知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎②


Are you DENSE? 〜マンモグラフィーが不得意な乳房とは〜

Dense Breast という言葉 ご存知ですか?日本語でいうと「高濃度乳腺」といいます。マンモグラフィーが真っ白にうつる乳腺をこう呼んでいます。高濃度乳腺の中では、腫瘍があっても判別しづらく、ときにマンモグラフィ検査での「見逃し」の原因となります。

米国では一般向けに自分の乳腺濃度を知って、適切な健診を受けることを啓発するサイトもあります。

http://www.areyoudense.org

図1

Dense Breast 高濃度乳腺とは?

乳房は乳腺実質と脂肪組織で構成されます。マンモグラフィの読影に際して乳房内の乳腺実質と脂肪組織の混在する程度(乳房の構成)を評価します。乳房の構成は脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度に分類されます。

乳腺実質内にほとんど脂肪の混在がない乳房を高濃度乳腺と呼びます(=Dense Breast)

高齢、授乳経験が多いほど乳腺の萎縮が進み脂肪組織が多くなり乳房全体が黒っぽくうつります。若年、授乳経験なし、エストロゲン補充療法をしている女性は乳腺の萎縮が軽度でマンモでは乳房全体が白っぽくうつります。

図2

乳がんは高濃度(白く)描出される。背景が高濃度乳腺だと認識しづらい

図3
乳腺散在の乳腺です。やはり左上に腫瘤があります。こちらは腫瘤の存在がよく見えます。不均一高濃度の乳腺です。左上に腫瘤の端が見えていますが、大部分は背景乳腺に隠れています。
乳腺散在の乳腺です。 やはり左上に腫瘤があります。 こちらは腫瘤の存在がよく見えます。
乳腺散在の乳腺です。
やはり左上に腫瘤があります。
こちらは腫瘤の存在がよく見えます。

マンモグラフィは高濃度乳腺が苦手

高濃度乳腺では散在性や脂肪性乳腺に比べてマンモグラフィで病変が認識しづらいことがあります。乳腺外来では超音波検査や乳房MRI検査など他の検査方法を追加して、病変の見落としを防ぎます。横浜市乳がん検診のような「対策型検診」では50歳代以上の受検者に対してはMLO1方向撮影ですが、高濃度乳腺の多い40歳代の受検者に対してはMLO,CCの2方向撮影を行うことでカバーしています。

マンモグラフィの弱点を補完する トモシンセシス撮影

X線管球を回転させて多方向からマンモグラフィーを撮影。乳腺の断層像を再構成する技術。1乳房につき30-60スライスの断層像で表示します。高濃度乳腺の重なりを排除でき病変を認識しやすくなります。また高濃度乳腺に隠された病変の辺縁もより詳細に読影できます。

図5

当院では平成27年3月末よりトモシンセシス撮影のできるマンモグラフィ機器が稼働しています。

右図はノルウエーのオスロで行われた検診における臨床研究です。従来撮影法(2D)にトモシンセシス撮影(3D)を追加したところ(右図赤いバー)、乳腺濃度が高い群でも浸潤がんの発見率が向上するという結果でした。トモシンセシスの検診への応用も期待されます。
:Radiology267:47-56,2013より改変引用

マンモグラフィ検診で高濃度乳腺と評価されたら?

精密検査不要の判定でも人間ドックなどの機会に超音波検査も追加してみるとよいでしょう。ただし高濃度乳腺だから乳がんに罹りやすいわけではありませんから心配はいりませんし急ぐ必要はないです。あくまで何かの機会にというスタンスで。ですがしこりなどの症状の自覚がある場合は早めに乳腺外来に受診しましょう。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎①


マンモグラフィーをどのように撮影するかご存知ですか?

乳房を圧迫板で薄くぴんとのばして「耐えられる最大限の圧迫」を加えて撮影します。日本人女性の場合120ニュートン(kg.m/s2) 程度の圧で撮影されることが多いです。
できるだけ薄くのばすことで少ない被曝量で解像度、コントラストに優れたよい画像を撮影することができます。
「苦痛が少なく」かつ「画質のよい写真を撮影」することは撮影技師の腕の見せ所です。

標準的撮影方法
斜めに乳房を圧迫する内外斜方向(Mediolateral Oblique:MLO)撮影と、水平に圧迫する頭尾方向(Cranio-Caudal:CC)撮影があります。

MLO撮影は一方向で乳腺組織全体を最も広く描出できる撮影方法です。特に乳腺組織量が多い乳房の上外側の深部組織がよく描出されます。
横浜市も含め多くの自治体による対策型検診では50歳以上の女性にはMLO一方向撮影で検診が行われています。

図1

マンモグラフィーには何がうつっているのでしょう?

図2

すべての乳がんがマンモグラフィでみえる?!わけではない

図3

図5

マンモグラフィの撮影範囲に入らなければ、がんがあっても描出されません。
乳房の内側は乳房組織や脂肪組織が薄く、腫瘤ができると触知しやすい部位でもあるのです。乳房触診を行う際には、この部位に腫瘍がないかも意識してみていただけるとありがたいです。

撮影体位図は医学書院 マンモグラフィガイドライン第3版 p8-9図より引用

症例は当院手術症例より