したいと思います。

FIDandImaging

MRI用コイルといっても、種類がたくさんある事をご存知でしょうか?一般的なのは、頭部用コイル・脊椎用コイル・腹部用コイルだと思います。これに加え当院では整形領域のコイルも使用しています。次にそれぞれのコイルを紹介します。

HNS

BodyandCardiac

ShouldrKnee

関節用コイル

膝関節には前十字靭帯、後十字靭帯、外側・内側側副靭帯、半月板、滑膜、などの観察すべきポイントが多くあります。
何気なく撮影しているような画像でも、きちんとしたポジショニングをすることで描出能に違いがでるため、診断に影響することがあります。例えば、前十字靭帯の描出方法です。
通常、前十字靭帯は膝関節を少し曲げることでピ-ンと張ります。靭帯が張った状態にすることで靭帯断裂などの評価がしやすくなります。また、外側にわずかに傾けることで前十字靭帯を1スライス内におさめ、靭帯を連続して描出することが出来、評価しやすくなります。
膝関節用コイルはこの様なポジショニングが簡便に出来る形をしています。

KneeCoil

今回紹介した膝用コイルだけでなく、専用コイルは非常に使いやすく画質の向上・仕事の効率化が計れる有用な道具です。また、正しく診断がおこなわれるように我々放射線技師も解剖をよく理解して検査をおこなうことを心掛けています。
専用コイルは他部位への応用も可能なので患者さんごとに最適なコイル選択をおこない安全・安心なMRI検査をおこなっております。
(救急撮影認定技師 平野 謙一)

MRマンモグラフィとは?


乳房のMRI・・?

乳房のレントゲン(マンモグラフィ)ならやったことあるけれど、乳腺MRIってどうなのかしら?なんだか怖い・・・とお思いの方いらっしゃるのではないでしょうか?どんな撮影で、どんなふうに検査するのかがなんとなくでも分かれば、少しは不安な気持ちがなくなるのではと思い今回はMRマンモグラフィをテーマにしてみました。

MRマンモグラフィーって痛い??

検査の方法について
①患者様は検査着に着替えてもらい、造影剤を注入するための点滴の準備をします。
②次にMRI室に入り、MRI装置の上に置いてある乳房専用コイルと呼ばれるものに、それぞれ左右の乳房を入れてもらいます。
③そのままうつ伏せの姿勢で乗ってもらいます。その際、両上肢はバンザイした状態で、患者様の体部は動かないようにマジックテープで固定していきます。
*検査時間はこの状態で30~40分かかります。マンモグラフィの様に圧迫される痛みはありませんが、通常の臥位での撮影と異なりうつぶせの体勢で行うことがややつらい検査といえます。造影剤量は20mlほどで検査できます(CTは100cc使います)。

MRM

MRM2

どんな画像が撮影されるの?

MRIでは沢山の種類の画像を撮影しています。当院では1000枚近い画像を収集しています。
最初に造影剤を使用しないで撮影する単純MRI撮影を行い、その後造影剤を注入して造影MRI撮影を行います。
MRIでは様々な方向から断面を切り出すことが出来ますが、両方の乳房が同じ断面に写り、CT検査などと同じ切り方になる水平断(AX像)によって撮影することで、比較しやすくなり多くの病変の発見に有用です。(下図)

MRM3

単純MRI(主要3種)

1.脂肪抑制のT2強調画像

嚢胞性病変や粘液癌などの液体成分を含む病変をより抽出可能です。また、様々なコントラストの変化から腫瘤の壊死、浮腫、繊維化などの推定に役立っています。

MRM4

2.T1強調画像

乳管内出血の有無、腫瘤内部の脂肪評価に役立っています。腫瘍の輪郭しかわからないので通常はその評価には使われません。
乳房は脂肪組織が多いので乳房や皮下脂肪が白く描出されています。

MRM5

3.拡散強調画像

良悪性の鑑別に有用です。腫瘍などの細胞密度の高い病変は白く映ります。細胞密度の高くない背景は真っ黒なので、病変が浮き出て見えます。後述する造影後のMIP( Maximum Intensity Projection)に類似した画像が造影無しで得られます。

MRM6

造影MRI(ダイナミック撮像)

単純撮影が終後、造影剤を使用しての撮影を行います。
MRマンモグラフィで最も重要な検査となります。

なんと1mm以下で撮影

 

一般的に乳癌は、造影剤注入後2分以内に造影剤の取り込みが最大となることが多いと言われています。そのため当院ではガイドラインに推奨されている空間分解能1mm以下を維持しつつ、撮影スピードが約1分の撮像を連続3回行っています。造影剤の動態を追う撮影なので、ダイナミック撮影といいます。
1mm以下で撮像することによって、任意の断面に再構築可能なMPR処理や質の高いMIP (Maximum Intensity Projection)像の作成が可能です。(下写真)また、腫瘤の最も染まった相で冠状断(COR像)のMPR処理画像を作成することにより、病変の広がりも診断できます。

MRM7

更に高分解能に!

ダイナミック撮像後、さらに高空間分解能を意識した水平断(AX像)また患側、対側それぞれの矢状断(SAG像)を撮像しています。矢状断を撮像するメリットは、水平断を含めた2方向からの観察によって病変の形態がより正確に把握可能であり、矢状断のほうが乳管内成分を見やすい場合もある、マンモグラフィのMLOと簡易的に部位の対比(厳密には矢状断とMLOは異なる)が可能な事などが挙げられます。(写真)

MRM8

以上のようにMRIでは時間はかかりますが、乳癌診療に役立つ画像を様々に撮影することが可能です。
(鈴木 圭一郎)

*ガイドライン:欧米における乳房MRIのガイドライン(2009年3月)

当院のGE社製 3T(テスラ)MRI装置のご紹介


3.0T(テスラ)MRIが当院に入ってから、早いものでもう3年が経過しました。事故もなく安全に検査をすることが出来ていると言う事は、何ものにも変えがたい喜びです。安全第一で今後もMRI検査を行っていきたいと思います。

そこで、今回はあらためて3.0T MRIのメリット・デメリット・安全上の注意点などを交え、紹介したいと思います。
現在、日本国内で人体に使用できるMRI装置には静磁場強度が、0.5T~3.0Tまで多種多様な装置があります。臨床機では3.0Tが最上位機種となります。また、実験段階ではありますが、すでに7.0TのMRI装置で人体の撮影も行われています。近い将来、7.0T の臨床装置が登場する日もそう遠くはないかもしれません。
静磁場強度が高くなる最大のメリットは、信号強度(signal/noise)が向上することにより、高分解能な画像が撮影できる様になることです。また、撮影時間の短縮も可能になります。(画像1)

MR1
画像1

わずかな磁化率の差が画像に影響するため、今までは見えなかったものが見えるようになることもあります。(画像2)

MR2
画像2

周波数の差が大きくなるため、T2強調画像やT1強調画像だけではなく、ASLやMRS(画像3)などもきれいに撮影できます。また、functionalやelastgraphyなども1.5T MRIよりきれいに撮影することが出来ます。

MR3
画像3:3T装置で撮影されたT2強調画像、T1強調画像(造影)、ASL画像、MRS

また、デメリットとしては、3.0T MRI対応の体内金属以外は検査が出来ません。冠動脈ステントも、5年以上前に挿入したものは3.0T MRIでの磁場試験を行っていない製品も多く存在するため、安全性が確認できないものに関しては1.5T MRIでの検査となります。また、他院で挿入した冠動脈ステントや体内金属などは、製品の型番が確認できて安全性が担保できなければ3.0T MRIでは検査を行わないようにしています。一番重要なことは、安全性の担保に尽きると思います。リスクを負ってまで3.0T MRIで検査する必要はありません。安全面が確認できない場合は、1.5T MRIで検査をおこなえば良いのです。2台を使い分けすることで、スムースな検査が可能となっています。磁場強度が増すと、それだけ金属の吸引力が増加します。もし誤って金属を持ち込むと、3.0T MRIは1.5T MRIの2倍の吸引力になるため、大事故になりかねません。3.0T MRIが納入された時から、金属に関しては今まで以上に慎重に対応するようになりました。実際に磁場の吸引力を体験すると分かるのですが、3.0T MRIは桁違いの磁力です。
3.0TのMRI装置はメリット・デメリットありますが、安全に使い分けを行えば非常にメリットの多い装置であることは間違いありません。患者さんにとって、安全に安心して検査が行えるように、これからも日々精進してまいります。

特集MRI:薬を使わないでできる脳血流検査  ASLを紹介します


MRIで脳血流診断?

脳血流の評価というと、放射性核種を用いて血流量を定量評価する脳血流シンチがゴールドスタンダードです。当院の核医学検査でも行っている検査ですが、当院のように核医学検査装置を有している施設でなければ検査ができません。MRIで脳血流が評価できないかという事で、造影剤を使って脳血流を評価する方法(dynamic susceptibility contrast:DSC法)があります。DSC法は造影剤が脳血管内に流入する状態を撮影し続けます。しかし、解析方法の自動設定が難しく、定量値が撮影法に依存すること、定量値に誤差が生じやすいなどの問題点があり、精度の高い安定した定量値を得ることは難しいため、定性的な評価に利用されています。
近年、造影剤を使わずに脳血流評価が行えるASL (arterial spin labeling)法が普及してきました。ASLの研究自体は古く約20年の歴史がありましたが、装置の高性能化・高磁場強度の装置の登場により、ようやくソフトウェア技術が追いついてきました。造影剤が不要で、放射線被ばくも無く、非侵襲的に繰り返し検査することが可能で、当院のプロトコルでは約2分で撮影する事が可能です。

なぜ注射なしでOKなのか?

原理は頸部血管にラジオ波を照射して血液内のプロトンをラベリング(磁気的に標識)します。このラジオ波をラベリングパルスと呼びます。ラベリングされた血液が脳組織に到達するまで待った後、高速に画像収集を行います。ラベリングパルス「あり」の時と「なし」の時の差を解析するとわずかな磁場の変化がみられます。この違いが入ってきた脳血流の違いとして描出され、核医学検査のような脳灌流画像を取得する事ができます。ラベリングされた血液が造影剤代わりとなることから、適切なタイミングで撮像されていないと結果が正しくなくなる恐れがあります。

図1
InnervisionHPより引用

どのタイミングで撮影するのか?

ラジオ波でラベリングされた血液が脳組織に到達してから画像収集までの時間をPLD(post label delay)といいます。臨床では血流速度に個人差や左右差があることから適切なタイミングでの撮影が難しいときがあります。その為、原則としてPLD=1525msec(1.5秒)とPLD=2525msec(2.5秒)の2つのタイミングで撮影をしています。血流速度の速いものを反映しているのがPLD1525msecの画像、遅い血流を反映しているのがPLD2525msecであると考えられます。(当院症例:Case5をご参照ください)

図2
各種脳還流画像検査法の特徴(表:八重洲クリニック様HPから引用改変)

当院での症例

50歳代女性 左方麻痺 救急車で当院に搬送された。
CTでは異常所見なく、MRIを施行された。
拡散強調画像で淡い高信号、MRAで右MCAに狭窄が疑われ、ASL画像にて右中大脳動脈支配領域に一致した血流低下が疑われた。DSA検査を施行後、血管内治療が行われた。

図4

図5

図8

 

 

 

肝MRエラストグラフィ


肝硬変を初期に発見することの重要性
日本では、肝炎ウィルスによる肝硬変の発症がおおいですが、アルコールやカロリーの撮り過ぎなどによる脂肪肝から重度の脂肪肝、そして肝硬変へと至るケースもあります。肝硬変は、肝がんを誘発させることから、早期の段階で肝硬変を把握し治療へつなげることは重要です。
肝臓MRエラストグラフィは、肝臓の硬さを定量化し、肝の線維化を把握することができる新しい画像診断法です。

図1