放射線治療における精度管理について


〇放射線治療における精度管理

さて今回は放射線治療における安全の取り組み(精度管理)について書かせて頂きます。
近年、放射線治療は、がん治療において重要な役割を担っています。高齢化に伴うがん患者の増加、がん治療における放射線治療適応の拡大から、対象患者が増加しています。また治療装置も以前に比べ大幅に進化し、照射技術(照射位置の正確性、線量の集中性)が格段に向上しております。これらを踏まえて放射線治療を安全に実施するために、精度管理(QA・QC)(1)が重要となっています。また、精度管理は医療事故を未然に防止する目的を含んでおり、日々治療患者へ確実な照射を行うためには欠かせないものとなっています。ICRUレポート(2)では、臨床的に患者へ投与される線量が7〜10%を越えると、腫瘍の局所制御率に大きな変化をもたらすと報告されており、最終的に投与される線量の不確かさを5%、機械的な空間的不確かさを5mm以内の精度で管理する必要があると勧告しています。

(1) 品質保証(QA:quality assurance):患者及びその家族にその治療に用いられる全ての行為および装置の十分な質を保証するために医療者側が行う体系的活動、質的保証
品質管理(QC:quality control):患者に対する診療行為及び関連する医療手段の全ての管理、質的管理
(2) ICRU:国際放射線単位測定委員会
放射線・放射性物質の量と単位および測定に関する国際的な統一と規格化を図るための国際組織

〇精度管理項目の頻度と役割について

放射線治療装置の品質を担保するためには、多くの精度管理項目を実施する必要があります。精度管理項目は日常(Daily)、週毎(Weekly)、月毎(Monthly)、年毎(Annual)の頻度に分けられます(3)。すべての項目を日常点検で行うことは現実的に不可能であるため、照射精度への影響度と業務効率を考慮して、適切な頻度で適切な精度管理項目が設定されています。
当院においても、Daily、Weekly、Monthly、Annualの項目について、計画的に精度管理を行っております(fig1〜4)。

(3) American Association of Physicists in Medicine:AAPM TG-142 Report
最新の放射線治療技術に対応した、放射線治療装置の精度管理プログラム

日常点検

患者の位置決めおよび患者への投与線量に重大な影響を及ぼす可能性のある項目で行います。
位置合わせレーザーポジション、出力線量の不変性(簡易的な検証を行う)、照射野サイズの確認、各インターロックの確認等が挙げられます。

週毎および月毎の点検

患者への影響を与えやすい項目で行います。
出力線量の不変性(標準測定法に基づいた検証)、および線量プロファイル、マルチリーフコリメータの駆動に関する確認等が挙げられます。

年毎の点検

受入れ試験やコミッショニングで実施された項目の一部で、短期間での変化が小さく、長期にわたり変化する項目になります。

放射線治療は照射技術の進化に伴い、精度管理も重要な業務の一部となっております。精度管理は、治療装置および治療計画装置、その他の放射線治療に関わる付属器具と多岐にわたり、多くの時間と労力を必要とします。しかしながら、患者さまへ安全で安心できる放射線治療を提供するためには必要不可欠なことであるため、治療スタッフ一同、日々精度管理に取り組んでおります。ご安心してお任せ頂ければと思います。
放射線治療専門技師 江川 俊幸