ヘリコバクター・ピロリの感染診断の決め手は 「温かいバリウム?」~胃X線検査の見地より


胃がん検診は従来、その名の通り、胃がんの早期発見が目的とされていましたが、1990年代に胃がんの発生の主原因がヘリコバクター・ピロリの感染(以下、ピロリ菌感染)によるものであることがevidenceとともに確立しました。
さらにここ数年、ピロリ菌感染者に対しての除菌が我が国で保険適用になると、胃がんの拾い上げだけでなく、感染の有無を求められるような議論が日本消化器がん検診学会をはじめとした関係学会等で熱を帯びてくるようになってまいりました。消化器ご専門の先生にとりましては周知であると存じた上で述べさせていただきますが、ピロリ菌感染有無についての背景胃粘膜X線診断は、
①ひだ襞の分布・広がり、②ひだ襞の形状 ③胃粘膜表面像(胃小区像)の順番(図1)
にて判定いたしております。

①ひだ襞の分布・広がり

まず最初に、背臥位二重造影正面像での①襞の分布を観察いたします。
胃粘膜の萎縮が進行すればするほど肛門側から口側へ胃底腺領域が減少します。これにより襞分布が減少し、高度萎縮の場合は最終的には襞が消失してしまいます。

 

②ひだ襞の形状

次に着目するのは②襞の形状です。未感染胃の襞は細く比較的ストレートで表面も平滑で立ちあがりも緩やかなソフトな印象ですが、既感染胃の場合、太く蛇行して立ち上がり急峻で、印象としてハードなイメージです。

③粘膜表面像

最後に着目すべきは、③粘膜表面像です。未感染胃の粘膜模様は、平滑で滑らかな印象です。表現としては「ベルベット様」という表現です。また網目模様を呈することもあります。これに対して、既感染胃の場合は小顆粒像を呈し粗造な印象です。さらに萎縮が進行するとさらに粗い模様が目立ち「フリース様」と表現されます。

これらの所見を組み合わせて、胃X線検査ではピロリ菌感染の有無について診断いたします。除菌後状態の胃などは、所見が複雑に食い違って診断に難渋するケースもありますが、2013年より開催されている「ピロリ菌感染を考慮した胃がん検診研究会」によると、トレーニングをしっかりと積めば、医師、診療放射線技師ともに正診率は90%を超えるという報告もございます。

これらの所見をしっかりと診断できる画像を得るためには、「しっかりとバリウムが付着された像(背臥位二重造影像)」が必須であります。そのためには、撮影機器の精度管理と同時に、バリウムの品質管理を日常的に行うことが我々診療放射線技師の責務であると考えております。当院健康医学センター(健診センター)のX線TVシステムは、始業前に必ずJSGIファントムにて、画像の鮮鋭度やコントラストをチェックするだけでなく、使用するバリウムに関しても濃度のみならず、その粘度をあげないためにも液温管理を行っております。近年使用されている高濃度低粘性の硫酸バリウム懸濁液は、液温が低くなると粘性が上がり、胃の中で粘液と混ざって、ベタつきや凝集の原因となります。よって冷たい水でバリウムを懸濁することは、飲みやすくて被検者様の受容性が向上いたしますが、可能な限りお控えいただくことをお勧めいたします。(図2)
今後も栄区近隣地域の住民の皆様に貢献できるような、高品質な胃がん検診を提供していきたいと思っております。

横山力也
日本消化器がん検診学会胃がん検診専門技師
NPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構胃がん検診読影部門B資格