放射線治療科 朝比奈先生がお届け! 診療室での1コマ


放射線治療医の朝比奈です。ここでは放射線治療科の診察室で普段どんな患者さんを見ているのか?どんな治療をしているのかを紹介していきたい思います。

症例:80歳 男性 前立腺がんの既往
6年前に前立腺がん cT4N1M0(膀胱浸潤、骨盤内リンパ節転移、傍大動脈リンパ節転移),iPSA225.6,GS 4+3=7と診断され、ホルモン療法にて治療されていました。その後PSA2台まで低下しましたが徐々に上昇し、何度かホルモン剤の変更を行っています。いずれも一時的にはPSAの改善を認めるもののその後漸増し、今年になりPSA 23.6まで上昇したためドセタキセル導入の方針となり入院されました。

入院中に排尿コントロールがつかずオムツをして生活していることが判明し、また両臀部から下肢にかけての強い疼痛(NRS10/10)と脱力・しびれの訴えもありました。CT・MRIで第5腰椎、仙骨、両側腸骨に骨転移を認めたため、緩和照射目的に放射線治療科に紹介されました。

初診時にCT・MRIを確認したところ、特に仙骨の骨転移は骨外腫瘤を形成しており仙骨の神経孔が塞がれているような状態でした。(図1,2)ご本人にお話を伺うと、だいぶ前から便や尿の感覚はなく、今は痛みと脱力で歩くこともできないという状態でした。仙骨の骨転移により神経圧排が症状の原因と考え、同日より3Gy×10回 30Gyの緊急照射を開始しました。

治療終了1か月後には左足にしびれが残るものの、痛みはほとんど気にならなくなり(NRS1/10)、つたい歩きや歩行器を使っての歩行ができるくらいに回復しました。(図3)

〇脊髄圧迫に対する緩和照射

骨転移による脊髄圧迫により麻痺やしびれ、膀胱直腸障害などの神経障害が出現した際、緩和照射を含めた早期の治療介入が良好な機能予後につながると考えられています。症状出現から緩和照射開始までのいわゆるゴールデンタイムのようなものは規定されていませんが、英国では患者来院から24時間以内に全脊椎MRIを撮影し、撮影後24時間以内に放射線治療を開始することを推奨しています。

実際日本では照射開始までどのくらいの時間がかかっているのでしょうか?
聖路加国際病院の研究によると発症から来院まで中央値で3日(0日-143日)、来院からMRI撮影まで1日(0-20日)、MRI撮影から放射線治療開始まで2日(0-19日)でした。日本においてもかなり迅速に対応できている印象ですが、さらに期間を短縮できるとすれば・・・やはり、発症から来院までの部分でしょう!適切な患者教育がなされれば、がんの転移によって歩けなくなる患者さんはさらに減るはずです。もし癌の既往がある患者さんが歩きづらさ、手足の動かしにくさなどを訴えていたら、一度CTやMRIなどの画像検査をお勧めされたほうが良いかもしれません。