知っているようで知らない マンモグラフィーの基礎④


局所的非対称性陰影(Focal Asymmetric Density:FAD)って何?

さて、この連載もおかげさまで第4回となりました。前回は石灰化についてとりあげました。今回は「局所的非対称性陰影」についてとりあげます。FADと略語で呼ばれることもあります。マンモグラフィ独特の所見用語で、耳慣れない用語かもしれませんが、マンモ業界では「腫瘤」「石灰化」とともに非常によく出てくる用語です。
右は横浜市乳がん検診票です。ご覧になったことがありますか?
マンモ独特の用語ですがある意味マンモグラフィ読影の特徴を表している用語だと思います。

図2

高濃度乳腺にできた乳がんは雪のなかの白うさぎ。白うさぎいる??=FAD

連載第2回目に高濃度乳腺をとりあげました。乳房は脂肪、結合組織、乳腺組織から成ります。乳腺組織は乳汁を生産する組織で、加齢とともに萎縮します。乳腺組織は、マンモグラフィ上白く描出されます。若い方や授乳経験の少ない方は乳房全体が白っぽく描出され、ご高齢の方や授乳経験の多い方は乳房全体が黒っぽく描出されます。X線吸収係数が大きい組織ほど白く、小さい組織ほど黒く描出されます。乳がんの係数は0.85 に対し乳腺組織0.80,脂肪組織0.45です。若い方の高濃度乳腺はほとんど脂肪を含まないので、このような乳房に乳がんができると背景乳腺との色の差が少なく非常に見えづらくなります。

図3

図4

症例1

下の症例は比較的濃度の高い背景にできた乳がんがあります。赤点線ががんの範囲です。超音波検査でみると3.5cmの腫瘤でした。背景乳腺が高いがために「腫瘤が隠れていそうだけど本当に??そうなの??」 こんなとき局所的非対称性陰影という所見用語をつかいます。

図5

図6

症例2

この症例は背景乳腺はそれほど高濃度でないが、がんが小さいためにはっきりとした腫瘤に見えない。でもなにか隠れていそう=「局所的非対称性陰影」とされた症例です。
切除検体のMMGでは乳腺の重なりの影響が排除されがんの存在がはっきり見えます。

図7

症例3

白っぽく見えてなにか隠れていそう?精査すると何も病変はなく正常乳腺でした。
乳房を折りたたんで撮影するので、乳腺がたくさん重なって撮影された部分は正常でも白っぽく浮かび上がって見えます。病変が隠れていそうだけど実は正常乳腺の重なり=これも「局所的非対称性陰影 FAD」と表現します。

図8

乳腺と病変の違いは非常にわずか・・

乳腺と病変のX線吸収の違いは非常にわずかです。そこを目一杯強調して検出するのがマンモグラフィです。マンモグラフィの読影は雪の中で白うさぎを探す、ジャングルの中で迷彩の兵隊さんを探す、闇の中で黒子をさがすようなものです。よく見えなくて確信できないけどなんか怪しい=「局所的非対称性陰影=FAD」です。
高濃度の若い人の乳腺では悪性病変があっても腫瘤として認識できず局所的非対称性陰影としてしか認識できないことも多いです。
局所的非対称性陰影の多くは正常乳腺の重なりですが、病変が隠れていることもあるので精査の対象となります。他に悪性病変を疑う所見が一緒にあれば病変の存在する確率が高くなります。

図10