今月の症例(2018年7月Rad@Home掲載分)


問題:79歳、男性。2,3日前から臍部から右側腹部にかけての痛み。 WBC11,200/μl、CRP6.5mg/dl。 造影CT横断像(BはAの1スライス尾側、CはBの1スライス尾側)

下の画像から想定される疾患はなんでしょうか?

回答

魚骨による小腸穿孔、腹腔内膿瘍形成

小腸の壁内から壁外に貫通する、線状の高吸収を呈する構造物を認めます(赤矢印)。小腸壁外において、その構造物の周囲にはリング状造影効果を有する液体貯留がみられます(青矢印)。魚骨による小腸穿孔、膿瘍形成が考えられます。問診で鯛飯を食べていたことが判明しました。緊急開腹となり、術中所見で右季肋部の小腸から魚骨の露出がみられました。小腸部分切除術を行い、術後は経過良好でした。摘出標本には魚骨がみられます(黄矢印)。

本邦で消化管穿孔の原因で最も多い異物は魚骨と報告されています。魚骨による穿孔部位は肛門が多く、次いで回腸、横行結腸、食道の順で、十二指腸や胃はまれとされています。誤飲された魚骨は、大部分は合併症なく排泄され臨床上問題となることは少ないですが、まれに消化管穿孔・穿通をきたし、腹膜炎、腹腔内膿瘍を発症することがあります。魚骨誤飲したという本人の覚えがないことも多く、診断にあたっては魚類の摂取を含めた食餌内容の詳細な問診が重要です。画像診断が中心となり、CTにおいて高吸収の線状ないし弧状陰影の同定が重要です。今回のケースのように、小腸壁外に穿通した魚骨周囲に膿瘍が同時に認められることもあります。治療は、穿孔部位、症状、経過、病態などに応じて保存的治療、内視鏡摘出、外科的摘出のいずれかが選択されます。

参考文献
・葉喜久雄,井上 聡,渡辺靖夫 他:術前に診断しえた魚骨による回腸穿孔の1治験.過去10年間の魚骨による消化管穿孔271例の分析.日消外会誌2001;34:1640-1644
・高原秀典,多代尚広,永吉直樹 他:魚骨の胃穿孔により腹腔内膿瘍をきたした1例.日輪外会誌 73: 1668-1673, 2012
・山下康行:わかる!役立つ!消化管の画像診断.秀潤社,p.225, 2015
・堀川義文:救急医の立場から.画像診断 27: 286-294, 2007

放射線科医師 淺田