3年目の「脳DATスキャン」


脳核医学画像診断「脳DATスキャン」:ドーパミントランスポータシンチグラフィー(図1)については当院でも検査開始から3年目へ突入しました。最近では幾つかのご施設から検査依頼の御紹介いただき厚く御礼申し上げます。
3年目に入った節目として、改めて脳DATスキャンのおさらいをしてみます。

1)基本原理

①神経伝達物質であるドパミンはシナプス小胞に包れ、シナプス間隙に放出されます。

②放出されたドパミンはドパミン受容体に結合し、信号が神経細胞に伝達されます。

③シナプス間隙のドパミンはDATにより再取り込みされ、シナプス小胞に貯蔵されます。

④ドパミン神経の変性・脱落がみられるPDでは、ドパミン神経の減少とともにDATが減少します。

下記図1にて健常例とパーキンソン病例を提示します。

DAT1

2)画像評価

①視覚評価

線条体部位の形状を評価します。検査開始当初は線条体への集積が正常では「勾玉(まがたま)」、「三日月」「カンマ」、異常では「ドット」かという見分け方が典型とされていました。(図2)

DAT2

最近では左右の対称性、非対称性も視覚評価のポイントとして重要視され、特に被殻後部から集積低下が始まることが着目されています。(図3)

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②定量的評価

投与された放射性医薬品(DATスキャン:123I-イオフルパン)の線条体への集まり具合を数値化して評価する方法で線条体以外の部分、すなわちバックグラウンド(BG)を1とした場合の線条体の集積比をSBR(Specific Binding ratio)と称す数値とします。現在、全国的に「DATView」という解析ソフトウェアが広く使用されております。前の視覚評価で取り上げた左右の集積比であるAIという指標も作成しております。(図3)

DAT3.2

3)DATスキャン:3年目の現場の取り組み

この4月に従来の「DAT View」を含む核医学解析ソフト「隼」を導入し、新たな展開を迎えようとしています。

従来の「DAT View」では構成する断面をAC-PCラインに合せて再構成していましたが、実際のSPECT断面からAC-PCラインを同定するのはかなり困難な作業でした。(図4)

DAT4

新規ソフトウェアの導入にて「Assist AC-PC」という機能が加わり、これまで困難であったAC-PCラインの自動同定によって処理作業の煩雑さが解消され、併せて処理解析による誤差も解消しております。(図5)

DAT5

現在、神奈川県内13施設において同一の最新型線条体ファントムを用いた多施設共同研究が展開されております。施設および機器による測定誤差等を解析し、施設間差を是正する標準化作業の一環として取り組んでおり、当院も参加させていただいております。3年目を迎え、より正確な検査が出来るよう、今後とも様々な点からアプローチして行く所存であります。(核医学認定技師 荒田 光俊)

*神奈川県線条体ファントム多施設共同研究参加施設

東海大学医学部付属病院、北里大学病院、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学藤が丘病院、横浜市立大学横浜市総合医療センター、横浜市立大学医学部附属病院、新百合ヶ丘総合病院、、帝京大学溝口病院、横浜みなと赤十字病院、川崎市立川崎病院、済生会横浜市東部病院、関東労災病院、横浜栄共済病院

 

IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)とは?


さて今回は、放射線の強さを変える技術について説明させて頂きます。IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)という治療技術です。日本語では強度変調治療と呼ばれます。お聞きになったことがあるのではないでしょうか?
IMRTは、照射野内で不均一な線量分布を作成しながら照射をおこないます。通常の照射方法では、正常組織にも同じように放射線が照射されてしまいますが、IMRTは放射線の強度を変化させ、多方向から照射をおこなうことで、病巣へ線量を集中させ、正常な所に照射される量を少なくすることができます。つまり、IMRTは病巣への線量集中と正常組織の線量低下を一変にかなえることが可能な高精度な照射技術となります(図3、図4)。この技術の登場により、従来では実現不可能であった放射線治療が展開できるようになったため大幅に悪性腫瘍の治療方法の選択が拡がりました。

IMRTにはSMLC-IMRT、DMLC-IMRT、Compensating filter IMRTなどの手法があります。それぞれ紹介致します。
(1) SMLC-IMRT(Segmental MLC-IMRT)
別称step and shoot法と呼びます。MLC形状の異なった複数の照射野を重ね合わせることにより、1つの照射野を作成し照射をおこないます。多数のMLCパターン(セグメント)の合成による照射方法です。
(2) DMLC-IMRT(Dynamic MLC-IMRT)
別称sliding window法と呼びます。照射中にMLCを連続的に動かし、左右1対のリーフの運動速度の差により強度を変調させ照射をおこないます。
(3) Compensating filter IMRT
別称physical modulator IMRT(補償フィルタ強度変調放射線治療)法と呼びます。専用の補償フィルタを用いてビーム強度プロファイルを作成し照射をおこないます。

現在IMRTの適応は、頭頸部腫瘍や前立腺がんが主流ですが、乳がんや肺がんなど、その他の疾患でも積極的に検討がなされています。近い将来、IMRTが通常の照射法となるかも知れません。また、IMRTの照射技術も日々進化しております。最近ではより高技術なVMAT(Volume Modulated Arc Therapy:強度変調回転照射)※3と呼ばれる照射法もおこなわれる様になっています。
当院でもIMRT可能な治療装置を導入しました。こちらの方も順次準備を整えていきたいと考えていますので、ご期待頂ければと思います。

次回は、既に放射線治療が開始していると思います。順調にスタートしていれば良いのですが…
ということで次回は、放射線治療の開始報告と放射線の種類を変る技術について紹介させて頂きます。

(放射線治療認定技師 江川 俊幸)

IMRT1IMRT2

※1コミッショニング
各施設に納入された高エネルキー放射線治療機器特有の放射線出力の状態について、測定・数値なとの登録・確認を行い、品質か管理されていることを確認すること.受入れ試験に引き続きおこなう一連の作業行程.
※2モデリング
治療計画装置にビームデータや加速器のパラメータを登録し、計算アルゴリズムに応じた関数の設定をビームデータに合わせ込み、最終的にビームデータを承認するまでの作業.
※3VMAT
IMRTの進化形であり、ガントリーを回転しながらX線量を加減し治療を行います.IMRTより良好な線量分布を達成しつつ、治療時間の短縮が可能のため患者の負担が軽減できる.

CT所見を利用した脾臓の重症度分類


2015年12月と1月の2か月間、放射線科で研修させていただいた初期研修医2年目の金澤将史と申します。私は救急科志望であり、広い救急の分野の中でも外傷救急は画像診断の果たす役割が大きいと日々の臨床経験を通して実感しています。今回、脾臓の損傷と治療方針選択にあたってCT所見を利用した重症度分類を用いることの有用性を検討する論文を見つけましたので、その内容を紹介させていただきます。

Nitima Saksobhavivat、 MD et al.
Blunt Splenic Injury: Use of a Multidetector CT–based Splenic Injury Grading System and Clinical Parameters for Triage of Patients at Admission
Radiology 2015;274:702-711.

鈍的脾損傷に対しては、循環動態や腹膜炎の有無をもとに手術または非外科的治療が選択され、脾動脈塞栓術も一般的に行われるようになっています。しかしながら、治療法を選択するためのガイドラインやコンセンサスはありません。一方で、脾損傷の重症度評価のためのCT所見に基づいたグレード分類システムが開発され、最適な治療のためには動脈相と門脈相の2相性CTが重要という報告もされています。ここでいうグレード分類システムというのは、血腫(画像1 グレード3 3cmより大きな実質内血腫)や活動性出血(画像2 グレード4a  活動性実質内出血)などのCT所見をもとに脾損傷の重症度を分類するもので、グレード 1、2、3、4a、4bに分類され数字が大きいほど重症度が高いというものです。論文では、鈍的脾損傷患者に適切な治療(保存的治療、脾動脈塞栓術、手術など)を選択する際、2相性CTに基づくグレード分類システム及び臨床パラメータを使用した場合の有用性を評価しています。入院時にCTを施行した鈍的脾損傷患者171人を対象としたレトロスペクティブな検討です。CTグレード分類で重症度の低かった症例(グレード 1~3)は保存的治療のみでその他侵襲的な治療を要さなかった例が多く、グレード分類の重症例(グレード 4a、4b)の多くは手術や塞栓術などを必要としました。筆者たちは、鈍的脾損傷においてCTによるグレード分類システムは保存的治療成功例の最良の予測因子であると結論付けるとともに、動脈相と門脈相の画像を適用して脾損傷による活動性出血や非出血性血管損傷を識別しやすくすることが、正確な損傷の分類や治療方針決定に必須であると述べています。
外傷診療における重症度評価や治療方針決定にCTがいかに有用であるかを改めて認識するような報告でした。外傷初期診療ガイドラインでもCTは画像検査の中心に位置づけられており、機器の性能向上と撮影時間短縮により、ますますその有用性が指摘されています。全身CTや撮影のタイミングについてはまだ検討の余地がありますが、今後も外傷診療において中心的役割を担うものと考えられます。

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核磁気共鳴装置と体内金属の果てしない戦い-メタルウォーズ!?-


MRIは強力な磁場を利用していることから、金属類は身に着けないように注意して撮影しているのは一般的にもよく知られているところかと思います。入れ歯や時計など体から取り外すことが出来る金属に関してはすべて外していただいていますが、心臓ペースメーカーなどをはじめとした体内金属デバイスに関しては取り外すことは出来ません。過去においてはこれらの体内金属が体に埋め込まれている方は検査を行うことは出来ませんでしたが、最近は磁場の影響を受けない非磁性体素材を用いた体内金属デバイスなど技術が進み、冠動脈ステントや脳動脈クリップなどが埋め込まれた方も撮影できるようになってきました。しかし撮影に制限があるデバイスもまだまだたくさんあり、撮影できるものとできないものがあるので複雑な状況となっています。今回はMRIと体内金属デバイスについて簡単にまとめさせていただきたいと思います。

3.0テスラ装置は体内金属要注意!

当院には2台のMRI装置がありそれぞれ磁場の異なる1.5テスラ、3.0テスラのMRI装置が稼働しています.3.0テスラMRIは、1.5テスラMRIと比較して画像情報が多く診断能が高いというメリットがありますが、静磁場上昇に伴い体内金属デバイスへの影響がより大きくなります。それは1.5テスラ装置では撮影可能な金属も3.0テスラでは撮影できないというようなケースがあるためです。
ではなぜそのようなことになるのでしょうか?これは1.5テスラと3.0テスラという磁場強度の違いによります。磁場の金属に対する吸引力は静磁場*(1.5テスラや3.0テスラなど)×空間勾配(その磁界の密度の違い)で決まります。
ですから、吸引力は1.5テスラよりも3.0テスラのほうが2倍大きくなるという計算になり、同じ金属デバイスであっても影響される力が違うため、デバイスによってはどちらの装置でも大丈夫と一概には言えないということになっています。

*静磁場とは?
もともとMRI装置に備わっている磁場のことで、その強さを静磁場強度という。例えば‘1.5テスラの静磁場強度のMRI’というように使われる。

吸引力半端ねーぜ

同じ磁場強度でも撮影できない時も・・

先ほど吸引力は静磁場×空間勾配と書きましたが、吸引力は静磁場だけでなく空間勾配というものによっても変わってきます。ですのでこの値によっては撮影の実施に制限が出てきます。例えば、同じ3.0テスラの装置でもこの空間勾配の値が違えば撮影できる時とできない時があるということも考えられるのです。

空間勾配とは
さて、この空間勾配というのはなんでしょうか?これは静磁場中の磁界の強さ(磁束密度)の変化率を表しています。MRI装置では装置周辺の磁場の強さの分布のなかに、その強さの違いが高いところと低いところがあります。それが勾配を形成しているわけです(図1)。通常この勾配は装置のボアと呼ばれる患者さんが入る穴の入り口のところが最大です。そして装置の形状などによりその値が変化します。そのため同じ3テスラ装置でも空間勾配に違いが生じます。例えば、同じメーカーの同じ静磁場強度の装置でもボアの構造などによって値が変化します。

添付文書の確認が大事
現在この空間勾配については装置固有の値として発表されており、また金属デバイスについてはそれぞれ添付文書に許容値が記載されております。そのデバイスの空間勾配の制限値がMRI装置固有の値より低くなっているかどうかを確認する必要があります。

MRI引っ張られるー

以上のように、現状では体内金属デバイスに対するMRI撮影は非常に複雑化しており、デバイスによって撮影装置が変わるため煩雑となっています。
ウェブ検査予約等で先生からいただいております検査依頼表に体内金属の有無等を記載する欄を設けており、いつもご記載をいただいており非常に助かっております。MRIの安全運用のためにも今後もご協力をお願いいたします。

*写真はGEヘルスケアHPより引用

摂食・嚥下障害検査をみる!


放射線科には直接関係ないのですが、摂食・嚥下障害検査で嚥下造影(videofluorography:VF)に立ち会う機会が最近増えてきましたので、今回これを紹介したいと思います。
摂食・嚥下障害とは、字の如く口から食べる機能障害のことで、普段私たちは意識していませんが、食べ物を口に入れて飲み込むまでに5つのステージがあるそうです。食べ物を認知する先行期、食べ物を良く噛む準備期、食べ物を後ろ側へ送る口腔期、食べ物が咽頭を通過する咽頭期、食べ物が食道を通過する食道期の5つです。これらのうち1つまたは複数機能しない場合を摂食・嚥下障害があるとされています。摂食・嚥下障害により、ご飯がうまく食べられないことによる栄養状態の低下や気道に食べ物が入ってしまう誤嚥性肺炎へのリスクがある他、ご飯が食べられないことによる食べる楽しみの喪失があげられます。原因としては高齢による飲み込みの筋力低下は一因ではありますが、最大の原因は脳卒中です。それが嚥下障害の40%を占め、急性期には30%の患者さんに誤嚥が認められるそうです。嚥下検査にはいくつかあるようですが精密検査としては嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(以下、VF)があります。今回、我々放射線科に関わりのあるVFを紹介します。

VF検査とは

この検査はTV室で透視をしながら検査をします、スタッフとして言語聴覚士(ST)、主治医、看護師、放射線技師で行なっています。バリウムが混ぜられている専用の検査食が用意され、とろみ、ゼリー、ヨーグルト、お粥など硬さの違う食べ物(写真1)を飲み込んでもらいます。基本的には坐位で検査を行い、言語聴覚士が介助を行いながら食物の飲み込みをしてもらい、その様子を透視で観察します。放射線技師はX線透視の調整と被ばくのコントロール、透視画像の記録を行っております。飲み込んだ食べ物が気管に入らないか、咽頭に残留がないか、坐位の角度によって嚥下状態に変化があるか、どの様な食形態ならば安全に食べることができるのかを評価します。

写真1

嚥下障害画像

30~40分程度の検査ですが誤嚥のリスクが非常に高いので常に吸引ができるよう準備をしています。透視画像は動画と音声を同時にDVDに記録保存し、スロー再生やコマ送りをして観察できるようにしています。検査の結果をふまえて、食事形態や食事時の姿勢の調節などを考察し、どのようなリハビリが必要か検討します。

当院CT撮影線量について


先生こんにちは 診療放射線技術科の石井です。先日「神奈川放射線学術大会」に参加し、
「当院におけるCT撮影線量と診断参考レベルとの比較検討」というタイトルで発表をさせていただきました。今回はその「当院におけるCT撮影線量」についてお話しします。

【医療被ばくの最適化とは】

医療行為に使われる放射線には線量制限が課せられていません。これは、仮に線量に制限を設けてしまうと患者さんの診断や治療に支障をきたすおそれがあるためです。例えば診断においては、線量が低すぎると画質が損なわれ、診断能の低下を招きます。逆に高すぎる線量は不必要な被ばくとなります。
そこで「医療被ばくの最適化」を目的として昨年公開されたのが、「DRL(診断参考レベル)」です。

【DRL(診断参考レベル)とは?】

DRL(診断参考レベル)はJ-RIMEと呼ばれる医療被ばくに関するデータの収集・実態把握を目的とした団体により策定されました。意義は、「放射線診断においてその値を超えた場合は線量を下げることを検討すべきである」というものです。ただし注意すべき点として、臨床的に正当な理由がある場合は超過してもよいこと、が挙がります(患者さんの体重や体格により、高い線量が必要とされる場合があるため)。あくまでも目的は医療被ばくの低減ではなく最適化です。また、DRLの数値は患者さんの被ばく線量(臓器吸収線量や実効線量)は示していない点にも注意が必要です。

【当院のCT撮影線量とDRLを比較】

今回私は当院で扱っているCTの撮影線量とDRLの値を比較、調査をしました。(グラフ1)
グラフ1はCTDIと呼ばれるCTにおける線量の指標を示しています。赤で示されたグラフが先ほど説明したDRLの値、青で示されたグラフが当院の線量になります。結果、全ての検討部位でDRLの値を大きく下回りました。特に冠動脈CTは被ばくが多くなる分野ですが、当科の値は大きく下回る結果となりました。これは病院が海外製の高額なCT装置を整備してくれたこと、そして循環器内科岩城医師が積極的に低被ばく撮影を推奨したこと、それに応じてスタッフもソフトウェアを応用するなどの工夫をしたことによる結果であると考えています。

CTDI

近年、原子力発電所の事故などにより放射線に対して多少なりとも抵抗を覚える患者さんはいらっしゃると思いますが、今回のこの結果がそういった方々の検査に対する安心感に繋がれば幸いです。
当院では常に患者さんの被ばく線量を考慮し、最適な画像を提供するように心がけております。今回行った調査により当院で扱っているCT撮影の線量はDRLを大きく下回りましたが、この結果に満足せずこれからも被ばく低減・画質向上に努めていきます。今後ともどうぞ宜しくお願いします。

医療被ばく低減施設を目指します!


いつも大変お世話になっています。技師長の高橋です。本号が発刊される際は、すでに新年度が始まっていると思います。当放射線科の谷部長は「1年目標を立て、期日を決め実行することは成長していくためにも重要である」とよく話をしてくれます。それとは別に病院でも勤務員評価制度が始まり、個人の目標値を決めて日々研鑽しています。
さて、2015年度の私の成果目標は、
1)CT Colonographyによるスクリーニングのルーチン化
2)日本診療放射線技師会が定める、医療被ばく低減施設認定の取得を目標としました。

1)に関しては医師の役割、技師の役割、看護師の役割の調整がつかず、ルーチン化を断念せざるをえない結果となってしまいました。
2)に関しては取得までは到達できませんでしたが、準備を始めるところまで行くことができました。

医療被ばくに関して、昨年J-RIME(医療被ばく研究情報ネットワーク)から、診断参考レベル(Diagnostic Reference Level; 以下DRL)の指標が公開されました。興味があれば、是非こちらを閲覧していただければと思います。
このDRLの指標というのはこうしなければならないというものではなく、自施設の医療被ばくがどの程度の位置にあるのか?といった現状を把握するためのものであるということです。間違えてはいけないのは、この値は標準値ではないということです。あくまでも医師と協同でこれくらいの画像の質であれば、この撮影条件で良い、というように診断に必要な画質を担保したうえで撮像条件(医療被ばく)を決めることに変わりはありません。

放射線被ばくに関しては昨今、新聞報道などで社会的にも感心が高まっており、関連学会でもその対応としてこのようなガイドライン作成などが進められております。この医療被ばく低減施設認定を取得することで、当施設で放射線検査を受けられる患者さんが安心して検査を受けていただけるようになればと考えております。
さて、実際に医療被ばく低減施設取得に向けてと申しましても、実際にどうやって良いかが全くわからず、関連病院で唯一取得している平塚共済病院に見学に行ってきました。まず、説明されたのがX線量の実測をしておくと良いということでした。実測をするには高価な線量計が必要です。当院では昨年、X線TV装置を更新した際に、スウェーデン製のUnfors Xiという線量計を購入していました。その点では取得に向けた費用は軽減されます。もうひとつ重要なことは、審査官が来た時に、こういった理由で被ばくに取り組んでいるということをきちんと証明できれば良いということでした。そのためにはマニュアル類の整備や、放射線に関わるスタッフ教育なども必要となります。
このように認定取得にはX線の実測以外にも様々なハードルがありかなり大変なのですが、個人のスキルを磨くとともに科の底上げ効果も期待できるものと思われました。将来的には栄区および連携医の先生のご施設などで撮影線量に関するアドバイスなども出来るようになればと考えています。今すぐにできるものではないのですが、向かっていく方向はこういう方向だよということを示し、スタッフとともに頑張っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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知っているようで知らない!? レントゲンの基礎① ー管電圧とはー


レントゲン基礎

単純撮影は当院で最も多く実施される検査ですが、先生の施設でも実施される機会が多いのではないでしょうか?
現在はCR装置*が主流となっていますので、患者様の体格にかかわらず均一で安定した写真が得られますが、私がこの仕事を始めた頃は、直接フィルムに撮影し、現像して画像を得ていましたので、撮影条件を誤ると診断出来ない画像になることもありました。
先生の施設ではどのようにして撮影条件を決めていらっしゃいますか?今回は撮影条件についてお話しさせて頂きます。

*CR装置
デジタルレントゲン装置、デジタルカメラと同じようにコンピューター側で濃度を補正します。濃度差が生じる事はないのですが、適正なX線量で撮影しないと被ばくが多くなる事もあります。

レントゲンの撮影条件とは

レントゲン写真は白から黒の濃淡で表されますが、この濃淡差のつけ方の違いはX線管電圧、X線管電流、撮影時間で決定します。この値を変化させるとX線の質と量を変化させることが出来ます。質が変化すると画像のコントラストが変化し、量が変化すると濃度が変化します。これら三つの条件を使い分けることが日常業務では重要になる場面が多くあります。

画像コントラストに関係する管電圧!

X線管電圧はX線のエネルギーのことであり、X線が物体を突き抜けるちから(透過力)がどのくらい大きいかに関係しています。つまり、X線管電圧を高くするとコントラストが低下します。例えば胸部レントゲンの場合、管電圧は120kVと高圧撮影で撮影します。管電圧を高くすることで、肋骨影や石灰化が淡くなり、肺内陰影が見えやすく、心臓、横隔膜に重なった肺野も観察出来ます。また、患者さんの被ばくも減少します。(画像1)レントゲン画像1

画像濃度に関係する管電流と撮影時間!

管電流とはX線の量を決めるものです。撮影時間とはシャッタースピードのことです。この2つをかけ合わせることによって写真の濃度が決定します。フィルム時代だった頃はX線の量が多すぎると真っ黒な写真が(画像2a)、X線の量が少なすぎると真っ白な写真が出てきました(画像2b)。この管電流(単位mA)と撮影時間(単位s)をかけ合せたものをmAs値(‘ますち’と呼びます)といいます。mAs値が同じ場合、写真の濃度は同じになります。

レントゲン画像2

このように、単純撮影における撮影条件は、まず管電圧を決定することで、X線の質を決めます。次に黒化度に大きく関係するX線の量を決定します。X線の量は、管電流と撮影時間の積で与えられることから、多くの組み合わせが考えられます。単純撮影はボタン1つで撮影できます。しかし、我々診療放射線技師はそのボタンを押す前に様々なことを考えています。
患者様の状態や体格等を考慮し、長年の経験から撮影条件を決め、より適切な画像を提供出来るように努めています。

次回は実際の撮影条件の組み立て方についてご説明したいと思います。

 

3DCT画像とその成り立ちについて


今回のCT特集では、画像処理技術について説明させていただきます。まず前置きとして、CT画像の成り立ちについて説明してから本題に入りたいと思います。

CT画像とは

CTで得られる画像は図1に示すような横断面(Axial断面)画像です。この画像は小さな四角形の集合体で構成されています。このマス目のX-Y方向をピクセルといい、通常512×512マス配置されています。これに厚み方向を合わせた立方体をボクセルとよびます。
このボクセルデータの集合によってCT画像は構成されています。 今回は日常診療でよく利用されるMPR法とVR法について紹介します。

図1

1枚1枚のAxial画像を積み重ねることにより下図のような3次元データとなります。そしてこの3次元データに対し種々の処理を加えることにより、様々な3D画像を得ることができるようになります(図2)。
下肢動脈の3D画像などでは約1000枚のCT画像を元に作成しています。

図2

日常診療で良く使われる代表的な3D画像処理を2つご紹介します

1.MPR(multi planar reconstruction)表示法

日常のCT検査で最も多く行われる3D画像処理です。
こちらの表示法は、日本語で「多断面再構成法」といい、任意の断面で画像を再構築する方法です。通常の横断(axial)画像のみでは把握しづらい場合等に、図に示した冠状断(coronal)や矢状断(sagittal)を追加する他、観察したい目的部分が最も良く観察できる断面(任意の断面)を再構築することができます。

図3

図4

2.VR(volume rendering)表示法

VR(volume rendering)表示法を説明するにあたって、最初にCT値について説明させていただきます。CTの画像は、CT値と呼ばれるCT画像特有の値で構成されています。人体を構成する物質のCT値は水を基準(CT値:0)として、相対値で表されます。CT値の低い方から高い方へ、黒から白の濃淡(グレースケール)で表すことにより画像化しています。例えば、図3の画像において点線で囲んだ部分に注目すると、この範囲は空気で構成されているためCT値は-1000となり画像上は黒で表現されています。
VR表示法とは、このCT値を調整することにより観察したい部分を立体的に表示します。また、CT値に対応した色と、画像に陰影をつけるための透過度の設定を行うことによって色をつけて表示することが可能です。CT値を狭めていくと皮膚面まで描出することができます。またCT値を上げていくと、臓器が見えてきます。さらにCT値を上げていくと、骨の描出ができるようになります(図4)。

図5

図6

VR画像の活用例

以前こちらで特集させて頂いた当院のマルチスライスCTでは、非常に薄いスライス厚で広範囲を短時間で撮影できるため、様々な画像処理を高精度に行うことが可能となっています。以下は、その画像処理技術の恩恵が高いものの一例です。

図7

図8

以上、今回はほんの一部ではありますが代表的な画像処理のご紹介をさせて頂きました。オートメーション化が進んではいますが、我々放射線技師がマニュアルで画像を作り込んでいく作業も多く、作成者の技術や知識が大変重要です。画像作成者としてより有用な画像作成ができるよう、画像処理技術を磨くのはもちろんのこと、ソフトとハード両面の進歩に柔軟に対応していきたいと考えています。(江上 桂)

図はCT適塾HP(:http://www.ct-tekijyuku.net/index.html)より引用改変させていただきました。

知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎④


局所的非対称性陰影(Focal Asymmetric Density:FAD)って何?

さて、この連載もおかげさまで第4回となりました。前回は石灰化についてとりあげました。今回は「局所的非対称性陰影」についてとりあげます。FADと略語で呼ばれることもあります。マンモグラフィ独特の所見用語で、耳慣れない用語かもしれませんが、マンモ業界では「腫瘤」「石灰化」とともに非常によく出てくる用語です。
右は横浜市乳がん検診票です。ご覧になったことがありますか?
マンモ独特の用語ですがある意味マンモグラフィ読影の特徴を表している用語だと思います。

図2

高濃度乳腺にできた乳がんは雪のなかの白うさぎ。白うさぎいる??=FAD

連載第2回目に高濃度乳腺をとりあげました。乳房は脂肪、結合組織、乳腺組織から成ります。乳腺組織は乳汁を生産する組織で、加齢とともに萎縮します。乳腺組織は、マンモグラフィ上白く描出されます。若い方や授乳経験の少ない方は乳房全体が白っぽく描出され、ご高齢の方や授乳経験の多い方は乳房全体が黒っぽく描出されます。X線吸収係数が大きい組織ほど白く、小さい組織ほど黒く描出されます。乳がんの係数は0.85 に対し乳腺組織0.80,脂肪組織0.45です。若い方の高濃度乳腺はほとんど脂肪を含まないので、このような乳房に乳がんができると背景乳腺との色の差が少なく非常に見えづらくなります。

図3

図4

症例1

下の症例は比較的濃度の高い背景にできた乳がんがあります。赤点線ががんの範囲です。超音波検査でみると3.5cmの腫瘤でした。背景乳腺が高いがために「腫瘤が隠れていそうだけど本当に??そうなの??」 こんなとき局所的非対称性陰影という所見用語をつかいます。

図5

図6

症例2

この症例は背景乳腺はそれほど高濃度でないが、がんが小さいためにはっきりとした腫瘤に見えない。でもなにか隠れていそう=「局所的非対称性陰影」とされた症例です。
切除検体のMMGでは乳腺の重なりの影響が排除されがんの存在がはっきり見えます。

図7

症例3

白っぽく見えてなにか隠れていそう?精査すると何も病変はなく正常乳腺でした。
乳房を折りたたんで撮影するので、乳腺がたくさん重なって撮影された部分は正常でも白っぽく浮かび上がって見えます。病変が隠れていそうだけど実は正常乳腺の重なり=これも「局所的非対称性陰影 FAD」と表現します。

図8

乳腺と病変の違いは非常にわずか・・

乳腺と病変のX線吸収の違いは非常にわずかです。そこを目一杯強調して検出するのがマンモグラフィです。マンモグラフィの読影は雪の中で白うさぎを探す、ジャングルの中で迷彩の兵隊さんを探す、闇の中で黒子をさがすようなものです。よく見えなくて確信できないけどなんか怪しい=「局所的非対称性陰影=FAD」です。
高濃度の若い人の乳腺では悪性病変があっても腫瘤として認識できず局所的非対称性陰影としてしか認識できないことも多いです。
局所的非対称性陰影の多くは正常乳腺の重なりですが、病変が隠れていることもあるので精査の対象となります。他に悪性病変を疑う所見が一緒にあれば病変の存在する確率が高くなります。

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