~胃X線検査「透視観察手順」の重要性~


●基準撮影法の普及
スクリーニング胃X線検査(以下、胃X線検査)については、2009年にNPO日本消化器がん検診精度管理評価機構より提案された基準撮影法が広く浸透し、早期胃がんの拾い上げに、ある一定の効果を得ています。日本消化器がん検診学会から毎年報告されている、消化器がん検診全国集計(平成26年度)によると、胃X線検診による胃癌発見率は0.120%で内視鏡検診の0.19%と、それぞれの受検対象年齢を加味すると、さほど遜色を感じることができません。また特筆すべきは早期がん率で、進達度M、SMにとどまる早期胃癌は全体の74.2%と一昔では考えられない高率で救命可能の胃癌を拾い上げることができております。その理由はDR,FPDといったデジタル画像の台頭や高濃度低粘性バリウムを使用した二重造影像主体の撮影法など、多岐にわたるのですが、やはり、撮影読影のシステムを一新し、構築浸透させたこのモダリティに携わる技師、医師たちの熱意であると個人的には思っております。

●とっても大事な検査時読影力
しかし当然のことながら、見まねで基準撮影法どおり撮影していれば、早期がんが拾い上げられるわけではなく、それには熟練した撮影技術(+話術)と、透視観察時に求められる高い読影力(検査時読影力と呼んでます)が求められます。 これらを欠かすと、基準撮影法といえども、進行がんですらも見逃す危険性もあることは、我々技師の間でも共通認識として知っておかなくてはならないと思っております。

 

●透視観察手順をマニュアル化
そこで、我々の施設では現在、胃X線検査において、全ての胃壁において病変の見逃しがないように「透視観察手順」を検討し、マニュアル化を進めております。当院の撮影ルーチンは、基準撮影法2+任意撮影の14体位にて構成されておりますが、このマニュアルには、撮影体位の基準のみならず、その体位変換の間のどこで透視をオンにして、どの壁在を流れるバリウムを観察するか、またどこで透視をオフにしてX線被ばくを低減させるかなどを、事細かく記載されております。透視の画質も、黒潰れや白とびの解消、空間分解能の向上など昔のアナログの時代とは比べ物にならなく改善されてよくなっております。あとは我々技師の観察能が検査の精度を左右するといっても過言ではありません。
透視観察が基準化されることにより、検査がさらに基準化され術者によって異なる検査精度やX線被ばくの格差が是正されることにより、被検者にとってよりよい検査をご提供できればと思っております。
今後も栄区そして近隣の皆様のがん検診の中核として、安全で精度の高い検査を行っていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたしします。

 


横山力也
日本消化器がん検診学会認定 胃がん検診専門技師、
NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構 胃がん検診読影部門 B資格
神奈川県消化器がん一次検診機関連絡協議会 技術部世話人

造影剤を使用しないで血管撮影!! 〜下肢動脈編〜


MRIで造影剤を使わずに頭部血管を描出できることは以前に他の技師から紹介させていただきました。実は他の部位の血管も造影剤を使わず描出可能です。今回はその一つである下肢動脈の検査についてご紹介させていただきます。

下肢動脈でも造影剤なし!

まずは撮影の手順を紹介します。
①検査着に着替えてもらい、MRI室に入ります。
②検査は仰向けで行います。足先まで覆うようにコイルを配置し、指にはセンサーを装着します。良い画像を得るために足は動かさないように患者さんにご協力いただきます。
③センサーにより心電同期させ拡張期と収縮期の画像を撮像します。
2つの画像から動脈がよく描出される画像が得られます。(下記で詳しく説明します。)
④下腿部・大腿部・骨盤部の3部位に分けて撮影し、最後に合成します。

動脈だけを画像にするには…

動脈は収縮期において血流が速いため信号が抜け描出されず、拡張期では血流速度が緩やかになるため高信号を示します。
静脈は心周期に依存することなく血流速度が遅いため、どのタイミングでも高信号に描出されます。
よって、拡張期から収縮期の画像を差分することで動脈画像となります。

CT  vs  MRI

造影剤を使用したCT画像と比較してみました。
例えば下肢痛でASOを疑った場合、エコー検査やABI測定などの生理検査で下肢血流低下を判定してから造影CTを撮影します。
CT画像の結果次第でEVT治療(カテーテル治療)の適応などを判断しますが、このCT画像(左)のように石灰化が多いと血管の狭窄部位の同定は困難です。
このような場合に、MRI撮影を行うと(右)石灰化部分の評価が可能となります。

今回紹介した撮影方法で造影剤を使用せずに石灰化の影響を受けず下肢動脈の評価が行えます。さらにMRIでの撮影なので被ばくがありません。たくさんのメリットがありますが、もちろんデメリットもあります。
まずは検査時間です。約30~40分と長時間の検査となります。その間は動かないでいただく必要がある為、患者さんの状態次第では検査不適応となってしまう場合もあります。さらに、不整脈がある場合には画像の収集がうまくできずきれいな動脈像が得られないこともあります。
メリット、デメリットが共にありますが、そんな中でもMRIによる検査が選択されているケースには腎機能不良や若年者、石灰化が多く評価困難な症例が挙げられます。
やはり造影剤を使うことなく行えることが最大のメリットなので、これからも様々なケースを経験し生かしていくことでこの検査に適応できる方を増やしていきたいと思います。

石井泰貴

ヘリカルスキャンは万能ではない!!:CT特集アーカイブ


ヘリカルスキャンは高速撮影が可能!

CT撮影には大きく分けて2つの方式があります。

頭部撮影の撮影モードはコンベンショナルスキャンとヘリカルスキャンの2通りあり、それぞれの特徴を模式図と共に下記に示します。

コンベンショナルスキャン(コンベンショナルとは「従来の」という意味)では、スキャンと寝台の移動が交互に行われます。一枚撮影したらベッドが移動し引き続き撮影という流れを繰り返す撮影で、CT撮影の基本撮影法です。一方、ヘリカルスキャンは寝台移動とスキャンが連続的に行われるもので、撮影しながらベッドが移動する撮影法です。スキャン軌道が螺旋を描くため、ヘリカルスキャンや螺旋スキャン、またスパイラルスキャンとも呼ばれます。原理的な詳細は割愛させて頂きますが、この二つの方式には次の表のような特徴があります。

ヘリカルスキャンは万能ではない!!

先述した撮影方式の違いにより、ヘリカルスキャンを用いるとCT撮影のスピードは圧倒的に速くなります。(頭部CTで3秒程度で撮影可)その為、救急時における頭部撮影では患者の体動を考慮し、ヘリカルスキャンを選択する場合が多いです。しかし、ヘリカルスキャンではチルト機能(装置を傾けて撮影する)が出来ない為、注意する点もあり今回はその事例をお示ししたいと思います。
図1-bは、頭部CTの画像です。CTでは同一スライス面上に金属などの高吸収体がある場合、図1-bのような放射状の偽陰影を生じてしまいます。図1-aは本スキャン前の位置決め画像で、この画像から撮影範囲の設定を行います。黄色線は、図1-bにおけるスライス面を示しています。図1-aと図1-bを見比べて頂くとわかるように、橋と義歯が同一スライスに存在してしまうためアーチファクトによって橋及び脳実質の描出がやや不良となっていることがわかります。

この影響を無くす方法は、患者の体位を変えるかスキャン方式を変えるかによって、観察したい部位が義歯と同じスライスとならないようにする必要があります。患者の体位を変えるとは、具体的には顎を引き頭を高くしスライス面内に義歯が入らないようにすることです。また、スキャン走査方向を変えるとはチルト機構を利用することです。チルトとは「傾ける」という意味で、図2のようにCT装置自体に傾斜をつけて走査を行うものです。こうすることで義歯の影響を避ける事が可能となり、図2-bに示すように、橋の横にある所見が明瞭に描出されるようになります。反面、この撮影方式ではヘリカルスキャンが行えず、冠状断や矢状断といった画像再構成ができません。

これらのことを考慮し適切な撮影体位にすること、適宜最適なスキャン方法を選択することを心掛けて撮影しています。

江上桂 X線CT認定技師

*この記事はR@H2014年9月号に掲載した内容を再編集したものになります。

 

マニアック?なレントゲン撮影用の小道具を御紹介します ー散乱線除去用グリッドー


私達、放射線技師は先生により良い画像を提供するため日々撮影に努力しております。今回は、良い画像を撮影するために撮影の際使用している道具を一つ紹介させて頂きます。画像の評価に一番影響を与えるのは二次的に発生する散乱線です。X線を体に照射すると体内で散乱線が発生します。この散乱線が画像のコントラストを低下させる原因になります (図1)。よって良い画像にするためには、この散乱線がフイルム(カッセテ)に到達する前に除去しなければなりません。そのために作られたフィルターがグリッドであります。

 構造は鉛とアルミを数ミリ間隔で配置してます。X線管から放射されたX線(一次X線と呼ぶ)は放射状の軌道で放出されますが、散乱線は体と一次X線との相互作用によりランダムな軌道を描きます。このランダムな軌道を取った散乱線をグリッドの間隙(鉛)が吸収することにより散乱線を除去します。(図2)

 形はカセッテと同じ四角形で大きさはさまざまですが50㎝×30㎝などで厚さは数ミリ程度です。フイルムと患者さんの間に配置します。(図3)

画像に影響を与える散乱線は体部の厚さが10~15㎝以上の時と言われていますのでグリッドを使用する撮影部位としては頭部・胸部・腹部・脊髄・肩・大腿骨などです。比較的、厚みが薄い手関節・指などには使用しません。ただし、グリッドは散乱線を除去してくれるのですが必要なX線も一部吸収してしまうため照射線量を増やさなければなりません。
今後も先生に良い画像を提供するため一生懸命努力していきたいと思います。

*この記事はR@H2014年に掲載した内容を再編集したものになります。

最先端! CT展示会にいってQ!!


毎年4月にパシフィコ横浜で医学放射線学会と放射線技術学会、そして医用画像総合展という画像診断関連機器の展示会が行われています。全国からたくさんの放射線科医師や技師、メーカー、物理学者などが参加する学会で私も毎年参加しています。この機器展示会ではメーカー各社が最新の装置を展示しており、大変にぎわいのある会となっています。今回私はCT装置メーカーを回ってお話を聞いてきました。最先端CT装置メーカーというと数社あり、CTマニアの間でも意見がありますが、私としては唯一2管球型という装置(従来のCT装置ですとエックス線を出力するエックス線管球という部品が1台に1つしかなかったところが2個ついているもの)を開発しているSIEMENSの装置が最も優れていると思いますので、その装置を例に最先端のCTでできることを簡単にご紹介したいと思います。

胸のCTが1秒以下で!?

2つのエックス線管球がついているので、撮影が倍速になります。最近の装置は高速化が進んでいるので1つの管球だけの装置でも十分といえるスピードを持ちますが、この方式ですとその高速CTのさらに倍なので圧倒的に速い撮影ができるというアドバンテージがあります。ここまで速いと冠動脈のCT撮影も失敗なくできるようですし、胸部の撮影でも息を止める必要もなく、心臓周囲の肺も通常ですとぶれてしまいますがここも静止した画像を得ることができるようです。

造影剤が半分以下でOK

2つの管球を持つことで、出力も倍にすることができます。CT装置の撮影ではエックス線のエネルギーを変更することができるのですが、いままで120kvという透過力が高いエネルギーのものを利用していたのですが、たくさんのエックス線を出せる為、この装置では透過力の弱い70kvが使えるようになりました。70kvでは造影剤を濃く映し出す効果があります。ですから、これを利用すると半分の造影剤でも撮影できるようになるのです。当院の装置でも同じようなことができるのですが、1管球なので、大量のエックス線を出すのに時間がかかり実用的ではありません。それでも当院の江上技師が色々と工夫して一部の検査で利用しています。

なんと!D撮影!!

撮影時間が短いことから、連続で同じ部位を撮影し続けることもできます。要は動画撮影になります。DSA検査のように造影剤が大動脈から頸動脈、脳動脈に入ってその後静脈を経て心臓にもどるまでを連続で撮影できる機能です。造影剤の動態や脳動脈瘤の脆弱な部分(ブレブ)を観察することも出来るそうです。

後から造影剤の濃度を変えられる!?

これは2つのエックス線管から2種類のエネルギーを出力させて撮影する方式でデュアルエナジー撮影と呼ばれる方式です。造影剤の見え方を撮影後に変えることができます。これを利用することで造影剤がない画像を作ることもできます。また骨のない画像や石灰化だけを除いた画像、結石の性状をみる画像、造影剤量の定量などができます。この機能で読影が楽しくなると実際に利用している放射線科医がおっしゃっていました。

最先端装置では以上のような高度な画像を撮影することができます。あらゆる応用がきくので使いこなせるのかという気もします。しかしこの装置の特徴はパワーがあって速いというところにあり、機能が沢山あるというわけではないため自然に使いこなすことが出来る良く考えられた装置だと感じています。iphoneのようにスペックが高いものほど主婦や女子高生が使いこなせてしまうのと同じです。職人のような放射線科医と技師が組んで使わないと活きて来ないようなタイプの装置もあり、それはそれでやってる方は面白いのですが、この装置のように高度な事が誰でもできるという方が時代に合っていると思っています。
X線CT認定技師 保田英志
写真引用 https://www.healthcare.siemens.co.jp/computed-tomography/imaging-contest/award2016

脳血流SPECT:統計解析による診断のポイント その3 ~アルツハイマー病におけるZ-Scoreによる評価~


Z-socoreとは(前回の復習)

当院で使用されている脳血流統計解析ソフトeZISではZ-Scoreという数値(指標)を使用します。
Z-Score=(正常群平均Voxel値―症例Voxel値)/(正常群標準偏差)
で表されます。すなわち血流低下が大きいほどZ-Scoreは大きくなります。また一定のZ-Score以上の領域を投影することで臨床上有意な血流低下各領域を抽出することが可能になります。
ここまでは前回お話しさせていただきました内容です。

アルツハイマー病におけるZ-Scoreについて

今回は99mTc-ECDを使用した脳血流SPECTを統計解析ソフト「eZIS」で処理を行った画像につき、アルツハイマー病におけるZ-Scoreの話をさせていただきます。アルツハイマー病では、その前駆期には後(部)帯状回から楔前部に血流低下がみられ、さらに頭頂葉皮質で血流低下が顕著な例は、進行が早いとされています。1)
前回の話で取りあげた部位と機能をもう一度下記に示しますが、下線部の3ヶ所に焦点を設定します。
海馬 … 主に記憶を作るところであり、特に新しい記憶に関係があります。
後(部)帯状回 … 空間認知や記憶などに関係があります。
頭頂葉 … 言語による表現、行動、空間認知などに関係があります。
楔前部(せつぜんぶ) …感覚情報、 記憶などに関係があります。
前頭葉 … 行動をおこすこと(運動・意思など)に関係があります。

統計解析ソフト「eZIS」では脳血流SPECT画像における全ての画素(ボクセル)にZ-Scoreを算出しておりますが(図1)、後(部)帯状回、楔前部、頭頂葉を疾患特異領域として関心領域を設定し、領域内のZ-Scoreについて以下の指標や割合を算出しています。(図2.3)

Severity
疾患特異領域の血流低下程度(Severity)は疾患特異領域内のZ>0のみのZ-Score平均であり閾値を1.19としています。
Extent
血流低下領域の割合(Extent)は疾患特異領域内のZ≧2のボクセルの割合を示し、閾値は14.2%としています。
Ratio
疾患特異領域と全脳の血流低下領域の割合の比較(Ratio)は全脳の血流低下を1とした場合での比較で、閾値は2.22倍となっております。こちらは他の領域での血流低下が大きいと閾値を下回る結果を伴うことが多々あります。

参考文献:1)松田博史:SPECTにおける画像棟計解析(画像診断 2003:23:1296-1309)

次回は認知症疾患に加えて他の神経疾患も含めて「eZIS」画像をより詳しくお話しさせていただく予定です。 (核医学専門技師 荒田 光俊)

放射線治療における精度管理について


〇放射線治療における精度管理

さて今回は放射線治療における安全の取り組み(精度管理)について書かせて頂きます。
近年、放射線治療は、がん治療において重要な役割を担っています。高齢化に伴うがん患者の増加、がん治療における放射線治療適応の拡大から、対象患者が増加しています。また治療装置も以前に比べ大幅に進化し、照射技術(照射位置の正確性、線量の集中性)が格段に向上しております。これらを踏まえて放射線治療を安全に実施するために、精度管理(QA・QC)(1)が重要となっています。また、精度管理は医療事故を未然に防止する目的を含んでおり、日々治療患者へ確実な照射を行うためには欠かせないものとなっています。ICRUレポート(2)では、臨床的に患者へ投与される線量が7〜10%を越えると、腫瘍の局所制御率に大きな変化をもたらすと報告されており、最終的に投与される線量の不確かさを5%、機械的な空間的不確かさを5mm以内の精度で管理する必要があると勧告しています。

(1) 品質保証(QA:quality assurance):患者及びその家族にその治療に用いられる全ての行為および装置の十分な質を保証するために医療者側が行う体系的活動、質的保証
品質管理(QC:quality control):患者に対する診療行為及び関連する医療手段の全ての管理、質的管理
(2) ICRU:国際放射線単位測定委員会
放射線・放射性物質の量と単位および測定に関する国際的な統一と規格化を図るための国際組織

〇精度管理項目の頻度と役割について

放射線治療装置の品質を担保するためには、多くの精度管理項目を実施する必要があります。精度管理項目は日常(Daily)、週毎(Weekly)、月毎(Monthly)、年毎(Annual)の頻度に分けられます(3)。すべての項目を日常点検で行うことは現実的に不可能であるため、照射精度への影響度と業務効率を考慮して、適切な頻度で適切な精度管理項目が設定されています。
当院においても、Daily、Weekly、Monthly、Annualの項目について、計画的に精度管理を行っております(fig1〜4)。

(3) American Association of Physicists in Medicine:AAPM TG-142 Report
最新の放射線治療技術に対応した、放射線治療装置の精度管理プログラム

日常点検

患者の位置決めおよび患者への投与線量に重大な影響を及ぼす可能性のある項目で行います。
位置合わせレーザーポジション、出力線量の不変性(簡易的な検証を行う)、照射野サイズの確認、各インターロックの確認等が挙げられます。

週毎および月毎の点検

患者への影響を与えやすい項目で行います。
出力線量の不変性(標準測定法に基づいた検証)、および線量プロファイル、マルチリーフコリメータの駆動に関する確認等が挙げられます。

年毎の点検

受入れ試験やコミッショニングで実施された項目の一部で、短期間での変化が小さく、長期にわたり変化する項目になります。

放射線治療は照射技術の進化に伴い、精度管理も重要な業務の一部となっております。精度管理は、治療装置および治療計画装置、その他の放射線治療に関わる付属器具と多岐にわたり、多くの時間と労力を必要とします。しかしながら、患者さまへ安全で安心できる放射線治療を提供するためには必要不可欠なことであるため、治療スタッフ一同、日々精度管理に取り組んでおります。ご安心してお任せ頂ければと思います。
放射線治療専門技師 江川 俊幸

妊婦さんのレントゲン撮影法


当院では10年前に産婦人科が閉鎖されましたが、環境が整い昨年の6月に再開しました。新B棟の二階に産科病棟も入り病室はまるでホテルのようです。(ちょっと大げさ?)

さて、出産が始まれば放射線技術科としても準備をしなければならないことがあります。それはX線骨盤計測法です。産科が閉鎖される以前は撮影していましたが、新人技師も入り撮影経験のない技師も増えましたのでベテラン技師も含めて再度勉強しなおすことにしました。産科にかかわりのない先生にはあまり馴染みのない撮影とは思いますが今回のテーマにさせてください。

X線骨盤計測法とは…

CPD(児頭骨盤不均衡)の恐れ(児頭が母体骨盤より大きいため児頭と母体骨盤の間の大きさに不均衡が生じて、陣痛があるにもかかわらず児頭が骨盤入口部に固定せず分娩が進行しない状態)のある妊婦さんの撮影です。
難産によって起こる母児への危険・障害を回避し最も安全な分娩様式を事前に選択する目的に行われ、産科における重要な検査の一つです。一般的には38週以降とされています。
X線によって骨盤の大きさと同時に児頭の大きさを計測するものでグースマン法(骨盤側面撮影法)とマルチウス法(骨盤入口撮影法)を同時に行うのが一般的です。
次に当院での撮影方法を紹介します。

月に数件しかないこの撮影は、正確性が重要な撮影であるとともに被験者が妊婦であるため被爆をできるだけ抑え、計測可能な必要最低限の線量で撮影しなければなりません。我々技師は丁寧かつ迅速に撮影できるよう日頃からシミュレーションを実施し、安全・安心な出産ができるよう放射線技師として陰ながら協力できればと思っています。

知っているようで知らない!? レントゲンの基礎④-レントゲン-


これまでのシリーズではレントゲンの基礎として、撮影条件や距離のお話をさせて頂きましたが、今回は今まで当たり前のように発していた“レントゲン”についてお話させて頂こうと思います。
また多くの方が間違った使い方をしてしまう“放射線・放射能・放射性物質”についても併せてお話させて頂きます。

レントゲンとは何か?
1895年W.C.レントゲン博士が真空放電の実験中に偶然、いろいろな物を突き抜ける不思議な光線を見つけました。
発見時、未知の光線だった為、数学の未知の数を表す「X」の文字を使いX線と名付けられました。
当時、多くの学者は彼の発見を称えその光線のことをレントゲン線と呼びました。
その名残から、未だにX線を使った検査のことを、レントゲン検査と言っていますが、近年放射線業務の領域ではレントゲン検査と呼ばずに、正式名称のX線検査と呼んでいます。
博士はその後1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞したことでも有名ですね。

放射線・放射能・放射性物質
“放射線”とは、放射線物質から放出される粒子や電磁波のことです。
“放射能”とは、放射線を出す能力のことです。
“放射性物質”とは、放射能を出す物質のことです。
蛍に例えると、放射線は蛍の光、放射性物質は蛍、放射能は光を出す能力です。
また、蛍の光が虫かごから漏れると「放射線漏れ」、蛍が虫かごから逃げ出すと「放射性物質の漏れ」ということになります。
このように“放射線”と“放射能”では大きく意味が異なるのです。
しかし、特にポータブル撮影時において、「放射能が出るから逃げないと」と発言する医療従事者もいるほどで、一から説明したくもなるのですが、グッと堪えて日々業務に励んでいます。
(参照:http://www.rikuden.co.jp/housyasennokoto/kihon.html)

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特殊撮影主任:森直彦

特集CT:名機の条件


おやじも悩ます!? CTの進化が止まらない!

昨年末、北米放射線学会という学会がシカゴで行われました。この学会は放射線関連学会では世界最大のもので、ここで毎年最新の技術を搭載した新装置が発表されます。今年も様々な技術開発があったそうです。放射線関連業界では毎年技術が進み、新しい装置が販売されていきます。CT装置に関しても様々な機種が販売され、16列とか64列とか、320列、256スライスなど、また2管球搭載型、最新型検出器によるデュアルエナジー機能搭載型等どんどん新しいものが販売されています。こうなってくると、僕らのように毎日使っているような人間でもどの装置が本当に良いものなのかわかりにくくなってきます。また最新のマーケティング技術によって装置の良し悪しを決める大切な部分を隠すことも高度化されていますので、注意する必要があります。そのため正しい知識を身につけることも我々の仕事であると先代の技師長から教育されてきました。私も努力をするように勤めているつもりです。
最新機種は色々とあるものの、エックス線CTの良し悪しというのはエックス線を使用した装置である以上その原理的背景からして一貫していると思っています。今回は本当に良いCT装置という少々マニアックな話ではありますが、お付き合いいただけたら幸いです。

CT装置:ここが「キモ!」

○馬力が重要なのはヒトも車もCTも同じ

CT装置で最も重要なのは、なんと言ってもエックス線管球であると思います。エックス線管球というのはエックス線を発生させる部品です。エックス線撮影装置はエックス線を出すエックス線管球、エックス線を受ける検出器(フィルム)が基本構成でCTも同様です。その中で特にエックス線管球からのエックス線最大出力が大きいほど良い管球といえます。
それではなぜ最大出力が重要なのでしょうか?これはエックス線検査の基本的な原理と関係があります。CT装置ではエックス線を使用して画像を得るのですが、エックス線の使用量が少ないと画像が汚くなります。これは患者さんの体を透過してきたエックス線の量が少なくなり、ノイズの割合が増えるためです。ですから体の大きい人の撮影時には透過エックス線量がたらず、画像が荒くなってしまいます。ノイズの影響を少なくするためには十分なエックス線量が必要になります。

○量を出すにはどうするか?

さて、X線の量を増やすにはどのようにすればよいのでしょうか。それにはX線を出す力を増やす方法(出力を上げる)と時間をかける方法(出力している時間を延ばす)の二つがあります。
前者の方法は、エックス線管球が持つ元々のパワーによりますので限界があります。軽自動車が200キロ以上のスピードを出せないのと同じように、資質によるところで決まるわけです。そこで最大出力以上のエックス線が必要な場合には、エックス線をかける時間を長くすれば必要な量をえることができますのでそのような方法をとります。これは軽自動車でもゆっくり走ればいつかは目的地に到着するのと同じです。このように量を出す為に時間をかけるわけですが、ここにCT装置の良し悪しをきめるポイントがあります。

○止められない♪、あ~止まらない♪

何がポイントなのかというと、この「時間をかける」というのが問題となります。CT撮影は体内臓器を対象にした撮影ですから、あまりに長い時間エックス線を照射しても患者さんが息を止めていられないからです。そしてこの影響を大きく受けるのが、常に動いている臓器(冠動脈)の撮影です。最近はCT装置で冠動脈も撮影できるようになりましたが、冠動脈というのは患者さんが息を止めても動きがとまるものではありません。ですから、動きを止めるために早いシャッタースピードで画像を取得する必要があります。つまり短い時間でエックス線を大量に発生させる必要があるということです。大火事の時には、消火器ではなくポンプ車が必要なのとおなじように一気にかけるイメージに似ていますね。火を消さなければ意味がないのと同様に、冠動脈撮影も動いていては意味がないのです。
以上のようなことから、CT装置メーカー各社はこぞって管球の最大出力を上げて1秒以下でたくさんのエックス線を出力できるような大容量のエックス線管球を開発しています。あるメーカーは最大出力を大きくするためにX線管球を2つ付けた装置も販売していますが、それでもまだ十分な出力とは言いがたいと個人的には思っています。以上のことからエックス線管球は撮影できるかできないかということを決める重要な因子であるということになります。

coronary

○装置寿命も左右する!?

さて、話は変わりますが当院には設置から13年目を迎える16列CT装置が稼働しています。16列CT装置というと今では普及期というか最低スペックの装置に聞こえてきますが、当院のこの装置は購入当時、上から二番目のハイスペック装置でした。この装置は2番目とは言いながらも冠動脈を撮影することを目的とした装置だったので、当時では珍しくかなり高い出力が得られるエックス線管球が搭載された装置だったからです。ですから、今発売されている16列装置とは格段にパワーがちがい、高負荷のかかるような検査を連続で行っても大丈夫な今でも第一線で活躍している名機といえます。このようにエックス線管球は装置寿命という点で見た時にもとても重要なポイントとなるといえるのです。


良いCT装置とは?ということで、今回はエックス線出力についてお話ししました。かなりマニアな話でしたがエックス線管球の力がとても大事であるという点については知っていただけたかと思います。今回は技術的に良いCT装置ということに的をしぼってしまいましたが、経済的な側面で見ると良い装置とも一言では言い切れないのが今の時代です。それはエックス線CTの診療報酬では列数による加点はあるものの管球出力による加点はないからです。そういった点で言えば、むだに高い出力をもった装置というのはコスト的に良い装置とは言えないのです。
とは言っても出力が高い装置のメリットはとても多く、冠動脈も前投薬無しで撮影できたり、息止めすら必要なく撮影できたり、また造影剤を半分以下に減らせたりすることもできるため、患者さんにも我々にも先生にもメリットがたくさんあるからです。
以上のようなことも含めて良いCT装置とは…と考えてみると13年前冠動脈の加算もない時代にあのような先駆的な装置が当院に導入されたことは誇らしいことであったのだと改めて感じています。
X線CT専門技師・肺がんCT検診認定技師 保田英志