核磁気共鳴装置と体内金属の果てしない戦い-メタルウォーズ!?-


MRIは強力な磁場を利用していることから、金属類は身に着けないように注意して撮影しているのは一般的にもよく知られているところかと思います。入れ歯や時計など体から取り外すことが出来る金属に関してはすべて外していただいていますが、心臓ペースメーカーなどをはじめとした体内金属デバイスに関しては取り外すことは出来ません。過去においてはこれらの体内金属が体に埋め込まれている方は検査を行うことは出来ませんでしたが、最近は磁場の影響を受けない非磁性体素材を用いた体内金属デバイスなど技術が進み、冠動脈ステントや脳動脈クリップなどが埋め込まれた方も撮影できるようになってきました。しかし撮影に制限があるデバイスもまだまだたくさんあり、撮影できるものとできないものがあるので複雑な状況となっています。今回はMRIと体内金属デバイスについて簡単にまとめさせていただきたいと思います。

3.0テスラ装置は体内金属要注意!

当院には2台のMRI装置がありそれぞれ磁場の異なる1.5テスラ、3.0テスラのMRI装置が稼働しています.3.0テスラMRIは、1.5テスラMRIと比較して画像情報が多く診断能が高いというメリットがありますが、静磁場上昇に伴い体内金属デバイスへの影響がより大きくなります。それは1.5テスラ装置では撮影可能な金属も3.0テスラでは撮影できないというようなケースがあるためです。
ではなぜそのようなことになるのでしょうか?これは1.5テスラと3.0テスラという磁場強度の違いによります。磁場の金属に対する吸引力は静磁場*(1.5テスラや3.0テスラなど)×空間勾配(その磁界の密度の違い)で決まります。
ですから、吸引力は1.5テスラよりも3.0テスラのほうが2倍大きくなるという計算になり、同じ金属デバイスであっても影響される力が違うため、デバイスによってはどちらの装置でも大丈夫と一概には言えないということになっています。

*静磁場とは?
もともとMRI装置に備わっている磁場のことで、その強さを静磁場強度という。例えば‘1.5テスラの静磁場強度のMRI’というように使われる。

吸引力半端ねーぜ

同じ磁場強度でも撮影できない時も・・

先ほど吸引力は静磁場×空間勾配と書きましたが、吸引力は静磁場だけでなく空間勾配というものによっても変わってきます。ですのでこの値によっては撮影の実施に制限が出てきます。例えば、同じ3.0テスラの装置でもこの空間勾配の値が違えば撮影できる時とできない時があるということも考えられるのです。

空間勾配とは
さて、この空間勾配というのはなんでしょうか?これは静磁場中の磁界の強さ(磁束密度)の変化率を表しています。MRI装置では装置周辺の磁場の強さの分布のなかに、その強さの違いが高いところと低いところがあります。それが勾配を形成しているわけです(図1)。通常この勾配は装置のボアと呼ばれる患者さんが入る穴の入り口のところが最大です。そして装置の形状などによりその値が変化します。そのため同じ3テスラ装置でも空間勾配に違いが生じます。例えば、同じメーカーの同じ静磁場強度の装置でもボアの構造などによって値が変化します。

添付文書の確認が大事
現在この空間勾配については装置固有の値として発表されており、また金属デバイスについてはそれぞれ添付文書に許容値が記載されております。そのデバイスの空間勾配の制限値がMRI装置固有の値より低くなっているかどうかを確認する必要があります。

MRI引っ張られるー

以上のように、現状では体内金属デバイスに対するMRI撮影は非常に複雑化しており、デバイスによって撮影装置が変わるため煩雑となっています。
ウェブ検査予約等で先生からいただいております検査依頼表に体内金属の有無等を記載する欄を設けており、いつもご記載をいただいており非常に助かっております。MRIの安全運用のためにも今後もご協力をお願いいたします。

*写真はGEヘルスケアHPより引用

医療被ばく低減施設を目指します!


いつも大変お世話になっています。技師長の高橋です。本号が発刊される際は、すでに新年度が始まっていると思います。当放射線科の谷部長は「1年目標を立て、期日を決め実行することは成長していくためにも重要である」とよく話をしてくれます。それとは別に病院でも勤務員評価制度が始まり、個人の目標値を決めて日々研鑽しています。
さて、2015年度の私の成果目標は、
1)CT Colonographyによるスクリーニングのルーチン化
2)日本診療放射線技師会が定める、医療被ばく低減施設認定の取得を目標としました。

1)に関しては医師の役割、技師の役割、看護師の役割の調整がつかず、ルーチン化を断念せざるをえない結果となってしまいました。
2)に関しては取得までは到達できませんでしたが、準備を始めるところまで行くことができました。

医療被ばくに関して、昨年J-RIME(医療被ばく研究情報ネットワーク)から、診断参考レベル(Diagnostic Reference Level; 以下DRL)の指標が公開されました。興味があれば、是非こちらを閲覧していただければと思います。
このDRLの指標というのはこうしなければならないというものではなく、自施設の医療被ばくがどの程度の位置にあるのか?といった現状を把握するためのものであるということです。間違えてはいけないのは、この値は標準値ではないということです。あくまでも医師と協同でこれくらいの画像の質であれば、この撮影条件で良い、というように診断に必要な画質を担保したうえで撮像条件(医療被ばく)を決めることに変わりはありません。

放射線被ばくに関しては昨今、新聞報道などで社会的にも感心が高まっており、関連学会でもその対応としてこのようなガイドライン作成などが進められております。この医療被ばく低減施設認定を取得することで、当施設で放射線検査を受けられる患者さんが安心して検査を受けていただけるようになればと考えております。
さて、実際に医療被ばく低減施設取得に向けてと申しましても、実際にどうやって良いかが全くわからず、関連病院で唯一取得している平塚共済病院に見学に行ってきました。まず、説明されたのがX線量の実測をしておくと良いということでした。実測をするには高価な線量計が必要です。当院では昨年、X線TV装置を更新した際に、スウェーデン製のUnfors Xiという線量計を購入していました。その点では取得に向けた費用は軽減されます。もうひとつ重要なことは、審査官が来た時に、こういった理由で被ばくに取り組んでいるということをきちんと証明できれば良いということでした。そのためにはマニュアル類の整備や、放射線に関わるスタッフ教育なども必要となります。
このように認定取得にはX線の実測以外にも様々なハードルがありかなり大変なのですが、個人のスキルを磨くとともに科の底上げ効果も期待できるものと思われました。将来的には栄区および連携医の先生のご施設などで撮影線量に関するアドバイスなども出来るようになればと考えています。今すぐにできるものではないのですが、向かっていく方向はこういう方向だよということを示し、スタッフとともに頑張っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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当院CT撮影線量について


先生こんにちは 診療放射線技術科の石井です。先日「神奈川放射線学術大会」に参加し、
「当院におけるCT撮影線量と診断参考レベルとの比較検討」というタイトルで発表をさせていただきました。今回はその「当院におけるCT撮影線量」についてお話しします。

【医療被ばくの最適化とは】

医療行為に使われる放射線には線量制限が課せられていません。これは、仮に線量に制限を設けてしまうと患者さんの診断や治療に支障をきたすおそれがあるためです。例えば診断においては、線量が低すぎると画質が損なわれ、診断能の低下を招きます。逆に高すぎる線量は不必要な被ばくとなります。
そこで「医療被ばくの最適化」を目的として昨年公開されたのが、「DRL(診断参考レベル)」です。

【DRL(診断参考レベル)とは?】

DRL(診断参考レベル)はJ-RIMEと呼ばれる医療被ばくに関するデータの収集・実態把握を目的とした団体により策定されました。意義は、「放射線診断においてその値を超えた場合は線量を下げることを検討すべきである」というものです。ただし注意すべき点として、臨床的に正当な理由がある場合は超過してもよいこと、が挙がります(患者さんの体重や体格により、高い線量が必要とされる場合があるため)。あくまでも目的は医療被ばくの低減ではなく最適化です。また、DRLの数値は患者さんの被ばく線量(臓器吸収線量や実効線量)は示していない点にも注意が必要です。

【当院のCT撮影線量とDRLを比較】

今回私は当院で扱っているCTの撮影線量とDRLの値を比較、調査をしました。(グラフ1)
グラフ1はCTDIと呼ばれるCTにおける線量の指標を示しています。赤で示されたグラフが先ほど説明したDRLの値、青で示されたグラフが当院の線量になります。結果、全ての検討部位でDRLの値を大きく下回りました。特に冠動脈CTは被ばくが多くなる分野ですが、当科の値は大きく下回る結果となりました。これは病院が海外製の高額なCT装置を整備してくれたこと、そして循環器内科岩城医師が積極的に低被ばく撮影を推奨したこと、それに応じてスタッフもソフトウェアを応用するなどの工夫をしたことによる結果であると考えています。

CTDI

近年、原子力発電所の事故などにより放射線に対して多少なりとも抵抗を覚える患者さんはいらっしゃると思いますが、今回のこの結果がそういった方々の検査に対する安心感に繋がれば幸いです。
当院では常に患者さんの被ばく線量を考慮し、最適な画像を提供するように心がけております。今回行った調査により当院で扱っているCT撮影の線量はDRLを大きく下回りましたが、この結果に満足せずこれからも被ばく低減・画質向上に努めていきます。今後ともどうぞ宜しくお願いします。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎④


局所的非対称性陰影(Focal Asymmetric Density:FAD)って何?

さて、この連載もおかげさまで第4回となりました。前回は石灰化についてとりあげました。今回は「局所的非対称性陰影」についてとりあげます。FADと略語で呼ばれることもあります。マンモグラフィ独特の所見用語で、耳慣れない用語かもしれませんが、マンモ業界では「腫瘤」「石灰化」とともに非常によく出てくる用語です。
右は横浜市乳がん検診票です。ご覧になったことがありますか?
マンモ独特の用語ですがある意味マンモグラフィ読影の特徴を表している用語だと思います。

図2

高濃度乳腺にできた乳がんは雪のなかの白うさぎ。白うさぎいる??=FAD

連載第2回目に高濃度乳腺をとりあげました。乳房は脂肪、結合組織、乳腺組織から成ります。乳腺組織は乳汁を生産する組織で、加齢とともに萎縮します。乳腺組織は、マンモグラフィ上白く描出されます。若い方や授乳経験の少ない方は乳房全体が白っぽく描出され、ご高齢の方や授乳経験の多い方は乳房全体が黒っぽく描出されます。X線吸収係数が大きい組織ほど白く、小さい組織ほど黒く描出されます。乳がんの係数は0.85 に対し乳腺組織0.80,脂肪組織0.45です。若い方の高濃度乳腺はほとんど脂肪を含まないので、このような乳房に乳がんができると背景乳腺との色の差が少なく非常に見えづらくなります。

図3

図4

症例1

下の症例は比較的濃度の高い背景にできた乳がんがあります。赤点線ががんの範囲です。超音波検査でみると3.5cmの腫瘤でした。背景乳腺が高いがために「腫瘤が隠れていそうだけど本当に??そうなの??」 こんなとき局所的非対称性陰影という所見用語をつかいます。

図5

図6

症例2

この症例は背景乳腺はそれほど高濃度でないが、がんが小さいためにはっきりとした腫瘤に見えない。でもなにか隠れていそう=「局所的非対称性陰影」とされた症例です。
切除検体のMMGでは乳腺の重なりの影響が排除されがんの存在がはっきり見えます。

図7

症例3

白っぽく見えてなにか隠れていそう?精査すると何も病変はなく正常乳腺でした。
乳房を折りたたんで撮影するので、乳腺がたくさん重なって撮影された部分は正常でも白っぽく浮かび上がって見えます。病変が隠れていそうだけど実は正常乳腺の重なり=これも「局所的非対称性陰影 FAD」と表現します。

図8

乳腺と病変の違いは非常にわずか・・

乳腺と病変のX線吸収の違いは非常にわずかです。そこを目一杯強調して検出するのがマンモグラフィです。マンモグラフィの読影は雪の中で白うさぎを探す、ジャングルの中で迷彩の兵隊さんを探す、闇の中で黒子をさがすようなものです。よく見えなくて確信できないけどなんか怪しい=「局所的非対称性陰影=FAD」です。
高濃度の若い人の乳腺では悪性病変があっても腫瘤として認識できず局所的非対称性陰影としてしか認識できないことも多いです。
局所的非対称性陰影の多くは正常乳腺の重なりですが、病変が隠れていることもあるので精査の対象となります。他に悪性病変を疑う所見が一緒にあれば病変の存在する確率が高くなります。

図10

あらためて考える「SPECT」の意義・その1


核医学検査で「SPECT」という言葉を耳にすることがあると思われます。「SPECT」はSingle Photon Emission CTの略で核医学ガンマカメラの撮影手技のひとつであり、X線CTなどと同様の断層撮影です。脳血流や心筋シンチグラムではこの手技が第1選択となります。一方で骨シンチグラムやガリウムシンチグラムでは全身像や局所の撮影は従来から第1選択であり、必要に応じてSPECT撮影を追加します。当院の実際としては、これらの検査においてはほぼ全例SPECT撮影を行っております。また腎レノグラムや唾液腺シンチグラムなどに代表される放射性医薬品を投与された後の経時的画像収集検査においても、SPECTは追加項目の検査になる場合があります。
唾液腺シンチグラムは過テクネチウム酸ナトリウム溶液(99mTcO4-:パーテクネテート)を投与し唾液腺への集まり具合やクエン酸刺激への反応を観察する検査です。シェーグレン症候群に代表される唾液腺分泌機能を評価する検査が唾液腺動態シンチグラムです。一方、唾液腺腫瘍などでWartin腫瘍や多形腺腫などの判別を目的として行う検査として唾液腺形態シンチグラムがあります。Wartin腫瘍や多形腺腫では投与された放射性医薬品は正常唾液腺と同様に必ず集積しますが。クエン酸刺激に対しては正常唾液腺が分泌排出されて唾液腺への集まりが低下するのに対し、Wartin腫瘍や多形腺腫では刺激に反応せずにそのまま留まっていることが判別のポイントとなります。
唾液腺形態シンチグラムではパーテクネテートを投与後、10分前後、20分前後、30分前後、40分前後で正面像、左右側面像の局所撮影を行います。20分での撮影を終えた後、クエン酸刺激反応を観察するためにレモンキャンディーを舐めていただきます。20分前後/30分前後の画像の差異を検討するのには正面像が従来重要視されて来ましたが、当院ではクエン酸刺激を行う直前にSPECT収集を行い、刺激後30分前後の局所撮影を行った後に続けて再度SPECT収集を行います。
下記は右耳下腺腫瘍疑いで施行された一例です。投与後20分の正面像撮影(図1)を行い、その後SPECT撮影を実施しております(図2)。クエン酸刺激後に投与後30分の正面像撮影(図3)を行い、その後同様にSPECT撮影を実施しております(図4)。正面像の比較でクエン酸刺激前後のある程度の判別は可能ですが、目的部位の実際の集積についてはSPECTを追加することによって、より鮮明になってきます。
経時的な撮影を行っている上でのSPECT撮影を組み込むので以前のガンマカメラではSPECTを収集する時間の確保がままなりませんでしたが、現在のガンマカメラでは「分解能補正+OSEM (Ordered Subset Expectation Maximization)」という画像再構成手法で短時間の収集(7分程度)でも鮮明なSPECTイメージを得ることが容易となったことでプロトコルが達成されています。次回は「分解能補正+OSEM」についてお話することにしましょう。

図11